(50)ぴっかぴか

 

「ヤキモチ妬いた?」の問いに、「そりゃもちろん」とためらいなく認めるところがユノらしい、というか...。

 

「ヤキモチもあるけど、俺には心配なことがあるんだ」

一転ユノの表情が曇った。

 

「心配?

僕がまた、ナンパを始めるってこと?」

 

今のユノが抱えているだろう不安要素とは、僕の尻軽さだと思う。

 

僕は性的に気持ちよくなることや、男たちに組み敷かれることが大好きなエロ男だ。

 

ここで誤解して欲しくないのだけど、H相手がユノオンリーになってしまうのが嫌だったから、ユノとの交際に躊躇してしまったわけではない点だ。

 

ユノはこれまでの男たちと同じような扱いをしたらいけないタイプの男だ。

 

脱チェリーだの「運命だ」だのユノの勢いに流されるかたちで、付き合うことになってしまったけれど、決して物理的な力でねじ伏せられてはいない(誘ったのは僕だけど)

 

ユノは僕の質問に、「いいや」と否定した。

 

「違うの?」

 

「俺が心配なのは、昔の男がゴロゴロ出てきて、恨みつらみであんたが絡まれたりするんじゃないかってこと」

 

ユノの中で、あのタクシードライバーの一件が色濃く印象に残っているようだ。

 

「そいつらにいつか刺されるんじゃないか、ってさ。

でも、安心しろ。

そんときは俺が守ってあげるからな」

 

「守る?」

 

「ああ」

 

「ユノが?」

 

「ああ。

俺よりあんたの方が非力に見える」

 

ユノはつんつんと僕を指さして言った。

 

「い、いや...そんなこと求めていないよ」

 

またまたユノの大袈裟発言が始まったよ、と思った。

 

さっき見た映画の影響も受けているようだ(いわゆる、ヒーローもの)

 

「もし、何かがあったとしても昔のことは僕の問題だよ。

ユノを巻き込むわけには...」

 

「いいや!」

ユノは身を乗り出し、テーブル越しに僕の両肩をつかんで、グラグラ揺すった。

 

「因縁を付けられた時。

話し合いで解決できそうになかったら、あんたのことだから、『一回抱かせてやれば気が済むだろう』って、パンツを脱ぎそうなんだって!」

 

(どき)

 

「あんたの性生活って爛れていたんだろ?」

 

「相変わらず酷い言い方をするんだね」

 

「すまん」

 

「事実だけど」

 

「あんたは簡単に身体を差し出しそうだ。

そこんとこが心配なんだよ」

 

「......」

 

猪突猛進、純粋培養な単純天然野郎は、鋭い勘の持ち主だったりする。

 

「昔の奴らに絡まれたら俺を呼べ、ってこと!」

 

 

ユノが言う通り、昔の男に絡まれることは今後ありうる。

 

僕みたいな男たちの世界はとても狭く、前カレの元カレのセフレが僕、なんてパターンがあっても不思議ではない。

 

必ずしも特定の相手が欲しいわけではなく、ただ男とヤりたい、てっとりばやくヤレる奴、セフレが欲しいっていう奴もいる。

 

僕はボーイをやっていない。

 

金銭的なやりとりはない(僕を繋ぎ止めようと、高価な贈り物をくれることはあったけれど)

 

僕は男に抱かれるのが好きなだけ。

 

1回ポッキリにしたいのに、僕に惚れてしまう男が多いから、Hの後トラブルに発展しやすいのだ。

 

彼氏持ちや妻のいるノンケの男もその気にさせてしまったり、ぎゃあぎゃあ皆騒ぎ立てて、心底うんざりしてしまって、深く関わるのはよそう、と心に決めるのだ。

 

でも、たまに身体の相性のいい奴が現われて、手放しがたくて2度3度とベッドを共にするなんて気を許した挙句、「チャンミン、彼氏と別れてきたから付き合ってくれ」と懇願してくるのだ。

 

この手の男たちは、タクシードライバーの彼みたいに僕を恨みに思っていて、いつかどこかで出くわしたら面倒だ。

 

あの夜も僕に恨み言を吐き、1発ヤッて解放するつもりだったのではないか、と推測していた。

 

殴られるより、お尻を差し出した方が身のためだ。

 

「そんな怖い顔をしていないで、僕とHしようよ」と提案して、機嫌を直してもらうのだ。

 

(ダイヤモンドをくれた男は海外に行ってしまい、関わる機会がなくなって助かっている。気持ち悪い男なんだ)

 

...これが僕。

 

あの夜はユノが助けに来てくれて、僕のお尻は守られた。

 

 

でも、ユノに伝えた通り、今日のデートは楽しかった。

 

恋人同士っぽくて、胸がこそばゆい。

 

身の丈にあったありきたりなデートは、初めてだったかもしれない。

 

 

「チャンミン?」

 

頬に冷たいものが押し付けられ、僕は飛び上がった。

 

またまた上の空になっていたようだ。

 

両手でカップを包み込んでいたせいで、スムージーはどろどろに溶けてしまっていた。

 

ぼうっとしていた僕のために、アイスティーを買ってきてくれたようだ。

 

「暑さにやられたんか?

あんたは夜行性だからなぁ」

 

「ごめん」

 

「ま、いっか。

この話はまた今度。

帰ろうっか?」

 

僕らは連れだって店を出た。

 

手を繋ぎたくても、右手はカップ、左手は買い物袋で塞がっていた。

 

もちろん、手を繋いだりなんかしない。

 

ユノに迷惑をかけたくないし、僕だって興味津々な視線を浴びるのは好きじゃない。

 

でも、夜に限ってはOKだ。

 

 

(つづく)

 

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