(1)恋人たちのゆーふぉりあ

 

 

~チャンミン~

 

バイトも講義もない初夏の昼下がり。

 

僕とユノは学部が違うから、二人揃って丸一日ぽっかり空く日は貴重なのだ。

 

僕らはどこにも出掛けることなく、どちらかの部屋に閉じこもって、二人きりの時間を過ごす。

 

「暇だね」「うん、暇だね」と言い合って、だらだらする。

 

じゃれあっているうちにむらぁっときて、服を着たままアソコだけ出して繋がってみたりして。

 

設定温度18℃にしたエアコンの風で、汗がひくのを待つ。

 

彼方どこかに飛んでいってしまった意識が戻ってきた時、僕を観察していたらしいユノと目が合う。

 

アレの時はとってもエロい顔をしていたのに、平常モードに戻ったユノはすっきり清々しい。

 

ユノに腕を引かれ身体を起こした僕は、ギシギシと痛む腰に顔をしかめる。

 

「悪い。

無理させちゃった?」

 

「...うん」

 

ユノとのアレは激しいのだ。

 

4人分のパスタを茹で、レトルトのミートソースをかけただけの夕食を二人でぺろっと平らげた。

 

交互にシャワーを浴び、湯上りのビールを飲んだり、他愛ない会話を交わす。

 

「夏休み、どうする?

あのバイト、面接どうだった?」

 

「駄目だった。

応募要項には『男女問わず』、なんて書いてて、実は女の子限定だったんだ」

 

「はっきりと『可愛い女子限定』って書けばいいじゃんね?

チャンミンは可愛いから、女装すればいけたかもよ?

はいはい、怒るな怒るな。

ほ~らやっぱり。

可愛いって言われたいんだろ?

むくれた顔はもっと可愛いくなるんだぞ」

 

そう先回りをして言うユノに、膨らませかけた頬を元に戻した。

 

「ユノって罪な男だよね」

 

「どこが?」

 

ユノは二つ折りした座布団を枕がわりに、寝っ転がってスマホ画面とにらめっこしている。

 

立てた片膝に乗せた足首をぶらぶら揺すっている。

 

「今みたいな感じに、歴代の彼女たちにさりげなく『可愛い』って言ってたんでしょ?」

 

「は?」

 

身体を起こしたユノの前髪が立ち上がっていて、「か、カッコいい...」と思ってしまったけど、癪だったから黙っていた。

 

「歴代ってなぁ。

まるで十何人も彼女がいたみたいな言い方して。

チャンミンをのぞいて二人しかいないよ」

 

「二人!?

計算がおかしくない?

ユノの経験人数は三人でしょ?

で、彼女は二人。

あぶれた一人はどこにいったの?」

 

「ああ、それね。

彼女でも何でもない人とね。

これは不可抗力というか...」

 

「見損なった!」

 

僕はふくれっ面で、そばにあった枕をユノに投げつけた。

 

「ユノを見損なったよ!」

 

反射神経抜群なユノは、顔面に直撃する前に華麗にキャッチした。

 

そのままその枕を抱きしめたユノは、ふぅっとため息をついた。

 

「大学1年の時。

サークルの歓迎コンパの時。

べろべろに酔わされてさ、目を覚ましたら隣に先輩が寝てた。

女のね。

俺が酒に弱いの知ってるだろ?

俺はすっぽんぽんだし、あそこもべたべたしてたし...あーこりゃ、襲われたな、って。

そんなわけで、童貞卒業の瞬間は記憶にないわけ」

 

ユノの説明を聞いても、僕の機嫌は直らない。

 

目一杯、怖い目付きをして、ユノを睨みつけたままでいた。

 

「『初めての時はすげぇ緊張した』って言ってたじゃないか!

嘘つき!」

 

「それは一人目の彼女の時の話。

意識がある状態でヤッた最初だったからね。

その時が俺的には初めてだったの」

 

「じゃあ、記憶に焼き付いてるわけだね?

