(37)ぴっかぴか

 

~チャンミン~

 

この男のガードが固いのは最初から分かりきっていたことだ。

 

過去の経験上、ストレートの男の中でも遊び慣れた奴の場合ならば、遊び半分興味本位で僕の誘いにのってくる確率は高い。

 

しかし、この好青年にはその経験値が一切あてにならない。

 

ユノに後ろ抱きされている時、僕のお尻をはさむ太ももや、背中を包み込む引き締まった胸の筋肉感に、僕の中心はウズウズし始めた。

 

今さらだけど、下心だけでユノを僕の家に連れてきたわけじゃないのだ。

 

寂しい身体を持て余していた僕は、それを充たしてくれる身体を欲していた為、どうすれば僕の餌食になってくれるか、道中ずっと策を練っていたのは確か。

 

同時に、僕が落としてきた男たちと同様の扱いを、ユノに対して行っていいのか?」と、止めに入る自分もいたのも確か。

 

だってユノは善良過ぎる。

 

お尻の穴をあそこまでピュアな表情で見つめられたのは初めての経験だ。

 

『いいですか、ここはキタキツネの巣穴です。キタキツネは冬の間、この穴の中で出産子育てします』と説明をする先生。巣穴を観察する小学生のキラキラ輝く好奇心の眼...。

 

ジョークではなく、これは本気の誘いであることを悟らせなければいけない。

 

ただ誘うだけではいけないのが、身持ちの固い男ユノの難しいところだ。

 

身を捧げるのは運命の相手だけだと考えている男なのだ。

 

この主義に背く行為をユノに強いることになるため、絶対に彼の罪悪感を刺激してはいけない(ユノは背徳感にゾクゾクするタイプではないと推測)

 

僕と寝たとしてもチェリーは保たれたままだと納得させる為、無茶な論理をかざさなければならない。

 

僕と寝てきた男たち、恋人と称する男たちは、ほぼ全員僕のとりこになった。

 

僕から性的なフェロモンみたいなものが出ているのかな。

 

その気のない者でも、少し媚を売ればあっという間に下半身を膨らませる。

 

僕の方が常に優位にいる限り、それらを恋というのなら、そう悪いものじゃなかった。

 

『そういう男たち』のひとりにユノを加えてはいけない気持ちと、彼のペニスを喰らえこみたくて仕方がない欲求との狭間で僕は行ったり来たり。

 

ユノを欲求解消の道具にしてはいけない!

 

誰かの身も心も大事にしてやりたいと思える人物は、これまでいなかったと言ってもいい。

 

『自分の身体を軽々しく扱うな』と、ユノは言った。

 

似たような台詞を聞かされるのは、実は初めてではない。

 

僕と寝ていい思いをして、その後僕が他の男とも寝ていることを知って、僕の身持ちの軽さを非難し、僕に失望して去ってゆく。

 

さっきのユノの目は彼らのような蔑む目ではなくて、とても悔しそうな顔をしていたから、「あれ?」と思った。

 

ユノはとても怒っていた。

 

嫌われるようなことをしておきながら、嫌われたくなくて、ユノを帰らせまいと通せんぼした。

 

ユノを僕の家に連れてきた理由が分からなくなっていて、内心パニックだったのだ。

 

せっかくユノを自宅に連れてきたのに、本当はこんなこと...ベッドに誘う...なんてしたくなかったのに。

 

僕の有り余る性欲に埋もれていたせいで、見つけられずにいた本心が顔を出した。

 

ユノと仲良くなりたいのにまっとうな近づき方が分からなくて、身体から迫ってしまった。

 

あ~あ、僕って馬鹿。

 

 

...と、今夜の言動を反省していた時。

 

「チャンミン...。

身も心も、俺と全てを繋げる覚悟はあるのか?」

 

「え?」

 

ユノの声のトーンがすっと低くなり、『軽々しく』誘ったことを叱られるな、と思った。

 

「チャンミンは本気なんだよな?

俺も本気になってもいいんだな?」

 

「え?

