(5)秘密の花園

 

~ユノ~

 

 

180㎝超えの男2人には、ユニットバスは狭すぎた。

 

狭いと分かっていたが、狭い。

 

「狭いな...」

 

「狭いね...」

 

バスタブに俺とチャンミンは向かい合って立っていて、頭上から降り注ぐぬるいシャワーを頭から浴びていた。

 

男とシャワーを浴びるなんて初めてだ。

 

チャンミンが俺の身体を食い入るように見ている。

 

「じろじろ見るなって」

 

チャンミンの熱い視線に耐えられなくなった俺は、手早くシャンプーを済ませる。

 

濯ぐ際、うつむいた俺の視線上に、チャンミンの股間が。

 

「......」

 

おいおい...めちゃくちゃ勃起しているじゃないか。

 

1歩前へ近づけば、チャンミンのペニスに俺のモノが当たりそうだ。

 

「チャンミン...お前の興奮要素は何なの?

勃ってるじゃん」

 

「え!?」

 

慌てて股間を見下ろしたチャンミンは、斜め上を向いたものに気づいて両手で覆った。

 

「隠すなよ、見せろって」

 

チャンミンの手を引きはがそうとするが、渾身の力がこもっていてびくともしない。

 

「見せろ」

 

「やだ!」

 

「チャンミンの息子が元気いっぱいなのは、どうして?」

 

「それはっ!」

 

「ああ?」

 

「ユノの身体が...」

 

チャンミンの目がうっとりとしている。

 

「ユノの身体が...」

 

「俺の?」

 

「きれいだなぁって思って」

 

「は?」

 

「色も白いし、いい具合に筋肉ついてるし...そそる」

 

「......」

 

男の身体で勃つチャンミンが凄い。

 

とか言いつつ、俺の方も半勃ち状態なんだけどさ。

 

「俺に見せるため」に筋トレを励んだんだよ、この男は。

 

そんな可愛い努力の結果、肩や胸の筋肉がロッカールーム事件の時より発達しているようだ。

 

逞しい上半身に反して、ウエストから腰にかけてがほっそりとしていて、女子も羨むくらい細い脚をしている。

 

そのアンバランスさが、男の俺から見てもそそる。

 

「風呂に一緒に入ろう」と浴室までチャンミンを引っ張ってきたのは俺だ。

 

俺が服を脱ぐあいだ中、チャンミンの熱い視線が俺の肌が焼いて、じんじんした。

 

俺の肌を舐めるように見るんだって。

 

俺の方は若干照れくさくて、ちらちらとしかチャンミンの裸を見られなかったというのに。

 

「ユノって着やせするんだね...?」

 

「そうか?」

 

「触ってもいい?」

 

「変な奴。

いいけど」

 

おずおずと伸ばした手が、俺の二の腕から手首にかけて撫でさする。

 

その手は二の腕に戻って、肩から鎖骨、それから胸へ移った。

 

「おい!」

 

俺の乳首を摘まもうとするチャンミンの手をぴしゃりと叩く。

 

「何?」

 

「そこは駄目だ。

俺は、乳首が大好きなチャンミンとは違うの」

 

「そうなの?」

 

チャンミンは、心底残念そうな顔をする。

 

「さてさて」

 

俺は鼻唄を歌いながら、手の平にたっぷりとボディソープを垂らした。

 

「チャンミンは毛深いから、下もシャンプーしないとなー」

 

「シャンプー...?」

 

「そうそう」

 

「ひゃっ!」

 

チャンミンの陰毛に揉みこんで、シャンプーをぶくぶくに泡立てた。

 

上へ下へと指ですいてやる。

 

「ユノ!

よせったら!」

 

俺の手首をガシっとつかんで抵抗していたくせに、その力はみるみる弱まって手を添えるだけになった。

 

「ひん...」

 

袋の方へ手を滑らすと、チャンミンがビクッと腰を引くから、尻をつかんで押さえつけた。

 

「やめて...」

 

止めて欲しくなんかないくせに。

 

「じっとしていろって」

 

手の平でチャンミンの袋を包んで柔く揉んでやると、チャンミンの口から掠れた吐息が漏れる。

 

「はぁ...あん...」

 

相変わらず、喘ぎが女子っぽい。

 

「んん...あっ...あっ...」

 

意地悪して竿には触ってやらない。

 

焦れた挙句、お願いしてくれなきゃ、しごいてやらない。

 

「痒い所はありませんかー?」

 

「う...うん...もっと」

 

チャンミンの反応が面白くて、俺の手はペニスには触れてやらない。

 

もこもこの白い泡から、チャンミンのギンギンに勃ったペニスが屹立している。

 

なかなか...すごい眺めだ。

 

俺の手が、目の前の男を恍惚とさせているのかと思うと、興奮してきた。

 

惚れた相手を気持ちよくさせたいと思うだろ?

 

けれども、そう易々と与えてやらないのが、俺のやり方だ。

 

チャンミンのペニスの根元から袋までを往復するだけ。

 

焦れてきたのかチャンミンの腰が揺れてきた。

 

「あ...もっと...そこ...あっ...」

 

「お客さん、声が小さいですよ、聞こえませんよ」

 

「もっと...上」

 

「上?」

 

とぼけた俺はチャンミンのペニスを通り越して、下腹を撫ぜる。

 

「違います...もう少し、下です」

 

すげ。

 

小鹿みたいな顔をしてるくせに、ワイルドなんだって。

 

へそからシモまで毛が繋がって生えてるじゃん。

 

その毛筋を人差し指でたどっていたら、がしっと手首をつかまれた。

 

「くすぐったいから、やめて!」

 

俺はにやりとする。

 

「ここ?」

 

白い泡の中からそそり立つものを、ぎゅっと握る。

 

俺の手の中で、熱く、硬く、ドクドクと脈打っている。

 

こういう点が、男相手のいいところかもしれない。

 

ごまかしがきかないところだからな。

 

「触って欲しいのは、ここ?」

 

こくりと頷いたかと思うと、チャンミンは喉をみせて喘ぎだす。

 

腰もかくかくと前後に動いている。

 

「あん...あん...」

 

感じているチャンミンを見ていたら、俺の股間も熱くなってきた。

 

感じている女の子を前にしていても、こうはならないだろうという位、ぐんとせり上がってくる。

 

恐らく、ふわっと柔らかな女の子というのは大抵、俺より身体も小さいし力も弱い。

 

だから、彼女たちとの絡みで興奮する大きな要因は、「征服している」感なんだろう。

 

ところが、目の前のチャンミンはやたら背が高く、さっき何度も突き倒されたように、力が強い。

 

男だから、俺と同様に「征服したい」欲を持っているはずだ。

 

押し倒して挿入したくてたまらない性をもつ奴を、俺の意のままに腰砕けになってしまっているところに興奮するのかもしれない。

 

チャンミンのことを、女みたいだとは思ってはいない(喘ぎは女っぽいが)。

 

男同士の絡みとはどんなものなのかの好奇心を満たすために、こうやってチャンミンと狭いユニットバスで向かい合っているのではないのは確かだ。

 

俺たちは互いに一目惚れした。

 

馬鹿話をしたり、実習の課題を一緒に仕上げたり、酒を飲んだり、一般的な友人同士っぽく時を過ごすことも楽しい。

 

精神的な繋がりは、今後じっくり育てていける自信はある(チャンミンはユニークな奴なんだって)。

 

でも、なんというか、それだけじゃ足りないというか...もっと深く関わり合いたいというか。

 

俺たちはとにかく若いし、性欲と体力は有り余っているから、これはもう「身体を繋げる」しかないな、と思ってるわけ。

 

チャンミンの方はどうか分かんないけどさ。

 

 


 

~チャンミン~

 

泡のおかげで滑りがよくって、僕はもう腰の力が抜けそうだった。

 

僕がよろめく度に、ユノの手が僕の腰を支えてくれる。

 

あいにくなことに、僕は女の子の中がどれくらい気持ちいいのか知らないから想像するしかない。

 

白い泡のせいで、僕のペニスの先っちょからどれくらい先走りが出ているのかは確認できないけれど、多分、相当出ているはず。

 

滑りがいいから、僕の唇の端から泡が出そう。

 

「あ...ん...あ...ん」

 

声を我慢できない。

 

狭い浴室の中だから、喘ぐ声が自分の耳にうんと近くに聞こえて、変態かもしれないが自分の声にも興奮した。

 

ちらりとユノのペニスの具合を確認してみたら、よかった、真正面を向いてる。

 

自分ばかり気持ちよいなんてズルいし、ユノの快感でゆがんだ表情を見たくなって、僕もユノのペニスを握った。

 

ユノは裏筋を親指で刺激しながら、しゃこしゃこ上下させる。

 

僕のものをしごくユノの手指を見下ろして気付いたのは、とても男らしい手をしているということ。

 

ユノの貴族的な高貴な顔の反面、女装をしたとしても手をみるだけで男だとバレる。

 

骨と血管が浮かんでいる力強いユノの手が、僕のペニスをリズミカルにしごいているんだ。

 

今度はユノの顔を見る。

 

僕の手の動きはほぼ「お留守状態」なのに、ユノは黒くてつやつやとした目をうっとりとさせてるんだ。

 

おかしなことに、そんなユノの表情に僕は感じてしまった。

 

だって、ユノは僕を見て感じているんだよ?

