(21)会社員-愛欲の旅-

 

 

意外なことに、チャンミンプロデュースの宴会は好評だった。

 

バスの席割りに然り、例年通りのものとは異なる趣向が、新鮮だったのだろう。

 

お次の実行委員の権力をフル悪用したのはこれだ。

 

呼んだコンパニオンが男性だった...つまりホストだ。

 

お酌にまわるミニスカートを穿いた女性は、チャンミンにとって甚だ都合が悪いのだ。

 

それプラス、ホストたちが恋のライバルたちの動きを堰き止めてくれることも狙っている。

 

男性陣たちはホストたちの登場に面食らい、女性陣たちは目を輝かせた。

 

さすがプロ集団。

 

お愛想にお世辞、盛り立てられて、定年間近の部長なんていい具合に酔っ払っている。

 

カラオケだミニゲームだと、大盛り上がりだ。

 

ホストたちにがっちりハートをつかまれて、俺たちの席にはだれ一人酌に回ってこない。

 

そんな中で2人の女性が、俺に向けて手を振ってきた。

(えーっと、経理部のCさんと受注センターのHさんだ)

 

チャンミンがマークしている『要注意人物リスト』に入っている彼女たちだったから、ヒヤリとした。

 

幸いなことに、チャンミンは運ばれてくる料理をかたっぱしから平らげるのに夢中で、気付いていないようだ。

(チャンミンは大食漢らしい、と心のチャンミン録に一行書き加えた)

 

隣にチャンミンがいなくとも、手を振り返すのも恥ずかしくて、失礼にならないよう会釈してみせた。

 

「あれ?

ユンホさん、野菜の天ぷらは苦手でしたっけ?」

 

「苦手じゃないけど...」

 

カボチャや山菜の天ぷらなど、むしろ好物だった。

 

天ぷらは配膳されたばかりの揚げたてだった。

 

チャンミンは人差し指を唇に当て(いかにもな仕草。実際にやっている奴を初めて見た)、じぃっと物欲しげそうだった。

 

「...欲しいのか?」

 

「お漬物とトレードしましょうか?」

 

「せめて茶わん蒸しとトレードしろよなぁ。

グレードダウン過ぎるだろ」

 

「...分かりました」

 

「いいさ、やるよ。

食べろ食べろ」

 

箸をつけていない天ぷらの皿ごとチャンミンに渡した。

 

「ありがとうございます。

後でお礼しますね」

 

美味そうにかぶりつく、目尻を下げた横顔が見られたから、ま、いっか。

 

足がしびれてきた俺は、胡坐を崩し両脚を投げ出して座り直した。

 

ぱっとチャンミンの手が伸びて、膝上までまくれ上がった裾を直された。

 

「ユンホさん」

 

浴衣の袖を引っ張られ、グラスを手渡された。

 

「ユンホさん、お疲れ様どすえ」

 

俺のグラスにビールを注ごうとするチャンミンに、「お疲れさんはチャンミンの方だ」とそのビール瓶を取り上げた。

 

「いえいえいえいえいえいえ。

ユンホさんから酌をされるわけには...」

 

「いやいやいやいや。

チャンミンさんには世話になってるから」

 

と、グラスを塞ぐチャンミンの手をのけた。

 

すると、「そういう訳にはいきませぬ」とビール瓶を奪われた。

 

「まあまあ、そう言わず。

ここはぐいっと一杯」

 

「僕のお酌を受けてくださいな」

 

3往復ほどこれを繰り返したのち、やっとのことで俺たちは乾杯した。

 

ちんちくりんな浴衣の裾から、すね毛の生えたチャンミンの足。

 

膝を崩して座っているため、ぱかっと合わせが割れ、太ももの奥まで見えそうになっている。

 

「パンツが見えるぞ」と注意しかけて、口をつぐんだ。

 

...今。

 

...見えたぞ。

 

ちらっと、見えたぞ。

 

あれこそ、ウメコに仕込まれたモノだ!

