(7)チャンミンせんせといちご飴

 

1時間のネットサーフィンの末、辿り着いたとあるサイトページにチャンミンは目を輝かせた。

 

ピンポイントな情報を求めて、キーワードを足していく。

 

(これは...どうかな)

 

カチカチとマウスを操作する音、キーボードを叩く音...途中、幾度かその指が止まった。

 

その度、チャンミンの眼の焦点がぼんやりと霞んだ。

 

「......」

 

チャンミンは脳内で、来る花火大会の夜を予行演習をしていたのだ。

 

ユノ以上に来週のデート...夏の思い出といえば花火大会...を待ち望んでいたのだ。

 

「これ...いい感じだな」

 

チャンミンは左右に2サイトを並べて見比べた。

 

予約状況を確認し、スマホの電卓アプリで計算してみる。

 

「う~ん...」

 

最後のワンクリックの人差し指がぴたりと止まった。

 

(...若い子の好みに合うかどうかは自信がない。

やっぱりこっちの方が...)

 

チャンミンは腕を組んで目をつむり、「う~ん」と唸り、再び脳内で自分の隣にユノを立たせてみた。

 

(ユノの意見を聞かずに僕が決めてしまってもいいのかな。

でもそれじゃあ、サプライズにならないし...)

 

迷いが生じてしまい、別のサイトへと飛び、さらに幾ページも繰った後、結局元のページに戻る。

 

(どうしよう...決められない)

 

髪をくしゃくしゃとかき乱した。

 

チャンミンは優柔不断な男だった。

 

「う~ん...」

 

頭の整理ができなくなり、プリントアウトしてみたものを見比べた。

 

「どれにしよう...」

 

花火大会は2人にとって初めてのデートといってもよい(チャンミンの部屋に集合したものを回数に入れれば、初めてとは言えないが...)

 

ユノをエスコートする大人の余裕を見せたいし、完璧なデートに仕上げたいし、ユノには笑って欲しい。

 

「う~ん...」

 

こめた願いが多過ぎて、チャンミンは自分で自分の首を絞めていた。

 

瞬きを忘れてディスプレイとにらめっこしていたせいで視界が滲んできた。

 

「ふわぁぁぁ...」

 

大きく伸びをし背面にのけぞった時、上下反対の掛け時計が視界に入った。

 

「はっ!?」

 

初デートプランを練るうちに、いつの間にか日付を超えていたのだ。

 

チャンミンはこれ以上悩み倒すのに疲れて、クリックするのを寸止めした最初のコースに決定することにした。

 

スケジュール管理はアナログ派のチャンミンは、スケジュール帳に『14:00集合』と記入した。

 

(ユノに知らせてあげないと...)

 

夜鷹のユノでも深夜1時過ぎの電話は迷惑だろうと、電話をかけるのは遠慮することにした。

 

「ん...?」

 

メッセージを送ろうと手に取ったスマホの通知ランプが点滅している。

 

『せんせ、おやすみ(ハート)』

 

「ふふっ」と笑みがこぼれ、チャンミンの口角が上がった。

 

『おやすみ』のメッセージを羊イラストのスタンプと共に送信した。

 

すると、10秒もしないうちに、『まだ起きていたんですか?』と返信が来た。

 

『はい。

済ませたいことがあったので。

今から寝ます』

 

『それがいいです。

せんせは若くないんですから、睡眠は大事ですよ』

 

ユノの軽口にいちいち乗ったりしたら、大人げない。

 

『どうせ僕はおじさんですからね(泣)』といじけてみせると、土下座するウサギのスタンプが返って来た。

 

それから、『おやすみなさい』のメッセージの後、「大好き」とハートが散りばめられたスタンプが送られてきた。

 

クスクス笑いながらチャンミンも、お揃いのスタンプを返信した。

 

スタートして2週間あまりの2人の恋は、お祭りで売られているレインボーカラーの綿菓子みたいにふわふわとドリーミーだった。

 

イチャイチャも未経験。

 

チャンミンはそのきっかけを自ら作ろうとしていた。

 

 

チャンミンはソファからゆらりと立ち上がり、食べ終えた温野菜サラダの空き箱を捨て、洗面を済ませると、布団にもぐりこんだ。

 

(明日も仕事だ...)