 

「はぁ...ん、あん...あ...ん」

 

どうしてこんなに声がいっぱい出てしまうんだろう?

 

隣人に「うるさい」って壁を叩かれないように、僕は両手で口を塞ぐ。

 

僕の仕草にユノは口元にふっと笑みを浮かべた。

 

僕はたまらなくなって、ユノの下唇に噛みついた。

 

「ん...っふ」

 

ユノの舌と僕の舌がねっとりと絡み合う。

 

「だ...め...」

 

ユノを気持ちよくさせたかったのに、テクニシャン・ユノの手技に僕は降参してしまった。

 

「あっ...もうダメ...イク...あっ...はっ」

 

僕の言葉を聞いて、ユノのしごく手がスピードを増した。

 

キスどころじゃなくなった。

 

天井を仰いで、あられもなく声をあげたら、僕の喉にユノが吸い付いた。

 

ユノの唇がたてる音にも興奮して、吸い付かれた軽い痛みも気持ちよくて、僕はあっさり射精してしまった。

 

腰をびくびくと痙攣させている間、ユノは僕のペニスから絞り出すみたいに、握る力を弱めてゆっくりとしごき続けていた。

 

一瞬、昨日の実習で牛の乳しぼりをした時の光景を思い出してしまった。

 

僕の股間は白い泡だらけだし、ペニスの先から放出された精液も白いことからの連想なんだと思う。

 

「はあはあはあはあ...」

 

暑い。

 

僕の肩には、シャワーのぬるい湯が当り続けている。

 

湯気たちこめた狭いユニットバスの中、熱く興奮した2人の男が発散する体温で、むんむんとしている。

 

僕らの全身は汗まみれで、シャワーのお湯なのかそうじゃないのか分からないくらい。

 

僕の精液の匂いもする。

 

こんなに気持ちいいのは初めてだった。

 

 


 

 

~ユノ~

 

 

「次は、ユノの番」

 

チャンミンが湯舟の中で長い脚を折りたたむようにして、膝をついた。

 

ぎちぎちのすし詰め状態。

 

浴室内は、もくもくと白い湯気が充満している。

 

暑い。

 

流しっぱなしだったシャワーを止めた。

 

チャンミンは俺のペニスを咥えようと、口を大きく開けた。

 

「チャンミン、ストップ!」

 

俺はチャンミンの脇の下に手を差し込んで、無理やり立たせる。

 

「あっ!」

 

チャンミンの身体をくるりと180度回転させた。

 

「わっ!

何す...!」

 

「次は俺の番、なんだろ?」

 

ぐいっと背中を押して、チャンミンを前かがみにさせた。

 

「ちょっ!」

 

「ケツ突き出せよ」

 

「やっ!」

 

チャンミンにすねを蹴られそうになったが、巧みにかわす。

 

「無理無理無理無理無理!!」

 

チャンミンが上半身をひねろうが、腰を浮かせようが、がっちりつかんだ俺の力を舐めんなよ。

 

筋トレで鍛えた観賞用の筋肉に負けねーよ。

 

「はなせ!」

 

「やなこった」

 

「僕を犯す気か!?」

 

「んなことするわけないだろうが!」

 

「何だよ...この格好は?」

 

「俺はチャンミンが好きなの。

好きな奴に変なことするわけないじゃん。

チャンミンはどう?

俺のこと、好きか?」

 

「うん...好き」

 

チャンミンの「好き」の言い方が、可愛いったら。

 

「好きだけど...これは、ヤダ!!!」

 

「暴れるなって!」

 

「心の準備ができてない!」

 

「準備なんていらねーよ」

 

「順を追ってヤるって言ってたじゃん」

 

「そうだよ」

 

「痛いのは嫌だよ」

 

「気持ちよくさせっから」

 

「......」

 

じたばたしていたチャンミンが観念したのか、壁に肘をついて大人しくなった。

 

「とうとう、やるんだ...」

 

「安心しろ、痛いことはしないって」

 

女の子と立ちバックするのと比べて、チャンミンの腰の高さが俺と同じだから助かる。

 

それにしても...ほっそい腰をしてるんだな。

 

上半身が逞しいだけに細さが際立って、なまめかしい。

 

股間シャンプーの泡を手ですくって、チャンミンの尻になすりつけた。

 

チャンミンの小さく引き締まった尻を泡だらけにする間、チャンミンの尻が小さく震えていた。

 

可愛い奴だ。

 

そして、俺のものをそこにあてがった。

 

 

(つづく)

 

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(4)秘密の花園

 

 

「出来るに決まってるだろ!」と言い切ったチャンミンは、パンツのボタンを外し下着ごと引きずりおろすと、パンツの裾から両足を抜いた。

 

上から脱げばいいのに...。

 

上はTシャツ姿で、下だけすっぽんぽんで、やたら恥ずかしい恰好をしていることにチャンミンは気付いていないらしい。

 

無駄な筋肉をつけていないすんなりとした脚で、薄めのすね毛や小さな膝の皿をしているくせに、ゴリゴリに勃起したものをぶら下げているから、いやらしい。

 

ほおっと眺めていたら、チャンミンにぎろりと睨まれた。

 

目がこえぇ。

 

チャンミンのヤル気を煽るつもりで、寸止めしたのがいけなかったのか?

 

「ユノ...」

 

目はすわっているし、額には玉のような汗が浮かんでいるし、息もはあはあと荒い。

 

「暑い!」

 

チャンミンの前髪から汗がしたたり落ちて、「ひとりで何熱くなってんだよ?」と突っ込みながら俺は、

 

「エアコン、入れるよ!

えっと、リモコンはどこだ?」

 

取り込んだまま積み上げた服や雑誌の下を探していたら、チャンミンの両腕がにゅうっと伸びて羽交い絞めにされた。

 

「リモコン...っ!

チャンミンっ...落ち着けって」

 

「ユノ...」

 

首にチャンミンの熱い息がかかり、俺の腰にゴリゴリになったモノを押しつけてくる。

 

「ユノと...したい」

 

「わかった!

分かったから、手を離せ...苦し...」

 

俺のみぞおちに巻き付いたチャンミンの腕の力が半端なくて、そうだった、俺の相手は男だったんだと、今さらながら気づかされた。

 

「こんな姿勢じゃ出来ないから、いったん手を離そう、なっ?」

 

「......」

 

チャンミンの腕という緊縛から解かれて俺は、深呼吸をした。

 

危なかった...絞め殺されるかと思った。

 

「ユノ...」

 

うるうるの瞳が生まれたての小鹿みたいな可愛い顔をしているくせに、視線を下に落とすと、Tシャツの裾から皮下脂肪の気配ゼロの固く引き締まった腹が覗いていて、れっきとした男の身体だ。

 

「上の服、脱げよ」

 

「そうだったね、ごめん」

 

もぞもぞとチャンミンがTシャツを脱ぐと、床に投げ捨てた。

 

ワンルームの狭い部屋にスウェットの上下を着た俺と、一糸まとわぬチャンミンの2人が対峙する格好となった。

 

以前より心なしか、逞しくなっているような。

 

「で...?」

 

俺は、この後の展開を見失ってしまって、ポリポリと頬を掻いていたら、

 

「どうして僕だけ、裸ん坊なんだよ!」

 

「待っ!!」

 

チャンミンにタックルされて、俺はまたしても後ろへ突き倒された。

 

ゴツンといい音がして、俺の後頭部が壁に打ち付けられる。

 

「いってぇ...な!」

 

「...ユノ...ゴメン...」

 

眉毛をハの字に下げたチャンミンが、四つん這いになってにじりよってくる。

 

積極的なのは嬉しいが、興奮したデカい奴に力任せに突進されたら、ちょっと引く、というか。

 

チャンミンの勢いに任せていたら、大事な部分も怪我をしかねない。

 

普段のチャンミンは温和で大人しいキャラなのに、今の彼は欲望でギラギラしていて、ギャップが大きい。

 

こんなにガッツいていて、女子とヤる時は大丈夫だったのか?

