~チャンミン~
ユノさんとの通話を終えた。
「どうしよっかな...」
ユノさんとBさんの邪魔をしたくないから部屋を出る、なんて言っちゃったけど、行くところなんて全然なかったんだよね。
お兄ちゃんのところは論外だし、かといって実家に戻るなんて嫌。
僕は人生を変えるためにここに来たのだから。
『チャンミンちゃんには居て欲しい』だって...ふふふ。
ユノさんに引き止めてもらえてよかった。
ユノさんって優しいな。
強い日差しが半袖の腕をじりじりと焼いている。
昨日、ユノさんと待ち合わせたモニュメントの前に僕はいた。
夕方までの6時間ばかりをどこで過ごそうかしばし考えた末、素敵な思いつきが浮かんだ。
早速、スマートフォンでめぼしいところをネット検索し始めた。
「ここにしよう!」
僕はウキウキとした足取りで、表示された地図を頼りに歩き出した。
~B~
ユノとBのベッドはとても大きい。
180超えの俺と170超えのBがのびのびと寝られるようにと、かつて選んだベッドだ。
ユノの手によってしわ無く整えられたベッドで、小一時間ほどまどろんでいた。
外は眩しくて暑いのに、寝室の中は遮光カーテンを閉めてあるから薄暗く、26℃設定のエアコンで快適だ。
何もかもうまくいかなくなった。
ぬくもりを求めている時に限ってユノはいない。
昼間は仕事で不在なのは当たり前なのに、何事も己が可愛いBには通じない。
(普段は鬱陶しいくらいに、私を構ってくるくせに!)
Bはメイクを落としていないことを思い出し、シャワーを浴びることにした。
(今夜は優しくしてあげよう。
ユノはその気になるかもしれない)
シャワージェルを落とした湯船に横たわり、泡の中から片脚を高く突き出した。
Bは、形の良い自分の脚を気に入っていた。
そして、この脚がキスの雨で愛撫されたことを思い出す。
(...でも、ユノのぎこちないものと違って、『あの人』のは凄い)
太ももの内側に赤い痕が2つある。
(『あの人』ときたら、一晩だけで私を解放するなんて!
いつもだったら、2晩も3晩も私を離さないのに!
持て余した熱を、ユノに慰めてもらいたい!)
入浴を終えたBはバスローブ姿でリビングのソファに寝転がった。
「ぶはぁっ...うまつ」
ビールで火照った身体を冷ましながら、「『あの人』は、新しい『専属』を見つけたのかしら...」とひとりごちた。
(そんな!
...そんなはずはない。
イライラして疲れているから、悪い方に考え過ぎてるだけだわ)
ぐしゃり、と空き缶を凹ませた。
「あら?」
寝室の隅にうず高く積み上げられたものに気付いた。
収納ケースや段ボール箱だった。
中身は詰め込まれたBの洋服で、ファッション雑誌は紐でひとつにくくられていた。
(どういうこと!?)
Bは買い物をするたび不要になったものを、空き部屋に放り込んでいたのだ。
(私の物を片付けてしまうなんて...どういう意味よ。
ユノ、何のつもりよ)
焦燥と不安でいっぱいになったBは、寝室を出てリビングを横切り空き部屋のドアを開けた。
「え...」
足の踏み場がないほどBの物で溢れていた部屋の中が、きれいに片付けられていた。
(嘘でしょ!?)
そしてBを驚かせたのは、三つ折りに畳んで積まれた布団一式。
(お客さん?)
布団の横に、段ボール箱が5つ。
いけないと思いながら、Bは箱の中を覗いた。
最初の箱には、トレーナーやパーカー、細身のパンツなど洋服類。
(ユノのものと同じくらい大きいから...男性もの)
2番目の箱は書籍。
(小難しい本を読むのね...ユノみたい)
3番目の箱には男物の靴が入った靴箱と文房具、化粧水のボトルとメイクポーチ。
(最近の男の人は、お肌のお手入れをするみたいだし)
4番目の箱を開けた時、Bの手が止まった。
「嘘でしょ...」
黒いブラジャー。
箱の中をさらにあらためてみると、男性もののボクサーパンツと女物のショーツ。
(男?
女?)
最後の箱には黒色の布地が詰め込まれていた。
広げてみると、それは可愛らしいワンピースだった。
ブラウスの袖はふんわり丸く膨らんでおり、スカートの裾はレーストリムになっている。
胸にあててみると、膝を隠すほどの丈だった。
入口ドア側の壁を振り向くと、コルセットとフリルたっぷりの白のエプロンがかかっている。
(嘘でしょ)
カーテンレールに引っかけたハンガーに、薄ベージュの網ストッキングがぶら下がっている。
(これって...メイド服?)
Bはよろよろと立ち上がると、リビングに戻ってソファにどさりと座った。
(あの荷物の持ち主は、女装家なのかもしれない...!)
(つづく)