(14)Hug

 

 

 

~ユノのプラン~

 

 

チャンミンのうなじを引き寄せて、最初は軽いキス、次は舌をからめる深いキスをする。

 

チャンミンを抱きかかえて、優しくベッドに横たえて彼の上に覆いかぶさる。

 

チャンミンのパジャマのボタンを焦らすように一つ一つ外していくと、チャンミンはすごく恥ずかしがって、そんな彼が可愛らしくて。

 

俺はチャンミンの全身すみずみまで、ついばんで、触れて、擦って。

 

俺がタッチするたび甘い吐息を漏らすチャンミンは、俺の首にしがみついてくる。

 

チャンミンのあそこを...あそこを、爪で傷つけたりしないよう(ちゃんと短く切ってあるよ)、俺は細心の注意を払う。

 

チャンミンをもっと気持ちよくさせて、ふわふわに柔らかくなるまで愛撫する。

 

俺の方はもちろん、いつでも準備OK、角度と硬度は共に絶好調。

 

チャンミンの耳元で「挿れるね」って囁くと、チャンミンは「うん」って頷くんだ。

 

この後は、恥ずかしいから省略。

 

スタートはバック、次は正常位から。

 

途中に3種類くらい違うのを挟んで、バックでフィニッシュ。

 

チャンミンったら、途中で泣いちゃったから、俺はぎゅっと抱き寄せて髪を撫でるんだ。

 

...っていう流れのはずが!

 

俺ときたら、何かを間違えてしまったみたいだ!

 

 


 

 

「......」

「......」

 

(ど、どうしよ)

 

下着だけになったユノとチャンミンは、2人並んでベッドに腰かけていた。

 

照明を消したため、互いのシルエットがぼんやり判別できる暗さだ。

 

だとしても、恥ずかしくてたまらないチャンミンは、脱いだパジャマを胸に抱きしめていた。

 

(裸からスタートって...余計に恥ずかしいんだけど!?)

 

(さて、と。

服は脱いだ。

で、それからどうする?)

 

ユノは、「よし!」と小さくつぶやいた。

 

(チョンユンホ、男になろう!)※2度目

 

ユノはチャンミンの前髪をかき分け、うなじに唇を押し当てた。

 

ユノの唇の下で、ぴくりとチャンミンが震えた。

 

首筋から顎まで唇を這わせた後、チャンミンの唇をこじ開けて舌をねじこんだ。

 

昼間のキスで、ディープキスの気持ちよさを覚えたユノ。

 

「んんー!」

 

(ユノ!

キスが上手すぎ!)

 

息が苦しくなって(ユノはまだ、スマートな息継ぎの仕方を知らない)唇を放すと、ユノはチャンミンをかき抱いて、2人一緒にベッドに倒れこんだ。

 

「ずっとこうしたかった」

 

カーテンの隙間から外灯の灯りがわずかに届いて、チャンミンの裸身がつくる陰影がぼんやりと浮かんでいる。

 

(う、うう...。

チャンミン...いい身体過ぎ..。

なよっとしてるかと思ったら、細マッチョじゃん!

ドキドキ)

 

横向きに寝転がった2人は、見つめ合う。

 

「うっ...うっうっ...」

 

「チャンミン...泣いてるの?」

 

ユノはチャンミンの頬に触れて、チャンミンの目もとに光るものを拭った。

 

(僕が泣いてどうするんですか?

でも、嬉しくて、あまりにも嬉しくて)

 

「俺はこの時のために生きてきたんだ」

 

「ユノったら...っう...うっ...大げさ」

 

ユノは仰向けのチャンミンの上にのしかかると、チャンミンを押しつぶさないよう肘と膝で体重を支えた。

 

 

 

 

ユノの唇はチャンミンの首、鎖骨を通過していって、「まずは、ここを吸って...」とボタンのひとつを含む。

 

「っふ...!」

 

チャンミンの肌がびくんと跳ねた。

 

(お...お!

固くなってきた!)

 

面白くなってきたユノが舌先でそれをころころと転がすと、チャンミンは「ひゃ...あ...ひゃ...ひ...」と。

 

(変な声が出てしまう...久しぶり過ぎて...!)

 

(か、可愛い...チャンミンの声が、可愛い...)

 

快感を逃すために、チャンミンは立てた両膝をこすり合わせる。

 

不意にじゅっと強く吸引された時、

 

「ああん!」

 

思いがけず大きな声と共に、魚のように跳ねてしまったチャンミン。

 

「しー!!」

 

「...ごめん」

 

 

<規制を回避するため、ほぼ音声のみでお届けします>

 

(チャンミンって...乳首が弱いんだな。

腹なんかびくびくしてるし...。

へえぇ...男でも乳首って気持ちいいんだ...へぇぇ)

 

(ユノ!

おっぱいばかり攻めないで...。

ああぁん...弱いんだからぁ!)

 

胸のあたりでうごめくユノの頭を、チャンミンはやさしく撫ぜる。

 

「ああん!」

 

「ごめん、痛かった?」

 

(乳首に夢中になり過ぎた。

噛んだら痛いよな、やっぱ)

 

(痛くて気持ちよかった、とは言えない)

 

ユノは慌てて唇を離すと、チャンミンの胸に頭を預けてふうっと息を吐いた。

 

互いの素肌が密着して温かく、身体を動かすとさらさらと肌がこすれる。

 

「チャンミンの肌、気持ちいい...」

 

「うん」

 

チャンミンの胸に乗ったユノの頬が、熱い。

 

ユノの耳にはチャンミンの早すぎる鼓動が聞こえていた。

 

ユノはさりげなく手を伸ばして確認する。

 

(よし!

