【BL的風景】腐男子です②

 

 

私は高校教諭、30代独身、生物を教えている。

 

そして、腐男子である。

 

受け持ちのクラスで、非常に美味しそうな生徒2名をロックオンした。

 

すかしたちょいワル男子がユノ、真面目が取り柄のむっつりスケベ(と、私はみた)男子のチャンミンだ。

 

二人のルックスはすこぶるよくて、絵になるのだ。

 

彼らには是が非でも、くっ付いて欲しい。

 

遅刻してきたユノに、真面目なチャンミンが授業の進行を教えてやる、教科書を見せてやる。

 

見つめ合い、互いにしか分からない合図で放課後の約束をする。

 

育ち深まってゆく二人の恋を、教壇から見守るのだ。

 

どのタイミングでいたしてしまうのかな、と。

 

 

ユノとチャンミンの席は空いている。

 

今日の生物は三時限目で、朝のホームルームでは彼らは居たから遅刻は考えにくい。

 

ユノなら分かる。

 

チャンミンまで不在とは普通じゃない。

 

我がクラスの時間割を確かめると、体育とある。

 

(そういうことか...)

 

私は内心でにたり、と笑った。

 

 

 

 

 

汗だくで体操着が肌に貼りつく。

 

チャンミンのツンツンに尖った乳首が透けていて、ユノはごくりと喉を鳴らす。

 

ジャージパンツの下から押し上げるユノの平均サイズ以上の塊に、チャンミンの喉もごくりと鳴る。

 

バスケットボールの試合中、二人のチームは違う。

 

ボールを奪う、奪われる、肩がぶつかる、汗が飛び散る。

 

荒い呼吸。

 

はあはあはあはあ...。

 

ユノの強引な防御に、チャンミンは転んでしまう。

 

そのはずみで足をとられ、ユノはチャンミンの上に覆いかぶさる格好になってしまい...。

 

二人は見つめ合う...。

 

ユノの汗がチャンミンの唇に落ちる。

 

チャンミンは唇を湿らせたそれを舐める...。

 

そこは体育用具倉庫。

 

体操マットの上だ。

 

ユノはチャンミンのジャージパンツをペロン、と剥く。

 

それから自分も、腰までジャージパンツを下ろして、アレを取り出す。

 

ボロン、っと飛び出したソレのデカさに、チャンミンはドキドキする。

 

それからは...まあー、激しいものだよ。

 

若いから、技巧に走る余裕はなく、がむしゃらに身体をぶつけ合うえっちだ。

 

いいねぇ...。

 

 

がらりと戸が開き、私の腐妄想の主人公、ユノが現れた。

 

同じくダブルキャストのチャンミンがコソコソと、ユノに次いで現れた。

 

「遅い!」

 

私は教師の威厳たっぷりに、一喝した。

 

「すみません」

 

ぺこぺこと謝るのはチャンミンだけで、ユノは堂々とした態度だ。

 

(ん?)

 

二人の顔が紅潮して見えるのは気のせいではない。

 

普段、後ろに撫でつけているユノの前髪が乱れている。

 

チャンミンのネクタイも若干、ゆがんでいるような...。

 

「今日のプリントはこれだ。

ここまで取りに来なさい」

 

「はい」

 

チャンミンは私からプリントを受け取ると、席へと戻っていった。

 

(おお!)

 

チャンミンの背中のシャツがズボンからはみ出していた。

 

ビシッとした身だしなみのチャンミンらしくない。

 

よほど慌てていたのだろう。

 

それまで何をしていたのかが、これで確定した。

 

(早いな...もういたしてしまったのか。

若いなぁ)

 

私の妄想は正解だったようだ。

 

 

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【BL的風景】腐男子です①

 

 

私はBLをこよなく愛する腐男子で、尾絵留男子高等学校の教師をしている。

 

右を見ても男子、振り返っても男子、教室は男子臭でむせかえり、教壇で男子たちの視線を一斉に浴びる。

 

つまり、最高の環境に身を置いている私の腐脳がどうなっているかは、ご想像の通り。

 

ここでは私は単なる語り手に過ぎない。

 

繰り広げられた事柄は私の想像なのか現実に起こったことなのか...どちらなのかの判断はお任せする。

 

 

4月、新学期。

 

今期はどんな獲物が揃っているのか、胸を高まらせ教室のドアをガラリと開ける。

 

ざわつきがぴたり、と止んだ。

 

心の中で、「よかよか。初々しくてよろしい」とほくそ笑んだ。

 

なぜなら、教師に対して礼儀を見せていられるのも今のうちで、夏までにはぐずぐずになるのだ。

 

