会社員-愛欲の旅24-

 

 

チャンミンは壁のスイッチに飛びつき、部屋の照明を消した。

 

そして、近くの布団に飛び込んだ。

 

そのすばしっこい動きといったら!

 

「馬鹿!

どうして隠れる!?」

 

「ユンホさん!

早く!」

 

にゅうっと伸びた手に、浴衣の裾を掴まれた。

 

「離せ!」

 

前がすっかりはだけてしまっている俺の浴衣、下から引っ張られて今にも脱げそうだ。

 

「チャンミン!

いい加減にしろ!」

 

「早く!」

 

チャンミンと浴衣の引っ張りっこしている間も、客室のドアは不規則な音を立てている。

 

ノックをしているのとは違う...体当たりのような...鍵は開いているのに。

 

廊下で何してるんだ?

 

照明を付けようとスイッチに手を伸ばした直後...。

 

「おふっ!」

 

布団の上だったからいいものの、顔面から派手に転んでしまった。

 

その衝撃でずしん、と室内が揺れた。

 

「何するんだ!?」

 

チャンミンに足首を掴まれたのだ。

 

(地中から生えてきたゾンビの手に足首を掴まれて...みたいな)

 

「ユンホさん!

早く!」

 

いててて、と顎をさすっていると、チャンミンに布団の中へと引きずり込まれてしまった。

 

「おい!」

 

(塹壕から飛び出してきたのは衛生兵。

負傷した味方兵に肩を貸すと、銃撃の隙をついて塹壕へ戻る。

訓練されたその動きといったら...みたいな?)

 

「隠れたりなんかしたら、余計に面倒なことに...」

 

「し~」

 

照明を点けられたら、布団の中に隠れる男二人、簡単に見つかってしまう。

 

今さら布団から出て、トランプ遊びに興じるフリは出来ないのなら、せめて早々と就寝中のフリはできたのに...。

 

俺とチャンミンはひとつの布団の中で、息をひそめてじっとしていた。

 

廊下からの灯りが、室内へと長く伸びた。

 

「ここなら...」

 

「誰か戻ってきたら?」

 

女性の声!?

 

「中から鍵をかけよう」

 

「あ、駄目...あっ」

 

片方は男の声!

 

二人とも酷く酔っ払っているようだ。

 

あの不審なドアの音は、貪りあうキスをする彼らの身体が、ドアにぶつかり押し付けられたからだったんだ。

 

よりによってひとつの布団に隠れた俺たち。

 

俺たちは揃ってうつ伏せになり、布団の隙間から両目だけ出していた。

 

部屋に忍び込んできたカップル(内緒の関係か?)

 

「!」

 

衣擦れの音と、二人分のふうふういう鼻息、リップ音。

 

(これは...!!)

 

雰囲気的に彼らはコトを始めようとしている!

 

俺たちが潜む布団の2メートル先で!

 

 

盛り上がっている彼らは、布団の中に潜む男たちに当然気付かない。

 

(気付いてもらっても困る)

 

布団の中から抜け出せなくなってしまった。

 

俺はともかく、実行委員チャンミンは速やかに宴会会場に戻らなければならない。

 

こっそり抜け出すのも不可能だ。

 

いくら互いの身体を貪りあうのに夢中になっていても、第3者がすぐそばを通りかかれば分かるだろう。

 

「!」

 

いよいよ男の方が、女性を押し倒したらしい。

 

「最後までやっちゃうつもりなんでしょうか?(ヒソヒソ声)」

 

「それは困る。

でも、そんな感じだよな(ひそひそ声)」

 

彼らは本当に始めてしまったようだ。

 

時間的に余裕のない彼らは、時短で済ませるようだ。

 

耳に毒だから、頭のてっぺんまで布団の中にもぐりこんだ。

 

暑い。

 

食事とアルコールで体温が上がった大柄な男二人。

 

冬用布団の中に頭までもぐりこみ、さらに身体を密着させていたら暑くて当然だ。

 

「誰と誰でしょうか?

うちの社員でしょうかね(ヒソヒソ声)」

 

「さあ...」

 

「広報部のGさんかな...それとも、製造部のKさんかな?(ヒソヒソ声)」

 

「さあ...」

 

「うちの会社の者じゃない可能性もありますよね。

ほら、よくあるでしょう。

部屋を間違えちゃった、っていうやつが(ヒソヒソ声)」

 

「そうなの?(ひそひそ声)」

 

彼らの正体は、絶対に知りたくない。

 

よその客であって欲しいと願った。

 

知人友人、同僚上司、ご近所さん、最悪なのが両親と兄弟姉妹。

 

彼らの濡れ場(言い方が古臭いが)を目撃してしまうことだけは、絶対に避けたかった。

 

ところがチャンミンは、カップルの正体を知りたくて仕方がないようだ。

 

情事の声をよく聞きとろうとしてか、布団から頭が出てしまっている。

 

「チャンミン!(ひそひそ声)」

 

俺はチャンミンの腰帯をつかんで、引き戻した。

 

「後学のためにと...(ヒソヒソ声)」

 

何言ってんだか...と頭を抱えていると、「ユンホさん」と耳元でささやかれた。

 

「ん?」

 

「大きくなってますか(ヒソヒソ声)」

 

『大きく』の意味がすぐにはわからなかった。

 

「アソコのことです(ヒソヒソ声)」

 

「......」

 

自分の身体の一部、どうなっているか触れてみなくても明らかだ。

 

動画で見るのとは臨場感がまるで違う。

 

まさしくアレが間近で行われているのだから。

 

 

(つづく)

 

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