義弟(15-2)

 

 

~ユノ33歳~

 

キスひとつで、俺の心はいちいちかき乱されたりしない。

 

この程度で動揺するほど初心ではないのだ。

 

Mちゃんがどういうつもりでキスをしたかなんて、興味がないのだ、あいにく。

 

事務所のソファに座って会話を交わす二人を眺め、もやもやとしたものが渦巻いていた。

 

俺には入り込めない若者の世界。

 

Mちゃんからの唇が触れるだけのキスが、俺を苦しめた。

 

負けた。

 

あんな初々しく、爽やかなキスをされたら、16歳のチャンミンは参ってしまうだろう。

 

チャンミンにとって、5歳年上のMちゃんは魅力的に映っているだろう。

 

自身の10代後半から20歳頃の恋に思いを馳せると、当時のことは全て眩しく美しく記憶されている。

 

相手のことしか見えず、共に経験することのどれもが初めてなのだ。

 

チャンミンは今、その真っ只中にいる。

 

俺がもう戻れない場所に、チャンミンはいる。

 

妻がいる身である立場を忘れて、俺はその事実に胸を痛めた。

 

俺もせめて、10年若ければ...なんて。

 

だが、若ければいいっていうものじゃない。

 

10年若い俺じゃあ、チャンミンの魅力に気付けずにいただろう。

 

 

「来週は午前中ですね」

 

「ああ、時間変更して悪かったね」

 

つい15分前のキスなんてなかったかのように、Mちゃんはけろっとしている。

 

年上の男を余裕ぶって、からかっただけだったらしい。

 

Mちゃんは立ちあがり、遅れてチャンミンもそれに続く。

 

玄関に向かうMちゃんを追いかけるチャンミンは...俺の前を通り過ぎる瞬間...俺の方をちらりと見た。

 

意味ありげな眼差しだった。

 

「義兄さん、どうします?」と俺に問うているかのような挑戦的な目だ。

 

俺をじとりと睨みつけたり、欲情の光を浮かべてとろんとさせたり、チャンミンの目は、つくづく表情豊かだ。

 

無口で無表情なだけに、目は口程に物を言うとはチャンミンのそれを言うのだろうな。

 

チャンミンを無視できそうにない理由が、そこにあるのかもしれない。

 

「夕飯...食べにいかないか?」

 

若い二人が揃って振り向いた。

 

「もし、予定がなければ、だけど。

2人にご馳走するよ。

どう?」

 

チャンミンとMちゃん、2人で帰してたまるか...止めないと、と頭が考える前に言葉が出ていた。

 

Mちゃんは俺とチャンミンを交互に見ていたが、

「私は、友達と約束があるんです」と、申し訳なさそうに言った。

 

やっぱりこの後、チャンミンとでかけるところがあるんだ...。

 

ところが、

「チャンミンはユノさんとご飯に行っておいでよ」

 

チャンミンが「え?」といった感じで、Mちゃんを見る。

「高級なところに連れて行ってもらえば?

せっかくなんだし、ね?

ユノさん、また来週。

チャンミン、また電話するね」

 

Mちゃんは手を振ると、さっさと出ていってしまった。

 

「......」

 

俺はチャンミンと2人、アトリエに残された。

 

 

(つづく)

 

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義弟(15-1)

 

~ユノ33歳~

 

チャンミンとMちゃんが付き合っていることは、確かなようだ。

 

チャンミンのモデルの終了時間に合わせて、Mちゃんが迎えにくることも、その逆の場合も度々あった。

 

大人の女に憧れる年ごろだから、5歳の歳の差も魅力的に映っているのだろう。

 

性格面も、陰と陽の組み合わせなのがかえっていいのかもしれない。

 

「チャンミンと何を話すの?

無口な子だろう?」

 

雑談の合間に、さりげなくMちゃんに質問する。

 

「付き合っているのか?」とチャンミンにきけない代わりに、Mちゃんに同じ質問をする。

 

「そうなんですか?

