義弟(22-1)

 

~ユノ35歳~

 

マンションの地下駐車場に車を停めた。

 

俺とBの部屋へと先を歩くチャンミンの背中を追いながら、俺は思う。

 

チャンミンとの関係をこのまま続けていけるだろうか、と。

 

Bと別れずにいる俺。

 

心を決めなければならないのに、ずるずるとここまで来てしまったのは、チャンミンとの関係は断ち切ってはならないからだ。

 

そのために、俺は当分は不甲斐なく、狡い男でい続けなければならない。

 

妻の弟と俺は、いわゆる『不倫関係』にある。

 

出逢った時、15歳だったチャンミン。

 

鼻下を隠せば、女の子と言ってもおかしくない優し気な目元が印象的だった。

 

俺を威嚇するように睨みをきかせていても、その眼はにごりのない純真そのもので。

 

当時のチャンミンは、ふっくらとした頬と、すらりと華奢な身体付きをした少年だった。

 

どこか不安げで、俺を探るように見る、儚く危なっかしい雰囲気の持ち主だった。

 

本当に、綺麗な子だった。

 

あれから2年半、身長も俺を越えるくらい伸び、がりがりだった身体も厚みを増した。

 

これだけの容貌だ、寄ってくる女も男もいくらでもいるだろうに。

 

チャンミンの眼には俺しか映っていない。

 

これは己惚れじゃない。

 

2年以上、チャンミンと関係を持ってきて分かったことだ。

 

チャンミンはなぜ、俺にこうまで執着するのだろう。

 

きまぐれな猫のようなチャンミン。

 

俺を振り回すような言動を繰り返すところは変わっていない。

 

実際に振り回されていたのは過去のこと。

 

近頃のチャンミンは、俺の顔色をうかがう様子を見せるようになった。

 

ひた隠しにしてきたはずの苛立ちが、言葉に出さずとも表情や仕草に現れてきたのだろう。

 

チャンミンは鋭い。

 

チャンミンのことは愛している。

 

でも、俺たちの関係は何も生まない。

 

チャンミン、お前はどうして欲しい?

 

待ちくたびれていないか?

 

 

玄関ドアを開けると、たたきに並ぶ靴の数と、リビングの方から賑やかな人声。

 

聞かされていなかったが、Bは客を呼んでいたようだ。

 

チャンミンと俺、Bの3人きりだったら気づまりだと、気乗りしていなかったからホッとした。

 

リビングに入るなり、談笑中の面々は俺たちに注目し、「やあ」とか「ひさしぶり」とひととおりの挨拶を交わす。

 

チャンミンの方を見ると、何を言われて照れていたのかは分からないが、鼻にしわを寄せた笑みを浮かべていた。

 

驚いた。

 

俺の知らないうちに、多少なりとも社交術を身につけていたのか。

 

ビールの入ったグラスを勧められ、チャンミンは「未成年ですから」と手を振って断っている。

 

ビールなんか、俺の前では堂々とがぶ飲みしているくせに。

 

客たちは、俺とBの仕事関係の者、旧友、知人の類が十数人。

 

Bは客を呼ぶことが好きな質で、弟のチャンミンと正反対だ。

 

そうだとしても、相談なく大人数の客を招待していたりしたら、さすがにムッとする。

 

そんな小さな怒りは飲み込んで、気のきいた話題とくつろいだ風の笑顔と、如才なく立ち回る。

 

「!」

 

手洗いに立っていたらしい客の一人が戻ってきて、その人物を認めた途端、俺の体温が1度下がった。

 

以前、彼が経営するカフェの内装デザインを、俺が手掛けたことがあった。

 

40代後半の大柄な貫禄ある体躯と、目鼻口のパーツが大きい濃い顔立ち。

 

声も大きいが、自信に満ちた態度も大きく、いくつもの飲食店を成功させた経営者だ。

 

妻Bを介して彼、X氏との交流がスタートし、小さな仕事を回してもらうようになった関係性だ。

 

「お久しぶりです」

 

俺は立ち上がってX氏を迎え、肩や腕を叩きあって挨拶を交わす。

 

X氏が飲み物を取りに席を立った隙に、チャンミンがいる方をうかがった。

 

窓枠にもたれかかったチャンミンは、X氏の背中を凝視していた。

 

無表情の怖い顔をしていた。

 

ところが、俺の視線に気付くと、固く引き結んだ口元を緩めて、ふっと小さな笑みを見せた。

 

(義兄さん、心配してるんですか?)