 

「チャンミン、深呼吸しろ。

息を吸って―...吐いて、吸って―...吐いて」

 

俺の言う通りに呼吸するチャンミンの素直さに、俺の胸がぐっとくる。

 

「......」

 

荒々しかった息遣いがおさまると、床にぺたりと座り込んだチャンミンは項垂れたまま静かになった。

 

あれだけ猛々しかったものも、しゅんとしている。

 

「勢い任せじゃないと...」

 

「わかってるよ」

 

チャンミンの頭をわしゃわしゃと撫でてやる。

 

「俺もシャワー浴びてくるから、ちょっと待ってろ」

 

浴室に向かおうとしたら、俺の片足にチャンミンがしがみついてきた。

 

「危っぶねーな!」

 

「行くな」

 

俺の太ももを抱きしめたチャンミンは、

 

「僕のヤル気と勇気が消えちゃうから、僕を独りにするな!」

 

「......」

 

「それから...シャワーを浴びないで。

ユノの匂いが好きだから...っんっ!!」

 

たまらなくなった俺は、チャンミンに荒々しく唇を押しかぶせる。

 

そういう可愛いことを言うなって。

 

「んっ...ふっ...」

 

チャンミンに舌を吸わせて、ぐるりと口内を掻きまわした。

 

ひとしきりキスを交わして、ぷはっと唇を離した俺たちは微笑み合う。

 

「ユノ」

 

俺がベッドにあぐらをかいて座ると、チャンミンはリュックサックを引き寄せた。

 

「僕の方も、いろいろと調べてきたんだ」

 

バッグの中から取り出されたのは厚みのある書籍で、そのタイトルを見て俺は絶句した。

 

 

『男色と歴史』

 

 

まじか...。

 

「......」

 

優等生タイプのチャンミンの「勉強」の仕方は、これ...か。

 

「過去の歴史から鑑みても、僕らみたいなのは別に珍しくないみたい」

 

パラパラとページをめくるチャンミンのつむじを見ながら、俺は心の中で大きくため息をついた。

 

目の前で呆れて見せたら、チャンミンが傷つくだろうから。

 

「チャンミン。

間違えるな。

俺たちは男色、じゃない」

 

チャンミンの両肩をつかんで揺らした。

 

「え、そうなの?」

 

「他の男のなんて、気色悪いよ。

チャンミンだから、好きなの

今でも俺の肴は女だし」

 

「僕も...同じ」

 

「だろ?

俺たちは、アブノーマルなことをしようってんじゃない。

プレイの1つだ。

女子相手でも挿れるだろ、そこに?」

 

「う...」

 

「経験ない?

俺も、ない。

あいにく俺たちは、男同士で無駄に棒が1本多いもんだから、そこにとまどってるわけ。

どう?

チャンミンも同じだろ?」

 

「うん」

 

「...ということで」

 

チャンミンの肩を押して仰向けにして、チャンミンにまたがった。

 

「無理無理無理無理!」

 

抵抗するチャンミンの両手首をつかんで両脇に押しやり、チャンミンの首筋に吸い付いた。

 

「やっ、無理!

僕が下、なんて、無理!」

 

「キスするだけだよ」

 

「あっ...」

 

チャンミンの耳元でそう囁いて、首筋から鎖骨へジグザグに舌を這わした。

 

「ぅん...んっ」

 

抵抗していた腕が俺の背中にまわされ、ガシっと抱きつかれる。

 

とろんとした目で、半開きにした口から甘い声を漏らすチャンミンを見て、俺は興奮する。

 

チャンミン、色気が駄々洩れなんだよ、全く。

 

俺の方も、首をもたげてきた。

 

鎖骨から下へつーっと舌を滑らせて、乳首を口に含んだ。

 

「ひゃん」

 

チャンミンの身体が小さく跳ねた。

 

右の乳首を吸い上げながら、左胸の筋肉の弾力を確かめるように揉みしだく。

 

くすんだ赤みの乳首を、丹念に舌で愛撫してやる。

 

俺の口内で固く尖ってくるそれを、尖らせた舌先で弄ぶと、チャンミンの身体は素直に反応する。

 

すげ...男の乳首も勃つんだ...。

 

「あー...あっ...」

 

ふぅっと息を吹きかけたり、舌全体で舐め上げたりすると、ビクビクとチャンミンの腹が波打つ。

 

いちいち反応してくれて...チャンミン...すまない......面白い。

 

「ひっ...んっ...!」

 

身体を反らしたチャンミンは、喉をむき出しにしている。

 

もしかして...乳首攻めが好きなのか...?

 

指先で転がし続けて焦らした末、きゅっと摘まんだら、身体を痙攣させてベッドが派手にきしんだ。

 

「やめて...やめ...やめて...!」

 

止めてと言われて、止める男はいない。

 

「チャンミン...」

 

「な...なに...?...あぁん」

 

「鍛えただろ?」

 

「......」

 

「俺のため?」

 

「......」

 

「俺にいい身体見せたくて、筋トレしちゃった?」

 

「......」

 

真っ赤になった顔を見られたくないのか、横を向いたチャンミンは無言のままだ。

 

「筋肉付けた『いい身体』を、俺に見てもらいたかったんだ?」

 

「悪いか...」

 

ぷぅっと頬を膨らませている。

 

可愛い奴だなぁ。

 

「チャンミン...いい身体だよ」

 

耳元で低い声で囁いたら、チャンミンの首筋に鳥肌が立つのが確認できた。

 

女にするみたいに両手の平で、ゆっくりと両胸を揉んでやる。

 

「あ...は...」

 

胸筋をすくい上げるようにして、その頂でピンと尖らせたものを口に含んだ。

 

軽く歯を当てる。

 

「ひゃぁっ...あん...あっ...ん」

 

のけぞったチャンミンから、悲鳴じみた声が発せられる。

 

ドンドンドンと、隣室から壁を叩く音がする。

 

「!!!」

 

学校は違うけど男子大学生が住んでたんだ、平日の昼間っから部屋にいるなんて、サボりかよ(俺たちも似たようなものか)。

 

「チャンミン!

うるさいってよ。

もう少し、声を抑えられないわけ?」

 

俺はチャンミンの喘ぎ声が好物だから、敢えて正反対なことを言った。

 

「え...だって...声...我慢できない」

 

俺が乳首の愛撫を再開したら、片手で口を覆うくらいじゃチャンミンの声は、やっぱり駄々洩れなんだ。

 

「ひゃっ...あっ...あぁ...」

 

右へ左へと頭を振って快感を逃がしているらしいチャンミン。

 

「しーっ。

声を抑えろって」

 

「...でもっ...出ちゃう...」

 

駄目だと思えば思うほど、余計に感じてしまうんだろ?

 

俺の尻にさっきから当たっているチャンミンのアレが、証明している。

 

「ユノのせい...んんーっ!」

 

チャンミンの口を俺の口で塞いだ。

 

「俺の口の中で喘げよ」なんて、ベタな台詞を吐いてしまう。

 

チャンミンに深く口づけながら、執拗に乳首をいたぶる。

 

もう片方の手を、後ろ手に伸ばしてチャンミンのブツを握ってしごき出したら

 

「あ...あ...ん...ユノ...待って...待って」

 

しごく俺の手をよけたチャンミンは、ベッドの下に落ちたバッグを引き上げる。

 

そして、手探りでバッグの中をかきまわした末、取り出されたものに、俺はフリーズした。

 

「これ...これを使って」

 

 

マジかよ。

 

無理、とか奥手ぶっておいて、ヤル気満々じゃねーかよ。

 

「やだな、ユノ。

初心なんだね」

 

「アホか!?

準備ナシでいきなりできるかよ!」

 

「うっそ。

今日は、そのつもりじゃなかったの?」

 

「ハードルの低いやつから順番に、って言っただろう?

