(63)ぴっかぴか

 

~ユノ~

 

あの後、俺たちはラブホテルへ直行し、シャワーを浴びる間もなく、下を出しただけで貪るようなHをした。

 

「ユノっ、ギブ、ギブアップ!」

 

おらおらとねじ込む俺の腰を、チャンミンは平手打ちをした。

 

「俺たちがあいつをどう責めようと...うっ...チャンミンに電話をかけた程度のことだからな」

 

「うんっ、んっ」

 

「俺の予想通りっ...久しぶりに1発やりたかった、だけっ...だった」

 

「ユ、ノ...ヤリながら話するの...止めにしない?

頭に入んない」

 

「チャンミンっ。

悪いけど、Tシャツ脱いでくれないか?」

 

「前に借りたやつじゃん」

 

チャンミンのTシャツが目に入るたび、下腹の力が抜けて仕方がなかったのだ。

 

店でチャンミンが登場した時、髪型の変化の次に彼が着用していたTシャツに目がいってしまった。

 

あの時はそれどころじゃない状況だった為、スルーしてしまった。

 

普段、チャンミンは俺んちに泊まって着替えがないと、俺のTシャツを着て帰ってゆく。

 

いつ貸したのか覚えていないが、今日のデザインは『I LOVE SAVA」とある。

 

自分のTシャツながら、字面と魚のイラストに吹き出してしまいそうになるのだ。

 

「しょうがないなぁ」

 

チャンミンは俺と繋がったまま器用にTシャツを脱ぎ捨てた。

 

これでチャンミンは全裸になった。

 

チェリーだった俺の方が上手(うわて)で、先にダウンするのはチャンミンだ。

 

俺はチャンミンの腰を抱え、彼の身体を壁に押し付けるとラストスパートをかけた。

 

チャンミンはずり落ちないよう、俺の首に腕を、腰に足を巻き付けている。

 

くっくっと2人の腰が痙攣し、果てた俺たちは息も絶え絶え壁床へと崩れ落ちた。

 

「あの男だろうと他の男だろうと、あんたを誘う奴全員嫌なんだ。

俺ってかなり嫉妬深いみたいだ」

 

「僕のことを心配してくれてるんだよね?」

 

「ああ。

あんたが前に言ってたじゃん。

俺は『運命の相手』と付き合っている自分に浸っているんじゃないか、って

...否定しないよ。

浸ってる自分はあったかもしれない」

 

「昨日はひどいこと言ってごめん」

 

「俺も悪かった」

 

「気にしてないから。

お互いの気持ちを確かめたかったんだよね?

本音とは反対のことを言っちゃうってやつ」

 

俺たちはフローリングの床に寝っ転がったままだ。

 

(今ここで、玄関のドアを開ける者がいたとしたら、真っ先に目に入るのは俺たちのむき出しの股間になる)

 

「初めての喧嘩かぁ...」

 

「あんたは俺の初めてをあげた奴なんだぜ?

しかも男だぜ?

心の底から『運命』だと思ってなければ、付き合っていないって。

だから、あんたと一緒にいるのは自己満じゃない。

誰かと真剣に付き合う楽しさを、あんたに知ってもらいたいなぁ、って」

 

「うん。

そうだよ。

昨日、言ったでしょ?

ユノの大事な初めてを貰ったんだよ?

適当に付き合っているわけないじゃん」

 

「ああ、分かってる。

ちゃんと聞いていたよ」

 

チャンミンはぐずぐず泣き始めたものだから、俺は彼の頭を胸に引き寄せ撫ぜてやった。

 

「あんたがそのつもりはなくても、その見た目じゃホイホイ男共が寄ってくるんだろうなぁ...」

 

俺にじぃっと見つめられて、チャンミンは「何だよ?」と警戒したように言った。

 

「貞操帯...穿くか?」

 

「ユノ!

僕を何だと思ってんだ?」

 

「ジョークだよ。

アハハハハハ!」

 

チャンミンは、腹を抱えて笑い転げる俺に軽くパンチを繰り出すと、立ち上がった。

 

すると突然、身体が宙に浮いた。

 

「おっ!?」

 

俺はお姫様抱っこされていた。

 

これまで抱っこするのは俺の役目だった。

 

「どうした、チャンミン?」

 

俺の問いを無視して、チャンミンは浴室へと俺を運んでいった。

 

「重いだろ?

俺、歩けるんだけど?」

 

「お風呂に入ろ」

 

途中、よろける場面もあったが、そう体格の変わらない男を運べるチャンミンに、「やっぱり男なんだなぁ」と再認識したのだった。

 

チャンミンは空っぽの浴槽に俺を下すと、レバーを調節しながら、指先で湯温を確かめている。

 

「これくらいかな」

 

満足ゆく湯温になったようだ。

 

最後にバスバブルのカプセルを投入すると、俺の膝の間に腰を下ろした。

 

 

~チャンミン~

 

泡立ったお湯の水位が徐々に上がってゆく。

 

僕はパネルを操作して、湯船底に仕込まれたライトを点灯させた。

 

お湯を透かし屈折した光はオーロラのように色を変えて、浴室の壁と天井を隅々までなめている。

 

僕の背中はユノの身体にすっぽりと収まっていた。

 

「ユノにずっと言えていなかったことがあるんだ」

 

「俺に話?

暴露もの?

怖いなぁ...」

 

「暴露することなんて、もうないよ。

ユノが全部、暴いてくれたから」

 

「あの優男の件か?」

 

「そう。

あいつが諸悪の根源さ。

僕の初体験の男まで見られちゃったんだ。

今さら、暴露することはないよ」

 

浴室内はバスバブルの安っぽい香りが充満していた。

 

僕はユノの肩に後頭部をもたせかけた。

 

「ユノに伝えたいことっていうのはね...」

 

ユノをものにしようと誘っていた時は、ぽんぽん言葉が出てきたというのに、本物の告白となるととても恥ずかしい。

 

「僕の初めては...ユノ...なんだ」

「『初めて』って...何が?

チンコの方か?

俺は尻を開放した覚えはないんだが?」

 

「違う。

そっちじゃない!」

 

すくった泡をユノにかけた。

 

「ユノが初恋の相手なんだ。

初めて恋愛しているって思えたのが、ユノが初めてなんだ」

 

「嬉しいことを言ってくれるんだなぁ。

じゃあ、あの男は?」

 

「身体の初体験があいつだっただけ。

あいつとの別れで、僕は猛烈な喪失感に襲われた。

その喪失感を勘違いしてただけなんだ」

 

「勘違い?」

 

「濃い関係はあいつが初めてだったからさ、「身体が寂しい」と「心が寂しい」とを間違えてたみたいなんだ。

あいつと再会した時に分かった。

恨む気持ちも懐かしい気持ちも何も無かった。

心動かされなかった」

 

「そっか...」

 

しばし沈黙が訪れた。

 

壁1枚挟んだ隣室も浴室になっているようだ。

 

壁に耳を押し当てなくても、ゴトゴトと湯船に何かがぶつかる音と、反響するあんあん言う甲高い声が聞こえてくる。

 

「あいつとは、まさしく身体だけの関係だったんだ。

ご存じの通り、僕は快楽に弱いからさ。

そういうわけで...」

 

僕の膝小僧に置かれたユノの片手をとり、指を絡めた。

 

「僕は失恋していなかったわけだ。

気付くの遅すぎ」

 

と言い終える前に、力一杯抱きしめられた。

 

ユノの身体は熱く、湯船に浸かっていることと相まってのぼせそうだった。

 

僕の話はまだ途中...。

 

(つづく)

 

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