(13)俺の彼氏はオメガ君

 

~オメガは可愛い子ばかり~

 

誕生後すぐにオメガ属だと分かるケースよりも、チャンミンのようにある日突然、オメガ性が芽生えるケースの方が多い。

 

大抵の場合、外見の変化という前兆がある。

 

チャンミンもその変化に気付いていたが、それがオメガへ変属性する予兆だととらえておらず、初潮を迎えたときに「そういう意味だったのか」と合点がいったのだ。

 

 

2人が変属性してしまう少し前のこと。

 

自宅がお隣さん同士の2人は、登下校は常に一緒だ。

 

属性転換が起こる前、2人は恋人関係にはなかったが、2人の関係性を言い表すには「友人同士」は弱すぎる。

 

性的な関係を結んでいないだけの恋人関係、と言い換えてもいいだろう。

 

「付き合おう」とあらためて宣言しなくても、常に一緒にいることが当然だったからだ。

 

ユノにとってチャンミンは『チャンミン』であり、性別にこだわりはなかった。

 

(無かったけれども...)

 

 

男女問わずオメガの外見は一言でいうと、可愛いのだ。

 

(たまらない。

なぜだろう。

チャンミンが可愛らしい)

 

女性オメガはより女性的になり、護ってあげたくなる欲求をかきたてられる愛らしい小鹿感が増す。

 

さらに、オメガフェロモンがベータやアルファの性的欲求を煽る。

 

男性オメガも同様だ。

 

男性オメガは生殖器官を持つだけに、どうしても肉体的変化は女性らしさへと向かう。

 

隣を歩くチャンミンの横顔の、バサバサに長いまつ毛やふっくらとした頬、細い首のチャンミンに、ユノは見惚れてしまった。

 

(いける。

長身のボーイッシュな女子校生...くらいには見える)

 

そして、ぽろっと漏らしてしまった。

 

「お前...最近、可愛いんだけど?」

 

すかさずチャンミンは「気にしてるんだから、そーゆうこと言うな!」と、怖い目つきでユノ睨みつけた。

 

「へぇ...自覚はあるんだ?」

 

ユノはポカスカと叩いてくるチャンミンの手を、楽々ひねり上げた。

 

「うっ...そんなこと...ないよ...でも...」

 

「でも?」

 

「......」

 

「でも」の続きが聞きたかったが、チャンミンの語尾は消え行ったままだ。

チャンミンには自覚があった。

(体毛が薄くなり、喉仏も引っ込んだような気がする。

それだけじゃなくて...ユノには絶対に言えないこと。

アソコも小さくなってきたような...。

どうしよう!!

僕の中から『男らしさ』が薄まっていっているのだろうか!?)

 

ところが、その原因が何なのかわからなかった。

 

(ユノに相談した方がいいかな?

駄目だダメだ!

すごく心配して深入りしてくるか、面白がってゲラゲラ笑ってからかうか、どっちも嫌だ)

 

ユノは青ざめたり赤くなっているチャンミンを、何の口出しもせず黙って見ていた。

 

無理に聞き出そうとしたら、チャンミンは意固地になって口をつぐんでしまうことをユノは知っていたからだ。

 

(ま、いっか)

 

チャンミンは暗い表情になってしまっている。

 

ユノはチャンミンの首に腕を巻きつけて言った。

 

「何か食ってから帰ろうぜ!」

 

 

話は戻って、ここは診察室。

 

初ヒートを迎えたチャンミンは、生殖器官の発達具合を確認するため内診を受けることになった。

 

裸どころか、ナイーブな箇所まで観察されると知って、チャンミンは青ざめた。

 

「全部脱いだら、これを着てください」と、チャンミンに手渡されたのは、なんとも心細い化繊の布きれだった。

 

中央に開いた穴に頭を通し、脇腹を紐で結ぶデザインになっている。

 

風がふけばひらひらと、大事な部分がチラ見えしてしまいそうだ。

 

「......」

 

それを摘まみあげたチャンミンの表情は、渋く歪んだ。

 

医師も看護師も気を遣って席をたったが、どうせこの後すみずみまで内診されるのだ。

 

(仕方がない)

 

チャンミンはため息をひとつつくと、ネクタイを外し、シャツを脱ぎ始めた。

 

ユノはチャンミンが心配でたまらず診察室に居残ったが、どうにも落ち着かない。

 

「検査着ってのは、どこも一緒だなぁ」

 

ユノは患者用の丸椅子に腰掛け、スマートフォンを操作し出した。

 

着替えるチャンミンを眺めていたいのが本心だった。

 

まじまじと眺める前では脱ぎにくかろうという配慮もあったし、大好きな人の裸はドキドキする。

 

チャンミンも同様だった。

 

すみずみまで蛍光灯で照らされた、ロマンティックムードゼロの場。

 

『裸になるのはユノの前でだけ!』と言ってしまったが、いざここで衣服を脱ぎ捨てることに抵抗ある。

 

「...っ」

 

下着のゴムにかかったチャンミンの手が止まった。

 

(これを脱いだらナプキンを見られてしまう。

とめどなく溢れるオメガの果汁を受け止めるナプキンを!

恥ずかしい!!)

