(11)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

 

(これって...)

 

ユノはゴクリと唾を飲みこんだ。

 

(初めて見る)

 

ユノの視線を釘付けにしたものとは、いわゆる『大人の玩具』だ。

 

几帳面かつ清潔好きのチャンミンにより綺麗に洗浄された玩具が、洗面ボウルの縁に置かれていた。

 

直置きせず、玩具の下にきちんとタオルが敷かれている。

 

「......」

 

形状はグロテスクだが、透明でピンク色をしているため、ぱっと見はいかがわしい物だと分かりにくい。

 

(なるほどね。

せんせは...これを使ってるんだよな)

 

チャンミンが裸のお尻を突き出して、そのピンク色のものを埋めている姿を想像した。

 

(せんせは挿れられる側だって言ってたけど...。

俺のMAXサイズよりデカくね?)

 

まじまじと眺めることすでに1分以上。

 

「ユノさ~ん?」

 

チャンミンはトイレの水洗の音の後、一向に戻ってこないユノを心配して声をかけたのだ。

 

「!!」

 

ここでユノは気づく...これを発見してしまったがために、面倒な状況に立たされていることに...。

 

(やべやべ、どうしよう!

せんせは絶対に、ここにブツを置きっぱにしてること忘れてるんだろう。

後になって、俺に見られたことを知ったとき、せんせ、恥ずかしいだろうなぁ...。

穴が合ったら入りたい、ってやつ?

せんせの場合、穴に入ったまま永遠に出てこなかったりして)

 

「は~い。

大丈夫っす、すぐ戻ります」と、とりあえず返事をしておく。

「タオルは棚にあるものを自由に使ってくださいね?」

 

「は~い」と、とりあえず良い返事をしておく。

 

「場所分かります?」

「分かります分かります!」

 

ユノはじわりと額にうかんだ玉の汗を拭った。

 

さっさと手を洗ってチャンミンの元へ戻るべきなのに、好奇心を押されられないユノの手はそろりと、ピンク色のブツへと伸ばされた。

 

(よくこんな物が入るよなぁ~)

 

持ち手のところにスライド式のスイッチがあり、『バイブ』『ウェーブ』『バイブ+ウェーブ、一番端が『MAX』とあった。

 

ユノの親指がスイッチにかかった時...。

 

「ユノさん?

どうかしましたか?」

 

この時のチャンミンは、洗面所にブツを放置していたことを完全に失念していた。

 

ユノの花火大会という名の合コン参加疑惑に気をとられていたせいだ。

 

「ユノさん?」

 

洗面所の様子をうかがいに、チャンミンは立ち上がった。

 

 

ユノの頭はフル回転だ。

 

(ここは、思いっきり目撃したことをせんせの目の前で知らせた方が一番だ。

気付かないフリをして...結局は顔が緩んでしまって、知らなかったフリはとても無理だ。

そもそも、洗面台の上に置いてあったんだ。

目をつむって手を洗ったってか?

気付かないフリは無理がある。

...とにかくせんせには、気まずい思いをさせたらいけない)

 

「すんませんすんません!

タオルっすよね。

ありました~」

 

ユノは棚に納められたタオルに手を伸ばした時、タオルに引きずられた何かが床に落下した。

 

「!!」

 

ちょうどその時、足元に転がったモノに目を丸くするユノと対面したチャンミン。

 

(あ゛あ゛~~~!)

(なんだ、この数珠みたいなものは...?)

 

2人は数秒、悪さを目撃された子供...じゃなくて、カンニングがバレてしまった生徒のような表情で顔を見合わせていた。

 

(僕の馬鹿馬鹿!

指だけじゃ物足りない時の愛用品。

ユノと付き合うようになってから、奥を埋められる感覚をリアルに想像してしまってたまらなくなって...。

酔いに任せてポチってしまったサイズの大きいヤツ...)

 

「え~っと...えっと...」

 

言い訳をこしらえる前に見つかってしまい、ユノはもごもご言うしかできない。

 

(『これは僕のものじゃない...突然、ここに現れた』は無理があるな。

じゃあ、これは?

