(1)抱けなかった罪

 

両手を彼の枕元について、俺は寝顔を見下ろしていた。

 

彼は眠っていた。

 

閉じたまぶたが、震えている。

 

夢をみているのかもしれない。

 

わずかに開いた口元から、アルコールの強い匂いがする。

 

はだけたシャツからのぞいた薄い胸と、そこから繋がる長い首が艶めかしかった。

 

視線を下に移すと、太ももまで引き下ろされた細身のデニムパンツ。

 

俺は横たわっている彼の上に四つん這いになって、じっと見つめていた。

 

ああ、たまらない。

 

両脇についた手を、ぎゅっと固く握りしめた。

 

彼の首の付け根に付いた赤い痕。

 

さっき俺が付けてしまった、赤い痕。

 

俺はもう、制御不能に陥りそうだった。

 

 


 

 

「ユノ!

いい加減にしたらどうです?」

フライドポテトを咀嚼しながら、隣のチャンミンが俺の脇をつついた。

次の講義までの2時間を、カフェテリアで俺たちは時間を潰していた。

俺は恋人が出来ては別れるを短いスパンで繰り返している。

フリーの時はセックスにあけくれるような、「軽い男」だ。

それにひきかえチャンミンは、万年片想い。

あっという間に恋に落ち、思いつめ、真正面からぶつかって玉砕するを繰り返すのを、俺は4年間見てきた。

ちらっと、隣でフライドポテトをパクつくチャンミンを見やる。

チャンミンはよく見ると綺麗な顔をしているし、ひょろりと痩せすぎているが、手足が長いためシンプルなコーデでも見栄えがした。

 

なぜこうも恋が実らないのか、よく分からない。

相手を射るようなまっすぐ過ぎる眼差しに、相手が怖気つくのでは、と俺は分析しているけど。

彼氏いない歴21年。

そうだ。

 

チャンミンが好きになるのは、男限定。

 

そのことを、出会った時から隠さなかった。

 

むしろ、堂々としていた。

 

「いつかユノにバージンをあげますね。

​誰ももらってくれなかったら」

「お断りする。

​お前相手だと、勃たないかもしれない」

「ユノみたいな見境ない人に断られるなんて、男として終わりました」

膝に顔を伏せて泣く真似をするチャンミン。

「冗談だよ。

​俺みたいな軽い男じゃなく、好きな奴のためにとっておくんだ」

「大事にしているうちに、骨董品になっちゃうよ」

 

「しょうがないな。

骨董品になりそうになったら、もらってあげるよ」

チャンミンの兄貴になったような気分で、彼の頭をぐしゃぐしゃとなでた。

「ユノは経験豊富だから、痛くないようにお願いします」

「プレッシャーだな。

男相手はしたことないだけどなぁ」

チャンミンといるのは楽しい。

チャンミンといると気が楽だ。

「ユノには何でも話せます」

ああ、俺も同感だ。

「モテない男とモテる男だなんて、正反対なのにね。

不思議ですね」

同感だ。

周囲が怪しむくらい、俺たちは常に一緒だった。

それでも。

 

俺とチャンミンは『そういう関係』にはならない。

 

 

 

 

カフェテリアを出た俺たちは、講義棟へ続く道を歩いていた。

 

「ユノは、カッコいいですね」

「俺の彼女になりたい子たちは、俺の顔が好きなんだよ」

「それは事実でしょうね」

チャンミンは俺の顔をまじまじと見つめる。

間近に迫ったチャンミンのツヤツヤとした瞳にドキリとする。

日光があたった瞳が薄茶色だった。

 

「顔よし、スタイルよし、頭よし。

三拍子揃ってますね」

俺を観察し終わったチャンミンは、歩調をゆるめて俺の背後にまわった。

「ユノ。

『俺のルックスだけじゃなくて、ハートも好きになってくれ』って女の子たちに求めるばかりじゃないですか?

ユノの方も、彼女たちの見た目に惹かれたんじゃないですか?

お互い様なんじゃないですか?」

「え?」

思わず後ろを歩くチャンミンをふりかえった。

「ユノの方からも、彼女たちを好きにならないと駄目ですよ」

「......」

図星だった。

 

彼女たちは甘い砂糖菓子だ。

 

最初のひと口は夢のようだけれど、ふた口目からは胸やけしてくるからもういらない。

「モテない僕が説教しても、説得力ないですね」

ハハハと自嘲気味に、チャンミンは乾いた笑い声をたてる。

笑いながらも、俺に向けられたチャンミンの瞳は、鋭い光をたたえていた。

油断していると、チャンミンのそんな眼差しに射られそうになる俺がいた。

 

チャンミンは常に、俺以外の誰かを見つめている。

 

チャンミンの眼には、男友達としての俺しか映っていない。

 

チャンミンにはむやみに手を出せない。

 

俺がチャンミンと「そういう関係」にならないのは、チャンミンに魅力がない訳じゃない。

 

「そういう関係」にならないよう、俺が自制しているからなんだ。

 

その反動なのか、最低な俺は、砂糖に群がる蟻のように寄ってくる女の子を次々といただいている。

 

「いい加減にしたらどうですか?」とチャンミンが言うのは、そういう訳だ。

 

 

(つづく)

 

 

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(後編)Heavenへのスイッチ-秘密の花園-

 

「チャンミン!