それはどういう...?」

 

ユノが言わんとしていることが理解できなくて訊き返した。

 

「Hするのに『愛は要らない』なんて言うなよ」

 

「でもっ...好きじゃない奴とでもHはできるものだよ」

 

「俺はできない」

 

「そ、そうだね。

人によるからね」

 

「チャンミンは、できる奴なんだ?」

 

まともに訊ねられるて言葉に詰まる。

 

「そ、そうだね...。

できる...方かも。

ムラムラっとしたら、スカッとしたいな、って...そんなノリ。

僕も男だしさ。

性的嗜好は関係ないと思う。

僕がこういう人間なんだよ。

人生舐めてるっていうの?

ちゃらんぽらんなんだ、あははは。

......あれ?」

 

ユノから白々しい視線を注がれ、僕は空笑いをぴたりと止めた。

 

「俺はできない。

愛がないHはできない」

 

「う...うん。

知ってる」

 

「じゃあ、どうして俺を誘った?」

 

「!!」

 

あっという間にベッドに押し倒され、僕はユノにまたがられていた。

 

「待って、ユノ!?

どうしたの?」

 

願ってもない展開に感謝するどころか、想定外過ぎて理解が追い付かない。

 

起き上がろうとしたら阻まれた。

 

「俺...分かったんだ」

 

「分かった?」

 

「分かったんだよ!」

 

ユノは僕の肩をつかんでぐらぐらと揺すった。

 

「ちょっ...ユノ!」

 

「分かったんだ!」

 

「何がだよ!」

 

「これまで何人かの女の子と付き合ってきた。

でも、この子とならHをしてもいいと思える子とは巡り合えていない...って話したよな」

 

「何度も聞いたよ」

 

「巡り合えなくて当然なんだ」

 

「そうだよ。

ユノみたいに理想が高いと、見つかりっこないよ。

それにセックスを神聖化し過ぎだよ。

セックスってドロドロぬるぬるしてて、汚いものなんだよ。

理性なんか吹っ飛ぶしさ」

 

「違う!」

 

きっぱり否定するユノに、僕は『チェリーのくせに何を言ってんだ?』と内心呆れていた。

 

「巡り合えていなかったんだ!」

 

「しつこいなぁ、何度も言わないでよ」

 

「それがさ、ついに巡り合えたんだ!」

 

「ホントに!?」

 

ガバっと身を起こそうとしたら再び阻まれ、その乱暴さにマットレスが揺れた。

 

「今になって分かったんだよ」

 

「今さら?」

 

「ああ。

俺の行動範囲では絶~っ対に出会えない人種だったんだ。

そいつのビジュやキャラに圧倒されてて、結び付けられなかっただけだった」

 

「......」

 

「あそこで出逢えたことが運命なんだよ。

運命の相手は男なのに、どれだけ女の子と付き合っても見つけられなかった...っていう意味じゃないぞ?」

 

「ちょっと待って!

ユノの言う運命の相手って...?」

 

「チャンミン、あんただよ」

 

「えええええ~~~!」

 

(つづく)

 

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(36)ぴっかぴか

 

~ユノ~

 

俺はだんだん腹がたってきた。

 

反応してしまった俺のムスコの見境のなさと、チャンミンが相手ならヤレるかもと思ってしまった自分に、だ。

 

「僕はオトコだ。

ユノが挿れる場所は女の子の穴じゃない」

 

「確かに...」と、納得させられそうになるから恐ろしい。

 

チャンミンのマジな眼がいけない。

 

だから迷いが生じたんだ。

 

迷っている時点で、誘いに乗っているのと同然ではないか。

 

事実、俺の身体は反応しかけていて、それはつまり、チャンミンの説得にイエスと頷いているのと同然ではないか。

 

ぐらぐら揺れる俺に、チャンミンはとどめを刺しに来る。

 

「お尻の穴だ。

穴に意味はない」

 

「......」

 

「妊娠の心配はない。

2人で気持ちよくなるための穴だ。

それだけだ」

 

「『それだけ』?」

 

チャンミンは頷いた。

 

「僕とのセックスに意味はない。

愛はいらない」

 

チャンミンは俺の頬を両手で挟むと、鼻の先同士がくっつきそうな距離にまで顔を近づけた。

 

「!!」

 

キスされるのではと、反らしかけた顔はチャンミンの手にホールドされてしまった。

 

「ねぇ、気持ちよくしてあげるから」

 

チャンミンの熱い吐息が直接唇に吹きかかる。

 

「僕、ユノのことが気に入ったんだ」

 

「......」

 

徐々に分かってきた。

 

俺を腹立たせたものの正体を。

 

...それは、チャンミンの軽々しさだ。

 

この男は誰に対してもそうなのか?