硬度、角度共に合格!

萎えちゃったらどうしようかと思った)

 

(あ!)

 

自分の膝に当たるものにチャンミンは気付いて、安堵した。

 

(よかった。

ユノはちゃんと反応してくれた。

もっとがっつくかと思ったけど...優しいタッチで、意外だな)

 

ユノの手つきはぎこちないが、ひとつひとつの動作がゆっくりと丁寧だった。

 

チャンミンも腕を伸ばして、ユノの背筋に沿って柔らかいタッチで、撫でおろした。

 

「あ...!」

 

ユノの背中がビクッとする。

 

(チャンミン!

思わず声が出ちゃったよ!)

 

(ユノ...可愛い)

 

(次は...?

この次はどうすればいい?)

 

ユノは、日ごろお世話になっているAVのストーリーを思い出す。

 

(酔いつぶれたイケメン上司に、ホテルに誘われた後輩が...。

違うって!

眼鏡をはめたセクシー養護教員に、保健室に誘われた男子高校生が...。

ちょっと似てるけど、違うって!

母親の再婚相手が年下エロメンで、息子と義〇との禁断の関係が...。

こらー!

こらー!

「合体」に至るまでの流れと手順を思い出すんだ、チョンユンホ!

しまった!

早く「合体」してるところを見たいあまり、出だしのところを早送りしてたんだった!

俺の馬鹿馬鹿!)

 

(注)ユノのメイクラブ参考書は、AVが全てである。

 

ぴたりと動きを止めてしまったユノに、チャンミンは不安になる。

 

(やっぱり男同士はイヤだ、って正気にかえったんだ!)

 

「...ユノ?」

 

ところが、ユノの指がそろそろと、チャンミンの下半身に下りていく。

 

(チャンミンのムスコの具合はどうかな...。

お!

お!

おーーー!)

 

(恥ずかしいよー。

『ちっちゃいな』って思ってたらどうしよう!)

 

「......」

 

(固い...。

嬉しいよ、チャンミン)

 

チャンミンは恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆っている。

 

(こんなシチュエーション初めてじゃないくせに、まるで初めての時みたいに、ドキドキする!

そろそろ僕も、頑張らないと!)

 

これまで、初めての狩りの様子を見守る親鳥のような心境だったチャンミンは、「よし」と頷くとユノの腰に手を伸ばした。

 

「ひゃっ」

 

チャンミンの指がユノの下着のゴムにひっかけられた。

 

チャンミンが下着を脱がそうとしていることに気付いて、ユノは慌ててチャンミンの手首をつかんだ。

 

「わっ!

自分で脱ぐよ!」

 

「ううん。

僕が脱がせてあげる」

 

「...恥ずかしい...」

 

「...今さら照れなくても...。

ユノのなんて、とっくの前に披露してくれたじゃないか」

 

「!」

 

(いつもと逆の立場は調子狂う。

チャンミンをからかっていたいつもの俺は、どこにお散歩にいっちゃったんだ?)

 

「ユノ...好き」

 

「!」

 

チャンミンは身を起こしてユノを膝立ちにさせると、彼の胸に口づけながらゆっくりと下着を脱がせていった。

 

(おー!

チャンミン...。

舐め方がエロい。

気持ちいい...。

わっ!

吸わないで、力が抜ける...。

チャンミン、凄い。

『経験者』はさすがに違う!)

 

(!)

 

チャンミンの視線は、ユノのあそこにロックオンされた。

 

薄暗い中でも触らなくても、シルエットだけでもよくわかる。

 

(え...!

この子ったら...!

この子ったら...!

身体も大きいけど...なんて立派なんだ!!)

 

 

 

(つづく)

 

 

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(13)Hug

 

 

 

「まずはチャンミン、ここに座ってください」

 

「そこに?」

 

頷いてユノは、太ももをポンポンと叩いた。

 

チャンミンはユノの太ももにまたがると、彼の両肩に手をのせた。

 

(えっち過ぎて、照れる)

 

ユノに腰を支えられ、耳も首も真っ赤にさせたチャンミン。

 

「ずっとこうしたかった」

 

「ユノ...」

 

チャンミンはユノの後頭部の髪をすく。

 

(言動も見た目も幼くて。

礼儀正しくて、ちょっとえっちで。

大きな体をしてるのに、照れ屋で。

僕の可愛い可愛い彼氏)

 

チャンミンの胸はきゅっとして、とにかくユノのことが愛おしくてたまらなくなる。

 

「話って?」

 

「俺の話を聞いたら、チャンミン、幻滅しちゃうかも」

 

「幻滅?」

 

「うん。

引いちゃうかも」

 

「聞くのが、怖いんだけど」

 

(何だろう?

まさか、『俺もバツイチなんだ』とか、『結婚してるんだ』...とか?

『子供がいるんだ』とか...!?)

 

ユノの言葉を待つチャンミンの口の中が、からからになってくる。

 

「あのね...」

 

ユノは、こほんと咳ばらいをする。

 

「そんなに怖い顔をしないでよ」

 

「ねえ、ユノ?

今じゃなくちゃ駄目なの?」

 

「うん。

『今』じゃないと駄目なんだ。

えーっと、俺はね...俺は...」

 

「ユノが...どうしたの?」

 

「爆弾発言をするよ」

 

(バクダンハツゲン!?)

 

「......」

 

「俺は...」

 

ユノは、いったん言葉を切ると、うつむいていた顔を上げた。

 

「...『経験』がないんだ」

 

「経験?」

 

「うん」

 

「え...」

 

「俺は...ど...う...てい、なんだ...」

 

ユノの声は、消え入りそうだ。

 

「チェリーなんだ...。

言葉の使い方、合ってる?」

 

「......」

 

(どうしよう...!

