(47)ぴっかぴか

 

~ユノ~

 

遮光性ばっちりの建具のおかげで、現在時刻は全く分からない。

 

日付はとうに変わり、明け方まであとわずか、といったところだろう。

 

「はっ!」

 

今日のシフトは早番だった!

 

加えて、ラストまでのフル勤務の日!

(キッチン長が非番のため)

 

体力削って、寝不足している場合じゃない!

 

「今何時?」

 

ヘッドボードはめ込みのデジタル時計は3:20とあった。

 

「セーフ。

焦ったぁ」

 

「何時までゆっくりできるの?」

 

風呂はここで借りて、いったん自宅に帰って着替えるとなる...と俺は頭の中でぱぱっと計算する。

 

「5時にはここを出たい」

 

「え~、帰っちゃうの?」

 

「しょうがないだろ、仕事なんだから」

 

「仕事は何時から?」

 

「7時」

 

「うちから職場へ行けばいいじゃん」

 

「着替えたいし」

 

「僕のを貸してあげるよ」

 

「やだよ。

あんたは細身

男の恰好した女の服みたいだ」

 

「ゲイだから?

それって偏見だよ」

 

ああ言えばこう言う、どこまでも食い下がってくるチャンミンと、言い負かされる俺。

 

そして、ぽろっと出てしまった俺の失言に、泣きだしそうな顔を見せるチャンミン。

 

「悪い。

俺がもっこりズボン穿いて出勤してきたら、パートのおばちゃんたちが卒倒するよ」

 

鏡に映るちんちくりんパンツ姿に俺は顔をしかめた。

 

「どう?

おさまりいいっしょ?」

 

「こういうの穿き慣れていないんだけどなぁ」

 

「凄い似合ってるよ」

 

「触んなよ」と、俺の股間に伸ばされたチャンミンの手を跳ね除けた。

 

チャンミンは俺の背後に立つと、俺の肩に顎をのせた。

 

相変わらず綺麗な顔をしている。

 

俺の頬に触れる柔らかな髪は紫がかった白銀色。

 

肌はすべすべだし、華奢に見える身体は引き締まっており、単なる運動不足による貧弱ボディではなさそうだ。

 

チャンミンの全身は自己鍛錬とお手入れのたまものだと見受けられた。

 

素材が良いうえに、自身を魅力的にみせるためのお手入れのおかげで、そこら辺のイケメンとは次元が違う。

 

チャンミンの隣に立つ男とは、週7日ジムに通ってプロテインが主食のマッチョ男や、バリバリの高級スーツを着た金持ち男なんかが相応しいのでは?

 

それに引き換え俺と言えば、ファッションにこだわりもなく、食べたいものを食べ、日々流されるままナチュラルに暮らしてきた25歳の若造。

 

ついでに言えば、運命の人を捜し求めていた結果、つい2時間前まで童貞だったりする。

 

...でも、俺とチャンミンが並んでいる姿を見る限り、人工的な銀髪プレイボーイと天然の金髪男とまあまあ釣り合っているのではないだろうか。

 

悪くないんじゃない?

 

ふうん、そうか。

 

俺の理想とはかけ離れた展開へとあれよあれよと進んでしまったが、俺は童貞を捨てることができた。

 

運命の相手...オトコ...を見つけることができた。

 

それからそれから、俺はこの男と付き合うことになった。

 

悪くないんじゃない?

 

 

いつもとは違う路線の電車に乗って、俺は職場へと向かっている。

 

俺はつり革に体重を預け、車内広告を見るともなく見ながらもの思いにふけっていた。

 

俺の休みは3日後、チャンミンの休みは今日と明後日。

 

(お互いシフト制だから、休みが合わないなぁ...)

 

シフトを組むのは俺の担当だ。

 

この特権を利用させてもらおう。

 

(来月分はチャンミンと休日を合わせよう、そうしよう)

 

俺は頭の中でチャンミンとしたいことを、次々と挙げていった。

 

買い物だろ、映画だろ、海水浴に温泉。

 

過去の彼女たちと経験してきた、定番デート一覧。

 

プレイボーイ「だった」チャンミンなら、もっといいアイデアを持っていそうだ。

 

(それに...)