 

ユノは、ベルトを外そうとするチャンミンの手が止まったことに気付いた。

 

「やっぱ、席を外そうか?」と椅子から立ち上がろうとした。

 

「やだっ!」

 

「うげっ!」

 

席を立つのを妨げようと、チャンミンがユノのネクタイを掴んだのだ。

 

「ユノはここにいて。

ここにいて...ね?」

 

チャンミンの可愛い眼でねだられたら、ユノはそれを断ることができない。

 

(ユノはチャンミンに甘々なのだ)

 

ユノはふっと微笑むと、「分かった。側についているよ」と、浮かせた腰を椅子に下ろした。

 

「ここにいて。

お願い」

 

ベルトとボタンを外すと、チャンミンのグレー色のスラックスがぱさっと床に落ちた。

 

むん、と甘い香りがユノの鼻を襲った。

 

「ぐっ!!!」

 

ユノは鼻を覆った。

 

脳みそに何かが直撃した。

 

ガツン、と。

 

視界がぐらり、と揺れた。

 

(何だ...!?)

 

ユノの股間のあたりにウズウズと、力がみなぎり始めた。

 

下着が窮屈になってきた。

 

(これは...!

勃つ!

マジかよ!

ここで勃つのか!)

 

チャンミンの股間はこれまで目にしたことはあった。

 

チャンミンが心配なあまり、邪な欲情無しに彼の生理の手当てもできたのに。

 

(そそる...)

 

上半身はブレザーまで着込んだままで下半身はむき出しの裸...マヌケと言っていい格好。

 

にもかかわらず、ユノは反応してしまったのだ。

 

 

(つづく)

 

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(12)俺の彼氏はオメガ君

 

 

~合言葉はタチとネコ~

 

学校を抜け出したユノとチャンミンは電車を乗り継ぎ、センターATOHD(αtoΩwo-hogosuru-dantai)へと向かった。

 

その施設は上部にネズミ返しの付いた高い塀に囲まれ、窓ひとつない。

 

コンクリート製の壁はのっぺらぼうだ。

 

門柱にも塀にも建物の名称を示すものは何もない。

 

監視カメラが3台、2人を狙っている。

 

(そのうちの1台はナプキンで膨らんだチャンミンのお尻に焦点をあてている)

 

ユノは変属性した際に支給されたカードをスロットに通し、ボタンを押した。

 

ボタン上のランプが緑から赤へと変わり、スピーカーから人工音声が流れた。

 

『タチ』

 

ユノはボタンを押すと、『ネコ』と応答した。

 

すると、ガチャンと開錠する音と共に、頭上そびえる門扉がスライドし始めた。

 

「行こうか?」

 

「うん」

 

ユノはチャンミンの手を握ると、塀の中へと足を踏み入れた。

 

2人の後ろで門扉がガチャンと音をたてて閉まった。

 

一面芝生に庭が広がり その中央に砂利敷きの小径が正面玄関に向かって貫いている。

 

左右に花の苗が植わったプランターが等間隔で並べられている。

 

2人がここを訪れるのは半年ぶり。

 

ユノがアルファに、チャンミンがオメガに変属性した際に受けた身体測定と講習以来だった。

 

正面玄関の自動ドア前で2人は立ち止まる。

 

この自動ドアはマジックミラー素材で、内部を窺うことはできない。

 

(ドアのすぐ内側では、仲良く手を繋いだ男子高校生2人を微笑ましく観察している者がいるかもしれない)

 

ユノがインターフォン下のパネルに人差し指を押し付けるとスキャンが始まり、次いで人口音声が流れた。

 

『ラット(※1)』

 

ユノは『ノット(※2)』と答える。

 

(※1 【ラット】

アルファの発情期をいい、多くはオメガのヒートに誘発される。

激しい興奮状態に陥り、本人の意志では抑制できない爆発的な性的欲求にかられる。

性的暴行事件に発展する場合もある。

オメガのヒートとアルファのラットが合致した時、彼らの性行為は数日間にわたる)

(※2 【ノット】

アルファの男性器の根元にある亀頭球のようなこぶをいう。

オメガとの性交中、容易に抜けないよう大きく膨れ上がることで、オメガの妊娠率を上げている)

 

電子音声の『NTR』に対し、ユノは『寝取られ』と答えた。

 

次に、電子音声は『BSS』と告げた。

 

「っ...」

 

チャンミンは、言葉につまるユノをちらっと見やると、『僕が先に好きだったのに』と答えた。

 

『ピンポンパンポーン』と鳴ったチャイム音の直後、自動ドアが左右に開いた。

 

中に入るために複数の合言葉クイズが用意されているのは、邪な動機をもつ奴らの入館を防ぐためだ。

 

 

「体調の変化はいつ頃?」

 

「今日です。

お尻から何かが出てきて...その量が普通じゃないんです」

 

「あなたのお尻から出たものは、『Ωの果汁(omega-no-kaju)です。

アルファの性器を受け入れやすくしたり、精子の活きをよくしたり、子宮へ導く川にもなる分泌液です。

性的に興奮した時も分泌されますが、ヒート...発情期を迎えると、とめどなく分泌されるようになります」

 

「ええ~~~」

 

チャンミンは小さな子供のように口を尖らせた(オメガになると、言動が子供っぽくなりがちになる)

 

診察室に通されたチャンミンは問診を受けていた。

 

目の前の白衣を着た医師はチャンミンへ、数日前からの体調や感情の変化について事細かに質問をしていった。

 

この医師は当然ベータで、チャンミンがオメガに変属性した際に担当になった。

 

間違いがあってはならないと、施設長を除いてスタッフは全員ベータだ。

 

「ムラムラすることは?」

 

「ないです」

 

「あなたに付き添っていたユノさんはアルファでしょう?