服もらってきたぞ」

 

「おかえりー」

 

夕食の準備をしていたチャンミンは、大きな紙袋をさげたユノの首にかじりついた。

 

「く、くるしぃぃ」

 

ユノはがっちりと首に巻き付いたチャンミンの腕を叩く。

 

(チャンミンの愛情表現は激しい。

外ではおとなしい顔をしてて、2人きりになった途端、豹変するんだから)

 

「ごめん...ん?

その袋は何?」

 

「ああ、洋服だ。

チャンミンのために貰ってきた。

うちのバイヤーが仕入れてきたサンプル品なんだ」

 

紙袋を逆さにしてどさっと中身を落とすユノに、チャンミンは「ユノは思い切りがよくて、大胆だ」と心の中でつぶやき、慎重派で優柔不断気味の自分と正反対だ、と思った。

 

「こんなにいっぱい、ただで貰えるんだ」

 

サンプル品のため、日常使いしづらい色柄ものや、トップスなのかボトムスなのか判別できない奇天烈なデザインのものばかりで、

 

「どれも僕にはとても、着こなせないよ」

 

「チャンミンはスタイルがいいから、大丈夫だって。

これなんかどうだ?」

 

「うーん...」

 

学生時代のショップ店員のバイトをしていたユノは、卒業後、請われてそのアパレルブランドに就職したのだった。

 

現在はMDとして全国各地を出張する忙しい身で、留守番役のチャンミンは寂しい思いをしていた。

 

(手足が長くてスリム体型だから、ユノは何を着ても似合う。

いつもお洒落で、カッコよくて...。

ユノが遠い存在になっていくみたいだ)

 

エプロンを付けた自分を見下ろしていると、「着てみ」とユノから洋服のひとつを手渡された。

 

「セーター?」

 

ニット素材のそれを広げてみると、長い。

 

非常に長い。

 

「セーター、じゃないね。

腕が...ない...ってことは、ベスト?

あれ?

...ベスト、でもない。

マフラーにしては、大きいよね。

ねぇ、ユノ、これ何なの?」

 

ユノの切れ長の目が細くなって、口角がきゅっと上がった。

 

いやな予感がしたチャンミンは、後退りする。

 

「やだ!」

 

(絶対に、エロいことをさせるつもりだ!)

 

「まだ何もしていないだろう?

ひどいなぁ、チャンミン」

 

ユノはチャンミンの頭をポンと叩いて、

 

「久しぶりに一緒に風呂に入ろうか?」と誘う。

 

「へ?」

 

「今週はずっと出張でいなかったからな。

チャンミンが恋しくて仕方がなかったよ。

先に行ってて、俺も追いかけるから。

ほら!

脱いだ脱いだ」

 

「う、うん」

 

ユノに急かされ、チャンミンはエプロンを外す。

バスルームに向かうチャンミンの後ろ姿を見送ったユノは、30秒待ってそっと脱衣所を覗いた。

浴室からシャワーの音が聞こえる。

 

「よし」

 

ユノは、チャンミンが脱いだ洋服、下着を回収する。

端をびしっと揃えて積まれたバスタオルとタオルも回収する。

そして、チャンミンが「何、これ?」と首をかしげていたニット素材のものを、洗濯機にひっかけておく。

 

「うーん...」

 

しばし考えた末、「やり過ぎは可哀想だな」と、ハンドタオルを1枚だけ浴室ドアの前にひらりと置く。

 

「ユノ―!

まだぁ?」

 

「悪い!

やっぱ、俺、メシの後にするわ」

 

「ええぇぇ!

そんなぁ...。

それなら、僕も夕飯の後にしたのに...」

 

チャンミンの不服そうな声に、ユノはニヤリとしてしまう。

 

「早く出てこいよ」

 

「わかった」

 

 

「ユノ!!!」

 

チャンミンの大声に、ユノは腹を抱えてくつくつ笑いを堪えていた。

 

「僕の服は!?

バスタオルもない!」

 

「タオルならそこにあるだろ?」

 

「こんなハンカチみたいなタオルじゃ、身体が拭けないよ!」

 

「バスタオルならこっちにあるから、裸で出てこいよ」

 

「恥ずかしいから、ヤダ!

ユノ!

パンツを持ってきてよ!」

 

(付き合って何年にもなるのに、チャンミンは恥ずかしがり屋なんだよなぁ)

 

「やなこった。

服なら、そこに用意しておいたから、それ着て出てこいよ。

絶対にチャンミンに似合うから」

 

「...ユノ。

これってどうやって着るの?