 

シフトが合わなくたって、仕事終わりならいつだって会えるし、チャンミンの職場には、俺のばあちゃんが入所しているんだ。

 

ばあちゃんの顔を見がてら、仕事中のチャンミンを見ることができるじゃないか。

 

交際したては、毎度心踊る。

 

今回の恋は、これまでの恋とは格段に違う。

 

既に身体と身体を繋げているのだ!

 

ああ、楽しみだなぁ。

 

うんとあいつを大事にしてやろう。

 

 

「次の休みはいつ?」

 

「明日」

 

「残念。

僕は5連勤なんだ」

 

「今日はチャンミンは何時上がり?」

 

「日勤だから5時」

 

「俺、ばあちゃんの顔を見に行きたいからそっちにいくよ。

一緒に帰ろっか?」

 

「僕んちにする?

ユノんちにする?」

 

部屋で何をするかといえば、ただひとつ。

 

相性の良さを知ってしまったからには、会う度にヤリまくってしまっても仕方がない。

 

 

(つづく)

 

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(46)ぴっかぴか

 

~チャンミン~

 

「『ポイ』だなんて...」

 

「あんたのことを『運命の奴』って言ったことだけどさ。

軽い気持ちで言ったんじゃないんだ」

 

「分かってるよ」

 

その一点がユノと交際するか否かの迷いが生じてしまった種なのである。

 

「あんたは、誰かのことを心から好きになったことはないんだろ?」

 

「ま、まぁ...そんな感じかなぁ」

 

「こういうヤツが本当にいるんだって、びっくりした。

軟派なヤツっていうの?

人付き合いが面倒だったり、身体の付き合いだけで十分だと思ってる奴」

 

「僕のことよく分かってるじゃん」

 

「あんたってキャラが濃いじゃん?

慣れるまでは圧倒されててさ。

あんたに慣れかけてきたら、『なんて分かりやすい奴なんだ』ってさ」

 

最初から恋に慣れた軽~い男を前面に出してきたから、ユノに僕のキャラを読まれてしまっても驚くことではない。

 

あえて僕のキャラを見せることで、さりげなく警告を出していたのだと思う。

 

僕はこういう男なんだから、君の軽い気持ちで僕と関係を持ってみない?

 

でも「真剣になられたら困るからね」の但し書き付き。

 

「分かりやすい屈折野郎って言うの?

髪型といい、乳首見せシャツといい、チンコが蒸れそうなズボンといい、もはや衣裳。

よほど自分に自信がなくちゃあんな恰好できないさ。

ナルシストの塊だよ」

 

ユノの言うとおり、僕は自分の容姿に自信を持っている。

 

「無邪気にケツの穴見せられた時なんか、『こいつはアホか』って思った。

仕事はまとも、賢そうな目をしてるから、ただの下半身男じゃなさそうに見える。

相手の出方を試しているんだな、ってピンときたんだ。

ギラギラな鱗を持った蛇が、ちょろつくネズミを愛でた後、ぱくっ」

 

「あのねぇ...蛇ってなんなのさ?」

 

「あんたって、深く関わったら怪我しそうな奴だけど、そこがいいと思った。

正常な精神状態だったら、近づきたいなんて思えない類の奴だった。

...失恋したばっかだったから、心のガードがゆるゆるだったんだよ」

 

「相変わらず、正直にズケズケ言うよねぇ」

 

「悪かったな、これが俺だ」と言い、ユノはペットボトルのお茶をあおった。

 

上下に動くユノの喉仏に目が吸い寄せられる。

 

僕の凝視に気付いたユノは、「俺に遠慮しないで、飲みなよ」とペットボトルを手渡した。

 

冷蔵庫にこれ1本しかなかったのだ。

 

「発端がなんであれ、こだわるのは止めたんだ。

弱ってた時にあんたみたいな奴と知り合えたこと自体が、『運命』なんだろなって」

 

「運命ね...相変わらず重いね」

 