チャンミンが考え込んでる)

 

「...という訳で、

チャンミンが、俺にとっての『初めて』の相手になるんだ」

 

「......」

 

黙ってしまったチャンミンを、ユノは泣き出しそうな顔で見つめている。

 

(いつも大胆なことばかり言うから、

てっきり『済』だと思ってたけど、

正真正銘の『新品』だったんだ...)

 

「幻滅...した?」

 

「......」

 

「かっこ悪いよね」

 

「......」

 

「気持ち悪いよね」

 

「......」

 

「チャンミン、何か言ってよ...」

 

「やだなぁ、ユノ!」

 

チャンミンはユノの胸をドンと突いた。

 

そのはずみで、ユノはベッドに仰向けで倒れてしまった。

 

「!」

 

(チャンミン...いきなり、押し倒すのか...!)

 

「可愛い!」

 

チャンミンは仰向けになったユノに飛びつくと、すりすりと頬ずりした。

 

「可愛いなあ!」

 

チャンミンのリアクションに驚いたユノは、チャンミンにされるがままだ。

 

「チャ、チャンミン!」

 

「言いたいことって、このこと?」

 

「うん。

一世一代のカミングアウトだったよ」

 

「ぎゅー」

 

「チャンミン...苦しい!

話はまだ途中だよ!」

 

ユノは、しがみつくチャンミンの肩を押して、彼を真っ直ぐ見上げた。

 

潤んだユノの眼がつやつやと光っていた。

 

「だから...。

ここからが本題だよ。

...うまく出来ないかもしれないってことなんだ」

 

「そんなこと...気にしなくていいのに...」

 

(ユノが涙ぐんでいる。

勇気がたくさん必要だったんだね。

僕が引いちゃうかもって、不安でたまらなかったんだね)

 

「気にするに決まってるだろ!

だから...そのぉ...。

チャンミンの経験で...リードして欲しいなぁ...って?」

 

「は?」

 

(困ったな。

僕だって、そんなに経験があるわけじゃないのに)

 

「このことを、最初に耳に入れておこうと思ったわけなんだ」

 

「うん、わかったよ」

 

チャンミンはユノに身を伏せようとすると、

 

「それから、あともうひとつ」

 

再び、ユノに引きはがされる。

 

「まだあるの?」

 

「うん、もうひとつあるんだ。

コトを成す上で、たいへん重要なことなんだ」

 

ユノは人差し指をピンと立てた。

 

「大げさだなぁ」

 

「実は...装着テストを未だしていないんだ」

 

「『装着テスト』?」

 

「うん」

 

ユノはポケットに入れていた箱を取り出して、チャンミンの前で振ってみせる。

 

「これ」

 

「!」

 

「うまくいかなかったら、そこはその...。

チャンミンの経験を活かして、手伝っていただきたくて...」

 

「......」

 

(なんなの、この子は!

そんなことまで、赤裸々に言っちゃうわけ!?

天然にもほどがあるんですけど!?)

 

固まってしまったチャンミンの表情を見て、ユノはしゅんとしてしまう。

 

「駄目...かな?」

 

チャンミンは満面の笑みで、首を振った。

 

(この子ったら。

なんて可愛くて、面白い子なんだろう)

 

ユノは、ホッと胸をなでおろしたのであった。

 

 


 

 

「......」

 

「え...っと」

 

仰向けになったユノの上に、馬乗りになったチャンミンだった。

 

互いの暴露タイムを経て、2人の間に妙な緊張感が漂っていた。

 

スタートを切るための小さな合図を待っていた。

 

(男になるぞ、チョンユンホ!)

 

よし、と小さく頷くとユノは身体を起こすと、着ていたTシャツを脱いだ。

 

チャンミンの目の前で露わになったユノの半裸姿に、チャンミンの心拍数が上がる。

 

(あらら)

 

ほっそりとしているが、適度な筋肉がついていて無駄がないユノの身体に、チャンミンは見惚れてしまう。

 

「ぼーっとしていないで。

チャンミンも、パジャマを脱いでよ」

 

「僕も脱ぐの!?」

 

「当たり前!」

 

チャンミンもあたふたと、パジャマのボタンを外し始める。

 

(ちょっと待ってよ!

いきなり服を脱いじゃうの!?

いいムードで、少しずつ脱がしていくものじゃないの!?

2人とも脱いじゃうの!?)

 

ユノに急かされるままチャンミンは、パジャマの上下を脱いだ。

 

「!!!」

 

下着姿になったチャンミンに、ユノはギョッとした後、顔をそむけてしまった。

 

(チャチャチャチャンミン!

眩しい、眩しすぎる!)

 

「電気を消そうか?」

 

(いつものユノだったら、

「明るい方が興奮する」って言いそうなのに。

いざその時になると照れ屋になってしまったユノが、可愛い!)

 

チャンミンの下着姿に動揺して顔をそむけていたユノだったが、そうっとチャンミンを見る。

 

「何だ、それは!?」

 

「え?」

 

指摘されて、チャンミンは自身の身体を見下ろす。

 

「変...だった?」

 

(痩せすぎだって!?

それとも...小さいってこと?)

 

「あのセクシーブリーフはどこいった?

