(9)オトコの娘LOVEストーリー

 

~チャンミン~

 

ユノさんとの通話を終えた。

 

「どうしよっかな...」

 

ユノさんとBさんの邪魔をしたくないから部屋を出る、なんて言っちゃったけど、行くところなんて全然なかったんだよね。

お兄ちゃんのところは論外だし、かといって実家に戻るなんて嫌。

僕は人生を変えるためにここに来たのだから。

『チャンミンちゃんには居て欲しい』だって...ふふふ。

ユノさんに引き止めてもらえてよかった。

ユノさんって優しいな。

強い日差しが半袖の腕をじりじりと焼いている。

昨日、ユノさんと待ち合わせたモニュメントの前に僕はいた。

夕方までの6時間ばかりをどこで過ごそうかしばし考えた末、素敵な思いつきが浮かんだ。

早速、スマートフォンでめぼしいところをネット検索し始めた。

 

「ここにしよう!」

 

僕はウキウキとした足取りで、表示された地図を頼りに歩き出した。

 

 


 

~B~

 

ユノとBのベッドはとても大きい。

180超えの俺と170超えのBがのびのびと寝られるようにと、かつて選んだベッドだ。

ユノの手によってしわ無く整えられたベッドで、小一時間ほどまどろんでいた。

外は眩しくて暑いのに、寝室の中は遮光カーテンを閉めてあるから薄暗く、26℃設定のエアコンで快適だ。

何もかもうまくいかなくなった。

ぬくもりを求めている時に限ってユノはいない。

昼間は仕事で不在なのは当たり前なのに、何事も己が可愛いBには通じない。

 

(普段は鬱陶しいくらいに、私を構ってくるくせに!)

 

Bはメイクを落としていないことを思い出し、シャワーを浴びることにした。

 

(今夜は優しくしてあげよう。

ユノはその気になるかもしれない)

 

シャワージェルを落とした湯船に横たわり、泡の中から片脚を高く突き出した。

Bは、形の良い自分の脚を気に入っていた。

そして、この脚がキスの雨で愛撫されたことを思い出す。

 

(...でも、ユノのぎこちないものと違って、『あの人』のは凄い)

 

太ももの内側に赤い痕が2つある。

 

(『あの人』ときたら、一晩だけで私を解放するなんて!

いつもだったら、2晩も3晩も私を離さないのに!

持て余した熱を、ユノに慰めてもらいたい!)

 

入浴を終えたBはバスローブ姿でリビングのソファに寝転がった。

 

「ぶはぁっ...うまつ」

 

ビールで火照った身体を冷ましながら、「『あの人』は、新しい『専属』を見つけたのかしら...」とひとりごちた。

 

(そんな!

...そんなはずはない。

イライラして疲れているから、悪い方に考え過ぎてるだけだわ)

 

ぐしゃり、と空き缶を凹ませた。

 

「あら?」

 

寝室の隅にうず高く積み上げられたものに気付いた。

収納ケースや段ボール箱だった。

中身は詰め込まれたBの洋服で、ファッション雑誌は紐でひとつにくくられていた。

 

(どういうこと!?)

 

Bは買い物をするたび不要になったものを、空き部屋に放り込んでいたのだ。

 

(私の物を片付けてしまうなんて...どういう意味よ。

ユノ、何のつもりよ)

 

焦燥と不安でいっぱいになったBは、寝室を出てリビングを横切り空き部屋のドアを開けた。

 

「え...」

 

足の踏み場がないほどBの物で溢れていた部屋の中が、きれいに片付けられていた。

 

(嘘でしょ!?)

 

そしてBを驚かせたのは、三つ折りに畳んで積まれた布団一式。

 

(お客さん?)

 

布団の横に、段ボール箱が5つ。

いけないと思いながら、Bは箱の中を覗いた。

最初の箱には、トレーナーやパーカー、細身のパンツなど洋服類。

 

(ユノのものと同じくらい大きいから...男性もの)

 

2番目の箱は書籍。

 

(小難しい本を読むのね...ユノみたい)

3番目の箱には男物の靴が入った靴箱と文房具、化粧水のボトルとメイクポーチ。

(最近の男の人は、お肌のお手入れをするみたいだし)

 

4番目の箱を開けた時、Bの手が止まった。

 

「嘘でしょ...」

 

黒いブラジャー。

箱の中をさらにあらためてみると、男性もののボクサーパンツと女物のショーツ。

 

(男?

女?)

 

最後の箱には黒色の布地が詰め込まれていた。

広げてみると、それは可愛らしいワンピースだった。

ブラウスの袖はふんわり丸く膨らんでおり、スカートの裾はレーストリムになっている。

胸にあててみると、膝を隠すほどの丈だった。

入口ドア側の壁を振り向くと、コルセットとフリルたっぷりの白のエプロンがかかっている。

 

(嘘でしょ)

 

カーテンレールに引っかけたハンガーに、薄ベージュの網ストッキングがぶら下がっている。

 

(これって...メイド服?)

Bはよろよろと立ち上がると、リビングに戻ってソファにどさりと座った。

 

(あの荷物の持ち主は、女装家なのかもしれない...!)

 

(つづく)