...そして、この中で何組のカップルができるのやら(もちろん、私の想像の中で)

 

教壇に立ち、教室内をぐるりと見回した。

 

ざっと見た感じぼちぼち、とても主役を張れそうにない問題外も何人か...。

 

「私は〇〇。

生物を教えている」と自己紹介をした。

 

まずは名前と顔を一致させようか。

 

(ターゲットになりそうな奴の目星をつけようではないか。

妄想には名前が必要だ)

 

「一人ずつ自己紹介をしてくれるか?」

 

人前で名乗る気恥ずかしさ、自己アピし甲斐のある女子はひとりもいない。

 

安心しろ、諸君。

 

男子ばかりのこの世界でも恋愛は完結することを、早いうちに知るだろう(※ただし、私の妄想の中で)

 

新学期でもあり、あからさまに不満の表情を見せる者はいない...1名を除いて。

 

「...ちっ」

 

舌打ちの出所は、廊下側、後ろから1列前の席にいた生徒だった。

 

髪を後ろに撫でつけ(中途半端な容姿の者がしたらいけないヘアスタイルだ)、ブレザーは羽織っただけ、第二ボタンまで開いたシャツ、ネクタイもぞんざいに絞められている。

 

後ろに引いた椅子に浅く腰掛け、だるくて仕方がないと訴えたいのか、背もたれにぐたりともたれかかっている。

 

椅子の高さと膝下との差から、推定身長180センチ以上、色白、古典絵巻風顔立ち、切れ長eyes。

 

ターゲットNO.1、捕獲。

 

紺のブレザー、グレーのスラックスの集団の中で、彼の周囲だけにキラキラ星が瞬いていた。

 

私は名簿に目を落とし、席順に並ぶ生徒名の中から彼の名を探し出した。

 

「君は...ユノ君?」

 

こくん、と頷くユノ氏。

 

かったるそうに見せて、素直なところがあるじゃないか、可愛い可愛い。

 

大学生じゃとうが立っている、やはり高校生じゃないと!(エロ心を実践に移し始める頃だから)

 

「ユノ君は自己紹介しなくてよろしい。

今のやりとりが自己紹介になっているから」

 

私の言葉に、ユノ氏の頬はさっと赤くなり、それを悟られまいと顔を背けた。

 

所詮君は子供だ、教壇に立って10年の私を舐めるでないぞ。

 

ユノ氏はおそらく、授業中に居眠りをし、ゲームをし、提出物は紛失するタイプだ。

 

となると、ユノ氏の前、もしくは隣の席の生徒はとばっちりを受ける羽目になるだろうな、と目を向けると。

 

ターゲットNO.2捕獲!

 

ブレザー、ネクタイにシワ・ゆがみ無し、遊び心のないヘアスタイル、背筋はしゃんと伸びている。

 

机の上には筆記具とノート(何をメモるんだ?)

 

これで眼鏡をかけていれば完璧だったのに...惜しい。

 

この生真面目君には、華麗なる生徒会長、学級委員長タイプのような華やかさはない。

 

クラスの真ん中あたりに位置する、大人しめ、そこそこの成績、校則を破るなんてもってのほか、辞書や体操着は授業がある度持ち帰るタイプだ。

 

生徒たちの自己紹介は順調に進んでゆき、生真面目君のところまで回ってきた。

 

「...チャンミンと言います。

よろしくお願いします」

 

ターゲットに値する条件はただひとつ、イケメンであること。

 

イケメン×イケメンは王道で、イケメン×イケてないも有り。

 

(厳しいようだが、イケてない×イケてないVersionは、滅多に取り扱わない)

 

チャンミン氏は合格だ。

 

隣席のユノ氏は、ぺこりと頭を下げるチャンミン氏を横目で見上げていた。

 

その目は先ほどの気だるさは無くなって、瞳色濃くハッとしたものに変化していた。

 

自己紹介を終えたチャンミン氏は、安堵の感情を共有したくてなのか隣を振り向き、肩をすくめて舌をちろりと出した。

 

今、二人の間で恋が生まれたぞ!

 

絶対にそうだ!

 

ちょい悪男子と生真面目男子...いい!

 

すごくいい!

