大浴場は空いていた。
脱衣所は俺たち2人だけだ。
チャンミンは脱衣棚にバスタオル、巾着袋と化粧ポーチ(お肌のお手入れかな?)をおさめると、浴衣を脱ぎ始めた。
背を丸め、こそこそとした脱ぎ方で、「こっちを見たら駄目ですよ」と何度もしつこい。
ジョークのつもりでガン見するフリをしたら、浴衣の帯が飛んできて、俺の額を打った。
「いてっ!」
「わわわ、ごめんなさい!」
「男同士じゃないか。
何を恥ずかしがってるんだよ?」
「懸想している殿方に裸体を見られるのは...恥ずかしい、です」
「俺と同じモノをぶら下げてるんだし」
「そこが大大大問題です。
僕とユンホさんの共通点は『男』であることだけ。
『男』を突き詰めていった時、僕らの差は広がるばかり」
いつものことだけど、チャンミンの話す内容を理解するには、深い思考が必要だ。
(チャンミンのこだわりポイントは、俺のそれとはまるで違うので、見当がつかないのだ。心のチャンミン録にそう記録した)
「見た目とか出身地や性格じゃなくて?」
「違います」
「意味わかんね~」
俺は浴衣を脱ぎ捨て、下着に指をかけた。
すると、「きゃっ」とチャンミンは両手で目を塞いだ。
(『きゃっ』って何だよ...。たまに女子のような声を出す、と心のチャンミン録に記入)
「『男』と言ったでしょうが?
『男』と言えば、ぺ〇〇でしょう」
「!!」
「ユンホさんがバットとしたら、僕のはパラソルチョコです。
あれ?
こんな会話、以前もしたことありましたっけ?」
(この手の会話は、『会社員』に限らず他のお話でも繰り広げているので、アレのサイズについての会話がなされたかどうかは確認できず。調べればいいのですが、時間がなくて...。すみません)
「さあ...。
そもそも、パラソルチョコが分からない」
「ふん。
ご自身で調べてください」
期待した反応がもらえなかったことで、機嫌を損ねてしまったようだ。
チャンミンはくるりと背を向けて、脱いだ浴衣を畳み、棚に置いたタオルとポーチを抱えた。
下着はまだ穿いている。
(黒のボクサーパンツ。普通過ぎて意外だった)
チャンミンが下着を脱ぐ瞬間を、待ち構えた。
「ああっ!」
突然のチャンミンの悲鳴に、俺はとび上がった。
「何!?」
チャンミンの指につられて、天井を仰いだ。
「ほら!
あそこ、あそこ!!」
竹を編んだ天井をすみずみと見渡しても、そこには虫も染みも、奇妙なオブジェもない。
「お先に~」
「え?」
視線を戻した先に、小走りで浴場の引き戸を開けるチャンミンの後ろ姿。
ほっそりとした腰に、温泉タオルをミニスカートの様に巻いている。
俺が天井を向いている隙に、チャンミンは下着を脱いだのだ。
チャンミンに遅れて俺も全裸になり、タオルを肩に引っかけて浴場の引き戸をあけた。
場内の照明は控え目なうえ、真っ白い湯気で場内を見渡すことはできない。
湯船に注ぎ込む水音が場内に響いている。
周囲をキョロキョロ見渡すと、一番奥の洗い場にかけ湯をしているチャンミンを見つけた。
大きな成りをしているくせに、小さな腰掛けにきちんと尻がおさまっている。
(か、可愛い...)
思わず内心、くすりとしてしまった。
濡れた床に足を滑らせないよう慎重に歩き、チャンミンの隣の蛇口前に腰掛けた。
背中や腹をシャワーの湯で流しながら、横目でチャンミンの様子をうかがった。
チャンミンはシャンプー中だった。
目をぎゅっとつむり、背中を丸めて頭皮を丁寧にマッサージしている。
(シャンプーはもちろん、持参してきたもの。几帳面にミニボトルに詰め替えている)
両膝を揃えた座り方で、下腹部はタオルで隠されていた。
『ウメコに仕込まれた物を回収する』
俺にはミッションがあった。
今日は一日バタバタと忙しく、後回しせざるを得なかった。
俺の見込みでは、仕込まれた場所はチャンミンの左内もも。
タオルと閉じた内ももで確認することができない。
チャンミンが髪を洗い終えるのを待った俺は、彼の二の腕を掴んだ。
「わわっ!
なんですか!?」
「湯につかろう」
「は、はい。
ちょ、ちょっと待ってくださいね」
チャンミンは腰に素早くタオルを巻きつけた。
(ガード...高いな)
じろじろ見て警戒されないよう、俺はチャンミンの下半身から目を反らし、先立って湯殿に入った。
自覚はなくても、身体は冷えていたらしい。
やや熱めの湯温で肌がびりびりしたが、次第に慣れ、血流が全身をめぐり出す。
気持ちよさ思わず「うう~ん」と唸ってしまう。
俺たちは並んで湯に沈み、大理石の縁に頭をもたせかけた。
俺とチャンミンとの間の1メートルは、彼の葛藤の距離なのだろう。
「ドタバタな1日だったなぁ」
「はい。
ユンホさんとしっぽりできなくて、フラストレーションが溜まっていました」
「今、しっぽりしてるじゃん。
ここ...だぁれもいないし」
「...はい。
僕ら二人きりですね」
「貸し切り状態だ」
「ユンホさん...もっと近くに寄ってもいいですか?」
「あ、ああ」
チャンミンはにじりより、俺の肩にぴったり身を寄せた。
(ち、ちかっ!)
「ユンホさん...お疲れ様です」
チャンミンの濡れた頭がこてん、と俺の肩にもたせかけられた。
急に恥ずかしくなってきた。
(つづく)
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