義弟(64)

 

 

~チャンミン17歳~

 

 

「ねぇ、チャンミン」

 

食後の珈琲を飲んでいる時、姉さんから落ち着いた声音で話しかけられた。

 

「何?」

 

「ユノは最近、何か大作にかかりきりになっているのかしら?」

 

最近の義兄さんは、本業の絵画以外の仕事に追われていたはずだ。

 

僕をモデルにした作品も、あともう少しのところで中断している。

 

「作品作りどころじゃないみたいだよ。

デザインの仕事が忙しいんじゃないかな。

いつも義兄さんに会っているわけじゃないから、よく分からないけど...」

 

義兄さんに会えるのは週に1度、今だって2週間以上ぶりだったのだ。

 

よかった、嘘をつく必要がなかった、全部本当のことだ。

 

仕事が忙しくて、姉さんの相手をしていられないのかな、と思った。

 

「チャンミンにこんなことを質問するのは変ね。

まさか...女の人がいるってこと...ないよね?」

 

心臓が口から飛び出してしまうんじゃないかって...全身にぶわっと汗が噴き出た。

 

女の人じゃなくて、義兄さんは『僕』と『不倫』をしているんだよ。

 

「...僕に聞かれたって困るよ」

 

動揺を隠そうと、僕はぬるくなったコーヒーを飲み込んだ。

 

苦いばかりで全然、美味しくない。

 

「そうよね...ごめんなさい」

 

「どうしてそんなこと、聞くの?」

 

姉さんは気づき始めているのだろうか...もしそうなら、まさか相手が僕だとは想像もつかないだろう。

 

僕が姉さんと顔を合わせることはほとんどないから、僕の行動からボロが出たのではないと思う。

 

となると...義兄さんの行動から怪しいと思わせる気配があったのかもしれない。

 

慎重派に見える義兄さんなのに意外だな...。

 

「おかしなところがあったの、義兄さんに?」

 

探りを入れることにした。

 

姉さんはコーヒーカップを見、イヤリングに触れ、窓の外を眺め、コーヒーカップに口をつけた。

 

僕は固唾をのんで、姉さんが話し出すのを辛抱強く待った。

 

「私って、あちこち旅行に行ったり好き勝手しているって、チャンミンは思っているでしょう?」

 

その通りだったけど、「全然」と首を振った。

 

「結婚して1年かそこらなのよ。

お互いのやることに干渉しない。

ユノはいわゆるアーティストだから、会社勤めしている普通の男の人とは違うと思ってた。

でも、ユノはアーティストなのにアーティストっぽくないの。

気配りも出来て、規則正しくて...」

 

「ふっ...。

のろけてる?」

 

動揺を隠したくて、いかにも『弟』が言いそうな台詞を発した。

 

「...ごめんなさい、話が反れたわね。

私たちは好きなことは自由にやっていい。

そのことに口出ししない。

2人でなんとなく決めていたスタイルだったけど...結婚している意味はあるのかしら、って」

 

義兄さんと姉さんがどんな夫婦生活を送っているのか、想像もしなかった。

 

僕といる時の義兄さんの姿が本来の義兄さんで、それ以外の、仕事の顔やアトリエを出て帰宅した後の義兄さんの顔なんて知りたくもなかった。

 

でも、こうして義兄さんの奥さん...姉さんを前にしてしまったら、具体的に想像を巡らしてしまうのを止められない。

 

「ただいま」と言って玄関ドアを開ける義兄さん、湯上りでラフな格好をした義兄さん、あくびをした寝起きの義兄さん...そして、姉さんを抱くときの義兄さん。

 

僕が知らないことばかり、目にすることができないことばかり。

 

そう言えば、義兄さんは姉さんの話をほとんどしない。

 

たまに、姉さんからの電話に出て話をしていることもあって、通話を切った後、僕に対してすまなさそうな表情をするのだ。

 

義兄さんは姉さんと結婚していることを申し訳ないと思っているんだ...僕は嬉しかった。

 

姉さんから誕生日プレゼントで贈られたブレスレットも、僕と居る時は外してくれている。

 

...そのブレスレットは僕が盗み出していた。

 

悪いことをしている意識はゼロだった。

 

僕の目につく場所に置いておいた義兄さんが悪いんだ。

 

ところがその後...義兄さんを驚かせようと不意打ちに、学校帰りにアトリエを訪れた日のことだ。

 

あのブレスレットが義兄さんの手首を飾っていた。

 

心臓が喉から飛び出るかと思った。

 

動揺を悟られないよう、「テスト勉強をしないと!」と言い訳して、アトリエを後にした。

 

大慌てで帰宅した僕は、クローゼットの引き出しの奥、タオルに包んでおいたそれを目にして身体じゅう熱くなった。

 

最初は意味が分からなかった。

 

僕が盗み出したはずのブレスレットが、どうして再び義兄さんの手首にあるのか。

 

