~ユノ~
ピピピと目覚ましアラームの音。
え~っと、今日は...休みだ...まだ寝ていられる。
手探りで枕元に置いてるはずのスマホを探る。
俺の手は一向にスマホを見つけられない。
スマホはどこだ?
背中が痛い...ん?...手の平の感触からして、俺は床に寝ている!?
すぅっとまぶたをゆっくりと開けると、真上に四角形の照明...やはりベッドの上じゃない。
「...んっ...」
それにしても、今朝の朝勃ちはリアルというか、触感を伴うというか...。
手を下半身に下ろしていくと...。
「!!!」
俺の手に何かが触れたことに驚愕し、ガバっと飛び起きた。
そこに尻もちをついた一人の男がいた。
真ん丸な目、ホワイトアッシュ・ヘア、第4ボタンまで開けた胸元、ぴったぴたの革パンツ。
「...あんた...!」
思い出した。
昨夜、美形のピタパン・ボーイを連れ帰ったんだった。
「...おはよう」
その男...チャンミンは身体を起こすと、完璧な歯並びでにっこり笑った。
「おはよう...」
待て。
うっかり、爽やかでかつ、甘やかな笑顔に騙されるところだった。
俺とチャンミンの手がぶつかったことを思い出したのだ。
俺はとっさに、自身の股間を両手で覆った。
チャンミンは俺の大事なトコロを触ってたんだ、きっと!
(真っ先にそう決めつけてしまう俺は、つくづく偏見の塊だ)
俺のアソコに興味津々なんだ!
俺のアソコが狙われてる!
「ボタン...乳が見えてるぞ」
「え?
...あ、ホントだ」
俺の指摘に初めて気づいた風に、チャンミンは第一ボタンまできっちりと留めた。
わざとらしい...。
いかにも、わざとらしい。
チャンミンは裸の胸を俺に見せつけてるんだ、そうに決まってる!
俺に見せつけてどうしたいんだ?
俺にドキッとしてもらいたいのか?
あいにく俺は男の胸を見たって、どうってことないのだ。
ムラっとするのは女の子の胸を見た時だ。
ムラっときても俺はグッと堪える。
身体を触るくらいはするけど、そこまでだ。
大事なトコロ同士を繋げ合うのは、『この子なら』と身を預けられると確信した時だ。
俺は立ち上がり、テント状態になったソコのポジションを斜め右に直した。
騒がしい店でほろ酔い、失恋気分で見た時は、単なる派手できざったらしい奴だと思っていた。
俺の部屋というプライベートな空間...2Kの平均的な20代独身男性の部屋に、なんと浮いていることか!
新進気鋭デザイナ―のファンションショー、ランウェイを歩くモデルを拉致してきたみたいな。
あらためて見ると、チャンミンという男...いい男だ。
ムード重視の店内照明では分からなかったけれど、チャンミンの着ている白シャツは透け感のある素材だった。
タイツレベルに細身の革パンツもラメが散っていて、こんな格好で昼間の住宅街を歩かせたら、浮きまくってしまうだろう(犬の散歩中のご老人やジョギング中の女子、ベビーカーを押したママが思わず避けてしまうような...)
漂白された銀髪も、よく見るとアッシュブルーとブラウンのメッシュがはいっていて、髪に奥行きを出している。
知らず知らずのうちに、チャンミンの全身を舐めるように見ていたらしい。
「ねぇ、ゆの」
「!!」
チャンミンに膝をつつかれて、俺は身体をびくつかせてしまう。
「怖い顔してるよ?
寝不足なんでしょ?
ごめんね?」
「いや...俺は...その...別に...。
当たり前のことをしただけで...」
しどろもどろになってしまった俺はつまり、チャンミンに圧倒されていたのだ。
「寝起きでぼーっとしていただけだ」
動揺を隠すため湯沸かしポットのスイッチを押し、シンクに溜まった食器を洗いだした。
「朝めし食べる?
シリアルしかないけど?」
振り向いてチャンミンに声をかけた。
チャンミンはフローリングの床に胡坐をかいて、キッチンに立つ俺を観察していたらしい。
どうりで背中に視線を感じたハズだ。
「うん。
ありがと。
二日酔いみたいだから...いいや」
「そうだよな。
あんた、だいぶ飲んでたから。
もし俺があの量を飲んでたら、病院送りだったよ」
「お恥ずかしい姿をお見せしました。
ごめんね」
なんだよ、その上目遣いは。
「ゆの」だとか「ごめんね」とか、甘ちゃんな話し言葉は素なんだろうか?
「それから...」
「!!!」
俺のすぐ真後ろで声がして、食器を濯ぐ手がぴたっと止まる。
近い近い近い近い近い...!
首の後ろに吐息を感じるくらいの近さだ。
怖くて振り向けない。
そうか、分かったぞ!
チャンミンという男、俺との間合いの取り方が近過ぎるんだ。
両手で包みこむように握られた手とか、酔っ払って俺の胸にしなだれかかったり。
何て言うのかな、抵抗なく身を預けるというか、差し出すというか...そんな感じ。
その手の男ってそういうものなんだろうか?
(だ~か~ら、俺は偏見だらけなんだって!)
「僕を連れて来てくれて...ありがと」
俺のTシャツの裾をつんつん、って...何だよ、その可愛い仕草は!
「別に...放っておけなかったから...」
チャンミンに見られているだろううなじや肩が、むずむずした。
(つづく)
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