どうして、あれじゃないんだ!?」

 

一度身につけたものの、照れくさかったのと、サイズに自信をなくしたチャンミンは、いつもの下着にチェンジしていたのだった。

 

「あれはちょっと...恥ずかしくて...」

 

「別にいいけど。

どうせ、すぐに脱がしちゃうから」

 

ふふんとユノは鼻だけで笑ったが、その実内心はピンクな嵐の中でもみくちゃにされていた。

 

(余裕ぶっちゃってるけど、めちゃくちゃ緊張してるんだ。

もし、あのセクシーブリーフだったら、俺はどうにかなってたよ。

チャンミンも照れていないで、俺をリードしてくれよ!)

 

 

(つづく)

 

 

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(12)Hug

 

 

 

 

(ユノ...遅いなぁ)

 

チャンミンは落ち着かなくて横になったり、起き上がったり、時計を見たり。

 

(もう23:30じゃないか!

明日は早起きしなくちゃいけないのに!)

 

チャンミンはユノを待っていた。

 

(パジャマは着たままでいいよね。

靴下は脱いでおこう!

脇は臭くないよね...くんくん。

合格!)

 

チャンミンはパジャマのズボンをめくった中を確認した。

 

(いつものパンツに着替えたけど...いいよね。

あれはちょっと、気合が入り過ぎだった)

 

すすーっとふすまが開いた。

 

「ユノ!」

 

「チャンミン」

 

開いたふすまの隙間からユノが顔を出した。

 

「お待たせ」

 

素早く部屋に滑り込む。

 

ユノはTシャツとハーフパンツ姿だった。

 

「遅くなってごめん。

ソウタ君がなかなか寝てくれなくて...」

 

そう言うと、パジャマ姿のチャンミンから1m離れて、ベッドに腰かけた。

 

(この微妙な距離はなんだ!?)

 

(パジャマのチャンミンが、可愛いんですけど!)

 

「あの...」

 

隣のチャンミンを直視できないユノは、もじもじ動かす足の指を見ながら声をかける。

 

「眠い?」

 

「ううん、大丈夫」

 

「チャンミンは、疲れているんじゃないの?

準備で忙しかったし」

 

「ユ、ユノこそ、眠いんじゃないの?

ほら、今日はいろいろあったし」

 

「......」

 

(き、緊張する...!

チャンミンにえっちなことを言って、困らせていたのに、

今の俺には、その勢いと余裕が枯れている!)

 

(参ったな。

こんなシチュエーション、初めてじゃないくせに...。

ユノが恥ずかしがっているから、こちらまで緊張しちゃう)

 

「......」

 

「そうそう!」

 

チャンミンがパチンと手を叩いたので、ユノはビクッとする。

 

「そこ...大丈夫?」

 

「へ?」

 

「そこ」

 

「そこ?」

 

「そこだってば!」

 

チャンミンは、顎をしゃくってみせる。

 

「そこ?」

 

「だから、ユノの...」

 

「そのものズバリで言ってくれなきゃ、分かんないよ」

 

「......」

 

ユノのニヤニヤ顔に、チャンミンはユノがとぼけていることに気付く。

 

「ユノ!」

 

(チャンミンをからかうのは、楽しいなあ)

 

「くくく。

大丈夫だよ。

目ん玉ぶっ飛ぶかと思った。

チャンミンも分かるだろ?」

 

「うん」

 

ユノを睨んでいたチャンミンだったが、「目ん玉がぶっ飛ぶ」様をしてみせるユノに、笑ってしまった。

 

1mの隙間を埋めようと、ユノはチャンミンにぴったりつくように、座りなおした。

 

ぎしっと、チャンミンのシングルベッドがきしむ。

 

(お?)

 

ユノはベッドの上を何度もはずんで、ギシギシとたてる音を確認した。

 

「けっこう...音がする」

 

「古いからね。

中学生のときから使ってるんだ」

 

「困ったなぁ」

 

「音が気になるって言うんでしょ?」

 

(ユノが言いそうなことくらい、予想がつく)

 

「それも、そうだけど...。

うーん」

 

ユノはあごに手を当てて、何かを考えこんでいる。

 

「チャンミン...。

初めてのえっちは、このベッド?」

 

「......」

 

「このベッドで...したの?」

 

「馬鹿!

ユノの馬鹿!」

 

「どうなんだ?」

 

(この子ったら、何を言い出すんだ!)

 

「本気で俺は気になっているんだよ?」

 

(ずばり聞いちゃうわけ?)

 

「で、どうなの?」

 

ユノは、ずいっとチャンミンに顔を近づけた。

 

あまりにも真剣な表情なので、チャンミンの心にイタズラ心が湧いてきた。

 

(いつもユノにからかわれてばっかりだからね)

 

「...そうだよ」

 

「え...!」

 

ユノは固まる。

 

「嘘うそ!

冗談だってば!」

 

「チャンミ~ン、ひどいよ!」

 

「ごめんね、ごめんね」

 

チャンミンは、抱きついてきたユノの頭をよしよしと撫ぜる。

 

先ほどまでぎこちなかった2人の空気が、ほぐれてきた。

 

「...えっと」

 

(真夜中!

寝室!

恋人同士!

大人!

2人きり!

ベッド!

ベッド!

ベッド!)

 

チャンミンの胸に頭を押し付けていたユノは、顔を上げた。

 

「やっと...この時が来たね」

 

(チョンユンホ!

チャンス到来だ!)

 

ユノはチャンミンの肩を押して、ベッドに押し倒そうとするが。

 

「待って!

ユノ、ちょっと待って!」

 

チャンミンは力いっぱい手を突っ張って、ユノの顎を押しのける。

 

「いでっ!」

 

叫んだユノは、プロレス遊び中に転んで、打ち付けてしまった顎をさする。

 

「ごめん、そんなに痛かった?」

 

「俺は全身、ボロボロなんだよ...」

 

「ごめん...」

 

「そんなことよりも、何?

