(後編)夜明けの空気

 

~ユノ~

 

 

チャンミンとようやく連絡がついた。

「チャンミン、着いたよ」

 

『はい、僕も着いたところ』

 

「ずいぶんゆっくりしていたんだな」

 

『いろいろとね』

 

俺は、わくわくとした気持ちを抑えきれなかった。

 

「俺は今、どこにいると思う?」

 

『うちじゃないんですか?』

 

「不正解」

 

『飲みにでも行ってるんですか?』

 

「不正解」

 

『えー、分かんない』

 

「びっくりするよ、絶対に」

 

『なんですか、それ?』

 

「チャンミンは絶対、びっくりする」

 

『もったいぶらないで、早く言ってくださいよ』

 

「1時間後には会えるよ」

 

『え?』

 

「すぐに会えるからな。

ちょっとだけ待ってろよ」

 

『え?』

 

「俺はね、今、空港にいるんだ」

 

『空港?

見送った後、ずっと?

どうしてです?』

 

 

「俺はね、チャンミンの国にいるんだ」

 

『はあ?』

 

「離れ離れは嫌なんだ。

だから、お前を追いかけた」

 

『......』

 

「...怒った?」

 

『いえ...』

 

チャンミンが黙り込んでしまったから、俺は少し不安になる。

 

『ユノ...』

 

「ん?」

 

『僕は今、どこにいると思います?』

 

「どこって、新しい家だろ?

こんな時間なんだし」

 

『違います』

「違う?」

 

『僕はね、ユノの国に戻ったんです』

「はあ??」

『僕...。

ユノと一緒にいようと決めたんです』

 

「?」

『離れて暮らすのは、嫌なんです。

だから、ユノの国に戻りました。

​あなたの国で、一緒に暮らそうと決めたんです。

今まで通りに』

「......」

 

『馬鹿な男だって…あきれてますか?』

​「まさか!」

 

『ほんとですか?』

 

「ああ。

俺こそ馬鹿な男だ」

「ぐふふ」

 

チャンミンはクスクス笑っているようだ。

『国を越えたすれ違いですね』

可笑しい。

 

嬉しい。

 

泣きたい。

 

笑いたい。

 

俺の心は、パンク寸前だ。

 

「俺らは…とんだ『バカップル』だなぁ」

 

『何ですか?

言葉がダサいですよ』

ひとしきり二人で笑った。

 

全く、俺らときたら...二人そろって...。

 

「...これから、どうする?」

 

『朝一番の便でユノは、こちらへ戻ってきてください』

 

「駄目だ。

チャンミンこそ、こっちに戻ってこい」

 

『いーえ。

ユノが来るんです』

「駄目だ。

チャンミンがこっちに来るんだ」

 

押し問答しているうち、俺はいいアイデアを思い付いた。

「そうだ!

​どこか暖かい国へ行こう!」

『え?』

「二人にとって、新しいところへ行くのはどうだ?」

『なんで行き先が、暖かい国になるわけです?』

「うーん、なんとなく」

 

『何ですか、それ!』

 

「俺の国とも、お前の国とも、かけ離れた所がいいんじゃないかと思うんだ」

『どちらかの国だと、どちらかが犠牲を払ったみたいに思えるから、ってことですか?』

「それもある。

ほら、お互い無職になるんだし、新しい場所で再出発しよう」

『無計画過ぎません?』

 

​そういいながらも、チャンミンの声は高く澄んでいる。

 

「これからについては、現地に着いてから一緒に考えよう」

 

『どこの国にします?』

 

「インドネシアはどうだ?」

 

『インドネシア!?』

「ああ」

 

『思いきりましたねぇ』

 

「なんとなく決めた。

適当だ。

俺は無鉄砲なとこがあるからな」

 

『あははは、確かに。

ユノは大胆派ですからねぇ』

「現地集合にしよう!」

 

『パスポートの有効期限は大丈夫ですか?』

 

「あったりまえだろ」

 

『チケット買うお金はありますか?』

 

「あるに決まってるだろ!

子供じゃねえんだから」

 

『よし!

向こうで再会です』

 

「面白くなってきたな!」

 

俺はニヤけてきて仕方がない。

 


 

 

~チャンミン~

 

 

僕は搭乗ゲート前の、ベンチに座っている。

 

​この24時間の間で、3度目だ。

 

ここに到着した時は深夜だったから、数時間ベンチで仮眠をとった。

 

去年、ユノと旅行したバリ島を思い出していた。

蒸し暑い空気と汗ばんだ肌。

​エアコンが効きすぎた部屋からバルコニーへ出ると、湿気交じりの暖かい空気に包まれ、ほんのしばらくホッとした。

開けた窓から、室内の冷気がこちらへ流れてきた。

 

部屋の中央に据えられた巨大なベッドに、ユノが大の字になって寝ていた。

堂々とした寝姿と、猫のように目尻が切れ上がった、美しくも穏やかな寝顔とのギャップが面白かった。

 

白いシーツにくたりと投げ出した手...小一時間前まで僕を愛撫していた指が、夢を見ているのかぴくぴくと動いていた。

 