いきなりは無理だって!」

 

「ユノは手順を踏むんだ、へぇ...」

 

「へぇぇ、じゃないって!

 

チャンミン、今、ぶち込まれたらどうよ?」

 

「え...!?

やっぱり、僕が挿れられる方なの?」

 

「やっぱり、ってことは、そっちの方向性でいいわけだ」

 

「無理無理無理無理!」

 

チャンミンは、マジな顔して首をぶんぶん振る。

 

「ユノが先!」

 

「いやいや、チャンミンが先、だ!」

 

「ヤだ!」

 

「お前裸だし、ちょうどいいじゃん」

 

チャンミンの両手首を締め上げて、もう一度馬乗りになる。

 

全身で抵抗するチャンミンを、腰を落として抑え込み、太ももで挟み込んだ。

 

「やめろー!」

 

「ほら!

ケツを出せって!」

 

「イヤだー!」

 

「こんなもの用意してきやがったのはお前の方だろ?」

 

「やっ」

 

「じっとしてろったら!」

 

手にしたものを開封しようとしたら...。

 

 

「やー!!!」

 

 

チャンミンの強烈な張り手が俺のみぞおちにヒットした。

 

「うぐっ!!!」

 

その勢いで俺はベッドの下にどすんと転げ落ちた。

 

「ううう...」

 

腹を抱えてうずくまる俺に、チャンミンは「ごめん」と恐々近づいてきた。

 

今日で一体、何度目だよ。

 

力有り余る男同士だから、押しも抵抗も力づくの取っ組み合いになるんだって。

 

「ジョークに決まってるだろ?

本気で嫌がるなよ」

 

俺は顔をしかめて腹をさする。

 

「ごめん...」

 

「チャンミンがそんな風だから、順を追ってやろうって提案したんだってば」

 

「ごめん...」

 

「あちーな」

 

俺はスウェット生地の服を着ているから、暑いったら。

 

素っ裸のチャンミンでさえ、浅黒い肌に汗が光っている。

 

俺の視線にチャンミンはハッとしたようだ。

 

「どうして僕だけ裸ん坊なんだよ!」

 

「ヤル気の差、じゃないの?

すごいねー、チャンミンは。

俺に全てを見てもらいたかったんだ」

 

「......」

 

チャンミンの目が三白眼になって、口が真一文字に引き結ばれている。

 

やべ。

 

からかい過ぎて怒らせたか?

 

「チャンミンの裸、いい感じだよ」

 

チャンミンに軽くキスをしてやった。

 

「ユノの裸...見せて」

 

「うーん..。

一緒に風呂に入るか?

お前、汗かき過ぎ!」

 

「次は涼しいところでヤろうって、言ったのに」

 

「エアコン付けようとするのを邪魔したのはチャンミンだろ?」

 

「ユノの部屋は汚いんだよ。

リモコンを無くしたユノが悪い」

 

「ブツブツ言ってないで、風呂に行こ行こ」

 

 

俺はチャンミンの腕を引っ張った。

 

(つづく)

 

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(3)秘密の花園

 

「チャンミン...本気で質問してるの?」

 

「ああ」

 

丸っこい目で私をじぃっと見つめるのはチャンミン、私の男友達だ。

 

何でもおごるからと呼び出され、こうしてチャンミンの相談事にのることになった。

 

チャンミンの口から飛び出した内容が突拍子もなくて、ずっこけそうになる。

 

「...でさ、なんでまた急に、そんなことを知りたいのさ?」

 

「それは、その...」

 

顔を赤くしてもじもじしているチャンミンは、友人の私の目から見ても、かなりの「いい男」だ。

 

整った顔をしているし、背も高いし、賢い頭も持っている。

 

モテて当然だが、いかんせん押しが弱いというか、超恥ずかしがり屋なうえに、生来の礼儀正しさが邪魔をして不器用な恋ばかりしている。

 

大学入学以来、そんなチャンミンのよき友人として、よきアドバイザーとして、付かず離れずチャンミンを支えてきたつもりだが、今回の相談事には口をあんぐりと開けるしかないのだ。

 

「だからその...『痛い』...のか?」

 

「うーん...、そうだなぁ...」

 

私は腕を組んで、勿体ぶってみる。

 

チャンミンをからかうのは非常に楽しいが、面持ちが真剣過ぎるから遠慮しておいてやろう。

 

「ズバリ...痛いよ、すっごく」

 

「うそ...」

 

チャンミンは片手で口を覆い、青ざめている。

 

「すっごく、って、どれくらい?」

 

「人それぞれじゃないかな。

私の友達の場合は、2日くらい歩き方が変だったって」

 

「えっ...そんなに?」

 

チャンミンの顔色がますます青くなった。

 

「私のときは...うーん、中学生のときだったからなぁ、どうだったっけ?」

 

「ええぇぇっ!

タマちゃん、中学生の時だったの!?」

 

「正確に言うと、中学の卒業式の後だから、高校生未満?

ほとんど覚えていないよ」

 

私はハンバーガーの最後のひと口を放り込んだ。

 

チャンミンは、中身のなくなったジュースをしつこく吸い込んでいるから、ずずずっと音をたててうるさい。

 

「あのさ、どうしてそんなことを聞きたいのよ?」

 

「えっと、それは...」

 

今度は頬を赤らめて下を向いてしまうから、青くなったり赤くなったりと忙しい奴だ。

 

「チャンミン、私に隠し事なんて100年早いよ。

ほら、とっとと白状をおし。

いよいよ『童貞』を卒業するんだろ?

コングラチュレーション!」

 

エア・クラッカーを鳴らしてやった。

 

「しぃーーー!

タマちゃん!

声が大きい」

 

私の口をすっぽり覆うと、チャンミンは周囲をキョロキョロと見回した。

 

「タマちゃんは嬉しいよ。

坊やだったチャンミンが、やっとでひと皮むけるんだねぇ。

 

...で、どんな子なの?

分かった!

 

その子も初めてなんだね。

そうかそうか、

心優しいあんたは、彼女がどれくらい痛がるかを心配したんだね。

 

童貞と処女同士なんて、これはまたなかなかハプニング要素がたっぷりだねぇ...。

いやいや、お互いが初めて同士ときたら、感激もひとしおってことか。

 

いいか、チャンミン!

スムーズな挿入を果たすには、『躊躇するな』だぞ。

どんなに彼女が痛がろうが、チャンミンは引っ込めたりせずに、ぐいっと侵入し続けるべき!だぞ」

 

 

そこまで一気に話すのを、メモを取らんばかりに耳をすまして聞いていたチャンミン。

 

「痛いのが、いつから気持ちいいに変わるわけ?」

 

「初回から気持ちいい人もいるし、何回か数をこなさないと駄目な場合もあるし...」

 

チャンミンは、「何回も数を」の辺りで顔をしかめている。

 

「おほん。

大事なのは、お互いの愛と相性よ」

 

「初めては『痛い』けど、『躊躇はするな』。

何度かやってるうちに、気持ちよくなる...だね」

 

「チャンミン、頑張れよ。

あとで、感想きかせてな。

ごちそうさま」

 

腕を組んで考え事をしているチャンミンの肩をぽんと叩いて、次の講義の時間が迫っていた私は、席を立った。

 

前もってそんな知識を仕込んでおかなくても、その場の雰囲気でどうにでもなるのにね。

 

チャンミンの彼女がどんな子か、今度紹介してもらおう、っと。

 


 

~チャンミン~

 

 

僕とユノは「交際」している。

 

ユノは「男」だ。

 

僕の恋愛対象は「女」だったから、「男」と付き合うなんて初めてのコト。

 

大学の実習で同じグループになった。

 

マスクから覗いたユノの黒くてつやつやとした瞳に、一発でやられた。

 

僕の全部を持っていかれた。

 

ユノも同様だってさ。

 

ユノも「男」に惚れたのは初めてなんだってさ。

 

その日のうちに、ユノと「関係」を持った。

 

「関係」と言っても、深いやつじゃなくて、互いのペニスを見せあいっこして、しごき合っただけ。

 

腰が抜けるほど気持ちがよかったし、ものすごく興奮した。

 

僕は早く、ユノと一つになりたいんだけど、ユノは尻込みしているみたい。

 

「やりかた」が分からない。

 

僕だって分かんないよ。

 