今さら、嫌?」

 

(俺は、なけなしの勇気を振り絞って、必死なんだよ!)

 

若干ふてくされたユノは、ため息をついて髪をかきあげた。

 

「そうじゃなくて、その前に...。

ユノに話しておきたいことがあるんだ」

 

「今じゃなくちゃ、駄目なの?」

 

「うん」

 

「聞くよ。

どうぞ、お話しください」

 

ユノは手のひらを向けて、チャンミンに早く話すよう促した。

 

「本当はずっと前にユノに話しておかなくちゃいけないことだったんだ。

あの...その...。

あのね...えっと...」

 

「言いにくかったら、今じゃなくてもいいんだよ」

 

ユノはチャンミンの手を取ると、指をからませた。

 

緊張の汗でべたついたチャンミンの手が、さらりと乾いたユノの手の平に包み込まれる。

 

「今じゃなくちゃ、いけないんだ。

でね...」

 

チャンミンを見つめるユノの目は、この上なく優しい。

 

チャンミンは、鼻からすっと息を吸った。

 

「僕...バツイチなんだ」

 

「ええええ!!!!!!」

 

ユノは繋いだ手を離すと、後ろにとびすさった。

 

目も口も大きく開いている。

 

あまりのユノの驚きように、チャンミンも固まる。

 

(ええっ!?

もしかして、知らなかったの?)

 

「もう知ってるかと思ってた」

 

「ううん!

初耳!」

 

「幻滅した?

嫌でしょ?

嫌だよね?」

 

チャンミンは泣き出しそうだった。

 

目も口を大きく開けていたユノは、ふっと肩の力を抜くと、

 

「全~然」

 

と言って、小首をかしげてニカっと笑った。

 

「ホントに?」

 

「ほんとほんと」

 

 


 

 

~チャンミン~

 

 

そっか...。

 

ユノの驚き方が、あまりに大げさで嘘っぽかった。

 

その後の、「バツイチくらい大したことないよ」の余裕ある態度もわざとらしかった。

 

知ってたくせに。

 

ホントは知ってたくせに、初めて聞いた風を装ってくれたんだね。

 

誰かから聞いたんじゃなくて、僕が打ち明けたことにしてくれたんだね。

 

 


 

 

「幻滅なんてするかよ...。

でも...正直に言っちゃうと、嫌だよ」

 

「だよね...」

 

チャンミンはがっくり肩を落としてしまい、そんな彼の頭をユノは撫ぜた。

 

「嫌だよね。

逆の立場だったら、すごく嫌だ...」

 

「チャンミンがどうこう、ってことじゃないんだ。

チャンミンが、俺じゃなくて他の誰かを好きだったことが嫌なんだ。

結婚したくなるくらい好きになったんだろ?

チャンミンの過去の男に、俺は嫉妬しているんだ」

 

「ユノ...」

 

「器が小さい男でごめん」

 

(この子ったら...)

 

「離婚してくれてありがとう、だよ。

じゃなきゃ、俺はチャンミンと付き合えなかったから」

 

「ユノー!」

 

チャンミンはユノの頭を胸に抱え込んだ。

 

そしてユノの頬を包み込み、唇を寄せようとした。

 

「ストップ!」

 

ユノに両肩を押されて、引きはがされてしまった。

 

「何で!?」

 

「よだれが出てるよ、チャンミン。

俺が美味しそうなのはわかるけどさ、ひとまず抑えて」

 

「何だって!?」

 

「しーっ!

チャンミン、うるさい。

みんなが起きちゃうよ!」

 

(今度は僕の方が『お預け』なの!?

やりたくて仕方がなかったのは、ユノの方じゃなかったわけ?)

 

「何だよ...」

 

「実は...。

俺の方も、チャンミンに打ち明けたいことがあるんだ」

 

急にあらたまった感じに、ユノは話し出した。

 

 

 

(つづく)

 

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(11)Hug

 

 

 

就寝前のおやつタイム。

 

居間でTVを観ながら皆、そろってドーナツをかじっていた。

 

ユノはチャンミンの隣に陣取って満面の笑顔だった。

 

「チャンミン、食べ過ぎ!」

 

「うるさいなぁ」

 

「チャンミンが太っても、俺は全然OKだけどね。

抱き心地がよくなる」

 

「ユノ!」

 

ユノ発言に、一斉に大人たちの注目が集まる。

 

(調子に乗って!)

 

うんざりしたチャンミンが台所に移動すると、ユノも後をついていく。

 

「ったく、金魚のフンみたいな奴だ」

 

ゲンタは、ずずずっとお茶をすすって言う。

 

周囲の浮かれた雰囲気にのって、子供たちの興奮は最高潮だった。

 

カンタは、金打ちの練習で留守だ。

 

「おじちゃんはねー、ひーじぃちゃんのお風呂を『のぞきみ』したんだよー」

 

「おじちゃん、へんたーい」

 

「あれはっ!

ちょっとした...手違い」

 

真っ赤になったユノ。

 

突然、ソウタがユノの背中に、飛びついてきた。

 

「おじちゃんと一緒に寝る」

 

「えっ!?」

 

(マジかー)

 

「いけません!