僕はあの時、こう思ったのではなかったか。

 

この男を絶対に、手放さないと。

 

紙コップのコーヒーを飲みながら、全面ガラスの向こうを見渡した。

 

 

延々と延びる、白くかすんだ滑走路の先のすそが、曙色に染まっている。

 

 

夜明けの空の下、12月のひんやりとした空気を吸う様を、想像する。

 

 

太陽が間もなく姿を現すだろう。

 

ユノと繋いだ手は、二度と離さない。

 

僕はユノと生きていく。

 

新しい僕らの一日が始まろうとしている。

 

 

(おしまい)

 

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(前編)夜明けの空気

 

 

「次の休みには、会いにいきます」

「ああ。

その次は、俺がそっちに行くから」

「待ってます」

「そろそろ行った方がいいぞ」

「...時間ですね」

「じゃあ...また、な」

「いつでも会えます」

「いつでも会えるさ」

 

 


 

 

~チャンミン~

 

 

繋いだ手をぎりぎりまで離せずにいた。

保安検査場の手前で、僕らは別れた。

列が一歩ずつ前に進むたび、彼の存在を確かめた。

振り向くたび、彼は軽く手を挙げた。

10回目に振り向き見たのは、大股で歩き去る彼の背中だった。

彼とは...僕の恋人、ユノのこと。

 

 

・・・

 

 

搭乗口前のベンチに腰かけた僕は、別れ際に、互いのおでこと鼻先をくっつけた感触を思い出していた。

この場所は、僕をこっちへ、ユノをあちらへと何度も分けてきた。

 

今回は意味合いが違う。

これからは、僕はずっとこちらへ行ったきりになる。

 

 

 

 

僕は2つの選択の間で迷っていた。

僕が国に帰らなくてはならないと告げた時、ユノは、30秒くらい考え込んだ末、

「わかった。

いつでも会えるんだから、俺たちは大丈夫」と言った。

 

落胆した顔をユノに気づかれないよう、僕は必死に笑顔を取り繕った。

 

チクタクと、普段の2倍のスピードで僕の出国日は迫っていった。

 

「行くな」

 

もしくは、

「チャンミンに付いていくよ」

これら2つの台詞のどちらかを、ユノが口にしてくれるのを期待していたのだ。

でも。

 

そのどちらも、ユノが言いそうにない台詞であることは、3年間彼と一緒にいた僕がよく分かっていた。

 

僕の本音は、身勝手で女々しい。

僕について来て欲しかった。

 

​ユノには、住まいも仕事もあちらに置いて、僕と一緒にこちらに来て欲しかった。

 

だから今日、手ぶらのユノを見て落胆したのだ。

「やっぱり一緒に行くことにしたよ」と、スーツケースを転がすユノを期待していたからだ。

 

一方で。

 

僕は、ユノの国で彼とずっと一緒にいたかった。

けれども、チャンスをみすみす恋人のために、ふいにしてしまうような、女々しい奴だと思われたくなかった。

 

どちらも選べなかった僕は、一人で国に戻ることにしたんだ。

 

 


 

~ユノ~

 

 

チャンミンが、国に帰ってしまう日までの間、俺は迷っていた。

「僕と一緒に来てくれ」とも。

 

「ここに残って、ユノといる」とも。

 

チャンミンは、どちらの言葉も口にしなかった。

俺と離れたくないからと、母国に帰らずここにずっといて欲しかった。

でも。

 

チャンミンのチャンスを潰すような、身勝手な男になりたくなかった。

一方で、チャンミンについて行きたかった。

 

でも、恋人のために自分のチャンスを、みすみす逃す野心のない男だと思われたくなかった。

どちらも選べないうちに、チャンミンの出国日を迎えてしまった。

検査を待つ行列に並ぶ、頭一つ分背の高いチャンミンの後ろ姿を、こうして見送っているのだ。

冬休みに入った初日とあって、列はじりじりとしか進まない。

チャンミンの姿が見えなくなる前に、俺は踵を返した。

俺には時間がない、急がないと。

 

宅配便カウンターで、前日のうちに発送しておいたスーツケースを受け取る。

バッグからパスポートを引っ張り出して、チェックインを済ませた。

「行く?」

 

「行かない?」

 

心はすでに決まっていた。

俺はチャンミンと一緒にいたい。

 

それ以外のことは、後から考えればいい。

チャンミンの乗った航空機に2時間遅れて、俺は彼を追いかける。

チャンミンへのサプライズ。

俺はチャンミンの側に居続ける選択をした。

なんて馬鹿な男なんだ?