ふぅん」

 

「もう思い出せないよ。

昔の話」

 

「ふぅ〜ん。

二年前なのに、忘れちゃったんだ」

 

僕はしつこいのだ。

 

「何度言えば分かってくれるかなぁ?

昔むかしの大昔。

えーっとね...」

 

ユノは手を上下に振って、空気の線を描いた。

 

「ここがチャンミンと会った時の線だぞ。

で...」

 

その手を左にスライドさせた。

 

「こっちが、紀元前。

で、こっちが紀元後」

 

真ん中まで戻した手を、今度は右にスライドさせた。

 

「お前とのことは『紀元後』

 

俺の歴史はここからスタートしてるの。

 

『紀元前』のことは、化石になっちまった。

だから、思い出せないよ」

 

この時のユノは真面目顔だ。

 

ユノの例え話は意味不明だったり、説明したいことの趣旨からちょっとズレてたりする。

 

今日の例え話は、嬉しかった。

 

僕を納得させようと言葉を尽くすユノに、僕は夢中。

 

ユノは僕の彼氏。

 

ユノは男だから、恋人であるユノは僕の彼氏になる。

 

ユノと付き合うようになって初めて知ったこと。

 

僕ってどうやら、ヤキモチ妬きみたいだ。

 

それも相当な。

 

 

 

 

僕はベッドにもたれて読書をし、ユノはベッドの上で大の字になってぐうぐう寝ている。

 

「...ふあぁぁぁ」

 

ユノの大あくび。

 

「起きた?」

 

僕は本に視線を落としたまま、背後のユノに声をかける。

 

「う...ん。

寝ても寝ても眠い」

 

「ユノってホント、寝る子だねぇ」

 

「寝る子は育つ。

俺は成長期なんだ」

 

「それ以上大きくなってどうするの?」

 

後ろを振り向くと、髪を乾かさず眠ってしまったせいで、ユノの髪はボサボサだ。

 

くつろいでだらしがないユノの姿を見られるのは、彼の彼氏の特権だ。

 

ユノの前カノ、Aちゃんもこんな彼の姿を見ていたのかな、と思うと、チクチクっと胸が痛くなる。

 

僕は読書に戻った。

 

「ここも大きくなってる」

 

(ユノの下ネタが始まったよ、やれやれ)

 

ユノと付き合いだして1週間もしないうちに発見したのが、彼が甘えん坊さんだということ。

 

ご機嫌次第では拗ねて面倒くさい男になるユノだったから、

 

「うん。

凄いね」

 

振り向いてユノの大きくなったものを認めてあげ、読書の続きに戻った。

 

「チャンミ~ン」

 

ユノに羽交い締めされ、力任せにベッドの上に引っぱり上げられた。

 

心得ている僕は、早業で読んでいた本にしおりを挟み、ユノの求めに応えるのだ。

 

ユノの上に馬乗りになって、後ろ手でしごきながらキスをする。

 

3時間の休憩を挟んでいたおかげで、僕らのものは復活していた。

 

時間はかかってしまったが、無事コトを終えた僕らはそのまま眠ってしまうのだ。

 

今日のところ、ここでギブアップ。

 

僕らの休日とは...つまり、セックス三昧、ということ。

 

「俺たち...何やってんだろ?

ヤッてばっかじゃん」

 

...なんて自嘲気味に言われてしまうと、僕は不安になる。

 

会えばヤらずにはいられない。

 

でも、仕方がないよね。

 

僕らは付き合い始めてまだ3か月だし、世で言う『LOVELOVE期』なのだ。

 

ユノと同じ時を過ごすこと全てが、彼の隣にいるだけで、僕の心はウキウキ、幸福感に満ち満ちている。

 

綿菓子みたいにふわふわ甘い気分になれる。

 

ユノに触れ、ユノに触れられ、身体じゅうの全細胞が目覚める。

 

もっともっといっぱい、ユノにくっついていたい。

 

そのうち、落ち着くでしょう。

 

僕らの初めてがどんなだかって?