失くなったと気付いた時、義兄さんはどう思っただろう。

 

焦っただろうな。

 

まさか僕が盗んだとは、義兄さんは疑いもしなかっただろう。

 

「奥さん」からのバースデープレゼントを早々と失くしてしまったことを、姉さんにバレるわけにはいかない。

 

だから、慌てて同じものを買ったんだ。

 

失くしてしまったと知ったら姉さんが悲しむ。

 

義兄さんは姉さんを悲しませたくなくて、同じものを買って誤魔化そうとした。

 

義兄さんは姉さんが大事。

 

これまでの僕は、義兄さんのことが好きで好きでたまらなくて、自分にとって都合が悪いこの考えはなかったことにしていた。

 

心の奥底に押し込んでいたこの件を、思い出してしまった。

 

...義兄さんは結婚している。

 

「別れないで」と頼んだ僕のかつての台詞を後悔した。

 

 

 

 

「ごめんね。

ほとんど会わない姉から、重い話をされて。

男の人の心理を、高校生に尋ねてもチャンミンが困るだけよね」

 

「...別に、困らないよ」

 

義兄さんの何を見て『他に女の人がいるのかしら?』と疑惑をもったのかについて、続きの話は聞けなかった。

 

弟にする話じゃないと、思い直したのだと思う。

 

姉さんを心配する振りをして、追求してもよかったのだけれども、怖くてできなかった。

 

「疲れたから、夕方まで部屋で休むわ。

チャンミンは、どうするの?」

 

「特に見たいものもないし...その辺をぶらついてるよ」

 

「そうね。

おこずかいは足りてる?」

 

僕は首を縦に振った。

 

「お先」

 

席を立った姉さんは、僕に片手を上げレストランを出て行った。

 

僕はその後ろ姿...きゅっと締まったウエスト、形のよい脚など...を見送った。

 

姉さんの隣に義兄さんが立ち、彼女の腰を抱く光景を想像してしまった。

 

義兄さんの腕の中にすっぽりとおさまってしまう小柄な姉さん。

 

これ以上後ろ姿を見ていられなくなり、食べかけの朝食が残った皿にとりかかった。

 

食べたばかりの朝食が、消化不良をおこしそうだった。

 

 

苦しい。

 

義兄さんに恋をするのは、苦しい。

 

行き止まりの恋。

 

これがクラスの女子だったら、どれだけ楽なんだろう。

 

でも、義兄さんを好きな気持ちはどうすることもできない。

 

 

(つづく)

 

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義弟(63)

 

 

~チャンミン17歳~

 

 

義兄さんのネクタイを締めてやる姉さんを、僕は突っ立ったまま見守った。

 

義兄さんは、というと、先ほどのことなんて何事もなかったかのように落ち着いている。

 

僕はこんなにも緊張して、義兄さんばかり見ないように努力が必要なのに...大人って狡い、と思った。

 

姉さんの前でスウェットの上下を脱ぐ義兄さんに、「そうだった...この二人は結婚してるんだった」と。

 

姉さんも義兄さんの全部を目にしてきたんだ。

 

義兄さんは僕だけのものじゃないんだ...。

 

息苦しくなってきて、僕は窓の外を眺めるふりをしていた。

 

「チャンミン、朝めしは?」

 

「...はい?」

 

声をかけられ、僕ははじかれたように振り向いた。

 

ジャケットを羽織った義兄さんの口調は妻の弟に対するそのもので、とても自然だった。

 

二人は大人で、僕は高校生の子供。

 

義兄さんの声掛けに、僕をこの部屋から追い出したいんだなと、うがった思いが止められない。

 

義兄さんは心配じゃないの?

 

もしかしたら、僕が今、姉さんに全てをぶちまけてしまうかもしれないんだよ?

 

どうして、そんなに落ち着いた態度でいられるの?

 

...義兄さんは分かっているんだ、僕らの関係をぶち壊してしまうようなことを、僕は絶対にしない、ということを。

 

「ネクタイは好きじゃないんだよなぁ...」とぼやく義兄さんに、「ほら、曲がっているわよ」と彼のネクタイを直す姉さんを、睨みつけないようにするのがやっとだった。

 

義兄さんへのいら立ちが、つい姉さんに向けられてしまう...でも口には出さない。

 

心の中でつぶやくだけ。

 

姉さん、知らないでしょう?

 

僕と義兄さんは一昨日の晩、この部屋でセックスをしていたんですよ?