チャンミン、けっこうお喋りですよ」

 

「へぇ...意外だね」

 

色気を出して俺を誘ったあの日以降、チャンミンはいつも通りの必要最低限のことしか口にしない子に戻っていた。

 

あの時は、押し倒すか押し倒さないか、俺の中で理性と肉欲の攻防戦が繰り広げられていた。

 

あらためて淫らな欲望を抱いている、と思い知らされた時だった。

 

「温めて下さい」発言自体が、夢だったのでは、と疑いたくなるほどの、素っ気ないチャンミン。

 

彼が何を考えているのか、俺には理解できない。

 

 

チャンミンの場合、年が近く相手が女の子だと、口数は多くなるのかもしれない。

 

10代の頃の俺はどうだったけ?と、思い出してみたりして。

 

「そっか」と俺は、その話題を打ち切り、絵筆を動かすことに集中した。

 

チャンミンの呼び名も、君付けじゃなくなっていた。

 

Mちゃんの絵も8割方といったところで、描き込みの段階にさしかかっていた。

 

「チャンミン...キスがうまいんですよ」

 

「えっ...?」

 

絵筆が滑って、鎖骨の窪みのグラデーションを台無しにしてしまった。

 

「やだな、ユノさん。

固まっちゃって。

高校生になれば、やることやっちゃうのは早いんですよ。

ユノさんもそうだったでしょう?」

 

2人を目撃したカフェの時のように、胸が圧迫されてうまく呼吸ができない。

 

「どうだったかな...。

昔過ぎて、思い出せないな...はははっ」

 

16、17歳頃の恋愛は、俺の場合はどうだったっけ?と思い出そうとして、はっとした。

 

俺が17歳の時に...チャンミンは生まれたのか...。

 

 

ぞっとした。

 

 

俺の歳はチャンミンの2倍以上、彼から見れば、俺はおじさんだ。

 

そうだよな。

 

ぎりりと胸が痛くなって、もっと呼吸がしづらくなった。

 

「ユノさん?」

 

手を止めて黙り込んでしまった俺の様子に、Mちゃんが訝し気に声をかけた。

 

「いや、ごめん。

意外だったから。

そっか...チャンミンと、そうなんだ」

 

「あの」チャンミンが、髪をピンクに染めたMちゃんみたいな子となんて、ミスマッチな組み合わせだ。

 

いや...お似合いなのかもしれない。

 

「ユノさん。

手が止まっていますよ」

 

Mちゃんも綺麗な子だが、チャンミンはその10倍を上回る。

 

一般人にしておくのが勿体ないほどの美貌を持つチャンミンが...17も上の俺が扱いかねるキャラクターの彼が...一般的男子みたいに女の子に興味を持つことに、がっかりしてしまった。

 

見た目はああでも、中身はごく普通の16歳男子なんだ、と。

 

残念がる理由は何なんだ?

 

ごく普通に、女の子に興味を持つチャンミンに、か?

 

Bの弟がどうしようと、俺が胸を痛める必要がない。

 

だけど。

 

つんと顎をあげ、脚をクロスさせて立つ21歳の女の子に、俺は猛烈な嫉妬心を抱いていた。

 

作品の完成度を上げるためだと言い訳をして、真珠のネックレスでチャンミンの胸元を飾った。

 

誕生日を知らずにいた俺に、拗ねたと勘違いしたこととして、チャンミンに似合いそうなものを用意した。

 

ところが、もう渡せそうにない。

 

先を越された。

 

 

「ご苦労様」

 

帰り支度をするMちゃんが、すっと俺に近づいたかと思うと、

 

「!」

 

ふわっと柔らかなものが唇に押し当てられ、わずか1秒ののち、すっとMちゃんの顔が離れた。

 

俺から唇を離して、Mちゃんは「どう?」と言った表情で俺を見上げる。

 

不意打ちの行動に、俺はMちゃんを見返すのがやっとだった...無様にも。

 

直後チャイムが鳴り、我に返った。

 

来訪者を確かめもせず、玄関ドアを開けた。

 

「!」

 

チャンミンが立っていた。

 

チャンミンはMちゃんを迎えに来たのだ。

 

この日もチャンミンらしい...暗色の、ロゴひとつ入っていなシンプルな...身なりで立っていた。

 

「Mちゃんなら、今終わったところだよ」と、中へ入るよう目線で促した。

 

玄関口でチャンミンとすれ違う際、彼の目の高さが俺の鼻の辺りにあることに気付いた。

 

背が伸びたのか...。

 

チャンミンは成長期なのだ。

 

子供らしく、すくすくと。

 

おかしくなっている俺の目はつい、事務所へ進むチャンミンの、平らな小さな尻に視線がいってしまうのだ。

 

(つづく)

