(11)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

時は遡り、昨夜のこと。

 

エレベータの扉が開くと、とぼとぼと重い足取りのチャンミンが現れた。

 

(寂しいなぁ...)

 

仕事帰りにユノと会ったばかりだったのに、自宅に帰りついた時にはもうユノ不足になっていた。

 

チャンミンは、自分が寂しがり屋であることを知っている。

 

(用意していた話題は沢山あった。

ユノのことを知りたい。

自分のことも知ってもらいたい)

 

気持ちばかりが上ずってしまい、ユノの発言に慌ててしまったりと、言いたいことの半分も口にできていない。

 

それがチャンミンの欲求不満の原因になっていた。

 

「ぷぷっ」

 

唇の端にソースを付けたユノを思い出し、チャンミンは吹き出した。

 

「か~わいい~」

 

感情がつい言葉となって溢れてしまう。

 

帰宅して玄関ドアを閉め、リビングのソファに座り込むまでの間の動作は目をつむっていても、流れるように毎日正確にたどることができる。

 

その一連の行動のひとつが、冷蔵庫を開けビールを1本手に取り、ソファに座るまでに半分は飲んでしまうことだ。

 

ところが、プルタブにかけたチャンミンの親指が止まった。

 

(ん...)

 

チャンミンは脇腹をつねった。

 

「......」

 

ビールを冷蔵庫に戻したチャンミンは、炭酸水を代わりにとり、ユノを送った後に調達した温野菜サラダをテーブルに広げた。

 

1時間のネットサーフィンの末、辿り着いたとあるサイトページにチャンミンは目を輝かせた。

 

ピンポイントな情報を求めて、キーワードを足していく。

 

(こんなのは...どうかな)

 

カチカチとマウスを操作する音、キーボードを叩く音...途中、幾度かその指が止まった。

 

その度、チャンミンの眼の焦点がぼんやりと霞んだ。

 

「......」

 

チャンミンは脳内で、来る花火大会の夜を予行演習をしていたのだ。

 

ユノ以上に来週のデート...夏の思い出といえば花火大会...を待ち望んでいたのだ。

 

「う~ん」

 

腕を組んで目をつむる。

 

(ユノの意見を聞かずに僕が決めてしまってもいいのかな)

 

迷いが生じてしまい、別のサイトへと飛び、さらに幾ページも繰った後、結局元のページに戻る。

 

(どうしよう...決められない)

 

髪をくしゃくしゃとかき乱した。

 

チャンミンは優柔不断な男だった。

 

「う~ん...」

 

頭の整理ができなくなり、プリントアウトしてみたものを見比べた。

 

「どれにしよう...」

 

花火大会は2人にとって初めてのデートといってもよい(チャンミンの部屋に集合したものを回数に入れれば、初めてとは言えないが...)

 

ユノをエスコートする大人の余裕を見せたいし、完璧なデートに仕上げたいし、ユノには笑って欲しい。

 

「う~ん...」

 

こめた願いが深過ぎて、チャンミンは自分で自分の首を絞めていた。

 

瞬きを忘れてディスプレイとにらめっこしていたせいで視界が滲んできた。

 

「ふわぁぁぁ...」

 

大きく伸びをし背面にのけぞった時、上下反対の掛け時計が視界に入った。

 

「はっ!?」

 

初デートプランを練るうちに、いつの間にか日付を超えていたのだ。

 

夜鷹のユノでも深夜1時過ぎの電話は迷惑だろうと、電話をかけるのは遠慮することにした。

 

「ん...?」

 

メッセージを送ろうと手に取ったスマホの通知ランプが点滅している。

 

『せんせ、おやすみ(ハート)』

 

「ふふっ」と笑みがこぼれ、チャンミンの口角が上がった。

 

『おやすみ』のメッセージを羊イラストのスタンプと共に送信した。

 

すると、10秒もしないうちに、『まだ起きていたんですか?』と返信が来た。

 

『はい。

今から寝ます』

 

『それがいいです。

せんせは若くないんですから、睡眠は大事ですよ』

 

ユノの軽口にいちいち乗ったりしたら大人げない。

 

『どうせ僕はおじさんですからね(泣)』といじけてみせると、土下座するウサギのスタンプが返って来た。

 

それから、『おやすみなさい』のメッセージの後、「大好き」とハートが散りばめられたスタンプが送られてきた。

 

クスクス笑いながらチャンミンも、お揃いのスタンプを返信した。

 

スタートして2週間あまりの2人の恋は、お祭りで売られているレインボーカラーの綿菓子みたいにふわふわとドリーミーだった。

 

イチャイチャも未経験。

 

チャンミンはそのきっかけを自ら作ろうとしていた。

 

 

チャンミンはソファからゆらりと立ち上がり、食べ終えた温野菜サラダの空き箱を捨て、洗面を済ませると、布団にもぐりこんだ。

 

(明日も仕事だ...)

 

長時間ディスプレイを注視し、集中し過ぎたことで若干興奮状態にあった。

 

すぐに寝付けそうにない。

 

(明後日は休み。

その次の日は、ユノを部屋に招待しよう。

美味しいものを作って、お腹が膨れたら近所を散歩するのはどうかな。

散歩の後はDVDを観たり。

...映画館で観た方がいいのかな...)

 

ごろりと寝返り打った。

 

(やっぱり、どこか買い物に出かけた方がいいのかな。

20歳そこそこの男って、どういう所に遊びにいくんだろう。

ゲームセンター?)

 

再び、チャンミンの脳内でぐるぐると、デートプランが練られていった。

 

(ゲームかぁ...今は何が流行っているんだろう?

ゲームセンターに行ったとする。

その後食事をして、すぐ解散するのはつまらないから、僕んちかユノんちに移動する。

...そこでダラダラ過ごして...それから...それから...)

 

チャンミンの思考は必ずと言っていいほど、「ある」一点で行き止まりになるのだ。

 

そのシーンを妄想していると...。

 

(ここ2,3日、抜いていなかったからなぁ)

 

その手はそろそろと、ハーフパンツの中へ滑り込んだ。

 

(最後に生身のオトコとセックスしたのはいつだったっけ?

...もう思い出せない)

 

それはむくむくと育ってゆき、チャンミンはうずくまると右手は後ろへとまわる。

 

(ユノには絶対に言えないけれど...)

 

人差し指を舐めた。

 

「...っ...っ...あっ...は」

 

目をつむり、背中にのしかかったユノの重みと、打ち付けられる固い腰、コリコリと刺激されて目の前が真っ白になる感じ、奥を攻められて悲鳴をあげる...。

 

『あの』感覚を記憶から掘り起こす。

 

片頬をマットレスに押し付け、腰は高々と突き上げたチャンミン。

 

「あっ...いっ...いっ...っ...いっ...!」

 

イケそうでイケなくて、握りしめていた左手をシーツからあそこへと移動させた。

 

後ろと前、高速にスライドさせるうち、昇りつめていって...ぶるりと腰が震えた。

 

放たれたものは、用意していたティッシュペーパーでキャッチ。

 

「はあはあはあはあ...」

 

(花火大会の後...きっと、そういう流れになる。

僕らは大人だ。

ユノはきっと、尻込みするだろう。

だから僕はリードして

...怖い。

ユノに引かれたらどうしよう。

でも、大好きな人と抱き合う時の幸福感を味わって欲しい)

 

可愛いメッセージのやり取りをしたばかりだから余計に、自分を慕ってくれるキラキラなユノの眼に嫌悪の影が差すことが怖くなった。

 

(つづく)

 

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