 

もっとよく確認してみたいが、裾をはだけるわけにはいかない。

(「きゃあぁ!」と悲鳴を上げそうだから)

 

よし、脱衣所が勝負の時だ、と心の中でこぶしを握った。

 

 

(つづく)

 

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(20)会社員-愛欲の旅-

 

 

チャンミンは「ふふん」と鼻をならして、得意げに解説を始めた。

 

「お酌タイムがあるでしょう?」

 

「あるね、注いで注がれて無礼講」

 

「女性エリアに近寄る男、男エリアに近づく女性。

誰目当てにラブコールしてるのか...分かりやすいでしょう?」

 

(ラブコールって...)

 

「...確かに」

 

「女性エリアにべったり居座る者は、『あ~、あいつ女好き』とモロバレです。

その逆も然りです」

 

「そういうもん?」

 

「そういうもんです。

お酌し、されるうちに戻るべき自分の席が埋まっていたり、滅茶苦茶になるでしょう?

『気になる“なんとかさん”の隣が空いてるわ。座っちゃえ』っていう女性社員がいたとします。

その“なんとかさん”は、最高の熟れ具合の果実なんです。シングルのグッドルッキングガイ。料理も整理整頓も下手くそで、朝と夕飯はコンビニ食、お昼は僕のお弁当...ムフっ...あっ...この部分は聞かなかったことにしてください。

で、“なんとかさん”は、ジム通いを決意して話題のスニーカーを手に入れただけで満足しちゃったりする人なんです。同じ本をまた買っちゃう...みたいな積ん読(つんどく)さんだと思います。たまに後ろの髪がはねていたりして...大変です!母性本能をくすぐりまくり。うたた寝している時の幼い寝顔といったら!チュウしたくなるのを何度我慢したことか!ぐふふふ、可愛いなぁ。

その“なんとかさん”は、女性相手ではイケイケだったかもしれませんが...そうでもないか...童貞だって言ってましたよね。安心して下さい、僕とおソロです...ムフっ。男相手の恋愛は初めてっぽいです。知らないことだらけのようですから、僕が指南してあげないとね。任せてください。“なんとかさん”は寝てるだけでいいですからね。お初同士ですけど、だてにBL小説を書いていませんって。コミケでは完売なんですよ。扇情的な性描写が凄いって。

“なんとかさん”がうちの課にやってきたとき、『よろしく』って笑ってくれたんです。白い歯がきら~んって。薔薇を背負ってました。まさしく少女漫画です。僕のハートが持ってかれました。でね、僕のことを馬鹿にしないで接してくれたんです。ドキドキです。僕のことが好きって言ってくれたんです。ぐふふふ、幸せです」

 

「...チャンミン」

 

あちこち細かい修正は必要だけど、その『なんとかさん』とは俺のことだよな?

 

じん、としてしまうではないか。

 

「でね、ぼちぼちの経済力で高身長、毛髪も豊か、筋骨逞しく、半径1メートル以内にいるだけで懐妊させてしまう精力の持ち主です。

未確認ですがおそらく、相当な将軍様だと思います」

 

「......」

 

「でね。

うっかり、ちゃっかり、さりげなく、これ幸いと、ここぞとばかりに、どさくさ紛れて、調子に乗って、抜け目なく、ユンホさん目当ての女性がユンホさんの隣に座ってもらったら困るのです!

男エリアの席にいる女性は、目立ちます!

さりげなさを装うったって、そうは問屋がおろしません!」

 

この執念...チャンミンだけは敵にまわしたくない、とあらためて思った。

 

バス、部屋、宴会の席割りなんて、可愛いもので済んでいる。

 

本気を出したチャンミンなら、頭脳派銀行強盗も出来てしまうかもしれない!

 

先の先を読むチャンミンのことだ、最小の労力で済む、巧妙で隙のない作戦を練った結果、望み通りの結果をちゃっかり得てしまう。

(何重にも先を読み過ぎて、本来の目的を見失い、迷子になることもあるだろうけど)

 

よその女子に獲られてたまるかの嫉妬心が、チャンミンの賢い頭脳の回転数を上げている。

 

「あのなぁ、宴会ごときで頭使いすぎなんだよ。

それにさ、チャンミンのプランは俺がここから動かなかった場合の話だろ?

