(13)僕を食べてください★

 

上では互いの舌を出入りさせ、下では僕のものが出入りする音をたてている。

 

キキと繋がっている感動と、昼間の屋外で行為に至っているふしだら感が合わさって、僕は興奮の真っ只中だった。

 

それでも、昨日のように無我夢中になり過ぎないよう、快感を逃しながら腰を振る。

 

「んっ...んっ...」

 

加減してはいても、ひと振りごとに声が漏れ出てしまう。

 

僕の背に回されたキキの手が、僕のTシャツを握りしめる。

 

爪先立ちのキキの片脚に気づいて、彼女の腰ごと抱え上げた。

 

彼女は軽い。

 

キキは全体重をを僕に預けて、僕の首の後ろで両手を組んでしがみついている。

 

僕の腰の律動に合わせて、キキの身体がガクガクと揺さぶられる。

 

小柄なキキの身体を、僕みたいな大柄な男がこんなにも揺さぶって、中を貫いてしまっていいんだろうか。

 

遮二無二に肉欲をぶつける自分の、濫(みだ)りがましさを軽蔑する。

 

日常の僕は、常識的で大人しくて、できるだけ道徳的な人物であろうとしていた。

 

とりわけ女性には礼儀正しく、優しくあろうとしてきた。

 

冷静沈着さを装うごとに、醒めた表情を取り繕うごとにむくむくと、密かに育ててきたものや、

 

心の奥の襞と襞の間に、ひた隠してしてきた濫りがましさを、今ここで吐き出せる自分に悦んでいた。

 

真昼間に、屋外で、ガードレールから身を乗り出して見下ろせば見られてしまうかもしれない状況にも興奮した。

 

僕はキキに耽溺していた。

 

絶頂の際に口をついて出てしまった「好きだ」の言葉。

 

その返答は得られず、逆に諌められた。

 

にもかかわらず、僕の色欲を煽って、浅ましい僕のものの侵入を許す。

 

混乱する。

 

宙ぶらりんとなった僕の気持ちの始末に困っていた。

 

ぽっかりと空いた心の隙間を埋めたかった。

 

言葉で通じないのなら、僕の身体をもって恋情を伝えるしかない。

 

 

前戯のイロハを知らない僕だった。

 

やみくもに突き立てることしかできない、自分の青臭さと不器用さにつくづく呆れる。

 

僕の中に渦巻く不安と焦燥、そしてキキへの恋情をぶつける方法が、今はこれだけしか思いつかない。

 

 

僕の喉から、くぐもったうめき声が漏れる。

 

キキのバレエシューズの片方が脱げ、僕の足元の川砂に落ちた。

 

「んっ、んっ、んっ」

 

のけぞったキキの白い喉に、僕は吸い付いた。

 

その肌のきめ細かさと、静脈が透けて見える薄い皮膚を間近にすると、赤い痣でいっぱいにしたくなる。

 

キキの喘ぎ声を聴きたくなった。

 

抱えていたキキの身体を下すと、擁壁に押し付けた。

 

「好きだ」

 

 

キキの両脚を、僕の腰に巻きつかせた。

 

ワンピースの下から手を差し込むと、キキの乳房を荒々しく揉みしだいた。

 

3日前、キキにされたように彼女の乳首を執拗に攻める。

 

もう片方の手で、ショーツを履いたままのキキの柔らかい尻を撫でまわしたり、爪をたてたりした。

 

抜けるギリギリまで腰を引いたのち、ずんと一番奥まで刺し貫いた。

 

「ふ...っ」

 

背筋に強すぎる快感の電流が走る。

 

がくんとキキの身体から力が抜け、そむけたその顔が堪えるように歪んでいるのを目にして、僕の雄が刺激された。

 

キキの感じている表情を見るのは初めてで、勇気づけられ、肉欲が煽られた。

 

前後に動かすだけでなく、円を描くように回転させて、キキの膣内をかき回した。

 

 

ここは屋外で、川石がゴロゴロ転がるところで横たわることもできない。

 

限られた体位でしか繋がることができない点がもどかしくて、かえって興奮材料となった。

 

「あ...」

 

キキの喘ぎを聴いた気がして、僕は同じ動きを繰り返してみた。

 

「好きだよ」

 

目の前が真っ白になって、つむったまぶたの裏で星がチカチカする。

 

奥深く突き刺したまま、キキの腰だけ小刻みに揺らした。

 

僕の肩に頭をもたせかけたキキの頭もがくがくと揺れ、キキの熱い吐息が僕の首筋にかかる。

 

キキの吐息が、僕のひと突きごとに不規則に乱れる。

 

「好きだ」

 

感じるキキを見たくて、キキのサングラスを取り上げた。

 

眩しいのかキキは、固く目をつむって顔をそむけた。

 

こんなにも綺麗な人を、例え同意のもとのものだったとしても、凌辱しているんだと想像すると、たまらなくなる。

 

想像した途端、僕のものがぐぐっと膨れ上がって、キキの膣内が窮屈に感じる。

 

「んっ」

 

Tシャツが汗で背中に張り付き、僕の前髪からしたたり落ちる雫が、キキのワンピースを濡らした。

 

キキが真横に顔を背けているせいで、唇を奪えない。

 

キキの耳たぶを食み、耳を頬張った。

 

耳の穴に、溝に舌を這わせ舐め上げた。

 

キキの鼓膜に僕の言葉がダイレクトに伝わるといい。

 

「好きだ」と繰り返しつぶやいた。

 

キキの両手が、僕の髪をかき乱す。

 

キキの指が触れた頭皮から、ぞくぞくとしたさざ波が背筋へと下りる。

 

ぴったりと僕の唇がふさがれた。

 

同時に舌が強めに吸い上げられた。

 

「んっ...」

 

息が苦しい、だから余計に気持ちがいい。

 

 

ぎゅうっと僕のものが圧迫された。

 

「...キキっ、駄目だ...!

 

そんなに...締めないで...!」

 

 

他の体位を試す間もなく、僕の絶頂は間際まで来ていた。

 

「締め...っ過ぎ」

 

キキの中が、うごめきながら僕のものを締め上げている。

 

「はぁ...っ」

 

 

気持ちが良すぎる...。

 

 

歯を食いしばって、やり過ごそうとしたが、もう限界だ。

 

「好きだ」

 

抱え上げなおしたキキの腰も揺らし、僕の腰も揺らした。

 

 

心臓が痛いくらいに打つ。

 

 

「イキそう...!」

 

 

水浴びをした後のように、ずぶ濡れに汗をかいていた。

 

 

「んっ、んっ...」

 

 

こんなところで、何やってんだ。

 

 

両親の事故現場なんだぞ。

 

 

罰当たりな。

 

 

でも、いいんだ。

 

 

全然、構わない。

 

 

「キキ...っ!」

 

 

股間の底が張り詰めてきた。

 

 

「イキそ...う...」

 

 

額をキキの肩にあずけ、僕は目をつむる。

 

 

「キキ...っ...

