~チャンミン~
お弁当を届けるだなんて、アピールが控えめ過ぎだったかな。
ある日突然、玄関前に食事が届けられていたりなんかしたら...気味が悪いよな。
民ちゃんへ手紙を書いた。
民ちゃんを心配する気持ち、僕の近況、そして、民ちゃんがいなくて寂しい思いをしていると、時間をかけて書いた。
そうしたら、便せん5枚もの大作になってしまった。
思いが込められ過ぎた手紙は重すぎると直前で気付いた僕は、メモ用紙にひとこと『お腹いっぱい食べてください』とだけ書いて、差し入れに添えた。
僕からのものだと、気付いてくれたかな。
気持ち悪くて捨ててしまっているかもしれない。
会いにもいかず、電話もせず、当たり障りのないメッセージを送信するだけの僕に、腹を立てているかもしれない。
それとも、僕のことは見切りをつけて、大本命の彼との関係を進展させているかもしれない。
じっとしていられなくなった。
僕は今日から変わったんだろ?
民ちゃんを裸にする夢まで見てしまったんだぞ?
食べかけの料理はそのままに、服を着替えコートを羽織った。
向かう先はもちろん、民ちゃんの部屋だ。
時刻は20時。
もう帰宅している頃だ。
~民~
(チャンミンさん...帰ってきてるといいんだけど...)
深呼吸したのち、エントランスドア前のパネルを操作した。
アパートから電車で3駅目、駅から駆けてきたから暑くてブルゾンは脱いでしまった。
『はい?』
応答したのがリアさんの声で、一瞬ひるんでしまう。
(訪ねてきても不自然じゃないよね。
チャンミンさんの弟(妹だっけ?どっちでもいいや)ってことになってたはずだから)
と、思い直した。
「民です。
...あの。
...チャンミンさんは...?」
『いないわよ』
チャンミンさんはリアさんと暮らしているんだから、リアさんが出てもおかしくない。
「...そうですか。
じゃあ、いいです。
約束なしで来た私が悪いので...」
チャンミンさんの顔を一目みたくて、衝動的にここまで来てしまったけど、リアさんのつっけんどんな言い方にその気持ちは一気にトーンダウンしてしまった。
「夜分遅くからすみませんでした」
がっくりと肩を落として立ち去ろうとした時、
『上がってらっしゃいよ。
あなたと話をしてみたかったし』
「でも...」
リアさんとしたいお話なんてないんだけどな。
幸せそうなリアさんの顔なんて見たくないんだけどな。
ここまで来てしまったけど、よく考えてみたら、チャンミンさんにはリアさんがいるんだった。
タッパーを返すのなんて、今すぐじゃなくてよいのに、どうしてもお礼の気持ちを伝えたかったから、ここまで来た。
でも...「美味しかったです」と伝えた後、どうすればいいんだろう。
『こんな意味ありげなこと、もうしないで下さい』って、言った方がいいんだろうな。
次から次へと思いが湧いてくる。
チャンミンさんの不在にようやく慣れかけてきた生活を、突如かき乱しにきた彼の行動に腹がたってきた。
『早く、上がって来て』
リアさんに命じられ、私は断り切れずに『はい』と答えた。
足取り重く、エントランスの自動ドアが開いた先へと進んでいった。
(つづく)
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