俺だって酌にまわるんだぞ?」

 

今回のような社員旅行に限らず、納涼会、バーベキュー大会等イベント各種で、他部署の者たちとの親交を深めたい俺は、積極的に参加するタイプだ。

 

ところがこの旅行では、ヤキモチ妬きのチャンミンにへばりつかれていて身動きがとれずにいた。

 

チャンミンには悪いが、短時間でいいから俺を解放して欲しいなぁ、自由時間が欲しいなぁと思っていた。

 

「...分かってます。

どうぞご自由に」

 

「!」

 

予想外のチャンミンの回答に、俺は驚くことになる。

 

「え...いいの?」

 

「はい。

僕は寛大な男ですから。

それに...ユンホさんのことを信じてます。

僕は現地妻として港で待ってます」

 

「...現地妻...」

 

チャンミンの例え話はピントがずれていたけれど、「信じてます」なんて言われたら...。

 

「部長と課長くらいはおさえておかないとな。

世話になってる工場の人たちにも...それくらいだ。

いいだろ?」

 

「僕にお伺いたてなくていいです。

...反省しました」

 

ビンゴカードをマジシャンばりの手際でさばいていた手を止め、チャンミンはぼそりとつぶやいた。

 

「ユンホさんを誰にも獲られたくなくて、頭に血がのぼってしまって...見苦しいところを沢山お見せしました。

束縛男になってました」

 

「チャンミン...」

 

「駄目ですねぇ。

僕はこんなだし、ユンホさんは眩しすぎるし。

僕とお付き合いして下さるなんて夢みたいで...調子にのってました」

 

「何言ってるんだよ。

調子にのってるなんて...俺は全く思ってないぞ。

俺はチャンミンらしくていい、と思ってるぞ?」

 

ひと目がなければ、抱き寄せて頭を撫ぜてやるのに。

 

代わりに俺は、ビンゴカードを握りしめたままのチャンミンの手を、ポンポンと叩いて言った。

 

「宴会が終わったら温泉に行こうな」

 

「...はい」

 

にっこり笑って半月型になった眼は、赤くなっていた。

 

笑顔のチャンミンはやっぱり可愛いなぁ、と思った。

 

(つづく)

 

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(19)会社員-愛欲の旅-

 

 

 

この席割りの意図がよめない俺は首を傾げていた。

 

異様な光景だった。

 

チャンミンのことだから...と、これまでの彼の策略パターンを思い起こしてみたりもした。

 

先ほど俺たちが出て行った襖から、チャンミンがふらり、と戻ってきた。

 

(しまった)

 

大奮闘していたチャンミンが気の毒で、手を拔けとアドバイスするだけで、肝心な浴衣の襟元への注意を忘れてた。

 

「ついてこい」

 

俺はチャンミンの背中を押して、再び配膳エレベータ脇に引っ込んだ。

 

そして、ぎゅっと襟元を深くかきあわせ、帯を締め直そうと、いったんほどこうとした時...。

 

「わわわ、ユンホさんったら。

情事は宴会の後にしませんか?

僕の身体がそんなに欲しいんですか?

あらまあ、ユンホさんの♂が逞しいことになってます」

 

「ええっ!?」

 

大慌てで自身の股間を確かめてみたが、大人しいままだ(当然だ、逞しくなってしまう刺激がどこにあった?)