 

僕は童貞で、ユノは女の子としかしたことがない。

 

最初からうまくいかなくて当然なんだけど、ユノは自信をなくして数日間元気がなかった。

 

ところが、さすがユノ。

 

ユノなりに答えを見つけたらしく(ユノは熟考型なのだ)、いつもの明るさを取り戻してほっとした。

 

トライアンドエラーの末、目的を果たせた。

 

どんな風だったか...僕の口から語るのは、恥ずかしいな...。

 

この手の話はユノにお任せしようと思う。

 

 

(つづく)

 

※euphoria:幸福感・陶酔

 

 

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(9)キスから始まった

 

 

「まだ寝てるかもよ」

「たたき起こそうよ」

「くすくすくすくす」

 

仰向けになったチャンミンの上になった俺は、間近に聞こえたその声に振り向いた。

 

「!!!!!!」

 

なんで部屋に入って来られた!?

 

ドアチェーンは!?

 

「......」

「......」

「......」

「......」

 

この部屋にいる四人ともが、しばし無言だった。

 

長い長い10秒だった。

 

俺とチャンミンはパンツ一丁。

 

俺はチャンミンの上で四つん這いになっている。

 

チャンミンは猿の赤ちゃんみたいに、俺の腹の下にぶらさがっている。

 

ばっちりメイクのAと、すっぴんのD。

 

ノーメイクだと素朴な顔立ちだな...そっか、メイク道具はこの部屋に置きっぱなしだからか...などなど冷静に考えていたりして。

 

二人の彼女たちは、びっくり顔のままフリーズしている。

 

それもそうだろう。

 

この光景はどこからどう見たっても、『アレ』しようとしている風にしか見えない。

 

俺たちは半裸で、チャンミンは俺にしがみついたままだし...そしてショッキングなことに、俺たちは男だ。

 

Dは絡み合う俺たちの顔を見、密着した下半身を見、乱れたベッドを見...そして、彼女の視線はベッドの下へと移った。

 

何を見つけたのかDは目を見開き、Aの袖を引っ張った。

 

ところが放心したAは、俺から一切目を離そうとはせず、ぴくりとも身動ぎしない。

 

俺もチャンミンも、一言も発しない。

 

Aの顔がくしゃりと歪んだ。

 

涙で潤んだAの目を認めた時、胸がぎゅっと痛くなった。

 

その時の俺は、とても情けない顔をしていたと思う。

 

Dは洗面所やTV脇に置いた小物をかき集め、ハンガーにかかっていた衣服と一緒にスーツケースに詰めた。

 

「行こう」

 

Dは俺の下敷きになっているチャンミンを軽蔑の目で見やると、突っ立ったままのAの手を引っぱった。

 

かちゃり、とドアが閉まる音。

 

俺たちもしばし、そのままの姿勢で静止していた。

 

俺の首と腰に絡まったチャンミンの手足の力が、ふっと抜けた。

 

「はあぁぁぁぁ」

 

俺はチャンミンの上にどっと、崩れ落ちた。

 

「チャンミン...お前なぁ。

凄いよ、お前...」

 

決定的なシーンを目撃させて、彼女たちとの関係を決定的にぶち壊した俺たち。

 

「緊張した~!

ドキドキだよ」

 

「ホントだ」

 

手の平の下で、チャンミンの心臓がドクドクいっている。

 

「...ドアチェーン」

 

「さっき外しておいたんだ」

 

「...作戦?」

 

「うん」

 

じゃあ、ポットに水を汲みにいったあの時には、チャンミンの頭にこの作戦が浮かんでいたというわけか...。

 

凄いなぁ、チャンミンという男は。

 

チャンミンの作戦に乗っかる形で、俺とAも決定的に破局した。

 

頭を持ち上げ、突っ張った両腕の間のチャンミンを見下ろす。

 

前夜の飲酒と徹夜のいちゃいちゃで、目が充血していたけれど、すっきり晴れ晴れとした顔をしていた。

 