僕もユノも一人暮らしだから「場所」の確保はOK。

 

実習を別にして、3年になって必修講義数も減っているから、「時間」もOK。

 

あとは、ユノの「ヤル気」だけだ。

 

ロッカールームでのこと(ちなみに、僕とユノが初めて関係を持ったのが、ロッカールームだったんだ)以来、ユノは僕といい雰囲気になるのを意識して避けているようなんだよね。

 

ユノは恥ずかしがり屋さんなんだよね...。

 

 

と、ここまで語っておいて、白状する。

 

僕は嘘をついていました。

 

 

恥ずかしがり屋なのは僕の方、尻込みしているのは僕の方です。

 

 

ユノの方は、ヤル気満々なんだ。

 

僕も興味津々だよ。

 

でも、怖い。

 

痛いのは嫌だよ。

 

女の子も、初めての時は痛いと聞くから、その辺りの経験談を聞きたいところだ。

 

そういう訳で、友人のタマちゃんに「どれくらい痛い」のか教えてもらったんだ。

 

分かってるって。

 

女の人のアソコの痛みと、男同士がガチでヤる時のアソコの痛みが違うだろうってことは。

 

異物の侵入を許したことのない箇所へ、初めて受け入れた時に痛みが生じる点は共通しているかな、と。

 

僕は友人がそう多くないし、デリケートな質問を気軽にできる人となると、タマちゃんしかいなかった。

 

まさかタマちゃんは、僕の相手が「男」だなんて想像もしていないだろう。

 

僕とユノのコト始めにあたって、真の経験者の話を聞いてみたいものだ。

 

こんな風に頭でっかちじゃなくて、その場のムードに流されていつの間に...ってのが理想的なんだろうけど、やっぱり怖い。

 

 


 

~ユノ~

 

 

「チャンミン!

端っこに座っていないで、近くに寄れよ」

 

「う、うん...」

 

時刻は13:00。

 

チャンミンは俺の部屋にいた。

 

「おやおや、チャンミン」

 

チャンミンの首筋の匂いをくんくんと嗅いだら、ボディーソープのいい香りがして嬉しくなる。

 

「風呂に入ってきただろ?」

 

チャンミンの首筋が、ボッと赤くなる。

 

「ヤル気満々じゃないか」

 

「違っ!

暑かったし、汗いっぱいかいたし」

 

かいてもいない汗をぬぐうフリをするチャンミンが、可笑しいったら。

 

「残念だなぁ。

俺はチャンミンの匂いが好きなのになぁ」

 

照れ隠しなのか、チャンミンが俺の脇を嗅ごうと鼻を寄せてきたから、腕で押しのける。

 

チャンミンと一緒にいて知ったのは、チャンミンは匂いフェチなところがあるんじゃないかって。

 

季節が夏だということもあるが、長い実習を終え、丸一日分の汗と皮脂をたっぷりとまとわせた身体を寄せると、チャンミンはうっとりとした表情を見せて、たちまち股間を固くさせるんだ。

 

潔癖気味のチャンミンが、俺の匂いに感じているのを見て、俺も感じてしまう。

 

 

俺とチャンミンが相互に「恋人」だと認識し合って、はや一か月。

 

蒸し風呂状態のロッカールームで、キスをして、2本まとめてしごいて2人同時にイッた以来、それらしいことをいたしていない。

 

互いの部屋には行き来していて、いくらでも2人きりになっているのに、チャンミンの肩を抱き寄せたりすると、びくっと身を引いて「バイトがあるから」とか、「腹が痛い」とか、あれこれ理由をつけて帰ってしまう。

 

 

何度もそういうことが続くと、鷹揚な俺でも不安になる。

 

「女の子の日か?」とふざけて聞いたら、湯を沸かすぐらい真っ赤になって怒ったっけ。

 

3日くらい口を聞いてくれなかったが、結局は寂しくなったのか「ユノの家に行っていい?」と電話があって、こうして今、チャンミンが目の前にいる。

 

 

チャンミンは、俺の胸の谷間に犬みたいに鼻づらをくっつけている。

 

「やめろよ!

いやらしい奴だなぁ」

 

「匂いを嗅ぐのが、なんでいやらしいになるんだよ」

 

チャンミンの頭をつかんで引き離したら、チャンミンの奴、頬を膨らませて俺を見る。

 

小悪魔的な魅力が駄々洩れなんだって。

 

「お前さ、わざとなのか?」

 

「何が?」

 

「ほっぺをぷぅ、って。

可愛すぎるんだよ。

小動物みたいな顔をされたら、俺は...」

 

たまらなくなって、チャンミンの首根っこをつかんで強引に唇を奪う。

 

「ユノ!」

 

「押し倒したくなるじゃないか」

 

「んー!」

 

じたばたと抵抗しているが、しょせんは「フリ」だ。

 

さっきまで抵抗していた腕が、がしっと俺の背中に回る。

 

チャンミンは、俺の下唇がお気に入りなんだ。

 

舌を入れないキスであっても、チャンミンにふにふにと甘噛みされたり、舌先でなぞられたりすると、ぞわぞわっとした痺れが下半身に向かって走る。

 

下唇を丹念に味合われていたら、俺の欲望は急加速し、チャンミンのパンツの前に手を這わすと...。

 

「!!!」

「やー!!!」

 

チャンミンに力いっぱいはねのけられ、その勢いで俺は後ろにすっ飛び、椅子の角で頭を打ち付けた。

 

「いってぇな!」

 

取っ組み合いの喧嘩じゃないかよ、これじゃあ。

 

チャンミンは「ユノ、ごめん」と眉を下げ、ひっくり返った俺に手を差し出す。

 

「ロッカールームではあんなに積極的だったのに。

急にどうしたんだよ?」

 

後頭部をさする俺は、やや不機嫌だ。

 

全力で拒否られたら、やっぱり傷つく。

 

チャンミンとの肉体的な距離を縮めようとする試みは、ドキドキの緊張しまくりなんだから。

 

チャンミンは目を伏せて、ぼそっと「だって...」とつぶやいた。

 

「怖いのか?

俺に任せろって。

それなりに、リサーチしたんだ」

 

ごたごたと物が置かれたデスクに置いたノートPCを、スリープ状態から目覚めさせる。

 

PC画面には、それはそれは、な画像が並んでいる。

 

「え!?

どこのサイト?」

 

しゅんとしてたチャンミンが、目を輝かせてこれらの画像に見入っている。

 

なんだかんだ言って、興味津々なんじゃないかよ。

 

「ハードルが低いやつからいこうと思うんだ」

 

「うん...そうだね」

 

俺の間近で、チャンミンの喉ぼとけがごくりと動いた。

 

チャンミンが画面にくぎ付けでいる隙に、俺はチャンミンのパンツのファスナーを素早く引き下ろした。

 

「ユノ!」

 

チャンミンの抵抗の手をかわして、下着の合わせから中身を引き出す。

 

間髪入れずに、そいつを口に咥えた。

 

「あん...」

 

「怖い」とか言っているやつが、ここまで元気に育ててるのがおかしいだろう?

 

風呂に入ってきたばかりだから、口の中いっぱいに石鹸の香りと、それから青臭さ。

 

「なあ、チャンミン」

 

「な...に?」

 

俺を見下ろすチャンミンの目は潤んで、口は半開きだ。

 

「ここに来る前に、抜いてきただろ?」

 

「う...ん」

 

「違う!」と否定しそうだったから、拍子抜けした。

 

2本の指で根元を握り、喉の奥まで深く咥えこむ。

 

亀頭だけ口に含んで、竿をしごいてやる。

 

「あっ、あっ、あっ」

 

しごきに合わせて、チャンミンは喘ぐ。

 

ふさふさのチャンミンの陰毛を指ですいてやると、くっとチャンミンのペニスが反応する。(意外に毛深い奴なんだよ)

 

チャンミンの両手が、俺の髪をかき乱す。

 

男のモノを口にするなんて、初めてのことだ。

 

これまで、女の子にフェラチオされて悦んでいたくせに、よくもまあ、『こんなモノ』を口にできるもんだと感心していたのに...。

 

「ひゃ...あっ...」

 

喉の奥で亀頭をぐいと挟んだら、チャンミンの腰がぐらっと揺れた。

 

チャンミンの喘ぎは、妙に女っぽい。

 

かすれた声が、非常に色っぽい。

 