「悪かったな、これが俺だ」

 

そう言ってユノは再びベッドに横たわり、頭の後ろで腕を組んだ。

 

「俺だってあんたのことは言えないさ」と、天井を睨んだままつぶやいた。

 

「恋愛に多くを求めがちなだけ。

完璧な恋愛を求めていただけ。

それに見合うだけの彼女が欲しかった。

自分の価値をどんだけ高く見積もってるんだよ、って」

 

ユノがチェリーでいた理由のひとつが、分かったような気がする。

 

「好きな子にチンコ見られたトラウマが理由の大半を占めている。

でもさぁ、結局のところ運命の奴じゃなきゃ童貞捨てたくないってのも、何気に童貞を恥ずかしく思ってたのかもなぁ。

あ、だからって、童貞捨てたかったからあんたと寝たんじゃないからな?」

 

「分かってるよ」

 

ユノは『本気の男』だ。

 

「7割くらいは運命の奴に捧げたいって気持ちは本当のことさ。

だから...」

 

ユノはごろんと僕の方に横向きに寝返ると、じっと見つめた。

 

(うわっ!)

 

そのキリっとマジな表情にドキっとした。

 

「あんたに捧げられてよかったよ。

すげぇよかったし。

すげぇ充実感。

これが欲しかったんかなぁ、って」

 

「ユノって単純だね」

 

「俺って単純馬鹿なの。

そういうわけでさ」

と、ユノは僕へと手を差し出した。

 

僕はその右手の意味が分からずユノの手を握ったら、ぎゅっと力いっぱい握り返された。

 

「これからよろしくな」

 

「えっ!?」

 

「何て顔してんだよ。

俺たちはもう、『そういう関係』だろ?」

 

「う、うん。

『そういう関係』だね」

 

「これまでの俺って、付き合いの理由や中身にこだわってばかりだったから、彼女が逃げ出したんだと反省しているんだ。

そこんとこは気をつけるよ」

 

「う、うん」

 

「それで...チャンミンがよければの話だけど...もしよければ、これからも俺と会ってくれるか?」

 

敢えてなのかどうか、ユノは『恋人』というワードを持ち出さなかった。

 

(そっか。

ユノは僕の迷いに気付いている)

 

ユノなりの遠慮の気持ちなんだろうな。

 

軽い付き合いがモットーの僕が身構えないよう、重い言葉を避けたのだろう。

 

とは言え、溢れ出す情熱が隠しきれていないらしく、『運命』を連発している点を見落としている。

 

そこがユノらしいというか...。

 

誠実なユノと付き合ってゆけるかどうか自信がないのが本音だった。

 

でも、ユノも自身を変えようとしているんだ。

 

僕も自分の気持ちに素直にならなければ、と思った。

 

「分かった。

会おうか?」

 

僕はユノの気持ちに応える証として、彼の頬にキスをした。

 

(つづく)

 

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(45)ぴっかぴか

 

~チャンミン~

 

シャワーの後、さっぱりした僕らはベッドに横たわり、風量強のエアコンの風に涼んでいた。

 

照れくさくて、数十センチの空間を隔てている。

 

揃って上はTシャツ下はボクサーパンツと軽装だ。

 

僕は先ほどからユノの股間から目が離せずにいた。

 

目を反らしてもその吸引力は凄まじい。

 

なぜかというと、ユノが穿いている下着は僕のものだからだ。

 

ユノ本人の下着は穿くのをためらうほどぐちょぐちょ状態だった

「あんたがしゃぶりまくったからだろうが?」

「ユノこそいっぱい汁出しちゃってさ。

うちで洗濯したげる」

 

僕はユノの手から下着をもぎとり、ぽいっと洗濯機に放り込んだ。

 

「僕のパンツを貸したげる」

 

僕は素早く引き出しを探り、ユノに穿かせたいと思った下着をピックアップした。

 

「これ貸したげる」

「それはちょっと...」

 

無理やり掴ませた下着に、あからさまに嫌な顔を見せるユノ。

 

