(19)ぴっかぴか

 

 

~チャンミン~

 

 

「なぜ」

「ユノが」

「ここに」

「いるんだ!」

 

 

 

入浴の介助を終え、大量のバスタオルを洗濯乾燥機に投入していた。

 

おむつが紛れ込んでいないか1枚1枚確認しないと、大惨事が起きてしまう。

 

首からぶら下げた携帯電話が鳴った。

 

Dさんの旦那が「カミさんが痩せてきている。あんたんとこはメシを食わせてるのか?」とか、難癖をつけに来たのかなと、暗い気持ちになって電話に出た。

 

(ホーム入所者よりも、その家族に悩まされることの方が多いのだ)

 

「今すぐ行きます!」

 

忘れてた!

 

今日は1名入所者がいて、僕が担当することに決まっていたんだった!

 

残りの作業をC先輩に押し付けると、僕は浴室を出た。

 

 

窓から降り注ぐ日光が逆光になっていて、すぐに彼がユノだとは分からなかった。

 

長身瘦躯の若者で「お!」と、いい男識別センサーの目盛りが振れた。

 

センサーの目盛りが振りきってしまって当然、そいつはユノだったんだから。

 

ユノはとんでもなくいい男で、ただいま僕が照準を当てている獲物なのだ。

 

こう書くとまるで僕が、ゲームの一環でユノを落とそうとしているように見えるだろう。

 

慈悲の念が湧いてしまった初めての獲物であり、友人でもあって、複雑にしてしまったのは僕だ。

 

思いがけない時と場所でユノと再会し、あらためて「う...やっぱり、カッコいいな」と見惚れた。

 

その次に僕を襲ったのは、「しまったーー!」だ。

 

軟派を装っていた僕が、実はまっとうで健全な職業に就いていたことがバレてしまった。

 

羞恥でいっぱいで、僕はポロシャツの衿を直し、腰にぶら下げた消毒液を手に塗り込み...もじもじしていた。

 

「お知り合い?」とホーム長に尋ねられ、僕が答えるより先にユノが、

 

「はあ...」と答えていた。

 

ユノもびっくり仰天だろう。

 

機械的に会釈する僕から目を反らさなかった。

 

 

「夕飯は17時です。

不明な点があれば、遠慮なく声をかけてください」

 

ホーム長に次いで立ち去ろうとした時、背後から伸びた手に捉えられ、その力強さにひっくりかえりそうになった。

 

ユノだった。

 

「あんた...ちょっとこっちに来い!」

 

そう耳元に囁くと、僕の返答も聞かずユノはぐいぐい引っ張っていく。

 

ユノママは目を丸くして、介護士を引きずっていく息子を見送った。

 

 

「あんた。

なんでここにいるんだ!」

 

廊下に出るなり、押し殺した声で怒鳴られた。

 

「そのまんまだよ。

ここで働いてるんだよ!」

 

「午後からの仕事って...これか?」

 

「ふん。

似合わないって言いたいんでしょ?」

 

「ああ。

思いっきり似合ない」

 

相変わらずズバリ言う男だ。

 

ユノは僕の頭のてっぺんから足の先までを何往復も見た。

 

「そんな頭でいいのか?」

 

ユノは僕の髪色のことを指摘しているのだ...ふむ、当然の質問だ。

 

「仕事さえしっかりしていれば、見た目は関係ないんだ。

僕は大きいから役にたっている」

 

「そうだろうな」

 

ユノが感心した目で...キラッキラに輝いた目で僕を見るんだもの。

 

照れた僕は前髪を指にくるくる巻きつけた。

 

「評判いいんだよ。

『銀色の兄ちゃん』って呼んでもらってさ。

すぐに覚えてもらえるし」

 

「そうだろうな」

 

その場にしゃがみ込んだユノは、僕を見上げて笑った。

 

「意外だよ。

あんたがねぇ...まさかねぇ...」

 

「ふんだ」

 

僕もユノに並んでしゃがんだ。

 

ふわふわ金髪が可愛かった。

 

見惚れる目になっていたのをユノに気付かれ、「おい!」と胸をどつかれた。

 

「お、行かなきゃ」

 

ユノママがユノを呼んでいた。

 

僕の方も、看護師のFさんに呼ばれていた。

 

「ユノ!

いつ会おうっか?」

 

するりと出てきた言葉だった。

 

僕の方から誰かを誘うなんて、あり得ないことなのだ。

 

ユノはいつもの僕を知らないから、「あんたがそんなこと言うなんて、どうしちゃったんだよ」とからかったり、目を丸くすることもない。

 

「会う?

俺と?」

 

意味が分からない風にきょとんとした顔してても、それはフリだってバレてるよ。

 

「そうそう」

 

「今夜は、あんたは仕事だろ?

明日は俺も閉店までいるし...」

 

「それじゃあ、明後日は?

僕、休みなんだ」

 

「そうしよう」

 

ユノは「じゃあな」と手を挙げると、廊下の向こうで彼を待つユノママの元へと行ってしまった。

 

後ろ姿も素晴らしい。

 

ユノを誘っておいて、僕の股間のウズウズは止められない。

 

僕とはつくづく、下半身中心で世界が回っている浅ましい男だな。

 

そんな自分に反吐が出るほど、軽蔑に値する。

 

でも、止められない。

 

いつかは止めないといけないのだけど...。

 

ユノをものにしたかったり、ユノを僕の遊びの対象にするわけにはいけないと思い直したり、相反する感情で僕は1日足らずでへとへとだ。

 

でも、ユノに近づきたい欲求は止められないのだ。

 

 

ユノたちが帰って行ったあと、ホーム長は意味ありげに笑うだけじゃなく、「入所者のご家族とトラブルを起こさないように」とくぎを刺した。

 

職場では、僕は男が好きな男なんだと隠していないのだ。

 

私生活では派手な男遊びを繰り広げていることを、ホーム長にだけにはバレているのだけど。

 

 

(つづく)

 

 

BL小説TOP「僕らのHeaven's Day」