 

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義弟(14-2)

 

~チャンミン16歳~

 

 

「行きましょうか?」

 

席を立つMを追う。

 

腰までの長さのコートから、Mの形のよい生足が伸びていた。

 

Mを裸にする光景を想像した。

 

上手くできるかは自信がないけど、きっとMがリードしてくれるはずだ。

 

 


 

 

Mはテキパキと手慣れた風に部屋を選ぶと、僕と腕を組んでエレベーターに乗り込んだ。

 

僕の肩あたりにMの頭のてっぺんが来ている。

 

この2、3か月で背が伸びて、あともう少しで義兄さんに追いつきそうで、嬉しかった。

 

「年下で、それも高校生となんて、初めてかも。

あ、チャンミンはまだ中学生か!」

 

「...もう卒業したよ。

ところで、Mちゃんは、初めてはいつだったの?」

 

「うーんと、17歳くらい」

 

エレベーターのパネルの階数ランプをぼーっと眺めていた。

 

「相手は?」

 

「バイト先の先輩...27歳だったけな、フリーター」

 

「ふぅん。

別れたって言ってたけど、Mちゃんは彼氏がいたのに義兄さんのことが好きだったんだ?」

 

「私はね、同時進行派なの。

あ、この階だよ」

 

僕らは腕を組んだまま、エレベーターを降りた。

 

タバコのすえた匂いがしみついているが、想像していたより清潔そうでシンプルな内装だった。

 

「同時進行って、二股とか三股ってこと?」

 

「一般的な目でみたらそうなるけど、私にしてみたら、そうじゃないんだなぁ」

 

「どういう意味?」

 

「私ね、一人だけ、は怖いの。

全身全霊こめて、その人を好きになるでしょ。

もし、フラれるか何かしたら、全部を失くしてしまうでしょ?」

 

「それって...ズルくない?」

 

「やっぱり、そうよねぇ。

これは表向きの理由。

ホントの理由は、他にあるの」

 

全てが物珍しくて、僕はキョロキョロしていた。

 

ベッドヘッドのティッシュケースの隣に置かれたコンドームに、ぎょっとしてしまう。

 

実物を見るのは初めてだった。

 

「ホントの理由って?」

 

Mの方を振り返って、僕はもっとぎょっとしてしまった。

 

ブラジャーだけになったMが、スカートのホックを外していた。

 

手足は華奢なのに、濃いピンク色のブラジャーに包まれた乳房はふっくらと大きい。

 

「私って欲張りだから、いろんな人と繋がりたいの。

彼氏がいたのに、ユノさんが好きなのもそう」

 

Mの足元に、パサリとスカートが落ちる。

 

濃いピンク色の小さなショーツのⅤゾーンに、目が釘付けになる。

 

なだらかな丘に釘付けになった。

 

「ユノさんは結婚しているから、気を遣わないとね。

でも、『妻がいる画家』って、ドキドキする」

 

Mはベッドカバーをはがすと、シーツの間に下着姿を滑り込ませた。

 

「年下の男子と一度ヤッてみたかったんだよね」

 

思いきりのよい行動にあっけにとられていたら、Mは僕の手をひいた。

 

「チャンミンも早く脱いで。

それとも、私が脱がせてあげようか?」

 

シーツから抜け出たMは、僕の背後に回ってのしかかるように僕に腕を回した。

 

Mの胸のふくらみを背中で受けとめて、その柔らかさを感じて腹底がぞわりとした。

 

Mに見つめられる中、僕はパーカーとパンツを脱いだ。

 

義兄さんの前では堂々と全裸をさらせるのに、Mの前だと猛烈に恥ずかしかった、何故か。

 

あばらの浮いた胸や、細すぎる脚...といった自分の身体が不格好に思われて仕方がなかったんだ、何故か。

 

もつれ震える指でMのブラジャーのホックを外し、下着は各々で脱いだ。

 

ここまで来てようやく、僕らは唇を合わせた。

 

誰かとキスをするのも初めてだったし、女の子の裸をナマで見るのも初めてだった。

 

緊張のせいか僕のペニスは萎れたままで、焦ってしごく。

 

「手を離して。

私がやってあげる」

 

横座りしたMは、くたりとした僕のペニスを小さな白い手で握ると、ゆるゆると上下させ始めた。

 

「...っ...」

 

