お腹もいっぱいになったことだし、と二人はソファに移った。
(...うーん...)
シヅクは、さて何を話そうかと困っていた。
(困った...話題がない)
チャンミンは、黒のセーター、黒のスリムパンツと、普段と変わらないファッションだ。
「そうだ!シヅクに渡したいものがあるんだ」
チャンミンは、ソファから立ち上がった。
(渡したいもの...?
...指輪か?...だったら怖いぞ!)
シヅクは、チャンミンが寝室へ行き、小さな紙袋を持って戻ってくる様子を見守る。
「はい」
そして、シヅクにそっと手渡す。
黒のつややかな袋だ。
(なかなかお洒落じゃないの)
「何?」
「いいから、出してみてよ」
チャンミンの目はキラキラと輝いている。
(子供みたいだなぁ。
しかし、指輪の箱だったりしたら...怖い)
チャンミンは、じっとシヅクの様子をうかがっている。
(指輪だったりしたら...なんて反応すればいいんだ⁉)
妄想が膨らむシヅクは、チャンミンを見つめるばかり。
チャンミンは、シヅクの反応を早く見届けたくて仕方ない様子で、シヅクの座るソファの前にしゃがんだ。
「いいから!」
「ん?」
紙袋の中に入っていたのは、ふわふわの黒いマフラー。
「これ...」
あの日の夜明けに、シヅクがチャンミンの首に巻いてあげたマフラーだ。
(貸したままだったのを忘れてた)
「ああ、この前のね、ありがとう」
取り出すと、ふわっと優しい香りが。
「いい匂い!」
「そのままだとなんだから、洗濯したんだ」
「わざわざ?いいのに」
シヅクはマフラーに鼻をうずめて、思いきり香りを吸い込む。
(僕が選んだ洗剤だ)
「ちゃんと手洗いしたから、縮んだりしていないと思う」
「わざわざ?」
「たいしたことないさ」
あまりにもチャンミンがシヅクを見てるので、照れくさくなったシヅクは、マフラーをぐるぐると首に巻いた。
「洗剤にはこだわってみたんだ」
(ふわふわで、柔らかくて、暖かい...そしていい香り)
「香りも控えめだから、大丈夫だと思う」
「私が好きな匂い!」
「うん、そうなんじゃないかと思って」
シヅクの胸に、チャンミンの心遣いが染み入る。
「買ってから一度も洗ったことなかったから、ありがとね」
「えー!」
チャンミンが、大げさにのけぞる。
「んなわけないだろうが!」
チャンミンは、自分からのサプライズに喜んでいるシヅクを見られて、満足感でいっぱいだった。
(誰かを想って、
誰かのために、何かしてあげるって、
こんなに温かな気持ちになれるんだ!)
チャンミンは、マフラーの黒と、シヅクの白い肌のコントラストから、目が離せなかった。
(嬉しい顔のシヅクって、可愛い)
「いたっ!」
シヅクが大声を出した。
「ヤバッ!」
「どうした?」
「耳に...引っかかった!」
「え?」
「マフラーが!」
シヅクのピアスの金具に、マフラーの毛糸がひっかかっている。
「えっと」
シヅクはピアスを押さえて、マフラーを引っ張ったり、緩めたりしていたが、ますます絡まるばかりだ。
(柄にもなく、アクセサリーなんか付けるから、このザマだ!)
「どうすればいい?」
チャンミンは、立膝をついてシヅクに近づいて手を伸ばす。
「触るな!」
「シヅク、手を離して」
チャンミンは、シヅクの腕をつかむ。
「わー、やめろ!耳がちぎれる!!」
「僕が取るから」
チャンミンは、シヅクの耳元に手を伸ばす。
「触らんといて!」
「いいから!手を離せ!」
チャンミンは、シヅクの両手首を持って、ぐいと下げた。