~民~
チャンミンさんは今、何をしてますか?
元気ですか?
3日に1度のペースで、メールが届く。
『怪我の具合はどうですか?
無理はしないでください。』
『ご飯はちゃんと食べていますか?』
『朝晩、涼しくなってきました。
風邪をひかないように』
これに応えたら駄目だから、返信はしない。
私を案じる言葉ばかりで、胸がつまるからすぐに消去した。
残していたら何度も眺めてしまって、チャンミンさんを思い出してしまうから。
それに...。
『会いたい』の言葉のひとかけらもないことに、がっかりしてる自分もいて、つくづく矛盾だらけだ。
本当はどうしたいのか心の奥底では分かっているけど、力いっぱい蓋をする。
チャンミンさん...優しい言葉を私にかけないで下さい。
低いエンジン音とテールランプが消えるまで、アパートの外廊下から見送った。
私を心配したユンさんが、毎晩自宅まで送ってくれるのだ。
ユンさんのことが好きなはずなのに、胸がすうすうする。
怪我が治った今も当たり前のように、習慣のように私を送ってくれる。
夕食を御馳走してくれる日もある。
負担に思わせないよう、カジュアルなお店をチョイスする辺りがユンさんらしい。
その好意に素直にのっかる私もどうかと思う。
そう思ってしまうってことは、ユンさんは私に対して好意を抱いてくれるのかな。
確かに胸はドキドキするし、嬉しいけど、チャンミンさんといて感じるそれとはちょっと違うのだ。
あー、頭がぐちゃぐちゃする!
黒いローファーを見下ろす。
初給料で買ったもの。
チャンミンさんの洋服を借りられなくなって、でも何着も揃えられない。
毎日白シャツと黒パンツ姿だけど、ユンさんを真似して、デザイン違いの白いシャツを揃えた。
肌寒くて、そろそろカーディガンが必要かな、と両腕をさすりながら部屋に戻る。
「ん?」
ドアノブに何かがぶら下がっている。
通販で何か注文したっけ?
小さな紙袋で、中を覗くとタッパーが3つ、お義母さんかなって思った。
お義母さんは、料理が下手な私を知っているから。
ライトを点けると暗い部屋が、家具のない殺風景な部屋が露わになる。
手洗いを済ませた私は、紙袋からタッパーを取り出しかけて、
「そうそう!」
流し台の下(食器を収納するラックは未だない)からお皿をとって、小さな折りたたみテーブルの上に並べる。
「さてさて、何かなぁ」
ユンさんがご馳走してくれる食事以外は、恥ずかしいくらい貧弱な食生活だったから。
両手をこすり合わせて、タッパーをテーブルに並べると。
「ん?」
ひらりと私の膝に舞い落ちた。
『お腹いっぱい食べてください』
1枚の小さなメモ用紙。
「...チャンミンさん」
名前もない、チャンミンさんの書く文字も見たこともないけれど、彼だとすぐに分かった。
ぶわっと涙が膨れた。
「チャンミンさーん」
泣いた。
声を出して。
チャンミンさんは優しい。
TVのないこの部屋に、私の泣き声が響く。
びっくりするほど大きな声で泣いた。
会いたいです。
チャンミンさんに会いたいです。
私はチャンミンさんがいないと、駄目みたいです。
会いたいです。
(つづく)
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