僕のものではない手で...それも女の子の手で...しごかれる様を、僕は黙って見下ろす。

 

「...っ...あ...」

 

覆っていた皮を、Mはじわりと剥いてゆき、亀頭が露わになった。

 

「可愛い...」

 

たまらず、かすれ声を漏らすと、Mは僕を見上げてにっこりと笑った。

 

Mの手の中で徐々に膨らんでいき、亀頭の先端から透明な雫がぷくりと浮いた。

 

その雫をペニス全体に塗り広げて、Mの手の動きが早くなる。

 

もし。

 

柔らかそうなこの手が、義兄さんの手だったら...。

 

大きな義兄さんの手だから、きっと...僕のものはすっぽり収まってしまうだろう。

 

絵の中の女性の肌を、緻密に描く義兄さんの手。

 

きっと、その手を巧みにうごめかせて、僕を絶頂まで導いてくれるだろう。

 

そんな妄想をしたら、Mの手の中でぐっと膨張したのがよく分かった。

 

ぎちぎちに硬く、天を向いたのを確認して、Mは仰向けに横たわった。

 

僕は吸い寄せられるように、Mの上に覆いかぶさる。

 

温かい肌同士がさらさらとこすれ合うのが、気持ちがいい。

 

そっか...だからみんな、裸で抱きあうのか、と。

 

ふうふうと息が荒い。

 

女の子に最も敏感な部分をいじられたことに興奮したのか。

 

それとも、義兄さんから与えられる行為の妄想に興奮したのか。

 

どちらなんだろう。

 

Mは僕の手を取り、自身の両腿の間に触れさせた。

 

「......」

 

温かく、ふっくらと柔らかく、ぬるりとしていた。

 

その指を動かせなかった。

 

愛撫の仕方が分からないせいじゃない。

 

ショックだった。

 

自慰の際に、さんざん思い浮かべて欲情してきたところなのに。

 

僕とMはしばし目を合わせたままだった。

 

そうだ、コンドームを付けないと。

 

指が震えて中身が取り出せずにいると、Mの手が伸びてそれを取り上げた。

 

手際よく僕のペニスに装着してくれた。

 

ありがとう、と言う代わりにMをじっと見たら、彼女は何てことないわよ、って感じに肩をすくめた。

 

Mの身体...女の子の身体に衝撃を受けたにもかかわらず、一度火がついた男の性は止められない。

 

濡れたあそこに埋めたいより、パンパンに張り詰めたものを解放させたい。

 

Mはくすりとほほ笑むと、上になった僕の腰を挟むように、自ら足を広げた。

 

そして、僕のペニスに手を添えて、「ここよ」と言うように挿入する箇所まで導いてくれた。

 

入り口は狭く、そこを通過する際に気持ちが良すぎて、切ないうめきを上げてしまう。

 

瞬間、股底が緊張したのちに弛緩した。

 

「...っあ、ああぁ...っ」

 

 

「...チャンミン?」

 

Mの上に倒れこんでしまった僕の背中を、彼女は優しく撫ぜてくれた。

 

Mの首元で、僕ははあはあ荒い呼吸を整えた。

 

挿入5秒でイッてしまった僕を憐れむことも、からかいもしなかった。

 

「...どう?

復活した?

もう一回やろう」

 

そう言ってMは、僕の胸を押して仰向けに突き倒した。

 

横たわる僕の上に、Mはまたがる。

 

 

 

 

下から腰を打ち付けるごとに、顔をゆがませ、ふにゃふにゃとした甲高い声を上げるM。

 

妙に醒めた気持ちで、僕の動きに合わせて揺れるMを見上げていた。

 

首をのけぞり喘ぐMの姿が、僕自身に見えてきた。

 

僕のものは気持ちがいいし、喘ぐMが僕に見えてくるし、腰を振る僕自身が義兄さんみたいで。

 

こんなに気持ちいいことを、義兄さんは女の人としていたのか。

 

義兄さんに抱かれる女の人が羨ましい。

 

義兄さんの手や口やそれで、気持ちよくしてもらえる女の人が羨ましい。

 

義兄さんを受け入れられる、柔らかい穴を持つ女の人が妬ましい。

 

 

「チャンミンはユノさんとヤること、考えてたりする?」

 

僕らはめいめい、だらしない姿勢で汗だくになっていた。

 

隠しても仕方がない、「うん」と認めた。

 