 

キキっ...。

 

好き...だ...好き。

 

はっ、んっ、はっ...」

 

 

 

最後のひと突きで絶頂を迎え、ドクドクとキキの中へ精液が注ぎ込まれた。

 

くっくっと腰が痙攣し、最後の一滴まで、キキの中へ放った。

 

僕のものが収縮しきるまで繋がったまま、キキの肩に頭をもたせかけていた。

 

「はあ、はあ、はあ...」

 

 

自身の荒い呼吸音が鎮まるにつれ、周囲を包むセミの声と川音が戻ってきた。

 

ずるりと引き抜いて、擁壁に押し付けていたキキの身体を起こしてやる。

 

そして、互いの粘液だらけなのにも構わず下着におさめた。

 

 

立ち上がったことでキキの太ももから、つーっと白い粘液が伝い落ちた。

 

 

なんて光景だろう。

 

 

艶っぽく、厭らしい眺めだった。

 

 

僕のものでキキを汚した証を目にして、征服欲が満たされた

 

 

ところで...。

 

キキは「妊娠しない」と話していたけれど、鵜呑みにしていいのだろうか。

 

ナマで挿入し、膣内で射精をしている。

 

コンドームの用意すらしていなかった。

 

何回も。

 

キキは、内ももをつたう僕の精液を、ハンカチで拭いている。

 

「心配しないでいいのよ。

妊娠することはないから、本当に」

 

僕の考えが読めたのか、キキはそう言った。

 

「...そうか」

 

きっぱりとそう言い切れるのはなぜだろうと疑問が浮かんだけれど、追求する言葉が見つからない。

 

 

川砂に投げ捨てられたキキのサングラスを拾い上げた僕は、ふざけてかけて見せた。

 

橋げた下の日陰のキキが、微笑んだ。

 

つくづく、美しい人だと思う。

 

僕は水際まで近づきしゃがみこんだ。

 

川水に浸した手で、火照ったうなじを冷やした。

 

「キキ」

 

背後のキキに、川面を眺めながら語りかける。

 

「僕らは知り合って未だ4日だ。

 

『好き』と口にするには、早すぎるのかもしれない。

 

でも、好きだと言わずにはいられなかったんだ。

 

僕は明後日には戻らなくちゃいけない。

 

もし...もしもだよ。

 

キキがよければ...もし、僕のことが嫌じゃなければ、

 

これからも僕に会って欲しい。

 

ここまで会いにいくから。

 

僕らはこんなことばかりしてるけれど、

 

本当は、キキと話がしたいんだ。

 

キキのことを知りたい」

 

 

 

「知る必要がある?」

 

 

 

僕の真後ろからキキの声がした。

 

汗ばんだ僕の首筋に、ひやりとしたキキの指が触れた。

 

いつの間にか、足音なく背後にまわっていたらしい。

 

「あるよ!」

 

振り向くと、キキのワンピースの裾と、細くて白いふくらはぎが視界に入った。

 

 

「どんな人なんだろう、って知りたくなるのは当然だろ?」

 

「愛し合うのに、そういう知識は必要なのか?」

 

「え...?」

 

 

「ねえ、チャンミン。

 

あなたは、私と抱き合っている間は、私のことしか考えていないでしょう?

 

それで十分じゃないかしら?

 

初めに言ったように、私はチャンミンのことが気に入った。

 

今も、チャンミンのことが気に入っている。

 

初めて会った時から、チャンミンには私の気持ちを伝えていたはずでいたのに、ちゃんと伝わっていなかったのかしら?」

 

 

穏やかな口調で、同時に冷静で淡々とした言い方だった。

 

 

それが寂しかった。

 

 

僕とキキとの間に、大きなすれ違いが横たわっている。

 

 

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(12)僕を食べてください★

 

 

「おーい!

チャンミーン、いるかあ?」

 

玄関先から呼ぶ声に出てみると、近所のNおじさんだった。

 

「おお、チャンミン、久しぶりだなぁ。

お前が帰ってきていると聞いてな」

 

Nおじさんは、両親の事故の際、行方不明だった僕を血眼に探しまわった末、灌木の影にいた僕を見つけてくれた人だ。

 

血まみれの顔でぼーっとしている僕を抱きしめて、「よかった、よかった」とおいおい泣いていたことを、よく覚えている。

 

「せっかくの休みのところを、すまないな。

男手が必要になったんだ。

ちょっとだけ手を貸してくれないか?」

 

「いいですよ」

 

僕は即答して、靴を履いてNおじさんを追った。

 

何かしら手を動かしていないと、頭の中がキキのことでいっぱいで、爆発しそうだった。

 

Nおじさんの車に便乗し、舗装されていない林道を数分ほど進んで着いた先は、捕獲獣処理場だった。

 

建って間もないここはシャッターを開けると直接建物の中へ、車を乗り入れることができる構造をしている。

 

車を降りた途端、けたたましい吠え声を浴びせられて、脚がすくんだ。

 

建物脇に繋がれた4頭の猟犬が、尖った歯をむき出しに、唾液をとばしながら、僕に向かってぎゃんぎゃんと吠えたてている。

 

「近づくなよ。

食い殺されっぞ」

 

「はあ」

 

「あの檻にも近づくな。

瓜坊を連れてたから、気が荒い」

 

鉄製の檻の中に子牛ほどある猪が、己を閉じ込める鉄棒目がけて突進し、助走をつけては突進しを繰り返している。

 

「汚れるからこれをつけろ」

 

手渡されたゴム製のエプロンと、手袋をつけ、ゴム長靴に履きかえた。

 

コンクリート床の上に、大型犬サイズの猪がころがっていた。

 

「これは...?」

 

「罠にかかってたんだ。

まさか今日捕れるとは思わなくて、連れがいなくてな。

早く血抜きをしないと、使い物にならない...」

 

Nおじさんは天井に取り付けられたフックの位置を調節すると、僕に手招きした。

 

「小さい方だが、重いぞ。

腰を落として持ち上げるんだ」

 

僕とNおじさんが抱えたその猪を、いったんステンレス製の台に置くと、後ろ脚にワイヤーを巻き付けた後、天井から下がる杭にひっかけた。

 

ハンドルを回すと、猪の身体がくいくいと持ち上がっている。

 

僕は、猟犬の牙や、黒々とした猪の死体や、意外に清潔な造りの処理場内や、全てに圧倒されてしまって、終始無言だった。

 

猪が放つ獣臭に鼻を押さえていると、

 

「もういいぞ。

ここまできたら、あとは一人でできるから」

 

そう言って、Nおじさんは巨大な金属たらいを、ぶらさがる猪の真下まで足で蹴り寄せた。

 

この金属たらいを満たすのは何なのか想像して身震いした。

 

「他に手伝えることは...?」

 

「ここからは、グロいぞ。

そんなに青い顔をしてたら、無理だ」

 

血の匂いを嗅ぎつけて、興奮した犬たちが唸り声をあげ、長い爪で壁をガリガリいわせていた。

 

「あいつらには、褒美にモツを投げてやるんだ」

 

「それじゃあ...僕...帰ります」

 

Nおじさんは、先が曲がった刃物を持った手を上げて、

 

「助かったよ、じゃあな」

 

と、日に焼けた顔で笑った。

 

外に出た途端、また猟犬に吠え付かれてビクついたが、建物内の生臭い空気から解放されてホッとした。

 

ばあちゃんちからこの処理場は車だと数分かかるが、山の中を突っ切れば徒歩で10分そこそこの距離にある。

 

スニーカー履きだったし、やぶ蚊に刺されるのは嫌だった僕は、来た道を辿って帰ることにした。

 

森林管理の車が通れるよう急場ごしらえした砂利道だ。

 

帰省して4日目。

 

明後日には、街に帰らなければならない。

 

怪我を負ったはずの二の腕を、反対側の手でさすった。

 

初めからキキとは出会っていなかったのかもしれない。

 

怪我などしていなかったのかもしれない。

 

到着したあの日は、山道で転んだだけで、頭を打つかなんかしてボーっとしてたんだ。

 

僕が密かに抱いている卑猥な欲望を、夢の中で実現させていたに違いない。

 

この3日間の僕は、夢の世界に生きていたということ。

 

