(32)ぴっかぴか

 

なぜ、こんな状況になっているんだ?

 

なぜ俺は、美しすぎるゲイボーイと一緒に風呂に入っているんだ!?

 

チャンミンは湯船につかり、俺は洗い場で身体を洗っていた。

 

チャンミンは俺から目を反らさない。

 

「......」

 

落ち着かない俺はシャンプーボトルやタイルの柄模様を、さも興味深げに観察しながら、ボディブラシ(柄のついた、外国映画で登場してくるみたいなアレだ)を動かしていた。

 

今この時、チャンミンの照準が俺の身体のどこにロックオンしているのか...シャンプーの濯ぎ中で目をつむっていても分かるんだからな。

 

俺のシモの毛が何色なのか、興味津々だったからな。

 

そういう俺の方だって、チャンミンの身体をちらちらと見てしまった。

 

肌の色は俺よりも色黒なのに、あそこの色素が薄いところがエロい。

 

チャンミンもチェリーだと言ってたからなぁ。

 

(つまり未使用)

 

男同士の場合、そっち側とあっち側と分かれているらしく、その両方、というタイプもあるのだとか(チャンミン救出に向かう電車の中で、ネット検索で仕入れた情報による。検索窓に羅列された単語に信じられない気分になった)

 

気取ったレストラン。

 

レタスとキャベツしか知らない俺にとって、初めて見る色と形の葉っぱのサラダは、緊張を強いられるメニューだった。

 

彼女は(ひとつ前の恋人)、珍しくもなんともないわといった風に、フォークに刺した葉っぱを口に運んでいる。

 

俺はと言えば、クセのある香味や苦味のある葉っぱに、「大して美味いものじゃないな」と思った。

 

食事の後、俺の部屋でDVDを観る予定になっていた。

 

彼女はきっと、アレするつもりでいるだろう。

 

俺は...どうさりげなく、エッチをせずに乗り切れるかで頭を占めていた。

 

ハグやキス、それから、女の子のアソコに触るくらいはできるけれど、俺自身がパンツを脱ぐのはちょっと...。

 

香味が強く、近所のスーパーでは手に入らず、珍しい葉っぱは...クセがあり過ぎて、そうバクバクと食べられるものじゃない。

 

...チャンミンみたいだなと思った。

 

先ほど、俺と入れ替わりでチャンミンが湯船につかった時のことだ。

 

湯船の縁をまたぐチャンミンの腰つきが、丸みを帯びているように見えてしまうのは、俺の偏見か?

 

あのタクシー運ちゃん元彼に、組み敷かれているチャンミンの姿まで妄想してしまった。

 

そっち側になる男は女の子になりたいんだろうか?と真っ先に思ってしまったのも、偏見なんだろうか?

 

...ふむ、そうだろうな。

 


 

~チャンミン~

 

ユノの身体は素晴らしかった。

 

洋服を着ていると分かりにくいけれど、裸になるとよくわかる。

 

盛り上がったお尻や、頑丈そうな腰にバッチバチに打ちつけられたい。

 

昨夜のレストランで、僕が想像した以上の身体つきだった。

 

お腹から太ももへと流れる筋、腸腰筋...名付けてエロ筋!

 

細身な身体なのにくっきり存在するそれに、僕のあそこの奥がウズウズしだした。

 

前の方もムズムズしてきたから焦った。反応したところを見せたりなんかしたら、ユノの信頼を失いかねない。

 

...既に失いかけてるかもしれないのが、今の懸念事項だったりするけど...。

 

たった1日で、僕の生態を立て続けに披露してきたから、そろそろユノのキャパを越えてしまうだろう。

 

僕は頭を切り替えるために、ユノの童貞主義に切り込んでみることにした。

 

「...僕、どうも理解できないんだけどさ。

この子だと決めた子となら、童貞を捧げてもいい、と思ってるんでしょ?

どうして?

ホントは何かあったんでしょ?」

 

「......」

 

身体を洗うユノの手が止まった。

 

「多分...俺は、セックスが嫌いなのかもしれない」

 

「え?」

 

「経験したこともないのに、嫌いも何もないけどな。

嫌悪してるところがあるかもしれない」

 

予想外の回答に、僕は驚いた。

 

(つづく)

 

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(31)ぴっかぴか

 

~ユノ~

 

こ、こ、こ、この部屋は何なんだ!