 

1年以上前からずっと、僕は義兄さんの『愛人』みたいなものだったんですよ。

 

そこで気付く。

 

僕は義兄さんにとって、どんな存在なんだろう?と。

 

今すぐ義兄さんに確かめたくなったけど、それも飲み込んだ。

 

「チャンミンがここに来てるなんて...仲がいいのね?」

 

「あ、ああ」

 

どもった義兄さんに嬉しくなって、僕の荒れた心が少しだけなだめられた。

 

「ユノったら...落ちてたわよ」

 

姉さんからスマホを渡され、「そんなところにあったのか」と義兄さんはそれを受け取った。

 

受け取ったスマホを操作し始めた義兄さんに「何でもすぐに無くすんだから」と姉さんはつぶやくと、僕の方を振り向いた。

 

「チャンミン、私と朝ご飯を食べに行かない?」

 

「え...」

 

なぜか義兄さんの表情を窺ってしまったけど、彼はスマホ画面に視線を落としたままだった。

 

困っている僕を助けてくれない義兄さんに、腹が立って哀しくなってしまった。

 

「たまには姉弟水入らず...もいいでしょう?

チャンミンと久しぶりに話もしたかったし。

中学に入ってから、急に無口になるんだから。

男の子ってそういうものなのかしら、ねぇ?」

 

姉さんは義兄さんの方を見上げて笑った。

 

「...いいけど」

 

姉さんは背が低く、性格も明るくて、僕とは正反対なのだ。

 

美人の部類に入るから、義兄さんが姉さんと結婚したいと思っても仕方がないのかな。(僕にはもう一人姉さんがいて、美術学校の事務をやっていた彼女が、義兄さんとB姉さんを引き合わせたのだ)

 

僕でも知っているブランドのロゴが型押しされたバッグを持って、深いレンガ色のニットワンピースはとても高価なんだろうな。

 

朝早いのに綺麗にセットされた髪も、美容院にしょっちゅう行っていてお金をかけているんだろうな。

 

控え目な香水の香りや、胸のふくらみと細いウエスト。

 

いつか義兄さんの家で夕飯を御馳走になった時と同様な、惨めな気持ちに襲われた。

 

義兄さんと結婚した姉さんは、変わった。

 

僕が知っている姉さんはこんな人だったっけ?

 

もっと所帯じみていて、普通っぽかったのに。

 

義兄さんが甘やかしているんだな。

 

後ろポケットの中のスマホが振動し、通知を確認した僕は、思わず義兄さんを見てしまうのを堪えた。

 

『今夜、少しだけ会おうか?

1時間くらいしか時間はとれないけれど。

21時か22時くらいに。

連絡するよ。

チャンミンを1人にしてしまってごめん。

チャンミンのことは大事だよ』

 

こみ上げる嬉しさに、口元が緩みそうなのを、深呼吸をして堪えた。

 

ずるいよ、義兄さん。

 

義兄さんからのメッセージで...たった数行のこれで、僕の機嫌はすぐに直ってしまう。

 

僕の心を押しつぶそうとしていた不安も、少しだけ小さくなった。

 

 

 

 

朝食を供するレストランで、姉さんと対面してテーブルについた。

 

ビュッフェスタイルで、僕は3枚のお皿に色とりどりの料理を盛りつけた。

 

パンも白米もシリアルも取ってきた。

 

「チャンミンは若いのねぇ...。

山ほど食べても太らないなんて、羨ましい...」

 

僕は痩せた身体がコンプレックスなのに。

 

そうぼやく通り、姉さんの皿には、蒸し野菜とスモークサーモン、カットフルーツしか乗っていなかった。

 

「我慢しないで食べればいいんじゃないの?」

 

「食べたら大変なことになるわ」

 

完璧に整えられた両眉を下げて姉さんは笑った。

 

姉さんも義兄さんに幻滅されないように、綺麗でいようと必死なんだろうな。

 

とても綺麗な義兄さんの隣に立っても見合うようにい続けないと。

 

義兄さんはとてもモテるだろうから、みすぼらしい恰好をしていたら、どこかの女の人に彼を盗られるかもしれない。

 

と、そこまで考えてハッとする。

 

僕は姉さんの夫を、盗っているんだ。

 

それほど仲はよくなくても、僕は血のつながった姉さんを裏切り傷つけることをしているんだった。

 

急に胸が詰まってしまって、食欲が無くなった。

 

義兄さんが僕のことをどう想っているのか不安になってしまい、切羽詰まっていたばかりなのに、皿を山盛りにしている自分が浅ましい、と思った。

 

僕はさっきまで、姉さんの旦那さんのアレを頬張っていたのだ。

 

姉さんのことがすっぽりと、頭から抜けていた。

 

義兄さんの奥さんは、どこかの顔も知らない名無しの女の人だと思い込んで、目を反らしていたのかもしれない。

 

でも、食べ残すなんて行儀の悪いことは出来ない僕は、無理やりフォークをせっせと往復させた。

 

サラダをフォークで突く姉さんを、ちらちらと観察した。

 

離れ気味の両目、大き目の口...今みたいに、ぼうっと心あらずでいる斜め前の感じ。

 

やっぱり姉弟だ、自分に似てると思った。

 

義兄さんは僕を目にするたび、姉さんに似ている、とドキリとしているだろうか。

 

姉さんを想って僕を抱いていないよね?