突っ立ったチャンミンの前で膝立ちし、チャンミンのペニスが俺の口を出入りしている。

 

俺の口の中でチャンミンのペニスが、ぱんぱんに膨張してゆき、小さく痙攣したりする。

 

「んーっ...んっ」

 

ここをこうすると滅茶苦茶気持ちがいいんだよな、って想像しながら裏筋を舌全体で舐め上げたら、触れられていない俺のものまでビクリと反応するんだ。

 

俺の下着の中は先走りでぐちょぐちょで、力強く勃起したもので前が苦しい。

 

ちゅぽんっと口から離したら、チャンミンの元気なペニスが弾んで下腹をぺちっと叩いた。

 

「あん」

 

だからさ、声が色っぽいの。

 

 

俺の唾液でてらてら光るチャンミンのペニスを、とっくりと観察する。

 

すげえな...血管がドクドクいってる。

 

俺のモノより若干、色が濃いかな...亀頭は一回り小さいか...。

 

「恥ずかしいから...」

 

そろそろとチャンミンの手が下りてきて、自身のペニスを覆い隠そうとする仕草が可愛いったら。

 

 

「...もう、終わり?」

 

恥ずかしがってる奴が言う台詞じゃないんだよ。

 

「何が?」

 

にかっと笑顔で、チャンミンを見上げる。

 

「これ」

 

もの欲し気なとろんとした目付きで、チャンミンが続きを催促している。

 

「例えば、今みたいにハードルの低いやつから始めようかなぁ?

チャンミンはどう思うかなぁ?って」

 

「え?」

 

「怖がりのチャンミンだったら、できる?」

 

こみあげてくる笑いを抑えてチャンミンに質問したら、

 

「できるに決まってるだろ!」

 

ぷぅっと頬を膨らませてリスみたいな顔をするんだって、この男ときたら。

 

 

(つづく)

(2)秘密の花園

 

 

 

チャンミンは股間を見下ろしていたが、いきなり俺の下着に手を突っ込んだ。

 

「あ、こら!」

 

そして、半勃ちレベルになった俺のペニスを引っ張り出した。

 

「ユノ...おっきいね」

 

チャンミンは、手の平に載せてふにふにと軽く握ったり離したりした。

 

「っん...」

 

細くて長い、神経質そうな指だと思った。

 

「僕のも、握って」

 

男同士はこういう点、遠慮がないなと思った。

 

「早く!」と急かされ、下着ごとパンツを引き下げたら、チャンミンのペニスが弾みよく飛び出た。

 

「...すげーな...」

 

握ると、熱く脈打っていて、チャンミンの興奮がダイレクトに伝わってくる。

 

「......」

 

俺たちは貪るように口づけを交わす。

 

舌を吸いながら、左手はチャンミンのペニスを一定のリズムでしごく。

 

チャンミンも、俺の裏筋を親指で刺激しながら、他の4本で竿をしごく。

 

「んっ」

 

ヤバ...とにかく気持ちがいい。

 

ペニスの扱い方は、お互い知り尽くしているから、当然か。

 

女の子がやる遠慮がちなデリケートなしごき方じゃなくて、遠慮のないしごき方だ。

 

強い快感が背筋を駆け抜けて、目がくらみそうだ。

 

チャンミンの先走りの量がすごくて、ぬるぬると面白いように指が滑る。

 

「あ...っ」

 

チャンミンの喘ぎ声が、女の子っぽくてそそられる。

 

唇を離して、互いの肩に額をのせる。

 

「はぁ、はぁ」

 

息が荒い。

 

このままイってしまっては勿体ない。

 

ペニスをつかんだ手を離して、互いの指を絡めた。

 

俺たちのペニスを密着させた。

 

股間を見下ろすと、ビジュアル的にエロくて興奮する。

 

チャンミンはとろんとした目で、口を半開きで、腰を揺らし始めた。

 

「あ...ん」

 

声が女っぽいんだよ。

 

途端に俺のペニスがグッと硬く膨張した。

 

俺も腰を小刻みに揺らして、チャンミンのペニスにこすりつける。

 

「気持ちいいか?」

 

「う...うん...あっ...」

 

俺の敏感なところが、チャンミンのそこに当たって、互いの先走りが混ざり合って、ぬるぬるとこすり合わさる。

 

腰の動きを止めて、柔らかな尿道口同士をぬるつかせたら、チャンミンの膝ががくっと抜けそうになって、俺は腰を支えてやる。

 

「それ、駄目...そこ...駄目」

 

とうわ言みたいに繰り返すから、指のしごきを加えてやった。

 

「だ、駄目っ」

 

チャンミンに手首を捉えられてしまった。

 

「ユノ...駄目」

 

腰を引いたら、2つの亀頭の間につーっと糸が引いた。

 

なんて眺めだよ。

 

俺たちは、手探り状態だった。

 

どこをどうすればいいか分からなかった。

 

今はただ、俺とチャンミンが向かい合わせに立って、目の前に突き出された互いのペニスをまさぐり合うだけだ。

 

俺の腹とチャンミンの腹で、2本のペニスを挟み込んだ。

 

深く口づけながら、腰を上下に動かす。

 

互いの亀頭がぐりっと重なり合った時、

 

「はぅ...ん」

 

チャンミンは天を仰いで大きく喘いだ。

 

上では、互いの口内を舌でいっぱいにする。

 

すげぇ気持ちいい。

 

目の前で、俺の興奮とチャンミンの興奮が、物理的ににくっついてるんだ。

 

チャンミンも同様で、亀頭がずりずりと合わさる光景を見下ろして、ぱんぱんに怒張した。

 

「あ...ん、あ...ん」

 

だから、喘ぎが女っぽいんだって、と心中で突っ込みを入れながら、俺もかすれ声交じりの吐息を漏らす。

 

視線を交わして合図を送る。

 

俺のペニスもチャンミンのものも、俺は両手で一緒くたに握った。

 

 

これまでの人生で、ペニスを2本まとめてしごいたことは、ない。

 

俺以外の勃起したペニスを間近で目にすることも、触ったことも、ない。

 

目の前のこの男、チャンミンとキス以上のことをしようと思ったら、こうするしかないんだ。

 

「ユノ...すき...」

 

「!」

 

そういう可愛いことを、急に言い出すなって。

 

俺が腰をチャンミンにこすりつけるように揺らす間、チャンミンは俺の首に両手でかじりついている。

 

「あっ...ん...んっ」

 

2本まとめて射精したいところだ。

 

チャンミンの方が早そうだ。

 

「も...だめ...イキそ...」

 

チャンミンのペニスの根元を強く握って抑えたが、駄目だ、視線がうつろになっている。

 

「待て...!」

 

「だめ...もた...ない...!」

 

腰の動きを止めて、ペニス同士を密着させてしごく手のスピードを上げた。

 

股間の奥の圧力が増した。

 

「イっちゃう...」

 

手の中のモノも、ぎちぎちに硬く膨れてきた。

 

チャンミンは腰を小刻みに揺らし出した。

 

「イクっ...イクっ...イっ」

 

ビクッと痙攣したのち、チャンミンの方から熱いものが噴出し、

 

「んっ...!」

 

俺の視界が一瞬白くなった末、遅れて俺の方も達した。

 

互いの腰がぶるぶるっと震えるごとに、白いものが吐き出される。

 

 

チャンミンは俺の頭を力任せにかき抱いているから、俺は息ができない。

 

 

「はあはあはあはあはあ...」

 

 

2人して肩で、荒い呼吸を繰り返した。

 

チャンミンの腕がほどかれると、どさっと俺は床に尻から倒れこんだ。

 

「あちー」

 

チャンミンも崩れ落ちるように腰を落とすと、そのまま床に大の字になった。

 

冷房の効いていないロッカールームは蒸し風呂のようで、俺たちは汗でずぶ濡れだった。

 

チャンミンの白いTシャツは、ぴっちりと肌に張り付いて、肌色が透けている。

 

 

「これは...一種の...運動だな」

 

「うん...」

 

「なんとかなるもんだな」

 

「うん」

 

「...なんとか、なった...」

 

「うん」

 

「ん?」

 

チャンミンが俺のTシャツの裾を引っ張っていた。

 

「次は...」

 

寝っ転がったチャンミンが、潤んだ目で俺を見上げていた。

 

「服を脱いでやりましょう」

 

「ああ」

 

よかった、チャンミンも俺とのことを気に入ってくれたようだ。

 