 

でも、いいんだ。

俺はこんなにもチャンミンに夢中な、馬鹿な男だから。

 

 


 

 

~チャンミン~

 

ユノはとっくに帰宅しているだろう。

通話可能になったのを確かめて、ユノへ電話をかける。

『おかけになった電話は現在、電源が切られているか…』のアナウンスが流れた。

すぐにでもユノの声を聞きたかったから、少しだけ寂しかった。

 

僕は再び、搭乗口前のベンチに腰かけていた。

ユノの驚く顔を早く見たかった。

母国で待っている新しいチャンスなんか、ちっぽけなことに思えてきた。

仕事のチャンスなんて、また作ればいい。

心はすでに決まっていた。

僕は、ユノと一緒にいることを選択した。

これまで常識や見栄を意識して、本心に正直じゃなかった。

ユノの決断を待つばかりの僕だった。

仕事よりも恋人を優先させた僕は、腑抜けた野郎だろう。

言いたい奴には言わせておく。

これは僕が決めた道なんだ。

 

 


 

~ユノ~

 

チャンミンの母国に到着した俺は、彼の新しいアドレスをメモした紙をバッグから取り出した。

 

几帳面なチャンミンだから、荷ほどきを済ませている頃だろう。

 

待ちきれなくて、電話をかけることにした。

 

チャンミンの驚く顔を想像すると、笑みがこぼれてしまった。

 

発信音が3回なった後、チャンミンの声が聞こえる。

 

 

(後編へつづく)

 

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【BL短編】復讐屋

 

 

「X氏...ね」

 

靴を履いたままデスクにかかとを乗せ、天井を振り仰いでいたユノは呟いた。

 

「許せませんね」

 

憤慨しながらチャンミンは、ユノが散らかしたお菓子のパッケージや食べかすを片付けていた。

 

(やれやれまったく、この人はいつもこうなんだから)

 

「おイタをした奴には、天罰が下る」

 

「どうやって懲らしめましょうか?」

 

「ワルさをしたアソコには、痛~い思いをしてもらうしかないなぁ」

 

「僕らがお縄になるのは嫌ですよ」

 

「分かってるって。

じわ~っとくる、とっておきの方法を思いついたんだ」

 

「毛じらみを仕込む、ってのは無しですよ?」

 

「...チャンミン、お前...。

俺なんかよりよっぽど、陰湿な罰を思いつくんだなぁ」

 

「え!?

そういう系じゃないの?」

 

「ぞっとしてもらった後に、恥ずかしい思いをしてもらうだけさ」

 

ユノの瞳はらんらんと輝き、その唇は斜めに歪んでいた。

 

「決行は...今夜だ!」

 

(ユノは本気だ!

いつだってユノは本気だけど、今回は相当にヤバイ手段を思いついたに違いない!)

 

チャンミンはぞっとして、自身の股間を撫ぜたのだった。

 

 

 

 

目覚めたX氏は、自身が置かれた状況を把握するやいなや大暴れをした。

 

と言っても、両手両足はベッドの4隅に固定され、猿ぐつわを噛まされていて言葉を発せない。

 

せいぜい身震いし、奇怪な声を上げるだけ。

 

巨大な男だった。

 

X氏の足元に、眉目秀麗な青年が二人立っていた。

 

ユノとチャンミンだ。

 

と言っても、キャップを深くかぶり、サングラスとマスク、黒色のつなぎに手袋までしていたため、実際のところは彼らがハンサムなのかどうかはぱっと見には分からない。

 

しかし、小さな頭に高い腰の位置、俊敏な動作から、スポーティな肉体をしていると判断できるだろう。

 

「Xさんよ。

俺たちはあんたには恨みはねぇが、ムカついている。

あんたにひとつ、痛い目に遭ってもらわないといけない」

 

ユノが軽く頷くと、チャンミンはノートPCをX氏の正面に掲げ、ディスプレイに映し出されたものを見せる。

 

X氏のぎょろ目が飛び出さんばかりに、見開かれた。

 

「あんたのために解説しておこう。

これは、ある映画のワンシーンだ。

いわゆる...拷問...じゃなくてお仕置きシーンだ。

主人公に酷いことをしたクソ親父がいる。

ブチ切れた主人公は、このクソ親父を縛り上げて、お仕置きをしてやろうとしてるんだ。

ほら、Xさん、あんたみたいに縛られてるねぇ。

ほら!

主人公が持ってるやつ!

あのぶっといやつを...チャーミー、あれを出せ」

 

(チャーミーって何だよ。

ユノは毎回、任務の度に適当に思いついた名前で呼ぶんだから!)

 

チャンミンは透明ビニールでくるんだ(汚れるのが嫌なのだ)PCをX氏の腹の上に据えると、持ち込んだバッグの中からそれを取り出した。

 

「このぶっといやつを...」

 

ユノはX氏の鼻先で、直径7センチ長さ30センチ強のものをクルクル回した。

 

「このぶっといやつを...いぼいぼがいーっぱい付いたこいつを...」

 

ここでユノは、言葉を一旦切った。

 

「...さて問題です。

主人公はどうしたでしょうか?」

 

(ユノユノのクイズタイムが始まったよ...)