 

 

(つづく)

 

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義弟(62)

 

 

~チャンミン17歳~

 

 

義兄さんのものを頬張った。

 

僕が知っている限りの舌づかいで、義兄さんをイカせてやろうと必死だった。

 

渦巻く不安感に押しつぶされそうで、胸が苦しい。

 

どうしてだろう。

 

義兄さんは僕のことを「大事」だと言ってくれたのに、なぜだか不安がつのるんだ。

 

「好き」じゃなくて、「大事」と言ったことに、こだわった。

 

 

 

 

切羽詰まった思いにかられて、義兄さんの部屋へ駆けつけてしまったのは、どうして?

 

目覚めた時、義兄さんがいるはずの場所の白いシーツがいやに眩しく映った。

 

義兄さんは忙しい身、イベント会場に向かわなければならなくて、眠り込んでいる僕を起こさないように気遣ってくれたことは分かっていたけれど。

 

僕を起こさずに帰ってしまったことを不当に感じたのだ。

 

ほんの2時間前まで、僕は義兄さんの腕の中という安心感に包まれて、うとうととしていた僕。

 

義兄さんは僕に語りかけていた。

 

眠りに落ちる直前、確かに聞こえていたのがこの部分。

 

『俺とチャンミンとは、親子ほどじゃないけど、年が離れている。

チャンミンとXさんは親子以上に年が離れている。

俺とチャンミンの付き合いを、冷静に第三者の目で見てみたんだ』

 

夢うつつの中、この台詞から何か不穏な空気を感じ取っていたんだろう。

 

X氏との対峙や、義兄さんに捨てられるかもしれない不安、荒々しく抱かれて2度も達して疲れ切っていた僕は、この台詞の意味を深く考えてみる余裕がなかった。

 

でも、この話の結末は決して前向きなものではないのでは?と。

 

義兄さんの話を最後まで聞いてしまったら、現実として受け止めなければならなくなる。

 

僕の深層は敏感に察して、義兄さんの話を聞くまいと、睡魔を襲わせたのだ。

 

第三者の立場から見た僕らは、真っ当な恋人同士じゃない。

 

大人な関係にスリルを感じていられたのも最初のうちで、近頃は好きなだけ会えない関係に不満を感じるようになってきた。

 

でも、僕は不満を口にしないように、我慢していた。

 

だって、不満をこぼしたりなんかしたら、義兄さんの性格からして、

 

「俺は結婚をしているんだ。

もっと会いたいと言われても、俺は困ってしまう。

我が儘を言って俺を困らせるなら、止めようか?

別れよう」

 

...と、結論を出してしまいそうで。

 

1年以上もX氏と会っていた僕を、義兄さんは許してくれた。

 

その上、僕を責めるのでななく、義兄さん自身を責めていた。

 

これは予想外だった。

 

義兄さんが責任を感じる必要なんてないのに。

 

僕らの関係が内緒なのは、常識的に許されない仲だからだ。

 

『第三者の目で見てみたんだ...』

 

この後に続いてゆく台詞は、簡単に想像がつくよ。

 

『俺たちは、関係を持ってはいけなかったんだ。

世間的に間違っている。

だから俺たち...」

 

目覚めた時、隣にいるはずの義兄さんが消えていて、僕はぞぅっとした。

 

脱ぎ散らかした服を着て、義兄さんの部屋に駆けていた。

 

僕の思い過ごしでありますように!

 

 

 

 

姉さんがもうすぐこの部屋にやってくる。

 

エレベータに乗ってこの部屋まで2、3分?

 

カードキーを持っているだろうから、チャイムを鳴らした後すぐに部屋に入ってくるだろう。

 

姉さんが来る前に終わらせなければならない。

 

急がないと。

 

義兄さんを早くイカせないと。

 

焦った僕は、喉奥で締め付けながら頭を前後に振った、可能な限り早く。

 

僕の口の中で、義兄さんのものが一回り膨らんだような気がした。

 

張り詰めたそれはより固くなって、血管のふくらみまで舌でたどれるくらいだ。

 

僕の後頭部に回った義兄さんの手の平に力がこもった。

 

押しのけられるかと思っていたから、それが嬉しくって。

 

喉の奥に先端が当たって、えずきそうになったけどぐっと堪えた。

 

唇から顎へとだらだらと唾液が垂れる。

 

義兄さんはつかんだ僕の頭を上下にシェイクする。

 

吸い上げながら同時に、握った手も素早く動かす。

 

横になっている義兄さんの腰も揺れる。

 

早く、急いで!