髭が伸びかけた鼻下と顎に、やっぱりこいつは男なんだ、と、なぜだか感動した。

 

「キスして」

 

「うん」と頷く前に、チャンミンの両手に頬を包まれ引き落とされた。

 

唇同士を触れ合わすだけの、互いの唇の形と柔らかさを楽しむじれったいキスをした。

 

次に、わずかに開いた隙間から出した舌先同士を、くすぐり合った。

 

「『信じられない!』って、ボコボコに言われてるだろうね」

 

「その前に泣いてるかも...」

 

そうつぶやいた途端、チャンミンは俺の肩をドンと突いた。

 

「...Aちゃんが心配なら、追いかければ?」

 

眉根を寄せ、口がへの字に歪んだ不貞腐れた顔をしている。

 

「チャンミンこそ、平気そうだな?」

 

「平気なわけないよ!

最悪感いっぱいだよ。

でも、暗い顔をしたらホントに悪いことをしてるみたいな気がしてしまうでしょ?

しょうがないじゃない。

僕はユノを好きになってしまったんだから。

好きな気持ちはどうしようもない。

ユノには余裕ぶった、偉そうなこと言ってたけど、僕の方こそ、うまく別れ話ができる自信がなかった。

きっとDの剣幕に押されて、僕の伝えたいことの9割は遮られてしまうだろうね」

 

一気にまくしたてたチャンミンの、はあはあ上下する肩を抱いた。

 

「Aを追いかけるわけないだろ?

俺はチャンミンといる。

相手がAじゃなくても、男というのは女の子の涙に弱いってだけのこと。

チャンミンだって、そうだろ?」

 

「う~ん...」

 

チャンミンは過去を振り返っているのか、目をつむって腕を組んでうなっている。

 

そして、「女の子を泣かせたことないから、分かんない」と言った。

 

「...新学期が怖い」

 

「女の子ネットワークは凄いからねぇ。

ま、いっか。

どうぞ、俺たちのことを噂してください、だな」

 

俺はチャンミンのことをいっぱい知りたいし、彼の側にいたいのだ。

 

俺は疑問が生じるとあれこれ考え込む男だけど、一旦結論が出たら揺るがない男なのだ。

 

だから好奇の目で見られても俺は平気なのだ。

 

直感で動くチャンミンも、100%平気でいるだろうし、堂々としていそうだ。

 

「朝めし食いにいこうぜ」

 

と、靴を履きかけたとき、俺はとんでもないものを見つけてしまった。

 

使用済みコンドームとそのパッケージが落ちていた。

 

あ~あ。

 

決定的だ。

 

彼女たちが何を想像したか...!

 

AとDに同情してしまった。

 

本来の機能を発揮したものじゃないけれど、ま、いっか。

 

誤解させておこう。

 

 

 

 

女の子って不思議だ。

 

俺たちが持ち得ないもの...柔らかくて甘い香りがする彼女たちの側にいると、いい気分になる。

 

めまぐるしく変わる気分と表情、その周りで俺は右往左往している。

 

でも、それだけのことだ。

 

俺もチャンミンも男だから、「いいなぁ」と彼女たちを見てしまうこともあるだろう。

 

ムラっときて反応してしまって、そのことが喧嘩の種になることも多々あると思う。

 

なんせ彼女がいた俺たちだから。

 

それなのに、どうしようもなく惹かれあった俺たち。

 

「Aたちはとっくにホテルを出て行ってるだろうね」

 

「Dの荷物がない!」

 

「ショッキングなところを目撃したのに、こういうところが冷静なんだよね」

 

「キキ―ってなってても、案外女の子は冷静だったりするのかな」

 

「気楽な男2人旅になるな」

 

 

 

 

俺と女の子はデート中だった。

 

彼女と手を繋ぎ歩いていると、向こうから近づいてくるひとりの人物に釘付けになる。

 

