(9)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

 

「どうぞ。早かったですね」と、ユノを部屋に通したチャンミン。

 

心に巣食いだした疑念を振り払えず、まともにユノの顔が見られない。

 

幾度か訪れているユノは、部屋に上がると迷わずソファに直行した。

 

ユノは「うちのバイト先でテイクアウト始めたんすよ」と、持参してきたものをローテーブルに広げ出した。

 

「いつもいつも貰うばっかりで、ごめんね」

 

「俺の気持ちですから、気にしないでください」

 

突っ立ったままのチャンミンに、ユノは「座らないのですか?」と声をかけた。

 

「すみません!」

 

慌てたチャンミンはその場に座ったのだが、それが姿勢を正した正座だったため、彼が緊張している心情がありありと現れてしまっている。

 

当然ユノは、ぎこちなさそうなチャンミンの様子に気づいていて、その理由について、スルーした方がいいのか追求した方がいいのか、迷っていた。

 

(せんせ...なんか変だ。

今日の昼間までは普通だったのに...)

 

「あの~。

夕飯まだだったから食べてもいいっすか?」と、容器の蓋を開けた。

「もちろんもちろん。

どうぞどうぞ」

 

「いただきます」

 

ユノは白米をもぐもぐ咀嚼しながら、「せんせが言葉を二度繰り返す時は、何かしら動揺している時だ」と思っていた。

 

(ドアを開けた時のせんせの固い表情。

最初は疲労や寝不足が原因なのかと思ったけど...そうではない気がする)

 

チャンミンは容器の蓋を片付けたり、ユノのためにお茶を注いだりと、そわそわ落ち着きがない。

 

目を合わせようとしないチャンミンを前にして、「何か怒らせるようなことしたっけ?」と首をひねったが、「もしかして...」と心あたりもあった。

 

(まさか、花火大会という名の合コンに参加したことを知ってるんじゃないだろうか?)

 

ヒヤッとしたが、すぐに「それは考えにくい」と否定した。

 

(せんせと花火大会との接点がどこにある?

俺を迎えに来た時、せんせの態度は普通だった。

だから、目撃はされていないはずだ。

誰かから聞いたとか?

せんせと繋がりがある奴なんていたっけ?

...免許取りたいって言ってた奴いたっけ?)

 

チャンミンにかまけた半年間、友人らと疎遠になっていたせいで、彼らの最新情報に疎くなっていた。

 

(あいつらは、そっけなかった俺を懲りずに誘ってくれる貴重な学友たちだ)

 

「......」

 

チャンミンは食事中のユノを、ちらりちらりと覗っている。

 

「せんせも食べてください」

 

「いえ...僕は今は大丈夫です」

 

ユノはチャンミンと目が合うごとに、笑い返したり食事を勧めたりしたが、チャンミンの態度がはっきりしない。

 

「......」

 

(...なんか...居心地が悪い)

 

(話題が何も思いつかない!

TVでも付けておけばよかった...)

 

ユノもチャンミンも、相手に探りをいれられずにいた。

 

チャンミンはユノに、「女の子と一緒に花火大会に行ってたんだって?どういうこと?」と。

 

ユノはチャンミンに、「言いたいことがあるなら、言ってくださいよ。もしかして、花火大会のことですか?」と。

 

なぜなら、無駄に話を振って墓穴を掘りたくなかったからだ。

 

その静寂を破ろうとユノは、「せんせもひと口どうすか?」と、ハンバーグの欠片を刺したフォークを、「あ~ん」とチャンミンの口元に近づけた。

 

「...っ」

 

チャンミンは気持ちでは突っぱねようと迷ったくせに、口は無意識で大きく開けていた。

 

ユノは大き目に切り分けたハンバーグを、ふざけてチャンミンの口の中に押し込んだ。

 

「ユノさっ...!」

 

チャンミンの口の中はハンバーグでいっぱいになり、口の周りにデミグラスソースがたっぷり付いている。

 

リスみたいに頬をふくらませ、目を白黒とさせているチャンミンに、ユノの中で何かのスイッチが入った。

 

「せんせ!」

「ユノさっ...!」

 

ゴツン、という鈍い音。

 

フォークが床を転がる固い音。

 

ユノはチャンミンを床に押し倒していた。

 

床についたユノの両腕の間で、チャンミンは目を大きく丸く見開いている。

 

「......」

 

「ユノさん!

ちょっと...!」

 

ユノが腰の上に乗ってチャンミンの動きを封じている。

 

「下りてください!」

 

「いやです...!」

 

ユノの力強い両手で肩を掴まれて、身じろぎも拒まれた。

 

自分を見下ろすユノの真剣な1対の目に、チャンミンはたじろぐ。

 

(ユノの目...)

 

期待していたことが実現したシチュエーションだったのに、チャンミンの今の心境では喜んで受け入れるのは難しい。

 

(モヤモヤを晴らすために、言葉では解決できないからとセックスに持ち込むパターンが多かった。

『一緒にしたいことが特にないから』、といった理由の時も多かった。

ムラっときたからヤる。

そういうものなんだけど...)

 

ユノを見上げるチャンミンの目が、動揺で揺れていた。

 

(どうしよう!)

 

ユノがチャンミンを押し倒してしまったワケ...ぎこちない空気感を晴らす方法が見つからず、焦れた結果である。

 

「どうしたの?

ユノさん!」

 

もぐもぐ食べるチャンミンの顔が可愛くて、ムラっときてしまった結果でもある。

 

ところが、押し倒した後になってその勢いがしゅん、と消えてしまったのだ。

 

(このままじっとしていたら、変に思われる!

押し倒した次は...。

そうそう...キスだ!)

 

チャンミンはめざとく、ユノの目から困惑の色を見つけてしまった。

 

「!!」

 

顔を近づけたユノの顎は、チャンミンの手の平で押しのけられてしまったのだ。

 

 

(つづく)

 

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