 

 

 

 

「おい」

 

チャンミン氏の行く手は、壁に付いた片腕で阻まれた。

 

「!」

 

休み時間、生物化学室へ移動する途中のことで、腕の持ち主はユノ氏だった。

 

いわゆる壁ドンだった。

 

「ぼ、僕に構わないでください!」

 

ユノ氏の腕から逃れようとチャンミン氏は脇にずれたが、ユノ氏もその動きについてくる。

 

反対側にずれても同様。

 

「いい加減にしてください!」

 

「構うさ。

お前、俺のことずっと無視してるだろ?」

 

「だって...あんなことっ、あんなことされて、普通でいられないでしょう?」

 

新学期から一週間後、ユノ氏とした『あんなこと』を思い出し、チャンミン氏の身体は熱く火照った。

 

ユノ氏はくくくっと笑った。

 

そして、チャンミン氏の耳元で囁いた。

 

「授業...サボろうぜ?」

 

ほんのりと付けたコロンの香りがチャンミン氏の鼻を、ミントの香りの吐息が耳をくすぐった。

 

「んんっ!」

 

チャンミン氏の首筋に鳥肌だったのを、ユノ氏は見逃さなかった。

 

「サボるなんてっ...ダメです。

二人揃って姿を消していたら、変に思われます」

 

生物の教科書を胸に抱き、チャンミン氏は首をいやいやするように振った。

 

「変に思うって...?

うちの担任は俺らのサボりを歓迎してると思うけど?」

 

ユノ氏はチャンミン氏の手を取ると、トイレへと引っ張っていった。

 

「どういう...意味ですか?」

 

「さあね」

 

拒絶の言葉を繰り返しながらも、完全に拒否できないチャンミン氏だった。

 

この後に待つ、スリルと隣り合わせの快感を思うと下半身が震えるのだった。

 

 

 

ユノ氏にバレてるようだな...おかしいな。

 

新学期1週間で深い仲になってしまうのは、早過ぎだったかもしれない。

 

どっちがそっちにするか、そろそろ決めないと。

 

王道をゆくなら、イケイケな方がウケになる設定になり、チャンミン氏が攻めだ。

 

しかし私は、彼らの雰囲気を優先したい。

 

イケやんちゃなユノ氏が攻めに決定だ。

 

 

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【BL的風景】お前は俺でできている

 

 

外壁は深い青色に、窓枠は白色に塗られている。

 

チャンミンは玉砂利をざくざくいわせて、アプローチを歩く。

 

前庭は鉢植えひとつなく殺風景。

 

(木や花を植えたらいい感じになるよね。

鉢植えを持っていったら...差し出がましいかな)

 

この店に行き詰めになって数カ月も経つのに、ドアノブを握る手が震える。

 

「こんにちは」

 

木製ドアを開けると、天井も壁も床も真っ白で眩しい。

 

「坊主、今日も来たのか?」

 

カウンターの奥で笑顔で迎えたのは、20代後半長身の男性、ユノ店長だ。

 

「『坊主』って言うの、止めて下さいよ。

僕の名前は『チャンミン』です」

 

チャンミンはぷぅと頬を膨らませ、カウンター席についた。

 

「ごめんごめん」

 

ユノ店長の顔をまとも見られないチャンミンは、メニュー表を表裏とひっくり返していた。

 

そんなもの見なくても、この店のメニューなんてすべて把握しているのに、迷っているフリをする。

 

「今日は何にする?」

 

「うーんと、カフェモカ」

 

チャンミンのオーダーに、「面倒なものをオーダーするなぁ」と、ユノは顔をしかめた。

 

「店長のスキルアップの為ですよ」

 

「ふん。

年下の客にアドバイスをもらうとは」

 

「だってさ...コーヒーひとつ淹れられなくて、よくカフェを始めようと思いましたよね」

 