巻くの?」

 

「真ん中の穴に頭を通すんだ。

脇を縫っていないベストみたいなもんさ。

『バイオハザード』でアリスが捕らわれて、白い布切れを着ていただろ。

 

前と後ろだけ隠れる。

あんな風だって」

 

「......」

 

ユノは、バスルームから出てくるチャンミンを今か今かと待つ。

 

「...ユノ」

 

床に座ったユノの視界に、水を滴らせた素足が飛び込んできた。

見上げると、巨大なマフラーを縦に垂らした格好のチャンミンが...。

熱いシャワーで上気した頬で、口をへの字にして、じとっとした睨み目でユノを見下ろしている。

 

「チャンミン...よく似合ってる」

 

「ユノ...一緒に風呂に入ろうって...僕をだましたな」

 

(まさか、本当に着てくるとは思わなかった。

冷静に眺めると滑稽な格好だが...滑稽だが...。

うん、なかなかいい眺めだ)

 

ユノはうっとりと見惚れる表情になり、立ち上がるとチャンミンの背後にまわった。

 

 

 

~ユノ~

 

「こっちにおいで」

 

チャンミンの肩をつかんでくるりと回転させて、リビングに置いた姿見に映す。

 

「!」

 

俺の間近のチャンミンの耳がさらに真っ赤になった。

 

「似合ってる...それに...すごく、セクシーだよ」

 

吐息が耳にかかり、チャンミンはぶるっと震え、首筋が粟立った。

片腕でチャンミンの肩を抱き、もう片方の手で身体のラインに沿って撫でおろした。

 

「んっ...」

 

ニットはチャンミンの身体の前面と背中を隠しているが、両脇はすっかり開いている。

その切れ目から手が忍び込ませ、チャンミンの下腹の筋肉をひとつひとつ確かめるようになぞった。

 

「ん...」

 

柔らかなタッチに、への字に口角を下げていたチャンミンの口が半開きになってくる。

 

「あ...」

 

チャンミンは、鏡に映る自身の恍惚とした表情と、ニットの下でうごめく俺の手の動きから目が離せないようだ。

 

チャンミンの肩を抱いていた手を離すと、反対側の切れ目から手を滑らせた。

 

胸の方へ撫ぜ上げていくと、指先に小さく固くなった突起に触れる。

 

「やっ...」

 

中指の腹で転がすと、さらに固く尖ってきた。

 

「あん...」

 

出た、チャンミンの女っぽい喘ぎ。

そういえば、ここ数年は女の子とヤッてないなぁ、と思ったりして。

チャンミンは乳首攻めが大好物なんだ(指摘すると、大抵真っ赤になって否定する)。

 

そして、この可愛らしい突起がチャンミンをメロメロにするスイッチなんだ。

 

俺だけが知っている。

 

鏡に視線を移してみると、あごを上げて潤んだ目をしたチャンミンと目が合う。

チャンミンと目を合わせたまま首筋に唇をつけ、軽く吸い付いた。

 

「あっ...」

 

愛撫するだけだった乳首を、ぎゅっと摘まむと、

 

「ひぃっ...」

 

チャンミンの膝がかくんと揺れたため、片腕で腰を支えてやる。

俺の舌は、チャンミンの髪からしたたるシャンプーの香りがする水滴と、チャンミンの汗を味わっていた。

 

「チャンミン...えっちだなぁ」

 

「え...?」

 

チャンミンの腰の中心がニットの一部を押し上げている。

恥ずかしくて仕方がないチャンミンは目を反らしたが、意地悪な俺はそれを許さない。

顎をつかんで、正面を向かせた。

 

「えっちな自分をしっかり見ないといけないだろう?」

 

「っや...恥ずかしい」

 

ニットの下から手を抜いて、今度は生地の上からその部分を爪先でひっかいた。

 

「っあ...」

 

「この服って、エロいよなぁ。

俺に触られるための服だよなぁ、チャンミン?

気に入った?」

 

生地ごと摘まむように上下にこする。

ニットの荒い生地が、敏感な部分を刺激する。

 

「う、うん...。

もっと...」

 

「もっと...何を?」

 

「触って...強く...」

 

指先はじわりと湿り気を帯びてきたのを知る。

 

「どこを?

チャンミンが教えてくれないと、わかんないよ」

 

低い声音でささやいて、チャンミンの耳たぶを咥えた。

 

「ここ」

 

チャンミンは俺の手首をつかむと、ニットに隠された勃起したものへと導いた。

強引に握らされたそれは、手の平の下で脈々として、熱く固い。

 

「ずるいなぁ。

チャンミンばっかり。

俺の方の面倒はみてくれないの?」

 

なんて言ったけど、俺の方もチャンミンに負けず劣らず、といったところだ。

二人の身体の向きを90°変えたら、ぴたりと身体を重ねた様が鏡に映し出された。

チャンミンが着ているものは前と後ろだけを隠しているだけだから、脇腹から腰、脚まで丸見えだ。

だけども、肝心なものは前も後も見えなくて、余計にそそられる。

チャンミンの尻を覆っていた部分を、背中の方へ跳ね上げた。

チャンミンの固く引き締まった小さな尻が露わになった。

こんな服...裸みたいなものだ。

いや、裸よりエロチックだ。

チャンミンの背を押して前かがみにさせ、自身のベルトを外しにかかる。

 

「おっ」

 

チャンミンの長い片手が伸びてきて、後ろ手にもかかわらず器用に俺のパンツのファスナーを下ろした。

 

さらにチャンミンは深くかがんで、鏡の脇に置いたボトルを取って俺に手渡す。

ここまで用意万端なのは、俺たちがいつでもどこでも愛し合えるように。

 

(ずっと以前、ナシでやったらチャンミンを怪我させてしまって、それ以来、絶対に使うようにしている。

この点、男同士だと不便だと思う)

 

チャンミンの尻の割れ目に沿って垂らしたそれを、たっぷりと指に絡めた。

 

 

 

 

「ひゃっ...!」

 

「きつ...いっ...」

 

「んーっ」

 

「そっか...久しぶりだったからな...、うっ」

 

「ユノ...、奥まで...もっと...」

 

「んっ...これ...以上、入らねぇ...」

 

「あっ...もっと...」

 

「チャンミン、ケツの力抜けったら」

 

「う...ん...ひっ...」

 

「こら!

