(30)会社員-愛欲の旅-

 

 

大浴場は空いていた。

 

脱衣所は俺たち2人だけだ。

 

チャンミンは脱衣棚にバスタオル、巾着袋と化粧ポーチ(お肌のお手入れかな?)をおさめると、浴衣を脱ぎ始めた。

 

背を丸め、こそこそとした脱ぎ方で、「こっちを見たら駄目ですよ」と何度もしつこい。

 

ジョークのつもりでガン見するフリをしたら、浴衣の帯が飛んできて、俺の額を打った。

 

「いてっ!」

 

「わわわ、ごめんなさい!」

 

「男同士じゃないか。

何を恥ずかしがってるんだよ?」

 

「懸想している殿方に裸体を見られるのは...恥ずかしい、です」

 

「俺と同じモノをぶら下げてるんだし」

 

「そこが大大大問題です。

僕とユンホさんの共通点は『男』であることだけ。

『男』を突き詰めていった時、僕らの差は広がるばかり」

 

いつものことだけど、チャンミンの話す内容を理解するには、深い思考が必要だ。

 

(チャンミンのこだわりポイントは、俺のそれとはまるで違うので、見当がつかないのだ。心のチャンミン録にそう記録した)

 

「見た目とか出身地や性格じゃなくて?」

 

「違います」

 

「意味わかんね~」

 

俺は浴衣を脱ぎ捨て、下着に指をかけた。

 

すると、「きゃっ」とチャンミンは両手で目を塞いだ。

 

(『きゃっ』って何だよ...。たまに女子のような声を出す、と心のチャンミン録に記入)

 

「『男』と言ったでしょうが?

『男』と言えば、ぺ〇〇でしょう」

 

「!!」

 

「ユンホさんがバットとしたら、僕のはパラソルチョコです。

あれ?

こんな会話、以前もしたことありましたっけ?」

 

(この手の会話は、『会社員』に限らず他のお話でも繰り広げているので、アレのサイズについての会話がなされたかどうかは確認できず。調べればいいのですが、時間がなくて...。すみません)

 

「さあ...。

そもそも、パラソルチョコが分からない」

 

「ふん。

ご自身で調べてください」

 

期待した反応がもらえなかったことで、機嫌を損ねてしまったようだ。

 

チャンミンはくるりと背を向けて、脱いだ浴衣を畳み、棚に置いたタオルとポーチを抱えた。

 

下着はまだ穿いている。

(黒のボクサーパンツ。普通過ぎて意外だった)

 

チャンミンが下着を脱ぐ瞬間を、待ち構えた。

 

「ああっ!」

 

突然のチャンミンの悲鳴に、俺はとび上がった。

 

「何!?」

 

チャンミンの指につられて、天井を仰いだ。

 

「ほら!

あそこ、あそこ!!」

 

竹を編んだ天井をすみずみと見渡しても、そこには虫も染みも、奇妙なオブジェもない。

 

「お先に~」

 

「え?」

 

視線を戻した先に、小走りで浴場の引き戸を開けるチャンミンの後ろ姿。

 

ほっそりとした腰に、温泉タオルをミニスカートの様に巻いている。

 

俺が天井を向いている隙に、チャンミンは下着を脱いだのだ。

 

チャンミンに遅れて俺も全裸になり、タオルを肩に引っかけて浴場の引き戸をあけた。

 

場内の照明は控え目なうえ、真っ白い湯気で場内を見渡すことはできない。

 

湯船に注ぎ込む水音が場内に響いている。

 

周囲をキョロキョロ見渡すと、一番奥の洗い場にかけ湯をしているチャンミンを見つけた。

 

大きな成りをしているくせに、小さな腰掛けにきちんと尻がおさまっている。

 

(か、可愛い...)

 

思わず内心、くすりとしてしまった。

 

濡れた床に足を滑らせないよう慎重に歩き、チャンミンの隣の蛇口前に腰掛けた。

 

背中や腹をシャワーの湯で流しながら、横目でチャンミンの様子をうかがった。

 

チャンミンはシャンプー中だった。

 

目をぎゅっとつむり、背中を丸めて頭皮を丁寧にマッサージしている。

 

(シャンプーはもちろん、持参してきたもの。几帳面にミニボトルに詰め替えている)

 

両膝を揃えた座り方で、下腹部はタオルで隠されていた。

 

『ウメコに仕込まれた物を回収する』

 

俺にはミッションがあった。

 

今日は一日バタバタと忙しく、後回しせざるを得なかった。

 

俺の見込みでは、仕込まれた場所はチャンミンの左内もも。

 

タオルと閉じた内ももで確認することができない。

 

チャンミンが髪を洗い終えるのを待った俺は、彼の二の腕を掴んだ。

 

「わわっ!

なんですか!?」

 

「湯につかろう」

 

「は、はい。

ちょ、ちょっと待ってくださいね」

 

チャンミンは腰に素早くタオルを巻きつけた。

 

(ガード...高いな)

 

じろじろ見て警戒されないよう、俺はチャンミンの下半身から目を反らし、先立って湯殿に入った。

 

自覚はなくても、身体は冷えていたらしい。

 

やや熱めの湯温で肌がびりびりしたが、次第に慣れ、血流が全身をめぐり出す。

 

気持ちよさ思わず「うう~ん」と唸ってしまう。

 

俺たちは並んで湯に沈み、大理石の縁に頭をもたせかけた。

 

俺とチャンミンとの間の1メートルは、彼の葛藤の距離なのだろう。

 

「ドタバタな1日だったなぁ」

 

「はい。

ユンホさんとしっぽりできなくて、フラストレーションが溜まっていました」

 

「今、しっぽりしてるじゃん。

ここ...だぁれもいないし」

 

「...はい。

僕ら二人きりですね」

 

「貸し切り状態だ」

 

「ユンホさん...もっと近くに寄ってもいいですか?」

 

「あ、ああ」

 

チャンミンはにじりより、俺の肩にぴったり身を寄せた。

 

(ち、ちかっ!)

 

「ユンホさん...お疲れ様です」

 

チャンミンの濡れた頭がこてん、と俺の肩にもたせかけられた。

 

急に恥ずかしくなってきた。

 

 

(つづく)

 

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