(12)ぴっかぴか

 

 

~チャンミン~

 

 

僕はテーブルに頬杖をついて、コーンフレークを咀嚼するザクザク小気味いい音を聞いていた。

 

胃がムカムカする僕は、グレープフルーツジュースがやっとだ。

 

僕に凝視されて、ユノは居心地が悪いようだった。

 

「食べにくいなぁ。

なんだよ、言いたい事でもあるのか?」

 

ユノはボウルに直接口を付けて、残ったミルクをずずずっと飲み干すと、汚れた食器を手に席を立った。

 

「うん。

ユノってカッコいいね」

 

食器をキッチンに運ぶユノの足が止まった。

 

そして、振り向いて言う。

 

「俺を褒めても何も出ないぞ?」

 

お!

 

この発言は、僕のことを意識している証拠だね。

 

昨夜、「僕は男の人が好き」とバラしてしまう作戦は成功かな?

 

僕の性の対象になっているのでは?と、警戒し出したね。

 

俄然ヤル気が湧いてきた。

 

「ジュースのお代わりはいるか?」

 

「もういいや。

ありがと」

 

がちゃがちゃと、食器がぶつかる音を派手にたてながら洗い物をするユノは、台所仕事が下手なのかな?

 

「ねぇ、ユノ」

 

「何?」

 

「シャワーを借りてもいい?」

 

「いいけど...。

着替えは?

汚れたやつをもう一回着るのか?」

 

ユノは僕の頭から足先まで見た。

 

「...そういうことになるね」

 

ちょっと困った風に答えたら、僕の期待通りに、

 

「俺のでよければ貸してやろうか?

ただし、パンツは駄目だ」

 

と言って、ユノはクローゼットの扉を開けている。

 

その中はぐちゃぐちゃに乱れていて、ユノという男は整理整頓が苦手なんだ、と新しい発見。

 

「昨夜、会ったばかりの素性の分からない、キモイ男に貸せないもんね」

 

「...その通りだ」

 

あっさり認めたユノを、見直してしまった。

 

そう言い切って、ユノは僕に背を向けてしまった。

 

正直でお人好しで素直なユノを、僕の毒牙の餌食にしてしまうのは、悪いなぁといった気持ちになった。

 

実をいうと、僕の股間の奥がウズウズしてきたのだ。

 

2週間の禁欲期間が身に堪えてきたようだ。

 

身体が寂しい寂しい、と僕に訴えかけている。

 

今夜あたり...あ、今日は遅番だった...仕事の後、半年前に寝た男を呼び出そう。

 

僕は抱かれたくて仕方がないのだ。

 

ユノを落とすには、長期戦になりそうだ。

 

「くんくん」

 

ユノの男くさい香り...。

 

「チャンミン」

 

ユノから借りたTシャツに顔を埋めて、匂いを嗅いでいた僕はハッとして、僕を呼ぶ声がする方へ向かった。

 

「バスタオルはこれ。

湯船につかるタイプ?

シャワーだけ?

シャワーの温度設定は分かるよな?

シャンプーは自由に...」

 

てきぱきと説明をしていたユノはそこで言葉を切ると、僕の髪をじろじろ見た。

 

「?」

 

「あんた、シャンプーとかにこだわってるだろ?」

 

「え...うん」

 

染めた髪色が褪せないよう、サロンで購入した専用のものを使っているのだ、僕は。

 

「俺の奴で我慢しろ。

ドラッグストアで買ったやっすいやつだけど」

 

「ううん。

十分だよ。

...あ、待って」

 

洗面所のドアを閉めかけたユノを止めたのは、気になっていたことがあるからだ。

 

「何?」

 

「まだ何か?」と、もの凄く面倒くさそうに、ユノは僕の方を振り返った。

 

「ユノって、綺麗な髪をしてるよね。

生え際もしっかり金髪でしょ。

2週間おきとかに通ってるの?」

 

ユノの頭を指さして質問すると、

 

「ああ、これね」

 

ユノは寝ぐせであちこちはねた、自身の髪をかきあげた。

 

うわぁ、かっこいいなぁと素直に思った。

 

 

 

 

「これ地毛なんだ」

 

「えええーーー!?」

 

「大抵の人はびっくりするよね」

 

ユノは髪をくるくると指先に巻き付けながら、肩をすくめてみせた。

 

「嘘っ!?」

 

僕はユノに近寄り、彼の髪をかきあげては地肌を確かめた。

 

確かに、つい昨日ブリーチしたばかりのように髪の根元からしっかり金髪だ。

 

僕の食い気味の接近にもかかわらず、ユノは嫌な顔一つせず、じっと大人しくしていた。

 

僕の方と言えば、びっくりしてしまって、下心はゼロだった。

 

こういう企みのない行動だと、ユノは僕を避けたりしないのだ。

 

ふむ...なかなか繊細なセンサーを持った男だ。

 

「学生時代は大変だったよ。

黒に染めたりしてさ。

明るい色にしたい人とは真逆のことをしていたわけさ」

 

「ねぇ。

下の毛はどうなってるの?」

 

純粋な好奇心だった。

 

「は、恥ずかしいこと言うなよな~」

 

ユノの顔は真っ赤に染まっている。

 

「見せてよ」

 

「駄目に決まってるだろうが!?」

 

「僕のも見せてあげるから」

 

「そういう問題じゃない!」

 

股間を隠すユノの手首をぐいぐい引っ張った。

 

「ちらっとだけ。

興味があるんだ」

 

ついでにユノのアソコも見てやろうなんて...70%くらいかな。

 

残りの30%はアソコを保護するヘアを見てみたかった好奇心。

 

「やめろ!」

「わっ!?」

 

力いっぱい突き飛ばされて、僕は後ろに転がり、ついでに後頭部を洗濯機にぶつけてしまう。

 

「悪い!」

 

差し出されたユノの手に引っ張られて、僕は立ち上がった。

 

「大丈夫か?

痛かっただろう?」

 

おろおろと心配するユノは、善良過ぎる。

 

「アソコは頭より濃いよ。

ほら、西欧人もそうだろ?」

 

「そっか!」

 

過去に関係を持った男を思い出して、僕は頷いた。

 

「とにかく!」

 

ユノはバスルームへと僕の背中をぐいぐい押したのち、ぴしゃりとドアを閉めてしまった。

 

「早く風呂に入れ。

あんた、仕事があるんだろ?」

 

「お昼からだから、時間は余裕あるよ」

 

バスルームの曇りガラスに、ユノのシルエットが浮かんでいる。

 

スタイルいいなぁ、と見惚れてしまったのだった。

 

 

(つづく)

 

 

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