(17)オトコの娘LOVEストーリー

 

~チャンミン~

 

「ふぅ...」

 

張り詰めていた心身は、ため息ひとつ程度じゃほぐれなかった。

ユノさんとBさんとの仲を裂くわけにはいかない。

やっぱりここにご厄介になるのは、やめた方がいいかもしれない、と思った。

 

「あれ?」

 

実家から送った荷物が、乱れていることに気付いたのだ。

 

(え...どうして?)

 

洋服や下着、小物などが段ボール箱から飛び出している。

僕が所有するとっておきのワンピースは、畳んだ布団の上に投げ捨てられていた。

 

(誰が...?)

 

閉めたドアの向こうから、ユノさんとBさんの言い争い(と言っても、一方的にユノさんが責められている格好)が聞こえる。

 

(犯人はBさんだ。

謎の箱が置いてあったら、怪しんで当然だよね)

 

ユノさんがスペースを空けておいてくれたクローゼットへ中へ、私物をひとつひとつ収めていった。

とっておきのワンピースはハンガーにかけ、積み上げた本を台にして、化粧水と化粧ポーチ、目覚まし時計を置いた。

 

(お二人の力関係が、なんとなく分かってきた。

僕のせいでユノさんが責められてしまってる。

ごめんなさい)

 

下着を胸に抱きしめると、部屋のドアを開けた。

 


 

~ユノ~

 

「ねぇ、ユノ。

私の服を片付けてしまうなんて、どういうことよ!?

あそこは、私の衣裳部屋だったのよ。

これからどうすればいいのよ?

私に無断で動かさないでよ!」

「勝手に触ったことについては、申し訳なかった。

一か月の間だから、辛抱してくれないか?」

「一か月だけでしょうね?」

「ああ。

約束する」

 

俺の返事に満足したのか、Bはソファに横になって両脚を持ち上げて足先をぶらぶらし始めた。

むくみをとる体操だそうだ。

 

「お腹が空いたな~」

 

俺はため息をついた。

 

「何か作ろうか?」

「スムージー。

ヨーグルトは無脂肪で。

砂糖は使わないで、エリスリトール。

バナナは絶対に駄目。

アーモンドミルクがあれば、ヨーグルトはナシで。

氷は3つ。

プロテインとケールでお願い。

ストローも忘れないで」

「分かったよ」

 

俺は冷蔵庫から材料を取り出しながら、深々とため息をついた。

作り慣れているから、考え事をしながらでも手順は間違えない。

 

(俺はBに押されっぱなしだ。

あんなに好きな女だったのに。

久しぶりに顔を合わせたというのに。

今じゃ衝突を恐れて、ご機嫌取りだ。

情けない)

 

ジューサーのたてるゴーゴーいう音が、ささくれだった気持ちをなぜか鎮めた。

 

(チャンミンちゃん、ごめん。

俺たちの醜態を見せてしまった。

フォローしてやれなかった。

さぞ居心地が悪かっただろうに。

本当にごめん)

 

ガチガチになって直立不動だった彼女の姿を思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになった俺だった。

 


 

~B~

 

背を向けてスムージーを作っているユノの背中を、Bは食い入るように見ていた。

 

(私の言いなりで、一途に待ち続けていて、好青年過ぎるところが残念だけど、性格もいい。

スタイルはいいし、顔もいい。

パーフェクトなはずなのに、どこか物足りない。

隣を歩かせたら、私と充分釣り合いが取れるし)

 

一日の労働でしわの寄ったワイシャツや、力をこめるたび筋ばる日に焼けた腕などを、Bはじーっと見つめる。

Bはフラストレーションを抱えていた。

 

(『あの人』ったら!

昨夜はあんなに熱かったのに、部屋から出ずに3日間過ごすはずだったのに。

今朝になって「帰れ」だなんて。

「帰りたくない」って、あの手この手で奉仕したのに、

それでも「帰れ」だなんて。

持て余したこの熱をどうすればいいのよ)

 

ユノは出来上がったスムージーを手に、Bの元へ戻ってきた。

Bにそれを渡すと、ユノはネクタイを外し、ダイニングチェアにひっかけておいたジャケットを取った。

Bはじっくりとユノの全身を眺める。

 

(『あの人』ほどじゃないけど、まあまあいい身体しているし、

『あの人』ほどテクニックはないけど、私を喜ばせようと一生懸命になってくれるし。

ユノと最後に『した』のは、いつだったっけ?)

 

Bは頭の中で、指折り数えてみた。

 

(半年...いやもっと前...8か月以上?

れっきとした『レス』じゃないのよ!

...とにかく!

私はムラムラしているのよ!)

 

隣でグラスの水を飲むユノに、Bは飛びかかった。

 

「ちょっ!」

 

ごとんとグラスが転がり落ちて、ラグを濡らす。

Bはユノのシャツの襟もとを引き寄せると、唇を押し付けた。

 

「ん...B!」

 

ユノはBの両肩をつかんでひきはがす。

 

「急に何だよ?」

 

「ユノは...私を拒むの...?」

「う...」

泣きそうな悲しそうな顔をするBだった。

 

(泣かれたら困る!)

 

焦ったユノの腕の力が緩んだ隙に、Bは彼のシャツのボタンを外し始めた。

 

「待て、B!

待てったら!」

 

Bの手首をつかみ、引きはがした。

すると彼女は再び泣き出しそうに表情をゆがめた。

 

(ユノはこの表情に弱いのよ)

 

脱がせたシャツをソファの向こうへ放り投げた。

 

「ち、チャンミンちゃんが!」

Bはユノのベルトを外し始めた。

Bを力任せに突き飛ばすわけにもいかない。

「チャンミンちゃんが...いるんだって!」

 

(つづく)

 

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