 

チャンミンを襲おうとしているのだと本気で勘違いしているのか、俺をからかっているのか、彼のニヤニヤ笑いからは判断できない。

 

「ここじゃ人目があります」

 

「チャンミンの帯を締め直してるだけだ!」

 

両頬を包んで、「キャー」と身体をくねらすから、締めにくいのなんのって。

 

胸がはだけないよう、帯はウエスト位置で締める。

 

ただでさえ、大サイズでもチャンミンの身長じゃ丈が短く、すねが見えてしまい、喉もとまで合わせた衿に、高い位置で締めた帯で、子供みたいな成りになってしまった。

 

(チャンミン、すまん。

お前の『いい男』っぷりを封印するためなんだ)

 

そろそろ会場に戻らねばと、引き返そうとした時、社内でもひときわ高身長の工場長の姿を見かけた。

 

そこで俺は、「チャンミン...お前ってやつは」と深度100メートルのため息。

 

身長190センチの工場長の浴衣はぴったりサイズだった。

 

特大サイズがあったのだ。

 

身長180㎝超えの俺の浴衣もチャンミンと同様、つんつるてんだった。

 

きりりと浴衣を着こなす妙齢独身男性、女性社員たちをときめかしたらいけないと案じたチャンミンの悪だくみだ。

 

チャンミンの浴衣もつんつるてんにしたところが策士だ(これより大きい浴衣のサイズはないみたいですねぇ、って)

 

「ユンホさんったら、誰かに見られそうなシチュエーションで燃えるタイプなんですかぁ?

ふふふ、僕は...そういうの、好きです...。

僕の作品でも、『見られちゃうかも、ドキドキ』っていうシーンが多めです」

(チャンミンは、アマチュアBL小説愛好家なのだ)

 

「へえぇ、どんなの?」

 

「両親の部屋の押し入れの中とか。

バルコニーとか」

 

「すげぇな」

 

「駅の公衆トイレとか。

ショッピングセンターの駐車場の車の中とか。

イチゴ農園のビニールハウスとか。

外でバーベキュー中の仲間がいるのに、テントの中でとか。

15階までのエレベーターの中とか」

 

「うっわぁ」

 

「ネズミーランドのアトラクションの乗り物とか」

 

「それは駄目だ!

聖なる場所を穢すなよ」

 

「今のはジョークです。

じゃあ、牧場とか山の中は?」

 

よくもまあ、ポンポンと思いつくものだ。

 

「屋外は虫に刺されそうだなぁ」

 

「じゃあ、王道の教卓の下は?

それとも、学校の清掃道具入れのロッカーの中は?

学生服...萌えますねぇ...ぐふふふ」

 

「狭くないか?

二人入るのは難しいんじゃないか?

ぎゅうぎゅうで動かせないと思うんだけど?」

 

チャンミンはぴんと伸ばした手で口を覆い、「まあ」と言った風に目を真ん丸にしてる。

 

「ユンホさん...想像しちゃいましたか!

エッチですねぇ」

 

俺はハッとする。

 

危ない危ない。

 

次に何を言い出すのか想像がつかない、チャンミンとの会話は楽しい、と認めざるを得ない。

 

ところが、チャンミン自身が喜びそうな台詞を俺から引き出そうと、誘導しているフシもあるから、油断できないのだ。

(チャンミンとの会話にノリ過ぎると、おかしな方向に行ってしまうから気を引き締めること、と心のチャンミン録にメモをした)

 

「お!

そろそろ戻ろう」

 

開始時間を既に15分押しているが、まだ空席が目立っていた。

 

あるイベントを思い浮かべてしまうような、社員旅行の宴会とは思えぬ、独創的な席割りだった。

 

つまり、ステージから向かって左が女性席、右が男性席だったのだ。

 

「チャンミン...これは社員旅行なんだぞ?」

 

「はい。

もちろんですよ」

 

チャンミンには悪びれた風が一切なかった。

 

「これじゃあお見合いパーティじゃないか!?」

 

 

(つづく)

 

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(18)会社員-愛欲の旅-

 

 

社員旅行実行委員が心血注ぐものといえば、宴会タイムであろう。

 

ここは製造部門から営業部門まで、性格の異なる部署の寄せ集めだ。

 

彼らを全員まんべんなく楽しませることは困難だ。

 

ところが、俺の恋人チャンミンは皆の者を平等にもてなそうと必死だった。

 

景品をテーブルに陳列しては、ビールの本数を数え、適当に席につこうとする社員に正しい席を指示し、かと思えばマイクテストを行っている。

 