彼と一緒にいて、何ともなかったの?」

 

「はい」

 

「ユノさんの様子はどうでした?」

 

「いつもと変わらなかったです」

 

「ということは、ユノさんは未だラットを迎えていない、ということですね」

 

医師の言葉に、チャンミンは「ラット?」と首を傾げた。

 

「夕方からの講習会を受けてください。

ヒートやラットについての講義があります」

 

「ええ~、勉強ですか...」

 

オメガに変属性して以来、チャンミンは勉強嫌いになってしまい、宿題は全てユノの助けを借りている。

 

「命にもかかわることになりかねないことですから、絶対です」

 

医師は笑って言ったが、目は全く笑っておらず、チャンミンは尖らせかけた唇をすぐに引っ込めた。

 

「あなたもユノさんも、知っておくべきことが沢山あります。

特にあなたの場合は、いずれ選択しなければならないことがあります」

 

「選択...?」

 

「あなたが本格的なヒートを経験するのは、次かその次になるでしょう。

その時までに、あなたはあなた自身の身体を受け入れ、これからの生き方について真剣に考えなければなりません」

 

そう言って医師は、デスクからパンフレットを取り出すとチャンミンに手渡した。

 

「ひとまずこれに目を通しておいてください」

 

「はあい」

 

「問診はこれでお終いです。

次は身体検査を行いますので、服を脱いでください」

 

「下着は?」

 

「下着もなにもかも全部です」

 

「ってことは、裸に!?」

 

「はい。

身体的変化を記録するため、調べさせていただきます」

 

「やだ!」

 

「オメガになった運命を受け入れることのひとつがこれです。

あなた方を守るため、必要なことなのです。

ご協力をお願いします」

 

「裸なんて、ヤダ!」

 

チャンミンは素早く立ち上がると、診察室から出ようとしたが、どこに控えていたのか、スタッフの1人が飛び出してきてチャンミンを取り押さえた。

 

「やだやだやだ!」

 

そのスタッフは柔道経験者かと推測される体格のよい女性で、華奢なチャンミンの動きを軽々と制御してしまう。

 

「裸はユノだけにしか、見せたくない!」

 

チャンミンは両脇を抱えられ、抵抗しようと足をバタバタさせた。

 

直後、「バン!」と勢いよくドアが開いた。

 

「チャンミン!」

 

ユノだった。

 

チャンミンの叫び声を聞きつけたユノが、階下の待合室からここまで駆けつけたのだ。

 

(アルファはとても耳がよい)

 

目をぎらつかせたユノは、スタッフの二の腕を掴むとぐいっと、チャンミンから引きはがした。

 

未熟ながらもユノはれっきとしたアルファなのだ。

 

「俺のチャンミンに乱暴するな!」

 

チャンミンは力の緩んだスタッフの腕をすり抜け、ユノの背中の後ろにさっと隠れた。

 

医師はため息をつくと、ユノのブレザーの端をキュッと握るチャンミンをなだめるように言った。

 

「手荒な真似をしてすみません。

でも、チャンミンさん、検査はどうしてもしなければなりません」

 

「検査なら、オメガになった時にやったじゃないか!」

 

「今回のはさらに精密な検査です。

ユノさんが検査に付き添ってくれたら、受けてくれますか?」

 

「...いいよ」

 

チャンミンは渋々頷いたのだった。

 

 

(つづく)

 

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(11)俺の彼氏はオメガ君

 

 

<初めての発情期の巻 後編>

 

人口の95%はベータ属だ。

 

残りの5%をアルファとオメガが占めている。

(そのうち98%がアルファ、2%がオメガ)

 

例えば、ショッピングセンターに出掛けたとしよう。

 

日曜日のショッピングセンター、駐車場は満車で、広大な店内はどこもかしこも人人人。

 

ワンフロアに1,000人の老若男女がいたとすれば、アルファが約49人いる計算になる。

 

ところが、アルファは放つオーラですぐに分かるはずだとフロアを見渡しても、アルファを見つけることは出来ない。

 

暮らしているステージが1段上にいるアルファはそもそも、ショッピングセンターで買い物などしないからだ。

 

次にオメガを探してみよう。

 

1,000人中1人...ショッピングセンター内を駆けずり回れば見つけられるかもしれない。

 

アルファの場合と同様、どこを探してもオメガを見つけることはできないだろう。

 

なぜなら、オメガはショッピングセンターで買い物ができない。

 

いつどこで拉致されるか、エリート街道から転げ落ちたアルファたちに犯されるかしれないからだ。

 

ショッピングセンターで売られているものは、凡人のベータの為に作られたものだ。

 

この世はベータが中心で、専門家を除けばアルファやオメガの真実を知っている者は少ない。

 

情報を求めて本屋にゆけば、手に取りやすいイラスト付きの『アルファな上司の取扱説明書』がビジネス書コーナーに積まれている。

 

ノンフィクションコーナーに、オメガ属の著者が苦労に満ちた人生を語ったエッセイ本が、または自己啓発本コーナーに『劣等感なく生きてゆくための思考術』といったタイトルの書籍が、今月のおススメ作品のPOPを付けている。

 

Webを漁っても、出処怪しい真偽のほども疑わしい情報が、さも真実のようにコピペコピペで拡散してゆく。

 

...前置きが長くなってしまった。

 

つまり、オメガの発情期に詳しい者はほとんどいない、ということだ。

 

肉体の変化や具体的な症状、その場に居合わせた時の正しい対応の仕方。

 

発情したオメガを前にしたアルファがどうなってしまうのか。

 

