(48)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

チャンミンの母は通行止め看板前で2人を下すと、

「帰る時は電話してね。

迎えにくるから」

と手を振り、係員の案内に従いう回路への道へと走り去っていった。

母親の様子がいつもと変わらないことにチャンミンはホッとしかけたが、彼女の演技が上手いだけかもしれないため、100%安心はできないと思った。

 

「せんせ、行きましょう」

 

町のメイン通りでは、祭り屋台...金魚すくい、スーパーボール釣り、たこ焼き、ベビーカステラ...がずらり両脇をかためている。

家族連れや恋人同士、浴衣姿や甚平姿の者たちはイベント会場を目指してそぞろ歩いている。

両脇の屋台に目と鼻を奪われた彼らによって、あちこちで滞留を作っていた。

直進した先に区役所駐車場があり、チャンミンが設営を手伝った祭り櫓はそこにあった。

数珠つなぎになったぼんぼりの赤い灯りで祭り感を盛り上げている。

 

(懐かしい...。

最後に来たのは大学生の頃だったけ?)

 

地元にはあまりいい思い出がないチャンミンだった。

仕事を休めないことを理由に、地元のイベントを外したタイミングで帰省していた。

正直に言って、花火大会など足を運びたくないイベントそのものだったが、今年は別だ。

特に恋人を伴って出かけるのは初めてのこと。

気がのらないが、ユノと一緒ならばこれほど心強いことはない。

隣を歩くユノの存在感じながらだったら、 ...彼が放つオーラ―で視線を浴びてしまうきらいがあったが。

 

「せんせ、歩き方変ですよ?

筋肉痛っすか?」

 

やや中腰気味に歩くチャンミンを見て、祭り準備の力仕事がたたったのかと心配したのだ。

 

(せんせは運動不足な人だし。

重いものをたくさん運んだだろうし)

 

「う、うん」

 

チャンミンは先程のセックスで無理をした為だとは言いにくかった。

 

「重いものを持ったから」

「そっすか。

湿布貼った方がいいかもしれないっすね」

 

「家にあると思います」と笑い、とんとん、と腰を叩いた。

どちらかというと、チャンミンは自己顕示欲が低い方だった。

ところが今回に限っては...ユノに限っては 「僕の恋人です」と見せびらかしたい気分が生まれていた。

 

「めっちゃ、いい匂い」

 

目を輝かせたユノは右に左にと目を奪われ、大忙しのようだった。

 

「せんせ、何食べます?

腹減りました」

「なんでも買ってあげますよ」

「やった」

 

チャンミンはユノに袖を引っ張られ、あっちこっちへと連れまわされた。

いつも以上に子供っぽいユノが微笑ましい。

 

「家ではごちそうが待ってるんでしたよね?

全部食べたいところっすけど、厳選したものにしょう」

 

ユノは名残惜しそうに焼きそばの屋台を後にした。

ユノなりの配慮だろう、一定の物理的距離が2人の間にあった。

彼の性格上、手を繋いで歩きたいのが本音だろう。

 

 

「?」

 

ごろごろいう音に2人は空を見上げた。

夜空の半分が雲で隠れている。

雲の動きは速い。

 

「雨...降るんすかね?

昼間晴れてたのに」

「どうでしょう...大丈夫じゃないでしょうか?」

 

「そうあって欲しいっす」

 

花火が上がるまで1時間少々あった。

 

「あの~。

確認したいことがあるんすけど?」

「なんですか?」

「せんせのご家族はせんせのこと知ってるんすか?

その~、せんせは同性が好きってこと?」

「知ってますよ」

「ホントっすか!

それなら話は早い」

「話?」

「内緒っす」

 

チャンミンは意味ありげなユノの笑いに警戒した。。

 

「何をたくらんでいるんです?

怖いなぁ」

「怖がらなくていいっすよ。

あ!

アレ、アレが食べたいっす」

 

ユノが指さしたのは蜜がけフルーツの屋台だった。

 

 

「こういうの、初めて食べます」

「僕もです」

「女子が好きそうっすね」

「そうですね」

 

2人はそろって、蜜がけした果物の串を手にしていた。

長い串に、トータル5個の生のイチゴが突き刺さっており、その上から糖蜜がかかっている。

 

「そういえば、似たようなもの、持ってましたよね?

ね、せ~んせ?」

「ユノさん!」

「あはははは」

 

ユノがアナルビーズのことを指していることに気づき、恥ずかしさのあまり全身が熱くなる。

ユノの言う通り、愛用のアナルビーズの色と形状が現在手にしているイチゴ飴と似ている。

 

「あれについては...言わないでください。

あ~、笑ってますね」

 

「笑てないっす」

「笑ってました。

にや~って」

「あ~、それは、『せんせったら可愛いなぁ』って思っただけです。

惚気の微笑みっすよ」

 

イチゴにかぶりつくと、溢れ出た果汁がユノの顎を濡らした。

 

「こぼれましたよ」

 

チャンミンは親指でユノの唇をぬぐった。

ユノの下唇は果汁でみずみずしく潤っていて、かぶりつきたい衝動に襲われた。

と、その時...。

 

「おう、チャンミンじゃないか!」

 

振り返ると、30代らしい男女が数人いた。

チャンミンの表情がこわばった。

 

 

(つづく)

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