(15)虹色★病棟

 

 

スタッフの計らいで、ユノは一番風呂だ。

 

ところがその日は、入所者の1人が騒ぎを起こしたせいで、入浴時間が15分押していた。

 

ここでは入浴時間はひとり20分と厳格に決められている。

 

その時間を守ろうとすると、ユノの持ち時間はわずか10分で、綺麗好きの彼には甚だ都合が悪い。

 

ユノの次は僕の番だ。

 

この世の終わりかのように固まってしまったユノに、「僕と一緒に入る?」と提案したのだ。

 

「そうすれば30分になるよ」

 

「お前と?」

 

ユノは眉根を寄せて難しい顔をしている。

 

「嫌?

僕が湯船に入っている間に、ユノはシャワーを済ませればいい。

ユノはシャワーだけでしょ」

 

落としきれなかったばい菌が、お湯の中を漂っているかもしれないからね。

 

(ユノが湯船に浸かれる時といえば、消毒液のお風呂だろうなぁ...こんなこと言ったら、ユノは怒るだろうなあ)

 

脱衣所の床にタオルの道をつくるユノに、タオルを山と抱えていた理由が分かった。

 

僕だって多少の抵抗がある脱衣所の床だ。

 

タオルが敷かれていない隙間をつま先立ちで歩く僕に、「お前ものっかっていいぞ」と言ってくれた。

 

「いいの?」

 

「その前に...」と、僕の足裏をびしょ濡れになるまで消毒スプレーを吹きつけた。

 

パジャマのボタンを外しながら、僕はドキドキしていた。

 

...だって、ユノの前で裸になるのは初めてだったから。

 

「......」

 

互いに背中を向けて、衣服を脱いでいた。

 

そうっと後ろを振り返ると、ユノの背中が。

 

へぇ...ユノは着やせする質なんだ。

 

肩幅は広いし、背筋が素晴らしいんだ、ウエストはきゅっと引き締まっていて...。

 

パンツの下のお尻を想像してドキドキした。

 

最後の1枚をいつ脱ごうか、もじもじしていると...。

 

「先に行ってるぞ」

 

ユノはすれ違いざま、ユノ専用洗面器で僕の頭をこつん、とした。

 

「...なんだ。

パンツは普通に男ものなんだな」

 

「あのね、僕には女装趣味はないの!」

 

「ワンピース着てるのに?

てっきりブラジャーもつけてるかと思った」

 

「う...」

 

かあっと熱くなった顔を隠そうとうつむくと、飛び込んできたもの。

 

うわあぁぁ...ますます顔が熱くなった。

 

僕の視線がそこに釘付けになっていることに、ユノは気づかなかったみたいだ。

 

ユノはかかかっと笑うと、僕の鼻先でぴしゃっとドアを閉めてしまった。

 

「ええい!」

 

僕は勢いよくパンツを引き下ろした。

 

時間は限られている、急いで入浴を済ませないと!

 

ゴム手袋をはめたユノは、シャワーのお湯をまき散らしていた。

 

ユノの堂々とした立ち姿、片手は腰に添えている。

 

目を反らせずじぃっと凝視していると、シャワーをまともにぶっかけられてしまった。

 

「『そこ』ばかり見るんじゃない!」

 

「だってさ...だって」

 

「チャンミンこそ、手で隠すなよ。

恥ずかしがられると、俺の方まで恥ずかしくなる」

 

ユノのものと比べるのは止そう。

 

「チャンミンのものは細くてピンクで可愛い」と言っていたあの人の言葉を思い出したけど、すぐに意識の外へ押し出した。

 

ええい、とそこを覆っていた手を除けた。

 

 

「お前...どうして剃刀を持ってるんだよ?」

 

真っ白い泡をなすりつけたすねを剃り出した僕に、ユノは驚いたようだった。

 

ユノの言う通り、ここでは刃物の所持は禁止されている。

(電気髭剃りシェーバーは許されている)

 

必要な都度(例えば入浴前)にスタッフから借りるのだ。

 

いちいち貸出帳に記入したり、ステーションの中で忙しくしているスタッフに、声をかけることに遠慮してしまう。

 

「ここに入所する時に、ガムテープで足首に貼って持ち込んだの」

 

「すげぇな」

 

「言っとくけど、それ用じゃないよ」

 

「分かってるよ」

 

「俺には疑問なんだが...どうして剃る?」

 

「決まってるでしょ。

スカートからすね毛ボーボーはマズいでしょ」

 

つるつるになったすねに満足する僕に、ユノは呆れ顔だ。

 

「チャンミンはどういう時にワンピースを着るんだ?

今のところ、初日しか見ていないなぁ」

 

「見てみたいんだ?」

 

ユノは3度目のシャンプーをしている。

(髪の毛が傷まないか心配だ)

 

「いや。

興味があるだけ」

 

「僕がワンピースを着るのは、着たいと思った時だよ。

見たいのなら散歩の時、着てきてあげようか?」

 

ユノは泡だらけの頭を濯ぎ中で、僕の声が聞えていないみたいだった。

 

僕は一方的に、無言なのは同意とみなした。

 

 

5人同時に入ることが出来そうな大きな湯船だ。

 

僕は縁に両腕と顎を預けて、ユノの背中を見つめていた。

 

案の定、備え付けの椅子に腰掛けていない。

 

ユノは指の1本1本、念入りに洗っている。

(肌がすりむけないか心配になる)

 

正面の鏡にユノの大事なところが映っていて、ドキドキしていた。

(ユノは気づいていないみたい)

 

「ねえ、ユノ。

亡くした人の話を聞かせてよ。

出会いのエピソードとかさ。

でも...辛かったらいいよ」

 

「面白くもなんともないぞ。

代わりにチャンミンも聞かせろ」

 

ユノは向こうを見たまま答えた。

 

「へえぇ。

僕の話、聞きたいんだ」

 

「そりゃあ、こんなところにいるんだ。

いつも一緒に行動してさ。

事情に触れずいるのってさ、余計に神経使うだろ?」

 

「確かにそうだね」

 

元々はユノの話を先に聞き出すつもりでいたけれど、予定変更だ。

 

「もうすぐお風呂の時間が終わっちゃうよ。

散歩の時に話してあげる」

 

僕はざぶりと、湯船から出た。

 

何色のワンピースを着ようかなぁ。

 

 

(つづく)

 

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