 

恥ずかしながら、俺はラブホを利用したことがない(童貞だから当然か)

 

だから、『元』ラブホだとかいうチャンミンの部屋に興味津々だった。

 

テレビや雑誌、ネットで知った程度の情報に過ぎないが、室内に入ってすぐどーんとデカいベッドが鎮座している点は...さすが『元』ラブホ。

 

チャンミンがベッドは広い、と話していたのも納得のサイズだ。

 

「ベッドはそのまんまなんだ。

気持ち悪くないか?

ほら...何かいろいろと染みついていそうじゃん」

 

「何かって...何?」

 

「分かってるくせにとぼけるなよ」

 

すべてがもの珍しくて、部屋の造作を見て回っていた。

 

壁紙は想像を裏切らないパープル色。

 

窓の内側に壁紙が貼られた引き戸があるのは、室内に外光が差し込んだら困るからだろうな。

 

クローゼットがないため、部屋の一辺を大型のハンガーラックと収納ケースが埋めていた。

 

吊るされた大量な衣服は手入れがゆき届いており、チャンミンらしいな、と思った(俺が貸した服に文句を垂れたのも当然か、とも思った)

 

「ここは家具家電付き物件だったんだ。

それにベッドは床に固定されてるんだ、簡単には撤去できないよ。

長期出張や転勤の人にはうってつけなところ。

僕もここにず~っと住むつもりはないから、ここで十分なんだ」

 

「なるほどね」

 

「先にお風呂に入る?

湯船にお湯を張ろうか?」

 

「......」

 

俺が無言になってしまったのには訳がある。

 

俺が最も驚いたのは、ベッドの横にあるガラス張りの空間!

 

風呂が丸見え!

 

(やたら洗い場が広くて、バスタブは円形なんだ)

 

気乗りがしない俺に、チャンミンは「ロールスクリーンがあるから、見えないよ」と。

 

ただ、そのロールスクリーンが外側にある点が気に入らない...と警戒した時、「ゆの」とチャンミンにTシャツの袖をつんつんと引っ張られた。

 

(出た!『ゆの』)

 

「ゆののシャワータイム...見ちゃおうっかなぁ」

 

「ば、馬鹿野郎!」

 

「もう時間も遅いし、一緒に入っちゃおうかなぁ?

時短になるでしょ」

 

「お断りする」

 

俺の裸を舌なめずりしながら、舐めるように見るチャンミンなんて、容易に想像できてしまうではないか!

 

「僕の裸ならもう見ちゃったんだから、平気でしょ?

僕らは男同士だし、恥ずかしがることはないでしょ?」

 

「そりゃそうだけどさ、あんたは男が好きなんだろ?

俺が女子の裸を見た時みたいな気分になるんじゃないのか?」

 

「大丈夫。

そういう目で見たりしないから。

ね、一緒に入ろうよ。

バスタブの中がピンクになるんだ」

 

「...わかったよ...」

 

「え...ホントに?」

 

さして抵抗しないうちに頷いた俺に、チャンミンは驚いたようだった。

 

俺はクタクタだったのだ。

 

昨夜から今まで、俺の顔色は赤くなったり青くなったり、驚きの連続(その全部がチャンミンがらみのこと)

 

なんと濃い24時間だったことか!

 

風呂に入って、とっとと眠りたかった。

 

どうせ丸め込まれ押し切られるんだ、無駄な抵抗は止めよう、と。

 

「風呂に入ろうか。

眠いんだ。

どこが入り口?」

 

脱衣所はなく、ドアを開けるとすぐ浴室だった。

 

浴室のドアの前で衣服を脱ぐことになってしまうが、頭がぼうっとしていて、俺の身体を舐めるように見るチャンミンなんて、意識の外に追いやった。

 

照れれば照れる程、チャンミンは歓喜する男だ。

 

甘ったれた言葉使いと妖しく誘う目付き、色気ある身体つき...ふむふむ。

 

タクシーの運ちゃんの元彼の台詞は、あながち誇大したものじゃなさそうだ。

 

押したり引いたり、困ってみせたり、相手を翻弄させる達人だな、うん。

 

そうして、自身に夢中にさせるんだ。

 

だいぶこの男の生態にくわしくなってきたぞ...自分に感心している間じゃない!

 

...ん?

 

俺は今、もしかして食虫植物の袋の縁に立たされているのか?

 

チャンミンに身をゆだねる姿を想像して、股間を反応させかけたんだ。

 

俺のチェリーが危険にさらされている!!