ユノに貸そうとした(何ならプレゼントしたい)下着は、もちろんビキニ型。

 

日常的には普通のボクサーパンツを穿いているけれど、男に狩りに行くときは断然ビキニ型(なんならノーパンの時もあったりして)

 

ユノを2本の指でその小さな布切れをぶらさげ、僕の好意を受け取るか拒否るか迷っているらしい。

 

「それ、一応新品だよ」

「......」

「嫌ならべちょべちょのを穿く?」

「......」

「それとも、ノーパンで帰る?」

「わ...分かった。

お借りします」

 

ユノは渋々頷くと、僕に背を向け下着に足を通し始めた。

 

その後ろ姿に、僕は内心「しめしめ」とほくそえんでいた。

 

(ユノったら、やっぱり素直だなぁ)

 

僕にとってジャストサイズでも、僕よりお尻や太ももの筋肉が発達しているユノが穿くとぴっちりとしていて、「たまんねぇ」状態だった。

 

(はみ出しそう...ごくり)

 

 

「チャンミンのこと、教えてくれよ」

「僕のこと?

そうだなぁ...僕の好物はイケメン」と、ふざけてみた。

 

「んなこと知ってるよ」

「ユノはイケメン」

 

ユノが好きと言っているようなものだけど、いつもの癖で男をよいしょする言葉をつい吐いてしまう。

 

軽い男だと認知されてしまっているのを、イメージ挽回したい気持ちがあった。

 

チャラい男だと思われたくない気持ちが芽生えてきたのかも。

 

「金髪だからそう見えるだけだよ。

あんたこそ、イケメンだと思うけど?」

 

ユノは僕の言葉を深読みせず、さらりと受け流してくれた。

 

「ユノは?

好きなものは何?」

「う~ん...何だろね。

そう問われると無いかも。

日々淡々と暮らしているなぁ」

 

友達も多そうで、休日ごとに趣味だ付き合いだで忙しくしていそうだったから意外だった。

 

「何の予定も入れずに引きこもってる、っていう意味じゃないんだ。

彼女がいればデートしたり、友達と遊びに行ったり...それなりに予定はあるんだけどさ。

充たされてないっていうか」

 

「え、そうなの?」

 

僕は仰向け寝から半身を起こし、ユノの方に向き直った。

 

「恵まれてるはずなのに、なんだかなぁ、って。

自分探し中っていうやつ?

だせぇよな。

こういうヤツってよく聞くだろ?」

「聞くね」

 

僕はうんうんと、心の中で首がもげそうになるほど頷いていた。

 

「俺んとこは規模の小さいチェーン店だから、総菜の企画に参加させてもらえたりしてやりがいはある。

でもさ、たまにポテトサラダを前にして虚しくなるんだ。

俺、何してるだろって思う時があるよ。

何が足りないんだろう、ってさ」

 

僕らのピロートーク。

 

不足している互いのデータの交換スタートだ。

 

ノンケを落とす時はひと手間が必要だ。

 

彼らの警戒心を解くためにHする前に、サービス精神で「君のことが知りたい」興味津々な顔をして質問してあげる。

 

ホントは全然興味が無いし、Hの後はバイバイするんだから、彼らの個人的データは余計なものなんだ。

 

でも、今回に限って例外だ。

 

「最近はばあちゃんのケアしに実家に帰ることが多かったかも。

ばあちゃんの痴呆が酷くなってきて、母さんだけじゃ面倒みきれなくなったんだ。

まさかあんたんとこのホームだとはねぇ」

 

僕が勤める老人ホームに、ユノのおばあちゃんが入所してきたと知った時は驚いた。

 

ユノじゃなくても、必然性を感じてしまった。

 

「そういえば、あんたって何で介護士になったんだ?」

「ご老人たちなら、僕といて色目を使わないし、僕自身もムラっとこないからね」

「職業選択の動機が不純過ぎるなぁ」

 

「マジか」と僕を蔑む目で見るユノ。

 

「嘘に決まってるでしょう?