 

俺たちは知り合ったばかりの間柄で、互いの素性は知らないも同然(自宅の住所と職業、シモの毛事情程度か?)

 

俺ってもしかして、いわゆる『ナンパ』されたのか?

 

俺のことを性的に見ていたのか?

 

男なら誰でもいいのか?

 

この2日間、ちょいちょいそれらしい言動で俺をからかっていたが、実は半分本気のものだったのか?

 

マッチョなタクシードライバーが言っていたことは本当で、俺も彼と同様な目に遭うのか?

 

俺はそれに気付かずにいたし、当然のことながらチャンミン相手にその気は全くなかった。

 

それどころか、面白い奴だと興味が湧いていて、友達になれるかもしれないとまで思いかけていたのだ。

 

「もう1度言うよ?

僕のここは、女の子の穴じゃない。

だから、ユノはチェリーのままでいられる」

 

「なんだよ、その理屈は?」

 

「ただのオナホールだと思って構わない」

 

一瞬で我に返った俺は、チャンミンの手を払いのけて怒鳴った。

 

「ふざけんな!」

 

俺の剣幕にチャンミンは茫然と、払いのけられた手は宙に浮かせたままでいる。

 

俺はゆっくりと、絞り出すように言った。

 

「自分の身体を軽々しく扱うな!」

 

「...っ!」

 

俺の剣幕に我に返ったチャンミンの顔からは、妖しげな笑みが瞬時に消えた。

 

俺は勢いよく立ち上がった。

 

「帰る!」

 

俺の腰にまたがっていたチャンミンは、その勢いで湯船に背中からひっくり返ってしまった。

 

腹が立っていた俺はそんなチャンミンに手も貸さず、彼をまたいで湯船から出た。

 

「待って!」

 

浴室を出て行く俺をチャンミンは追いかけた。

 

「やだ。

待って!」

 

「......」

 

俺の身体から滴る水で、床に水たまりができてしまった。

 

「行かないで」

 

「......」

 

俺はすがりつくチャンミンを無視して、服を着た。

 

びしょ濡れの身体に衣服が貼り付き、下着ひとつ身につけるのに手こずる自分にも苛立っていた。

 

「ごめん、ごめんね。

言い方が悪かった」

 

チャンミンが手渡してくれたタオルを受け取り、頭を拭いた。

 

「......」

 

「僕の周りの奴らはみんな、そういうヤツばっかなんだ。

だから、同じノリで接しちゃっただけなんだよ」

 

「『そういうヤツ』?

どういうヤツなんだよ?」

 

Tシャツを着終えた俺は、その辺りに置いたはずのバッグを探していた。

 

「僕をひとりにしないでよ」

 

キョロキョロする俺の前を、チャンミンが立ちはだかった。

 

「ごめんね!

僕が悪かった。

謝るから帰らないで」

 

俺のバッグを抱きしめ、涙目の上目遣いのチャンミンは全裸のままだ。

 

「ああいうことは、もう言わないから。

さっきのは忘れて」

 

俺の偏見がそうさせてしまっているのだろうか...チャンミンが可哀想になってきた。

 

ストーキング男。

 

ダイヤモンドを贈り、除毛を命じた男。

 

力自慢の未練たらたらタクシードライバー。

 

この男の過去のオトコには、ろくな男はいないのか。

 

それも無理はないか...と思った。

 

この男の見た目は綺麗過ぎるし、態度も軽薄だ。

 

軽薄な態度は、軽薄な人間関係しか生まず、ついには軽薄な人間しか寄ってこなくなる。

 

その軽薄さの発端が何だったのかは知らないが(過去のトラウマ?)

