(29)虹色★病棟

 

 

 

「マジか...?」

 

婚約指輪を飲み込んでしまった発言に、ユノは勢いよく振り返った。

 

みぞおちを撫ぜる僕を「信じられない」と言った表情で見ている。

 

驚いて当然だ。

 

「うん。

レントゲンを撮ったら、写ると思う」

 

「平気なのか?

いつまでも腹の中にあるのは具合が悪いだろう?

実はいつの間にか排出されてるかもしれないぞ?

...あれと一緒に」

 

「それはないと思う」

 

お腹をしみじみと見つめられて、アソコのサイズと形に自信がない僕だったから、落ち着かなくなってきた。

 

「ちょっとユノ!

やだ...恥ずかしいから見ないで」

 

「悪い!」

 

ユノの眼は下心ゼロだった。

 

「飲み込むって...凄いなぁ。

海に投げるとか、貴金属買い取りに出すとか、他にも方法はあるだろう?

飲み込むって...喉に詰まりそうだなぁ」

 

ユノは金属片が柔らかい食道に引っかかりながら、すべり落ちていく想像をしているらしい。

 

眉間と鼻にしわをよせ、唇を斜めに歪めているのに、ユノはやっぱり美形だった。

 

「当時は滅茶苦茶だったんだ」

 

「思ったんだけど、チャンミンの『小箱』って、もしかしたら指輪かもしれないぞ?」

 

「!?」

 

『小箱』イコール『婚約指輪』

 

そんな発想はなかった。

 

「下剤なんなり使って強制的に出すんだよ。

今まで試したことなかったのか?」

 

「ない」

 

僕は首を左右に振った。

 

指輪は排出されることなく、今も僕の身体の中にある。

 

3年の時を経て、あの指輪は僕の肉体と同化してしまっていそうだ。

 

明らかな異物であるのに、これまで違和感なく僕と共存してきた。

 

排出してしまうことが怖くて放置しているうちに、指輪の存在を忘れてしまっていた。

 

僕を置いて出て行った婚約者の話は、3年前にあの面談室で語った以来、ユノが初めてだった。

 

「腹から出した方がいい、絶対に。

チャンミンを苦しめ続けてきた婚約者を身体から出す体感だよ。

イメージの問題だよ」

 

「そっか...!」

 

「下剤で無理なら...最悪、手術...とか?」

 

「手術!?」

 

ぞっとした僕に、ユノはカカカっと笑って、僕の背中をバシッと叩いた。

 

「きっとそうだ、その通りだ。

チャンミン、腹ン中の指輪をなんとかして外に出せよ。

楽になれるぞ」

 

僕の心配をしてくれる優しいユノ。

 

僕の心配をすることで、ユノはユノ自身から気を反らしている。

 

ユノの背中を洗う作業に戻った僕は、そのタオルを腰まで移動させた。

 

さらにその手を、手が滑ってしまった風にお尻まで落とした。

 

「おい!

どこ触ってんだ!?」

 

「あは...ごめん」

 

ユノにタオルを奪われてしまった僕は、身体を濯いでお湯に浸かった。

 

ステンレス製の浴槽は、塩素の香りがするお湯で満たされている。

 

僕は浴槽の縁に後頭部をもたせかけて、目をつむった。

 

ユノの裸を見ていると、ドキドキしてしまうから。

 

このお湯の中なら、ユノと抱き合えるかもしれない。

 

ああ、僕ときたら、ユノと抱き合うことばかり考えている。

 

「ユノは?

結婚指輪...どうした?

捨てちゃった?」

 

「......」

 

ユノは向こうを向いたまま、これ以上こすったら皮が擦り剝けてしまうのでは?と、心配になる勢いで、二の腕を洗っていた。

 

「答えたくないんだな」と判断し、「今日は何をしようか?」と話題を変えた。

 

「...あるよ」

 

「え?」

 

「ある」

 

「?」

 

「指輪だよ。

俺の部屋にある。

ここに持ってきてる」

 

一切合切捨てたと話していたのに。

 

「指輪...霊安室で...指から抜き取って...ポケットに突っ込んで...帰った。

俺の部屋に、1組の指輪がある」

 

「...見せて?」

 

「はぁ?」

 

「ユノの結婚指輪、僕に見せてよ」

 

 

(つづく)

 

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