(28)虹色★病棟

 

 

変わり映えのしない、ゆるりと平和な暮らし。

 

何のイベントも行われないここでは、一昨日と昨日との区別がつかない。

 

季節を感じたければ、食堂の窓から見下ろせる街並木の葉の色を見ればよい。

 

中庭に面した自室の窓からは、荒涼とした景色しか望むことができない。

 

食堂の献立表が一新されたことで、ユノがやってきて1か月...マスク越しのキスの日だ...が経ったことに気づいた。

 

いつ呼び出され、LOST退所を促されるか緊張の日々。

 

引き延ばしたとしても、あと2,3か月が限界だろう。

 

僕なんか3年かかったんだ。

 

死別を経験したユノだ、僕の退所までに回復できる可能性は低い。

 

僕とユノが揃ってここを出る方法は...ないことはない。

 

それについて、本気で考えないといけない。

 

「新しい恋...かぁ...」

 

先ほどから僕は食堂のテーブルに片頬をくっつけて、ある一点を睨みつけていた。

 

ユノを待っていたのだ。

 

ユノは今、スタッフステーション隣の面談室にいる。

 

早く立ち直って欲しい僕は、渋るユノを無理やり連れていったのだ。

 

面談室の効果と併せて、荒療治だけど、新しい恋で上書きされたと錯覚させて、退所の日を早めるのだ。

 

「上書き...かぁ」

 

記憶とは上書きできるものなのだろうか。

 

僕だって、忘れてしまうことが怖い。

 

だから、自ら小箱を揺らしていたのかもしれない。

 

小箱の中の住人のお尻を叩いて、ほら、暴れろと煽っているのだ。

 

「はあ...」

 

自分のことしか考えていないじゃないか。

 

 

僕らは入浴中だった。

 

二人まとめて入浴すれば、入浴時間を30分近く確保できる。

 

時間の問題よりも、裸の付き合いって言うのかなぁ...ユノの裸を見たかっただけだ。

 

ユノも満更じゃない証拠に、「風呂の時間だ、早く食え!」と、のんびり朝食を摂る僕を急かすのだ。

 

僕は身体を洗いながら、ユノの裸を横目で観察していた。

 

仁王立ちしたユノはゴシゴシと、全身の窪み、シワの間まで念入りに洗っている。

 

白い泡が、ユノの首から胸、胸から下腹、へそから両脚の付け根と滑らかに落ちてゆく。

 

(...ゴクリ)

 

アレは泡に包まれ、てっぺんだけがのぞいている。

 

視線がそこにいかないようにするには努力が必要だった。

 

「思い出の品って、どうした?」

 

僕からの唐突な質問に、ユノはしばし空を睨んだのち、首を振った。

 

「あー、どうしたんだっけなぁ。

記憶にない」

 

「そうだよねぇ」

 

ユノは足の親指まで洗い終えると、身体洗いの2クール目のため、新しいタオルにたっぷりボディソープを追加した。

 

ユノの肌は白い。

 

天を仰いで首筋を洗うユノの、顎から鎖骨までのラインが美しかった。

 

(...ゴクリ)

 

ユノの肉体を、僕はうっとり眼差しで愛でていた。

 

近頃の僕はおかしくなっていて、ユノの全てからエロスを感じてしまうのだ。

 

僕が同性愛者だと気付いたのは、いつ頃だったのか。

 

以前も思ったこと...ユノはおそらく違う。

 

なぜなら、僕の裸にこれっぽっちも興味がなさそうだから。

 

突然、いいことを思いついた。

 

「背中の真ん中...ちゃんと洗えていないよ。

貸して」

 

ユノの手からタオルを奪い取った。

 

「どう?

もうちょっと強くこすろうか?」

 

「え?

あ、うん...ああ、ちょうどいい」

 

僕の突然の行動に驚いて、ユノはどもってしまっている。

 

ユノの広い背中をこすりながら、僕の胸はきゅうっと切なく痛んだ。

 

タオル越しであっても筋肉の凹凸を手の平に感じ、少し視線を落とせば固く引き締まった二つの丘。

 

僕の邪な思いなんて露知らず、ユノは無防備に背中とお尻をさらしている。

 

触れたい...でも我慢だ。

 

「一切合切置いてきてしまった。

それとも、業者が全部、処分してしまったかもしれない」

 

「住んでたところは?

ユノは帰る所、ないの?」

 

「賃貸だったからね。

つまり俺は、家無しだ。

チャンミンとこは?」

 

「僕も賃貸。

トランクルームを借りて、家具を預けてる」

 

ユノと会話しながら僕は、泡まみれの身体なら、僕らは抱き合えるかもい...なんてことを考えていた。

 

「婚約指輪は結局、どうしたんだ?

捨てたのか?」

 

家財の話から飛躍して、指輪の話になり、僕はドキッとした。

 

僕は左右に首を振った。

 

「売ったとか?」

 

「ううん」

 

「まさか、今も後生大事に仕舞ってるんじゃないだろうな?」

 

「指輪はね...僕のお腹にある」

 

「...は?」

 

「彼の婚約指輪は僕のお腹の中にまだある。

飲み込んだんだ」

 

 

(つづく)

 

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