夏休み中の起床は遅くなりがちが、今朝の僕は違った。
寝付きはよかったけれど、早朝4時には目覚めてしまった僕は5時まで布団の中で粘った。
今朝は下着を濡らしておらず、ホッとした。
...でも、僕のおちんちんの具合がおかしい。
普段は柔らかく下に垂れているおちんちんが、固く大きくなっている。
毎朝、こうなのだ。
このまま身を起こすと、パジャマのズボンの前がおちんちんの形に張り出している。
この状態を母に見られたくなくて、布団から出られない朝もたまにある。
家の中は静まり返っているから、母は未だ眠っているようだった。
僕は布団から出ると母の部屋の前を通り、洗面所へと向かった。
着替えを終える頃には、僕のおちんちんはおさまっている。
・
就寝前に炊飯器にタイマーをかけておいた。
炊きたてのご飯をボウルによそい、大きなおにぎりにした。
我が下宿人の特権は朝食サービスだ。
玄関ホールの階段脇に、代理で受け取った荷物、朝食、洗濯済のタオルを置くための棚があり、ユノへの朝食もそこに置いておけば、お腹を空かせた彼がいずれ取りにくる。
昨夜のカミングアウトの件のためにユノはバイトを休みにしていたから、部屋にいるはずだ。
温かいうちに食べて欲しいし、『オメガ』の話もしたいし...それから、ユノの顔が見たかったし。
僕は朝食をユノの部屋まで届けることにした。
「ユノちゃん?」
木戸の外から声をかけたが返事がない。
開かないドアを前に一瞬、あの出来事が...肌色がもみあう光景が鮮明に頭に浮かんだ。
汗で光る裸のユノの背中。
ユノの腰に巻き付いた足。
玄関に大きな靴...男の足。
呻き声。
時間が経つにつれ僕の記憶は鮮明さを増していった。
ユノは腰が上下に振っていた。
二人は一体、何をしていたんだろう?
僕はぶんぶん頭を振り、変な気持ちにさせる記憶を追い払った。
建付けの悪い木戸はがたがたと音をたててスライドした。
「......」
ユノは眠っていた。
白いシーツはしわくちゃで、足で蹴飛ばされたタオルケットは壁際に追いやられ、よほど暑かったのか上半身は裸だった。
寝しなに読んだとみられる漫画本が枕元に伏せられていた。
「......」
僕はトレーを畳に置くとユノの枕元までにじり寄り、彼の寝顔を見下ろした。
伸びかけた髭が目立つのは、肌が白すぎるから。
伏せたまつ毛は髪色と同様に濃い黒色だった。
僕の視線は徐々に下へと移動してゆく。
呼吸に合わせて上下する胸は二つの山に盛り上がっている。
真っ平な下腹は、つん、と人差し指で触れたところ固く引き締まっている。
「!」
突然、ユノの腕が動いたものだから、僕は下腹に触れていた手を素早く引っ込め、息を殺して彼の行動を見守った。
「う...う...ん」
ユノはポリポリと胸の谷間を引っかくと、その手はそのままに眠りに戻ってしまった。
「ふぅ...」
安堵のため息をついた直後、ユノの手が胸の上からずり落ち、僕は再度飛び上がりそうになった。
ユノが目覚めないかどうかをしばらく待ったのち、僕は彼の観察に戻った。
ユノの裸なんてお風呂で見てきているから珍しくもなんともないけど、眠っていて無防備な姿をじっくり観察できるのは滅多にない。
僕の視線はユノの下腹から下へと移動していった。
(これは...!)
僕は思わず、自身の股間に手を当ててしまった。
夢精でパンツを汚してしまった朝のことを思い出した。
あの時は、汚れたパンツをユノが洗ってくれたけれど、毎朝おちんちんが固く大きくなってしまう件をユノには言えずにいる。
とても恥ずかしいことだという意識があるのだ。
これ以上ユノのおちんちんの辺りを見ていられなくなって、視線を彼の顔の方へと戻した。
むん、とユノの匂いが香った。
僕の顔はユノの顔に、吸い寄せられるように近づいていった。
男の人にしては赤みのさした、ふっくらとした下唇だった。
僕はユノの唇めがけて、顔を寄せていった。
1秒ほど迷った挙句、唇を落とした。
...これが僕にとってのファーストキス。
相手は大学生で しかも男の人...!
凄いよね。
多分、呼吸を止めていたのだと思う。
唇を離した僕は酸欠で、ユノに吐息がかからないよう身を引いて、音を殺して息を吸って吐いた。
目を覚ましていたらどうしようと、キスをしておきながら不安になってきた。
(ドキドキドキドキ)
だって言い訳の何ひとつ用意していない。
「チャミ~、俺にキスしただろ?
なんでだよ?」
なんて訊かれたら、僕は何て答えたらいいんだろう。
「気持ち悪い」って言われたらどうしよう!
僕もユノも男だ。
でも僕は子供だから、イタズラだと見逃してくれるはずだ。
ユノは憧れの兄に近い友人で、ボディーガードみたいな人で大好きな人。
大好きな人だからキスをしてみたくなった...こんな理由じゃ駄目かな?
この『好き』の種類は説明できないけれど、はっきりと言えるのはとても大事な人だということ。
僕はすーすーと寝息をたてるユノを、身を乗り出して観察した。
(よかった...眠ったままだ)
キスをしたいと思うなんて、ユノに対して悪いことをしてしまったといった罪悪感もあれば、大胆な自分に感心してしまう。
(僕ってば凄い!)
何かに突き動かされて、身体が自然と動いたんだ。
たしかに唇同士の感触や温かさを味わうどころじゃなかった。
しんと静まりかえった気持ちだった。
例えて言うならば、水面に波ひとつ、水紋ひとつたてないように落としたキスだった。
そこは森の奥深く、靄が晴れると姿を現す神秘の湖だ。
僕のファーストキスは、エロティックさとは無縁のものだと、胸を張って言える。
「う、うう...ん」
「!!」
ユノの呻き声と身動ぎに、僕の心臓は止まりそうになった。
「......」
むにゃむにゃと、美味しいものを食べているかのように口を動かしている。
(ぷっ。
子供みたい!)
いつまでも見ていたい気もするけれど、そろそろ下へ戻らないと。
出勤前の母と一緒に朝食を摂りがてら、診察の日の段取りを確認したかった。
朝食のトレーを、ユノの足が蹴飛ばさない場所までずらした。
そして立ち上がろうとした時、僕の手首は背後から引っ張られた。
「!!!」
振り向くと、僕の手首を捕らえているのはユノの手だった。
(つづく)
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