(93)NO?

 

~民~

 

チャンミンさんは今、何をしてますか?

 

元気ですか?

 

3日に1度のペースで、メールが届く。

 

『怪我の具合はどうですか?

無理はしないでください。』

 

『ご飯はちゃんと食べていますか?』

 

『朝晩、涼しくなってきました。

風邪をひかないように』

 

これに応えたら駄目だから、返信はしない。

 

私を案じる言葉ばかりで、胸がつまるからすぐに消去した。

 

残していたら何度も眺めてしまって、チャンミンさんを思い出してしまうから。

 

それに...。

 

『会いたい』の言葉のひとかけらもないことに、がっかりしてる自分もいて、つくづく矛盾だらけだ。

 

本当はどうしたいのか心の奥底では分かっているけど、力いっぱい蓋をする。

 

チャンミンさん...優しい言葉を私にかけないで下さい。

 

低いエンジン音とテールランプが消えるまで、アパートの外廊下から見送った。

 

私を心配したユンさんが、毎晩自宅まで送ってくれるのだ。

 

ユンさんのことが好きなはずなのに、胸がすうすうする。

 

怪我が治った今も当たり前のように、習慣のように私を送ってくれる。

 

夕食を御馳走してくれる日もある。

 

負担に思わせないよう、カジュアルなお店をチョイスする辺りがユンさんらしい。

 

その好意に素直にのっかる私もどうかと思う。

 

そう思ってしまうってことは、ユンさんは私に対して好意を抱いてくれるのかな。

 

確かに胸はドキドキするし、嬉しいけど、チャンミンさんといて感じるそれとはちょっと違うのだ。

 

あー、頭がぐちゃぐちゃする!

 

黒いローファーを見下ろす。

 

初給料で買ったもの。

 

チャンミンさんの洋服を借りられなくなって、でも何着も揃えられない。

 

毎日白シャツと黒パンツ姿だけど、ユンさんを真似して、デザイン違いの白いシャツを揃えた。

 

肌寒くて、そろそろカーディガンが必要かな、と両腕をさすりながら部屋に戻る。

 

「ん?」

 

ドアノブに何かがぶら下がっている。

 

通販で何か注文したっけ?

 

小さな紙袋で、中を覗くとタッパーが3つ、お義母さんかなって思った。

 

お義母さんは、料理が下手な私を知っているから。

 

ライトを点けると暗い部屋が、家具のない殺風景な部屋が露わになる。

 

手洗いを済ませた私は、紙袋からタッパーを取り出しかけて、

 

「そうそう!」

 

流し台の下(食器を収納するラックは未だない)からお皿をとって、小さな折りたたみテーブルの上に並べる。

 

「さてさて、何かなぁ」

 

ユンさんがご馳走してくれる食事以外は、恥ずかしいくらい貧弱な食生活だったから。

 

両手をこすり合わせて、タッパーをテーブルに並べると。

 

「ん?」

 

ひらりと私の膝に舞い落ちた。

 

『お腹いっぱい食べてください』

 

1枚の小さなメモ用紙。

 

「...チャンミンさん」

 

名前もない、チャンミンさんの書く文字も見たこともないけれど、彼だとすぐに分かった。

 

ぶわっと涙が膨れた。

 

「チャンミンさーん」

 

泣いた。

 

声を出して。

 

チャンミンさんは優しい。

 

TVのないこの部屋に、私の泣き声が響く。

 

びっくりするほど大きな声で泣いた。

 

会いたいです。

 

チャンミンさんに会いたいです。

 

私はチャンミンさんがいないと、駄目みたいです。

 

会いたいです。

 

 

(つづく)

 

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