例えば、隣の彼女よりも可愛い子だったり、もっと好みに近い子だったり...それとも、理由なく惹かれてしまうしかない子だったり...。

 

その人物は、俺たちの方に近づいてくる。

 

俺とその人物の視線は、1本に繋がっている。

 

隣の彼女が話す「ランチはどこでする?」とか「今日はアレだから、無理なの」とかは、俺の耳を素通りしている。

 

その人物とすれ違う、まさにその瞬間。

 

俺は隣の彼女の手を離し、そいつの二の腕をとらえる。

 

俺とそいつは斜め向こうの進路をとり、彼女を後に残して歩み去った。

 

 

 

 

俺とチャンミンに起きたことは、簡単に言うとこういうこと。

 

単純な話なのだ。

 

俺と件の人物がすれ違ったその瞬間に、何が起こったか。

 

キスをされた。

 

チャンミンのキスだ。

 

チャンミンのキスから始まったのだ。

 

 

(おしまい)

 

 

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(8)キスから始まった

 

 

「お腹が空いた...」と、ベッド下から買い物袋(もつれ合った時蹴り落してしまったのだ)をたぐり寄せた。

 

ヘッドボードの調光ダイヤルを目一杯ひねったせいで、ランプの灯りをまともに浴びてしまった。

 

「眩しい~!」って目を覆って、大袈裟に二人転げてみたりした。

 

「こっちはチョコ味。

そっちは?」

 

「こっちはハムが挟まってるよ」

 

チャンミンはやっぱり、女の子座りをしている。

 

「食べたいな」

 

「どうぞ」

 

なんて、菓子パンを半分に割って分け合うやりとりも自然過ぎた。

 

「あったかいお茶が飲みたいなぁ。

ユノは?

お湯を沸かすね」

 

Dといる時もきっと、チャンミンはこんな風なんだろうな。

 

でも、今みたいにくつろいだ風じゃないんだろうな、と思った。

 

己惚れじゃなく、チャンミンは俺と居た方が、のびのびといられるんじゃないかな。

 

同性だから、という単純な理由じゃない。

 

こいつとは親友になれそうな予感は既にあった。

 

キスだけじゃなく、ブツの触り合いっこまでしておいて、今さら親友になるのは無理だけど。

 

チャンミンと親友になれないのは、彼を前にすると異性に対するのと同等のドキドキ...プラス、ムラムラしてしまうせいだ。

 

親友相手に下半身を反応させていたら、不謹慎過ぎる。

 

親友じゃないのなら...?

 

そりゃあ、もちろん...。

 

「はい、どうぞ」

 

ティーバッグで淹れた熱々の紅茶のマグを、「熱いから気をつけて」と手渡してくれる。

 

「あ、ありがと」

 

指と指が触れ合ってドキッとしてしまったりして...。

 

もっとすごいところを触り合ったのにね、変なの...なんて思ってるから...。

 

「あっちぃっ!」

 

こんな風に、無防備にカップに口をつけてしまったりするのだ。

 

「気をつけて、って言ったでしょう?」

 

手際よくグラスの水を用意してくれたりするから、「なんだなんだ、このカップル感は!」なんて、ひとりで突っ込んでみたりして。

 

「ふふっ」とほほ笑んだ時、半月型の眼の下にぷくりと膨らんだ涙袋の女子っぽいことよ。

 

だから俺はチャンミンの首を引き寄せて、唇を重ねる。

 

俺の頬もチャンミンの両手で包まれて、ベッドに共に倒れ込んだ。

 

キスとあそこをしごき合う術しか知らない俺たちだけど、これはこれなりに興奮して気持ちよくて、いいものだ。

 

互いの舌を咥え吸い合う俺たち...舌をまるでアレのように。

 

Dの話は大嘘だ。

 

チャンミンはキスがとても上手い。

 

 

 

 

「俺...Aと別れる」

 

「僕もDと別れる」

 

俺たちは言葉を交わし、キスをし、互いのブツをしごいてピュッとイッて、こんなことを4回も繰り返している。

 

