~ユノ~
俺は床に腰を下ろし、飽きもせず彼の寝顔を見続けた。
しかし、困ったな。
布団を敷いてあげたいけれど...。
三つ折りにした布団に上半身がもたれかかっている。
どかしたいけど...。
身長が高いせいで太ももがむき出しになっていて、ぞんざいに巻いただけのバスタオルが頼りない。
男だと知ってしまったが、その太ももは色気を放っている。
俺は目をそらした。
困った!
困ったぞ!
今夜の俺は、チャンミンの下半身をこれ以上見るわけにはいかない!
気持ちよさそうに眠っているのを起こしたくないんだけどなぁ。
「起きて!」
肩を揺する。
「う...ん」
「チャンミン...ちゃん!」
もっと肩を揺する。
「う...ん」
彼の頭がぬーっと持ち上がった。
目をつむったままボーっとしている隙に布団を敷いた。
「ぐー」
「あ!
こら!
寝るな!」
首をもたげて座ったまま、眠ってしまった。
「世話が焼けるなぁ!」
彼の裸は見てはいけない気がするし、だからと言ってこのままにしておけない。
床にタオルケットを敷いて、その上にチャンミンを横たえた。
バスタオルがずれてチャンミンの胸が目に飛び込んできたけど、これは事故だ、仕方がない。
同性だが、なぜか服を着せてやることに抵抗を感じた。
女ものがいいのか、男ものがいいのか?
彼にショーツを履かせ、ブラのホックをはめてやる妄想図が浮かんだが、首を振って消去した。
彼をごろごろ転がして、タオルケットですまきにした。
それから、す巻きにされた彼を、敷布団の上まで引きずった。
(身長が身長だけに...それ相応に重い...)
ぐるぐるにす巻きにされた彼を見下ろして、俺は深い深いため息をついた。
気持ちよさそうに寝ちゃってさ、全く。
チャンミンの裸に反応したりしたら駄目じゃないか!
今夜の俺は...抜く必要があるな。
以上が、大ハプニングの顛末だ。
~B~
見た目が派手なせいで、放埓だと誤解されがちだった。
熱しやすく冷めやすい恋愛をしがちであると認めていた。
文字通り「炎のよう」に熱く燃え上がって、全身全霊でその男性を愛す。
2,3か月もするとその炎の勢いが落ちてくるけれど、気持ちが冷めた訳ではない。
焚き木の追加が欲しいだけだった。
Bの激しい恋に疲れるのか飽きたのか、離れていってしまう人が多い中、ユノは違った。
熱く激しい火力はないものの、ユノが恋人に注ぐ愛情とは熾火のように、長く注ぎ続けるものだった。
チヤホヤされることに慣れていたBにとって、彼の控えめな愛情表現じゃ物足りなかった。
照れ屋で「愛してる」の言葉も、ベッドの中で絶頂の最中で口にするくらい。
顔もスタイルもいいものを持っているのに、トレーナーにデニムパンツという野暮ったい恰好ばかりしていた為、Bは自分好みの男に仕立てた。
自分の手によって、見栄えのする男に変身させていくのを楽しんでいた。
家事が苦手なBに代わって、料理も掃除もすべてを担ってくれて助かったけれど、住まいを共にして1か月もしないうちに「長年連れ添った夫みたい」になってしまったことにがっかりした。
レシピ通りに忠実に料理をする彼の背中に、手にしたマスカラを投げつけたくなる。
キツイ言葉を投げつけても、最初はムッとした顔が困った表情に変化して、「嫌なことでもあったのか?」って心配してくれた。
イラつくけれど、ユノの存在はBにとって大切なものだったのだ。
(ユノには100%、私の方を見ていて欲しい。
心のバランスを保つために、なんだかんだ言ってユノが必要なの)
にもかかわらず、Bは新しい恋をしている。
モデルの仕事は下降線だったけど、誘われて始めたラウンジの仕事は割と楽しい。
沢山の男の人たちと接することができるし、彼らを褒めたたえる振りをして、「君こそキレイだよ」のお返しを期待していた。
(熱烈な恋愛をしたいだけ)
今回の恋はのめりこみ過ぎて、危なっかしい空気をはらんでいた。
いつ捨てられてもおかしくない。
(あの人は惹きつけたかと思うと冷たく突き放すのを繰り返して、私は翻弄され余計に燃え上がった)
深夜ユノの寝顔を横目に、アルコールでむくんだ脚を毛布に滑り込ませる。
(この人は、待ってくれる。
あの恋が破れて捨てられても、帰る場所がある。
だからやっぱり、ユノが必要)
(つづく)