「ここはカフェじゃない。
喫茶店だ」
「何が違うんですか?」
「音の響きからくる、雰囲気だ。
メニューも洒落たものは出さない」
「『出さない』じゃなくて、『出せない』でしょう?」
くすくす笑うチャンミンに、ユノ店長は「その通りだね」と笑った。
カフェモカはつい先日、仲間入りしたメニューで、チャンミンからのオーダーによるものだった。
チャンミンはユノ店長の手が好きだった。
カップの取っ手に引っかけた人差し指の爪が好きだった。
コーヒー粉の缶の蓋を開ける時、手首に浮かぶ筋、カウンターを布巾で拭く時の手の甲も好きだった。
だから、1工程でも多いメニューをあえて注文するのだった。
チャンミンはカウンターに頬杖をつき、生クリームを泡立てるユノ店長の手を眺めていた。
(僕って、手フェチなのかなぁ)
飲み物が出来上がり、カウンター越しに手渡される瞬間。
チャンミンとユノ店長の手と手がぶつかる...もちろん、わざと。
そして、ドキドキ胸をときめかす。
チャンミンは体調不良やアルバイトの日を除いて、ほぼ毎日ユノの店に通い詰めていた。
(僕の気持ちは100%、バレバレだろうなぁ)
好意を露骨に表さないようセーブして、距離を詰めたり、遠のいてみたり...恋の駆け引きをチャンミンに求めることはできない。
チャンミンは恋の経験値がほぼ無いと言って等しい19歳の大学生。
過去を尋ねてものらりくらりとはぐらかすユノ店長は、チャンミンにとって高く見上げないといけない存在だった。
チャンミンがユノ店長の店を出入りするようになったきっかけはこうだった。
通学路の途中の更地に、ある日突然、プレハブ小屋が現れた。
工事現場からの払い下げのものらしく、ひどく古びていた。
(何ができるんだろう?)
真夏の太陽の下、外壁にペンキを塗る男性...ユノ店長に心惹かれてしまい、チャンミンはオープンする日まで、通りすがりに定点観測を続けていた。
個人経営の小さな店をのぞくとは、人見知りの激しいチャンミンには考えにくい行動だった。
でも、一方的に見つめていた立場からワンステップ進んで、自身の存在を知って欲しいと思うようになったのだ。
若さ故、チャンミンは欲求に正直だった。
ユノ店長はドアから顔を覗かせたチャンミンを笑顔で迎え、フランクな口調でチャンミンの緊張を解いたのだ。
「お兄さんはやせっぽちだなぁ。
サンドイッチでも食うか?
試作品だけど?」
チャンミンの身体は骨ばっていて、トレーナーの下で身体は泳ぎ、スリムパンツに包まれた脚は小鹿の様に細かった。
「いいんですか!」
ぱあっと顔を輝かせたチャンミンに、ユノ店長は目を細めた。
まぶしかったのだ。
チャンミンは店内を物珍しそうに見回していたため、気づいていなかったけど。
「お兄さんは学生?」
当時は、べニア板を貼っただけの殺風景な店内だったのが、一か月後には「女の人にウケる内装にしよう」と、彼ら二人でペンキ塗りをした。

「ねえ、店長。

僕の身体は、この店のメニューで出来てますね」

 

そう言って、チャンミンはツナサンドイッチを頬張った。

 

チャンミンのリクエストで生まれたメニューだった。

 

「そうだな」

 

「まるで...。

一緒に住んでいるみたいですね」

 

「...え?」

 

ユノ店長の一挙手一投足、あくびのひとつも見逃さず見つめてきたチャンミンだった。

 

けれどもこの直後、チャンミンはくしゃみ2連発とタイミングが悪かった。

 

ユノ店長の頬がさっと赤らんだ瞬間を見逃してしまった。

 

「風邪か?」

 

ユノ店長が放ったティッシュペーパーの箱をキャッチした。

 

「そうかも...しれません。

友だちんちに泊まった時、雑魚寝だったので」

 

「へぇ...チャンミンにも友だちがいるんだ?」

 

自身の何気ない発言が、ユノを嫉妬させるとは、チャンミンは思いいたらない。

 

「酷いですね。

僕だっていますよ」

 

「うちの店に来るよう、その友達に頼んでよ。

まだまだ客が少なくてね。

新しい客は大歓迎だよ」

 

「う~んと...」

 

チャンミンは一瞬、迷う。

 

(はっきり言っちゃってもいいのかなぁ)

 

「イヤです。

ここは紹介したくないですね」

 

「そう...だろうな。

狭いし、気のきいたものも出せないし」

 

と、揶揄したユノ店長に、チャンミンは慌てた。

 

「違います違います!

店長の店は人気が出てもらったら困るだけです」

 

「...それじゃあ、うちが潰れてしまうだろう?」

 

「僕がここに入り浸ってあげますよ。

朝も昼も夜も、ここでご飯を食べます。

その為に僕はバイトをしているんだから」

 

ユノ店長は、チャンミンの言葉に胸を打たれていた。

 

「ここは僕専用の店です」

 

「既にそんな感じだぞ?」

 

「でも...繁盛してくれないと、店長の生活が成り立たないから...。

そうだ!

僕を雇ってくださいよ。

店長と一緒にカウンターに立ちます」

 

(お客が店長を好きにならないよう、僕が見張っています...なんて、言えないなぁ)

 

「それから、バイト代は要りません。

代わりにご飯を食べさせてくださいね」

 

 

(おしまい)

 

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【BL的風景】ベビーカー

 

 

「...あ」と、声に出していた。

 

立ち止まったチャンミンの視線は、その1点に釘付けになっていた。

 

それはひとりの男の後ろ姿だった。

 

頭の形といい、うなじから肩までのラインといい...色濃く残る記憶のままだった。

 

彼は両膝に半身を預け、前のめりになり、熱心に前方の光景に見入っているようだった。

 

通りかかったここは児童公園だった。

 

小さな子供たちが、ブランコやシーソー、滑り台や砂場で遊んでいた。

 

彼らを見守る複数人の男女は、母親や父親、それとも保育士だろう。

 

そのうちの1人が乳児を抱き、2人がそれぞれ乳母車を前にしていた。

 

チャンミンは勇気を出して声をかけようか、立ち去ろうか葛藤した。

 

結局、チャンミンはベンチの男に歩み寄っていた。

 

迷うことで、勇気をかき集める時間を稼いでいただけだった。

 

「やあ、久しぶり。

覚えてますか?