 

チャンミンは首をふりふり、次の準備を始めた。

 

猿ぐつわを嵌められたX氏は答えることは当然できないが、分かっていても恐ろしくて口にできないだろう。

 

「うっわー、これは痛い!」

 

ユノはPC画面を覗き込んで顔をしかめてみせた。

 

(サングラスとマスクが邪魔で、その表情をX氏に見せることは出来ないが)

 

「映画みたいにしてやりたいところだが、これが汚れるのは嫌だ。

これはチャーミーのために用意したものなんだからな」

 

「ええぇ!?」

 

バッテリーにコードを差し込んでいたチャンミンは目を剥く。

 

チャンミンはユノの手を引き、部屋の隅まで連れて行った。

 

「僕が怪我しちゃうじゃないですか!」

 

「チャーミーは俺ので訓練を受けているから、大丈夫!」

 

「嫌ですよ、そんな冷たくて固いものなんて...。

あったかくて、固いのにほどよい弾力があるものがいいんです」

 

「それって、雄々しくそびえるアレのこと?」

 

「うん」

 

「チャーミーが頬ずりしちゃうくらい大好きなアレのこと?」

 

「うん」

 

「ふふふ」

 

X氏の呻き声で二人は、任務中であることを思い出した。

 

「おほん。

話を戻そう。

主人公は次に何をしたか?

ここからが凄いぞ~。

チャーミー、あれを出せ」

 

チャンミンは頷き、PCを操作して次のシーンを再生する。

 

それを目にしたX氏は、巨体でマットレスを揺らす。

 

チャンミンは透明アクリルのシールドを顔面に装着し、バッテリーにつないだ機械の電源を入れた。

 

その手には、歯科医が使う電動ドリルのようなものがあった。

 

「これはね、Xさん。

入れ墨を彫る機械なの。

主人公はね、クソ親父の腹にとんでもない文句を彫ったんだよねぇ...。

でかでかと」

 

猿ぐつわの下でX氏の顔が、恐怖と興奮で赤黒く変色している。

 

「さて...なんて彫ろうかなぁ?

あんたが犯した悪事を、ずらずら~と書きつらねようかなぁ」

 

ユノはベッドの周りをゆっくりと、行ったり来たりしながらX氏の恐怖を煽る。

 

チャンミンは、高速で回転するペン先をX氏の腹に近づけては、離して見せる。

 

「...と、したいところだが。

怪我をさせたら俺たちが悪者になっちゃうから、入れ墨を彫るのは止めておく」

 

X氏の全身からどっと力が抜けた。

 

「あんたにはこれからちょっと、おネンネしてもらうよ。

注射がいい?」

 

X氏は頭を横に振っている。

 

「だよね。

俺たちも注射は怖い。

薬を飲んでもらいたいけど、あんたの猿ぐつわをどかさないといけないでしょ?

手が汚れるから嫌なんだよねぇ...」

 

その後のユノの動きは俊敏なヤマネコのようだった。

 

プスリ。

 

ユノとチャンミンは、X氏を見守る。

 

X氏の両目が閉じ、呼吸が規則正しいものとなるのを確かめると、顔を見合わせて大きく頷いた。

 

 

 

 

「ホントはなぁ、もっと派手なことをしてやりたかったんだけどなぁ...」

 

「まーね。

防犯カメラを全部潰しきれてないかもしれないし。

捕まりたくないですもん、あんな奴のために」

 

「こんなんであの人の傷は癒せないけどさ。

ちょっとは気が晴れてくれたら、って願うよ」

 

「うん」

 

チャンミンが差し出した手を、ユノはぎゅっと握りしめた。

 

「チャーミーの作ったあのマシンは凄かった。

力も速さもカラクリも...全部すげぇよ」

 

「突貫工事だったから、ちょっと心配だったけど。

チャーミーって呼ぶのはもう止めて!

...あっ!

戻って来ましたよ」

 

二人が乗ったバンの真後ろに、帰還したスーツケースが停止した。

 

 

 

 

防犯カメラは捉えていた。

 

人通りの全くない通りを、ストレッチャーが横切った。

 

押す者のいないその上には、四肢を固定された男が寝かされている。

 

広場中央に停車したストレッチャー。

 

男を固定していたベルトが自動で巻き取られ、次に電動音を立てながら寝台の片端が持ち上がった。

 

過重量なのか、モーター音がうんうんうなっている。

 

ストレッチャーがかしいで倒れる...間際で、男の身体はアスファルトの上にどさり、と落ちた。

 

男はぐうぐうと眠ったまま。

 

男を下ろしたストレッチャーは、寝台を4つ折りにし、脚を収縮させ、小型のスーツケース型に変化した。

 

そして、元来たルートを戻って行った。

 

 

 

 

「朝になったら、あら大変」

 

「駅前は大騒ぎ。

裸のおっさんが大の字になって、寝っ転がってるの」

 

「きゃーーー!

だね」

 

「おっさん、捕まっちゃうよ。

わいせつぶつなんじゃらほい、で」

 

「ひゃ~~~!」

 

「やり方がぬる過ぎて、歯がゆいけど仕方がない。

あのおっさんも、何でこんな目に遭ったのか、意味わかってなさそうだし」

 

「でしょうね」

 

「こっぱずかしい思いをしてもらう程度だけど、やらないよりマシか...」

 

「ふわぁぁ...眠い」

 

フロントガラスの向こう、周囲の景色が薄青くなってきた。

 

「徹夜だったからね。

早くおうちに帰ろう!」

 

「ったく、あのおっさん、牛みたいに重いんだから!