きりきり舞いのチャンミンの姿を、俺はヤキモキしながら眺めていた。

 

「ユンホさんは指一本、手出ししないでください!」と、ビシッと人差し指を突きつけ命令したのだ。

 

(理由は簡単だ。俺の勇姿を女性社員たちに見せるわけにはいかないんだとさ、くだらない...けれど、口には出さない)

 

それにしたってあまりにもチャンミンが可哀想だった。

 

開始5分前になってようやく現れた、残りの実行委員メンバーたちを手招きし、「チャンミンは体調不良らしいから、手伝ってやってくれ」と適当な嘘をついた。

 

自惚れだと思われても仕方がないが、俺はまあまあ営業成績もよく、社内では営業部はやはり花形部署にあたる。

 

そんな俺が手を合わせて頼めば、女性ばかりの実行委員3名は嫌だとは言いにくい。

 

(...なるほど。

チャンミンはいかにも女性に弱そうで、全てを押し付けられた風に見えた。

実際のところは、一切手抜きをしない堅物な彼に全てをゆだねた方が、スムーズに事が進むと判断してもおかしくない。

つまり、チャンミンは自らすすんで、一手に引き受けてひーひー言っているわけだ)

 

2卓に1本ずつビール瓶を、3卓に1本ずつウーロン茶を配るチャンミン。

 

屈むたびに浴衣の合わせから裸の胸が見えている。

 

バッタバタしていて、浴衣が着乱れていることに気づいていないらしい。

 

今度は俺の方がヒヤヒヤしていた。

 

かっちり固めた七三分けが乱れ、ナチュラルなヘアスタイルに戻っており、厚めにおろした前髪の下の両目は愛嬌たっぷりだ。

 

数ある趣味のうちのひとつが、筋トレだと話していた。

 

クソ真面目、垢抜けない容姿、ところが何気に鍛えていたりする。

 

ダサいスーツ姿が煙幕になっていたが、もともとの素材がいいため、シンプルでカジュアルな私服姿だと魅力が大爆発だ。

 

(まずいな...チャンミンは実はとてもいい男だとバレてしまう!)

 

女性社員たちにキャーキャー言われたとしても、俺への恋心がぐらつく恐れはないと、なぜか自信があったりする。

 

なぜか?

 

なんとなくそうとしか、今の俺には言えない。

 

その辺りの分析は後日に回そうと思った。

 

深く屈むと、帯を締めた下腹あたりまで丸見えじゃないか!

 

ヘソが見えてるじゃないか!

 

事務職なのに、無駄に割れた腹筋。

 

(由々しきことだ!)

 

そこにはウメコに仕込まれた物が見当たらないことを確認後、半端に余った数本のビールの割り振りに考えこんでいるチャンミンに耳打ちした。

 

「チャンミン、俺についてこい」

 

「ユンホさん!

席についててください!」

 

「いいから!

ちょっとこっちに来い!」

 

俺は会場外までチャンミンを引っ張ってゆき、彼の肩を抱いた。

 

(大丈夫、そこは配膳用エレベーター前で、わが社の者たちは誰もいない)

 

「頑張りすぎだぞ?

見ていて心配してしまう。

せっかくの旅行だ、もっと肩の力を抜けよ」

 

「でも...僕には役目があって」

 

「全部ひとりでやろうとするから駄目なんだ。

他の委員の奴にも仕事を振ってやれよ。

彼女たちにも役目をあげないと、な?」

 

「...ユンホさん」

 

「チャンミンがずっと出ずっぱりだと、俺がつまんないじゃん。

どうせ席は隣同士なんだろ?」

 

「寂しいんですね?」

 

「ああ。

それになチャンミン。

俺たちは『旅行中』なんだぞ?