腰の奥は痺れたようにだるく、若い俺たちでも、これ以上はもう一滴も出てこない。

 

カーテンの合わせから、白い光がわずかに漏れている。

 

朝だ。

 

俺たちの間に再び緊張感が漂っていた。

 

なぜなら、今日中に各々の彼女に別れを告げなければならないからだ。

 

「...僕のせい?」

 

「うん。

チャンミンのせい」

 

「はっきり言うんだね?」

 

「事実じゃん。

チャンミンが現れなければ、Aと付き合ったままだったろうね」

 

「略奪愛だね」

 

「略奪されたのは俺の方」

 

Aとの付き合いで意味不明なモヤモヤを抱えていたのが、吹っ飛んでしまった。

 

Dはこんなチャンミンの情熱的な姿を知らないだろうと思うと、誇らしい気分になった。

 

「ねぇ...フる理由は?

なんて言うの?」

 

チャンミンは散らばったティッシュをくずかごに拾い集めている。

 

「『悪い。

俺さ、チャンミンのことが好きになっちゃったんだ。

チャンミンと付き合うことにしたんだ』って感じ?」

 

「......」

 

「どうした?」

 

「ユノってズルいよね、そういうところ」

 

「『ズルい』って、どこが?」

 

「さりげなく告白しちゃって...。

ユノがモテるのがよ~く分かった。

そんな風だから、10人とか20人っていう数字が出てくるんだって」

 

「...そうなんだ」

 

「自覚なかったの?

こわいなぁ...」

 

「ホントのことは言わないでおくよ。

正直であればいいってもんじゃないよ。

男に寝取られたなんて知ったら...ショックだよなぁ」

 

「厳密な意味では、僕らは未だ『寝て』ないよ」

 

「『寝た』ようなもんじゃん。

本番については...おいおいと...」

 

「『おいおいと』ね...ふふふ」

 

「Aなんて、案外ケロッとしていたりして。

ほら、女の子ってさ、気持ちの切り替えが早いって言うじゃん」

 

「へぇ...」

 

「『自分たちの彼氏同士がデキてしまった』なんて、おいしい話題を提供してやる必要はないさ。

...俺からフるのって、初めてなんだよね」

 

「そうなの!?

ユノって意外なところがいっぱいだね」

 

「俺は真面目で、普通な男なの。

...今、何時?

スマホは...」

 

部屋のどこかに転がっているはずのスマホを、パンツ一丁で探す俺。

 

「うーんと...あれ?

どこにいった?」

 

身をかがめスマホを探すチャンミンの、ボクサーパンツに包まれた尻を、じぃっと見つめてしまう。

 

尻...か...。

 

「曖昧過ぎるより、バシッとフッたほうがいいんじゃないかな?」

 

こんな会話を交わしているのも、俺たちは付き合う前提でいるからだ。

 

「泣くだろうなぁ...。

はぁぁ...気が重い...。

女の子の涙には弱い」

 

「仕方ないよ、泣かせるようなことを僕らはしちゃったんだから」

 

「ね?」と、チャンミンは首を傾げてにっこり笑った。

 

カチャ...。

 

部屋の入り口から、人の気配がする。

 

「!!」

「!!!」

 

ベッドにパンツ一丁で腰かけていた俺たちは、ハッとして顔を見合わせる。

 

ドアチェーンをかけているから大丈夫だ。

 

デニムパンツを履こうと、脱ぎ捨てたそれに手を伸ばしかけた時...。

 

「わっ!」

 

俺の背中にタックルしてきたチャンミンごと、ベッドに倒れ込んだ。

 

「チャ...!」

 

飛び起きようとしたが、出来なかった。

 

「はな...っせ...!」

 

チャンミンの四肢でがっちりホールドされて、俺は身動きができなかったからだ。

 

 

(つづく)

 

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(7)キスから始まった

 

 