俺の腰が...死んだ」

 

腰をとんとんと叩くユノに、チャンミンは「湿布を貼ってあげるよ」

 

そう言ってユノのおでこにチュッとキスをすると、エンジンをかけた。

 

 

 

(おしまい)

 

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【BL短編】100年ぶりの繋がり

 

チャンミンは横たわった男の髪を梳き、頬を撫ぜた。

男のまぶたは閉じたままだった。

チャンミンと男の年の頃は20代後半くらいか。

長く紫外線を浴びていない証拠に青白い肌色をしていた。

天を仰ぐと、天窓いっぱいに星空が広がっている。

この建物は天井高まで地面に埋まっており、天井は一面天窓になっている。

天窓は数年前まで鋼鉄のシャッターで覆われ、風雨や氷に炎、隕石から内部を守っていた。

つまり、この建物はシェルターだった。

じっと夜空に目をこらしていると、赤い恒星のような光が天空へ遠ざかり、消えていった。

宇宙船だ。

(みんな、行ってしまった)

チャンミンはシェルター内を見渡した。

卵型のカプセルが数十個並んでおり、そのほとんどの蓋は開いている。

ひとり、またひとりとカプセルは空になってゆき、チャンミンと眠ったままの男が、このシェルターに残された最後の2人だった。

「お風呂に入れてあげるね」

チャンミンは衣服を脱いだ。

そして、男を抱き上げると、お湯をみたしたバスタブに彼を横たえた。

この円形のバスタブは小さなプールほどもある大きさで、水深30センチと浅い。

さらに側面は底から縁まで傾斜がつけられており、眠ったままの男が沈んでしまうことはない。

チャンミンはバスタブに入ると、男の脇にひざまづいた。

チャンミンは男の手首をとると、ゆっくりと曲げ伸ばしを始めた。

次は足首と膝。

ふくらはぎとうなじを揉んだ。

心なしか、昨日よりも頬や指先のこわばりが緩んだような気がする。

男の身体が冷えないよう、お湯をすくっては彼の肩にかけた。

「気持ちいい?」

入浴剤を溶かしたお湯は43℃と高めに設定してある。

「いい香りでしょう?」

柔らかなスポンジで男の肌を優しくこすった。

男のまぶたが震えたような気がする。

チャンミンは手を止め、その後の変化を見逃さないよう、男の顔を凝視した。

「あ...!」

チャンミンははっきりと、男の唇の端が痙攣したのを認めた。

チャンミンは男に口付けた。

男の緩んだ唇の隙間に、舌をねじこんだ。

チャンミンは男の舌を吸った。

「あ...」

男の舌がチャンミンに応えたように思われた。

チャンミンは湯音をさらに1度上げた。

「熱い?

熱いでしょ?

でも、我慢してね。

僕は君を溶かさないといけないんだ」

チャンミンの真っ赤に染まった肌に対して、男の肌は白いままだった。

片手は男の首から下腹までゆるゆると撫ぜさすっていた。

チャンミンは男から唇を離すと、先ほどから手に触れるものの変化に目を見張った。

それは長さ17センチほどまでに育っている。

それの根元を掴んだ。

握った手の平と指の下で、それは脈々と熱い。

チャンミンの顔は、それへと吸い寄せられ、それはチャンミンの口の中に吸い寄せられた。

 

 

100年前。

彗星のひとつが軌道を離れたことで、間もなく隕石となって落下するという。

計算よりも10年早まった。

それは直径10㎞もあり、墜落後この星は100年にわたって塵の雲に覆われるだろう。

太陽の光は遮られ、気温は下がり、動植物は死に絶える。

宇宙船でここから逃れるには時遅し。

そこで人々は生き残るため、一縷の望みにかけた。

本来の10年後の来たるべき時に備えて、ある技術と装置を既に開発していた。

冷凍することで肉体を仮死状態にし、そこから生還する技術と、それを可能にするカプセル装置だった。

人々はカプセルに閉じこもった。

タイマーが切れるのは100年後...その頃には、外界の危機は去っているだろう。

このタイマーが切れると、カプセル内部が温まり始め、固く凍り付いていた肉体を解凍してゆく。

体温を取り戻すにつれ、止まっていた心臓は鼓動し始める。

カプセルから出た人々は、シェルター内に格納していた宇宙船に乗船し、新天地へ向けてこの星を脱出するのだ。

 