お兄さんは、明日は早いの」

 

叱りつけるヒトミの言う通り、明日の御旅(おたび)行列は早朝6時出発だ。

 

着物の着付けもあるので、遅くとも4時には起床しなくてはならない。

 

ケンタたちは心底がっかりした顔をしている。

 

(今夜は大事な『任務』があるんだ。

邪魔されてたまるか)

 

「『お兄さん』とプロレスごっこしようか?」

 

ユノはとっさに提案してしまった。

 

「わーい!」

 

ケンタもユノの脚にしがみつく。

 

ユノがモンスター2人を連れて居間を出て行くのを見て、セイコはしみじみと言う。

 

「ユノ君は、面白い子だねぇ」

 

「ここに来て楽しんでるみたいだよ」

 

(あんなに笑ってるユノを見るのは、初めてかもしれない。

無邪気過ぎて、さらに年下に見えてしまう)

 

「そろそろ、寝るよ」

 

チャンミンはすくっと立ち上がると、洗面所へ向かったのだった。

 

 


 

 

広間で子供たちととっくみあいの最中のユノ。

 

「痛い痛い!

髪の毛をつかむのは、反則だよ!」

 

腰にタックルしてきたソウタを、突き飛ばさないよう抱きかかえて、畳の上に倒す。

 

開いたふすまの合間から、通り過ぎるチャンミンの姿を見かける。

 

(お!

チャンミン!)

 

「ちょっと待ってろよ。

『お兄さん』は、トイレに行ってくるから」

 

チャンミンを追いかけようとしたら、

 

「あでぇっ!」

 

ユノは派手に転んでしまった。

 

畳に寝っ転がったソウタが、ユノの足首をつかんだからだ。

 

「いててて...」

 

ユノは顎をさすりながら、うつぶせで倒れた身体を起こした。

 

「その技も反則だって!」

 

「おりゃー!」

 

ケンタは飛びかかってユノを突き倒すと、馬乗りになった。

 

「こらっ!」

 

ユノはいい加減うんざりしてきた。

 

プロレスごっこをしようと誘ったことを、深く後悔していた。

 

(チャンミン...助けて。

この子らは、俺をおもちゃにするんだ)

 

 

 

 

一方、チャンミンは洗面所の鏡に映る顔を見つめていた。

 

(20代に...ぎりぎり見えなくもない。

笑うと目尻にしわは寄っちゃうけど、優しそうに見える...かな?)

 

顔を左右に向けて、ためつすがめつ顔をチェックする。

 

(やだな。

どう見ても、ユノと同年代には見えない)

 

昨日今日と、3度目撃したユノの裸を思い出す。

 

(やだな。

ユノはあんなにいい身体をしているのに、それに引き換え僕ときたら...。

ユノとは釣り合わないのかな...。

自信がなくなってきた...)

 

パジャマのパンツをめくって、下を覗き込んだ。

 

(気合が入りすぎかな。

ぴっちぴち過ぎるかな。

大胆過ぎるかな?

うーん...。

やっぱりいつもの下着に、着がえよう)

 

部屋に向かおうとしたが、もう一度鏡の自分を見る。

 

(それから、

やっぱりあのことを、自分の口からちゃんと話そう。

ユノも、僕の告白を待っているんだと思う)

 

「よし!」

 

洗面所の電気を消して、廊下へ出た瞬間...。

 

 

 

「はうぅっ!!!!!!」

 

 

 

広間の方から、悲鳴が。

 

(この声は、ユノ!)

 

慌てて広間へ向かおうとすると、ケンタとソウタがこちらへ走ってくる。

 

「ピーポーピーポー」

 

「どうしたの!?」

 

チャンミンはすれ違いざまに、ケンタを捕まえて、問いただした。

 

「おじちゃんが、死にそうなんだ!」

 

「大変なんだ!」

 

「ええぇ!?

死にそう?

あんたたち、何したの!?」

 

(無茶をして骨でも折ってたら、どうしよう!)

 

さっと青ざめたチャンミンが、広間に駆けつけると...。

 

ユノが畳の上にうずくまっている。

 

「ユノ!!!!」

 

「うぅ...」

 

ユノは脂汗を浮かべて、うめいている。

 

「大丈夫?

どこ?

どこが痛い?」

 

「う...」

 

ユノはあまりの苦痛に、チャンミンの質問に答えられないようだ。

 

(出血はない)

 

「死にそうだって!?」

「救急車呼んだ方が!?」

 

ケンタたちに呼ばれて、居間にいた大人たちも駆けつけてきた。

 

その後ろから、こわごわケンタたちが顔を出している。

 

「あんたたち、お兄さんに何したの?」

 

ヒトミは子供たちを叱りつけた。

 

「居間に運ぶか?」

「頭を打ってたら、動かさない方がいいな」

「毛布持ってこい!」

 

ユノは蒼白になった顔をゆがめ、目をぎゅっとつむっている。

 

「うぅ...」

 

(どうしよう!)

 

「どこだ?

どこを怪我した?」

 

「救急車呼ばなくっちゃ」

 

ヒトミはポケットからスマホを出して操作する。

 

「どらどら?」

 

脇に座って泣きそうになっているチャンミンをどかすと、ショウタはうずくまった姿勢のユノの肩を起こそうとした。

 

「お......!」

 

ショウタの動きが止まった。

 

「救急車は呼ばなくていい!」

 

ショウタは立ち上がると、廊下のケンタとソウタにデコピンをする。

 

「しばらくすれば治る!」

 

「お父さん!」

 

「タマをやられただけだ」

 

「タマ?」

 

「死にそうに痛いはずだが、

しばらくすれば、治まる!」

 

(そ、それは痛い!!!)