外したばかりのゴムの中身に、「Dちゃんとできなかった後、自分で抜いただろ?」と、チャンミンをからかった。

 

チャンミンは背中をまるめて、自身の股間の処理をしている。

 

「うん...。

不発弾を抱えてるのは、気持ち悪いでしょ?」

 

「ティッシュついてるぞ」

 

チャンミンのブツにへばりついた紙片を、取ってあげた。

 

「ユノも、毛のところに...飛んでる。

あ、僕、ウェットティッシュ持ってるよ」

 

この光景は一体、何なんだ。

 

半裸で、局所だけ出した男2人、ブツの後片付けをしているのだ。

 

昨夜の俺は、女の子とやっていたんだぞ?

 

翌日の俺は、その女の子の女友達の彼氏としごきあった。

 

信じられない展開だけど、受け入れるしかない。

 

チャンミンとこうしたかったんだから。

 

「なあ」

 

「んー?」

 

「ちゃんと言ってなかったけど。

俺とチャンミン...こんな風になっちゃったけど...」

 

「その先は言わないで」

 

とっさに伸びてきたチャンミンの手に、口を塞がれた。

 

「なかったことにしよう、とか言わないで。

ユノは、後悔してるかもしれないけど...僕は。

...僕は、嬉しいんだ」

 

俺はチャンミンの手首をつかんで落とした。

 

「俺も...よかったよ、今の」

 

「...え?」

 

「こんなこと出来るくらい、チャンミンのことが気になってたっていうか...。

近づきたいっていうか...。

うまく言えなくてゴメン」

 

言葉が見つからないんじゃなく、恥ずかしくてあの一言が言えないだけなんだ。

 

すると、チャンミンがしがみついてきた。

 

「...好き」

 

胸元に顔を押しつけたままの、くぐもった声。

 

俺は男相手に、きゅんと胸をときめかせた。

 

 

 

 

俺とチャンミンは仲良く並んで横たわり、揃って天井を見上げていた。

 

照明は全て落としていたから、実際は暗闇を睨んでいた。

 

暑苦しくてボトムスは脱いでしまい、パンツ一丁で、手を繋いでいた。

 

俺たちは一体全体、どうしてこんな感じになっちゃったんだ?

 

自分の中に存在する、客観的で冷静な俺がぼそっと俺の耳に囁いている。

 

それに応えて、「こうなるしかなかったんだ」とつぶやいてみる。

 

当然のことをしたまでに過ぎず、突拍子もないことをしでかしたわけじゃないのだ。

 

「僕...」

 

おもむろにチャンミンは口を開いた。

 

「女の子ともできなかったし、ユノともできなかった」

 

「...すぐにできるわけないじゃん。

全くの予定外だったんだから。

...俺だって、童貞みたいなもんだよ」

 

「ホントに3人?

10人とか20人とかって言うかと思った」

 

どうやらチャンミンは、俺が申告した経験人数について気になったままの様子。

 

「どこから20の数字が出てくるんだ?」

 

「...ユノって、そんな感じの見た目」

 

「軽いって意味?」

 

仰向けから横向きの姿勢へ寝返りをうち、肘枕をした。

 

「...モテるだろうなぁ、っていう意味。

ユノってカッコいいから。

ねぇ、ユノの初めてはいつだった?」

 

「...18歳かそれくらいかなぁ。

普通だろ?

20人も経験してたらさ...3年で20人。

どれだけやりまくってるんだよ?

1年で6人か...ん...あり得ない数でもないか、ハハッ」

 

打ち明け話ついでに、このことも暴露してしまおうと思った。

 

「...女の子とやるのは気持ちいいし、

彼女ができればその子とやって当然、ってやってきたんだけど。

なんだろう...『だから何?』っていうか...。

何言いたいのか分かんないな、これじゃあ、ハハッ」

 

「...それって、ホントはやりたくないんじゃないの?」

 

「え?」

 

「Dとできなかった話をしたよね?