やだなぁ、信じないでよ。

性欲は一生ものだから、年食ってるから安心とは言えないんだ。

今の仕事はなりたくてなったんだ」

「あんたって実はいい子なんだな?」

 

よしよしと僕の頭を撫ぜるユノの手を払い除けた。

 

「何だ、それ?」

 

「いい子」という言い方が可愛くてクスクス笑った。

 

「言っとくけどね、僕は滅多に話さないんだからね」

「何を?」

「僕は滅多に身の上話はしない、って言うこと」

「どうして?」

「僕はご覧の通り軽薄な男で、いろんな男とトラブルを起こしている。

だから、深入りするのが嫌なんだよ」

「コロコロと付き合う男が変わるのもそのせいなのか?

交際人数が凄かったよな?」

「厳密に言うと、交際にまで至っていないよ。

ひと晩だけの関係はほとんどだよ。

僕は『軽い男』さ」

 

僕の真の姿をぺらぺらと、ユノに明かしていた。

 

僕のみっともない過去は今後、ぽろぽろと出てくるだろうし、その都度ユノが引いてしまうんじゃないかとヒヤヒヤしたくない。

 

「誰かとがっつり付き合う経験は少ないんだ。

ああいう目に遭いたくないからね」

「ああ...あのタクシーの奴がそうだったな」

「あいつはマシな方」

 

タクシードライバーの前カレの一件では、まるで自分の方が被害者みたいな顔をしてしまった。

 

あれはカッコ悪かった。

 

彼を怒らせるようなことをしたのは僕なんだから自業自得。

 

「じゃあさ」

 

ユノも寝返りをうち、僕と対面した。

 

「俺のこともポイするのか?」

 

ユノの質問は織り込み済みだった。

 

(つづく)

 

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(44)ぴっかぴか

 

~チャンミン~

 

...死ぬかと思った。

 

野獣に突き上げられ、玩具のように揺さぶられ、振り落とされないようしがみついていた僕。

深々と突き刺されないよう、膝で力を逃すのに必死だった。

 

ユノとの初H。

 

Q.気持ちよかったかどうか?

A.よくなかったけど、よかった。

 

(僕は少々マゾッ気があるらしく、力ある者に征服される感は悪くない。

僕の経験上、自分さえ気持ちよくなればいい自分本位のHをする男ばかりだった。

どこが僕のイイところか探りもせず、ただ出し入れすればいいと思っているんだ。

掘られる側の僕は苦痛との闘いだったりする...そういう最低なHをする男たちがいる。

例え相性抜群だったとしても、僕は原則1人の男につき1回のHにすべしとルールを課している。

夜明け前にベッドを抜け出し、男たちとさよならだ)

ユノのHは下手くそだった。

チェリーにテクニックを求めたらいけないから、力任せのHにガッカリするだけ無駄だ。

賢者タイムで我に返り、「初めての行為の相手がオトコだとは!?」と後悔に襲われてもらうのは困るから、今すぐユノをフォローすべきなのはわかってる。

ひと休憩した後、2回目のHに突入するパターンも、とてもじゃないが今夜は不可能。

 

...なぜなら身体が動かせない。

 

さきほどからユノの肩に頭をあずけて息が整うのを待っているのだけど、いまだに心臓のバクバクが止まらないし、身体の震えがおさまらない。

ユノの動きは下手くそだったのに、『素質』があった。

僕の大事なところをがんがんに突かれ、内臓をもみくちゃにされた感じ。

乱暴に扱われたから 動けないんじゃないんだ。

...恐ろしい程によかった。

身体の深いところから間断なく押し寄せてくる快感に、我を失っていた。

 

「はあ...きつ...」

 

僕の目と鼻の先に、汗ばんだユノの胸がある。

多分3回はイったと思う。

快感の竜巻に巻き込まれた僕は、「あ...イッた」と認識する間を与えてもらえなかった。

1滴残らず搾り取られた感。

尋常じゃない虚脱感。

 

「......」

 

まずい...僕らの身体の相性は抜群だ。

僕を投げ出しもせず、肩を抱いてくれてて健気でイイ子じゃん。

ああ...ユノをどうしたらいいのだろう?