挿れたまま、動くな!

こらっ!」

 

「...これなら、どう?」

 

「前向きはやりずらいんだよ...ほら、もっと脚持ち上げろ」

 

「あぁぁぁ...いい、いいよ、ユノ!」

 

「ふっ...ん」

 

「キス...キスして、ユノ...」

 

「んー」

 

「好き、ユノ。

好き...」

 

「ふっ...」

 

「...聞こえない...。

ユノの『好き』が聞こえないよぉ...あん...」

 

「好きだよっ...はっ...」

 

「好き...ユノ、好きー...」

 

「こらっ!

脚をゆるめろ!

これじゃあ...うっ...動かせないだろっ...!」

 

 

・・・

 

 

履きなれない革靴が、柔らかな芝生を交互に踏みつける。

 

ステッキを握った手の甲に、チャンミンの手が重なった。

 

「こんな格好じゃなけりゃ、夜のアウトドア・セックスしてたのにな」

 

「虫に刺されそうだから、それはヤダなぁ」

 

「そこ?

チャンミンの気にするとこって、そこなわけ?」

 

「ユノはいいけどさ、僕の場合はお尻丸出しになるわけでしょ?」

 

「俺だったら、誰かに見られるかもしれない、ってことを気にするけどなぁ。

...そっか!

チャンミンは、誰かに見られながらヤルのが好きだったんだ。

鏡の前くらいで、あれだけ興奮するくらいだからなぁ?」

 

「......」

 

「怒るなって。

とっとと家に帰ろうぜ」

 

「え?

途中で抜け出していいの?」

 

「いいって。

俺たちみたいな庶民が2人ばかり消えたって、だーれも気づかないさ」

 

「ふふふ。

そうだね」

 

「チャンミン。

またアレを着てくれよ」

 

「えー」

 

「アレを着たチャンミン...すげぇ、よかった」

 

「気が進まないなぁ」

 

「チャンミンを触りたい放題だし」

 

「......」

 

「あんな恥ずかしい恰好...」

 

「次はユノが着てよ」

 

「やなこった。

前の布が邪魔だろ、俺の場合?」

 

「僕の場合だって、邪魔じゃないか!」

 

「あー、確かに。

でもさ、ぺろってめくればいいことじゃん」

 

「言っとくけどな、アレはエロ用じゃないんだぞ?

れっきとしたブランドものなんだ。

うまく着こなせば、ファッショナブルな服なんだぞ」

 

「ホントかなぁ?」

 

「ふふん。

実はアレに合わせるズボンもあるのだ」

 

「ユノ!

隠しているなんてひどいよ!

裸んぼうでアレを着せるなんて...恥ずかしいよ」

 

(おしまい)

(前編)Heavenへのスイッチ-秘密の花園-

 

「ユノ!

そこにいたんだ」

 

人混みに酔った俺は、庭園の芝生に座り込んで夜風にあたっていた。

人当たりもノリもよい俺だったが、昼間羽目を外し過ぎたせいで、体調が悪かった。

蝶ネクタイにタキシードと、びしっとキメこんだチャンミンが俺を見下ろしている。

 

「チャンミン、怪我したのか?」

 

夜露に濡れる芝生を踏む、チャンミンの靴の脇のものに気付いた。

 

「あ!

しまった!」

 

「いてっ!」

 

俺の指摘にチャンミンは、慌てて手にしたステッキを振り回したりするから、俺の肩に当たってしまう。

 

「ごめん...ユノ」

 

チャンミンのとるとっさの動作に、俺は何度痛い目にあったと思ってんだ、全く。

 

「杖なんかついて...大丈夫なのか?」

 

「おじいさんのを持ってきちゃった!」

 

「お前がコンパニオンしてたあのじーさんのか?」

 

「コンパニオンって...そんなんじゃないよ」

 

「気に入られて、財産を譲られたりしてな。

てか、お前、じーさんの杖持ってきちゃってよかったのか?」

 

「んー、大丈夫だと思うよ。

若い女の人と腕組んでたから、よろけたフリをしてさ」

 

優しい目元と腰の低さから、チャンミンは老人たちに好かれる。

近くにいたじーさんに話しかけられ、ウェイターに代わって飲み物や軽食をとってやったりしているうちに、すっかり気に入られてしまったらしい。

 

そうだろうな。

 

チャンミンは優しい。

俺は置いてけぼりみたいな気分で、会場内をぶらつくしかなかった。

背中が大きく開いたドレスを着た、美しい女性たちがあちこちにいたけれど、俺は全然そそられない。

柔らかそうな胸の谷間や、赤く塗った唇、ハイヒールを履いた足なんかより、鍛えすぎてパツパツになったチャンミンのジャケットの二の腕の方に萌える。

 