「それから」

 

チャンミンの腕が伸びて、俺の両頬を挟んだ。

 

「次は、涼しい部屋でやりましょう」

 

そう言って、唇が当たるだけの優しいキスをした。

 

「もちろん」

 

ロッカールームは、いくら若い俺たちだって参るくらい過酷過ぎる。

 

半身を起こしたチャンミンは、両腕を上げてTシャツを脱いだ。

 

俺は見惚れた。

 

正しい位置に、正しい分量の筋肉をまとった美しい背中だった。

 

「恥ずかしいから、見ないで」

 

顔を赤くさせて、脱いだTシャツを俺に手渡す。

 

「?」

 

「拭きなよ。

ユノのお腹についてる」

 

確かに俺の下腹部と、陰毛にチャンミンの、いや俺のか?、どっちのでもいいが、精液が跳ねついていた。

 

「拭いたらチャンミンは、着ているものどうすんの?」

 

「あ、そっか...。

別にいいよ、気にしない」

 

俺はチャンミンに手を貸して立ち上がらせた。

 

立ち上がった途端、チャンミンに尻をガシっとつかまれた。

 

「おい!」

 

「ユノのお尻...触り心地がよかった」

 

眉を下げて目を細めてニヤニヤしている。

 

「やらしいこと言うなよ」

 

「ふふふ。

僕らは、いろいろと勉強しないと、ね?」

 

「確かに」

 

『勉強』の内容はきわど過ぎるが。

 

「俺は嫌だからな。

チャンミンの方だからな!」

 

「えー、どうして僕が『ウケ』なの?」

 

「お前、やっぱり詳しいじゃないか!?」

 

「ユノの方こそ、知ってるじゃん」

 

「......」

 

「どっちが向いているかは、やってみなくちゃ分からないよ。

フェアにいきましょう」

 

「なんだそれ?」

 

「あーもー!

ユノのせいで、精液臭い」

 

「俺のとは限らないだろ?」

 

「ううん。

これは、僕のじゃない」

 

チャンミンがTシャツをくんくんさせてるから、俺はチャンミンの背中をどついた。

 

「そういう恥ずかしいことは、やめろって」

 

「ははは」

 

 

 

 

チャンミンが射精する瞬間の、切なげな表情がたまらなかった。

 

キャップとマスクの隙間からのぞいた可愛らしい目元に、チャンミンのことを「女」だと思ったんだ。

 

しかし、つなぎの上を脱いで袖部分をウエストに巻き付けた時、身体付きを見てはじめて、チャンミンは男だと知った。

 

俺もTシャツ姿になっていたというのに、チャンミンは気付かなかったのか?

 

どう見ても男だろう!?

 

一体どこを見てたんだ?

 

後日、チャンミンに尋ねたら、

 

「ユノの顔しか見ていなかった。

あまりにも綺麗な目で、目が離せなかった」

 

なんて、可愛い返事がもらえた。

 

チャンミンに褒められた目で、俺はチャンミンの背中に熱い視線を送る。

 

 

以上が、俺とチャンミンの「コト始め」のすべてだ。

 

思い出すと、無知でぎこちなくて笑ってしまうが、当時の俺たちは真剣だった。

 

俺には当時、付き合って1年になる彼女がいた。

 

チャンミンと牛の腰角ごしに視線が交差した瞬間、彼女と別れよう、と決心したんだ。

 

 

『僕のユノのコト始め』終わり

『僕とユノの時間割』につづく

 

 

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(1)秘密の花園

ユノに深く口づけながら、ユノの背中に回した手を撫でおろした。

 

お尻を丸みを手の平でなぞったあと、ユノのパンツのボタンを外して、その隙間へ指を侵入させた。

 

僕の手が瞬時にフリーズした。

 

絡めていた舌も一緒にフリーズして、ユノから唇を離した僕は「マジか...」とつぶやいた。

 

「そうだよ。

俺は男だよ」

 

マジかよ。

 

いざセックスをしようとした相手が、「男」だった。

 

「気付かないチャンミンが悪い」と、ユノはマジな顔で言った。

 

 


 

 

必修科目の実習で同じグループになったのが、チャンミンと顔を合わせた最初だ。

 

この日は、ホルスタイン牛の直腸検査実習だった。

 

牛の肛門から腕を差し入れ、直腸越しに内蔵を触診するのだ。

 

青いシャワーキャップみたいな帽子とマスクをつけ、学校指定のつなぎに白い長靴姿だった。

 

つなぎの胸ポケットに名前が縫い付けられている。

 

えらく背が高い奴だなぁと、最初にチャンミンのスタイルに目がいった。

 

近くで見ると、キャップとマスクの間で、長いまつ毛をぱちぱちとさせた丸い目で、えらく可愛いかったんだ。

 

この時だ、俺のハートに矢が刺さったのは。

 

ちょっと待てよ、こいつは「男」だぞ、と即行この想いを打ち消そうとした。

 

ところが、男とか女とかの道理を超越した魅力を、チャンミンから感じ取っていたから、打ち消すのを取り消した。

 

直腸検査の実施者には、向き不向きがある。

 

俺もチャンミンも「細くて長い腕」を持っていたから、トップバッターは俺、二番手はチャンミンの順で行い、太過ぎるマッチョ君と短い女子二人は牛の保定と撮影係に、役割分担した。

 

つなぎの上は脱いで、袖をウエストで縛り、Tシャツを肩の上まで捲し上げると、滑りをよくするため石鹸水を腕に塗り付ける。

 

院生の指示通り、腕を肩まで差し入れる。

 

チャンミンは、俺の頭を打たないように牛の尻尾を押さえる役だった。

 

強力な吸引力で俺の腕が、奥へ引きずり込まれそうになる。

 

「ここが子宮」と指先で感触を確かめているとき、隣に立ったチャンミンと目が合った。

 

バシッと音がしそうなくらい、直球の眼差しがぶつかった。

 

ますますヤバイ、と思った。

 

チャンミンの番になって、捲し上げたシャツからむき出しになった三角筋や、曲げた際に現れた上腕二頭筋の盛り上がりに、ごくりと喉が鳴った。

 

男の目から見ても、なかなか見惚れるだけある「いい腕」をしていた。

 

指をすぼめてずぶずぶと、腕を挿入していく。

 

粘膜を傷つけないようそろそろと腕を進め、肩まで挿入し終えると、チャンミンはふうっと息を吐いた。

 

「手の平を下に向けて...違う...少し腕を引いて」

 

院生の指示に従っているが、目当てのモノの場所が分からないらしい。

 

眉尻を下げ、「あれ?」「ここ?」と困惑顔だ。

 

「そんなにかき回したら、シロちゃん(牛の名前だ)が苦しがる!」と、院生に叱られている。

 

尻尾を押さえていた俺は、チャンミンに顔を寄せ、自分も腕を伸ばして「この辺り」と身振りで教えてやる。

 

潤んだ目をしたチャンミンと、横目で目が合った。

 

チャンミンのまぶたが瞬間、ピクリとしたのを俺は見逃さなかった。

 

マスクの下では、口をゆがめているんだろう。

 

やたら色っぽい顔だった。

 

牛の直腸検査という極めて直実的な現場で、「牛の肛門に手を突っ込む」なんていう行為のせいで、余計にそう感じてしまった。

 

チャンミンの前髪から汗がしたたり、マスクに隠された彼の端正な頬を滑り、顎まで到達するとぽたりと落ちた。

 

牛の体内は熱いくらいだから、初夏の牛舎での実習は余計に汗をかく。

 

背中に汗でTシャツが張り付き、襟足の髪も濡れていて、アレの後みたいだなと俺の想像は逞しい。

 

マスクで隠されている分、眼差しに込めた想いが際立った。

 

ホルスタイン牛の腰角越しに、俺とチャンミンの心は繋がった。

 

 

実習後、夕日で赤く染まる牛舎の影で、俺たちはキスをした。

 

身長は少しだけ、チャンミンの方が高かった。

 

マスクを外したチャンミンは、鼻やあごの造りがしっかりしていて、優し気な目元とのアンバランスさが魅力的だった。

 

チャンミンの方も、マスクを外した俺の顔を食い入るように見つめていた。

 

最初は触れ合うだけの軽いものだったのが、次第に熱を帯びてきて、牛舎の壁に背を押しつけられ、口内を探る深いものへとなった。

 

