(26)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

10分後。

 

ユノはエプロンとコックコートを脱ぐと、賄いのトレーを持ってQたちのテーブルへ向かった。

 

Qの目配せに、友人2人は離れた席へと移っていった。

 

「別にいいのに」

 

ユノはQの真向かいに腰掛けた。

 

「話しにくいでしょ?」

「いや」

 

Qはテーブルに頬杖をつき上目遣いで、賄いの牛丼を食べるユノを眺めている。

 

この間、無言だ。

 

「......」

 

どうやらQは、ユノが口火を切るのを待っているようだった。

 

ユノは口と丼ぶりを往復させていた箸を止めた。

 

「俺の最近の話だったよな」と、グラスの水をひと口飲んだ。

 

「付き合ってる」

 

ユノは前置きゼロで、Qが知りたかったことを結論から述べた。

 

テイントリップを塗ったQの唇が「まあ」と、O型に開く。

 

ようやくQの口から漏れたのは、「へ、へぇ...」とあやふやな声。

 

ここまであっさり白状してくれるとは予想もしていなかったため、リアクションの用意が間に合っていなかったからだ。

 

「どう?

引いた?」

と、ユノは苦笑してみせた。

 

「う、う~ん」

へぇ...」

 

Qの顔は引きつっていたが、そこに蔑みなものはなかったことに、ユノは「おや?」と思った。

 

「引いてはいないけど、なんてゆうか...。

受け入れるのに時間がかかりそうな感じ、ってゆうか。

ユノの元カノでもない私が受け入れようが、ユノには関係ないことでしょうけどね」

 

「そんなことないよ。

Qの反応を見ておけば、他の奴らの平均的な反応を前もって知ることができるからね」

 

「何それ?」

 

ユノの冗談にQはケラケラと笑った。

 

Qは扱いに手を焼く我が儘な女子だったが、笑い上戸で明るい子だ。

(ユノの心を動かすことは出来ずに終わったが)

 

「...そっか~、付き合うことになったんだぁ。

この前、ユノからはっきり言われたでしょ?

先生のことが好きだって」

 

「ああ、言った」

 

「私、ユノのことが好きだったから、ユノには好きな人がいるって知って、とても嫌だった。

でも、相手が男の人ならば、何となく...許せる気がする」

 

「どうして?」

 

「もし相手が...例えば...自動車学校の私の担当の先生だったら、すごく嫌だと思う。

ほら、女の人だったでしょ。

ユノの好きな人が、その女の先生だったとしたら。

『嘘でしょ、年上女が好きなんだ』って。

すごくショックだし、悲しい。

悔しいじゃない。

同年代の子じゃなくて、年増を選んだのよ?」

 

「『年増』ってなぁ...。

お前、口が悪すぎ」

 

「相変わらずだなぁ」と、緊張感が解けかけてきたユノは笑った。

 

「だって男の人って若ければ若い方がいいんじゃないの?

若い私の方が優位なのに」

 

「俺もまだまだ若いから、若ければいいって言う気持ちはよくわかんないけど」

 

「せんせにとって俺は若すぎるのだろうか?」と、ちらりと思う。

 

「私より年下の子を選んだりしたらロリコンになっちゃうから、引いてたけど」

と言ってQは顔をしかめた。

 

「でも俺は年上の女の人じゃなくて、年上の男を選んだ」

 

「ええ。

相手が男の人なら、どうしようもできない。

相手にならないもの。

私にとって女は敵だけど、男の人はねぇ...別の生き物だもの。

勝負にならない」

 

「うーん、その考えはよく分かんないなぁ。

でさ。

俺...まさか、せんせを好きになるとは思わなかったんだ。

まさかね。

この前でカミングアウトした時、Qの顔といったら!

引きまくっていたよなぁ」

 

「引くに決まってるじゃないの。

めちゃめちゃ引いた」

 

ふくれっ面になったQは、アイスカフェラテのストローを咥えた。

 

グラスの中身は溶けた氷で薄まっていた。

 

「お代わり持ってこようか?」

 

「ユノ!

そういうとこが誤解させるんだって」

 

「何だそれ」

 

ははっとユノは笑う。

 

「びっくりしたよぉ。

私の周りにはいなかったから。

でも。

とても言いにくいことなのに、本当のことを教えてくれたんだよね。

噂で知るとか嫌だったから、面と向かって教えてもらえて、マシだと思うことにした。

びっくりした気持ちは直ぐには消えないだろうな」

 

「Q...」

 

「『ホモ』とか言ってごめんなさい」

 

「謝ることないさ。

そのまんまだから」

 

「でもなぁ...」と、Qは口をゆがめた。

 

「ユノたちのこと...。

いろいろなこと...。

具体的なことを想像したくはないんだけどね」

 

「おいおーい。

頼むから想像するのはやめてくれ」

 

(想像されたとしても、現実は何も起きていないんだよなぁ...)

 

と、ユノは内心でぼやいたのだった。

 

 

エントランスから来客を知らせるチャイムが鳴った。

 

Qの「休憩中でしょ」の言葉に、ユノは条件反射で立ち上がりかけた腰を戻した。

 

「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」

 

奥から店長が現れ、新規客に応対したようだ。

 

Qに対面するユノの席は、エントランスに背を向ける位置にある。

 

「あ...!」

 

ハッとした表情のQ。

 

「どうした?」

 

ユノは後ろを振り向いた。

 

(なんで!?)

 

ユノの心臓は、ドッキンと大きく打った。

 

深夜のおひとり様客は、チャンミンだったのだ。

 

 

(つづく)

BL小説TOP「僕らのHeaven's Day」