そして、発情したオメガの首根っこを噛みつく行為で成立する「番(つがい)」制度とは、存在するのか...。

 

ベータとして生きてきたユノもチャンミンも、オメガの発情期の知識は無いに等しかった。

 

彼らが17歳で属変性したとき、手引書を手渡された。

 

アルファ属、オメガ属の者「だけ」が所有を許されている手引書だ。

(レアものなので、オークションで高値で売り買いされている)

 

 

「ユノぉ...。

どうしよ...」

 

ユノを見上げるチャンミンの大きな眼からぽろぽろと、大粒の涙がこぼれ落ちている。

 

足首まで落とされたスラックスと下着を目にして、ユノは「これがそうか...」と心の中でつぶやいた。

 

ユノはドアから一旦下りると、一式の入った紙袋をドアの上から投げ入れた。

 

「まずは着替えろ。

尻はナプキンを当てておけ。

その後、俺と話をしよう」

 

「うん...ぐすっ...ぐずっ」

 

チャンミンはずるずる鼻をすすりながら、お漏らしレベルにびしょびしょに濡れた下着とスラックを脱ぎ、ユノの指示に従った。

 

ガチャンとドアが開き、真っ赤に火照った顔をしたチャンミンが現れた。

 

胸に抱きしめた紙袋の中には汚れ物が入っている。

 

「場所を変えようか」

 

ユノはチャンミンと手を繋ぐと、隣の空き教室へ入り鍵を締めた。

 

2人は教壇に腰掛けた。

 

「どう?」

 

「すごい...出てくるよ」

 

内股に座ったチャンミンは、両膝をもじもじと摺り寄せた。

 

お尻に当てたナプキンがどれくらいもってくれるか、チャンミンは心配だった。

 

身動ぎすると、じわりじわりと熱いものが例の箇所からにじみでる。

 

オメガは発情期(ヒート)になると、お尻から粘液...オメガの果汁(Ω-no-kaju)が大量に分泌される。

 

その名の通り、粘度はメープルシロップほど、熟れた果物のような芳香がする。

 

香りはヒート臭と呼ばれ、アルファのみが嗅ぎ分けることができる(稀に感覚の鋭いベータが反応することもある)

 

風味については...アルファのみが知っている味(オメガと関係を持つことができたベータも味わうことができるが)

 

これがチャンミンの下着を濡らしていたものの正体だ。

 

変属した際に配布されたガイドブックには記載されていたが、実際に目にするのは初めてだった。

 

オメガの果汁は男性器を受け入れやすくする潤滑剤として、受精率を上げるためにオメガの直腸内のphを最適に保つ役割を果たしている。

 

果汁が放つ魅惑的な芳香はアルファを引き寄せ、彼らの理性を飛ばし、性的衝動性を刺激する。

 

確実に子を孕むため。

 

発情期が訪れたことにより、チャンミンはオメガの果汁を垂れ流すこととなった。

(性的に『感じる』と、同様の粘液が洪水のように溢れ出ること(オメガの洪水)を、後日知ることになる)

 

(僕...発情してるの...?)

 

「チャンミン、お前の身体は変じゃない。

でもな、オメガの身体になったことを受け入れなければならない」

 

ユノはチャンミンの頭を撫ぜると、その手を肩に落として引き寄せた。

 

チャンミンの頭はユノの肩にこてん、とおさまった。

 

「熱が出てきたな」

 

チャンミンのこめかみの熱が、ユノのシャツを通してじんじんと伝わってくる。

 

発情期中の身体の変化は様々なところで現れ、そのひとつが体温の上昇だ(今後、順に紹介してゆく)

 

「どう?

気分は?」

 

(手引書によると...)

 

「ムラムラとか...する?」

 

「ムラムラ?」

 

この時のチャンミンは、全身が熱っぽいこととお尻が濡れる不快感だけだった。

 

「発情期...ヒート...。

ヤりたくて仕方がなくなる、ってやつね」

 

「うん。

どう?」

 

ユノは自身の肩に頭をもたせかけたチャンミンを窺った。

 

発情期だろうがなかろうが、ユノは常にチャンミンとヤリたくて仕方がなかった。

 

特にアルファになってから、確実に性欲が増していたユノだった(その具体例は後に延べてゆく)

 

チャンミンを押し倒して、あれやこれやするHな妄想で頭の中はいっぱいだったが、チャンミンを守ると決めたからには、ベータだった頃と同じような付き合い方はできないのだ。

 

(アルファとオメガの性交は、イコール妊娠と言ってもいい。

慎重にならないと)

 

「ムラムラかぁ...。

ん~...これと言ってないんだよ。

お尻は気持ち悪いし、だるいし...。

でも...」

 

チャンミンは目をつむり、自身の身体をスキャンした。

 

「強いて言えば、お股のあたりが変な感じがする」

 

「どんな感じ?」

 

「ムズムズ、じんじんする」

 

「触ってみたら?」

 

チャンミンのお尻の辺りを見ようと身をかがめたため、チャンミンはユノの頭を押しのけた。

 

「だ~め。

触ったらいけない気がする」

 

チャンミンは立ち上がると、座ったままのユノへ手を差し伸ばした。

 

「僕の発情も始まったことだし、センターについてきて」

 

ユノはチャンミンに手を引っ張られ、立ち上がった。

 

「そうだな。

今から行こうか?」

 

チャンミンは、初めての発情を迎えた時になったら、センターへ報告を兼ねて診察を受けるよう指示されていた。

 

新たな抑制剤に切り替える必要があるからだ。

 

ユノとチャンミンは、アルファとオメガ専門の医療センターで抑制剤の処方を受けている。

 

「発情っていうから、もっと凄いかと思ったけど、大したことないね。

外にも出られないって言ってるけど、全然平気じゃん」

 

チャンミンはユノと腕を組んだ。

 

「う~ん...そう決めつけるのは早計じゃないか?

