(9)ぴっかぴか

 

~ユノ~

 

背負う力が枯れてしまっていた俺は、チャンミンの両手首を持ってベッドまで引きずっていく。

 

床との摩擦でチャンミンのシャツが顎下までめくり上がり、両乳首が丸見えになったが、男の乳首でドキッとなんて当然しない。

 

テーブル越しでちらっと見てしまった時、「あれ?ニップルピアスはしていないんだ」と思ってしまった俺は、やっぱり偏見の塊だ。

 

チャンミンの長い身体、部屋の入り口で引っかかってしまったため、一旦行き過ぎた後、今度は両足首を持って同様に引きずっていった。

 

 

「...よいっしょ!!」

 

俺が先にベッドに上がり、チャンミンの両脇を持って引っ張り上げた。

 

「はあはあはあはあ...」

 

額の汗を拭い、チャンミンのブーツを脱がせた。

 

手入れの行き届いた靴で、「伊達男だなぁ...」と感心してしまった。

 

 

入浴を終えて部屋に戻ると、さっきと同じ仰向けの姿勢でチャンミンはすやすやと眠っていた。

 

タイトなボトムスの中身はさぞ蒸れているだろうが、そこの面倒までは俺には見られない。

 

男友達だったら、ウエストを緩めてやるくらいはできるかもしれない。

 

でも、チャンミンに関しては、よからぬことをしている気がしてしまうのだ。

 

...男同士のアレってアレだろ?

 

「女の子としたことないの。

だから僕も童貞なの」

...と、言っていたチャンミン。

 

男の中には挿れてるけど、女の子の中には挿れたことがない、という意味の童貞宣言なんだろうか?

 

俺なんて、どちらも経験がないから、正真正銘の童貞だ。

 

男の中...。

 

つまり...!?

 

出すべきところに挿れるって!?

 

(身体に悪そうだな...)

 

あ~あ、やっぱり俺は偏見の塊だな。

 

目元を覆ったチャンミンの長い前髪をかきあげ、片耳にかけてやった。

 

昔の男に贈られたというピアスが、ピカピカっと光った。

 

健やかな寝顔をしちゃってさ。

 

俺はこんなに苦労したというのに。

 

さて。

 

俺はどこで寝たらいいのだろう?

 

ベッドはいびきをかいて眠るチャンミンに占拠されている。

 

脇にどかせば、隣に寝られないことはない。

 

しかし...。

 

チャンミンは男が好きな男だ。

 

寝ぼけたチャンミンに、身体をまさぐられるかもしれないぞ。

 

朝目覚めたら、パンツを引きずり下ろされてるかもしれないぞ。

 

ぞうっとした。

 

あ~あ、俺は偏見の塊だ。

 

「しょうがないなぁ」

 

押し入れから冬用毛布を引っ張り出し、2人掛けのソファに横たわった。

 

狭い。

 

だからと言って、チャンミンとひとつベッドで眠るなんて御免なのだ。

 


 

~チャンミン~

 

自ら望んで童貞を守ってきたと言っていた。

 

『この子だ!』と確信が持てた子としか、ヤりたくないんだそうだ。

 

ユノをフッたあの女の子はつまり、ユノの『この子だ!』じゃなかったわけだ。

 

僕が見たところ、彼女はまあまあ可愛い子だったのにな。

 

外見じゃないのなら、一体どんな子なら、ユノの『この子だ!』センサーに反応するんだろう?

 

ユノはこだわりの強い人物のようだ。

 

僕にしても男に関してのルールが多い。

 

見た目がいいことは第一条件。

 

反吐が出るほど嫌いなのが、『フィーリング』とか『ハート』とか『人格』を重要視する奴だ。

 

ごちゃごちゃ言っていないで、パンツを脱ごう。

 

我を忘れて抱き合い繋がり合い、強烈な快感に全身を震わせる。

 

互いの肉体をむさぼり合うその瞬間、好きも嫌いもない。

 

僕の中を埋めてくれるモノの持ち主を愛す...ただし、その時だけ。

 

チェリーを捧げられる運命の子を待つようなユノは、僕の嫌いなタイプそのままだ。

 

ところが不思議なことに、ユノに対しては嫌悪感が湧かない。

 

僕を辟易とさせた過去の男たちのように、自分の気持ちを押しつけるような傲慢さがない、というか...。

 

...いや、そうでもないか。

 

自身の信念を貫くためセックスを拒み続けたユノ...彼女たちが気の毒になった。

 

セックスへの理想が高いんだろうな、きっと。

 

ユノ...メンズ用貞操帯をした男...まったくもって強敵だった。

 

 

パチリ、と目が覚めた。

 

視界はぼんやり、薄暗い...ここは...?

 

身を起こそうとした時...。

 

「あがぁっ!」

 

ガンと頭を襲う鋭い痛み。

 

胃袋はムカムカ、口の中はカラカラ、頭はガンガン、全身が重だるい。

 

滑らした手の平の下の生地感から、自分が寝ているここは布団の上だと分かった。

 

頭を出来る限り動かさないよう、うすぼんやりした周囲の景色を見回した。

 

...僕の部屋、じゃない!

 

「う~ん...」

 

ここは...どこだ?

 

この具合の悪さ、昨夜の僕はしこたま飲んだようだ。

 

下半身の蒸れ感と窮屈さに、洋服を着たまま眠ってしまったことが判明。

 

記憶をたどる。

 

昨日の僕は、えーっと...仕事の後、一旦帰宅して着替えをして出かけた。

 

出会いを求めて、半年前にオープンしたばかりのいい感じのお店を訪れた。

 

「あっ!」

 

思い出した!

 

あそこで『極上の男』をハントしたんだった!

 

何て名前だったけ?

 

ユノ...ユノだ!

 

僕の色気を前にしても、きょとん、としていたユノの真顔を思い出した。

 

それも仕方ない、ユノはノーマル男子だから。

 

今どきファッションに僕好みの端整な顔立ちの若い男。

 

斜め下から、すーすーいう寝息が聞こえる。

 

寝息の出処は、ベッドの足元に置かれたソファの上の黒い塊。

 

僕をベッドに寝かして、この部屋の主はソファに寝たってわけか...へぇ、優しい奴じゃないか。

 

(待って!!)

 

ユノを落とせず、手近な男で間に合わせようとしたのだろうか。

 

どうしよう...覚えていない!!

 

(つづく)

 

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