元気そうですね」

 

第一声は何にしようか、チャンミンは頭の中でシミュレーションをしていた。

 

男は近づくチャンミンにまだ気付かない。

 

男の口元が微笑を浮かべていることは、後ろ姿からでも伝わってきた。

 

(ユンホさんの笑顔は沢山...沢山見てきたんだから。

僕に向けられてきた笑顔。

華やかで眩しすぎる笑顔。

随分前に、失ってしまった笑顔だ)

 

「ユ...」

 

呼びかけた名前は、途中で飲み込まざるを得なかった。

 

男が前方に向けて大声を出したからだ。

 

遊具で遊ぶ小さな子供たちの1人に、もしくは大人たちの1人に手を振っていた。

 

「そういうことか...」

 

チャンミンはつぶやいた。

 

男と別れてから7年が経過していた。

 

そういう状況になっていても当然だ。

 

チャンミンはここから立ち去ろうときびすを返した。

 

ところが、考え直す。

 

(僕には立ち去る理由はない。

僕は何も期待していないんだ。

少しだけ言葉を交わしたかっただけだ。

そうだ、期待したらダメなんだ)

 

くるりと向きを戻した時、後ろを振り向いた男と真っ直ぐ、視線がぶつかった。

 

「...あ」

 

チャンミンを前に、男は真顔になった。

 

そこに立つ長身の男と、過去に実を結ばなかった恋人の記憶と。

 

男の頭の中で現在と過去が繋がった瞬間、彼は破顔した。

 

「チャンミン!」

 

それは演技も誇張も何もない、からりと晴れた笑顔だった。

 

チャンミンの眼の奥が、重く熱くなった。

 

「...久しぶり...です」

 

とたんに恥ずかしくなったチャンミンは、一度うつむいて一息整えないといけなかった。

 

「時間はあるの?

ここに座りな」

 

男は傍らの荷物を脇にどけると、空いた座面を叩いた。

 

記憶にあるよりも全身がひと回り逞しくなっており、目尻にシワが加わっていた。

 

髪を染め、流行の服を着て、鋭く尖った眼差しが、柔和で落ち着いたものに変わっていた。

 

肘までたくし上げたトレーナーはチョコレートか何かで汚れ、淡色のデニムパンツの太ももの部分は水で濡れていた。

 

チャンミンは男の泥だらけのスニーカーと、自身の革靴を見比べた。

 

(何を話そうかな)

 

乾いた地面に水遊びの名残りの水たまりができており、ベンチの足元にカラフルな何かが落ちていた。

 

(何だろう?)

 

拾い上げるとそれは小さなカーディガンだった。

 

「ありがと」

 

男はチャンミンからそれを受け取ると、手早く畳んで傍らのバッグに納めた。

 

男の節だった大きな手に、その衣服はあまりに小さく可愛らしかった。

 

(かつてその指に、どれだけ愛撫されただろう...)

 

チャンミンは、みだらな記憶を呼び起こした自分を恥ずかしく思った。

 

水筒、菓子の袋、タオル、ウェットティッシュなど、何でも出てきそうな大きなトートバッグだった。

 

男はころころと遊び転がる子供たちを、目を細めて見つめている。

 

人生が充実している証拠なのだろう。

 

7年ぶりに会ったのに、隣にいてほっとくつろげる空気をまとっていた。

 

(よかった。

幸せそうで、本当によかった)

 

以前のチャンミンだったら、比較してみては卑屈になっていた。

 

7年の年を重ね、自信と余裕を得たことで、隣の男の良さをあらためて、しみじみと思い出すことができた。

 

「チャンミンは、元気だった?」

 

「はい。

とても...元気でした。

今も元気です」

 

チャンミンは砂場で遊ぶ2人の子供を眺めたまま答えた。

 

滑り台の側に立つ、ベビーカーの2人の女性の方は見られずにいた。

 

男に向けた横顔がじんじんと熱かった。

 

(今、振り向いたらダメだ。

今、ユンホさんと目を合わせたら、止められなくなる)

 

心の奥底に、ぎゅっと圧縮していたものが、水を得て膨らんできそうだった。

 