「チャンミンは男の子だからねぇ。

難しいね」

 

「うん」

 

「私とどれだけヤッたって、ユノさんには近づけないわよ」

 

Mは醒めた目で僕を見る。

 

「......」

 

Mの質問の答えを、僕は持っていなかった。

 

義兄さんしか知らない身体なんて、フェアじゃないと思っていた。

 

まっさらな自分を差し出すのが癪だった。

 

義兄さんを見返したかったし、実際の行為を通して見つけたいものがあったんだ。

 

Mの裸やよがる仕草と声に興奮したことと、女の子の中は確かに、気持ちがいいと知った。

 

ハマってしまうのも、仕方がないな。

 

この日、枯れるまで精を吐き出してみたけれど、それだけなんだ。

 

何かが足りない。

 

根本的に足りていないものとは、明白だ。

 

こういうことをするのなら、僕は義兄さんとしたい。

 

Mには申し訳ないけれど、Mとの行為はスポーツみたいだった。

 

「チャンミンのおちんちんって、可愛い」

 

Mは僕のペニスを指先で持ち上げると、くるくると指でくすぐった。

 

もう僕の中は空っぽだったから、もう反応しない。

 

男の象徴を可愛いと言われたのだから、普通だったら屈辱に感じるだろう。

 

大きく太く長いと言われるのが褒め言葉なのだから。

 

でも、可愛いと言ってもらえて嬉しかったのだ。

 

おかしいだろう?

 

さらに。

 

貫かれるMが羨ましかった。

 

義兄さんに同じことをされたかった。

 

僕も女の子のようになりたい。

 

 

(つづく)

 

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義弟(14-2)Mild Version

 

~チャンミン16歳~

 

 

「行きましょうか?」

 

席を立つMを追った。

 

腰までの長さのコートから、Mの形のよい生足が伸びている。

 

Mを裸にする光景を想像した。

 

上手くできるかは自信がないけど、きっとMがリードしてくれるはずだ。

 

Mはテキパキと手慣れた風に部屋を選ぶと、僕と腕を組んでエレベーターに乗り込んだ。

 

僕の肩あたりにMの頭のてっぺんが来ている。

 

この2、3か月で背が伸びて、あともう少しで義兄さんに追いつきそうで、嬉しかった。

 

「年下で、それも高校生となんて、初めてかも。

あ、チャンミンはまだ中学生か!」

 

「...もう卒業したよ。

ところで、Mちゃんは、初めてはいつだったの?」

 

「うーんと、17歳くらい」

 

エレベーターのパネルの階数ランプをぼーっと眺めていた。

 

「相手は?」

 

「バイト先の先輩...27歳だったけな、フリーター」

 

「ふぅん。

別れたって言ってたけど、Mちゃんは彼氏がいたのに義兄さんのことが好きだったんだ?」

 

「私はね、同時進行派なの。

あ、この階だよ」

 

僕らは腕を組んだまま、エレベーターを降りた。

 

タバコのすえた匂いがしみついているが、想像していたより清潔そうでシンプルな内装だった。

 

「同時進行って、二股とか三股ってこと?」

 

「一般的な目でみたらそうなるけど、私にしてみたら、そうじゃないんだなぁ」

 

「どういう意味?」

 

「私ね、一人だけ、は怖いの。

全身全霊こめて、その人を好きになるでしょ。

もし、フラれるか何かしたら、全部を失くしてしまうでしょ?」

 

「それって...ズルくない?」

 

「やっぱり、そうよねぇ。

これは表向きの理由。

ホントの理由は、他にあるの」

 

全てが物珍しくて、僕はキョロキョロしていた。

 

ベッドヘッドのティッシュケースの隣に置かれたものに、ぎょっとしてしまう。

 

実物を見るのは初めてだった。

 

「ホントの理由って?」

 

Mの方を振り返って、僕はもっとぎょっとしてしまった。

 

ブラジャーだけになったMが、スカートのホックを外していた。

 

「私って欲張りだから、いろんな人と繋がりたいの。

彼氏がいたのに、ユノさんが好きなのもそう」

 

Mの足元に、パサリとスカートが落ちる。

 

「ユノさんは結婚しているから、慎重にいかないと。

でも、『妻がいる画家』って、ドキドキする」

 

Mはベッドカバーをはがすと、シーツの間に下着姿を滑り込ませた。

 