5年前、チャンミンは目覚めた。

他の仲間たちも続々と目覚め、この星をたっていった。

ところが男は目覚めなかった。

カプセルに不具合があったようだ。

チャンミンは、男が目覚めるのを待った。

毎日、男の眠るカプセルに入り、肌と肌を合わせて眠った。

毎日、男を風呂に入れ、身体を洗った。

栄養点滴の輸液パックが空になったり、導尿バッグがいっぱいになると新しいものと交換した。

毛布にくるみ、後ろ抱きにして、男に語りかけた。

100年前の思い出話と、目覚めてからのシェルター生活の日々を。

『もし、永遠に目覚めなかったらどうしよう...!』

強烈な恐怖感に押しつぶされそうになる時もあった。

でも、チャンミンは諦めなかった。

『必ず目覚める。

僕が目覚めさせてやる』

凍り付いていた男の身体は、徐々に解凍されていった。

その証拠に、男の髭が伸び始め、毎日髭をあたる必要が生じた。

こわばっていた関節の可動域も大きくなっていった。

『あと少し、あと少し』

男はチャンミンの恋人だった。

100年前も今現在も、チャンミンは男を深く愛していた。

そして今日...。

 

 

チャンミンの唾液がだらだらと根元へと滴り落ちた。

じゅるりと音をたててそれから口を離し、再び飲み込んだ。

先端をくすぐり、きつめに吸った。

皮を伸ばし、全ての襞と襞の間を清めた。

窪みと血管の凹凸具合を先でたどった。

それは反り返り、硬度を増していった。

「美味しっ...」

表面が十分に潤っていることを確かめると、チャンミンは男の腰をまたいだ。

しゃがんだことでバランスを崩さないよう、両手を男の両胸について上半身を支えた。

チャンミンのそこは常に用意ができている。

日々、男を想って慰めていたからだ。

腰を落としてゆく。

ゆっくりゆっくり。

根元までうずめていった。

チャンミンの喉から、深い歓喜の唸りが発せられた。

しばしそのまま静止し、中が満たされた感覚と感激を味わった。

ぐぐっと、それは膨張したようだった。

それから、上下運動を開始した。

「いいっ...」

弾ける快感に全身の毛穴が開き、ばっと汗が噴き出た。

腰をずらすとそれが当たる角度が変わる。

上下だけでなく、左右前後、反回転、チャンミンは味わいつくした。

男は横たわったままだ。

男の口がうっすらと開いているようだが、運動と愉悦にのめり込んでいるチャンミンは気づいていない。

バスタブのお湯がちゃぷちゃぷと、チャンミンの動きに合わせて水音を立てる。

『熱い...。

...固い』

チャンミンの太ももと膝に、いよいよ限界がきた。

「はあはあ...」

快楽を追求したいのに、背筋と腰が悲鳴をあげている。

チャンミンは息が整うまで、男の胸に伏せ身体を休めた。

と、その時。

チャンミンの身体が突き上げられた。

「ああっ!」

突然のことで、自分の身に起きたことに理解が追い付かない。

身体を滅茶苦茶に揺すられ、チャンミンは悲鳴をあげる。

激痛に感じられるほど、間断なく与えられる快感は凄まじい。

まるで暴れ馬にまたがっているかのようだった。

チャンミン自身の体重と、真下からの突き上げで、奥深くにそれが突き刺さり、息が止まりそうになる。

のけぞり喉仏をさらしたチャンミンは、後ろ手に男の膝をつかんだ。

チャンミンの腰を支える両手があった。

『この指...このぬくもり...昔のままだ』

チャンミンの身体は力いっぱい引き落とされた。

チャンミンもその動きに合わせて、膝を屈伸させる。

半身を起こし、こちらを見上げる1対の眼と目が合った。

「ユノ...。

おかえり」

「チャンミン。

お待たせ」

空っぽのカプセルが整然と並ぶ空間に、肌同士が打ちつけ合う音が響いている。

 

(おしまい)

【BL短編】すりー・P

 

 

僕は身を粉にして働いている。

 

自動販売機にジュースを補充する仕事をフルタイムでこなし、週に3日は終夜営業のスーパーで品出しのバイトをしている。

 

アパートの賃料、水道光熱費、その他諸々、食べ盛りが2人もいて...僕の家計は火の車なのだ。

 

あの子たちを養わなければならないからだ。

 

今夜はバイトがない日だから、早く帰れる。

 

あの子たちに美味しいものを買ってやろうと、滅多に寄らないコンビニエンスストアに立ち寄った。

 

小さな節約を重ねてきたから、コンビニのスイーツ(僕にとっては贅沢品)を買う余裕はある。

 

ワッフル生地に生クリームをたっぷりとはさんだものを2つと、「たまにはいいよね...」と、自分用に発泡酒の缶をとってレジに向かった。

 

「さむ...」

 

もう4月末だというのに、ぴゅっと吹き抜ける冷たい風が首元の体温を奪う。

 

ジャンパー(背中にドリンクメーカーのロゴがプリントされている)の襟元をかき合わせ、背中を丸めて家路を急ぐ。

 

足早に闊歩するスニーカーの爪先が擦りきれていて、「そろそろ買い替えた方がいいな...来月の給料が入ったら」と、頭の中で計算をする。

 

繁華街を抜け、幹線道路沿いを20分行って、左折してさらに10分歩く。

 

アスファルトから視線を上げると、僕らのアパートメントの門柱の灯りまであと少し。

 

 