(どちらかがどちらを見損なって別れたんじゃない。

物理的、時間的距離が、僕らを別れさせたのだ)

 

「ユンホさんは...元気でしたか?」

 

「ああ、元気だったよ」

 

「よかったです」

 

「チャンミン...」

 

男がチャンミンの名前を、あらたまった風に呼んだ時、チャンミンは勢いよく立ち上がった。

 

チャンミンにとって都合が悪いことを、男の方から説明されたくなかったからだ。

 

児童公園、ベビーカー、小さな子供服、チョコレートの染み。

 

「そろそろ、行かないと!」

 

会話を打ち切ったチャンミンに、男ははっとして背筋を伸ばした。

 

「仕事中だったんだね。

引き留めてゴメン」

 

スーツ姿のチャンミンの全身を眺めると、男は微笑んだ。

 

「相変わらずいい男だね」

 

「ユンホさんの方こそ、相変わらずいい男です」

 

そう言うと、男は目を伏せて照れ笑いした。

 

チャンミンは迷った。

 

(もしかしたら、会えるのは最後かもしれない)

 

チャンミンはこの地にたまたま出張で訪れていただけで、来月には勤め先に辞表を出すつもりでいた。

 

「ホントにもう行っちゃうの?」

 

「えっと...ユンホさんの家族は...?」

 

チャンミンと男の質問は同時で、男は身振りでチャンミンに先を譲った。

 

「ユンホさんの家族...」

 

チャンミンは賑やかな辺りを視線で示した。

 

「僕はまだ独り身で...ははは。

仕事が忙しくて...。

でも、ユンホさんは幸せそうで、僕は嬉しいです」

 

チャンミンは視線を、男の傍らのバッグに移し、最後に前方に戻した。

 

男の視線もチャンミンに倣って動き、チャンミンが何を指しているのか合点がいったようだった。

 

「ああ...そういうことね...」

 

チャンミンの手首は、男の手に捉えられた。

 

「ユンホさ...!?」

 

「ねえ、チャンミン。

さっきからずっと、俺の方を見てくれない」

 

チャンミンはゆっくり振り返った。

 

「...え?

そうでしたか?」

 

「そうだよ~。

俺のこと...怖い?」

 

「怖くないですけど...」

 

(まともに見つめてしまったら、再燃してしまいそうなんだ。

ユンホさんはどうってことなくても、僕は...ダメなんだ)

 

遊具の方から子供たちが男の名前を呼んでいた。

 

その様子に、男は血相を変えて立ち上がり、トートバッグの中をかき回した。

 

うずくまったひとりが大きな声で泣いていて、その場にいた若い男性がその子を抱きあげていた。

 

「チャンミン、待ってて。

そこを動くなよ。

帰ったら、怒るぞ」

 

男はあっけにとられて立ち尽くすチャンミンに念を押すと、ポーチを持って泣いた子供の方へと駆けていった。

 

「...ユンホ...先生?」

 

ベンチまで戻ってきた男は、トートバッグを肩にかけた。

 

「悪い。

俺の方こそ行かなくちゃならなくなった。

怪我した子がいて...。

もっと話していたかったんだけど...」

 

「...そんな...」

 

帰りの列車まで2時間あった。

 

男とチャンミンはしばし、見つめ合った。

 

男は後ろポケットを探っていたが、「そうだった...」と舌打ちした。

 

チャンミンは革バッグから商談ノートを取り出した。

 

6人の子供と、若い男女が男を待っているようだった。

 

ナンバーを書きつけたページを破り、男に手渡した。

 

「これっ、これです」

 

同時にチャンミンも、男から何かを押しつけられた。

 

「ぷっ...」

 

手の甲に貼られたものに、チャンミンは吹き出した。

 

男はチャンミンから手渡された紙を丁寧に四つ折りにし、デニムパンツの後ろポケットに入れた。

 

「連絡するよ」

 

「ユンホせんせ~い」と呼ぶ声に、男は「今、行くよ~」と答えた。

 

「ユンホさん!

電話しますから!

絶対に!」

 

立ち去りかけた男は、足を止めてチャンミンを振り返った。

 

「絶対ですよ!

今日はずっと待ってますから!」

 

男は親指を立てて見せ、一行に合流していった。

 

彼らを見送りながら、チャンミンは手の甲を撫ぜた。

 

ウサギのシールには油性ペンでナンバーが書かれていた。

 

指定券は無駄になりそうだった。

 

賑やかな一行が帰った後の児童公園には、ベビーカーをゆする女性が2組残った。

 

 

(おしまい)

 

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【BL的風景】サラリーマン

 

~ユノ~

 

眼を覚ますと、俺は俺と目が合わせていた。

 

最初の十数秒は、それが自分自身だと認識できなくて放心していた。

 

手を持ち上げて頬を触ってみると、真上の男も同じ行動をする。

 

目覚めて1分後、感覚と意識と思考の3つがようやく縒り合された。

 

(...鏡...か?)