 

3択ある。

 

その1

マイルールを適用する。

つまり、1度寝たからバイバイするってこと。

身体を繋げてしまった今、ユノから離れられなくなりそうなんだ。

ライトな交際しかしてこなかった僕だ。

運命を信じる重たいユノのことを窮屈に思い、逃げ出してしまいそうだ。

それならば、より深い関係になる前に離れればいい。

 

その2

1度だけの過ちだからと、自分にもユノにも言い聞かせながら友人関係を続行する。

だって、ユノはいい奴。

Hするしないは別として、こんな男と親友になれたらいいなと思っていたんだ。

でも、会うたびにHをしていそうだ。

H込みの友人関係なんてあり得ないんだよね。

 

その3

ユノと交際する。

ユノに対して恋愛感情を持っているかどうかは、実のところよく分からない。

いい奴だし、身体の相性も最高だ。

運命の人だと見染められ、ユノが大事に守ってきた童貞を僕が奪ってしまった。

責任をとるべきなんじゃないかな。

こんな動機で付き合っていいものかどうか、良心がチクチクっとする。

こんなにいい男と付き合えるなんて悪くないんだけどな...。

でも、心に引っかかるものがある。

...ユノにのめり込みそうな予感がして、とても怖いんだ。

ボロボロに傷ついた過去、あの時の心の痛み、胸に差し込むような激痛を思い出すと、躊躇してしまう。

思い出に顔をしかめていると、突然「大丈夫か?」肩を揺さぶられた。

 

「...え?」

 

僕の身体を気遣う言葉をかけられ、涙が出そうに嬉しかった。

そう感じた自分に驚いた。

 

(よかった...。

ドン引きされなかった)

 

ケロッとした風のユノを見て、僕はホッとした。

男とヤッてしまったことに落ち込む男っているからさ。

「平気」って答えればいいのに、「ひどいよ、ユノ、僕を殺す気?」なんて、責めるようなことを言ってしまった。

 

「すまん!」

 

なんと、ユノは土下座したんだ。

 

「気持ち良すぎて、あんたのことを考えていなかった。

すまん!」

 

ここで思い出すのだった。

ユノとは『こういう男』なんだと。

ユノのハートはおちんちん同様、ピュアで熱く誠実だ。

力なくうな垂れたユノのおちんちんを目にした僕は、ひやっとした。

 

(やば)

 

それらしきゴミが見当たらない。

それどころか、パッケージを開けた記憶もない。

 

(ナマでやっちゃってた)

 

ユノのおちんちんを挿入する目的に集中するあまり、肝心のゴムを装着し忘れていた。

 

 

一緒にシャワーを浴びる前に、僕は後処理に取り掛かった。

ユノには見せたくなくて、浴室の外で待たせた。

とろとろとかき出される量がすごい。

(ああいう爽やかな奴こそ精力的だったりするんだよねぇ)

僕の指の間で糸を引くものを、しみじみと眺めた。

 

「もぉ...分かんないよ」

 

僕はその場にうずくまった。

シャワーのお湯が頭上から降り注ぐ。

 

「そろそろいいか?」

 

ドアの向こうから声をかけられ、「うん」と答えた。

 

開けたドアの隙間からひょこっと、ちょっと気まずそうな恥ずかしそうなユノが顔を覗かせていた。

 

ふわっと意識の上にのぼってきたのはこの気持ち。

 

「やだなぁ...すごい好きなんだけど」って。

 

(つづく)

 

(43)ぴっかぴか

 

~ユノ~

 

俺はいわゆる、情事の後の腕枕をしていた。

 

ここはチャンミンの住まいであり、ラブホの一室ではないが、元ラブホであるため、まるでラブホでアレした後、事後の余韻に浸る2人のように見える。

 

俺は今夜、脱・童貞を果たした。

 

初めてを捧げた相手は、なんと男。

 

2日前の俺だったらとてもとても想像できやしない、範疇を大きく外れた出来事。

 

しわくちゃのシーツに手を滑らせると、ねばついたものが指を汚す。

 

