(15)ぴっかぴか

 

~チャンミン~

 

僕の過去をありのままに教えてしまって、失敗したかな?と思った。

 

だって、浴室ドアの向こうのユノのシルエットが身じろぎひとつしていない。

 

びっくりしただろうなぁ。

 

20人の数字には、真の意味で恋人同士になった男の数は数人しか含まれない(と言いつつも、それぞれ長くて半年の関係だったかなぁ)

 

高校生時代からカウントすると、実際に肉体関係を持ったのはもっといる。

 

さすがにその数はカウントしていないし、教えてあげたらユノはいよいよ僕から距離を置きたくなってしまうだろう。

 

ここで僕は思考を止める。

 

ユノにこれまで関係した男の数を、なぜ正直に教えてしまったんだろう。

 

分かった!

 

ユノは僕のことを気持ち悪いと正直に伝えるし、ドン引きしてるくせに親切にしてくれる。

 

僕の素行の悪さは別にして、僕自身に興味があるんだ、きっと。

 

もちろん、僕の方だって同じ。

 

超絶イケメン25歳チェリーという絶滅危惧種ってとこを抜きにしても、ユノは魅力的な男だ。

 

会話していて楽、というか...いちいちびっくり反応を見せてくれて、一緒にいて楽しい。

 

「...チャンミンって...。

見た目に反して...いや。

見た目通りか...。

遊び人なんだな?」

 

「そう?」

 

「今のうちに言っておくぞ!

俺はあんたの遊びのお相手になる気は、絶対にないからな!」

 

ドキッとしたけど、

 

「ユノ相手にそんなことするわけないよ。

ユノは...昨日会ったばかりだけど...。

面白い奴だし...」

 

と答えた。

 

「ふうん」

 

「僕ね。

ユノとお友達になりたいなぁ、って」

 

あれ?

 

あれれ?

 

今の僕の台詞...かなりガチだったぞ。

 

食虫植物みたいに、甘い汁で誘って、ふらふらっと飛んできたハエを壺に沈め、死の液体でじわじわ溶かしていく...。

 

違う違う!

 

ユノはハエなんかじゃない!

 

今回の例えはキレが悪いなぁ(二日酔いのせいだ)

 

「僕とお友達になってよ?」

 

「......」

 

「イヤ?」

 

「...いいよ。

あんたと友だちになってやる」

 

「うふふ。

嬉しい」

 

「だがな!」

 

ユノはドアの隙間から顔を出した。

 

「俺を押し倒したりするなよ!

俺はあんたと『そういう関係』になるつもりは、全くないからな!」

 

僕が男が好きな質だからって、ユノの偏見と思い込みは凄い。

 

男と見れば、即ベッドインしたくなるものだとみなしている。

 

あ...。

 

ユノの偏見がなくても、僕の派手な男関係を暴露してしまったことで、僕への評価が悪くなってしまったんだ!

 

それなのに、『お友達になって』のお願いに頷いたじゃないか!

 

案外ユノは、偏見と思い込みを抱きながらも、それに左右されることなく、人間性とか相性みたいなものを重視する男なんだ。

 

いい奴過ぎて涙が出てしまうよ。

 

そんなユノに見込まれた僕も捨てたものじゃないな。

 

僕は容姿とベッドテクニックに関しては自信はあるけれど、ホントは気が小さいし、自己嫌悪でいっぱいなんだ。

 

数多くの男たちと肌を重ね、快感の呻きを聞き、彼らのものを食らえ込んでいると、身体が満たされる。

 

「何度も念を押さなくても大丈夫だよ。

その辺は安心して」

 

「パンツも用意したから。

新品だから安心しろ」

 

と、ユノは言った。

 

 


 

 

~ユノ~

 

 

チャンミンの『お友達になって』に頷いてしまった。

 

俺は洗濯機にチャンミンの洋服と下着を放り込んだ。

 

そもそも『お友達になって』だなんて、新学期の小学生かよ。

 

(チャンミンのアソコはぴっかぴかの一年生だけども)

 

つくづく不思議な男だ。

 

あの男は、『遊び人』だった。

 

その言葉を聞いても、さほど驚かなかった。

 

あの人懐っこさは、『遊び人』だからと思えば、納得だったから。

 

ところで...。

 

どうしてまた、俺と『お友達』になりたいんだろう?

 

下心はないと言っていた。

 

(俺にタマだのケツだの見せたのは、単なる無邪気さ?)

 

気づけば俺は、失恋の痛みそっちのけで、チャンミンとの今後の付き合い方に考えを巡らしていた。

 

別れを告げられた時の、ズドンと胸を銃で撃ち抜かれたような衝撃や、心拍数が上がって、背中にいやな汗をかいた感覚。

 

今思い出しても、不快で苦しい瞬間だった。

 

ところが、突如現れたつるっつる男子に驚かされっぱなしで、彼女と積み上げていった出来事のあれこれを、思い出す間がなかった。

 

チャンミンも失恋したばかりだと言っていた。

 

失恋の痛みに直面しないように敢えて明るく、無邪気に装っているんだな。

 

俺たちは失恋組。

 

心に傷を負ったばかりの俺たちが意気投合したのも、自然の流れだったんだ。

 

洗濯槽に洗剤を目分量で投入する。

 

シャワーの音が止み、チャンミンが浴室から出てくる気配を感じ、俺は慌てて脱衣所を出た。

 

 

(つづく)

 

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