 

(当たり前だろう?)

 

(ふっ。

僕の方は平気ですよ)

 

(どうだか...)

 

(義兄さん、僕を信じてください。

僕はあなたのことを愛しているのですよ)

 

分かった、という風に、軽く頷いてみせた。

 

視線だけで交わす言葉。

 

不意に訪れるチャンミンと心が通い合う瞬間。

 

チャンミンから注がれる愛情を持て余して、彼から逃げ出したくなっていても、こういう瞬間でキャンセルされるのだ。

 

この繰り返しだ。

 

だから、チャンミンを手放してはいけないと思うのだ。

 

 

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義弟(21-2)

 

~チャンミン16歳~

 

キャミソールを頭からかぶるMの背中に、話しかけた。

 

「Mちゃんはどうして僕とヤルの?

義兄さんのことが好きなんだろ?」

 

Mは僕の問いにすぐには答えず、長い髪をひとつにまとめると、TVの電源を入れた。

 

隣の居酒屋から漏れる騒々しい笑い声が、バラエティ番組から流れるけたたましい笑い声でかき消えた。

 

ビニールクロスの壁にセロハンテープで留めた、名前の分からない名画のポストカードや、窓際に立てかけた何枚ものパネルボード...Mは芸大生なのだ。

 

かつて行った義兄さんのマンションや、大型の作品に溢れた義兄さんのアトリエを思うと、今自分がいる場所が子供ったらしくて、哀しくなってきた。

 

義兄さんとエロいキスを交わしたのに、ますます手が届かない存在に遠のいた。

 

「だってチャンミン、下手なんだもん」

 

「下手...って」

 

「じゃあどうして、僕とヤるんだよ?」

 

「怒った?」

 

「...ううん...」

 

はっきり指摘するMに腹は立たなかったし、「下手」と言われてショックも受けなかった。

 

「チャンミンはきっと...向いていないんだよ」

 

「向いていないって...セックスに向き不向きがあるの?」

 

「あるよ。

チャンミンは向いてない。

だから、何回ヤッても下手くそなまま」

 

『向いていない』の意味が分からずあやふやな顔をしていたら、Mは話題を変えた。

 

「今付き合ってる人...45歳の人なんだけど」

 

「不倫?」

 

Mと初めてヤッた時は確か、別れたばかりと言っていたから、新しい彼氏のことかな、それとも2股、3股目の人のことかな、と思った。

 

「ううん」とMは首を振った。

 

「バツイチ。

お腹も出ているし、頭も薄くなりかけてるの」

 

中年男とピンク色の髪をした若くて可愛いMとの組み合わせを思い浮かべてみた。

 

「でもね、テクが凄いの」

 

「!」

 

「私みたいな若い子が、中年の俺とヤッてくれるなんて、って有難そうにしてるの。

 

そう思うと、自分がとても貴重なものに思えてくるの」

 

Mの言葉に、義兄さんに抱かれる自分を思い浮かべてみた。

 

綺麗な義兄さんだから、僕を抱いて有難がるなんてあり得ない。

 

「じゃあ、どうして僕と?

僕は下手くそなんだろう?」

 

Mはクスっと笑った。

 

「それはね、チャンミンが綺麗だから。

それから...年下の高校生と子とやるなんて...興奮する。

何度でもできるしね。

それに...ほっとけないし」

 

義兄さんへの恋心は、Mしか知らない。

 

僕の初恋ともいえるこの恋は、相手が男だという時点で内緒ごと。

 

誰にも言えないし、誰にも理解してもらえない。

 

義兄さんとつながりのあるMといれば、義兄さんを感じられる。

 

「ユノさんとのエッチ...気持ちがいいだろうなぁ...」

 

「えっ!」

 

Mの言葉に、絶句してしまう。

 

「あんなに綺麗な人だよ?