ちゃんと診てもらって、これからのアドバイスを受けようか。

多分、これまで通りにはいかないと思う」

 

発情期のオメガは身辺に気をつけないといけないと、変属性した時に注意を受けたし、手引書にも赤文字で記載されている。

 

(アルファの俺がどうやってチャンミンを守れるか、そのノウハウも教えてもらおう)

 

「そうかもしれないね。

でも、今は何ともないと言ってもいいくらい」

 

2人は教室に戻ることなく、そのまま学校を後にしたのだった。

 

言い訳は後から考えればいい。

 

変属性してからのユノは、言い訳と嘘の達人になった。

 

周囲がベータだけとはいえ、発情しているオメガを、適切な抑制剤無しで教室に戻すのは不安だ。

 

センターとはどのような施設なのかの説明はおいおいする。

 

 

この日、アルファであるユノが発情期を迎えたチャンミンを前にして、どうやって冷静でいられたのだろう?

 

疑問に思われた方が多いであろう。

 

ユノのアルファ性がまだ未成熟だったためだ。

 

この後、チャンミンのヒート臭を嗅ぎ続けたことで、ユノのアルファ性が目覚める。

 

(つづく)

 

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(10)俺の彼氏はオメガ君

 

 

<初めての発情期の巻>

 

ここオメガバースの世界では人類と科学技術の発展にアルファ属の存在は欠かせなかった。

 

アルファ属の優れた知性と探求心、どん欲さがあったからこそ、今の社会がある。

 

社会発展と共に深刻さを増していったのが人口減少だ。

 

原因は、性欲と結婚の重要度の低下による生涯未婚率が高まったとか、環境ホルモンなどの影響で生殖能力も低下したとか云云かんぬん、仮説に過ぎないものも含めると、これがそうだとは一言では説明しきれない。

 

人口減少に歯止めをかけるために、アルファとオメガという旺盛な性欲と驚異的な生殖能力を持ち得た属性を生み出したのだが...。

 

ここ20年の統計によると、アルファ属の出生比が下がりつつあるらしい。

 

アルファ属は近代社会の維持と発展に必要不可欠な存在であるから、アルファ属の出生比の減少は、大袈裟に言ってしまえば人類滅亡の道へ逆戻りしてしまう、ということだ。

 

ここで再び、オメガ属の出番となった。

 

人口減少に歯止めをかけるために、妊娠出産に特化した属性として生み出されたオメガ属。

 

今度は、アルファ属減少に歯止めをかけるために必要不可欠な存在となったのだ。

 

...近年のアルファの子のほとんどが、男女を問わずオメガが妊娠出産した子である、という現実。

 

オメガが関わらないとアルファが誕生する可能性が著しく低い、という事実。(この組み合わせ例の一覧は、次話で紹介する)

 

言い換えると、人類滅亡を救うのはアルファ属の存在だが、そのアルファ属を生み出すためにはオメガ属の存在が不可欠だ、ということ。

 

結果、手の平を返したかのように、オメガ属の保全に社会は本格的に乗り出し始めた。

(悲しいことに、人々の意識はそう簡単には変わることなく、オメガ属とは性欲と生殖の為だけに生存している属種だと蔑み、冷遇する風潮は依然としてあるのが現実だ)

 

希少だったオメガの希少性がさらに高まったことが、チャンミンがオメガである事実を隠さなければならない理由のひとつでもあるのだ。

 

オメガだと知られた途端、拉致られる可能性がある。

 

発情中のオメガを外に連れ出すこととは、どれほどの危険行為なのか。

 

重々承知しているが、チャンミンを一人で独身社員寮に残すことの危険と、帰省旅行にチャンミンを同行させる危険とを、ユノは天秤にかけた。

 

(アルファである俺が全力で守り抜けばよい)

 

結果ユノは、時価数百億の宝石、又はたった1滴でビル1棟爆発させられる爆薬の小瓶がおさめられたアタッシェケースを持ったスパイになりきる必要があった(大袈裟)

 

 

チャンミンに初めて発情期が現れた日を振り返ってみよう。

 

それは初潮からしばらく経った頃、何の前触れなくそれは訪れた。

 

よりによって、授業中のことだった。

 

「チャンミン、この問いに答えよ」

 

「はい」

 

教師に指名されたチャンミンは、設問に答えようと起立した。

 

(!!!)

 

その直後、何かが『下りる』感覚に襲われた。

 

(おもらし!?)

と、血の気が下がったが、すぐにそうではないことが分かった。

 

(これはおもらしじゃない。

それとは違う...とろっとしたものが、重力に伴い下りた感じ...)

 

その『とろっとしたもの』は、どうやらお尻から溢れ出たようだった。

 

(おかしいな。

生理は2週間前に終わったばかりだ)

 

身動きしたら、その『とろっとしたもの』がもっと出てきそうで、既に内腿を濡らし始めている。

 

(どうしよう...)

 

「......」

 

無言のままもじもじと、突っ立ったままのチャンミンに、教師も周囲の生徒たちが不審に思い始めたようだ。

 

「チャンミン君?