「年下の男子と一度ヤッてみたかったんだよね」

 

思いきりのよい行動にあっけにとられていたら、Mは僕の手をひいた。

 

「チャンミンも早く脱いで。

それとも、私が脱がせてあげようか?」

 

シーツから抜け出たMは、僕の背後に回ってのしかかるように僕に腕を回した。

 

Mの胸のふくらみを背中で受けとめて、その柔らかさを感じて腹底がぞわりとした。

 

Mに見つめられる中、僕はパーカーとパンツを脱いだ。

 

義兄さんの前では堂々と全裸をさらせるのに、Mの前だと猛烈に恥ずかしかった、何故か。

 

あばらの浮いた胸や、細すぎる脚...といった自分の身体が不格好に思われて仕方がなかったんだ、何故か。

 

もつれ震える指でMのブラジャーのホックを外し、下着は各々で脱いだ。

 

ここまで来てようやく、僕らは唇を合わせた。

 

温かい肌同士がさらさらとこすれ合うのが、気持ちがいい。

 

そっか...だからみんな、裸で抱きあうのか、と。

 

 

1回目は挿入した直後に達してしまい、2回目はがむしゃらに動き過ぎた。

 

僕が腰を打ち付けるごとに、顔をゆがませ、ふにゃふにゃとした甲高い声を上げるM。

 

身をよじるMの姿が、僕自身に見えてきた。

 

僕のものは気持ちがいいし、喘ぐMが僕に見えてくるし、腰を振る僕自身が義兄さんみたいで。

 

こんなに気持ちいいことを、義兄さんは女の人としていたのか。

 

義兄さんに抱かれる女の人が羨ましい。

 

義兄さんの手や口やそれで、気持ちよくしてもらえる女の人が羨ましい。

 

「チャンミンはユノさんとヤること、考えてたりする?」

 

隠しても仕方がない、「うん」と認めた。

 

「チャンミンは男の子だからねぇ。

難しいね」

 

「うん」

 

「私とどれだけヤッたって、義兄さんには近づけないわよ」

 

 

Mの質問の答えを、僕は持っていなかった。

 

義兄さんしか知らない身体なんて、フェアじゃないと思っていた。

 

まっさらな自分を差し出すのが癪だった。

 

義兄さんを見返したかったし、実際の行為を通して見つけたいものがあったんだ。

 

Mの裸やよがる仕草と声に興奮したことと、女の子の中は確かに、気持ちがいいと知った。

 

ハマってしまうのも、仕方がないな。

 

この日、枯れるまで精を吐き出してみたけれど、それだけなんだ。

 

何かが足りない。

 

根本的に足りていないものとは、明白だ。

 

こういうことをするのなら、僕は義兄さんとしたい。

 

Mには申し訳ないけれど、Mとの行為はスポーツみたいだった。

 

でも。

 

貫かれるMが羨ましかった。

 

義兄さんに同じことをされたかった。

 

僕も女の子のようになりたい。

 

 

(つづく)

 

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義弟(14-1)

 

~チャンミン16歳~

 

Mの話が頭に入ってこない。

 

僕の頭も背中も、じんじんと熱い。

 

義兄さんの視線で焼かれているみたいに。

 

母親には友人の家に泊まりに行く、と告げていた。

 

自宅へ招かれるほど親しい友人がいることに、母親は驚いていた。

 

休日は大抵、自室にこもっていたし、部活にも入らず真っ直ぐ帰宅していた僕だから、驚いて当然だ。

 

僕に呼び出されてMも驚いていたが、僕のお願い事を聞くと「わかった」と即答してくれ、こうして僕と顔を突き合わせている。

 

 

「ユノさんのカフェに行ってみましょうよ」

 

Mの誘いに、空腹だった僕は頷いた。

 

義兄さんがデザインを手がけたというそのカフェは、入店すぐに飛び込んでくる壁面イラストに目を奪われる。

 

写実的な絵を描く義兄さんが、ポップなイラストチックなものも描けるなんて知らなかったから、素直に感動した。

 

客層は落ち着いた雰囲気で、2人組か1人、めいめいに読書をしたり、控えめの声量で会話を交わしていたり...大人だけの空間だ、と思った。

 

だから、高校生未満の僕やピンク色の髪をしたMが、場違いに浮いているみたいで、恥ずかしかった。

 

あれ?