(チャンミンの奴、俺にいい身体みせたいからって、相変わらず鍛えてるわけ。ムキムキ過ぎるのは好みじゃない、と言ったら、しょんぼりした顔しちゃってさ、可愛いんだから)

 

「好みの子はいたか?」

 

「いないよ」

 

「裸みたいな恰好の子もいっぱいいただろ?」

 

「いたけど......全然興味ないよ」

 

「どうだか」

 

「ユノの方こそ、女の子とダンスしてたじゃないか!」

 

見られていたか...。

 

じーさんの世話で忙しそうだったから、気付かれていないと思ってた。

 

「1曲だけね。

チャンミンが俺の世話をしてくれないせいだぞ。

若い俺より年増好きだからなぁ、チャンミンは」

 

「ひどいよ...ユノ」

 

ダンスのお相手をしたその女の子にまとわりつかれて、うとおしかった俺は失礼にならないようさりげなく誘いをかわして、逃げるように庭へ出て来たのだった。

 

「ここで何してたの?」

 

「んー、ちょっと涼もうと思って、さ」

 

俺たちのいる庭園は、フランス窓からもれる煌々とした灯りのおかげでほのかに明るい。

西洋造りのお屋敷でのパーティ。

盛り上がるパーティの最中、殺人事件が起きて、その時間、庭にいた人物が疑われるんだよな。

どうして、俺たちみたいなのが正装して、ハイソなパーティに参加していたのか、という理由は大学時代の出来事に遡るから、今ここでは省略する。

俺は地面に片膝をついて座り、その傍らにチャンミンは立って、見事に手入れされた庭園を眺めていた。

屋敷の老主人の趣味がイングリッシュガーデンつくりだとかで、広大な敷地中にいろとりどりの花畑が点在している。

 

チャンミンは俺の『彼氏』だ。

 

大学を卒業後の進路は違ったが、俺たちは相変わらず相思相愛なんだ。

 

「チャンミンはひ弱なのかタフなのか、どっちなんだよ?」

 

俺の肩にもたれかかるように立ったチャンミンを、見上げて言った。

 

「え?

何のこと?」

 

「牧場実習では子牛1頭捕まえられない奴がさ、どうして今夜はそんなすっきりした顔でいるわけ?っていうこと。

俺なんかもう...ヘロヘロだよ...」

 

チャンミンはきょとんとしていたが、俺の言いたいことが分かった途端、表情を崩した。

 

濃い影で顔色は分からなかったけど、多分、真っ赤な顔をしているハズ。

 

「えっと...それは...っ!」

 

「すげぇよなぁ...チャンミンの原動力は股間にあるからなぁ...」

 

「股間って!

まるで僕が、エロで生きてるみたいじゃないか!」

 

「だってその通りだろ?

限界がないんだから。

まさしく、枯れることのない湧き水だな、チャンミンのアソコは」

 

「......」

 

「どうせ今この瞬間も、せっせと製造しているんだよな。

さっき飲んだシャンパンも、原材料になってるか?」

 

「......」

 

「それと、チャンミンの頑丈なケツには脱帽ものだ」

 

「......」

 

やべ。

 

怒らせたか。

いや、まだいける。

 

「なぁ」

 

「......」

 

「あとで可愛がってやるから、今は我慢してろよ」

 

「へ?」

 

よし。

 

「チャンミンはいやらしいなぁ」

「?」

 

「俺の肩にぐりぐり押しつけてきちゃってさ」

「?」

 

「そんなに俺が恋しいか?」

 

冗談じゃなく、俺の肩はチャンミンの固くなったものを感じ取っていた。

 

「......」

「家に帰るまで、我慢してろよ...、っ!」

 

もの凄い力で俺の両頬はチャンミンの両手で挟み込まれ、斜めに傾けたチャンミンの頬に鼻が、チャンミンの唇で俺の唇は塞がれた。

 

「んっ」

 

ステッキが芝生に転がる。

力いっぱい押しつけられて、歯に当たった唇が傷つきそうなくらいの情熱をもって。

 

「く、くるしいぃ...」

 

俺はチャンミンの肩を叩く。

 

仮縫いをした一か月前より発達した筋肉のせいで、俺を引き寄せようと力をこめているせいで、チャンミンのジャケットははちきれそうになっている。

 

「ぷはっ!」

 

唇を離し、チャンミンの頬を両手で包み込んだ。

 

「今は『我慢』だ」

 

立ち上げた前髪の下の狭い額、高い鼻先、四角い顎に順にキスをする。

 

「やだ」

 

精悍な顔をしているのに、丸い形の目は幼くて、そのギャップがこの男の魅力のひとつだ。

俺が見張っていないと、どこぞの女豹に襲われるかしれない。

今夜はじーさんが相手をしてくれて助かった。

女の子とダンスしたことに、嫉妬してくれて嬉しかった。

 

「タキシードを汚すわけにはいかないだろ?

借り物だからな。

...ん?」

 

俺の目の前に差し出されたのは、チャンミンの片手。

 

「お嬢さん、僕の手につかまりなさい」

 

「おい!

俺はお嬢さんじゃないぞ」

 

「ふふふ。

たまには僕がナイト役なのも、新鮮でしょ」

 

「ははっ!