答えられないのか?」

 

「...はい」

 

この教師は意地悪と悪評高く、「分かりません」と白旗をあげてもそう易々と解放してくれやしない。

 

「つい今まで説明していたところだぞ?

お前、ノート取っていただろ?

なんだ、文字が読めないのか?」

 

「......」

 

お尻に力を入れていないと漏れそうで、チャンミンは身動ぎひとつ出来ず、教師の設問に答えるどころじゃないのだ。

 

ユノの席はチャンミンの真後ろだった。

 

「おい、大丈夫か?」

 

ユノは小声で声をかけると、モノサシでチャンミンのお尻の辺りを突いた。

 

いつものチャンミンなら、モノサシで突かれただけで敏感に反応し悲鳴をあげるはずなのに、今日のチャンミンはびくともしない。

 

(ん?)

 

お尻にカッチカチに力が入っているのだ...まるで、お尻の穴を引き締めているかのように...。

 

真ん前にあるチャンミンのお尻を目にして、ユノは心の中で叫んでいた。

 

(チャンミン!!!)

 

チャンミンのスラックスの後ろがじわじわと、濡れ始めていることに気づいたのだ。

 

(生理か!?

漏れたんだ!)

 

「チャンミン君。

私の質問に答えなさい!」と、しつこい教師。

 

「はいっ...えーっと、えーっと...」

 

チャンミンはしどろもどろになるだけで、「トイレに行かせてください」のひと言が言い出せない。

 

ユノは「チャンミンをトイレに連れていかねば」と腰を浮かしかけた。

 

(チャンミンをトイレへ引きずっていきたいが、俺が付き添うのは不自然過ぎる...)

 

ユノの頭上の電球がピカっと光った。

 

(チャンミン、悪いな)

 

ユノは片足を目一杯前方に伸ばした。

 

そして、チャンミンの膝裏を突いた。

 

『膝かっくん』だ。

 

「!!!」

 

チャンミンは、がくんと膝から崩れ落ちた。

 

ガタガタっと椅子が倒れ、机も前方に大きくずれた。

 

チャンミンはかろうじて机にしがみついている。

 

「チャンミン!」

 

ユノは勢いよく席を立ち、ずっこけたチャンミンの側にひざまづいた。

 

「これは...いけない...。

先生!」

 

ユノは鬼気迫る、迫真の演技を始めた。

 

「チャンミンが大変なことになっています!

俺、保健室に連れていきます」

 

と宣言すると、チャンミンを抱きあげた。

(ユノの強圧的な態度と気迫のこもった視線に、教師の身体はすくんでしまっている)

 

「きゃあぁ!」と女子たちが悲鳴をあげる。

 

「ユノ!」

 

ユノの突然の行動にチャンミンは目を剥いて、ユノの腕から逃れようと両脚をバタつかせた。

 

「黙っとけ。

お前のアソコが大変なことになってる」

 

ユノに囁かれチャンミンはしゅん、と大人しくなった。

 

(彼の言う通り、立った姿勢だと濡れたお尻がバレバレだ)

 

軽々とチャンミンを抱いたユノの姿に、教師は扉を開けてやった。

 

教師はユノの気迫に圧倒されるあまり、教師の立場上2人に同行すべきであることを失念してしまっていた。

 

皆はユノの勇姿に釘付けだ。

 

女子たちはピンク色のため息を漏らし、男子たちはユノが素晴らしすぎて嫉妬すら起こらない。

 

怪我をしたのか過呼吸なのか貧血で倒れたのかよく分からないチャンミンのことなど、誰も見ていなかったのが幸いだった。

 

グレー色のスラックスのお尻部分は、謎の液体で濡れたことで濃いグレーに染まり、その範囲がかなり広がっていたからだ。

 

教師の「よろしく頼む」の見送りを背に、ユノの足はチャンミンを抱いて保健室...ではなくある場所へと向かっていた。

(オメガに変属したチャンミンは華奢な体型になった為、体重は軽めだ。

アルファに変属したユノはその逆で、筋肉の厚みもパワーも俊敏さも増していた)

 

「ユノ!

僕、歩けるよ!」

 

「いいのか?

下ろしたら、尻から出ちまうぞ?」

 

「......」

 

ユノは旧館の空き教室が並ぶ最上階まで移動すると、利用者がほとんどいないトイレでようやくチャンミンを床に下ろした。

(人口減少の影響で、空き教室が増えている)

 

「着替えようか」

 

ユノは一番奥の個室の扉を開けた。

 

そこは掃除道具入れになっている。

 

トイレットペーパーの段ボール箱の中から紙袋を取り出した。

 

紙袋の中には替えのスラックスと下着、ウェットティッシュ、ナプキンの予備が入っている。

 

生理の周期が乱れた時も慌てないよう、必要品を掃除道具入れに備えていたのだ。

 

「着替えてこいよ」

 

「うん」

 

ユノは個室のドアを開け、チャンミンの背を押した。

 

ドアが閉まる。

 

ユノは個室の外で待つことにした。

 

衣擦れの音。

 

「あ゛ぁぁーーーーー!!」

 

「どうした!」

 

チャンミンの悲鳴に、ユノは個室の扉をこぶしで叩いた。

 

「何なのさ、何なのさ~!」

 

「鍵を開けろ!」

 

「何なの~!

