~B~
ユノとチャンミンが揃って帰宅した時、BはTVを観ながらペディキュアを塗っていた。
ユノの「ただいま」に対してBは、アイスブルーに塗られた爪を満足そうに眺めていて、顔も上げずに「おかえり」と答える。
ユノのスラックスと続いて、水色と白色のストライプ柄のスカートがBの視界に入った。
けだるげにソファから身を起こした。
「帰り、遅くない?」
Bの視線はユノの隣に立つ、プラチナホワイトの髪をしたワンピース姿の人物にくぎ付けになった。
その人物から目を離さず、「この人、誰?」とユノに訊ねた。
「説明するよ」
ユノはBの前まで進み出ると、彼女の手から転げ落ちそうなマニキュアの瓶を取って、ローテーブルに置いた。
「彼女はチャンミンちゃん。
この子をしばらく預かることになった」
チャンミンはぺこり、と頭を下げた。
「ご挨拶が遅れましたが、チャンミンといいます。
ぼ、僕は、ユノさんの...」
「聞いてないわよ?」
チャンミンの挨拶を遮ったBは怒りの目をユノへ移した。
「誰?」
その尖った口調にチャンミンの背筋が伸びた。
「Tの妹。
Tを知ってるだろ?
チャンミンちゃんはあいつの妹なんだ」
「仕事が見つかるまで、こちらにお世話になります。
ご迷惑おかけします」
チャンミンはぺこり、と頭を下げた。
「Tんちは今...」
「どうしてうちに?
なんで?」
Bはユノの事情説明を遮った。
「どこに住むの?
いつまで居るの?
いくつなの?
前もって教えてくれなかったのは、どうして?」
ユノはBの質問に対して、ひとつひとつ答えていった。
ただひとつ、正直に説明しづらかったのは、事前相談しなかった理由だった。
「俺だけの一存で決めてしまってごめん。
相談できればよかったんだが、時間が取れなくて...。
すれ違いだっただろ?」
「ふ~ん。
仕事が忙しい私が悪いってこと?」
「そういう意味じゃない」
「あなたってどれだけいい人なのよ」
Bはチャンミンの顔から脚の先まで舐めまわすように観察した。
(なるほどね。
部屋の荷物の持ち主がこの子ね)
無表情のBは、「回ってみて」とチャンミンに命じる。
チャンミンはBの命令に首をかしげながらも、素直にBの前でくるりと回って見せた。
「......」
(大柄な女、だと言えないこともないけど...。
やっぱり『男』だわ。
不自然さはないし、とってつけたような違和感はないけれど...女の目は誤魔化されないわよ!)
Bはチャンミンのパーツひとつひとつ、じっくりと見た。
(悔しいけれど、脚は綺麗だし、彫りが深いわりには可愛らしい部類の顔をしている。
でもね、眉や目、鼻や口の主張が強いのよ。
肩幅も広いし、手足も大きい)
この間、チャンミンは直立不動だ。
(そうなのよ!
全体的に丸みが感じられないのよ!
なるほど、あのワンピースの謎が解けた。
この子は『男』なんだけど、女物の洋服を着て『女』になる時があるのね。
見た目は男だけど、ハートは女なのかもしれない。
喋り方も、女っぽいし...)
「ねぇ。
ユノは気づいてないの?」
「何が?」
「本気で気づいてないの?」
「気づく、って何が?」
困惑したユノの様子から判断するに、質問の意図が分からないというのは、本当のように見える。
「嘘でしょぉ!?
私をからかっていないわよね?」
「からかうはずないだろ」
(あの子が『オトコ』だって、ユノは本気で分かっていないわけ?)
Bも困惑した。
ユノとチャンミンがBをからかおうと、示し合わせている可能性もあったからだ。
Bはチャンミンを指さした。
「この子の正体が何なのか、ホントにわかってないの?」
チャンミンはBの言葉にぎくり、としたが、口論中のユノとBはそれに気づけなかった。
(つづく)