 

チャンミンの思う『友人』とは、肉体関係込みのものかもしれない(その辺りのすり合わせは必要だな)

 

たまたま知り合った俺に対しても、いつものノリで軽薄に誘ってしまったのだろう。

 

俺はチャンミンを...フルチンのままバッグを抱きしめ、泣き出しそうな顔をした男を見つめていた。

 

「こんな僕で...ごめん」

 

無様な恰好のまま置き去りにして、部屋を出て行ってしまうこともできた。

 

チャンミンの誘いにのれない男なら、そうしてしまっただろう。

 

『気持ち悪いんだよ?

男とデキるわけね~だろ?』と、吐き捨てて。

 

男とHができるかどうか?...確かにこれは越え難い壁だ。

 

けれども俺が抱いた嫌悪感は、そういう類のものではなく、チャンミンの軽々しさなのだ(身体は反応してしまったけれども)

 

俺にとってセックスとは、快楽を求める為だけのものではない。

 

神聖なものなのだ(ヤッてもいないのに)

 

チャンミンはその主義を知っているくせに、俺を誘ってきた。

 

俺の主義を曲げようと、あの手この手で説得にかかってきた。

 

自身の身体を道具のように扱うチャンミンが嫌だったのだ。

 

その点は、チャンミンが男だろうが女だろうが関係ない。

 

「...わかったよ」

 

ホッと、チャンミンは張りつめていた表情を緩めた。

 

俺はチャンミンにタオルを放ってやると、ベッドに座るよう促した。

 

「いつもそうなのか?」

 

「え?...」

 

「ああやって男を誘ってるのか?」

 

誤魔化しは許さないぞと、俺はチャンミンを真っ直ぐ見据え、彼の答えを待った。

 

「僕の癖というか...僕にとって当たり前のことというか...。

ユノと仲良くなりたいな、って」

 

「俺と仲良くなりたい...ね」

 

チャンミンは俺のバッグを深く抱きしめ、こくりと頷いた。

 

「ユノは?

ユノは僕と仲良くなりたい?」

 

「っていうか、既に仲良いじゃん。

どうでもいい奴を助けに行くかよ」

 

「...ありがと」

 

俺は思い起こしてみた。

 

ズカズカと無断で俺の席につき、失恋直後の俺を慰めようとしてくれたこと。

 

髪型といい服装といい、見た目がすごかった。

 

誰にも明かしたことのないこと...童貞...を、こいつならばとカミングアウトした。

 

無邪気に尻の穴を見せられた時の衝撃。

 

見た目のチャラさに反して、職業がまさかの介護士だと知った時のギャップ感。

 

悪態をつきながらも、前彼に拘束されているチャンミンを救出するために、大慌てで家を出た時の俺の感情。

 

気付いたら一緒に湯船に浸かっていた。

 

「あんたは面白い奴だし、放っておけないっていうか...。

驚きの連続だったよ」

 

言いながら顔が熱くなってきた...どうやら俺は照れているようだ。

 

「そうだね」

 

チャンミンの腕からバッグを奪い取った。

 

絶望的に顔をゆがめるものだから、「帰らね~よ」と言って安心させた。

 

「服、着ろよ。

寒いだろ?」

 

帰る気は無くなっていた。

 

「あんたは俺の主義を知っているよな?

知っていて誘ったんだろ?」

 

「...うん」

 

「俺と本気でしたかったんだろ?」

 

「...うん」

 

「チャンミン...。

身も心も、俺と全てを繋げる覚悟はあるのか?」

 

「え?」

 

俺はチャンミンの肩をつかんだ。

 

裸の肩は、見た目の華奢さに反して男らしいがっちりとしたものだった。

 

「チャンミンは本気なんだよな?

俺も本気になってもいいんだな?」

 

「え?