仕事中じゃない。

飯も酒もここのスタッフさんが世話してくれるんだ。

お前は頑張るな、分かった?」

 

「...はい」

 

『チューしてください』とおねだりされる前に、俺は唇が触れるだけのキスをする。

 

チャンミンはぼんっと真っ赤に染まった頬を両手で扇ぎ、「先に行っててください」と俺の背を押した。

 

会場に戻ってみると、実行委員の2名が文句たらたらの社員たちの対応に困り顔だった。

 

ほぼ全員が揃った会場を見渡し、俺は深いため息をついた。

 

(チャンミン...お前ってやつは)

 

これまでの行程でも、チャンミンは実行委員の権力を乱用してきた。

 

挙げだしたらキリがないが、いくつかを紹介しよう。

 

宴会会場では、厳密な指定制でもくじ引き制でもなかった。

 

俺の席がチャンミンの隣だった点は予想通りだった...が。

 

「......」

 

宴会場の席割りに込められたチャンミンの意図がよめず、俺はしばし考え込んでしまった。

 

 

(つづく)

 

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(17)会社員-愛欲の旅-

 

 

宴会会場に向かう前に、浴衣に着替えることとなった。

 

ところがチャンミンの奴、頬を赤らめもじもじしているのだ。

 

「見られていると恥ずかしいです...」

 

もじもじする仕草...左右の人差し指を擦り合わせるあれだ...をする奴を、俺は初めて目にした。

 

「男同士だろ?」

 

「でもっ。

ユンホさんを抱くのは、お風呂の後です。

身を清めてからがいいですから」

 

(抱く!?)

 

ウメコの奴め...。

 

何が何でも仕込まれたやつを回収せねば、と決意を固めたのだった。

 

チャンミンの言葉に目を剥きそうになったが、涼しい顔をしてスルーした。

 

「俺たちは着替える『だけ』だ。

『抱く』とか『抱かれる』とかって...この場でするには相応しくない話だ」

 

「...そうですね」

 

チャンミンはどことなく残念そうに、しゅんと肩を落とした。

 

『抱く抱かない問題』を掘り下げてみたいのかもしれないが、今は保留だ。

 

俺たちはそれぞれ背中を向けて、着替えに取り掛かることにした。

 

温泉は夕めしの後にしよう、仕方がない。

 

チャンミンに付き合っているうちに、宴会開始まで10分を切っていた。

 

チャンミンにはああ言ったが、俺の方こそ『抱く抱かない問題』を議題に挙げたくて仕方がないのだ。

 

(...まてよ)

 

俺はチャンミンの方を振り返った。

 

チャンミンは猫背になってシャツのボタンを外し中で、そのうなじはいつ見ても床屋に行きたてみたいに整えられている。

 

勘違いさせたまま放置しておくのは危険だ、と思い至った。

 

チャンミンのキャラ的に、頭の中でのイメージトレーニングを開始しているかもしれない。

 

ボタンを外し終えるとチャンミンは、シャツを脱ぎ予想通りインナーTシャツ姿になった。

 

(インナーTシャツを脱げば、例のものがあるかもしれない...!)

 

「チャンミン...こんな時になんだが、ひとつ確認させてくれ」

 

「なんですか?」

 

チャンミンはボトムスのボタンを外しながら、こちらを振り向いた。

 

「...ウメコに何を仕込まれた?」

 

明らかに肩をビクッとさせた。

(ビクつく動きのお手本中のお手本)

 

「な、なんのことでしょう...?」

 

チャンミンの目が泳いでいる。

 

分かりやすい。

 

(チャンミンは嘘をつくのが下手だ、と心のチャンミン録にメモを追加した)

 

「ウメコから受け取ったものがあるだろ?」

 

「はて...何のことでしょう」

 

くるりと背を向けてしまうチャンミンに、

 

「ウメコから聞いたんだ。

でさ、俺もどんなものか見たいなぁ、って興味があるんだ」と食い下がる俺。

 

「......」

 

チャンミンは俺を無視して、てきぱきと着替えていく。

 

俺の『例のモノ』探索レーダーはチャンミンの背中、腰、太ももへと舐めていく。

 

後ろ姿を見る限り、細い身体付きだなぁと思った。

 

「チャンミン、聞こえてる?」

 