夢精だったんだ。

 

そうに決まっている。

 

夢だったらいいのに。

 

夢だったら、キキを恋しがっても仕方がないと諦められる。

 

砂利道は舗装道路にぶつかり、右に行けばばあちゃんち、左に行けば廃工場だ。

 

確かめてみないと。

 

あそこを目で見て、現実だったのかどうか確かめてみないと。

 

僕は左折し、くねくねとした坂道を歩いて行った。

 

キキとの初めての出会いまで時を巻き戻した。

 

仰向けに突き倒された時、頬を叩いた雨水と僕を見下ろしたキキの墨色に沈んだ瞳。

 

目覚めた時の乾いたシーツの感触、噛みつかれた唇の痛み。

 

「チャンミンは、いやらしい子」と耳元で囁かれた声音。

 

キキがしたこと、キキにしたこと、僕が漏らした喘ぎ声、身を貫くほどの快感を、ひとつひとつ反芻してみた。

 

こんなにはっきりと五感で覚えているのに、これが夢だと言いきれるのだろうか。

 

木陰のおかげで日差しは避けられるが、気温は高く、汗がとめどなく噴き出す。

 

(しまったな...喉が渇いた)

 

立ち止まって、汗に濡れた前髪をかきあげ、ガードレール下の川を見下ろした。

 

廃工場の谷川と、他の支流が合流したものが、今見下ろしている川だ。

 

僕の陰毛に埋もれた美しい青白い顔が、パッと脳裏に浮かんだ時、ディーゼルエンジン特有のガラガラ音が後方から聞こえてきた。

 

ガードレールにくっつくほど身を寄せた。

 

アスファルトの隙間から生える雑草を踏みつけたスニーカーに目を落として、車が通り過ぎるのを待っていた。

 

深いブルーが目に飛び込み、はっとして顔を上げた。

 

サイドウィンドウがゆっくりと下りて、サングラスをかけた白い顔が白い歯を見せて笑っている。

 

「チャンミン」

 

馬鹿みたいに惚けた顔をしていたと思う。

 

僕を置き去りにして、二度と戻ってこないのではないかと思い込んで泣いたこと。

 

キキの不在に予想以上に衝撃を受けた自分がいたこと。

 

これまでの逢瀬は夢の出来事だと、半ば本気で信じかけていたこと。

 

これら僕を苦しめていた気持ちが、一瞬で消え失せてしまった。

 

「キキ...」

 

叫びたいのに、キキの手を取って頬ずりをしたいくらいだったのに、僕はかすれた声でキキの名前をつぶやいただけだった。

 

「乗る?」

 

僕はこくんと頷いて、助手席側にまわって乗り込んだ。

 

車内はエアコンが効いていて、乾いた涼しい風が心地よかった。

 

「ドライブしようか」

 

言葉が出てこない僕は、こくんと頷いた。

 

「そこに飲み物があるから」

 

助手席の足元にあったビニール袋から、よく冷えた炭酸水を1本とった。

 

キキは次の退避場でX5の向きを変えると、道を下り始めた。

 

「どこに...行ってたんだ?」

 

キキの横顔を、サングラスのつるを引っかけた小さくて白い耳を見る僕は、恋焦がれる目をしているだろう。

 

「荷物を受け取りに街へ出ていた」

 

「...僕も」

 

「ん?」

 

「僕も...連れていけばよかったじゃないか。

僕は...置いて行かれたかと思って...っく...」

 

「...チャンミン」

 

「もう戻ってこないのかと思って...ひっ...く」

 

言葉は途中から嗚咽交じりになった。

 

「キキがいなくなって...全部夢だったんじゃないかって...」

 

しまいには、子供みたいに泣いていた。

 

「チャンミン...ごめんね」

 

キキはX5を停めるとシートベルトを外し、腕を伸ばして僕の頭を引き寄せた。

 

「寂しかったんだ」

 

僕の頬や首に触れるキキの腕が冷たい。

 

でも、僕の頭を撫ぜるキキの手が心地よくて、「ごめんね」というキキの声音が優しかった。

 

キキにまた会えた安堵と、自分の思い込みの激しさに呆れた。

 

とにかく、ぐちゃぐちゃになった感情の処理が追い付かなくて、涙を流すことでしか表現できなかった。

 

 


 

キキが停車した場所は、例の橋のたもとだった。

 

僕らはX5から降りて、眼下十数メートル下を流れる川を欄干から見下ろした。

 

「キキ。

ここだけ新しいだろ?」

 

そこだけが塗料の色が濃い箇所を指さした。

 

キキに問われてもいないのに、僕は滔々と子供の頃に遭った事故のことを、両親を亡くしたことを喋っていた。

 

その間僕は、焦げ茶色のくすんだ欄干にシミ一つない白い手を置いたキキの、サングラス越しの視線を感じていた。

 

「...で、これがその時の勲章なんだ」

 

前髪をあげて、生え際の傷跡を見せた。

 

僕は目を閉じてキキのひんやりとした指が傷跡をなぞられるがままになっていた。

 

「チャンミンが発見されたっていう場所はどこ?」

 

「こっち」

 

河原へ降りるための梯子へキキを案内した。

 

夏の間、川遊びをする子供たちのために作られた木製の簡易的なものだ。

 

「滑るから、気を付けて」

 

僕らは1歩ごとにしなる足場板を下りてゆき、丸石に足をとられながら橋脚の傍まで行きついた。

 

「この辺りだよ」

 

カワヤナギの茂みを指さした。

 

十数年前、僕はこの茂みの中で、母親のバッグを抱きしめて眠っていた。

 

その時点では、父親の死のことも瀕死の母親のことも、知らずに。

 

「そうか...」

 

ノースリーブの白いワンピースを着たキキは、さしずめ『避暑地のお嬢様』といった風だった。

 

「眩しいね」

 

僕ら橋脚の真下まで移動した。

 

コンクリート製の橋脚にもたれて、橋げたの真裏を見上げた。

 

時折、橋を渡る車の音がして、かすかに橋げたが揺れるのが分かる。

 

キキの手が僕の腕に触れた。

 

「ねえ、チャンミン」

 

僕の正面に立ったキキは、僕の首に腕を回した。

 

「悲しかった?」

 

「当然だろ。

大切な家族だし、二度と参観日にも、運動会にも来てもらえないんだ。

家に帰っても「おかえり」と言ってもらえない。

悪さをして頭を叩かれることも、二度とないんだ。

お父さんとお母さんの、生身の身体がなくなっちゃうってことが辛かった。

でも、一番辛いのは、友達のお父さんとお母さんを見る時かな。

どうして僕には、いないんだろうって、羨ましかった。

まだ子供だったから、思い出が少なかったのが幸いだった」

 

ははっと乾いた笑いを浮かべて、

 

「でもね、僕も一緒に死んでしまえばよかったとは思わなかった。

どうして僕だけが助かったのかは謎のままだけれど...」

 

両親を思い出して、センチメンタルなことを話しているのに、僕の腕はキキの身体を力いっぱい抱きしめていた。

 

キキの長い髪に鼻をうずめたら、あの甘い香りを思い切り吸い込んでしまって、抜き差しならない情欲に侵食されてきた。

 

キキと会ったら、真っ先にしたいこと。

 

キキの腰を引き寄せて、僕のそれに押し付ける。

 

「私のことが好きなんだ?」

 

「うん」

 

「好きだから、したいんだ?」

 

頷いた僕は橋脚と擁壁が作る空間へキキの手を引いて連れて行くと、彼女の身体を擁壁に押し付けた。

 

キキのスカートをたくし上げ、ずらした下着の隙間から、いつの間にか熱く硬く立ち上がっていたものを、キキの中へ侵入させた。

 

「っん...」

 

既に温かく潤ったもので僕のものは包み込まれ、低い唸り声を漏らす。

 

片腕でキキの腰を支え、もう一方でキキの片脚を高く持ち上げ、侵入できる限界まで深く腰を埋めた。

 

僕のものが、キキの中で脈打っていた。

 

 

キキが戻ってきてよかった。

 

夢じゃなくてよかった。

 

キキの身体が欲しい。

 

代わりに、僕の身体をあげる。

 

 

でも、僕は初心だから、心はあっち、身体はこっち、といった具合に分けられない。

 

 

心も一緒に差し出してしまうけれど、それで構わないよね?