テクもすごそうだし...いいなぁ...」

 

そうだろうなぁ、と思った。

 

「チャンミンはユノさんとどんな感じ?

私が見るところ、ユノさんもその気があると思うんだなぁ。

好きって告白した?

それとも、キスくらいはした?」

 

「!?」

 

義兄さんとしたキスと、股間のしごき、胸先を吸われた記憶に浸っていたから、素っ頓狂な声をあげてしまった。

 

「うそ...!

やっぱり、そうなんだぁ...」

 

嘘をつけない僕の反応に、Mは両手で口を覆って目を見開いている。

 

「えっと...」

 

今さらだけど、Mと僕はライバル同士なんだと気付いた。

 

僕の思いを読んだかのように、Mは肩をすくめてみせた。

 

「悔しいけどね。

でも、嫉妬の気持ちはないの」

 

「......」

 

「私ね、この前ユノさんにキスしたの」

 

「えっ!?」

 

驚いたけど、嫉妬の念は湧かなかった。

 

「ユノさんったら、全然驚かないの。

『おやおや』って感じ。

ユノさんみたいなカッコいい人にとって、若い女ってだけじゃ太刀打ちできないの。

だから、チャンミンが羨ましい」

 

僕の方に分があると、Mは言いたいらしい。

 

「チャンミンがユノさんとキスしたって聞いても嫉妬しないの。

不思議よねぇ。

チャンミンが男の子だからかなぁ...」

 

Mは僕の隣に、仰向けに寝転がった。

 

「いつか三人でできるといいね」

 

「はあ?」

 

耳を疑うようなMの発言に、僕は目を剥く。

 

「冗談よ。

チャンミンは挿れる側じゃないことは確かだから」

 

「それって...?」

 

ドキリ、とした。

 

「女二人に男一人は、つまんないもの。

片方の子が挿れられている時、私は暇でしょ」

 

「......」

 

「チャンミンが、エッチに向いていない、って『そういう意味』よ」

 

「......」

 

「私とヤッてても、気持ちはどっかにいっちゃってるでしょう?

図星、でしょ?」

 

「......」

 

「チャンミンも分かってるでしょう?

ユノさんと『そういう関係』になるってことは...そういうこと。

チャンミンは、ユノさんにヤラれる側なの。

それ以外は考えられない」

 

「でも...義兄さんは...。

僕は男だし...男となんて、変だろ?」

 

「...変じゃないよ」

 

「どうして?」

 

「さっきも言ったけど、チャンミンは綺麗なんだもん。

ユノさんがチャンミンとヤリたいと思ったとしても、驚かないなぁ。

チャンミンだって、ユノさんが男だから好き、っていうわけじゃないでしょ?

ユノさんって美人過ぎるんだもん。

女でも男でも、ユノさんを好きになると思うよ。

あ、この『好き』は恋愛感情のことね。

だから、チャンミンが羨ましい...」

 

僕が半年近く、ぐちゃぐちゃと思い悩んでいたことを、まとめあげたMを見直した。

 

単純なことだったんだ。

 

「...義兄さんは、僕とはイヤみたいなんだ」

 

ずっと僕の胸をシクシクさせてきたことを、Mに暴露した。

 

「イヤだって、はっきり言われたの?」

 

僕は首を横に振った。

 

「もし私が、ユノさんとそういう関係になったらどう思う?」

 

「...え?」

 

「挿れる場所が違うから、チャンミンがヤキモチ妬く必要はないからね」

 

「......」

 

「チャンミン、急がないと!

これもさっき言ったことだけど、ユノさんを好きになる人はいっぱいいるハズ。

奥さんがいるとかいないとか、関係ないのよ。

ユノさん、盗られちゃうよ」

 

Mの眼差しは真剣だった。

 

(つづく)

 

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義弟(21-1)

 

~チャンミン16歳~

 

自宅前で降ろされた僕はまるで、義兄さんに捨てられたかのような気分だった。

 

自室で上着を脱ぎかけたところで、それをまた羽織り、スニーカーを引っかけて外へ飛び出した。

 

嘘をつき慣れていないから、「友達んとこに泊まってくる」のひと言が不自然に震えていないか、緊張した。

 