 

「こいつらに蹴られたんだろうよ。

ほら、みんな戻った戻った」

 

ショウタは、家族を急かすと広間を出て行ったのだった。

 

後に残されたチャンミンは、ユノの頭を膝にのせ、苦しむ彼の背中をさすってやる。

 

確かにユノの両手は、股間を押さえている。

 

「チャ、チャンミン...。

息が止まった...よ...」

 

(ユノったら、昨日に続き今日まで...。

可哀そうに)

 

「俺のが...負傷した...」

 

涙をにじませたユノは、チャンミンを見上げてつぶやいたのだった。

 

 

 


 

 

(どうしてみんな、俺を邪魔するんだ!)

 

右にケンタ、左にソウタ。

 

間にユノ。

 

カンタは、ソウタの隣で行儀よく布団をかぶってすーすーと寝息をたてている。

 

(どうしてどうして、みんな俺の邪魔ばかりするんだ!)

 

発端は、就寝前のこと。

 

灼熱の痛みから回復したユノ。

 

「『お兄さん』、ごめんなさい...」

「『お兄さん』にキックしてごめんなさい!」

 

ユノの急所を蹴り飛ばしたことを申し訳なく思ったのか、2人は泣いて謝った。

 

(おー!

初めて『お兄さん』って呼んだぞ)

 

「もう謝らなくていいよ。

(俺は優しい男だから)もう怒ってないよ。

でも、二度とあんなことをしないように!」

 

ところが、いつまでも泣き止まない彼らをなだめようと、ユノは

 

「TVゲームしよっか?

『お兄さん』は強いんだぞー」

 

と、誘ってしまった。

 

そうやって始まった、ゲーム対戦。

 

ところがうっかり、ユノは本気を出してしまい、彼らをこてんぱんにやっつけてしまった。

 

再び大泣きした彼らの機嫌をとらなくなってしまったユノ青年。

 

結果ユノは、子供部屋で就寝することになってしまったのだった。

 

(こんなことで、めげるような俺じゃない!)

 

ぐずぐずと起きていたソウタが寝入ったのを確認すると、ユノは布団を抜け出す。

 

子供部屋は1階、チャンミンの部屋は2階。

 

(俺が大事に守ってきた『純潔』を、チャンミンに捧げにゆくぞ)

 

ユノは3人を起こさないよう、ふすまを開けて廊下へ出た。

 

 

 

(つづく)

 

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(10)Hug

 

 

 

「チャンミン」

 

コンロの前に陣取って、山菜の天ぷらを揚げるチャンミンの耳元でユノは囁く。

 

「何?」

 

額に汗をかきかき、油の匂いに酔ったチャンミンは不機嫌そうだ。

 

「チャンミン!」

 

ユノは、チャンミンの袖を引っぱる。

 

「危ない!

火傷しちゃうじゃないか!」

 

「チャンミンに、相談があるんだ」

 

「相談?

聞いてあげるから、どうぞ」

 

「いや...ここではちょっと...」

 

隣に立つユノは、もじもじしている。

 

「ここでは、話せないことなんだ」

 

「えー?」

 

「お願い!

ちょっとだけ」

 

申し訳なさそうに手を合わせるユノを、チャンミンは放っておけない。

 

「おばあちゃん、ここお願い。

すぐに戻ってくるから」

 

祖母カツに火の番を頼むと、チャンミンは渋々ユノについて台所を離れた。

 

「相談ごとって何?」

 

チャンミンは腕を組んで、ぶっきらぼうにユノに尋ねる。

 

「チャンミ~ン。

そんな怖い顔をしないでよ」

 

忙しい中、無理やり連れてこられたチャンミンは、なかなか話し出そうとしないユノにイライラする。

 

「チャンミン。

近くに薬局ってある?」

 

「薬局?

ユノ...まさか...!

お腹が痛いの?

食べ過ぎないで、ってあれほど言ったじゃないか」

 

空腹だったユノは帰宅するなり、セイコが作り置いたおにぎりを5個も平らげていた。

 

「違うって!」

 

ユノはずいとチャンミンに顔を近づけた。

 

「念のため、チャンミンに聞くんだけど。

チャンミンって、もしかして、もしかしての話。

アレって持ってないよね?」

 

「アレ?」

 

チャンミンはきょとんとする。

 

「アレだよ」

 

「アレ?」

 

「そう。

アレ」

 

「アレじゃ分かんないよ」

 

「そのー、『今夜』使うもの」

 

「......」

 

「持ってないよね?」

 

ユノの言う『アレ』が何だかを、チャンミンは悟る。

 

「も、持ってるわけないだろう!」

 

「持ってないの!?

持ち歩いてないと駄目じゃん!」

 

「も、持ち歩くって!?

そんなっ!」

 

ユノは腕を組んで、うーんとうなって目をつむる。

 

「困った。

『アレ』がないと、出来ない」

 

「相談事って、『そのこと』?」

 

「うん」

 

「信じられないよ!

薬局って、『そのこと』?」

 

「うん。

忘れてきちゃって。

ずっと前から用意していたのに、うちに置いてきたんだ」

 

「信じられないよ!」

 

「100歩譲って、『アレ』がなくてもいいけどさ...。

チャンミンは、『アッチ』のものは持って来てる?」

 

「......」

 

「『アッチ』っていうのは、チューブに入ってるヤツのことだよ。

チャンミン先生のことだから、持ってるよね?」

 

「......」

 

「ひゃぁ!

チャンミン先生、さっすが!

となると、足りないのは『アレ』だけか...」

 

ユノは鼻にしわをよせている。

 

「ねえねえ」

 

ユノに手招きされて、チャンミンは耳を貸す。

 

「チャンミンのお父さんって、持ってないよね?」

 

「馬鹿!