できなかったのは、『したくなかった』んだよ」

 

チャンミンの指摘で、ハッとする。

 

「ユノとこういうことしちゃった後だから、よく分かったんだ。

ユノはどう感じたのかは分かんないけど、僕は...すごかった」

 

「よかったぁ...」

 

「ホントに?」

 

「うん」

 

「ユノにそう言ってもらえて嬉しい。

でね、分かったんだ

好きな人とえっちをしたいってのは、こういう気持ちを言うんだろうって。

ユノとしたい、って思った。

やり方はよくわかんなかったけどね」

 

チャンミンは、凄いことをさらっと言いのけた。

 

「ユノと会った時、本能に近いところで仲良くなりたい、って思った。

ビックリしちゃったよ。

気持ちの正体を知りたくて、ついついユノをジロジロ見ちゃって。

見れば見るほど、仲良くなりたい気持ちが強くなっちゃって。

気持ち悪かったでしょ?」

 

俺は感動と感心で言葉が出ずにいた。

 

「ごめん...引いてもいいよ。

気持ち悪いこと言ってる自覚はあるから」

 

「気持ち悪くないよ。

俺だって...チャンミンのことをジロジロ見てた」

 

「知ってる」

 

「ジロジロ見てしまったのは...好きになったからだよ」

 

興奮の最中、互いの身体をまさぐるのに夢中で、チャンミンがつぶやいた「好き」に応えていなかった。

 

「...嬉しい。

ユノ、どうしよう!

僕たち、浮気してるよ」

 

「確かに...」

 

今さらながら、俺にはAという彼女がいることを思い出した。

 

「Dちゃんとはどういうきっかけで?」

 

「サークルが一緒なんだ。

Dはみんなの前では大人しくて、でも僕といる時は思っていることをズケズケと言う子で。

それって僕に気を許しているんだって...勘違いしてたみたい。

その上、Dのことを理解しているつもりでいた。

よ~く考えてみたら、単にDの扱いに慣れているってだけのこと。

僕って、好意と恋愛感情の区別がうまくつけられない人間みたい。

僕はね...勘違いが多いんだ。

...でもね、分かったんだ」

 

「分かってる」

 

チャンミンの頬を手探りで包み込み、ここだと見当をつけたそこに唇を落とした。

 

 

 

 

女の子は不思議な生き物だけど、男だって不思議な生き物だ。

 

俺とチャンミンは男という点では共通しているけど、隣にいるこいつは、俺にとっては未知の生き物だ。

 

そっか...俺は、Aであろうと、その子がBやCであっても、全部まとめて女の子という集合体で見てきたんだな、と。

 

1歩下がった立ち位置で、彼女を醒めた目で見てしまうから、甘える言葉に媚の匂いを嗅いでしまうのだ。

 

彼女自身には興味がなかったんだから、一緒にいてなんか違うんだよなぁ、とぼやいてしまっても当然だった。

 

だからAやDが、俺たちへの不平不満を暴露していたのを聞いてしまっても、腹が立つくらいで、強い怒りを抱くほどまでには至らなかったんだ。

 

Dがどんな子なのか俺は知らないから、Dについては判断できない。

 

半年近く恋人同士をやってきたAについてなら、多少はどんな子かは分かるつもりだ。

 

Aも俺と似たようなスタンスで、俺の彼女でいるんだと思う。

 

だとしても、ずいぶん失礼なことを彼女にしてしまったなぁ、と反省しなくては。

 

俺の眼差しは隣に寝っ転がっている、のっぽな男にのみ注がれている。

 

性別を抜きにした時、その人物に興味を抱けるかどうか、好きになれるかどうか...ここが肝心なのだ。

 

今さら視点を変えてAと向き合えるかといえば、それは出来ない。

 

Aには興味はないのだ。

 

ところが極端な話、もしチャンミンが女の子だったとしても、俺は気になって仕方がなかっただろう。

 

実際はチャンミンは男だったから、並んだ2本のブツに困ってしまっただけのことだ。

 

 

(つづく)

 

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