 

 

ポケットから鍵を取り出す間もなく、玄関ドアが開いた。

 

「わっ!」

 

中から伸びた手に腕をつかまれ、勢いよく中に引きずり込まれた。

 

「おかえりー!」

 

力任せにかじりつかれ、その勢いでコンビニエンスストアの袋を玄関のたたきに落としてしまった。

 

「おかえりー!」

 

もう1人が室内から駆けよって、僕の背中にしがみついた。

 

「待って...ジャンパーを脱いでから...手を洗ってから...」

 

なんて制しても、この子たちは言うことをきかない。

 

2人に両手をひかれ、ダイニング兼リビング兼ベッドルームに腰を下ろす。

 

腰を下ろすや否や、背後に回った1人にジャンパーとトレーナーを脱がされた。

 

「待って...待って!」

 

正面の1人はウエストのボタンを外し、ファスナーを下ろす。

 

別の1人に靴下を脱がされ...。

 

「!!!」

 

1人増えてる!!

 

「ストップ!

スト~ップ!!!」

 

僕の鋭い制止に、3人の動きは止まった。

 

「そこに座りなさい!」

 

正面を指さし命ずると...下着だけというマヌケな恰好だったけど...「はい」と言って彼らは素直に応じた。

 

 

 

 

僕は2人の...今は3人になってしまった...男を養っている。

 

ある時、突如ユノという男が僕の前に現れた。

 

最初は1人だけだった。

 

異次元的に、宇宙的に美しい容貌の持ち主で、不思議な言語を話すため、社会に出すわけにはいかない。

 

彼の主食はとても偏っていて、フルーツとスィーツなのだ。

 

だから食費がかさむ。

 

(季節外れのいちごは高い)

 

僕が仕事を掛け持ちして働いているのは、こういう理由だからなんだ。

 

ところが...。

 

ある日、帰宅してみたら、ユノが2人になっていた。

 

彼曰く、愛情が増すとハートのキャパがオーバーしてしまって、2人になってしまったそうなんだ。

 

新たに加わった彼のことを、ユノユノと呼ぶことにした。

 

ユノとユノユノは見た目もキャラクターも同じだから(当然か)、どっちがユノでどちらがユノユノかは見分けがつかない。

 

彼らにしてみたら、どちらもユノでありユノユノだから、呼び間違えても頓着しない。

 

僕のことを2倍に大好きになってくれた証だから、嬉しい。

 

嬉しいよ、嬉しいけど...2人だなんて。

 

真っ先に浮かんだのは食費のこと...それからアレのこと。

 

2人同時だから、最初は痛いし苦しかったけど、毎夜繰り返すうちに慣れてきた。

 

先月からバイトのシフトを1日増やしたばかりなのに、ユノとユノユノとユノユノユノの3人になるなんて...。

 

座布団の上に並べられたカードに、今日はトランプ遊びをしていたんだな、と思う。

 

(3人になれば、大富豪も面白くなるし、もう1人増えればブリッジもできる...っておい!そんな呑気なことを考えている場合じゃない!)

 

「チャンミン、ごめん。

俺たちのために毎日、いっぱい働いてくれて...感謝しきれない」

 

「俺たちのために一生懸命なチャンミンを毎日見てたら...。

じ~んって感動しちゃって」

 

「疲れているだろうに、昨夜のチャンミンは凄い感じてくれて...。

声も凄かったし...。

嬉しくて、昼間、チャンミンのことを想っていたら...胸がキュッとしちゃって...」

 

「俺がもう1人増えてしまった。

ごめん」

 

僕の前で、3人のユノが横並びに正座して、親に叱られた子供みたいにうつむき加減で。

 

そして、3人揃って僕をそぅっと上目遣いで、探るように僕を見る。

 

僕こそ胸がキュッとしちゃうじゃないか!

 

赦してあげたいけど、3人は無理だ、僕の方がキャパオーバーだ。

 

「せめて2人になれないか、3人で話し合いなさい!」

 

この展開に頭がついていかなくて、この夜僕は早々と布団にもぐり込んだ。

 

背を丸めて横になった僕の後ろで、ユノとユノユノとユノユノユノは膝を突き合わせて何やら相談をしているらしい。

 

肩を揺さぶられて僕は目を覚ます。

 

「チャンミン、起きて」

 

陽が昇りきっていない時刻なのと、全身疲労が抜けきっていない僕は当然、不機嫌だ。

 

「何?」

 

前日痛めた腰に顔をしかめながら身を起こした。

 

「...あれ?」

 

ダイニング兼リビング兼ベッドルームの部屋にいるのは、ユノとユノユノの2人だけだった。

 

「もう1人は?」

 

ユノ(又はユノユノ)は、自身の胸を指しながら、「消えたんだ、俺たちの中に」と言った。

 

「そうそう。

昨夜はヤらなかったからね」

 

「は?」

 

「それからね、チャンミンのカッコ悪いところを思い浮かべて気持ちをセーブすることにした。

好きが溢れると、増えちゃうからね」

 

「チャンミンが女の人だったら、3人まとめても可能だったのになぁ。」

 

「チャンミンは穴が1つしかないからね」

 

「女の人でも無理だって!」と、ぞっとした僕は青ざめた。

 

「それにさ、チャンミンはウケ専だろ?