ユノの馬鹿!」

 

チャンミンは真っ赤になって、ユノの腕をつかんで揺する。

 

「冗談に決まってるだろう!」

 

「ユノ!」

 

はははっと笑ったユノは、すぐに真面目な表情になってチャンミンの耳元でささやく。

 

「今から、調達してくるよ。

車を貸してくれないかな?」

 

「ユノって『そのこと』しか考えていないわけ!?」

 

「うん。

俺は若くて健康な男だから」

 

しれっと答えるユノ。

 

「『アレ』がないと、今夜できないんだよ?

チャンミンも困るだろう?」

 

チャンミンはため息をつくと、額に手をのせてしばらく天井を見上げる。

 

(相談事っていうから、何だろうと思ったら。

まさか、そんなことだとは...。

この子ったら、予想外なことを言って僕を慌てさせるんだから!)

 

「母さんの車を使ったら?

鍵はついたままだから。

薬局は、ショッピングセンターの裏にあるよ」

 

「オッケ」

 

ひゅっと口笛を吹くと、ユノはチャンミンの額にキスをした。

 

「すぐに戻ってくるからさ」

 

勝手口から外へ出たユノが、すぐに戻ってきた。

 

「忘れ物?」

 

「1箱で足りるかな?」

 

「ユノ!」

 

「冗談だって。

いくら若くても、10回は無理」

 

目を細めて、緩んだ口元をこぶしで隠したユノは、可笑しくてたまらないといった風だ。

 

「じゃあね」とひらりと手を振って、出かけたかと思ったら、また引き返してきた。

 

「あのさ...ずーっと、気になってたことなんだけど」

 

「今度は何なの?」

 

「チャンミンって...どっち側?

ほら、俺って、こういうの分かんないから、さ」

 

「そ...それは...」

 

「ま、いいや。

今夜にどっちか分かるよね?

俺の予想だときっと...ふふふ」

 

「早く行け!」

 

「はいはーい、チャンミン先生」

 

ユノはニコニコ笑って、今度こそ出掛けていったのだった。

 

(ユノのペースに振りまわされてる!

年下のくせに!

年下のくせに!)

 

 

 


 

 

(疲れた...長い一日だった)

 

どっと疲れが出たユノ。

 

いざ薬局へと勇んで出かけようとしたら、ケンタたちに見つかってしまった。

 

「これでお菓子を買ってあげたら、おとなしくなるから」と、ヒトミから駄賃をもらってしまったユノ。

 

彼らを連れて一緒に出掛ける羽目になってしまった。

 

目を離すとどこかへ行ってしまうケンタたちを見張りながらの、大人な買い物は困難極まった。

 

(『アレ』ひとつ買うのに、こんなに苦労するとは!

 

紙袋に入った『アレ』が気になって仕方がないケンタ君たちの気を反らせるのに、こんなに冷汗をかくとは!)

 

 


 

 

「ねえ、チャンミン」

 

ユノは、ドアひとつ隔てた向こうへ声をかける。

 

「一緒にお風呂に入ってもいい?」

 

シャワーの音で聞こえないのか、返事はない。

 

ユノは脱衣所の床に、体育座りをしていた。

 

大家族の入浴タイムは、分刻みだ。

 

順番に次々と入らないと、日が暮れてしまう。

 

「俺はチャンミンの次に入ります」

 

と、チャンミンとの関係を隠す必要がなくなったユノは、大胆になっていた。

 

曇りガラスの戸の向こうに、肌色がちらちらしている。

 

ユノは、ごくりと唾を飲み込む。

 

(この扉の向こうに。

チャンミンの『裸体』が!)

 

「一緒に入ってもいいだろう?

チャンミン、ずるいよ。

俺は全てを見せたんだよ?」

 

(チャンミンの次の台詞は、分かるよ。

『今夜、見せてあげるから今は我慢して!』だろ?

ふふふ)

 

シャワーの音が止み、湯船にジャボンと浸かる音がした。

 

(お!

『せっかくだから、ユノも一緒に入る?』

だろ?)

 

「今からそっちへ行ってもいい?

公認の仲になったことだし」

 

パシャパシャと湯が跳ねる音がする。

 

「そっちに行っちゃうよー」

 

ユノは、急いで服を脱ぐ。

 

湯船から上がるザバっという水音がした。

 

(おー!)

 

曇りガラスに映る肌色が、近づいてきた。

 

(強引に連れ込まれて、か!?

...タイルの上じゃ身体が痛そう。

でも、風呂場でやるなんて...エッチだねぇ)

 

ユノの目は輝く。

 

ガラガラっとドアが開く。

 

 

 

 

「おらぁ!!!!!」

 

「!!!!!!!!」

 

 

 

「さっきから何ごちゃごちゃ言ってるんだ!」

 

「!!!!」

 

 

 

「ユノ!

そこにいたんだ」

 

脱衣所を覗いたのはトレーナー姿のチャンミン。

 

「今からみんなで、ドーナツを食べるんだけど?」

 

浴室で怖い顔をしたゲンタと、ユノを探しにきたチャンミンとを交互に見た後、ユノはわっと膝に顔を伏せてしまった。

 

「...ユノ。

なに裸になってるの?」

 

「どうしてチャンミンは、そこにいるんだよ!」

 

「ユノを呼びにきたんだ。

早いもの勝ちだから、好きな味を選んだ方がいいよって」

 

「どうしてチャンミンは、お風呂にいないんだよ!?」

 

「友達から電話がかかってきたから、おじいちゃんに先に入ってもらっただけ」

 

(俺はゲンタさん相手に、あんなこと話してたのか?

穴があったら入りたい...)

 

「うっうっうっ...」

 

 

 

(つづく)

 

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