 

(つづく)

 

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(30)ぴっかぴか

 

~チャンミン~

 

閉め切った部屋はむっとしていたため、換気のために窓を全開にした。

 

「暑いでしょ?

そこにリモコンあるから付けて。

その前に手を洗って!

タオルは適当に使って。

冷蔵庫にビールあるから...そっか、ユノは弱いんだったね。

お茶か水のペットボトルがあるから自由に選んで。

その前にお風呂に入る?

あ、お腹が空いているなら何か作ろうか?」

 

「なあチャンミン...」

 

「?」

 

部屋に入ってからの僕は、落ち着きなくバタバタと動きっぱなしだった。

 

ユノは部屋の真ん中に立ち尽くしたままで、呆れた表情で僕の様子を眺めていたようだ。

 

「落ち着けよ。

あんた...俺のかーちゃんか?」

 

「え...」

 

どうやら僕は緊張しているみたいだ。

 

気になる男が僕のテリトリーに居る。

 

慣れていないんだ。

 

どう振舞えばいいのか...忘れちゃった。

 

「僕んちに泊まってよ」とユノにしつこく迫ったくせに、誰かを自分の家に入れるのは滅多になかった僕。

 

つまみ食いの男たちと関係を持つのは、必ず外と決めている。

 

フッた男が別れた後、ストーカーまがいに僕のアパート前に張っていて怖い思いをしたことがある。

 

それ以降、半同棲するのも必ず彼氏の部屋と決めているのだ。

 

プライベートを見せてたまるか。

 

彼らとの交わりはいわばスポーツ、自身のフラストレーションを発散する時、エナジー補給タイム。

 

「俺に気を遣ってるだろ?

こっちまで気を遣っちゃうからさ、リラックスしろよ。

あんたの部屋なんだぞ?」

 

そう言いながらユノは、僕の部屋をぐるりと見回している。

 

僕はクローゼットからユノのために、着替えを取り出した。

 

恐らくユノは、僕に不信の気持ちを少しは抱いていると思う。

 

経験人数が多い男であることは、出会ってすぐには打ち明けていたけれど、ユノはそんな僕を単なる惚れっぽい男程度に思っているだろう。

 

出会いの店では、失恋したばかりと嘘泣きしてみせたからね。

 

彼氏がくるくる変わって、別れ話がこじれてしまった結果、今夜のような修羅場になるときもある。

 

身体の関係だけを求めて、数多くの男たちをハントし続けているだけじゃなく、彼氏らしき存在がいても、抵抗なく二股三股かけられる男とまでは思っていないはずだ。

 

本当の僕を知ってもらいたいのか、隠し通したいのか...。

 

隠し通したくても、ファミレスの一件でそれとなくバレかけてるからなぁ。

 

(つづく)

 

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(29)ぴっかぴか

 

ユノの手を引いて、僕は自宅への道を急いでいた。

 

終電まであと30分、途中で気が変わって逃げ出してもらったら困るのだ。

 

ユノとアレをしたいわけじゃなくて(そりゃあ、アレできたら素敵なことだけど)、あの男がユノに植え付けようとした悪いイメージを、できるだけ早く払拭したかったのだ。

 

どうせ僕という男はアバズレみたいな奴だって、早々と開き直るのは止めにした。

 

僕に引っ張られる格好でいたユノは、今は僕と肩を並べて歩いている。

 

「手を離せよ」

「逃げられたら困るもん」

 

その理由もあったけど、ユノと手を繋いでいたかった動機の方が大きいかな。

 

ユノの手首はがっちりと頑強...男の手...胸キュン。

 

いつもの僕が戻ってきた

 

「逃げねぇよ。

まあ、拉致られてるようなものだけどな。

逃げないから、手を離せよ」

 

「照れないで。

誰もいないんだし、ね」

 

間もなく日付が変わろうとしている時刻、片道3車線の幹線道路の歩道を歩いている者などいない。

 

脇道に入ると閑静な住宅地で、直ぐ近くに小学校がある。

 

さっきのファミリーレストラン前を通り過ぎて、シャッターの下りたドラッグストアとガソリンスタンドの前も通り過ぎた。

 

最後、コンビニエンスストアの前で右折したら直ぐだ。

 

後ろポケットの中のスマホが震えていたけど、知らんぷりした。

 

今夜のお相手を探している...後腐れのない...セフレのうちの一人からだろう。

 

「はい、到着しました」

「!!!」

 

案内された建物を見るなり、ユノは僕の手を振りきった。

 

逃げだそうとしたユノの手首を、両手でつかんで捉えた。

 

「離せ!」

 

僕の手をふりほどこうとするユノに、負けるもんか!

