(28)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

 

「ユノさんが思う『浮気』のボーダーラインはどこでしょう?」

 

ユノがリビングのソファに落ち着くやいなや、チャンミンは訊ねた。

 

「浮気っすか?

そうだなぁ...ヤッちゃった時っすかね」

と、ユノは答えた。

 

「ということは、彼女がいても合コンに参加するのはセーフなんでしょうか?」

 

チャンミンが重ねて訊ねた質問に、「恋愛感情が全くなければいいんじゃないっすかね...」と答えかけたとき...。

 

(せんせは知っている!!

花火大会の件を知っている!!)

 

ユノはゾッとした。

 

(それを暗に責めている!

遠回しに責めてる!

どういうルートでこの件を知ったのかは脇に置いといて...)

 

一方、チャンミンがどういうつもりでその質問をしたかというと、互いが考える『ここから先は浮気になる』のすり合わせをしようと思っただけのことだった。

 

ユノがグループデートに参加していたことを内緒にしていたことについて、この2日間悶々としていたが、Kとの会話をきっかけに考えをあらためることにしたのだ。

 

小さなことにウジウジこだわる前に、ユノとの恋を前へ前へと進展させることの方が優先だと。

 

チャンミンは考える。

 

(ユノにとって、浮気のボーダーラインは体の関係があるかないか。

ところが僕にとってのそれはずっと手前にある。

『女の子と会っているか否か』

僕の基準でいうと、花火大会の件はれっきとした『浮気』だけれど、ユノ基準ではそうではないらしい)

 

ユノが合コンへ参加することは嬉しくはないし、正直言えば行って欲しくないけれど、それを制限することまではしたくない。

 

嫉妬以外でチャンミンがこだわっていたのは、「嘘をついていたこと」だった。

 

正直に言ってくれればよかったのに。

 

でも正直に言いづらかった気持ちも理解したい。

 

(花火大会に出かけたことを黙っていたのは、僕を気遣ってくれたんだ)

 

一方、ユノにしてみたら、恋人に対して嘘をつくつかない以前に、合コンに参加したかしないかを問題にしていた。

 

ユノは上手に嘘をつけないタイプなので、行動を制限するしかない。

 

最初から嘘をつく必要のあることをしなければよいだけのことだ。

 

まるちゃんが期待する、上手な嘘をつく大人の男にはなれそうになかった。

 

観念したユノは、床に跪いた。

 

そして...。

 

「すみませんでした!」

 

土下座したのだ。

 

突然のユノの行動にチャンミンは状況を把握できず、口をポカンと開けている。

 

「ユノさ...ん?」

 

「俺...浮気してました!

すみませんでした!」

 

「浮気!?」

 

ユノの爆弾ワードに、チャンミンの全身が熱くなる。

 

「『浮気』って言いました?」

 

ユノは、ショックのあまり表情が固まってしまいそのまま卒倒しかねないチャンミンにハッとした。

 

「...じゃなくって。

浮気はしていません」

 

無表情だったチャンミンの頬が緩んだ。

 

「していない?」

 

「していないけど、したかもしれません」

 

「え...っと、どっちですか?」

 

「浮気した風に思われるかもしれない、っていう意味っす。

あの日...ほら、せんせと会った日。

花火大会がありましたよね?

俺、女の子と一緒だったんです」

 

「!!」

 

「安心してください。

1対1じゃないっす。

グループデートっていうやつっす。

軽いノリで誘いにのっちゃったんすけど、後になって、これって浮気かもって思うようになって...」

 

ユノは再度、額を床につけんばかりに頭を下げた。

 

「反省してます!

2度としません!」

 

「ユノさん!

こんなことしたらいけません」

 

チャンミンはユノの傍らに跪き、ユノの身を力任せに引き起こした。

 

「止めてください。

謝らないでください」

 

「でも、俺...せんせに黙ってました。

せんせより先に抜け駆けして、花火大会に行ってました。

野郎と一緒じゃなくて、女の子と行ってました」

 

ユノの目が充血してきた。

 

「あれってよく考えたら、合コンみたいなもんじゃん。

せんせ、っていう恋人がいるのにさ。

せんせに確認をとるべきでした...っす」

 

チャンミンはユノの手をひいてソファまで誘導して座らせると、自身もユノの隣に座った。

 

「そういうことがあったのですね。

そうだったんですか...」

 

(あ...れ?)

 

チャンミンの表情を横目で窺うと、睨まれるどころかにっこり優しい笑みを返されてしまった。

 

(怒って...ない?)

 

軽蔑と怒りの視線や言葉を浴びせられるかと覚悟していたユノは、あっけにとられていた。

 

「せんせ、初耳っすか?」

 

「はい。

今、初めて知りましたよ」

 

「ホント...っすか?」

 

「はい。

どうして僕が花火大会のことを問いただしているのだと、思ったのですか?」

 

ユノはにじんできた涙を、人差し指の背でそっと払った。

 

「せんせったら、どこからが浮気なのか、って訊くからっすよ。

誰かに花火大会のことを聞いたんじゃないかって、思ったんす。

しかも俺は連れなんかいないフリをしていたし...」

 

「ユノさんが『今』教えてくれたから、いいじゃないですか?」

 

これからの交際において、ユノに気を遣わせないための優しい嘘だった。

 

チャンミンはのびのびとしたユノが好きだった。

 

情報のソース元を知らせるのも憚られた。

 

チャンミンのプライドだった。

 

知っておきながら知らんぷりをしていたことを、大人の対応だと捉えてくれれば幸いだが、追求できずネチネチと思い悩んでいたのかと思われてしまうのは避けたかった。

 

かつてのノンケの彼氏とも、似たようなことがあったからだ。

 

嫉妬と不安と独占欲で、ユノを縛り付けたくなかったのだ。

 

(つづく)



 

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