【80】NO?

 

 

「あの...。

チャンミンさんは、ここに居ていいんですか?」

 

民は探りをいれる。

 

リアの側にいないといけないのに、民に会いに来ているチャンミンに。

 

それだけじゃなく、「彼氏」の振りをしているチャンミンに。

 

「それは...」

 

リアの顔が一瞬浮かんだチャンミンは、首を振ってその像を打ち消した。

 

「居ていいに決まってるよ。

民ちゃんは僕の大事な人だから、僕はいくらだってここに居るよ。

いい加減に帰れ、って看護師さんに怒られるまで」

 

(大事な人...)

 

民の胸はじーん、と温かいもので満たされる。

 

(奇妙なシチュエーションで聞かされた言葉だけど...嬉しい。

うん、とっても嬉しい。

この言葉が欲しかったんだ)

 

民は手を伸ばすと、おずおずとチャンミンの人差し指を握った。

 

(あ...。

一度だけ、「チャンミンさん、大好きです」って首にかじりついたことがあったっけ。

あの時は、なんの抵抗もなく甘えられたのに。

今の私は、指1本触ることが恥ずかしくてたまらない)

 

人差し指が民の手で包み込まれ、チャンミンの心はドキンと跳ねた。

 

(よかった。

民ちゃんに近づけた)

 

チャンミンは民の手を握りなおすと、ホッと安堵の息を吐いた。

 

 

「チャンミンさん...いいんですか?」

 

「ん?」

 

「私でいいんですか?」

 

「いいに決まってるじゃないか」

 

「私って...女じゃないんです」

 

「へ?」

 

「私...男なんですよ?

いいんですか?」

 

「えぇーっ!」

 

(待て。

ここは女子部屋だ)

 

数秒後には、民の冗談だと気付いたチャンミンは、彼女の額を突いてしまい、ゆがめた表情に「ごめん!」と謝った。

 

(いつもの民ちゃんだ。

よかった、調子が戻ってきたみたいだ)

 

「ボーイッシュなだけで、民ちゃんは十分、女の子だよ」

 

「女の子...ですか」

 

民の目が左右非対称に細められて、チャンミンは「よかった、喜んでいる」とホッとした。

 

この子は本当に可愛い、とチャンミンはしみじみ思った。

 

「あの...どちらから告白したんですか?

私たち...?」

 

(うっ...そこを突いてきたか)

 

「えーっと...、民ちゃん、の方かな?」

 

(こらー!

僕の願望を言ってどうする!)

 

(私の方からですか!?

チャンミンさんの方からじゃないんですね。

チャンミンさん...難しい展開にしないでくださいよ)

 

「そうだったんですね、私の方からですか...。

覚えてないです」

 

(そりゃそうよ。

だって、チャンミンさんに『告白』だなんて、これまでしようとも思わなかったし、そういう気持ちなんてなかったし。

もしその通りならば、私だったら絶対に、自分の方から言えなさそう。

男の人に告白だなんて、恥ずかしいし、自信がないし...。

経験上、どうせ断られるに決まってるから)

 

(まずい...信じちゃったかな)

 

「私、なんて告白しましたか?

好きです、って言ったんですか?

チャンミンさんのことが、好きですって」

 

面白くなってきた民は、チャンミンの回答が聞きたくて具体的な質問をする。

 

(告白の言葉!

民ちゃんだったら、何て言うかなぁ)

 

「内緒。

大切にしたい言葉だからね。

胸に仕舞ってあるんだ。

いずれ民ちゃんが思い出すよ」

 

(思いつかなかった。

現実の話じゃないから、僕の貧弱な想像力じゃ思いつかない)

 

「ケチンボですね」

 

(民ちゃんから、「好きだ」と言われたら、飛び上がるくらい嬉しいだろうなぁ)

 

「あの...つかぬことをお聞きしますが?」

 

「何?」

 

「私たちはいつ性交渉をもったのでしょうか?」

 

「セイコウショウ?」

 

チャンミンが首を傾げていると、民は握ったチャンミンの手を上下に振った。

 

「とぼけないでくださいよ。

エッチのことです。

私たちはいつ頃セックスをしたか?と聞いています」

 

(ミミミミミミミンちゃん!

答えにくいことをいきなり!)

 

「え、え...と」

 

(民ちゃんはやっぱり、民ちゃんだ。

民ちゃんがしそうな質問だ。

『まだ』と言うべきか、どうしよう)

 

「さ、3週間前くらい...かな」

 

「付き合って『すぐ』じゃないですかぁ!?」

 

(しまったーーー!

計算を間違えた)

 

「そうですか...。

じゃあ、私の初めてはチャンミンさんに捧げたんですね」

 

「うっ...」

 

(想像通り、民ちゃんは『経験ナシ』だった。

よかった......っておい!

なに喜んでるんだよ!)

 

「『どこ』で、やりましたか?」

 

「!!」

 

(民ちゃん、お願いだ。

あまり具体的に聞かないで欲しい。

嘘をつき慣れてない僕には、こういう類の話は苦手なんだ)

 

「え...っと...。

僕の部屋で...」

 

(リアル過ぎたか?)

 

「昼間?

夜?」

 

「え...っと、昼間」

 

「ひるまぁ!?

昼下がりの情事ですか...そうですか...。

で、どちらから誘ったんです?」

 

「...民ちゃんから...」

 

「!!」

 

(私からですか!?

チャンミンさん...もっと私のキャラを考えてくださいよー)

 

「ふーん、そうだったんですね。

私は大胆ですねぇ」

 

「その通り、民ちゃんは大胆なんだ」

 

(本当にマズイ!

民ちゃんは本当に、信じ込んでしまったようだ。

民ちゃんを連れて家に帰ったら、リアがいるし。

リアのことをどう説明しようか...。

今さらだけど、『嘘でした』と打ち明けようか。

『フリ』はもう辛い)

 

「はあ...」

 

どっと疲れが出て、チャンミンは大きく息を吐いた。

 

民はしどろもどろのチャンミンが可笑しくてたまらない。

 

(チャンミンさんをからかうと面白い。

よーし、からかいついでに...)

 

「チャンミンさん、キスして下さい」

 

「!!!」

 

驚きのあまりチャンミンは、椅子から滑り落ちそうになる。

 

ガタガタっと大きな音ををたててしまい、隣のベッドの患者が咳払いをした。

 

(つづく)

 

彼女とのHeaven's Day