~シヅク~
「美味しそうな匂い!」
「グラタンだよ」
チャンミンは、パッケージを見ながら答える。
「ほぉ、グラタンなんて凝ったものを」
「焼くだけだから」
白いキッチンカウンターの上は、オーブンと真新しい炊飯ジャーのみ置かれていて、スッキリとしている。
(チャンミンっぽいなぁ)
私は、キャビネットの扉を開けたり、冷蔵庫の中を覗き込んでいると、チャンミンは
「シヅクは邪魔だから、あっちに座ってて」
と、私の背中を押した。
「はいはい」
リビングのソファに座って、キッチンに立つチャンミンを眺める。
(一週間前は、むっつり、モジモジ君だったのに、この変わりようは!)
ボヤキながらも、私はチャンミンに見惚れていた。
(カッコいい奴やな)
実際、チャンミンは通り過ぎる人が思わず振り向いてしまうくらい、美しい容姿の青年だった。
ドームの中で、もの思いにふけっているチャンミンを見かけた時も、そう思っていたが、
今は、身近な存在になったからか、よりリアルに彼の美しさが分かる。
手足が長く、動作も冴えている。
鼻梁の額から伸びるラインが美しい横顔。
何度もオーブンを開け閉めしてみたり、冷蔵庫から飲み物を取り出して、テーブルに並べたりする動作が微笑ましい。
グラタンのパッケージを読むくそ真面目な目元、
眉根を寄せて、タブレットを取り出し調べ物をしながら、つぶやいているところ、
グラタンの焼き具合をチェックして、「よし」と口に出してるところ。
それから、「不法侵入」をした私に腹を立てて怒った表情。
チャンミンの気持ちが、表情に現れているところを見ることができて、幸せだと思った。
明らかに、彼の中で変化が起こったらしい。
嬉しくもあり、同時に「寂しい」と思った。
チャンミンに渡す予定の、お土産の入った袋を意識した。
(チャンミン、ごめんな)
心の中で、彼に謝った。
チーズの焦げる、いい香りが漂ってきた。
「シヅク、火傷するから、そこどいて!」
チャンミンの手には、タオルに包んだ焼きあがったグラタン。
グツグツと音をたてるマカロニグラタン。
一生懸命、私をもてなそうとしているチャンミン。
テーブルに並べられた、2人分には多過ぎるお皿、料理とお酒。
何もかもに...、
感動するんですけど...。