 

「!!」

 

勢いよく起き上がった。

 

直後、耳元で銅鑼が打ち鳴らされたかのように、頭がぐあぁんと痛んだ。

 

「...っく」

 

頭を押さえてうずくまった時、むき出しの手足に気が付いた。

 

「!!」

 

俺は全裸だった。

 

(なぜ!?)

 

周囲を見回した。

 

(その前に...ここは...どこだ!?)

 

俺はベッドにいる...天使が踊る柄の壁紙、正面に巨大テレビ、複雑な造りの椅子...天井と壁の境目をぐるりと取り囲んだネオン管の灯りのおかげで、室内のアイテムをカウントできたのだ。

 

そして、天井...ベッド上...は、鏡ばりになっている。

 

(ここは...いわゆる...?)

 

俺は今、その手のホテルの一室にいるらしい...でも、なぜ!?

 

俺は記憶を辿る。

 

(この頭の痛さは二日酔いだ...昨日は...忘年会で...そうか、そりゃあ二日酔いになるよな。

終電を逃して、タクシー使うより、近くのホテルで泊まることに...ん?

なぜ、ラブホテルに!?

...ラブホテルということは...!)

 

俺は今になって、デカいベッドの反対端に誰かが寝ていることに気づいたのだ。

 

短髪頭、シーツからガッチリした肩...広い背中...裸の背中...裸?

 

(お、お...男!?)

 

さ~っと、血の気が引く音が聞えたかもしれない。

 

ばばっと股間を確認する。

 

そろそろと萎れた俺自身に触れて確認してみる。

 

ぬるり、とした感触。

 

「!!!!」

 

(...使用済みだ)

 

向こうを向いて眠る人物ににじりより、覗き込む。

 

(チャ、チャ、チャンミン君!?)

 

驚きのあまり飛び退いてしまった。

 

チャンミン君。

 

赴任先の支店スタッフ。

 

年齢と立場は俺の方が少し上。

 

業務上の会話しかかわしたことがなく、忘年会の席で初めて、プライベートの話をぽつりぽつりとしたような...。

 

(チャンミン君と俺は今、ラブホテルにいる...!)

 

もうひとつ確認してみたいことがあった俺は、再度にじり寄る。

 

シーツをそぉっとめくってみる。

 

(は、裸の尻...!?)

 

以上のことから導き出される答えはただ一つ。

 

俺は男と...チャンミン君とヤッたかもしれない!

 

「う~ん」

 

俺は頭痛以外の理由で頭を抱えてしまった。

 

目をつむって唸っているうち、おぼろげながら思い出してきた。

 

俺はチャンミン君と...『した』

 

あの時の感触、覚えているぞ。

 

...すげぇ気持ちよかった...かも、しれない!

 

 

遡って数時間前。

 

忘年会の三次会は、参加者わずか3名。

 

そのうちの1人の年長者は酔いつぶれてテーブルに伏せっており、残りの若い2人は、上司を残して帰るに帰れない状況だった。

 

上司の妻が運転する車が到着した時、2人は顔を見合わせて心の底からの安堵のため息をついたのだ。

 

若い2人はユノとチャンミンと言い、ユノは先月赴任してきたばかりの30歳で、チャンミンは2歳年下の28歳だった。

 

ユノには気になることがあった。

 

アルコールが入っていたせいなのか、チャンミンの自分を見る目が『普通じゃない』と感じていた。

 

(こいつ...もしかして...?)

 

「この手」の視線を浴びるのは実は初めてではなかったのだ。

 

(あの絡みつく視線。

さりげなく...でも、それと分かるように、頻繁に触れてくる)

 

なぜ彼らの好奇をくすぐってしまうのか、ユノ自身は全く気付いていないようだった。

 

ひと言で言い切ると、ユノという男はいい男だった。

 

女性うけする「ハンサム」というより「美男子」...男の美の本質を求める者たちにうけそうな空気を漂わせていた。

 

完璧なルックスの持ち主なのに、どこか隙だらけ...そんな点も、彼らの欲をくすぐったのであった。

 

ユノはノンケ...彼女いない歴3年。

 

(まさかな...。

俺自身が欲求不満だからって、チャンミン君が俺を狙ってるなんて...思い込みがイタすぎるな)

 

チャンミンにしてみても、ユノと同レベルの、ユノとはタイプは違うが『いい男』だった。

 