『友人の忘れ物なんだ』

『実は大人の玩具の卸しを副業でやってるんだ』

『前の住人が置いていったんだ』

『モニターをやっているんだ』

『どんなものかなぁって、興味があって買ってみただけ。まだ使ったことないよ』

ああ~!

全部、馬鹿らしい嘘ばかりだ!)

 

誤魔化せば誤魔化すほど、かえって恥が増すだけだと分かっているため、ここは黙るのが最善だった。

 

「これ、何ですか?」

 

ユノがそれの用途が思いつかなかったのにはワケがあった。

 

それは取っ手も含めて長さ30センチほど、シリコーン製のしなる細い棒に球体がいくつも繋がっている。

 

(何だ...これ?

便利グッズ?

掃除道具...排水口とかの?)

 

「こ、これは!

子供が見るものじゃありません!」

 

チャンミンはユノの手から、それを奪い返した。

 

「子供って...!

俺は成人してますって!」

 

「いいえ!

ユノさんが見るものじゃありません!」

 

「どうしてです?」

 

「どうしてもったら、どうしても...です!」

 

チャンミンの顔は、怒りと羞恥で茹でタコになっている。

 

「せんせ...これって何です?」

 

「...ぐっ」

 

ユノは素朴な質問を投げかけたが、素直な疑問こそ返答に困るものなのだ。

 

それは、入口に刺激を与えるよう、1つ1つのパーツがただの球体ではなく、いびつな形をしている。

 

色は赤色。

 

じっくり見ると、1つ1つがイチゴの形状になっている。

 

こうした遊び心を加えることで、営みを盛り上げる演出効果が期待できる逸品だ。

 

「どうやって使うんすか?」

 

「...っ!」

 

言葉に詰まるチャンミンにユノは慌てて、

「ですよね、ですよね。

あ~なるほど、そういうヤツですよね」とフォローしてみたのだけど。

 

「......」

 

(ああ...穴どころか海溝に沈みたい。

絶望の淵に墜落してして、姿を永遠に消してしまいたい...!)

 

「せんせ」

 

ユノは微笑を浮かべたが、それはからかう笑みではない。

 

質問攻めにしたのは、チャンミンを動揺させて面白がるためではなく、純粋な疑問だった(ピュアな子供からの質問こそ、回答に困ってしまうものなのだが...)

 

「俺、こんくらいじゃ引きません、って。

むしろ...」

 

ユノはチャンミンの肩を引き寄せると、力一杯抱きしめた。

 

「人間っぽくて、すげぇ可愛いと思いました」

 

「え?」

 

「実は俺、せんせって性欲なんか無いんじゃないかって思ってたんすよ」

 

「...そんなこと...ないですよ。

なぜ、そう思ったのです?」

 

「何かあるとあたふたしてるし...行動が可愛いんです。

だから、せんせとエッチぃことが結びつかなくて。

でも、そうじゃなかった!

ギラギラじゃないっすか!?」

 

「ギ、ギラギラ!」

 

「せんせのそこ...こんぐらいは余裕なんすよね?」

 

ユノはピンク色のブツをちらっと見た。

 

「な、な...なんてこと言うんですか!!」

 

チャンミンは腕をつっぱってハグするユノの口を塞いだが、ユノはその手を易々と引きはがした。

 

「や~です」

 

そして、ずいっと顔を寄せ、チャンミンの耳元で囁いた。

 

「これ使ってみます?

一緒に?」

 

「!!!!」

 

ユノは目を剥くチャンミンの頬に唇を押し当てた。

 

「ユノさっ...!」

 

キスされた頬を押さえるチャンミンに、ユノは「せんせ...俺のキス...嫌なんすか?」と泣き真似した。

 

チャンミンはまんまと騙された。

 

「...ごめん、ごめんね」

 

オロオロし出したチャンミンに、ユノの顔は緩むのだ。

 

(あ~、せんせって可愛いなぁ)

 

「嫌じゃないですよ」

 

「知ってます」

 

「ユノさん!

僕の真似をしないでください!」

(この返しは、教習中のチャンミンの口癖)

 

少しだけ空気が和んだことに、ホッとした2人だった。

 

 

(つづく)

 

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