 

 

(つづく)

 

 

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【11】慰められない指ー僕を食べてくださいー

 

 

キキはすやすやと眠るチャンミンの寝顔をじっと見つめていた。

 

顔から肩へ、呼吸で上下する胸へ、細く引き締まった腰へと視線を移す。

 

立ち上がると、毛布をチャンミンの背中にかけてやり、脱ぎ捨てた衣服を拾い集めた。

 

腕や胸、脚に乾いた血が付着していて、腕に付いたそれを舐めると顔をしかめた。

 

ケーブルドラムに置いた水筒を伸ばしたが、飲み干してしまっていたことを思い出して冷蔵庫に向かった。

 

冷蔵庫の中を覗いて、「ちっ」と小さく舌打ちをした。

 

(参ったな...)

 

背中を丸めて眠るチャンミンの方をふり返った。

 

(綺麗な男だ。

本当に美味しそうだ。

でも...。

私らしくもない...。

これから、どうしたらいいのだろう)

 

熟睡するチャンミンを、穏やかな表情で見つめる。

 

キキの瞳の色が一瞬、深い墨色に沈み、再び群青色に戻った。

 

X5のキー手に取り、白いスーツケースを軽々と持って、裏口から廃工場の外へ出ていった。

 

足音も物音も、キキはほとんどたてなかったが、チャンミンは多少の物音くらいでは目覚めないほど、深い眠りについていた。

 

 


 

 

~チャンミン~

 

 

 

「う...うん」

 

目の詰まった白いシーツが真っ先に目に入る。

 

シーツの上にだらんと伸ばした腕に視線を移して、指を動かした。

 

(ここは...!?)

 

がばっと身体を起こすと、背中にかけられていた毛布が滑り落ちて、裸の身体が露わになった。

 

(ここは...そうだった!)

 

高い天井、金属製の柱と壁、製造過程のまま放置された錆の浮いた鉄骨、土ぼこりだらけのコンクリートの床、割れた窓ガラスから注ぐ日光。

 

(キキとヤりまくって、ここで眠ってしまって...)

 

思い出してカーっと身体が熱くなる。

 

(キキは...?)

 

マットレスの上は僕ひとりで、大声でキキの名前を呼んでみたが、返事はない。

 

喉の渇きを覚えて、工場端に置かれた白い冷蔵庫を開けた。

 

裸足の裏がじゃりじゃりする。

 

がらんとした庫内は、ミネラルウォーターのペットボトルが数本あるだけで、

 

(キキは、食事はどうしているんだろう

毎食、町へ下りていっているのかな)

 

と、不思議に思った。

 

場内はしんと静まり返っていて、屋外の蝉の鳴き声から、午前9時はまわっているのだろう。

 

(寝坊したな。

...早く家に帰らないと、ばあちゃんが心配する)

 

ペットボトルの中身をあっという間に飲み干して口をぬぐうと、まずは服を着なければと、脱ぎ捨てた服の在りかを探す。

 

僕のTシャツとデニムパンツは、マットレスの隅に置かれていた。

 

丁寧にたたまれている様が、キキのイメージに合わなくて、嫌な予感がした。

 

もう二度とキキは戻らないのでは、という気がした、なぜか。

 

「キキ!」

 

僕の声だけが、高い天井に響く。

 

デニムパンツだけを身につけて、もつれる脚で重くてきしむシャッターを押し上げると外に飛び出した。

 

初夏の白い光線をまともに浴びて、目が眩む。

 

廃工場脇にまわってみると、キキのX5がない。

 

もう一度建物の中へ引き返すと、そこにあったはずの白いスーツケースもない。

 

(キキがいない!

出て行ってしまったのか!?

僕を置いて行ってしまったのか!?)

 

もうキキに会えないのではないかという考えに取りつかれてしまった。

 

鼻の奥がつんとしてきた。

 

山の遠くから猟犬の吠え声が響いている。

 

続けて、だーんと銃声が、山にこだました。

 

「!」

 

眩しくて顔を伏せた際、下腹に付いた血の跡が目に入って一瞬ギョッとしたが、思い出した。

 

(僕は腕を怪我していて...)

 

今になって、僕は腕の傷が全く痛まないことに気付いた。

 

(嘘だろ!?)

 

血で汚れた肌を情事の際、昨夜のキキが舌を這わせていた二の腕。

 

血をにじませた裂傷が消えていた。

 

震える手で、傷口があったはずの箇所をなぞる。

 

皮膚は滑らかで、傷跡の凸凹すらなかった。

 

怪我なんてしていなかったのか?

 

だって、一晩で、怪我が治るなんてあり得ない話だ。

 

軽い眩暈がして、冷汗が脇を濡らした

 

負った怪我が完治して、キキがいなくなった。

 

僕は廃工場に沿って何周も歩き回り、工場の中も隅々まで見て回った。

 

かつては事務所になっていたのだろう、プレハブのような小部屋に新品の収納ケースが積んであった。

 

引き出しを開けてみるまでもなく、中身は空っぽだった。

 

事務デスクの下に、新品の白いスニーカーがタグが付けられたまま転がっていて、少しだけホッとしたが、単なる置き忘れなのかもしれないと思うと、胸が苦しくなった。

 

裏手の谷川へ下りていった。

 

急な斜面を滑り落ちないよう、生える草を握り締めて、石のひとつひとつに慎重に足を下ろす。

 

キキが「子供みたいに水遊びができるよ」と話していた川だ。

 

谷川はさらさらと涼し気な水音をたて、川沿いの樹木の枝葉が日光を遮っていた。

 

上流にあたるこの谷川を数キロ下流に下ると、両親の事故現場になった橋がかかっている。

 

透明で冷たい水をすくって、血で汚れた腕を洗った。

 

ついでに、汗でべとついた顔も洗った。

 

尿意を覚えたが廃工場にはトイレはないから、仕方なく草むらで用を足した。

 

(そうだ!)

 

下る時よりは容易く谷川からよじ登ると、工場へ取って返し、マットレスの脇に落ちた包帯を拾い上げた。

 

(無傷になった腕をばあちゃんに見せるわけにいかない)

 

片手で巻くのは困難で、少々乱れているけれど仕方がない。

 

キキは、買い物に行っているだけかもしれない。

 

用事を済ませるために、ちょっとの間でかけているだけかもしれない。

 

そう前向きに思うことで、心中の不安をなだめると、僕は小さな車に乗り込んだ。

 

キキの不在が僕を不安に陥れていた。

 

ぎゅっと目をつむって、ハンドルに額をつけて気持ちを落ち着かせた。

 

キキなんて、初めから存在しなかったのかもしれない。

 

武骨で埃っぽい無機質なこの空間に、白いマットレスと冷蔵庫だけがあって。

 

そもそも、僕みたいな冴えない男が、キキみたいな美女とどうこうすること自体が夢みたいなことだったんだ!