それはどういう...?」

 

俺の言葉が意外過ぎるのか、チャンミンは目を丸くさせて戸惑っているようだった。

 

それもそうだろう。

 

俺だって、こんなことを言い出した自分に驚いているのだ。

 

俺を帰らせまいと、立ちはだかったチャンミンを目の当たりにした時、カチリと歯車が合わさったというか、枯れ草の中から針を見つけたというか...とにかく簡単には説明できない何かの辻褄があったのだ。

 

「Hするのに『愛は要らない』なんて言うなよ」

 

このあと俺は、とんでもないことを口走るのだった。

 

(つづく)

 

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(35)ぴっかぴか

 

~ユノ~

 

「『してみる?』って、つまり...?」

 

何を意味しているのかちゃんと理解しているのに、俺はとぼけている。

 

「つまりもなにも、僕と『セックスしましょう』という意味だよ」

 

「......」

 

再び俺は黙り込んでしまった。

 

チャンミンという男の言葉...冗談めかしているがおそらく本気。

 

俺の両腿の間にチャンミンの腰がすっぽりおさまっている。

 

高い大理石調の天井に反響しているかのように、「セックス」のワードが俺の耳にしつこく残っていた。

 

俺の喉仏がごくり、と上下した。

 

照明を消しているせいで、水音がうるさい。

 

隣室からシャワーの音が聞こえる。

 

このアパートが本来の目的に使用されていた頃(つまり、ラブホテルとして営業していた頃のこと)、さぞかし妖しい声が漏れまくっていただろうな、と予想する俺だった。

 

女の子を喘がせたことのない俺が言うのも何だけど...。

 

「ねぇ、ゆの」

 

俺からの返答待ちだったチャンミンは、しびれを切らしたようだ。

 

「......」

 

「僕と今からセックスしましょう」

 

「は~!?

なんで俺がお前と、セ...セッ...エッチしないといけねぇんだよ!

意味分かんね~」

 

「僕とのセックスには深い理由はないよ」

 

「!」

 

俺たちの身体が、ぼわっとピンク色の灯りに浮かび上がった。

 

チャンミンが浴室に仕込まれた照明スイッチを点けたのだ。

 

俺の顔のすぐそばに、振り向いたチャンミンの顔があった。

 

俺はごくり、と喉を鳴らした。

 

シミひとつないすべすべした頬と、軽く開いた口と濡れた唇。

 

うるうる潤んだ眼で俺を見つめている。

 

「なっ...なんだよ。

意味がない、ってどういうことだよ?」

 

後ろ抱きにしているチャンミンの尻の割れ目に、俺のムスコが当たっている。

 

両脚の間におさまったチャンミンを、『抱く側』の立場で感じとってみた。

 

(ほっせぇ腰)

 

濡れた後ろ髪が張り付いた首は、すんなりと長く細い。

 

意識したらいけない、と自制するほどに、俺の前は反応し始めた。

 

「!!!!」

 

きっとチャンミンの背中は、バクバクいう俺の心臓の鼓動を感じとっているに違いない。

 

「ゆののあそこ...当たってるよ」

 

「う、うるせぇな!

嫌なら下りろよ。

俺んとこに座ったあんたが悪い」

 

チャンミンの肩を押しのけようとしたが、華奢であっても彼は男、頑として動かない。

 

さらには「やあだよ~」と、俺の両腿を抱え込み、すりすりと自身の尻を俺の前に擦りつけ始めたではないか!

 

「やめろって!」

 

「やあだよ」

 

「はあ...」

 

ああ、ここでべろんべろんで酔っていないことを心底悔いた。

 

なぜかというと、信じられないことに俺の心に、一瞬だけど迷いが生じたからだ。

 

『チャンミンを抱けるかもしれない』と!

 

『いけるんじゃね?』と!

 

「...俺をからかうのはよせ。

あんたにとって『それ』が普通でも、俺は違うんだ」

 

「からかってない。

僕は相手の性的嗜好は気にしないよ。

ユノが女の子にしか興味がないってことは分かってる」

 

「分かっているなら...うっ」

 

俺の口から思わず、呻き声が漏れた。

 

チャンミンが俺のくるぶしから膝上までを優しく撫でさすり始めたのだ。

 

「やめろ...っ」

 

「やだ」

 

悪さをするチャンミンを制止しようと、俺は彼の両腕ごと後ろから抱きすくめた。

 

身じろぎする上半身を抑え込むため、回した両腕に力をこめた。

 

「ユノが貞操を守ってるのは、『女子相手』でしょ?

女子の膣に挿入することが、ユノにとって重大な意味を持ってるってことでしょ?

