~君が抱かれる夢を見た~
~民~
民は寝付けなかった。
それも当然。
片想いは得意だった。
誰かから恋心を告げられる経験ゼロ、その想いが実を結んだ経験もゼロ。
いつの間にか芽吹いて成長し、たわわに実らせ収穫を待つばかりだったチャンミンへの恋心。
思いがけないタイミングで、チャンミンによってその実はもぎ取られた。
(彼氏ができた!
初彼氏!)
「きゃーー!!」
民は顔を覆って、悲鳴をあげる。
(しかも、お相手はチャンミンさん!!)
じっとしていられなくて、右に左にと無意味に寝返りを打つ。
(チャンミンさんが私の...彼氏...!!)
とても横になっていられなくて、民は飛び起きた。
蛇口から注ぐ冷たい水で、豪快に顔を洗った。
「...あ...」
洗面所の鏡に映る自分の姿に、顔を拭くタオルの手が止まる。
(チャンミンさんは、こんな私のどこがいいと思ったのかな。
どこをどう見ても...男だ)
パジャマの衿口からまっ平らな胸を覗き込む。
「はあ...」
(『初えっちはいつにしますか?』なんて言ってしまったけど...。
心づもりしておきたかったのよねぇ。
2週間かぁ...。
とてもとても、こんな身体じゃ無理だわ...)
続いてめくったパジャマのズボンの中を見下ろす。
「......」
(こんな色気のないパンツじゃ駄目よね。
レースのとか、可愛い色のとか...)
ところが、実際にそれを身につけた姿を想像すると...民の顔が歪む。
眉根をひそめて口角を下げた表情があまりにブサイクで、民はもっと落ち込んでしまった。
「はあ...」
(私の身体を見せるわけにはいかない...。
そうか!
真っ暗闇の中ですればいいんだ!
おっぱいを触ろうとするのを断固として阻止すればいいんだ!)
「よし!」と頷いた民は洗面所の照明を消して布団に戻る。
(Tシャツを着たままでいるっていう方法もあるんだし。
ムードに欠けるかもしれないけど...)
思いついた解決法に安心したこともあって、たちまち眠りにつけたのであった。
~チャンミン~
首に絡められたしなやかな腕。
のけぞった白い喉に舌をはわせると、その腕の力が抜けて僕は抱きとめた。
僕の動きに合わせて、彼女の頭はマットレスすれすれのところを揺れる。
ウエストをすくい上げ、目前に接近した柔らかな先端を口に含む。
僕の手の下の肌が小さく痙攣する。
半分閉じたまぶたの下の色素の薄い瞳に、長いまつ毛が影を落としている。
大好きな人。
下半身の快感と胸のときめきが相まって、僕はもう幸せの絶頂だった。
僕の唇の下で、彼女の胸先が固く尖る。
唇を耳の下に移動させて、甘い香りを胸いっぱいに吸い込みながら彼女の太ももを押し広げる。
彼女の細い脚を割って組み敷くのは、浅黒くたくましい腰。
その広い背中は長い黒髪に覆われている。
ん?
ん?
ん?
喘ぎと共に漏れたか細い民ちゃんの声。
!!!
民ちゃんの上になっているのは...僕じゃなかった。
ベッドの上で絡み合う二人の肢体を、僕はドアの隙間から覗き見ていた。
美しい2人だから、絵になる光景。
僕の気配に気づいて、上になった男...ユンが振り向いた。
口の片端だけゆがめて意味ありげに笑う。
そして、民ちゃんの太ももに唇を押し付けた。
・
「うわぁぁぁっ!」
僕はガバっと跳ね起きた。
殺風景な白いクロス壁、布団の足元には、積み上げられた段ボール。
夢!
な、なんだったんだ!
今の夢は、一体何なんだ!
民ちゃんが他の男とヤッている夢を見た。
相手の男が...。
あの男...ユンだった!
民ちゃんがヤッてる夢を見すぎだろ!?
一昨日は、僕と。
今日は...ユンと...。
マズい...マズいぞ...。
これ系の夢を見てしまっても、昨夜のことがあるから仕方ない。
民ちゃんとアレする夢を見てしまっても、仕方がない。
民ちゃんが僕の彼女になったんだから。
でもさ...どうして「ユン」が登場してくるんだよ。
民ちゃんが警察沙汰になった時も、不快な夢を見た。
家出(?)をした民ちゃんがユンと一緒に居た、という夢を。
僕の夢にどうしてユンが登場するんだよ。
これはもう...事件だ!
(つづく)
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