 

えずきに耐えるごとに、僕の目尻から涙がこぼれ落ちる...。

 

 

 

 

吐き出されたものを、飲み込んだ。

 

義兄さんのものを...1滴残らず舐めとって綺麗にしたものを、スウェットパンツの中に納めてやった。

 

そして、横になったままの義兄さんに手を貸して起き上がらせた。

 

「......」

 

義兄さんも僕も肩で息をしていた。

 

ベッドに腰掛けた義兄さんは、前かがみになって何度も髪をかきあげている。

 

怒っているみたいな、悲しんでいるみたいな苦し気な表情だった。

 

二人とも無言だった。

 

僕は涙で濡れた両目を拳でこすった。

 

1度だけチャイムが鳴り、遅れて荷物を運んできたスタッフに「ありがとう」と言う声。

 

ハッとしたような義兄さんの表情。

 

眉間のシワが消え、頬のこわばりが解けた。

 

そうだった...義兄さんには奥さんがいる。

 

よりにもよって、僕の姉さんという。

 

喉元で息が詰まって、苦しくなった。

 

すくっと立ち上がり、ベッドルームを出ていく義兄さんの背中。

 

ラフな格好だから、義兄さんの美しく均整がとれた後ろ姿がより際立っていた。

 

Tシャツもスウェットパンツも脱がせてしまった義兄さんの後ろ姿なんて、簡単に想像できる。

 

だって、僕は全部、知っているんだもの。

 

義兄さんは部屋を出る間際、僕の方を振り向いて頷いてみせたけど、どういう意味なのか僕は分からなかった。

 

隠れていろ、ってこと?

 

まさか...ね。

 

乱れた髪を整え、濡れた口元を拭った。

 

勃ちあがりかけたままのそこの位置を直した。

 

「久しぶり~。

何日ぶり?」

 

姉さんの甘えた声。

 

「相変わらずだな、B。

荷物がすごい」

 

慣れ親しんだ者に対する、義兄さんの優しく寛いだ声。

 

口の中は義兄さんの匂いと味でいっぱいなのに、心が寒い。

 

「もうすぐ出かけなくちゃいけないんでしょ?

着替えていないじゃないの」

 

どんな顔をして二人の前に出てゆけばいいんだろう。

 

クローゼットの中に隠れようかと、本気で思ったくらいだ。

 

「...チャンミンが来てるんだ」

 

僕の名前が出て、ドキンと心臓が大きく打った。

 

幸せそうな夫婦っぷりを見せつけようとする義兄さんを、残酷だと思った。

 

でも。

 

ここには誰もいないと、僕を隠そうとされる方よりはマシだった。

 

僕は観念して、ベッドルームを出た。

 

惨めだった。

 

 

 

(つづく)

 

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義弟(61)

 

~ユノ34歳~

 

唇を離した。

 

互いの息は乱れているのは、このキスが呼吸を忘れるくらい荒々しく激しいものだったからだ。

 

チャンミンの昂ぶりに触れていた手も放した。

 

もっとキスを、キスだけじゃ足らない、下でも繋がりたいと俺に身体を摺り寄せてくるチャンミンだった。

 

できるだけ優しく、かつ「今は無理だ」と意をこめてチャンミンから身を離した。

 

ベッドに広げ置いたスーツの方に目線をやって、イベント会場にそろそろ向かわなければならないことを匂わせた。

 

「そろそろ着替えて行かないとね」

 

チャンミンの不安を解消してやりたい。

 

でも、俺には仕事があり、常にチャンミンのことにかまけていられないのだ。

 

チャンミンにしてみたら、ずっとひた隠しにしていたX氏とのことが暴露され、俺に幻滅される恐怖は大きかっただろう。

 

チャンミンの不安がどれほどのものか、俺なりに分かっていたから、言葉を尽くした。

 

どれだけチャンミンを大事に想っているかを伝えながら、俺の中にふと、迷いのようなものが生じたのは確かだ。

 

17歳のチャンミンにとって俺とX氏は年上過ぎて、本来なら俺とX氏は17歳のチャンミンに手を出すことは許されない。

 

X氏がチャンミンにしてきたことは、同時に俺にも当てはまる。

 

これまで何度も同じ考えが俺の頭をかすめてきたが、X氏の一件をきっかけに、その考えが強まったのだ。

 

俺は何をやってるんだろう、と。

 

重大なミスを見つけた瞬間、かぁっと身体の芯が熱くなったりするが、チャンミンに腕枕してやりながらそんな感覚に襲われたのだ。

 

その時、うとうととまぶたが落ちかけていたチャンミン。

 

途中まで口にしかけた言葉を飲み込んだ。

 

自分の行いは褒められたものじゃないからといって、今すぐチャンミンから身を引くべきだと、言葉にしてしまうところだった。

 

チャンミンはもっと自由な恋愛をすべきだ。

 

とは言え、今しばらくは、X氏から受けた心の傷を癒してやることに全力を注ごうと思ったのだ。

 

俺が身を引いてしまったら、残されたチャンミンは辛い思いをする。

 