愛想は悪いが生活態度は真面目な息子は、両親には信用されていた。

 

だから、僕の言葉に疑いを挟むことなく、「あらあら、忙しいわねぇ」と母親は呆れただけだった。

 

これから行く旨の電話を入れ、向かった先はこれまで3度通ったMのアパート。

 

僕を出迎えたMは、お風呂上りのようで、上気した頬と石鹸のいい香りをさせていた。

 

「急に...ごめん...」

 

ぼそりとつぶやく僕に、Mは「いいから」と言って、僕を仰向けに押し倒した。

 

 

一向に射精の時が訪れず、僕は焦って遮二無二に腰を動かすだけだった。

 

「今日はここまでにしよう」

 

Mはそう言って、僕の下から抜け出した。

 

よほど情けない顔をしていたんだろう。

 

「チャンミン、変だよ。

何があったの?」

 

Mの口調が優しくて、こみ上げてきたものを見せたくなくて、僕は俯いて腿に置いた両手を握りしめた。

 

「...別に..」

 

「やだな...泣いてるじゃないの」

 

「...っ...泣いてなんかっ...」

 

Mから顔を背けて、こぶしで両目をこすった。

 

義兄さんに無茶苦茶にされるはずだった熱を、Mの身体で冷まそうとした僕は最低だ。

 

2度も義兄さんの左手の中で達し、その度に精を吐き尽くして空っぽになったはずなのに、満たされなくて。

 

義兄さんは多分...僕とするのが嫌なんだ。

 

僕は男だし、義兄さんは結婚してるし。

 

僕が義兄さんの立場だったら...駄目だ、全然想像できない。

 

義兄さんだって興奮していたじゃないか。

 

あそこを固くさせてたじゃないか。

 

僕とエロいキスをしていたくせに、本心では、“そういう気”はなかったんだ。

 

必死な僕を憐れんで、僕の性欲を満たしてあげるために僕のものをしごいてくれたんだ。

 

勇気を振り絞ってした告白、「ずっと、義兄さんに触って欲しかった」を受けて、義兄さんは困ってしまったんだ。

 

車の中でのことは義兄さんのお遊びに過ぎなかったのに、本気で迫ってきた僕を可哀想だと思ったんだ...きっと。

 

子供にするみたいに頭を撫ぜられて、僕の心は屈辱でいっぱいだった。

 

...でも。

 

『結婚してるかどうかは関係ない』の義兄さんの言葉。

 

あれはどういう意味だったんだろう?

 

 

(つづく)

 

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義弟(20)

 

 

~ユノ33歳~

 

あっけにとられた風のチャンミンに微笑んでみせた。

 

「今日はここまでだ」

 

余裕と主導権があるのはこちらの方で、「一気に関係を深めるのはよくないよ」的な台詞だった。

 

その実、余裕がなかったのは俺の方だった。

 

男の身体にここまで欲情してしまった自分に驚くが、対象がチャンミンなら無理もないと思った。

 

圧倒的過ぎる美貌は、その者を中性的にする。

 

男でもない、もちろん女でもない、どっちつかずの儚い魅力だ。

 

とは言え、女にはないものをチャンミンは持っていた。

 

自分以外のものを握りしめた経験は、ない。

 

チャンミンも初めてだろうが、俺の方も初めてだ。

 

チャンミンの中を貫きたい強烈な欲望はあったものの、いざその時になってみると躊躇した。

 

ほんわずかだけ、我にかえった。

 

待て...目の前の、恍惚とした顔のこいつは、『男』だぞ、と。

いくら中性的とは言っても、俺の手の中のものは脈打つ男のものだ。

チャンミンの胸と胸とを合わせたときの感触は固く、ふくらみのない胸を愛撫するには、その先端をいたぶるしかなかった。

 

しかし、俺の手の動きに合わせて喘ぎ、身体を震わせる姿を目にすると、征服欲が満たされた。

 

そうか、俺はチャンミンのことを、『女』として見ていたのかもしれない。

 

チャンミンに網ストッキングを履かせ、真珠のネックレスで首を飾り、片手は見る者を誘うように頭の後ろに、もう片方は股間を包み隠す。

 

作品の中の少年男娼は、鑑賞者を妖しい眼差しで誘っている。

 

この男娼はもちろん、『受け入れる側』だ。

 

恥ずかし気に包み隠してはいるが、指の隙間からは覗いてしまっている。

 

その手のポーズも、細かく注文をつけたくらいだ。

 

チャンミンの中から、女の性みたいなものを引き出そうとしていたのだろうか?

