~ユノ~
チャンミンはアルコールが大して強くないみたいだ。
ビールジョッキ2杯目の時点で、顔は真っ赤で目付きがとろんとしている。
食べっぷりは俺以上で、ぴり辛ソースを絡めたチキンバスケットの中身の大半は彼女が平らげた。
よほど美味しかったらしく、もう一皿オーダーしていた。
彼女の口の中に、美味しい料理が次々と吸い込まれていく。
それなのに、食べ方がきれいだった。
ひと口サイズに(彼女のひと口サイズは大きい)箸で切り分け、あーんと口に運んで、もぐもぐとしっかり咀嚼する。
飾り野菜も食べてしまうから、お皿の上には食べかすひとつ残っていない。
俺のジョッキが空になる前に、「ビールでいいですか?」とお代わりのオーダーを、新しい料理が届くと最初に俺の取り皿に、たっぷりとよそってくれるのだ。
軟骨まできれいにこそげた骨が、空いた器に山となっている。
3杯目、4杯目とジョッキを追加しながら、俺はぼんやりと彼女を眺めていた。
Bとの外食は、俺ひとりだけ食べてリアはちんまりとしか食べない。
Bはモデルだから仕方がないのだけれど、一緒に食事をしているのに独りで食事をしているかのようだった。
「ユノさん、もうお腹いっぱいなんですか?
いらないのなら、僕がもらっちゃっていいですか?」
俺の取り皿の上のチーズコロッケを、物欲しげな目で見る彼女の唇にケチャップが付いていて、やっぱり可愛いと思ってしまった。
「駄目、あげない」
「あっ!」
コロッケをひと口で食べてしまったら、彼女は心底残念そうな顔をした。
頬をふくらまして紙ナプキンで口元を拭う彼女に「チャンミンちゃんのその色、ホントに似合うよ」と白金の髪を褒めた。
俺はほろ酔いで、普段だったら照れくさくて難しいこと...つまり女性を褒めることができてしまう。
「嬉しい、です」
彼女はにかんだ。
「ユノさんさん、かっこいいですー。
Bさんが羨ましいです。
僕もユノさんみたいな“彼氏”が欲しい、ですー。
ふふふふ。」
彼女の言葉を受けて照れてしまったことがバレないよう、微笑みだけで流した俺は、チャンミンに尋ねる。
お約束の質問だ。
「チャンミンちゃんは、彼氏はいないの?」
「いません」
彼女は眉を下げ泣き真似をした。
「嘘!ホントに?」
(と、驚いたふりをしたけど。
彼女を傷つけてしまうから絶対に言えないけど。
彼女が男と並んで歩くシーンを想像できない。
高すぎる身長もそうだが、メイド服の隣に立つには相当の精神力が必要そうだ)
「好きな人は?」
すると、彼女の顔がふにゃりと緩んだ。
「いますー」
「えー、どんな人?」
「年上です」
「それだけの情報じゃ分かんないよ」
「ユノさんより年上です。
密かな片想いなので、これからちょっとずつアピールしていくつもりなんです」
「へえ。
ってことは、近くにいるんだ?」
「ふふふ。
そうなんですよ」
彼女は両手で顔を覆って身をよじった(ヤバイ...可愛い)
「もしかして、チャンミンちゃん。
彼を追いかけてきたの、ここまで?」
ぼっと彼女の頬と耳が真っ赤っかになった。
「ま、まさか~」
目が泳ぐ彼女はは分かりやすい。
そっか。
田舎を出てここに越してこようと決めた理由が、「男」だったとは...。
兄Tはこのことを絶対に知らないはずだ。
酔ったはずみに、ポロっとこぼしてしまったんだろうな。
「Tには内緒にしててやるよ」
「はい、お願いします」
「チャンミンちゃんの片想い、応援するよ」
「ありがとうございます、うふふふ」
左右非対称に細められた目を、昨日に続き見ることができた。
男っぽい容姿と趣味全開なファッションセンスはハンデかもしれないけど、俺の目には、十分女っぽく映っている。
(片想いの彼が、君の魅力にちゃんと気付いてくれることを願うよ)
彼女は照れ笑いをしている。
鼓動が1.2倍速くなった。
俺はこんな笑顔は作れない。
(つづく)
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