挿入されたユノのムスコの先には子宮と卵子が、ユノの精子をカモンって言ってる」

 

「なんてあからさまな...」

 

ズケズケ口にするそれらの単語に、俺は恥ずかしくなってしまう。

 

「その通りじゃん。

快楽を求める行為だけど、本来の目的は受精でしょ?

プラス超絶デリケートな箇所同士、組み合わさってひとつになるわけだから、大好きな子と一体になった充実感も加わってさ...ユノ、やられちゃうね」

 

(否定できない...)

 

チャンミンは俺の太ももの間でくるんと、身体を180度回転させた。

 

そして、俺の腰の上にまたがった。

 

「おい!」

 

「ユノって真面目だもん。

性欲はあるのに、トラウマのせいでセックスが怖い。

トラウマを打ち砕くことができるような子と出会っちゃったときには、最後まで責任とっちゃいそう」

 

「責任だなんて...。

そこまで...ガチじゃねぇよ」

 

と否定してみたものの、本心は「ガチ」なのだ。

 

最後まで責任を持つ覚悟で身体を繋げる。

 

俺の恥ずかしい秘部を見せるのだから、相手にも真剣さを求めてしまう。

 

...つくづく俺は重い男だ。

 

だからチェリーなのだ。

 

「ガチじゃなくても、安心して身を任せられる相手じゃなくっちゃあ、ユノはおちんちんを見せたくないんでしょ?

挿れたくないんでしょ?」

 

「......」

 

アルコールが未だ抜けきっていないせいなのか、それともエロスモードに入ったせいなのか、まぶたを半分落としとろんとした目で俺を見下ろしている。

 

浴槽のライトがピンクからパープルに変化した。

 

俺の肩に置いていたチャンミンの手が俺の耳たぶへ移動した。

 

ぞくり、と鳥肌が立った。

 

「ほらほら~。

ユノのあそこ...反応してるよ」

 

「...っ!」

 

「僕のお尻に...当たってる」

 

チャンミンの奴、腰を上下させ始めたのだ。

 

「うっ...」

 

俺の根元にきゅん、と強い痺れが集中した。

 

「た~いへん。

もっとおっきくなっちゃった」

 

「そういうこと...言うなよ。

刺激されたからだよ。

誰だってしごかれたら、反応しちまうって...っ」

 

「僕もオトコだから...よ~く分かるよ。

身体は誤魔化せない」

 

「分かってるのなら、俺を煽るのはよせ!」

 

「やだ。

ふふ。

オトコにまたがれて、ゆの、感じちゃってるね?

いいのかなぁ?」

 

チャンミンの腰を揺れるたび、ぬるくなったお湯がちゃぷちゃぷ音をたてた。

 

「よくねぇよ。

俺から下りろよ。

これ以上刺激するなって」

 

「や~だよ」

 

(くそっ!)

 

俺は腹がたってきた。

 

(つづく)

 

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(34)ぴっかぴか

 

~ユノ~

 

目線の斜め上に、チャンミンのアレ。

 

何度も言うが、チャンミンのアソコはノーヘアだ。

 

(海外の男優たちは揃って無毛だったし、近年、全身脱毛する男子も多いそうだし、そう珍しいものじゃないが...)

 

チャンミンの指は根元に添えられている。

 

(もしここで、むくむくと大きく膨らんでいったら、「なに欲情してんだ!」とどついて、目をそらしていた)

 

局部の色とは黒ずんでいるものだが、チャンミンのアソコは肌色...皮をかぶっていて中身の色は確認できない。

 

「......」

 

「どう?」

 

「...どう、って?」

 

女の子のことは好きだし、裸は見たいし触りたい。

 

でも、俺のアレを見せた時の女の子の反応が怖い、俺のアレで女の子を怖がらせたくない、女の子の喘ぎ声が怖い...セックスが怖い。

 

「この子だ!」と直感に響いた子ならば、俺のアレを見ても眉をひそめたりしないだろうから。

 

交際期間を重ねてゆけば、信頼関係や愛情も深まって、「この子なら!」と実感していくのだろうけど、彼女たちがノーセックスで我慢していられるのも半年が限界だ。

 

...そりゃあ、ムラムラはするし、大好きな人と素肌同士で抱き合いたいさ...恋人同士になったからこそ得られる、とても大事なものを逃してしまっていることは、よくわかってる。

 

童貞を貫かざるを得なくて、何が悪い。

 

...でも...。

 

チャンミンは根元に添えた手で、アレを揺すってみせた。

 

「!!」

 

「これ見て...気持ち悪いと思う?」

 

他人のアレをじっくり眺めまわしたのは初めてだった。

 

「...いや。

チャンミン、チェリーだって話してたよな?