確かに。

チャンミンはいっつも『姫』だもんな」

 

「『姫』って言わないで」

 

チャンミンの手の平に片手を重ねると、ぎゅっと力強く握られた。

 

「あててて」

 

チャンミンに引き起こされて、きしむ腰をさすった。

 

「俺の腰はガッタガタなんだよ」

「そんななのに、どうして女の子とダンスができたのさ?」

 

チャンミンのじとっとした睨み目に、俺は肩を抱いてなだめた。

 

「使う筋肉が違うだけさ。

チャンミン相手だと、普段使わない筋肉を動かさなくちゃいけないだろ?」

 

チャンミンは、納得がいかないといった風な表情だったが、「ま、いいけどさ」と鋭い眼光を弱めた。

 

「杖を使ったら?」

「じーさんみたいで嫌だなぁ...」

 

俺の腰が悲鳴をあげている理由は、チャンミンの両脚でがっちりホールドされたせいだ。

芝生に転がるステッキを拾い上げるチャンミンの、小さく引き締まった尻を見つめながら、俺は昼間のことを思い出していた。

 

(つづく)

(16)秘密の花園

 

 

 

ユノのぎらついた視線にロックオンされたチャンミンは、身動きできずにいた。

社交術に長けているユノの涼し気な目元は、感情の読み取りにくいポーカーフェイスなものだ。

真っ先に感情が顕われてしまうチャンミンのものとは、性格が真逆だった。

不安定に揺れていた自身の焦点が、ユノの漆黒の瞳に捕らえられて、あっという間に恋に落ちた。

だから、チャンミンには分かる。

今のユノの瞳に、欲望の炎がめらめらとしていることを。

 

(...どうにかされちゃうのかな...)

 

逃げ出したい気持ちが3分の1。

襲われたい気持ちが3分の1。

ユノとどろどろにまみれあいたい気持ちが3分の1。

 

「チャンミン...いやらしい...」

 

股間を隠していたチャンミンの手が払いのけられた。

抵抗もせず両腕を脇に落としたチャンミンに、ユノはくすりと笑う。

チャンミンが何を期待しているのか、手を取るように分かったから。

ユノは視線だけで、チャンミンの身体のパーツをスキャンしていく。

 

(ガチな顔をしちゃって...可愛いんだから)

 

「チャンミン...」

 

指をそっとチャンミンの唇に触れる。

上気した肌は熱を帯びていて、うっすらと開いた唇からは、浅くて速い呼吸音が。

ねじ込まなくてもユノの指は、チャンミンの口内に迎い入れられた。

チャンミンの熱い舌が人差し指に絡みつくが、ユノはすっと指を引いてしまった。

あごから喉元、鎖骨へと...チャンミンの喉仏がこくりと上下した...視線を移す。

 

「チャンミン...裸で長靴履いちゃって...どこへ出かけるつもりだった?」

 

「サイズが合うかどうか...試着しただけだよ...!」

 

ユノの焦点が、左胸の乳首に合っている。

 

(見られているだけで...むずむずする...)

 

「ホントに、それだけ?」

 

(...舐めて欲しい...おっぱいを舐めて欲しい)

 

チャンミンの乳頭が小さく尖ってきた様子に、ユノは満足する。

 

「びんびんじゃん、チャンミン。

やらしいなぁ」

 

「そんなこと、ないっ...」

 

(舐めてやるもんか)

 

歯を当てたくなるのを、ユノは堪える。

 

「どうして服を着なかったわけさ?」

 

「着ようとしてたよ。

でも、ユノが長靴を履いて欲しい、って言うから...」

 

「へぇ」

 

ユノの焦点が下へと移動していくのにあわせて、チャンミンの下腹が波打った。

 

「へそ毛がすごいな...」

 

そう言ってユノは、ふっと息を吹きかける。

 

「ひゃん」

 

「剃っても、いい?」

 

「は!?」

 

「いやがる女子も多いらしいよ、毛深い男って」

 

「え!」

 

「胸毛はないくせに、へそ毛はもじゃもじゃだなんて、アンバランスじゃん。

剃ってつるつるにしようぜ」

 

「嫌だ。

女子にどう思われるかなんて、僕には関係ないもん」

 

そう答えつつも、下腹が泡で覆われ、ユノによって剃刀の刃が当てられる光景を思い浮かべると、妙に興奮してしまうチャンミンだった。

 

「なんで?」

 

「女の子なんてっ...興味、ないから」

 

「本当か?」

 

「そうだよ!」

 

(興味があるのは、ユノだけなんだから!)

 

「チャンミンの部屋にAVのDVDあったじゃん」

 

「嘘!?」

 

「嘘。

なかった」

 

「もー!

びっくりするじゃないか!

僕んちにはプレイヤーがないんだから、観られるわけないんだからな!」

 

「じゃあ、肴は何使ってるの?」

 

「......」

 

「教えろよ」

 

「言えない」

 

「『男色の歴史』か?」

 

「馬鹿ぁ!

違うよ!」

 

「じゃあ、何?」

 

「......ユノ」

 

「え!?