「......」

 

恋の媚薬事件の時、至近距離で見たチャンミンの半身が蘇ってきた。

 

あの時は今のようにインナーTシャツ越しだったけれど、大量にかいた汗のせいで布地が裸に張り付き、身体のラインがまるわかりだった。

 

いい具合に筋肉をつけていて(インナーTシャツを着ているダサさと生真面目さはともかく)、チャンミンのキャラクターとのギャップに胸をときめかしたのだ。

 

ボトムスを脱いだチャンミンはパンツ一丁になり、畳に畳まれた浴衣に手を伸ばした。

 

小さい尻だなぁ、と思った。

 

「お~っと!

そろそろ宴会のお時間です。

さささ、ユンホさん急ぎましょう」

 

わざとらしく腕時計を見て、目を丸くして言う。

 

俺はそんなチャンミンを無視して、答えを聞くまでは譲らないぞと彼を見据えたままだ。

 

「そんなに見たくて仕方がないのでしたら...」

 

チャンミンは引き返してくると、両手で俺の頬を包みこんだ。

 

慌てて周囲を見回したのは俺だけで、チャンミンは余裕の表情だ。

 

ヲタク部屋のここには俺とチャンミンしかいない。

 

「目で確かめてみてはいかがでしょう?」

 

「!」

 

大胆発言で俺を動揺させようたって...そうは問屋がおろさない...。

(はっ!

俺にもチャンミン語が伝染ってしまった!)

 

「認めたな」と、俺は内心でニヤリとした。

 

チャンミンはそのことに気付いた風はなく、頬を挟んだまま親指で俺の唇をなぞった。

 

「押し倒すなり、裸に剥くなりして...。

その目で確かめてみてはい、か、が?」

 

肩に羽織っただけの浴衣の片方を広げ、パンツ一丁の裸を見せた。

 

俺はチャンミンから身を引き、両腕をクロスさせパーカーを脱いだ。

 

その下のTシャツも脱いだ。

 

チャンミンの目はまん丸で、「ほぉ...」といった表情で固まっている。

 

「チャンミンの期待に応えてあげないとなぁ」

 

次いで、靴下とボトムスを脱いだ。

 

チャンミンの視線はねっとりと舐めるように、俺の首から足先までの間を一往復した。

 

「ユン...ホさん...」

 

ぽかんと口は開きっぱなしで、そのうちよだれでも垂らすんじゃないかな。

 

「え..えろい...です」

 

見開いたままの眼はらんらんと光っているし、頬も紅潮している。

 

「押し倒して欲しいんだ?」

 

チャンミンの喉仏がごくり、と動いた。

 

チャンミンはきっと、「その気」になったとき、『例のもの』を発動させるつもりだ。

 

俺はチャンミンの顎をつまみ、唇が触れるすれすれまで顔を寄せ、セクシーに囁いた。

 

「俺に押し倒されて、裸に剥かれたい?」

 

チャンミンはこくん、と頷いた。

 

(やべぇぇぇ...可愛い)

 

「はっ。

とっくに裸みたいなものだね。

浴衣を脱げよ」

 

俺の方は敢えて浴衣を羽織った。

 

チャンミンの眉が、さも残念そうに下がる。

 

「それとも、俺を押し倒したいのかな?」

 

チャンミンはこくこく、と頷いた。

 

「どっちがお好みだ?」

 

「ユン...ホさん」

 

チャンミンの声は掠れている。

 

「...好きです」

 

「!!!」

 

出たよ...チャンミンの不意打ち愛の告白(俺はこれにめっぽう弱いのだ)

 

廊下の向こうが騒がしい。

 

チャンミンはぶるぶる首を振った。

 

「ユンホさん、お胸を隠しましょう」

 

チャンミンは開きっぱなしだった口を引き締め、俺の浴衣に手を伸ばした。

 

「?」

 

そして、俺の首を締めんばかりに浴衣の両襟を合わせたのだった。

 

あと少しだったのに...!

 

 

(つづく)

 

 

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