(18)オトコの娘LOVEストーリー

 

~チャンミン~

 

(ユノさんは未だに僕のことを女子だと思い込んでる。

凄いよなぁ)

 

鏡の中の僕が眉と口角を下げている。

 

(僕が男だと知って、ユノさんはどう思うんだろう)

 

濡れ髪をオールバッグにして額を出すと、男の顔が露わになる。

湯上りで上気した頬に触れ鼻筋をなぞった。

 

(やっぱり男なんだよねぇ。

ユノさんはあんなにカッコいいのに、僕は中途半端。

僕はどっちになりたいんだろう?)

 

「あ、しまった。

パンツを忘れてきた」

 

幸いなことにオーバーサイズのシャツを着ているし、バスタオルを巻けば大丈夫だ。

 

(悲しくなってきた。

明日は、あの人との再会なのに。

どっちの格好で会った方がよいのか分からなくなった)

 

僕はうな垂れ、洗濯機の上に置いた黒いブラジャーを手にとった。

 

(僕は男。

胸がなくて当たり前だけど、胸があると映えるんだよねぇ。

パットを使うべきか否か)

 

鏡の前で、薄い筋肉だけの胸を両手で寄せたり上げたりしてみた。

 

(Bさんの胸、大きかったなぁ。

男の人というのは、大きい胸の人が好きなんだよねぇ、うん。

ユノさんもやっぱり...)

 

僕の頭にぼわーんと、Bさんの胸を揉むユノさんの姿が浮かんだ。

 

(ダメだ!

何を想像してるんだ!)

 

正面でホックをかけてぐるりと回すと、ぺったんこの胸をブラジャーにおさめた。

ユノさんの忠告に素直に従うことにしたのだ。

 

 

実は...ユノさんちに来てから、僕はちょっとだけ無理をしている。

今朝は部屋着のようなワンピースを着ていたけれど、実家に居た頃の僕は朝昼晩と女性服を着ていたわけじゃなかったのだ。

四六時中女の子の格好をしていたい程の欲求はなかったし、何よりも両親を驚かせたくなかった。

学ランを着ていた息子が、真っ白なブラウスを着、ピンクの口紅をひいて登場したら腰を抜かすと思う。

部屋でこっそりワンピースやスカートを身に付け、鏡の前で楽しんでいただけだった。

ところがある日、帰省していた兄に目撃されてしまったのだ。

ノックも無しに入ってくるものだから、隠す間がなかった。

兄は目を丸くしてしばし絶句していた後、「そういう趣味があったとは知らなかった」と言った。

 

「ごめん」と僕は謝った。

「謝らなくていい。

ここに住んでちゃ、おおっぴらにできないもんなぁ」

「そうだね」

「チャンミンは童顔だしスタイルがいいから、まあまあ似合うんじゃないの?」

「...それならいいんだけど」

「じゃあな。

飯食ったら帰るから、声をかけに来たんだ。

急に入ってきてごめんな」

 

兄は僕の肩をポン、と叩くと部屋を出て行った。

兄に見られてよかった、と思ったことに僕は驚いていた。

 

 

洗面所を出る前にふり返って髪の毛が落ちていないか最終チェックをし、照明を消した。

 

 


 

~ユノ~

 

「B!

チャンミンちゃんが...チャンミンちゃんが!」

 

ユノはBの肩を押しのけたが、

「チャンミンチャンミンって、うるさいわねえ。

まだ出てこないわよ。

もしかしてユノ...、あたしが嫌なの...?」

と、Bが目を潤ませるから、俺は黙るしかない。

 

「嫌とか、そういう問題じゃなくて!」

 

その1。

半年ぶりにいきなり『そういうこと』をしたくなるBに驚いていること。

その2。

ここはリビングで、もうじきお風呂から上がるチャンミンに『そういうこと』を見られるかもしれないこと。

その3。

この理由が一番大きいぞ。

この場になって気付いたことだ。

俺の中に、Bと『そういうこと』は二度としたくない気持ちがあること、だ。

その4。

「その3」を理由にBを拒みたいが、彼女を傷つけてしまうから拒みにくいこと。

その5。

これこそ、今の俺を大いに僕を困らせている。

「その3」を挙げているくせに、悲しいかな反応してしまう俺の男の部分だ)

 

「あ!」

 

ファスナーを下ろされ、下着の中身をずるんと引っ張り出された。

 

「Bっ!

やめろ!

おいっ!

くっ...!

駄目だっ!

チャンミンちゃんが!

あぅ!

チャンミ...ちゃ...んが!

あ...」

 

「お先で...し...」

 

ソファで仰向けになった俺と、湯上りのチャンミンの目がバシッと合った。

 

「!!!!」

「!!!!」

 

(チャチャチャチャチャチャ...ミンちゃん!!!)

(ひぃぃぃーーーー!!!)

 

チャンミンはバスタオルを頭からかぶって、絡み合う俺たちの前を通り過ぎると、6畳間に飛び込んでピシャリと戸を閉めた。

こんな状況なのに、ビッグサイズのTシャツから伸びた白い脚がなまめかしい、感じてしまった俺は頭がおかしくなっている。

 

(つづく)

 

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