マジで?」

 

「悪いか」

 

「俺とやってるとこ想像して抜いてたわけ?」

 

「...うん」

 

「俺に挿れられて?」

 

「......」

 

「がんがんに突かれてるとこを?」

 

「......」

 

「そうなのか?」

 

「......」

 

「まさか...俺を『受け身』にしてたんじゃないだろうな!?」

 

「...正解」

 

「信じらんねーよ!」

 

「だって、受け身の気持ちなんて想像できないよ。

お尻をいじってみたけど、どこがいいのか分かんなかったし...」

 

「はしたないチャンミンに、お仕置きをしてやんないとな」

 

そう言ったユノは、中断していた視姦を再開する。

 

毛筋を辿って下っていくと、大本命の箇所に到達した。

 

チャンミンの黒々とした茂みの中で屹立するものが、ぴくぴくと上下に揺れている。

 

「...はぁ...はぁ...」

 

先端から透明な粘液が溢れ出て、今にも床に垂れ落ちそうだ。

 

満足そうに微笑んだユノは、やおら立ち上がった。

 

「ユノ...?」

 

身体をいじられることなく、あっさりと解放されてチャンミンは拍子抜けしてしまう。

 

ユノは大股で窓まで近づくと、勢いよくカーテンを開けた。

 

そして、チャンミンを振り返るとにやりと笑った。

 

「!!!」

 

煌々と明るい室内で、全裸で突っ立っている自分の姿が窓ガラスに映し出されている。

 

「チャンミン...いやらしいなぁ。

素っ裸だよ?

しかも、なぜか長靴だけ履いてんの」

 

「っ!」

 

チャンミンは両手で股間を覆い隠す。

手の平を、たっぷりと分泌された粘液が濡らす。

 

(なんて恥ずかしいんだ!)

 

「駄目だって、ちんちん隠したら」

 

「だって...恥ずかしい...」

 

(恥ずかしくてたまらないのに、どうして僕のモノはますます元気になるんだ?)

 

チャンミンは勃起したものをつかんで、下方へ曲げる。

 

「触ってあげないよ」

 

「それは...ヤダ」

 

「じゃあ、その手を離して」

 

「......」

 

手を離すと、抵抗を失ったチャンミンのペニスがバネのように正面を向いた。

 

「触って欲しい?」

 

「...うん」

 

「何を触って欲しい?」

 

「僕の...あそこを...」

 

「......」

 

「僕のっ...おちんちんを」

 

「よく言えたね。

正直が一番だぞ」

 

ユノに褒められ、頭を撫ぜられ、チャンミンの心は幸福感で満たされる。

 

(なんだろ...こんな気分)

 

ユノはチャンミンの背後に回り、彼の肩にあごを乗せて耳元で囁く。

 

「チャンミン、気付いてる?

外から丸見えなんだよ?」

 

「わっ!」

 

「おーっと、ちんちんを隠すなって。

大丈夫だって、向かいはどっかの事務所だから、誰もいないよ」

 

ユノの住むマンションの真横にはビルが建っており、ユノの部屋の正面は設計事務所が入居している。

 

「でもさ、誰かが残業してるかもね」

 

「電気点いてないし...」

 

「従業員の誰かがさ、忘れ物をとりに戻ってくるかもしれないじゃん。

あ、警備員さんが巡回にくるかもね。

でさ、ふと外を見たら、ふるちん男が立ってるの。

で、長靴だけ履いてるの」

 

「...っ...」

 

ユノに煽られているうち、チャンミンは妄想の世界に沈んでいく。

 

「びっくり仰天だねぇ。

でもさ、そのふるちん男があまりにもいい男でさ」

 

ユノはチャンミンの顎を撫ぜ、もう片方の手を下腹を撫ぜ、指先でへそをくすぐる。

 

「っん...」

 

「それに、めちゃくちゃ勃起させてんの...こんな風に」

 

チャンミンの脇腹を撫ぜ上げ、撫ぜおろす度、チャンミンの肌が痙攣する。

 

「...っうん...はぁ...」

 

「しかもさ、ふるちん男は、もう一人の男に後ろから突かれてるわけ。

ガンガンに突かれてるんだ。

ふるちん男はもう、よだれ出して、イっちゃってる顔をしてるんだ。

おーっと、チャンミン!

ちんちんを触ったら駄目だ」

 

ユノの語る妄想図に引き込まれていくうちに、チャンミンの手は自然と股間に伸びていたのだった。

 

「警備員のおじさんも興奮してきてさ。

ふるちん男と目が合うのさ。

ふるちん男...チャンミンは、おじさんに見られていると知って、興奮すんの」

 

「あ...はぁはぁ...はぁ...はぁ...」

 

チャンミンの呼吸が早くなってきた。

 

「チャンミンのちんちんはもっとデカくなっちゃって、自分でしごき出すんだ。

後ろからは、俺にパンパン突かれてて、ケツの中は気持ちいいし、前も気持ちいいしで、ひーひー言ってんの」

 

チャンミンを煽っているユノの股間も、欲望で熱くなってきていた。

 