 

長時間ディスプレイを注視し、集中し過ぎたことで若干興奮状態にあった。

 

すぐに寝付けそうにない。

 

(明後日は休み。

その次の日は、ユノを部屋に招待しよう。

美味しいものを作って、お腹が膨れたら近所を散歩するのはどうかな。

散歩の後はDVDを観たり。

...映画館で観た方がいいのかな...)

 

ごろりと寝返り打った。

 

(やっぱり、どこか買い物に出かけた方がいいのかな。

20歳そこそこの男って、どういう所に遊びにいくんだろう。

ゲームセンター?)

 

再び、チャンミンの脳内でぐるぐると、デートプランが練られていった。

 

(ゲームかぁ...今は何が流行っているんだろう?

ゲームセンターに行ったとする。

その後食事をして、すぐ解散するのはつまらないから、僕んちかユノんちに移動する。

...そこでダラダラ過ごして...それから...それから...)

 

チャンミンの思考は必ずと言っていいほど、「ある」一点で行き止まりになるのだ。

 

そのシーンを妄想していると...。

 

(ここ2,3日、抜いていなかったからなぁ)

 

その手はそろそろと、ハーフパンツの中へ滑り込んだ。

 

(最後に生身のオトコとセックスしたのはいつだったっけ?

...もう思い出せない)

 

それはむくむくと育ってゆき、チャンミンはうずくまると右手は後ろへとまわる。

(ユノには絶対に言えないけれど...)

 

人差し指を舐めた。

 

「...っ...っ...あっ...は」

 

目をつむり、背中にのしかかったユノの重みと、打ち付けられる固い腰、コリコリと刺激されて目の前が真っ白になる感じ、奥を攻められて悲鳴をあげる...。

 

『あの』感覚を記憶から掘り起こす。

 

片頬をマットレスに押し付け、腰は高々と突き上げたチャンミン。

 

「あっ...いっ...いっ...っ...いっ...!」

 

イケそうでイケなくて、握りしめていた左手をシーツからあそこへと移動させた。

 

後ろと前、高速にスライドさせるうち、昇りつめていって...ぶるりと腰が震えた。

 

放たれたものは、用意していたティッシュペーパーでキャッチ。

 

「はあはあはあはあ...」

 

(花火大会の後...きっと、そういう流れになる。

僕らは大人だ。

ユノはきっと、尻込みするだろう。

だから僕はリードして

...怖い。

ユノに引かれたらどうしよう。

でも、大好きな人と抱き合う時の幸福感を味わって欲しい)

 

可愛いメッセージのやり取りをしたばかりだから余計に、自分を慕ってくれるキラキラなユノの眼に嫌悪の影が差すことが怖くなった。

 

 


 

自動車学校とは、指導員にとって出会いの多い場だ。

 

週に1度行われる入校式の度、1~3人の担当教習生が新たに加わる。

 

チャンミンが勤めている自動車学校では、男女関係トラブルを避けるため、男性教習生には男性指導員を、女性教習生には女性指導員が担当するルールになっている。

 

この週の入校式では、チャンミンに1人の教習生がついた。

 

20歳男子の大学生U君だ。

 

ルックスは中の中だが、ファッション雑誌から抜け出したかのように、お洒落上級者だった。

(そのセンスはエッヂがきき過ぎていた。U君の開襟シャツの袖口がほころびており、裾も擦り切れているように見えた。『この子は経済的に苦労しているのかな』と、心配してしまったチャンミンだった)

 

(へぇ...ユノと同じ大学なんだ)

 

たったそれだけで、ユノと繋がっている感がして気分が上がるのだった。

 

(つづく)

 

BL小説TOP「僕らのHeaven's Day」