 

「ユノ!

違うって!」

 

「何度も言ってるだろ!

俺はあんたと寝るつもりはない!」

 

さすが逞しいユノだ。

僕は半ば引きずられてしまい、腰を落として必死に抵抗した。

 

「分かってるってば!」

 

「俺を騙したな!」

 

「騙してない!」

 

「ラ、ラ、ラブホテルじゃねぇか!」

 

「『元』ラブホテル!

ラブホテル『だった』建物だってば!」

 

「信じらんね~!

そんなバカな話あるかよ!」

 

ユノは真剣に頭にきているようだ。

 

目尻がキュッとキツネみたいに切れあがり、黒目がちの眼がギラッと輝いているのが、暗がりにも関わらず、よく分かった。

 

怒りでマヂになったユノの顔...悪くないねぇ。

 

ユノが逃げ出そうとしたのも当然か。

 

「ホントにホントの話!

見てよ、郵便ポストがあるでしょ?

暖簾もないでしょ?

看板もないでしょ?

営業してないでしょ?」

 

僕の指摘にユノは恐る恐るエントランスに近づいて、郵便ポストを確認している。

 

引き返して門柱のプレートに刻まれた『メゾン・ラスベガス』のマンション名に、腕を組みしかめっ面をしていた(僕もこの名称は気に入っていない)

 

壁の色がど派手なパープル色だし、メルヘンな門構えではあるけれど、そこを無視すればれっきとしたマンションだ。

 

暖簾(正式な名称は分からない)がはずされた駐車場には、住民の車が並んでいる。

 

「う~ん...」

 

「ね?

最近流行ってるんだよ。

ラブホテルを賃貸物件にリノベーションするってのが。

プライバシー面はばっちりだし、お風呂もトイレもある。

強いて欠点を上げれば、キッチンが狭いことかなぁ」

 

鍵を...と後ろポケットを探りかけた僕は、重大なミスを思い出した。

 

「...どうしよう」

 

部屋のカードキーは財布の中、財布は革パンのポケット、革パンはユノんち!

 

せっかくユノを連れてきたのに、部屋に入れないなんて!

 

「ほれ」

 

目の前に差し出されたのは僕の財布。

 

「...ありがと」

 

「財布がないと不便だろ?

あんたのズボンはまだ俺んちだけど」

 

「助かったよ。

ゆの、ありがと」

 

「...ま、まあな」

素っ気ない言い方なのは、照れてるからだね。

 

僕は財布からカードキーを取り出して、正面玄関ドア横のプレートにかざした。

 

「オートロック式なのだ。

ほら、グズグズしてないで、さっさと付いてくる!」

 

物珍しそうにきょろきょろするユノに、おいでおいでと手を振った。

 

(つづく)

 

 

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(28)ぴっかぴか

 

~ユノ~

 

女子っぽい拗ね顔はいかにも演技っぽいが、この男ならガチでやりそうで、そのまんまの意味で受け取ることにする。

 

尖らせた唇と膨らませた頬に、隠し事を誤魔化そうとする不自然さはない。

 

俺は悪い方に考え過ぎていただけみたいだ。

 

疑心は毒だな、うん。

 

「僕んちに泊まっていってよぉ」

 

「俺は寝不足なんだ。

なぜだか分かるか?」

 

俺の質問にチャンミンは、「え~、なんでだろう?」と首を傾げている。

 

「あんたが俺のベッドを占拠していたからだ!」

 

「僕をソファに寝かせればよかったのに...」

 

「...そりゃそうだったけどさ。

べろべろのあんたをベッドから引きずり落すのは可哀想だったし。

 

ベッドは狭いし...あんたって、身体がデカいだろ?」

 

狭いベッドで重なり合うように寝たら、男好きのチャンミンに襲われる恐れがあったから...とまでは言わずにおいた。

 

「今夜はのびのび眠りたい」

と言いながら、チャンミン宅にお泊りする俺の姿を想像していたりもした。

 

「男のよさを知りたくない?」とか言って、腰をくねらせ、ちんちくりんなパンツとか穿いてるんだ。

 