ヤダ、ヤダよ~~~!」

 

パニクるチャンミンは、扉の鍵を開けるどころじゃないらしい。

 

ユノは扉に飛びつき、その上から個室の中を覗き込んだ。

 

チャンミンは半べそ顔で、ユノを見上げていた。

 

「ユノぉ...。

僕の身体、また変になっちゃったぁ...」

 

そこでユノが目にしたものとは...。

 

 

(つづく)

 

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(9)俺の彼氏はオメガ君

 

<抑制剤はどんな味?の巻>

 

この世に抑制剤が存在するのは、オメガ属に発情期があるからだ。

 

前述したように、オメガ属は子を孕むために、反対にアルファ属は、オメガ属を孕ませるために誕生した。

 

本来、人類とは年中発情している生き物だが、生殖の為に生み出された哀しき生き物...特にオメガ属にはヒートと呼ばれる発情期間が現れる。

 

年に数回現れ、発情状態が数日間続く。

 

周期や期間はオメガによって差があるが、年に4回おとずれ5.6日間続くというのが平均値だ。(チャンミンは平均的な周期)

 

生殖行動の成功率を高めるために、発情していることをアルファに知らせるため特有のフェロモン(ヒート・フェロモン)を分泌させる。

 

ヒートフェロモンの独特の芳香はヒート臭と呼ばれている。

 

どのような香りかというと、多くのアルファたちは、『熟れすぎた桃のような甘い香り』と表現している。

 

ヒートフェロモンの影響を最も受けるのがアルファ属だ。

 

オメガのヒートフェロモンを浴びたアルファたちは、皆口を揃えて言う。

 

『目の前のオメガを犯したい。

種を植え付けたい。

ただそれだけだ』と、アルファたちは口を揃えてそう言う。

 

ヒートフェロモンは媚薬なんて生易しい表現じゃ物足りない、まさしく人生を狂わせる麻薬である。

 

ヒート期のオメガは半径30メートル以内にいるアルファを、わらわらと引き寄せ、彼らの理性を崩壊させる。

 

『人間辞めました...それくらいの衝動性です。

 

まるで、全身が生殖器になったかのような』と、アルファたちは説明する。

 

とにかく妊娠しさえすればいいのだから、オメガ属の肉体はアルファならば誰でもいいと言っている。

 

それでは、オメガ自身の精神は?

 

感情は?

 

人格は?

 

オメガ属の人生とは、このヒートに振り回され、アルファに犯される恐怖に怯えるだけで終えるのか?

 

アルファ属についても、オメガのヒートフェロモンに惑わされ、場合によっては、人間関係の崩壊、仕事の生産性の観点から重要なポストから外されることもある。

 

社会はアルファ属の先導によって成り立っていると言っても過言ではないため、それは困る。

 

ヒート中のオメガのフェロモンのコントロールが重要課題で、やはり、アルファ優先の社会であることは変わりない。

 

オメガ属のヒートから双方が開放される方法はあるが、アルファとオメガ双方の人生を決定づける一生に一度の決断だ(これについては後述する)

 

易々と用いられる方法ではないため、現実的ではない。

 

その代わり、ヒートの影響を『受けにくく』するために、アルファ属とオメガ属双方が日常的に取り入れている対策が、『抑制剤』の服用だ。

 

(前置きが長くなってしまった)

 

 

翌朝、ユノとチャンミンは故郷に向けて出発した。

 

昨夜の宴会で寮の者たちが眠りこけているうちにと、5時には社員寮を出た。

 

ユノは、大量の荷物をレンタカーに積み込み、フラフラなチャンミンに肩を貸して車に乗せる。

 

「ありがと...ゆの」

 

チャンミンの額には玉の汗が浮かび、口は半開きになっている。

 

眼は泣きはらした翌日のように充血していて、37.5℃まで体温が上がっていた。

 

 

日づけが変わる頃、チャンミンのヒートが始まったのだ。

 

幸いなことに、昨夜の宴会メンバーにアルファは混じっていなかったようだ。

 

ユノとチャンミンの部屋のドアは目張りしてあるが、開閉の際にどうしてもヒート臭が漏れてしまう。

 

鼻の効くアルファだ、漏れ出たわずかなヒート臭を嗅ぎつけ、チャンミンを襲わんとドアをたたき壊しにかかるかもしれない。

 

(俺は身を挺してチャンミンを守り抜く)

 

野球バッドを片手に、寝ずの番をするユノの傍らで、チャンミンはスヤスヤと愛らしい寝顔で...ではなく、悶え苦しんでいた。

 

「ゆ、ゆのぉ...」

 

ベッドの下のユノに、チャンミンの手が差し伸ばされた。

 

「チャンミン...辛いか?」

 

ユノはその手の甲にキス...は出来ないから、代わりに撫ぜてやった。

 

軍用ガスマスクを装着しているからだ。

(以前も説明した通り、ユノは抑制剤の服用のし過ぎの副作用としてヒート臭に過敏に反応してしまう。嘔吐や眩暈等、その症状は重い)

 

「うん...うずいて疼いて...くるちぃ...」

 

「そうか、辛いかぁ」

 

チャンミンはこの時、どのような状態になっているのか?

 

発情期という名の通り、繁殖したくてたまらないのだ。

 

セックスしたくてたまらないのだ。

 

アルファに種付けされたくて仕方がないのだ。

 

男性のオメガ属は子宮を有するが、膣口はないから、お尻が『濡れる』

 

どうせパジャマを濡らしてしまうからと、バスタオルを敷いた上で下着を身に付けただけの恰好で横になっている。

 

オメガになって以来、チャンミンの肉体は中性的に変化していた。

 

体毛は薄くなり、筋肉量が落ちた代わりに、全身薄い脂肪をまとっている。

 

薄い胸にピンク色の胸先、細い首と腰...。

 

男性でもない女性でもない、清純そうなのにアルファを誘う艶めかしさがある。

 

幼児体型というのでもない(ユノにはショタの趣味は一切ない)

 

ユノの目には、すべてがたまらなく魅力的に映っていた。

 

「ゆのは...薬飲んだ?