あんたが女の子と経験がないのはまあ...分かるけど。

チェリーってのはさ、男に対しても、っていう意味なのか?」

 

気になっていたこと聞いてしまったけど、露骨過ぎたかなぁ、と思った。

 

「うん。

僕はここを使ったことがない」

 

「へえぇぇぇ」

 

ノーヘア、色素薄目スキンで、グロさはない...ぴっかぴかの新品状態かぁ。

 

俺は知らず知らずのうちに身を乗り出して、チャンミンのアソコをじっくりと観察する目で眺めまわしていたことに、ハッとする。

 

俺は何をしてる?

 

チャンミンはくるりと俺に背を向けたから、「何をするんだろう?」と思っていたら...。

 

「!」

 

チャンミンの奴、俺の両脚の間にすっぽりとおさまったのだ。

 

「......」

 

困ったのは、俺の二本の腕のやり場だ。

 

チャンミンと恋人同士だったら、後ろから抱きしめたりなんかするんだろうが...。

 

あいにく俺はその手の趣味はない...だがしかし。

 

男の生肌に密着中。

 

俺のアレがチャンミンの後ろに押し付けられている。

 

「......」

 

昼間に目にした通りその尻は小さい。

 

俺の前がチャンミンの後ろに当たっている。

 

俺もチャンミンも童貞だけど、彼はセックス経験者だから、俺とは経験値が随分違う。

 

その経験値も、これまでの会話で仕入れた情報によると相当らしい。

 

前が未使用なら後ろは使用済というわけだ。

 

そうかぁ...チャンミンはあのタクシー運ちゃんマッチョ男とセックスしていたのか。

 

あの男は、乱暴なえっちをしそうだ。

 

ごちゃごちゃと考えているワケは、今この時の状況に大困惑しているからだ。

 

チャンミンも無言のままだ。

 

(何か言ってくれ!)

 

気まずくって、俺は壁に取り付けられた操作パネルのボタンのひとつをひねってみた。

 

「わ!」

 

天井灯が消え浴室内が暗くなった。

 

この建物は老朽化が進んでいるらしく、パネルに印刷された文字が消えかけていて、照明ボタンだったとは分からなかったのだ。

 

ちゃぽんとお湯が立てる音が、耳にやけに響く。

 

ドキドキドキドキ。

 

俺の全神経が、チャンミンの尻に集中していた。

 

「ゆの」

 

おもむろに、チャンミンは俺の名を呼んだ。

 

(『ゆの』だったから、嫌な予感がする)

 

「...何?」

 

「僕とエッチしてみる?」

 

(はあぁぁぁぁぁ?)

 

(つづく)

 

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(33)ぴっかぴか

 

~ユノ~

 

「セックスを嫌悪しているかもしれない」

 

身体を洗いながらできる話題じゃない。

 

泡を洗い流した後、湯船に浸かった。

 

この俺の行動に、先に湯船に浸かっていたチャンミンは驚いたようだった。

 

「小学6年の時だっけな

この年頃ってさ、オナニーを覚えるじゃん?」

 

チャンミンはうーんと、視線を宙に彷徨わせたのち、

「僕はもうちょっと早かったかな。

小学3年生...もうちょっと早かったかな...2年生頃?」と言った。

 

(早っ!

なんと早熟な!)

 

「へえ、マセてたんだなぁ」

 

「そう...なるかなぁ。

いじってたら気持ちがいいってことに気づいてさ。

エッチな気持ちもプラスされたのは、5年生頃だよ」

 

おかずにしたのは『男』だったのか訊いてみたかったけれど、話が脱線してしまうから後日にまわそう。

 

誰にも打ち明けるつもりのなかった秘密だ。

 

「この子だ」と思えた子としかしたくない主義は、今から話す出来事の結果だ。

 

なぜ、チャンミンになら暴露してしまってもいい、と判断したのか?