乳首がすっけすけのピンクのビスチェなんかを着ているんだ。

 

で、俺はベッドの四隅に手足を縛られて、身動きができないんだ。

 

俺の大事なムスコを、チャンミンは舌なめずりして狙っているんだ。

 

「僕が全部やってあげるから、ユノは寝ているだけでいいんだよ」って...。

 

...アホか。

 

ここまで想像できる俺の偏見と妄想力が凄い。

 

「!」

 

股間がむずついてきたことに、俺は慌てた。

 

前カノとのエッチを拒んできたけれど、性欲は当たり前にあって、それの処理は自分でするしかない。

 

とは言え、チャンミンに襲われそうになる自分を思い浮かべて、下半身を反応させるとは...!

 

やたら綺麗な男と接近していると、俺の嗜好まで「そっち方面」に傾いてしまうのだろうか!

 

それだけは阻止しないと...ぶるぶるぶる。

 

と、ごちゃごちゃ考えているから、チャンミンは無言でいる俺が、お泊りするかしないかで迷っていると勘違いしたらしい。

 

「着替えの心配はいらないよ。

サイズも似てるしね」

 

「俺は三角パンツは穿かん」

 

「普通のもあるよ。

あれは勝負下着なの」

 

「しょうぶ!」

 

まるで女子みたいな台詞に、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

「明日は早番なんだ」

 

「ユノのスーパーは何駅?」

 

「××駅...」

 

「ここから近いじゃん」

 

「......」

 

俺が勤めるスーパーは、チャンミンちの最寄り駅から1つしか離れていないのだ。

 

「録画し忘れたドラマがあるし」

 

「うちで録画すればいいじゃん」

 

「いびきうるさいし」

 

「耳栓あるから大丈夫」

 

「母さんから電話があるかもしれないし」

 

「ユノんちには固定電話はないでしょ?

それに、もう夜中だよ?」

 

「ネコアレルギーだし」

 

「僕んちにはネコはいないよ」

 

ここで俺ははっと気づく。

 

誰かとひとつのベッドで寝た経験がゼロだということに!

 

(母さんや妹はカウントしない)

(部活の合宿は雑魚寝だったから、これもカウントしない)

 

「寝相悪いし」

 

「ベッドが広いから大丈夫だよ」

 

「......」

 

チャンミンは両口角をぐっと下げ、あごにしわをつくり半べそ顔になったが、その手にはのらない。

 

「ユノはっ...っく...。

僕のこと...気持ち悪いと思ってるんだ」

 

「うん」

(...と、答えてしまったところで、何事も正直であればいいってものじゃない、無神経な正直者だとさんざん友人たちに指摘されていただろう?)

 

「あのね、僕はお友達には手を出さないよ」

 

「...だって、さ...」

 

チャンミンはふうっと吐息をついた。

 

「あの男が言ったことを気にしてるんでしょ?」

 

「うん」

 

あのマッチョ男は、チャンミンは男遊びが激しくて尻の穴がずるずるだと...こんなニュアンスのことを話していた。

 

さらに、俺も近いうちに(明日だっけ)フラれるだろうと予言までしていた。

 

...つまり、チャンミンは色恋沙汰に引きずり込もうと、俺に近づいたんだろう、と。

 

あの男にそう思い込ませてしまうだけの行いが、かつてのチャンミンにはあったわけだ。

 

そこに俺は引っかかっていた。

 

でも、チャンミンと『お付き合い』するのでもあるまいに、関係ないことなんだけどさ。

 

「俺はな!

あんたとは『そういう関係』になる気は...」

人差し指と親指で、5㎜の隙間を作ってみせた。

「これっっっぽっちもないからな!」

ここだけははっきり宣言しておかないと。

チャンミンの恋愛事情だか下半身事情に巻き込まれたくない。

「もぉ、ユノったら。

同じことを何回も言わなくても分かってるよ。

そのつもりはないから、いい加減安心してよ」

 

そう言うと俺の手首を取り、今来た道を引き返し始めた。

 

「おい!

泊まるとは一言もいっていない!」

 

抵抗するのも直ぐに止めた。

 

断りもなくテーブルについた昨夜といい、遠慮の欠片なく俺んちの風呂を使った今朝といい、優男ヅラなのに実は強引なキャラらしいから。

 

ま、いっか。

 

こいつの住まいに興味が湧いてきたから。

 

(つづく)

 

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