 

分からない。

 

現段階では、指だけで絶頂を迎えさせてやったが、いずれはそれだけじゃ済まなくなってくる。

 

思いを巡らせながらの愛撫だったから、俺の方には余裕があったんだろうな。

 

チャンミンに溺れてやる、と開き直ったにしては、肉欲に溺れきれずにいた。

 

確かに俺のものも、快楽に悶えるチャンミンに欲情した...したけれど...。

 

「ずっと触って欲しかった」と言ったチャンミン。

 

睨み目と不愛想なチャンミンが一転し、俺を乞う眼をしていた。

 

性に目覚めたばかりの少年特有の好奇心に満ちた眼差しで、俺の指の行き先を追っていた。

 

チャンミンに触れる、ということはつまり、そういうことだ。

 

身体じゅうを撫でまわすだけじゃないことを、チャンミンは分かっているのだろうか?

 

「義兄さんに触ってもらいたかった」の真意は、好奇心によるものだけじゃない、と気付いてしまった。

 

酔った勢いで名前も知らない女とヤッてしまうような、勢いに任せてはいけないと、ブレーキがかかった。

 

チャンミンに誘われるような形で、奪うようなことをしてしまっていいのか?

 

分析すればするほど、わけが分からなくなってきた。

 

...とにかく、俺の頭の中は様々な考えで混乱してしまって、イマイチ集中できなかったのだ。

 

 

チャンミンの自宅前で降ろすまで、彼は終始無言だった。

 

何事もなかったかのように「おやすみ」と声をかけたが、チャンミンは軽く頷いただけで、こちらを振り向きもせずに去っていった。

 

猫背気味の背中と手足ばかり長い、未だどこかアンバランスな身体付き。

 

そうなんだよな...チャンミンは制服を着て、教室で授業を受ける高校生...16歳なんだ。

 

チャンミンに対して、何か酷いことをしてしまったかのような罪の意識。

 

中途半端な関わり合いは、かえってチャンミンの自尊心を傷つけてしまう。

 

そう思うことで、チャンミンと行きつくところまで堕ちてしまいたい本心を、正当化しようとしている。

 

俺は33歳で、ある程度の社会的地位もあり、一番忘れてはいけないこと...俺には妻がいる。

 

「結婚しているかどうかは関係ない」と、チャンミンに言った。

 

その通りだよ、チャンミン。

 

その通りだけど、さらに一歩前に進めるだけの度胸が俺にはないみたいだ。

 

チャンミンが欲しくて仕方ない。

 

手に入れるのは恐らく、難しいことではない。

 

問題は、手に入れた後のことだ。

 

俺を取り巻く現実はそのままに、うまく立ち回れる自信がなかった。

 

 

遅くなるはずだった夫の早い帰宅に、Bは驚いていた。

 

「あれ?

遅くなるんじゃなかったの?」

 

「んー、約束がキャンセルになったんだ」

 

「あら」と言った風に丸くしたBの眼が、チャンミンにそっくりで胸がかすかに軋んだ。

 

Bは風呂上がりで、キャミソールと短パンだけの恰好でTVを見ていたらしかった。

 

俺たちの家は全室、一年中快適な温度に保たれていたから、早春の夜に夏みたいな恰好でいられるのだ。

 

よく冷えたミネラルウォーターをあおりながら、軽装のBの手足をちらちらと見る俺がいた。

 

長身の弟に対して、姉のBは小柄で、やや浅黒い肌をした弟に対して、彼女は色白だった。

 

顔もよく似ているとまではいかないが、二人は姉弟だ。

 

実を言うと、チャンミンとの接触で火が付いた俺の欲は、鎮まる気配がなかった。

 