 

助手席のシートに置いた小さな懐中電灯が、昨夜のことを思い出させた。

 

思い出すだけで下腹部を熱くさせる営みが、遠い過去のように思えた。

 

 


 

 

車庫に車を駐車させていると、野良着を着たばあちゃんが小走りで近寄ってきた。

 

「いつ帰ってくるかと心配してたんだ」

 

家の脇に小さな畑があって、ばあちゃんは自宅で食べられる分だけの野菜を育てている。

 

「飲みすぎてそのまま泊ってきたんだ。

ばあちゃん、車を使いたかったんだね。

遅くなってごめん」

 

無理やり笑顔を作って、ばあちゃんに鍵を渡した。

 

「頭が痛いから、寝直すよ」

 

「ご飯は炊けているし、鍋に汁もあるから」

 

食欲なんてなかったけど、「ありがとう」とばあちゃんに礼を言って、玄関の戸を開けた。

 

僕は一体、何をしに帰省してきたんだろう。

 

唯一の家族であるばあちゃんの存在が目が入らない。

 

僕の頭の中はキキのことばかりだった。

 

キキがどこへ行ったのか、皆目見当がつかない。

 

肉欲にとりつかれた最中は、キキの思惑と素性を問うタイミングもチャンスも後回しにしてしまっていた。

 

キキと繋がることだけを優先させていた。

 

キキを思い出したら、股間に血流が集中するのが分かり、手を当てると半勃ちしていた。

 

この身体の反応が証明する通り、僕とキキを繋げているのは身体だけ?

 

キキがいなくなって困るのは、キキとヤれなくなるからか?

 

(勘弁してくれよ)

 

居ても立っても居られず、まっすぐ自室に向かった。

 

耳をすまして、ばあちゃんの乗る車が走り去る音を確認する。

 

僕は、デニムパンツと下着を脱いで下半身を露わにした。

 

ベッドに上がると、壁にもたれて座る。

 

ティッシュペーパーの箱を引き寄せて、両脚を広げた。

 

勃ち過ぎて下腹が痛いくらいだ。

 

手の平全体でゆるく握ると、前後にピストン運動させた。

 

「はっ...はっ...」

 

すぐさま股間から弾ける快感に、夢中になる。

 

キキとの絡み合いを思い出す。

 

一歩進んで、いやらしい恰好をさせたキキを妄想する。

 

人差し指で親指の輪で、亀頭の縁を摩擦させた。

 

「あっ...」

 

息が熱い。

 

同時に、指の付け根で裏筋を刺激する。

 

妄想の中のキキは手首を縛られていた。

 

「うっ...」

 

ヤバイ...もうイキそうだ。

 

イきそうなのを堪えて、根元から手の平を離して、亀頭だけを指でつまんだ。

 

親指でカリの部分をひっかけるようにこすった。

 

この自慰行為は、キキに見られているのだと想像したら、ピクリと硬くなった。

 

射精に至るまでの時間が短い僕だ。

 

あっという間にイかないよう、コントロールする。

 

弱い刺激で、ゆらめく波のような快感に浸る。

 

物足りなくなった僕は、Tシャツの下から片手を入れる。

 

「あっ...」

 

固く尖った乳首に指先が触れた途端、上半身がゾクッとのけぞった。

 

乳首に意識を集中させる。

 

指先で転がし、ひねる。

 

「は...ん」

 

むず痒い電流が走る。

 

引っぱると、手の平に包み込んだ僕のものがさらに膨張した。

 

「チャンミンは感じやすいのね」

 

耳元で囁くキキの声が聴こえたような気がした。

 

「っく」

 

背を反らし、頭頂部が壁をこするたびに、壁に掛けた賞状の額がカタカタと音をたてた。

 

輪にした二本の指に、透明な粘液が垂れる。

 

再び襲われた波をやり過ごした僕は、ベッドにうつぶせで寝た。

 

布団に僕のものを押し付けて、腰を振った。

 

キキを下にして、キキの中を出し入れさせている錯覚を楽しんだ。

 

キキが好きだ、好きだ。

 

キキの身体を無茶苦茶にしたい。

 

「今なんて言った?」

 

フラッシュが瞬いたかのように、喉を締め付けるキキの冷たい指を思い出した。

 

喉ぼとけが押しつけられて、息が詰まって、殺されるのではと恐怖が沸いた瞬間を思い出した。

 

「好きだと言って、悪いのか!」

 

絶頂の際、口走ってしまった言葉を咎められた。

 

腕をついて身体を起こして、ベッドから足を下ろした。

 

「はぁ...」

 

両膝に両肘をついて、両腕で両目を覆った。

 

「なんだよ...」

 

僕の気持ちのやり場はどこなんだよ。

 

僕の身体を舐めたり触ったりしてくるくせに。

 

僕のものの侵入を許すくせに。

 

キキにとって、どうってことないことなのか?

 

萎えてしまったものを下着におさめ、デニムパンツを履いた。

 

よろめいてドア枠に肩をぶつけてしまい、その痛みによって不発に終わった苛立ちが消えた。

 

二の腕は全然痛くない。

 

ほどけかけた包帯を、むしり取った。

 

恍惚としたキキの視線を浴びた傷口がなくなってしまった。

 

僕は傷の周囲を舌先でたどられた感触に、ゾクゾクと感じたんだった。

 

開いた傷口をキキの指でなぞられて、激痛の中に快感を感じたんだった。

 

快感によがる僕を、キキの身体を求める僕を、面白がってんじゃないよ。

 

下半身に支配された自分を抑えられないんだよ。

 

前夜、3回もヤッたくせにまだまだ足りないんだよ。

 

 

 

コンロに火をつけて温めた汁を、器によそって立ったまま食べた。

 

キキに噛まれた舌が、塩味に沁みた。

 

だしのきいた滋味深い味がうまかった。

 

ひとつに繋がって、何の感情も湧かないのかよ。

 

好きと言ったらいけないのかよ。

 

欲しいものはキキの身体だけじゃないんだよ。

 

気付けば僕は泣いていた。

 

むせながら、ばあちゃんが作った汁をすすっていた。

 

会いたいんだ。

 

僕を置いていかないでよ。

 

次から次へとあふれ出る涙が、僕の頬を濡らしていった。

 

 

(つづく)

 

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【10】喘ぎの先にー僕を食べてくださいー

 

 

目尻に涙を溜めて、僕はキキに哀願の眼差しを向けた。

 

能面のように無表情だったキキの頬がきゅっと上がって、笑ったのが分かる。

 

「チャンミンの願いを叶えてあげる」

 

仰向けになった僕は、両腕を頭の上で固くきつく縛られている。

 

こんな風に拘束された自分の姿を、第三者の目で想像してみたら、とても興奮した。

 

僕の性癖は、歪んでいるんだろうか?

