~ユノ~
さて...これをどうすればいいのか。
俺は床に広げたシャツを前に、腕を組んで思案していた。
帰宅した俺は、寝不足と目まぐるしい感情に揉まれてくたくただった。
仮眠のつもりがぐっすり熟睡してしまい、目覚めたら夜になっていた。
ベランダに干しっぱなしの洗濯物を思い出し、取り込んだのはいいのだけど...。
チャンミンのシャツが、くっしゃくしゃに皺だらけの無残な姿になり果てていた。
こいつを、元の姿に復元するにはどうすればいいんだろ?
『シルク,洗濯,しわ,直す,方法』のキーワードで検索をかけてみた。
「う~む...。
アイロン...持ってないし」
ひと回りほどサイズが縮んでいるようにも見える。
(あの男はピタピタがお好みだから、ちょうどよかったりして...あは)
謝ればいいか。
「わっ!?」
突然鳴り出した、スマホを取り落としそうになった。
発信者は...チャンミン!?
チャンミンが俺に電話をかけてきたのだ。
「今何してる?遅い時間だけど、飲みに行く?」とか?
嬉しがってる自分がいた。
はずんだ声で出るのはなんだか悔しい。
第一声は、迷惑そうに「なんか用か?」
...よし、これだ!
「俺になんか用か?」
『......』
「もしもーし!」
『お宅が『ユノ』さんか?』
「そうだけど...あんた誰?」
チャンミンの声じゃなかったことから、飲みの席でふざけた友人がかけたものなんだろうと思った。
それとも、酔いつぶれたチャンミンを迎えに来い、といった電話なんだろうか。
(ったく、面倒をかける奴だな。
早速これか?
昨日知り合ったばかりなんだぞ?)
床に放り投げたバッグをたぐり寄せ、俺は立ち上がっていた。
『ユノさんが、チャンミンの『今彼』なわけね』
「か、彼氏じゃねぇし!」
電話をかけて寄こした奴の言い方が、小馬鹿にしたもので気に入らなかった。
「で、俺に何の用?」
俺は不機嫌さを隠さなかった。
チャンミンとの仲は色恋がからんだものじゃない。
少しだけど...俺はチャンミンと同類の男じゃない、と主張したかったんだと思う。
チャンミンがどういうつもりなのかは脇に置いておいて、俺の方はチャンミンとどうこうなるつもりはないし...男と恋愛なんて...無理だ!
俺はやっぱり偏見の塊だな...いくらチャンミンが面白い奴だからといって、一晩でその偏見が消え去るのは早すぎだろう?
と、憤慨していると、電話の奴は信じられないことを言いだした。
『明日か明後日には捨てられるだろうね。
お気の毒さま』
捨てる?
「はぁ?
意味が分からん」
そいつの言っていることが意味不明で、首をかしげていると...。
『遊び人のチャンミンが、大変なことになってるんだ?』
「ええぇぇ!」
『俺たち、もう帰りたいんだよね。
この辺に捨てていってもいいけどなぁ』
「はあぁぁ!?
どこだ?
連れて帰るから、場所を教えろ」
部屋の照明を消し、俺は靴を履いた。
(何やってんだよ!)
『ユノ!
来なくていいから!』
背後からチャンミンが叫んでいる。
『来るな!...』
『うるせ~よ』
おいおいおい!
「お前には一度、痛い目に遭ってもらわないと」だの「僕を放っておけよ!ユノは関係ないだろ」だの、揉めているやりとりが聞こえてくる。
どうやらチャンミンは、トラブルの真っただ中にいるようだ!
どこぞの男に絡まれているようだ。
だから言わんこっちゃない。
「どこだ!
場所を教えろ!」
俺は家を飛び出した。
ったく、面倒をかける奴だ!
(つづく)
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