空になったペットボトルをぐしゃりと握りつぶした。

 

ゴミ箱に放り込んだ音を合図に、俺はBに近寄って羽交い絞めにした。

 

突然の夫の行動にBは悲鳴をあげたが、俺の性急なキスに応える。

 

チャンミンの口内で躍らせた舌で、彼の姉を悦ばせる。

 

小一時間前に、チャンミンにしたかった行為を、妻に施す。

 

俺は最低だ。

 

 

(つづく)

 

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義弟(19)R18

 

~チャンミン16歳~

 

 

義兄さんに押されるまま僕は後ずさりした。

 

アトリエのソファに背中から倒れ落ちると、義兄さんに組み敷かれる。

 

顔の向きを何度も変えて、義兄さんの舌が僕の口内中をねっとりと舐め上げる。

 

「んっ...んっ」

 

幸せだ、と思った。

 

義兄さんが僕を欲しがっている。

 

姉さんへの罪悪感で、僕とのことを思いとどまられたら困る、と恐れていた。

 

でも、結婚しているかどうかなんて関係ない、と言ってもらえた。

 

それくらい僕のことが欲しいんだ。

 

義兄さんの唇は僕の耳へと移り、耳の中をぺろぺろと舐めたりするから、ぞわっとした痺れが下に向かって走っていく。

 

義兄さんの熱い吐息がかかる度、もっとぞくぞくした。

 

あっという間にトレーナーを脱がされた。

 

初春の肌寒い空気にさらされたけれど、火照った僕の肌にはちょうどいいくらい...いや、暑いくらいだ。

 

僕の耳を咥えていた唇は、次いで首筋へと落とされ、舌先を肌につけたまま下へ下へと移動する。

 

「っあぁ...」

 

乳首を舌全体でねぶられた。

 

義兄さんの口の中で、僕の乳首がつんと勃ってきたのが分かる。

 

「っあ...あ...あっ...」

 

今度はちろちろと、乳首の先だけが攻められて、かと思うと、強く吸われた。

 

「ああっ...!」

 

のけぞる胸を義兄さんの熱い手で押さえつけられた。

 

「大人しくしてろ」

 

「だって...ああぁっ!」

 

初めて出す声が、高くかすれていて、いやらしい動画の中の女の人みたいな声だった。

 

僕は今、女の子になっている。

 

午後8時の静かなアトリエ。

 

ちゅうちゅうと僕の肌を吸う音。

 

僕の上になった義兄さんは、僕がびくびくと身体を震わしたってびくともしない。

 

義兄さんの逞しい固い身体に押さえつけられて、ぞくりとした快感に襲われた。

 

「チャンミンは、感じやすいんだな」

 

「っだって...」

 

女の人みたいに...Mみたいに...なんの膨らみもない僕の胸を、義兄さんは美味しそうに舐めているんだもの。

 

義兄さんは身体を起こすと、腕をクロスさせて着ていたニットを脱いだ。

 

想像通り、デッサン用の彫刻みたいに逞しいのに、泣きたくなるほど綺麗で。

 

こんな素晴らしい身体と肌と肌とを合わせられる僕は、幸せだと思った。

 

それに引き換え僕の身体ときたら...。

 

義兄さんにはさんざん裸をさらしてきたのに、急に恥ずかしくなって両手で胸を隠した。

 

「どうした?」

 

僕の反応を見ようと覗き込んだ義兄さんと目を合わせられなくて、彼の下の方に視線を移した。

 

義兄さんの白いパンツのあの箇所が、興奮の塊で押し上げられていた。

 

細身のパンツだから、よく分かる。

 

「分かった?