 

誰もが皆、縛られて興奮するものなのだろうか。

 

「チャンミンのって、真っ直ぐで硬くて、美しい形をしているのね」

 

キキは僕のものをゆらゆらと揺らしていたかと思うと、手を添えてゆっくりと腰を落としていった。

 

「ふっ...!」

 

腰が反応して、ぴくりと震えた。

 

少しずつ少しずつ、僕のものがキキの体内に飲み込まれていく。

 

僕のものを飲み込みながら、キキは僕から目をそらさない。

 

欲を浮かべたキキの目を見返す僕の目も、同様に違いない。

 

僕自身が彼女の中に飲み込まれていくのか、それとも僕自身が彼女の中を貫いているのか。

 

この眺めだけで、イッってしまいそうだった。

 

「ふぅ...」

 

快感のひと波をやり過ごした。

 

僕の根元まで沈めたキキは、上半身を反らして腰を水平に回転させた。

 

「ひっ...あっ...」

 

キキのねっとりとした動きに合わせて、僕は嬌声を上げる。

 

快楽によがりながら、僕の上で上半身をくねらすキキを美しいと思った。

 

キキが動くたび、彼女の肌の上を艶めかしい黒い影が舐める。

 

結合部がにちゃにちゃと厭らしい音をたてる。

 

「は...ん...あっ...あっ...」

 

うねるように四方から締め付ける粘膜に包まれて、これはこれで気持ちがいいのだけれど、もっと背筋を貫くような刺激が欲しい。

 

物足りなくて、腰を突き上げようとしたら、

 

「駄目よ、チャンミン。

じっとしてて、いい子だから」

 

と、僕の腰骨をマットレスに押しつけた。

 

キキに従って、背中も腰もマットレスに付けて大人しくしていても、すぐにじっとしていられなくなる。

 

「キキっ...!」

 

踏ん張ったかかとが、マットレスにめり込んで、両手を握り締める度、二の腕の傷に痛みが走った。

 

「...お願いだから...うっ...」

 

身をよじりたくてもキキに制された僕は、熱い喘ぎをこぼすだけだ。

 

焦れている僕を面白がって、キキは腰を左右にくねらす。

 

「は...ぁっ...!」

 

「可愛いね」

 

恍惚にゆがんだ僕の表情に満足したのか、キキは両手を僕の胸に置いて前のめりになった。

 

そして、僕が待ち望んでいた上下運動を開始した。

 

キキが上下するたび、とろとろのキキの膣内を僕のものが出入りして、視界が歪むほど気持ちがいい。

 

一方的に快楽を与えられるだけでは、自分の欲望のはけ口がなくて苦しい。

 

なみなみとたたえられた黄金色の蜜の池の底に、静かに沈んでいく光景が浮かぶ。

 

セックスに支配されかけた僕は、もう浮上できない。

 

平凡な日常を不満げに生きてきた僕の目の前に、突如として現れた一人の女性。

 

理解が追い付かないまま、僕の身体に刻みつけられた肉体の繋がりから生まれる幸福感。

 

身体の芯から揺さぶられて、目覚めさせられて、僕はもう日常に戻れないかもしれない。

 

僕の目の前で揺れる乳房に触れたくて、揉みたくて、先端の尖った乳首を口に含みたくても、手首を縛られている僕にはそれが叶わない。

 

腰を突き上げたい欲求を、ぐっとこらえた。

 

「あ...あ...あっ...」

 

耐えきれなくなって腰を上下に揺らしてしまうと、その度に腰骨を押し付けられる。

 

上擦った声が漏れる。

 

僕のものが出入りする粘り気のある音が、聴覚から僕を煽る。

 

(もう...駄目だ)

 

恨めしそうにキキを見上げると、キキは瞳を揺らめかして僕に微笑みかける。

 

今のキキの瞳は、紺碧色になっているに違いない。

 

そうだ。

 

キキの瞳は、色を変える。

 

不思議な肉体の持ち主だ。

 

ぐいとキキの身体が深く沈み込んだとき、キキの奥底のぐりっと固い箇所に当たって、短い悲鳴が出た。

 

「ひっ...」

 

キキが腰をくねらしながら、大きなスライドで上下し出した。

 

ぺちぺちとキキの尻が僕の腰にあたる音が、静寂の廃工場に響く。

 

性感のとりこになってしまった僕は、キキの動きに合わせて切羽詰まった喘ぎをこぼすばかりだ。

 

(もう我慢できない)

 

僕は両膝を持ち上げ、彼女の腰を挟み込んだ。

 

「わかったよ、わかったから」

 

キキは、持ち上がった僕の尻をなだめるように軽く叩いた。

 

「しょうがない子ね」

 

キキは僕と繋がったまま、上体を伸ばして僕の手首に手をかけた。

 

そして、僕の手首をぎっちりと縛り付けていたベルトを外してくれる。

 

拘束がとかれて、手指に血流が戻ってきた。

 

強張ってきしむ肩の痛みに顔をしかめながら、両腕をキキの背にまわした。

 

そして、キキの身体を胸に力いっぱい引き寄せた。

 

キキと一体になりたい。

 

「チャンミン!

これじゃあ、動けないよ」

 

キキの下から両手両足でしがみつく僕に、キキは呆れた声を出す。

 

力持ちのキキだから、僕の腕など簡単に跳ね飛ばせるはずなのに、キキはそのまま僕に抱きしめられたままでいてくれた。

 

ひと息ついた僕は、自由になった腰をキキに向かって突き上げた。

 

ズンと快感の衝撃が僕の脳を痺れさせる。

 

キキの腰をつかんで、僕の腰の動きに相反して上下させる。

 

力いっぱい突き上げると、ぐりっとキキの奥底に当たって、その度キキが息をのむ。

 

その反応が、僕を悦ばせる。

 

「ふっ」

 

腰のスライドに強弱をつける。

 

小刻みに揺らしたり、一気に突き上げたり、緩急をつけたり。

 

背筋を突き抜ける快感の波もそれに応じて変化するから、夢中になる。

 

「チャンミン...」

 

キキの息遣いが乱れてきた。

 

「どこでそんないやらしい動きを、覚えた?」

 

キキの中がひくひくと痙攣して、僕のものを積極的に締め付けたり緩んだりする。

 

(それは...ヤバイ)

 

僕の上でのけぞるキキの乳房が揺れて、その光景もますます僕の欲情を刺激した。

 

僕に余裕がなくなってきた。

 

狂ったように腰を突き立てる。

 

互いの肌を打ち当たる音が大きくなって、僕も恥ずかしげもなく喘ぎを漏らした。

 

「あっ!」

 

肩が引っ張られて、ぐるりと身体が反転し、気づけばキキが下になっていた。

 

「がむしゃらに動けばいいってものじゃないのよ」

 

(今回もあっという間にイッてしまうところだった、危なかった)

 

イキそうになっていた僕は大きく息を吐きながら、こくりと頷いた。

 

頷いたとき、僕の額からぼたぼたっと汗がキキの胸に落ちた。

 

僕の両手の間に、キキの白くて小さな顔が僕を見上げている。

 

潤んだ瞳が揺らめいていて、唇も濡れていて、ぞっとするほど美しかった。

 

キキは腕を伸ばすと、両手で僕の頬を包んだ。

 

ひやりとした手の平が、僕の熱を冷却する。

 

「一生懸命なのね...。

可愛いわよ、チャンミン」

 

早すぎる鼓動がますます速度を増して、胸が苦しい。

 

たまらずキキに口づけた。

 

貪るようなものじゃなく、優しいキスをした。

 

キキにも喘いで欲しい。

 

マットレスについていた両手を離すと、僕は身を起こした。

 

キキの両腿に手を添えて、腰の律動を再開した。

 

ただ突き立てるだけじゃなく、角度や強さや速度に注意を払って。

 

しかし、股間から弾ける快感の調節はどうしようもできず、うめき声は駄々洩れだったし、意識しないとついつい乱暴に突き立ててしまうのだ。

 

ぴったり合わさった僕らの結合部が目に入る。

 

暗い影に隠されている分、そのいやらしさに全身がカッと熱くなった。

 

腹部からぐねりと腰をくねらす。

 

キキの膣内に僕のものをこすりつけるように、腰の動きに変化をつける。

 

声には出さないまでも、キキが顔をゆがめたり、息をのんだりしているのに気付いて、僕のものがぐんと膨張した。

 

キキの反応を見ながら、突き刺すべき箇所を探る。

 

結合部からとろとろと滴り落ちるもので、滑りが一気によくなった。

 

キキの放つ甘い、百合のような、はちみつのような香りに包まれて、僕の欲情が沸点を迎えた。

 

汗ばむ手のひらをマットレスで拭って、キキのウエストを掴む。

 

その細いくびれに僕の征服欲が煽られて、僕の動きは早く、激しくなってきた。

 

僕の意識はもはや股間に集中していた。

 

押し広げたキキの両膝についた手をてこに、無我夢中にキキの中を出し入れした。

 

「...もう...いきそっ...」

 

股間が固く引き締まってきた。

 

「っく...」

 

たまらず僕は、キキに口づけた。

 

僕の下敷きになっているこの人が愛おしくてたまらなくなった。

 

キキと唇を合わせて、キキの舌を咥え吸いながら、喘ぎ声もこぼして。

 

上も下も絡みついて侵入して、ぐちゃぐちゃに一緒になった末、口走っていた。

 

「...好きだ...!