俺たちの全身を光らせているものは汗だけじゃなく、アナル専用ローションだったりする。

 

後でシャワーを浴びよう。

 

それにしても暑い。

 

ヘッドボードの温度調整のつまみを、手探りでひねった。

 

「......」

 

鼻先にくるんとした毛先が触れてくすぐったい。

 

視線を斜め下に傾けると、彫りが深いせいで眉骨の下からのぞく長いまつ毛と鼻先しか目にすることができない。

 

もっと顔を寄せてみれば、素晴らしく可愛らしいお顔を拝見できるのだが...。

 

距離の取り方がいちいち近いチャンミンに辟易としていたくせに、一度身体を重ねてしまった以降、その抵抗感が消えうせた。

 

俺はチンコを見せることもそうだが、物理的な距離を詰められることに抵抗があったのかもしれない、と自己分析。

 

長身痩躯の身体を横たえ、チャンミンの弛緩したチンコが頭を垂れている。

 

俺は自身のチンコに目をやった。

 

同様にしぼんでいる。

 

「......」

 

俺はもう童貞ではない!!!

 

もっと喜ばしい事実がある。

 

俺は『初めて』をこの男に捧げた。

 

これは『恋』なのだろうか。

 

身体から始まる恋。

 

2日前の俺だったら、反吐が出そうに軽蔑に価する関係性。

 

俺の気持ちは、というと『悪くない』だ。

 

悪くないどころか、『すげぇ、よかった』

 

人生初めてのHは...最高だった。

 

腰が溶けるかと思った。

 

慰めと生身の身体とでは雲泥の差。

 

特にフェラチオがヤバかった。

 

俺のチンコを咥え、上目遣いで「どう?」って...たまんねぇ。

 

思い出してきたら、俺の股間が充血してきた。

 

(2回目...いっちゃう?)

 

大事な人は、優しく扱ってあげたい。

 

俺がリードして、そいつに最初から最後まで気持ちよくなってもらいたい...一応、これが理想だった。

 

実際は、俺の方がマグロになっていた(恥ずかしい!)

 

イク瞬間、俺は野獣のような声をあげていた。

 

体位は騎乗位一本。

 

チャンミンの下で俺はただただ腰を動かし、弾ける快感に我を失ってしまった。

 

初回はこんなものだ。

 

2回目からは、もっと余裕をもったHにしよう。

 

身体を繋げたからこそ、心の結びつきがより高まりそうだ。

 

心が繋がってゆくにつれ、Hの充実度も高まろそうだ。

 

触らなくても分かる、俺のチンコはフル充電完了。

 

 

チャンミンちに向かう道中、ある考えがずっと引っかかっていた。

 

「男遊びが激しくて尻の穴が緩い奴」と、前カレがチャンミンのことを称していた。

 

チャンミンもそれを否定していなかった。

 

本来なら、深くかかわり合いたくない類の人種。

 

ふわふわの銀髪頭にぴっちぴちのズボンを穿き、胸元をはだけていた。

 

出会って以来、俺を求めていた(最初のうちは全然、気付いていなかったのだけれど)

 

それが下衆な動機だったとしても、この男は悪い奴には全然見えない。

 

過去に何十人もの男たちに抱かれてきたらしいし、元カレだか前カレだかに恨みを買っているらしいし...つまり、オトコ関係にだらしのない奴なんだけど、

 

無邪気というか。

 

彼のお上品で綺麗な顔がそう思わせているのかもしれないがな...うん。

 

そこで俺は考えをあらためた。

 

『そういうヤツ』だったこそ、俺と出会ったのだ。

 

 

俺の上でなまめかしく腰を動かすチャンミンを眺めていたかったのに、次々と押し寄せてくる快感の大波にさらわれた挙句、理性のストッパーが外れてしまった。

 

こいつが男だってことを忘れた。

 

性別など一切無視、ひとりの人間とぶつかりあっていた。

 

穴の正体にこだわる必要はなかった。

 

きゅうっと締め付けられて、温かくて、ぬめぬめしていて...。

 

堪らなさ過ぎて、叩きつけるように腰を激しく動かしてしまった。

 

(...しまった!)