俺の方も、こういう状態なわけ」

 

きゅうっと股間が緊張してきた。

 

腕を伸ばして、そっと指先で触れると、義兄さんの腰がぴくっと揺れた。

 

固い...。

 

嬉しくて、手の平で包み込んでみた。

 

大きい...。

 

何度もこの手を上下させた。

 

その度、義兄さんの喉奥から、低いうめきが漏れた。

 

嬉しい。

 

義兄さんのパンツのボタンを外そうとしたら、

 

「あっ!」

 

早業で僕のパンツのボタンが外され、ファスナーも引き下ろされた。

 

「待って...義兄さんっ...!」

 

「待たない」

 

下着の上からがしっと義兄さんの手で包み込まれた。

 

「あぅっ...!」

 

車の中での厚い生地の上からのものとは、全然違う。

 

薄い下着の生地ごしに、義兄さんの手の平の熱が伝わってくる。

 

義兄さんの下着はボクサータイプのものじゃない小さなもの。

 

自分の股間を見下ろすと、布面積が狭いせいで股繰りから僕のものの先が顔を出していた。

 

もの凄く恥ずかしい光景で、それなのに猛烈に興奮した。

 

僕は変態なのかもしれない。

 

そうっと見上げると、義兄さんの眼がらんらんと光っていた。

 

ポーズをとる僕とキャンバスとを交互に行き来する義兄さんの眼差しも、作品作りに没頭した熱いものだけれど、今のは違う。

 

喜怒哀楽のどれでもない表情で、怖いくらい真顔なんだ。

 

僕の視界は義兄さんだけ。

 

多分、義兄さんも同じだと思う。

 

セックスに関してはヒヨコ同然の僕でも、義兄さんは今、僕を求めているって伝わってきたから。

 

義兄さんの色白の頬が、ほんのりピンク色に染まっていた。

 

仰向けだったのを横向きにされ、僕は義兄さんと向かい合わせになった。

 

「ひんっ...!」

 

義兄さんの手に直接握られて、それだけで達しそうになった。

 

どうしよう...気持ちが良すぎる...。

 

「やっ...ダメ...あっ...」

 

下着の上から遠慮なく、強めにしごかれる。

 

Mがしてくれた優しく繊細なタッチのものとは、比べ物にならない。

 

裏筋と尿道口のあたりを親指で刺激しながらのしごきは、たまらない。

 

義兄さんは、男とこういうことをするのは、初めてなんだろうか。

 

慣れた手つきだから、もしかして...。

 

加えて、身体を動かすごとにさらさら滑る肌同士が、気持ちがよかった。

 

手の動きは加速し、それに合わせて僕は喘ぐだけ。

 

義兄さんのものに伸ばしていた手なんか、とっくに宙に浮いてしまい、無意味に揺れている。

 

「駄目っ...駄目です...それ以上は...あっ」

 

このままだと、下着をつけたまま射精をしてしまう。

 

下着を汚してしまう。

 

僕が「駄目」と言う程、義兄さんの攻めは容赦なくなる。

 

先端からとめどなく溢れるものが、くちゅくちゅといやらしい音を立てている。

 

「気持ちいか?」

 

義兄さんのここまで低い声...初めて聞いた。

 

男らしい義兄さんに、されるがままに扱われている自分に興奮した。

 

後頭部に回された手で引き寄せられ、僕の唇全部、義兄さんのもので覆われた。

 

快楽に浸りきっていた僕は、舌を伸ばす余裕がない。

 

開けっ放しの口に、ぐいぐいと義兄さん舌が出し入れする。

 

まるで義兄さんに貫かれているみたいな錯覚に陥って、それにも興奮した。

 

目の前がちかちかしてきて、視野が狭くなった。

 

がくがくっと腹底が跳ねた。

 

「ああぁ...っ...!」

 

義兄さんの口の中で、絶頂の声を上げる。

 

苦しくって、首を振って義兄さんの唇から逃げた。

 

「...っあ...っ...あっ...」

 

最後まで放出しきるまで、僕の背は痙攣を繰り返した。

 

「はあはあはあはあ...」

 

虚脱感が凄まじい。

 

僕は目を閉じ、酸素を求めて荒い呼吸を繰り返す。

 

義兄さんの手の中でまた、達してしまった。

 

義兄さんの肩に頭を預けて、息が整うまでじっとしていた。

 

なぜか切なさに襲われて、僕は義兄さんに頬を寄せた。

 

ところが、ついと顔を反らされて、僕の唇は行き場を失う。

 

情けない表情に気付いて、義兄さんは僕の髪をくしゃりと撫ぜてこう言った。

 

「今日はここまでだ」と。

 

 

(つづく)

 

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