 

これも俺の偏見なんだろうけど、男が好きなチャンミンは恋愛ごとや、セックスがらみのことで、何かと嫌な思いをしたり、悩みを抱えたことが多かったんじゃないかと想像している。

 

同性同士だから、異性間の恋愛と比較して苦労も多い、と思い込んでしまうあたりが俺の偏見だ。

 

下半身事情に詳しいだろうし、俺のカミングアウトに深刻ぶった反応を見せないだろうといった安心感があった。

 

そうであっても、勇気は必要だった。

 

すくったお湯でごしごし顔を洗った。

 

(お湯は、入浴剤が投入されていてイチゴミルク色をしていた。香りは薔薇?その辺のことに俺は疎い)

 

「近所の子らと...中学生もいた...部屋に集まってさ、エロ動画を見たんだ。

俺は初心な子供でさ、11歳になるまでどうすれば子供ができるのか知らなかったくらいだったんだ。

保健体育で説明はあったけど、精子がどうやって女の人のアソコに到達するのか謎だったんだ。

お空を飛んでいくんだとか、一緒に風呂に入った時に水中を泳いでいくとか...」

 

チャンミンは湯船の縁に頬杖をついて、俺を馬鹿にすることなくじっと、恥ずかしい打ち明け話に耳を傾けてくれている。

 

「そりゃあ、勃つだろう?」

 

「うん、分かるよ」

 

「3、4人集まっていたかなぁ。

俺が一番年下だった。

勃ってるのバレてしまって、『見せてみろ』ってなっちゃってさ。

『どうぞどうぞ、見てください』なんて言えるわけないだろう?」

「うん。

でも、ユノのは平均値はクリアしてるから、自信もっていいんじゃないの?」

 

(平均値...そうか、チャンミンはこれまで何本ものアレを目にしてきたわけだ。

説得力はある。

...しかし、今はサイズを論ずる時じゃないのだ)

 

「デカいとか小さいとか気にするトコまで、マセてねぇよ。

いいか?

精子が尻尾をパタパタして、女の人のソコめがけて飛ぶんだと思ってたくらいのガキだぞ?」

 

「...そっか」

 

「でさ、最悪なことに、勃ったあそこをさ、好きな子にバッチリ見られちゃった。

その子の兄ちゃんちに集まってたんだ」

 

「...うわぁ...」

 

チャンミンは大量にかいた汗をぬぐうついでに、両手で前髪をかきあげた。

 

真っ直ぐ太めの眉が露わになったことで、フェミ男だとみなしていたチャンミンにも男らしい表情があるんだと、ドキリとした。

 

(男の象徴をぶら下げてはいるが、俺にとってチャンミンは男であって男じゃないのだ)

 

「で、どうなったの?」

 

「ご想像通り。

嫌われたよ。

小学校を卒業するまでの1年間、完全無視だった。

けがらわしいものを見る目だったなぁ...」

 

「けがらわしい目、ってとこがポイントなんだね」

 

「たかだか2,3秒のことだったと思うけど、俺とその子は目を合わせていた。

その子が襖をぴしゃっと閉めて、階段を下りていった。

その子が襖を開けて、閉めていってしまうまで、音が消えていたね。

で、襖が締まった途端、音が戻ってきた。

PCのスピーカーから、女の人がひーひー喘いでいる声がね。

苦しがっているように聞こえた。

...醒めた」

 

「思春期の入り口に立ったばかりの女子には、ショッキングだったろうね。

その子もユノのことが好きだったりしたら...トラウマになっちゃっただろうね」

 

「人にしてみたら大したことないかもしれんが、俺にとっては大事件だった。

精神的にじわっとくるヤツ。

俺は...女の子にアレを見せるのが怖いんだ。

それから、ネコみたいな声を出す女の子にも、引いてしまうと思う」

 

言い終えた時、チャンミンは派手な水音をたてて立ち上がった。

 

俺のちょうど目の高さに、つるっつるな色素薄めなアレがぶら下がっていた。

 

(つづく)

 

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