ユノと違うのは、チャンミンの恋愛対象は男だ...つまり、ゲイ。

 

ユノは割り勘分を支払おうとするチャンミンを制し、「じゃあな」と手を上げその場を立ち去ろうとした。

 

「あれ、どこに行くんですか?」

 

駅とは反対方向へ歩き出すユノを、チャンミンは追いかけた。

 

チャンミンはユノと離れがたかったのだ。

 

チャンミンはユノの存在が気になっていて、3次会まで粘ったのもユノと一緒にいたかったからだ。

 

一目惚れだった。

 

支店に赴任してきたユノと関わり合いを持ちたくて、今夜の忘年会は待ちに待った機会だったのだ。

 

(ユンホさんと仲良くなりたい)

 

チャンミンという男、温厚な大型犬のような眼をしているのに、気性は猪突猛進タイプだった。

 

距離を少しずつ縮めていく王道の方法など、生温くじれったかった。

 

(アルコールを言い訳に使わせてもらいます)

 

酒の強いチャンミン。

 

赤い顔をしている見た目ほど、酔っぱらっていない。

 

「酔い覚ましに歩いて帰るよ。

チャンミン君は?

ギリギリ終電に間に合うぞ?」

 

腕時計を見ようと、上げたユノの腕はチャンミンにがしっと掴まれた。

 

「!?」

 

突然のことで目をむくユノに構わず、チャンミンはユノにしなだれかかった。

 

「ユンホさん。

ホテルに行きませんか?」

 

(ああ、やっぱり)

 

ユノは観念した。

 

なぜならユノは、酒が強いフリがもう限界だった。

 

キャパを越えた酒量に、実際のところ意識は朦朧、足元もおぼつかなかったのだ。

 

「ユンホさん、フラフラじゃないですか。

ホテルで休みましょう」

 

チャンミンは幸せ気分でいっぱいだった。

 

(いきなり襲っちゃいますけど、許してくださいね)

 

 

部屋に入るなりチャンミンは、ベッドに寝かしたユノにまたがった。

 

ユノのジャケットを脱がせ、スラックスのベルトを外し、ファスナーを下ろした。

 

(ユンホさん。

僕が...)

 

スラックスも下着も下ろし、その中身を目にしてチャンミンの喉が「ごくり」と鳴った。

 

自身も下の物を全て脱いだ。

 

(僕がいいところに連れていってあげます)

 

チャンミンはユノの上にまたがると、用意を済ませたそこにユノをあてがい、じりじりと腰を落としていった。

 

 


 

 

Y

「え?

これで終わり?」

 

C

「うん。

ハッピーエンドでしょう?」

 

Y

「どこが?

『これからどうなるんだろう?』のところで終ってるじゃん」

 

C

「ユノを落とそうと、本気の火がついたチャンミンにロックオンされたんだ。

絶対にユノは落ちるって。

そういう予感がするように仕上げたつもりだけど?」

 

Y

「短編でおさめるには、テーマが大きいんじゃないのかな?

できればもう少し、確実にハッピーエンドになるって確信できるところまで読みたい」

 

C

「短編だと人物描写でページを割いてしまうんだよね」

 

Y

「短編は何本くらい掲載していくんだ?」

 

C

「今のところ、1年契約だから、最低24本。

文字数がだいたい決まってるんだ」

 

Y

「キャラ設定を固定したらどうだ?

主人公の二人は、どの話でも名前とルックスを同じにするんだ。

読者も人物像を掴む手間も省けるし、いい男だってことは事前に分かってるから安心して読める」

 

C

「そっかぁ。

いろんな映画やドラマに出演する俳優みたいなイメージだね?」

 

Y

「そうさ。

ストーリーや彼らの会話を集中して書くことができて、作者のチャンミンも楽しいんじゃないかな?」

 

C

「うん。

主人公たちにとって都合よく物事が展開するストーリーにしたいんだ」

 

Y

「主人公がどうして俺とチャンミンなんだ?

読んでて照れるよ」

 

C

「リアルでしょ?

これまでもこれからも経験していないシチュエーションで、ユノと恋愛がしたいんだ。

今さら僕らは高校生になれないでしょ?」

 

Y

「いい事考えるね。

これの〆切はいつ?」

Y

「3日後。

来月から掲載されるんだ」

 

Y

「今夜はもう少し書くのか?」

 

C

「疲れたからもう寝るよ

ユノは?」

 

Y

「あと1時間くらいテレビ見てから寝るよ。

...ん?」

 

C

「......」

 

Y

「...オッケ。

ベッドにいこうか?」

 

C

「ありがと」

 

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