 

チャンミンと俺が同性同士だってことなんか、大した問題じゃなかった。

 

俺たちは言葉を交わしていなかったが、雰囲気だけで相性が分かった。

 

顔だろうが腕だろうが、相手の持つものから美を見いだせたのなら、それでいいんじゃないかと思うんだ。

 

つなぎに長靴姿なことに気付いて、顔を見合わせて苦笑した俺たちは、先へ進めるためにはまずは着がえようとロッカールームへ向かった。

 

 

男子更衣室に堂々と入室する俺に、チャンミンは驚いたようだった。

 

「もしかして」と俺は思った。

 

初対面のチャンミンが、俺の性別を間違えても無理はないと思った。

 

俺は色白で、ぽってりとした唇は常に赤みを帯びていて、顔のパーツも繊細な方だ。

 

最近身体を絞ったこともあり、スリムで華奢なイメージが増したかもしれない。

 

チャンミンに背を向け、暑苦しいつなぎを脱ぎ捨て、パンツを履いた。

 

ロッカーの扉に指をかけたまま、こちらを探るように見るチャンミンの口が半開きだった。

 

振り向いてあごをしゃくってみせたら、はっとしたようにチャンミンも着がえだした。

 

慌てたチャンミンは、パンツに脚を通す際よろめいて、ロッカーに肩をぶつけていた。

 

可笑しくなった俺は、チャンミンのうなじに手を差し込んで、唇を奪った。

 

ぐいぐいと舌をねじこんだら、チャンミンのこわばっていた顎の緊張がたちまち解けて、俺の唇全部を覆いかぶせるように重ねてきた。

 

無人のロッカールームに、唇と絡め合う舌がたてる水っぽい音が響く。

 

「は...」

 

重ねた唇の間から漏れるチャンミンの吐息が切なげだった。

 

チャンミンの高ぶりは、手に取るように分かる。

 

一目で強力な吸引力で惹かれ合った二人が、こんなにいやらしいキスを交わしているんだから。

 

意地悪をしたくなった俺は、俺の方もそうだとバレないよう、押しつけられるチャンミンの腰と中心をずらす。

 

「んっ...」

 

チャンミンの俺の肩を抱く腕に力が増し、その手が俺の背中をまさぐりだした。

 

俺も汗で張り付いたTシャツの上から、チャンミンの胸に手を滑らす。

 

湿ったシャツを乾かしてしまいそうなくらい熱く火照っていた。

 

手の平の下でチャンミンの鼓動がドクドクと打っている。

 

もちろん、俺の心臓も痛いくらいに速く、力強く打っている。

 

チャンミンの手が俺の尻にまわされ、形を確かめるようになぞったり、指先に力をこめて揉んだりしだした。

 

 

いつ気付くか?

 

背後から、俺の腰骨をなぞるようにチャンミンの手が前に回り、器用にパンツのボタンを外した。

 

ゆるんだパンツの隙間から、チャンミンの手が差し込まれる。

 

チャンミンの手がびくっと震えたのち、フリーズした。

 

 

 

唇を離すと「マジか...」とかすれ声でつぶやいた。

 

 

「そうだよ。

俺は男だ」

 

 

初対面から今まで無言だった俺たちは、今ここで初めて言葉を交わした。

 

チャンミンは片手で口を覆い、顔を反らして考え込んでいるようだった。

 

当然だ。

 

女だと思い込んで、ロッカールームでコトに及ぼうとしたら、股間にブツをくっ付けた男だったんだから。

 

俺の方も、目を泳がせ思案にくれるチャンミンを、楽観していたわけじゃない。

 

ノーと拒絶される可能性が高かった。

 

甘やかに潤ませた目を、「気持ち悪いもの」を見るかのようなそれに変化する瞬間を見たくなかった。

 

俺だって男にキスするなんて、初めてだったんだ。

 

「なんとか、言えよ」

 

不安になった俺は、チャンミンの口を覆っていた手をつかんで、下ろさせた。

 

よかった。

 

チャンミンの充血した目には欲が宿ったままで、俺の肩をつかむ片手も力がこもっている。

 

「嫌か?

俺が男で、嫌になったか?」

 

チャンミンの顔を覗き込むようにして、尋ねた。

 

チャンミンは「嫌じゃない」と言って、素早く首を振った。

 

「ユノは?

男が好きなの?」

 

「まさか!」

 

「じゃあ、なんで?」

 

なぜも何も、これには深い理由は全くない。

 

ゼロだ。

 

「なぜ惹かれてしまうの?」の回答は「好きだから」、以上。

 

「チャンミンこそ、なんで?」

 

答えられなくて、俺も質問で返した。

 

「うーん」と、チャンミンは天井を見上げて真剣に考えだした。

 

あご裏に、髭の剃り跡があって、「やっぱりこいつは男か」としみじみ思った。

 

「好きになったんだ、一気に」

 

ははっと笑うと、チャンミンはロッカールームの入り口ドアまで歩いて行き、がちゃりと鍵をかけた。

 

「これでよし」と頷いているから、俺は事の展開についていけない。

 

チャンミンは俺の両肩を引き寄せて、力いっぱい抱きしめた。

 

「好きに、なった」

 

耳元でささやかれて、腰のあたりにしびれが走る。

 

男同士のハグはさぞかしゴツゴツとした感触かと想像していたら、筋肉の弾力もあって包み込まれるような安心感があった。

 

ただし、力が強い。

 

ガシャンと派手な音を立てて、俺はチャンミンの身体とロッカーの間に挟まれた。

 

はたから見たら、取っ組み合いのようだ。

 

チャンミンの両腕が、俺のウエストをつかんで引き寄せて、ぐりぐりと股間を押しつけてきた。

 

めちゃくちゃ勃起してるじゃないかよ。

 

俺の方も、凄いことになってるんだけどさ。

 

第一印象的に、チャンミンの方が俺にリードされるんだと思っていたら、実は逆なのか?

 

「......」

 

 

チャンミンは何か言いたげな顔をしていた。

 

「なんだよ?」

 

「今すぐユノを抱きたいんだけれど」

 

部屋の鍵をかけたくらいだから、ヤル気満々なのはわかってるよ。

 

チャンミンの次の言葉を待った。

 

「笑わないで。

困ってるんだ」

 

「何を?」

 

「うーん...でも」

 

「いいから、言ってみろよ」

 

「どうやればいい?」

 

「は?」

 

「だからさ!」

 

苛立ったチャンミンは俺のパンツのファスナーを下ろして、俺の興奮の証をさらした。

 

次いで、自身のパンツのファスナーも下ろして、下着の薄い生地にくっきりと浮かんだモノを指さした。

 

「今ここに、2本の棒がある」

 

「あるよね。

俺のちんちんとお前のちんちんが」

 

「女子にはない」

 

「当たり前だろうが」

 

「代わりに、女子には穴がある」

 

「うん、だから?」

 

チャンミンをからかおうと思って、とぼけていたわけじゃない。

 

「僕たちには穴はない」

 

「あ...そういうことか!」

 

チャンミンの言いたいことがわかった。

 

キスのその先のことまで、考えていなかった。

 

「ユノはホントに、知らないの?

その...男同士はどうやるのか?」

 

「そりゃ、なんとなくは知ってるけど。

具体的なヤリ方なんてわかんねーよ。

今日まで、縁のない世界だったんだから。

チャンミンこそ、知識ゼロ?」

 

「なんとなくは知ってるけど...」

 

チャンミンは鼻にしわを寄せる。

 

「...お尻の穴なんて、僕は嫌だよ」

 

チャンミンの「お尻は嫌だ」発言はこの先、俺がチャンミンをからかうときのネタとなった。

 

「俺だって嫌だよ」

 

「慣らせば、できるようになるらしいよ」

 

「詳しいじゃないか?」

 

「慣らし方なんて知らないよ」

 

「カマトトぶるなよ。

詳しいんだろ?」

 

「ちがっ!

つまり、直ぐにできるものではない、ってことを言いたいの」

 

「当たり前だろ?

俺だって、おっかなくてお前のケツに挿れらんねーよ」

 

「なんだぁ。

ユノもわりと知ってるじゃん」

 

「バカ!

これくらいは常識範囲だって」

 

「どうしよっか?」

 

勃起した2本のペニスを見下ろして、俺たちはかなり真剣に悩んだのだった。

 

(後編へつづく)

 

 

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