シンドイでしょ?」

 

「俺は...平気さ」と強がりを言ってみたが、実際は相当、辛かった。

 

(さっき飲んだばかりだから、次は早くて5時間後か...。

吐きそうだ...。

チャンミンが可愛くて仕方がないし、キスの一つくらいしたい)

 

ユノが服用している抑制剤はアルファ専用のもので、時と場合に応じて幾種類もあった。

 

日常的なものは性欲を減退させ、不特定多数のオメガのヒート臭に反応しづらくするためのもので、注射タイプだ。

 

やむを得ずヒート中のオメガと接近しなければならない時用の錠剤。

 

まさに襲いかからんと理性が吹き飛ぶ寸前の時に、緊急抑制用に鼻腔にスプレーするタイプ。

 

チャンミンがヒート中、ユノは日常的な注射に、今挙げた2番目の錠剤をプラスする。

 

飲みやすくするため、ストロベリー風味だ。

 

身体への負担が大きく、アルファの身体能力が3割減退する。

 

2番目の抑制剤を服用するのをアルファたちは敬遠しがちだ。

 

なぜなら...。

 

ヒートを迎えたチャンミンを前にして、彼を襲わずに済んでいたのも、この抑制剤のおかげなのだ。

 

襲おうにも、肝心なアソコがうな垂れている。

 

欲情は存在するのに、肉体が拒否をしている...これは非常に辛い。

 

「ゆのぉ...辛いよね。

あっちの部屋に行っていいよ。

僕ひとりで平気だよ」

 

「いや。

チャンミンをひとりに出来ない。

俺は平気だから」

 

気丈に言うチャンミンに、ユノは胸が張り裂けそうだった。

 

(ユノに抱かれたい。

僕を心から愛してくれるユノに抱かれたい。

...でも、それは今じゃない)

 

チャンミンは目をつむった。

 

(ユノに抱かれたい。

ユノにかき回されたい。

擦って欲しい。

辛い、辛いよぉ)

 

疼きは耐えられそうになかった。

 

お尻から湧き出るもので、バスタオルはぐしょぐしょに濡れているのがよく分かる。

 

この様子じゃ、シーツまで沁みてしまっているだろう。

 

(ユノが居るから我慢してたけど...。

少しだけなら)

 

チャンミンの指がそろりと、下半身へと落とされた。

 

その指は、オメガの洪水の源流に指を突き立てることなく、ごくりと飲み込まれた。

 

入口内部は、中へ中へと侵入物を送り込むよう、収縮している。

 

一度飲み込むと、今度は侵入物を出すまいと、窒息させんばかりに締め付けた。

 

「...んっふ」

 

指を1本、また1本と、4本まで増やしていった。

 

とろとろに熟れて熱い腸壁を、かき回した。

 

「いっ...いい...ユノっ...いいっ...」

 

すぐ側にユノがいるのに、止められない指と我慢できない喘ぎ声。

 

ユノを想って慰めた。

 

(僕は獣だ)

 

チャンミンは悔しかった。

 

性欲に支配されてしまう自分を恥じた。

 

自分の存在が、エリートの道を歩めるはずだったユノの人生を邪魔している。

 

(僕はユノを束縛している...!)

 

ヒート期のオメガは、喜怒哀楽が激しくなり、チャンミンの場合はネガティブな方向に傾きがちだった。

 

(大人しく施設に行ってしまえばよかったんだ...!)

 

「チャンミン」

 

ユノの声で、チャンミンは現実に引き戻された。

 

「おかしなことを考えていただろう?」

 

「......」

 

「俺はお前と居ることが、俺の人生だし、最高の幸せなんだ。

俺から離れることは許さないぞ?」

 

「......」

 

「チャンミンは俺と離れたいの?」

 

チャンミンはぶんぶんと首を振った。

 

「俺から離れないでね。

分かった?」

 

「うん」

 

「俺が擦ってやろうか?」

 

ユノは立ち上がり、ベッドに腰掛けた。

 

「ううん、いい。

もっと欲しくなるから。

今回のヒートは軽めだから...自分ので我慢できる」

 

 

朝まで悶々と耐えたユノ。

 

追加の抑制剤を水なしで飲み込むと、出発の準備に取り掛かった。

 

「チャンミン...行くぞ?」

 

布団にもぐり込んでいたチャンミンは、もぞもぞと這い出てきた。

 

ふわっとヒート臭があたりに漂った。

 

「うっぷ...」

 

チャンミンのヒート臭は、その他のオメガのものとはいくつかの点で異なっていて、2人がベータ社会に紛れて暮らしている理由でもある。

 

ユノは運転席におさまると、シートベルトを締めた。

 

バッグミラーを調節する際、後部座席のチャンミンと目があった。

 

「さあ、出発だ」

 

チャンミンはシートを全て倒した後部座席で、毛布にくるまって横になっている。

 

フルフェイスヘルメットをかぶって運転している姿は異様で、人目をひく(どこかで警察に呼び止められるかもしれない)

 

しかし、ユノは必死で一生懸命で命がけなのだ。

 

笑ってはいけない。

 

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