 

店員に案内された席に向かう途中、僕の目はある一点にひきつけられた。

 

店内一番奥の窓際の席。

 

義兄さん...。

 

黒のタートルネックセーターが、義兄さんの白い肌を引きたてていた。

 

義兄さんの頭は窓の外を向いていて、僕とMに気付いていない風だ。

 

でも、今夜の僕は義兄さんと対面する勇気がなかったから、気付かないふりをすることにする。

 

昼間、僕は大胆なことをしでかしてしまったのだ。

 

義兄さんを誘った。

 

僕を見る義兄さんの目が、焦がれるようなものであるのは気づきかけていた。

 

だから、義兄さんの中のスイッチを入れてやろうと思った。

 

僕を見て、僕を欲しがって!と。

 

僕は裸だし、持てる限りの色っぽさを目いっぱい発揮してみた。

 

映画やアダルトな動画の中で、女の人が男を誘う時の表情を思い浮かべながら。

 

勇気がいった。

 

心臓がバクバク音をたてていた。

 

誘うと言っても、どうしたいという具体的なものがあったわけじゃない。

 

セックスを匂わせるようなことを言っただけ。

 

義兄さんを揺さぶれるには、そう言うしかなかったんだ。

 

僕は男だけど、それらしくしなをつくれば、もしかしたら...って。

 

パーカーの下の右胸が、火照ったようにじんじんした。

 

義兄さんに一瞬でも愛撫された肌。

 

義兄さんのごつごつしているのに、手先を使う仕事をしているからしなやかで繊細そうな指が、僕の肌の上を滑った。

 

とても、とても素敵だった。

 

 

義兄さんを誘うようなことをしたくせに、その後の展開を知らない僕だった。

 

世間一般的に言って、16歳で童貞なのが普通なのか遅いのか分からない。

 

級友の中には、「相手は2こ年上の、高校生。あれはすごいよ」と、未経験の奴らに自慢をしていた。

 

我先にと、「俺も」「俺も」と経験談を始める奴もいて、「どこまで本当のことやら...嘘ばっかりのくせに」と、馬鹿馬鹿しいと思っていた。

 

僕こそ、そのクチだったから。

 

33歳の義兄さんと対等に張り合うには、ヒヨコのままでいるわけにはいかないんだ。

 

未経験は即バレてしまうし、もの凄くカッコ悪いことだ。

 

義兄さんは、姉さんとヤッているんでしょう?

 

僕も、Mとデキてるんだよ。

 

そう思わせたくてMに接近した。

 

鋭いMのことだから、僕の魂胆なんて見抜いていただろうけど、それを指摘しない賢明さが彼女にはあった。

 

Mを奥の席につかせ、僕は手前に座る。

 

「チャンミン。

ユノさん、じゃない?」

 

案の定、Mは義兄さんを見つけて、彼に手を振ろうとしたから、その手をつかんでとどまらせる。

 

「しっ!

知らんぷりしてて」

 

「どうして?」

 

「いいから!」

 

「ふうん...チャンミンの恋心は複雑ねぇ」

 

「うるさいなぁ。

そういうMちゃんこそ、どうなの?」

 

「彼氏と別れた」

 

「...そっか」

 

「だから、私の方はオッケーよ。

今夜でいいの?」

 

「うん」

 

「チャンミンったら、余程お腹が空いていたのねぇ」

 

サンドイッチと添えられたポテトチップスを平らげ、アイスコーヒーを飲み干す僕を、頬杖をついたMは呆れたように言う。

 

「夕飯を食べ損ねてたから」

 

昼間の出来事が刺激的過ぎて、食欲がなかったんだ。

 

それに、数メートルの距離があっても、僕の後ろに義兄さんがいる。

 

遅れてきた義兄さんの連れの声が大きくて、断片的に聞こえてくる内容からすると、仕事の打ち合わせか何かだろう。

 

夜遅くに、アトリエを離れても義兄さんには仕事があって、大人でカッコいいと思った。

 

両親からの小遣いと、義兄さんから貰うモデル料で、価格設定の高いこのカフェに来ている僕はダサいと思った。

 

悔しくて義兄さんに見せつけるように、必要以上に身を乗り出してMに接近した。

 

そんな僕の狙いも、やっぱりMにはお見通しだろうけど。

 

僕ら2人は、義兄さんに片想いをしている同志なのだ。

 

 

(つづく)

 

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