俺はチャンミンを守るべき立場にあるのだから、彼の側にいてやりたい。

 

でも...これまで通り会い続けたとしても、これまで通り欲に任せて下半身を繋げるだけだろう。

 

俺たちが会う度、服を脱ぐ間も惜しんで下半身を繋げてきたのは、不安定で不透明な関係性から目を反らすためなのか。

 

俺は立場的に、言葉でチャンミンを繋ぎとめきれない。

 

「これからもずっと一緒だ」と囁いてやりたいが、現段階では叶わない。

 

俺が伝えられたのは、「いずれ未来が訪れるから。俺たちには未来はあるはずだ」

 

チャンミンのことだから、いつまでも待ち続けるだろう。

 

かと言って、いつまでも待たせるわけにもいかない。

 

どれだけの時間がかかるかも不明だ。

 

チャンミンがしびれを切らすのが先か、共に過ごせる環境が整うのが先か。

 

チャンミンのことを大事に想うのなら、どちらが彼にとって幸せなんだろう。

 

感情任せに恋を進められる年じゃないのだ、俺は。

 

 

 

 

俺の表情から何かを感じとったチャンミンの手が、俺のスウェットパンツに指をかけた。

 

「今はダメだ...」

 

チャンミンが何をしたがっているかは明らかだ。

 

ベッドサイドの電話が鳴りだした。

 

俺はチャンミンから身を引き、「助かった」と安堵しつつ受話器をとった。

 

朝食はあきらめたとしても、着替えて髪をセットするなど身支度する時間に余裕がなくなっていた。

 

『電話をかけても通じないから』

 

「ごめん、風呂に入っていたんだ」

 

チャンミンに突進された時、スマホを落としてしまったのだ。

 

俺は声を出さず「Bだ」と伝えると、チャンミンは無表情になってしまった。

 

「どうした?

今日は早いね...」

 

俺とBとの会話をじとり、と湿度の高い三白眼で見守っている。

 

『今、フロントにいるのよ』

 

心臓がドキンと打ち、焦りで全身が熱く火照った。

 

「えっ、もう?

駅まで迎えに行ったのに...」

 

Bが既にホテルに到着していると知って、チャンミンの方を窺った。

 

『朝ごはんをまだ食べてないの。

一緒にどうかな、って思って。

ここのビュッフェ、美味しそうね』

 

「朝めしの時間はとれないっぽいなぁ。

今から会場に向かわないと...」

 

まさか午前中の、それもこんな早い時間帯に現地にやってくるなんて、予想していなかった。

 

『そう...。

じゃあ、部屋で休もうかなぁ。

着替えたいし』

 

Bの電話で、俺は現実に引き戻された。

 

そうだった...俺には妻がいる。

 

「悪い。

Bが来てるんだ」

 

「姉さんが?

ここに?」

 

「ああ。

チャンミンは部屋に戻れ」

 

Bは俺の妻。

 

この部屋にやってくることも、隣のベッドで眠ることも当然の話だ。

 

チャンミンは男で、同じ部屋にいてもおかしいところはない。

 

さらに、チャンミンは親戚にあたるから不自然じゃない。

 

仲の良い義兄と義弟同士に見える。

 

でも、ひとつ部屋でチャンミンとBが並んで立つのを前に、俺は平静でいられない。

 

妻と妻の弟。

 

俺はその『妻の弟』と恋愛関係...不倫関係にある。

 

眩暈がする。

 

Bからの電話を受けて、チャンミンを部屋に帰そうとした俺。

 

悪いことをしている認識があるからだ。

 

俺とチャンミンが...いや、チャンミンは悪くない...俺が犯し続けている罪。

 

「チャンミン、ごめんな。

その代わり今夜は...」

 

今夜の約束をしようとした時、Bの存在を思い出し、言いかけていた言葉をつぐんだ。

 

「3人で夕飯はどうだ?」だなんて、無神経過ぎるし、今日はパーティじみたものがあるから、夕飯は不要だ。

 

何時に終わるかも不明だ。

 

ここではたと気付いた。

 

今夜のチャンミンは独りだ。

 

「...今夜どうする?

パーティに出てこいよ、美味いものを食べられるぞ」

 

チャンミンは俯き、膝に置いた手をこぶしにしていた。

 

「...いえ。

服も持ってきていませんし。

いいです、適当に済ませます」

 

それとなく俺を責めるチャンミン、でも俺は「ごめんな」と謝るしかない。

 

遊びに来いよと、今回のイベントに誘ってはみたが、よく考えてみたら、チャンミンを1人にさせてしまう時間がほとんどなのだ。

 

人目を気にせず会えるのは、ホテルの部屋の中に限られるし、会えば必ずセックスに明け暮れてしまうのだ。

 

どこか観光にチャンミンを連れていってやりたくとも、あいにく俺には時間がない。

 

ベッドの上から動こうとしないチャンミンに手を差し伸ばした時。

 

「チャンミンっ!」

 

俺のスウェットパンツからそれをむき出しにすると頬張った。

 

「やめろっ...!」

 

チャンミンの巧みな舌づかいにより、彼の口内で硬度を増していく。

 

「ダメだっ」

 

チャンミンの両肩を押してみても、渾身の力で抵抗する。

 

俺の制止もきかず、チャンミンは頭を上下させている。

 

必死な姿。

 

やっぱり...と思った。

 

...チャンミンと別れるべきなのでは?

