(43)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

 

「まあ!」

 

チャンミン宅の女性陣は、眉目麗しいユノを前にして色めき立った。

食事や風呂を勧め、彼女たちの勢いに押されておろおろうろうろしていたチャンミンに客用布団を部屋に運ぶよう命じた。

 

「せんせのお父さんっすね。

お邪魔してます」

 

父親は横になっていたソファから飛び起きた(息子の『彼氏』とはどんな奴なのかと興味あるくせに、顔を出さなかった)

 

「ど、どうも。

いらっしゃい」

 

威厳ある父親を演ずるつもりでいたのに調子を狂わされ、どもってしまったところが息子チャンミンに似ていた。

 

「お湯がたまるまで、どうぞ食べて」

残り物でごめんなさいね」

 

ご飯に汁物、煮物や揚げ物、肉も魚も果物などなど、ダイニングテーブルに並んだ(今夜の宴会で供される予定のローストビーフも盛り付けられている)

 

「めっちゃ豪華じゃないっすか!

食べちゃっていいんすか?

美味い。

めっちゃ美味い。

生き返ります」

 

ユノは用意された食事をぺろりと平らげ、空になった麦茶のグラスをコトリとテーブルに置いた。

 

「お母さま」

「はい?」

 

ユノはチャンミンの母親を見つめてこう言った。

 

「お若いですね

綺麗なお方ですね」

「あら、やだわ」

 

母親はまんざらでもなさそうに、オホホホと笑う(母校のミス〇〇候補になった過去がある)

チャンミンはユノのリップサービスに呆れ、「調子にのっちゃうからさ、あまり褒めないでください」といなしたところ、ユノは真面目な表情でこう答えた。

 

「何言ってるんすか、せんせ?

俺は本気で言ってるんすよ?」

 

ユノの言葉はいつでも本心なのだ。

 

「Eちゃんも可愛い。

せんせに似て、可愛い。

モテるっしょ?」

 

ストレート過ぎる誉め言葉に、Eも顔を赤らめた。

 

(ユノって凄いな。

教習初日でも、ぐいぐいきたからなぁ。

でも、強引じゃないんだよなぁ)

 

チャンミンはユノのコミュニケーション能力にあらためて舌を巻くのだった。

 

 

「ごめん、ユノさん。

騒がしくって」

 

チャンミンは浴室のドアの向こうへ声をかけた。

只今入浴中のユノの為に、タオルと着替えを届けにきたのだ。

 

「全~然。

にぎやかでいいじゃないっすか。

...はあ、気持ちいっす。

明るいうちに入る風呂って、新鮮っすね」

 

ぬるめの湯が、長距離運転で凝った全身をほぐしてくれる。

 

「ぬる過ぎませんか?

調節の仕方分かります?」

「ちょうどよいっすよ」

「シャンプーとリンス、分かりますか?」

「分かりますって」

「身体を洗うタオルは...」

「せんせ~。

そんなに心配なら一緒に入ればいいじゃないっすか?」

「え゛!?」

「ははは。

ジョークっすよ」

 

チャンミンがゲイであることを、彼の家族が認知しているのかどうか未確認の状況で、大っぴらな言動は避けるべきである。

 

(内緒にしてるかもしれないし...)

 

恋人の実家で、恋人と共に湯船に浸かるような行為は、大胆かつ非常識極まりない。

 

「二人で入るには、湯船が狭すぎますよ」

「え゛!?」

 

今度はユノが驚く番だった。

 

「せんせが気にするとこって、『そこ』っすか?」

「ええ」

「恥ずかしいとか家族が気になるとかじゃなくて、風呂が狭いことっすか!?」

「ぎゅうぎゅうですよ。

僕らは体格がよいですし...」

「せ~んせ」

 

浴室のドアが開いた。

 

「な、なんですか?」

 

頭だけを突き出しているため、ユノの肝心の箇所はドアと湯気が邪魔をしている。

 

「ふっ...せんせって面白い人っすね」

「どこが、です?」と、チャンミンは首をかしげた。

 

(ちょっとずれてるせんせ、可愛い~!)

 

チャンミンへの愛情が溢れ出てしまい、ユノはたまらなくなってチャンミンにキスをした。

 

チュッと音をたてた、唇を押し当てるだけの子供っぽいキス。

ユノは目を白黒させるチャンミンへ優しい微笑みを見せるのだった。

と、その時。

 

「お兄ちゃ~ん。

時間大丈夫なの?」

 

Eが大声でチャンミンを呼んでいる。

 

(あ!

そうだった!)

 

チャンミンは今日の用事を...慌てて帰省する羽目になった理由...を思い出した。

集合時間まで10分を切っていた。

 

(ユノを後に残しておくのは心配だ)

 

「ほら~、せんせ、行かなくっちゃ。

あ~あ、この後せんせとエロいことしようと思ってたのになぁ。

残念」

「何言ってんですか!?」

「ふっ。

実家の子供部屋でH...すげぇエロくてそそられますが、なんか落ち着かないんで

襲ったりしないから安心して下さい」

「なっ!

ユノさん!」

「ははは。

俺...これから寝ます。

やっぱ、疲れてるみたいっす」

 

ユノは頭を引っ込めると、ドアの隙間からひらひらと手を振った。

チャンミンはその手をぎゅっと握った。

「お利口にしていてくださいね。

終わり次第、すぐに帰りますから」

「いってらっしゃい、せんせ」

 

曇りガラスからチャンミンの姿が消えるのを待って、ユノは湯船に身体を沈めた。

 

このまま寝入ってしまいそうに疲れていた。

 

(つづく)

 

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