 

チャンミンがずっと無言でぐったりしているのは、俺が乱暴過ぎたせいなのだ!

 

射精の後はお約束の賢者タイムに突入し、さっきのHを振り返ってみたりと自分のことしか考えていなかった

 

Hはなんと我を失わせるものなのか。

 

『運命』を連呼していた俺が、大切にしなければならない運命の人、『初めて』を捧げた人を二の次にしてはいけないだろう?

 

「大丈夫か?」

 

チャンミンの肩を揺さぶると むくっと頭を起こした

 

(涙目!)

 

「ひどいよ、ユノ...。

僕を殺す気?」

 

「すまん!」

 

俺は弾かれたように身体を起こし、土下座した。

 

「気持ち良すぎて、あんたのことを考えていなかった。

すまん!」

 

俺はもう一度頭を下げた。

 

「冗談だよ。

大袈裟な。

頭を上げて。

いたたた...」

 

チャンミンは顔をしかめ腰を押さえながら、そろりと起き上がる

 

「痛そうだな」

 

「痛いよ...。

どうしよう。

仕事できるかな」

とチャンミンはつぶやいた。

 

こいつの勤め先が老人ホームだったことを思い出した。

 

腰を痛めた状態で、じいさんばあさんを抱えるのは難しいだろう。

 

「ホントにすまん」

 

「たまにあることだから、心配しなくていいよ。

明日は休みだから」

 

過剰な心配をかけさせまいと、強がっているんじゃないかと、チャンミンの表情から本音を探る

 

「ユノのおちんちんが凄くってさ。

裂けるかと思ったよ」

 

チャンミンの下ネタに赤くなるどころか、「腰が立たなくなることが、『たまに』ある」のワードに引っかかってしまった。

 

軽い男だったからこそ、「運命の人」に相応しいなんて言っておきながら、早速のヤキモチかよ。

 

先が思いやられた。

 

「それよりか、僕こそ謝んなきゃ」

 

「なに?」

 

「ナマでやっちゃってゴメン」

 

「?」

 

チャンミンはつんつん、と俺の股間を指さした。

 

「いろいろあるからね、ゴム付けるのが常識なんだけど、余裕がなくってさ」

 

「そういえば...!」

 

「ゴメン。

だからシャワー浴びようか」

 

「おっけ」

 

チャンミンについてベッドを下りようとしたら、肩を押された。

 

「5分待って。

先に後処理だけさせて」

 

「後処理...」

 

「お尻のね!

ユノってホント、何も知らないんだね?」

 

呆れた風に言うチャンミンに、「俺にとってはどれもが初めてなんだよ」と俺はむくれた。

 

(ああ...。

唇を尖らせるとか、今までの俺じゃあり得ない。

チャンミンの癖が移ってしまったのかもしれない)

 

「ふふっ」

 

チャンミンの顔がすっと近づき、俺の唇をチュッと軽く吸った。

 

「そういうユノだからこそ、ユノがいいと思ったんだよ」

 

 

シャワー中、いちゃいちゃの末の第2ラウンドへとなだれ込むことなく、俺たちは作業的にシャワーを浴びた。

 

...多分、お互い気恥ずかしかったのかもしれない。

 

浴室が寝室より明るいせいで、互いの裸体を鮮明に見てしまえる。

 

さっきまで俺のチンコが挿っていたチャンミンの尻に目がゆかないよう、彼に背を向けて、ざぶざぶと股間を洗った。

 

 

シャワーを浴びてさっぱりした俺たちは、身の上話をすることにした。

 

話題は互いの職業について。

 

俺たちはまだお互いをよく知らない。

 

友人になりかけたところで深い関係を持ってしまったが、圧倒的に情報不足だ。

 

出身地や子供時代、家族構成、好きな色や嫌いな食べ物、それから初恋のこと。

 

知りたいことがいっぱいだ。

 

...俺はチャンミンと真剣に交際するつもりでいる。

 

(つづく)

 

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