 

俺の胸にいっときかすめた、あくまでも可能性のひとつ。

 

チャンミンは敏感に感じとったんだ。

 

次々と襲う強烈な快感に、俺は抵抗を止めた。

 

チャンミンの頭を撫ぜた。

 

あと数分もしないうちに、Bがこの部屋にやってくる。

 

 

(つづく)

 

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義弟(60)

 

 

~ユノ34歳~

 

 

ふと、こんな考えがよぎった。

 

このまま関係を続けていって、果たしてチャンミンは幸せになれるのだろうか、と。

 

俺もチャンミンも、現段階では身動きが取れない。

 

チャンミンはまず、学校を卒業して親元を離れてもよい立場になること。

 

俺はBと別れること。

 

最低あと1年...あと2年は、内緒の関係だ。

 

Bと別れること...これは今すぐできることだ。

 

当然の話、Bはショックを受ける。

 

別れの真の理由は、口が裂けても伝えることは出来ない。

 

独身に戻った俺は、これで大っぴらにチャンミンと...いや、駄目だ。

 

俺の部屋に出入りするチャンミン...いずれ、Bの耳に噂が伝わるだろう。

 

それなら、遠くへ引っ越してしまえばいい。

 

大学生になったチャンミンは、実家を出て俺の部屋に住めばいい。

 

なにを夢見たことを言ってるんだ?

 

俺は馬鹿か?

 

俺の中で立てていたプランだったが、冷静に考えてみると、出来る限り無難に済むようにと思い描いた身勝手なものだ。

 

妻Bもチャンミンもどちらも傷つけないように、立ち回ろうとしている俺は狡い。

 

想いにかられて突っ走るように、チャンミンとの仲を深めてきた。

 

しまいには、将来に期待をもたせるような言葉で、チャンミンの安心と笑顔を引き出そうとしていた。

 

こんなんで、いいのか?

 

チャンミンに航空チケットを贈った日のうちに、それをひるがえすようなことを考えてしまっている。

 

これからの1年は、チャンミンにとって将来について具体的に考えなければならない時期だ。

 

それなのに年上の男と、それも姉の夫といかがわしい繋がりを持たせるなんて、正しいことじゃない。

 

チャンミンを深みに引きずり込んでしまった責任が、俺にはある。

 

もっともっと深みにハマる前に、チャンミンから離れるべきなんだろうか?

 

...そうか。

 

チャンミンを守るためには、この選択が一番なんだろう。

 

若さゆえに今は、俺に夢中になっている。

 

時が経てば目が覚めて、もっと健全な関係を結べる誰かを見つけてくれるだろう。

 

より深みにはハマる前に、俺はチャンミンから離れてやるべきなんだ。

 

俺たちは健全な関係ではない。

 

いつかの言葉。

 

「姉さんと別れてはいけません」

 

チャンミンはなぜ、あんなことを言ったのだろう?

 

あの言葉から1年経っても未だに理解できない。

 

 

 

 

傍らに置いたスマホのバイブレーションで目が覚めた。

 

一瞬、自分がどこに居るのか分からなかった。

 

視線を落とすと、俺の脇腹に顔を埋めるようにして眠るチャンミンの横顔が。

 

腕枕のせいで、片腕が痺れていた。

 

チャンミンを起こしたくなくて、電源ボタンを押してやり過ごした。

 

ディスプレイに表示された妻Bの名前。

 

昼近くまで寝ているBにしては珍しいと思った。

 

ここで電話に出たらチャンミンを起こしてしまうし、健やかそうな寝顔をもうしばらく眺めていたかった。

 

昨夜はチャンミンのことで頭がいっぱいで、Bの話を途中で遮ってしまった。

 

今になってようやく、Bに対して悪いことをしたなと反省した。

 

Bは俺に話があると言っていた。

 

大した内容じゃないかもしれないが、妻の言葉は取りこぼしのないよう拾い上げてやりたい。

 

こういう小さな気配りの積み重ねが大事なのだ。

 

聞こえているのに聞こえないフリ、ささいな変化に気付かないフリ、気持ちのすれ違い、心の隙間が広がって、夫婦関係が修復不可能にならないよう...そうありたかった。

 

いい『夫』でいたい。

 

「あ......」

 

妻Bに対しても、依頼人のX氏に対しても、それからチャンミンに対しても、いい顔をしようとしている自分に気付いた。

 