キキ...好き...」

 

キキの身体が一瞬強張った.

 

意識がどこか遠くへ飛んでいくような感覚に襲われた後、僕は絶頂を迎えた。

 

キキの膣内の一番奥に放った後も、腰が何度も勝手に跳ねた。

 

キキの上に崩れ落ちて、はあはあと乱れに乱れた呼吸を整える。

 

「!」

 

突然、息が出来なくなって目を剥く。

 

「さっき、なんて言った?」

 

低く、固い声だった。

 

「キキ...く、るし...」

 

キキの小さな指が僕の喉を締め上げた。

 

「チャンミン...何て言った?」

 

喉仏を圧迫する手を引きはがそうと、指をかけるが石のようにびくともしない。

 

「キ...キ...!」

 

視界が暗くなり、耳鳴りがしてきたところで、解放された。

 

喉をおさえて、ゲホゲホと咳き込んだ。

 

「僕を...殺す気か!」

 

涙を手の甲で拭いながら、キキを睨みつけた。

 

「...何て言った」

 

マットレスの脇に全裸で立ったキキを、横向きで寝転がった全裸の僕は見上げる。

 

「好きだって...言ったんだ」

 

キキは無表情で、しんとした眼差しで僕を見下ろしていた。

 

せき止められていた血流が頭に流れ込んで、僕の思考も回復してきた。

 

「悪いか!

好きだと言って、悪いのか!」

 

「そっか...」

 

ぽつりとつぶやいたキキは、哀しそうに微笑んだ。

 

キキの表情の意味が僕にはわからなかった。

 

キキの瞳の色を確認したくなって、懐中電灯に手を伸ばそうとしたが、セックスの振動でマットレスの反対側に落ちてしまっていた。

 

 


 

 

「傷が開いてしまったね」

 

僕の隣に腰を下ろしたキキは、僕の腕をとった。

 

虚脱感著しい僕は無言だった。

 

絶頂の際、口走ってしまった言葉について考えていた。

 

僕は性的にいたぶられているけれど、貶められている気がしない。

 

密かに僕が望んでいたことを、心の襞の奥底に潜んでいた僕の本性を、キキが引っ張り出したのだと思う。

 

いちいちものごとを難しく考えるのが僕の性だ。

 

股間への刺激がもたらす恍惚感だけに惑わされていてはいけない。

 

僕が快楽の嬌声をあげるためには、ぴたりとキキの身体に接触していなければならない。

 

僕は初心な男だから、心と身体を切り離せるような器用な真似はできない。

 

ここまで、どろどろに身体を繋げておいて、心だけを他所に置いておくなんてことは、僕には出来ない。

 

身体の繋がりに引きずられて、心をキキに向けてしまっても仕方がないだろう?

 

僕の傷は熱を持って、ズキズキとうずいている。

 

「可哀そうに」

 

キキは自身の指をくわえると、くっと噛みついた。

 

キキの指が、濡れて光っていた。

 

「っつ!」

 

ズキリと傷口に痛みが走った。

 

キキの指が僕の傷口をつーっとなぞった。

 

顔をゆがめている僕を、慈しむかのような優しい表情だった。

 

こんな表情をするキキを、初めて見た瞬間だった。

 

全身がだるくて、重くて、とにかく僕は眠かった。

 

「眠りなさい」

 

キキの指が僕のまぶたに触れた。

 

眠りにつきながら、僕はこんなことを想像していた。

 

絡み合う僕らの姿を、窓の外から覗く自分の姿を。

 

廃工場の割れた窓から、中で営まれている行為を覗き見る。

 

たよりない懐中電灯の灯りが、僕らの裸の凹凸の影を作っているだろう。

 

それはそれは美しく、なまめかしい光景だろうと僕は思った。

 

 

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【9】縛られるー僕を食べてくださいー

 

 

「痛いか?」

 

キキは僕の腕に触れて言った。

 

割れた窓ガラスから見える外は真っ暗で、月明かりがほのかに場内に差し込んでいる。

 

マットレスに仰向けになって、一糸まとわぬ僕らは寝ころんでいた。

 

「少しだけ...痛いかな。

でも、平気だよ」

 

実際はズキズキと痛かった。

 

裂けた箇所を、医療用テープで止めてあるだけだから、もしかしたら傷口が開いているかもしれない。

 

マットレスの下に転がり落ちた懐中電灯を、手探りで拾い上げてスイッチを入れた。

 

何枚かのテープが剥がれてしまった箇所から出血し、それが二の腕から脇までこすれた痕を作っていた。

 

隣のキキの身体に灯りを向けると、彼女の腕にも、乳房にも、内ももにも真っ赤な血筋が付いていた。

 

今さっきのセックスで重ねた身体同士で、塗り広げてしまったみたいだ。

 

白く柔らかく滑らかなキキの肌が、僕の流した血液で汚された光景を、官能的だと感じた僕は異常だろうか。

 

「ごめん...汚してしまった」

 

白いシーツにも、赤い痕がところどころにある。

 

「どうってことない。

シーツを洗えばいい」

 

半身を起こした僕は、横たわるキキに問いかける。

 

「ねぇ。

君は不思議な身体をしているね」

 

「どこが?」

 

「肌はこんなに冷たいのに...」

 

キキの下腹に手の平を載せ、そうっと撫で上げた。

 

キキの乳房を手の平のくぼみに収めて、手のひらに当たる乳首を転がすように柔く揉んだ。

 

キキの肌はやっぱり冷たくて、僕は自分の手の平がいかに熱くなっているかがよく分かる。

 

「死体みたいに?」

 

「僕は死体とヤッてることになるんだ」

 

つんと勃った乳首を突いたら、キキがくすぐったそうにして、僕は少し嬉しかった。

 

「もし、死体とセックスしているんだとしたら、

チャンミンはどうする?」

 

「どうするも何も、キキの中は温かいし」

 

僕はキキの唇の中に、人差し指を押し入れた。

 

「温かいから、キキは死体じゃない」

 

キキの舌が僕の指に絡みついた。

 

キキの口内の粘膜を、ぐるりとなぞった。

 

その指をキキの舌が追って、軽く指の付け根が甘噛みされた。

 

それから、指の股をくすぐられ、口をすぼめて僕の指を舐め上げたり、出し入れしたりした。

 

「はぁ...」

 

かと思うと、ちゅるっと指先だけが吸われて、ちろちろとくすぐられた。

 

(指一本で、こんなに感じてしまうなんて...)