タチもいけるなら3人同時にできたけど、あいにく俺たちはタチ専だ」

 

「そうそう。

やっぱ、2本が限界だな、って。

泣く泣く2人になったよ」

 

3人が2人に減ったということは、1人分の愛情が減ったんだ...と、寂しくなったりして。

 

そんな僕の気持ちを見透かして、ユノ(又はユノユノ)は

 

「大好きなチャンミンに無理をさせるわけにいかないだろ。

だから俺たちも努力することにした」

 

「イチゴは2日に1回にする。

チャンミンが一生懸命稼いだお金で買ってくれた、って毎日思うと感動しちゃうから」

 

「アレも1回につき2回に我慢する。

チャンミンと何回も繋がると、好き度が増してしまうから」

 

「う~ん...」

 

2人の解決方法とはなんとも単純だ。

 

ということは、僕が2人にしてやっている些細なことに、彼らはいちいち感激していた証だ。

 

僕のほうこそじーんと感激してしまった。

 

「チャンミン、これなあに?」

 

ユノ(もしくはユノユノだけど、面倒だからこっちをユノと呼ぶ)の手に、コンビニの白いビニール袋がある。

 

玄関のたたきに落としてしまったままだったのを、忘れていた。

 

「ユノとユノユノのために買ってきたんだからね。

もぉ!

ぐちゃぐちゃになっちゃったじゃないか!」

 

ぺしゃんこになったデザートに、がっかりしていると、ユノは「味は変わらないよ」とかぶりつく。

 

「俺たちのために買ってきてくれるなんて...。

それも、特売シールを貼ったスーパーのやつじゃなくて...。

俺たち...チャンミンのことがもっと好きになっちゃうじゃん」

 

目をうるうるさせているユノユノの背中を、ユノは「セーブしろ!」と叩いた。

 

それから、ユノは僕の下着を膝まで落とした。

 

「美味しいよ」とユノユノはクリームがたっぷりついた口で、僕のものに口づけた。

 

「...んっ」

 

クリームをすくいとったユノの指が、僕の窪みでくるくると遊ぶ。

 

奥も探られ、膝の力が抜けた僕はユノユノにしがみつく。

 

直後に熱いものがぐぐっと後ろから...ユノのものが分け入ってくる。

 

ユノに抱きかかえられた僕は、ユノユノに両足を巻きつけた。

 

「んんっ...!」

 

つむったまぶたの裏で火花が散って、腹の底から強烈すぎる快感の大波にさらわれた。

 

柔軟になったそこは、2人丸ごと受け入れる。

 

僕の身体は2人にゆだねられて、宙を浮く。

 

ゆっさゆっさと2人の間で僕の身体は揺れる。

 

ユノとユノユノは前後を入れ替えて重なり直す。

 

どっちがどっちなんて分からない。

 

僕にとってはユノもユノユノもユノなのだから。

 

2人にサンドされ、僕は涙を流したりよだれを垂らしたりと、それはもう恥ずかしい有様なんだ。

 

イチゴクリームの甘い香りが満ちる中、僕らは1つになる。

 

2人分のミルクを注がれた時には、僕の意識はぶっ飛んでしまっている。

 

風呂場までユノとユノユノに運ばれ、綺麗に身体を洗ってもらう。

 

ユノとユノユノに髪を乾かしてもらい、洋服を着せてもらい、彼らに見送られて仕事に出かける。

 

そして、じんじんするあそこをかばう歩き方に、同僚からいたわりの言葉をかけられるのだ。

 

「変な姿勢でコンテナを持ったから...」と、答えるしかないんだけどさ。

 

 

 

 

日付が変わった早朝。

 

バイトを終えて帰宅してみると、ユノがまた3人に増えていた。

 

「3人は無理だって!」と怒って、この日はお預けにすることにした。

 

僕はもう諦めていた。

 

これからもずっと、ユノたちに振り回され、ユノが全ての日々を送るんだろうな。

 

はぁ、とため息をついた。

 

これは諦めのものじゃない。

 

確かにしんどい。

 

しんどいよ。

 

愛の洪水で、溺れそう。

 

僕は女の人とアレすることが出来ないから、この先子供を持つことはないだろう。

 

でも、僕の存在が彼らを生かしていると思うと、もっと頑張らなくちゃと気合が入る。

 

一生、馬車馬のように働かないと。

 

彼らがまるで、僕の子供みたいだ、っていう意味じゃないよ。

 

とてもエロティックで可愛くて、惚れ惚れするほど美しくて不思議な存在。

 

2人まとめて僕の中に入ってきた感覚を、思い起こす。

 

気持ちがよすぎて意識が飛んでしまった。

 

だからこのため息は、とても幸福に満ちたものなんだ。

 

でも...やっぱり3人は無理だ。

 

 

 

(おしまい)

 

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