うまく立ち回ろうとしていたのが、X氏との件で、俺がいかにチャンミンに参っていたのかが、明らかとなってしまった。

 

もちろん、Bのことは大事だ。

 

そこには但し書きがある...チャンミンの次に妻が大事、と。

 

はっきり認める。

 

チャンミンの首の下から、ゆっくり腕を引き抜いた。

 

マットレスを揺らさないようベッドから下り、床に脱ぎ捨てられていた衣服を身につけた。

 

靴を履きながら窓辺に足を向けて、カーテンの端から外の様子を窺った。

 

窓ガラスに雨粒が透明の筋を作っている。

 

「雨か...」

 

灰色の空はどんよりと暗く、今の俺の心情そのものだった。

 

眼下の通りに、傘をさした犬の散歩中の老人が歩いている。

 

俺が好きだと全力で求めてくるチャンミンの姿に、心打ち震えた。

 

同時に怖くなった。

 

それを全力で受け止めていいものなのかどうか、迷い始めていた。

 

俺の言うこと成すことで、チャンミンの10代の心を振り回せる力が俺にはある。

 

チャンミンの傷を癒し、彼がまずい立場にならないよう細心の注意を払わないと。

 

誰かが傷つかなければならない。

 

うまく立ち回ろうとしてはいけない。

 

眠るチャンミンの頬に口づけ、俺はこの部屋を後にした。

 

 

 

 

熱いシャワーが沁みた。

 

鏡に映してみると、肩甲骨の左右に3本ずつのミミズ腫れがあった。

 

俺に執拗に攻められたチャンミンが、腰に両足を絡めぶらさがり、絶頂に昂った時に付けられたものだろう。

 

酸素を求めてしゃくりあげ、甲高く喘いでいた。

 

きゅうきゅうに根元を締め付けて、俺の全てを搾り取ろうとしているかのようだった。

 

痛いくらいに。

 

静寂に耐えられなくて、ニュース番組を見るともなしに、バスタオルを腰に巻いた姿で、冷えたミネラルウォーターを煽っていた。

 

「はぁ...」

 

思考力の低下した寝不足の頭で、今後の身の振り方など考えられない。

 

今日はイベントの最終日。

 

閉会セレモニーと並行して、パーティが執り行われる。

 

この日の為に用意しておいたスーツとシャツをベッドに放り投げた。

 

昨夜はチャンミンの部屋で過ごしたため、ツインのベッドはどちらもしわひとつなくメーキングされている。

 

片方が今夜、Bが眠るベッドだ。

 

「...忘れてた」

 

さっきのBからの電話は、「駅まで迎えに来て欲しい」というものだったのだろう。

 

スマホを取り上げ、発信しかけた時、ドアチャイムが鳴った。

 

まだ7時だというのに、誰からだろう?

 

イベント関係者だったりしたら、バスタオル姿で応対するわけにはいかない、と大急ぎで下着とスウェットの上下に着替えた。

 

ドアの向こうに立っていたのは、チャンミンだった。

 

 

 

 

 

俺を睨みつけるのは、じとりと湿った三白眼だった。

 

「...チャンミン、どうした?」

 

チャンミンは俺に突進してきた。

 

「チャンミンっ...」

 

突き飛ばさんばかりの勢いで、俺の胸にタックルしてきた。

 

そして、ぐいぐいと俺を室内へと押していく。

 

「チャンミン?

どうした」

 

「どうしたって...義兄さんの方こそ、どうしたんです?」

 

「どうした、って...?」

 

ベッドに仰向けに押し倒された俺は、腰にまたがったチャンミンを見上げた。

 

ぞくり、と背筋に寒気が走る。

 

「...義兄さん。

おかしなことを考えていませんよね?」

 

「...おかしなこと?」

 

「僕と別れるとか...思っていませんよね?」

 

窓からの光が逆光になって、チャンミンの表情はうかがえない。

 

でも、泣き出しそうに歪んだ口元になっているのは分かった。

 

「俺は...チャンミンが大事だよ」

 

「僕のこと...大事...」

 

「ああ、そうだよ」

 

チャンミンは半身を伏せ、俺の唇を塞ぐ。

 

俺とチャンミンの舌が踊る。

 

チャンミンに誘導されたそこは、固く上を向いており、俺に触れられて彼の腰が小さく震えた。

 

この1年余りの俺は、どこかチャンミンに遠慮していた節があった。

 

チャンミンのプライベートに興味を持ったりしてはいけない、アトリエまで会いに来いと誘ったりもしなかった。

 

俺だって週に1度じゃ物足りなかったのを、敢えて押し隠していたのだ。

 

今回の出来事を境に、俺の顔色、言動のいちいちに神経質に反応するようになったチャンミン。

 

俺の逡巡を鋭いチャンミンは察したのではと、ヒヤリとした。

 

 

(つづく)

 

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