 

まるで自身のものを、口で奉仕されているんだと錯覚してしまう。

 

僕の下腹部が重ったるく痺れてきた。

 

僕のものが、首をもたげて勃ちあがってきているのが分かった。

 

キキの両頬をとらえようとしたら、手首をつかまれた。

 

(あいかわらず、なんて力だ...)

 

僕は、これ以上逆らわず両手をマットレスの上に落とした。

 

「待ってて」

 

キキは立ち上がると、何かを持って戻ってきた。

 

僕の両手首をぐっとつかむと、万歳の恰好で頭の上に持ち上げられた。

 

「!」

 

キキが僕の手首に何か硬いものを巻き付けている。

 

カチャカチャという音と手首に冷たい金属が触れて、僕のベルトだと分かった。

 

「キキ!

何をするんだ!」

 

「さっき後ろから襲ったお仕置きよ」

 

そう言うと、僕にぴったりと寄り添うように横たわった。

 

巻き付けられたベルトを外そうとしたが、びくともしない。

 

「もがくと手首を怪我するよ」

 

そう言うとキキは、僕の手首の内側にキスをした。

 

手首から二の腕の怪我をした箇所に向かって、ついばむようにキスをしていった。

 

「はぁ...」

 

そして、傷口には決して触れないよう、ぺろぺろと周囲を舐めた。

 

「ふっ...」

 

ズキズキ痛む傷と、その周囲のくすぐったい感触の対比に、腹の底からぞわっとした痺れが生まれた。

 

二の腕の内側に軽く歯があてられるだけで、ふっと全身の力が抜ける。

 

脇の下からどっと汗が噴き出した。

 

キキの唇が、二の腕の内側を通って僕の脇に到達した。

 

ペロリと僕の脇が舐められた。

 

身体が跳ねる。

 

「やっ...!

汚いから...駄目...だって」

 

両腕を下ろそうとしたら、すかさずキキに押さえつけられた。

 

ふふっとキキは笑うと、舌でとんとんと叩いたり、行ったり来たりさせる。

 

くすぐったいけれど、下腹がじんと痺れる。

 

「はぁ...ぁん...」

 

かすれた喘ぎが漏れる。

 

そんな僕の反応を、キキは面白がっているようだった。

 

「チャンミンは感じやすいね」

 

喘ぐたび、キキは僕の唇に軽いキスをする。

 

(脇をいじられるのが、こんなに気持ちがいいなんて...)

 

「チャンミンの匂いがする」

 

「あ!」

 

キキは僕の脇に鼻を押し付けて、思いっきり吸い込んだ。

 

「駄目...!

臭いから...やめ...て!」

 

一日の終わりで、たっぷりと汗をかいた後で、さぞかし匂うだろうと、恥ずかしくてたまらない。

 

キキがふうっと息を吹きかけると、僕の体毛が震える。

 

「ふ...ん」

 

僕はぎゅっと目をつむる。

 

股間に血流が集まっているのが分かった。

 

今夜は2度も達したのに、僕の精は尽きていないみたいだ。

 

いやらしい。

 

僕は性欲に支配された男だ。

 

両腕を緊縛されていたため、快感によじる動きを制限されてしまっていた。

 

こんな状況が、かえって興奮した。

 

縛られて、身動きできなくて、キキにいじられるがままで、熱い吐息を漏らすだけで。

 

自由になる両膝を立てて、寄せた両腿をこすり合わせることで、快感を逃す。

 

両脚をよじるたび、膨張した僕のものが弾んで揺れる。

 

キキの視線が、僕の股間に注がれているのが分かる。

 

見られていると意識したら、ますます怒張していく。

 

キキの人差し指が、僕の唇をなぞる。

 

「口を開けて」

 

彼女の細い指が、口内に侵入する。

 

彼女の指に舌を絡め、指全体を舐め上げる。

 

「そんなんじゃ駄目。

もっといやらしく舐めて」

 

僕が知っている精いっぱいの方法で、彼女の指を舌で愛撫する。

 

「下手くそ。

チャンミンは、まだまだね」

 

僕の額にキスすると、キキはくすくすと笑った。

 

キキは僕の腰の上にまたがって膝立ちした。

 

マットレスに転がした懐中電灯の灯りが、キキの身体をぼんやりと照らしている。

 

キキの肩からウエスト、腰をつなぐカーブを描いたシルエットが、綺麗だった。

 

乳房のふくらみの下、へその周りになだらかな影を作っている。

 

視線を下に辿ると、キキの両太ももの付け根に濃い影があって、ぐんと鼓動が早くなった。

 

僕は今、裸の女性と対面している。

 

美しい、裸の女性が、僕の上にまたがっている。

 

性急過ぎた2回のセックスの際は、じっくりとキキの身体を視的に愛でることができなかったから、感動した。

 

キキに触れたい。

 

でも、僕の腕は自由を奪われている。

 

キキが、僕の乳首を2本の指でぎゅっとつまんだ。

 

「は...ん」

 

ぴくりと僕の腰が浮き上がった。

 

「そうだったね。

チャンミンは、乳首が弱いんだったね」

 

親指で押しつぶされた。

 

「んっ...」

 

両手を強く握る。

 

僕の唇から、たらたらと唾液が流れる。

 

「縛られて、興奮してるね」

 

キキは、僕の首筋に軽く吸い付いた。

 

ぞわっと下半身に向かって鳥肌がたつ。

 

ついばむように、僕の耳の下に、鎖骨の上にと軽いキスを降らした。

 

膝を立てて腰を持ち上げることで、僕の上に膝立ちしたキキの尻に、僕のものをこすり付けた。

 

腰をゆらすと、ちょうど僕のものの先がキキのやわらかい尻に当たる。

 

「いやらしいね、

チャンミンはいやらしい子だ」

 

キキは後ろ手に、ぴくぴくと小さく震える僕のものを握った。

 

「ふっ...」

 

キキの親指が、亀頭の上をくるくると円を描く。

 

ぬるぬるとしているから、さぞかし先走りがあふれているのだろう。

 

今すぐ自分の腰をキキの中に打ちつけたい衝動に襲われていた。

 

腰を浮かせようとすると、キキの両腿で制される。

 

僕の内面に暴れる肉欲が高まり過ぎて、耐えられない。

 

拳の中で、爪が手の平に食い込む。

 

じれったくて、焦らされて、苦しい。

 

「...がい...」

 

「なあに?」

 

「お願い...だ」

 

「何が?」

 

「お願いだから...」

 

キキが僕の頬を優しく撫でた。

 

乏しい灯りの元、キキの1対の眼がぎらっと光った。

 

見入られて、快楽と焦燥の間で僕の眼は潤んでいるだろう。

 

「挿れたい...」

 

「何を?」

 

「僕の...ものを...」

 

「僕のものって...なあに?」

 

分かっているくせに、キキは分からないふりをしている。

 

「僕の...これ...を」

 

(そんなこと...恥ずかし過ぎて言えないよ)

 

でも、ここではっきりと言わないと、キキは僕のお願いをきいてくれないに決まっている。

 

「恥ずかしいのね...可哀そうに」

 

呆れたような表情をしたキキは、僕の口元に耳を寄せた。

 

「何を、挿れたいの?

教えてチャンミン」

 

...もう駄目だ...。

 

キキが欲しい。

 

僕はキキに逆らえない。

 

 

キキの小さな耳にむかって、囁いた。

 

 

 

「わかったよ。

いい子ね、チャンミン」

 

キキは僕の髪を優しく撫でる。

 

僕の目尻から、涙がつーっと流れ落ちたのが分かった。

 

 

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