「脚はガクガクでさ、声なんか出まくりなんだ。

『ユノ!もっと激しく!』って。

『ユノ!イイよー』って。

納期が迫ってて泊まり込みの社員が(疲れ果てて仮眠してたっていう設定だ)起き出してきてさ。

守衛さんに気付いて、『どうしたんですか?』って質問してさ。

守衛さんの指さす方を見たら、隣のマンションでエッチの真っ最中。

チャンミンは窓におでこくっつけて、その時には自ら腰を振ってんの。

『おい、あれを見ろよ』ってその社員さんは仲間を呼ぶんだ(ほかにも泊まり込みの社員がいたっていう設定だ)

でさ、チャンミンは20人というギャラリーの前で、俺とのエッチを披露するんだ。

見られてると思うと、ますます興奮してさ。

『僕の恥ずかしい姿を、見ず知らずの人たちに見られてる!』って」

 

ここまで一気に話し終えると、ユノは窓ガラスに映るチャンミンと目を合わす。

 

「困ったね、チャンミン?」

 

チャンミンは顎を上げ、口は浅く開かれ、潤んだ瞳には恍惚の光をたたえている。

ぴくぴくと痙攣するチャンミンの先端からは、とめどなく滴り落ちている。

 

(おいおいおいおい。

チャンミンよ...俺の言葉攻めだけで、感じてるじゃないか...。

予想通り、チャンミンは羞恥プレイがお好みのようだし。

俺の妄想力も凄かったが、チャンミン+長靴の破壊力は凄かった...はあ...)

 

「...ユノっ」

 

チャンミンは上ずった声で、ユノを呼ぶ。

「ん?」とチャンミンを覗き込むと、ぐいっと手首をつかまれてチャンミンの尻の方へ導かれた。

 

「挿れて...」

 

「...挿れるって...指をか?」

 

「違う...ユノのモノを挿れて欲しんだ」

 

「まだ早いって。

指2本がやっとだろ?

慣れていないんだから、入らないって」

 

「入らないかどうかは、やってみないと分かんないじゃないか!」

 

チャンミンはベッドに両手を突くと、腰を突き出した。

 

(チャンミンの中の、エロのスイッチを入れてしまったか!?)

 

「だって、今日の僕、一度もイッてないし...。

気持ちよくなりたいっ!」

 

切羽詰まった言い方に、ユノは「わかったよ」と頷き、枕元に置いたままだったコンドームの箱に手を伸ばす。

 

「まだそれほど、気持ちよくないんだろ?

無理にやんなくていいんだからさ」

 

「慣れていないからだよ。

それに...ちょっとだけ、気持ちよかったんだ」

 

「マジで?」

 

「うん。

あれが気持ちいいことなのか分かんないけど、多分...気持ちよかったんだ」

 

(確かに、チャンミンは反応していたな。

今夜はここまで進展する予定じゃなかったんだけどな...。

果たして出来るのかなぁ。

あんなにぎゅうぎゅうに締め付けられたら、気持ちいいどころか痛いかもしれない...)

 

先ほどの指の感触を思い出し、ぞっとしたユノだった。

 

さらに、視線を床に転じた際、チャンミンの長靴が目に飛び込んできてしまって、その滑稽な姿にぐぐっと笑いが込みあげてきてしまうのだ。

 

(俺がウケてしまうのは、長靴を履き続けていることなんだ。

なぜ脱がない?

履いてることを忘れてるのか?

さんざん恥ずかしい思いをしたんだろ?

そっか。

チャンミンは羞恥プレイで燃える質なんだ、絶対に)

 

「挿れるぞ?」

 

しごいて十分な固さまで育てたものを、チャンミンの後ろの入り口にあてがう。

 

「っんん...」

 

根元に手を添えて、肛門周りを円を描くように亀頭を滑らせた。

敏感な箇所をぬるつくもので刺激されて、それだけでチャンミンから切なげな声が漏れるのだ。

ところが、チャンミンの扉は固く閉ざされたままで、ほんの1ミリも受け入れる様子はない。

 

「無理だ、入んねぇ」

 

「そんなっ...」

 

ユノは指先と自身の先端のサイズを見比べてみる。

 

(入る気が全然しねぇ...。

無理やりねじこめばイケるかもしれない...でも、そんなことしたらチャンミンを怪我させてしまうよなぁ)

 

「チャンミン...今日は止めておこう」

 

「なんで!?」

 

「今の俺は手っ取り早く、ぴゅーっとしたいんだ。

チャンミンもそうだろう?」

 

「...うん」

 

「焦らずにいこうぜ、って、いっつも言ってるだろ?」

 

「うん」

 

「ケツの穴にこだわってるから、流れが中断するんだ。

今はもう...」

 

ユノはチャンミンの肩をつかんでこちらを向かせ、そのままベッドに押し倒す。

 

「チャンミンと一緒にイキたい。

お前のイッてる顔が見たい」

 

「ユノ...」

 

「リアルセックスは牧場でヤろうぜ」

 

ユノは自身のものとチャンミンのものとをまとめてしごき出す。

 

「っん...」

 

ユノの唇を受け止めながら、チャンミンはこくりと頷いたが、

 

「牧場!?」

 

「そうさ。

大牧場の草むらの中でさ、何十頭ものホルスタインに見守られながら、ヤろうぜ」

 

「ヤダよ」

 

「そんときは俺も長靴履いてっから、お揃いだし、いいだろ?」

 

「むぅ...」