(6)キスから始まった

 

チャンミンのパーカーの下にもぐり込んだ。

すぐには口づけず、指をひろげて置いた手をへその辺りから胸へと這わしていった。

女の子のように、皮下脂肪に指がやわらかく沈むことなく、手の平で感じる凸凹は固い。

チャンミンの腹は荒い呼吸で、不規則に波打っている。

チャンミンの両手は俺の髪をかき乱している。

女の子のようにシャンプーの香り混じりの甘いものじゃなく、当然だけど男くさい肌だ。

這わしてきた指先がそこに引っかかり、小さな突起を爪先でつつく。

 

「んんっ...!」

 

びくんとチャンミンは全身を痙攣させた。

指の腹で転がすうちに、ころころに固い粒になっていく。

男でも乳首をいじられると気持ちいいんだな、と小さく感動。

パーカーの生地に閉じ込められて暑いし、チャンミンの反応する表情も見えないしで、俺は頭をいったん抜いた。

 

「ふぅ...暑い」

 

着ていたトレーナーを脱いだ。

 

「...ん?」

 

ボトムスも脱いだ方がいいんだろうかと、ボタンとファスナーを見下ろし迷っていたところ...。

チャンミン「ほぉ...」と俺の身体を食い入るように見ている。

真剣に見つめられると、同性であっても恥ずかしいんだなぁ。

顎をしゃくって急かすと、チャンミンもあたふたとパーカーを脱ぎ出した。

チャンミンの顔はもっと赤くなっていて、額が汗で光っていた。

 

(下は...?)

 

(どうする?)

 

俺たちは今夜、どこまでやる気なんだろう?

俺たちは顔を見合わせ、視線で逡巡している。

迷っている時間が勿体ないとばかりに、俺たちは同時にタックルし合った。

もっともっと深いキスを交わす。

 

 

Aの胸を愛撫するように、チャンミンの平らな胸をいじる。

執拗に胸先だけ責める俺に、チャンミンはきっと、俺はおっぱい好きだと暴露したAの言葉は本当だった、と思っているだろう。

ふわふわの胸じゃなくても、乳首が付いていさえすれば、愛撫しがいのあるポイントになるんだなぁ。

 

「や...ユノ...そこは」

 

「...イヤなの?」

 

「イヤじゃないけど...なんか、恥ずかしい...」

 

「すごい固くなってるよ」と耳元で囁き、その小さな粒をきつめに吸う。

 

「...ユノ、待って...そこばっかは...」

 

「分かってる...」

 

チャンミンの胸先ばかりいじっていないで、俺にはもっと、触れるべき箇所がある。

 

「チャンミン...俺のを触って?」

 

上半身裸の俺たちは、向かい合わせに横たわっていた。

見てはいけないような気がして、互いの例の箇所には視線をやらないよう意識していた。

俺たちは目を合わせたままだ。

チャンミンはかすかに頷くと、俺の背中に回していた片手を下ろした。

 

「...くっ」

 

チャンミンの指がそこを探り当てた時、みっともないほど腰が揺れてしまった。

 

「ユノ...おっきい」

 

分厚いデニム生地越しなのに、撫でられただけなのに、俺のあそこは異常に敏感になっている。

狭苦しい場所にぎゅうぎゅうに閉じ込められていて、完全に大きくなれず、窮屈で苦しい。

男に触られて、俺は興奮している!

たまらなくなって俺の手も、チャンミンのそこに及ぶ。

包み込んで下から上へと擦り上げた。

すごいな...自分以外の勃っているものを触るのは初めてだ。

興奮して感じていることが、実体を持ってありありと分かる。

先端を引っかき、柔らかいそこの縁を親指で辿ると、

 

「...あっは...」

 

チャンミンの両眉が切なげにひそめられた。

チャンミンのボトムスのウエストを緩め、性急に手を突っ込んだ。

 

「...チャンミン、びしょびしょだぞ?」

 

「そんなっ...言わないでっ...」

 

いつまでも目を背けているわけにはいかないと、引っ張り出した熱々のそれを見下ろした。

俺は今、ナマで他人のブツをつかんでいる!

まじまじと観察する目の俺に、大いに恥じ入った風のチャンミンは茹でダコみたいになっている。

萎えるどころか、意味のわからない興奮と感動で満たされていた。

俺のボトムスから、俺のものを引きずり出すチャンミンの手の動き。

そしてチャンミンの手の中におさまった俺のブツ。

しばしの間、俺たちは互いのブツを見下ろしていた。

...こいつらを、どうすればいい?

勢いでむき出しにしたのはいいけれど...。

顔を上げ、さらにしばしの間、俺たちは見つめ合う。

そして、唇を重ねて、べたべたのねちょねちょなキスに没頭した。

ひとしきりキスを交わし合ったのち、再び見つめ合う。

次は、互いにしごきあいながら、交互の舌を吸い合った。

 

「はあはあはあはあ...」

 

その後は、抱きしめ合って、互いのブツ同士をこすりつけ合った。

俺とチャンミンの下腹にサンドされたブツが、頭を並べている光景が...初めての光景で、頭が沸騰しそうだった。

...凄い、凄いんだけど!

チャンミンのブツに手を伸ばそうとしたら、「待って」と彼に制された。

チャンミンは俺から身体を離し、部屋の片隅に置いたバッグの中身を漁っている。

バッグの傍らにしゃがむ広い背中と、脱ぎかけたボトムスから覗く半ケツを見守った。

 

「これ」

 

チャンミンは勢いよくベッドに飛び乗った。

チャンミンが手にしたもの...しかも、6個繋がったままのもの...に、俺はぎょっとする。

 

「『これ』って...え?

どうするつもり?」

 

「付けないと...」

 

チャンミンは開封したラテックス製のそれを、自身のブツに装着している。

 

「待て...なんのために付けるんだよ?」

 

と言った後に、「しごきあうにしても病気が気になるのかな。それとも、シーツを汚してしまうのを防ぎたいのかな」と考えていると...。

 

「そっか!」

 

チャンミンは大きな声を出し、我に返ったようだった。

 

「ユノは女の子じゃなかったんだ!」なんて言うんだ。

 

どうやら、テンパっていたらしい。

そこで俺は初めて気づいた。

2本並んだブツの行き先について...。

透明の薄膜にラップされたチャンミンのブツ...俺のには負けるが、そこそこのサイズ...を見、同様に斜め上を向いたままの自身のブツを見た。

チャンミンと絡み合っている間、「この先、どうすればいいんだ?」と困惑していたのも、実のところ、「こうなっちゃうしかないのか?」と答えが出てしまうのが怖かったのだ。

俺の知識なんて、適当に聞きかじったものに過ぎず、『アソコに挿れるしかないのか!』としか結論付けられないのだ。

互いのブツをしごきあったり舐め合うのも十分、えっちの範疇に入るのに、どうしても『挿入』にこだわってしまうのだ。

これで何度目になるのか、俺たちは見つめ合い、戸惑い..つまり、怖気付いてしまい... 結局キスし合うしかなかったのだ。

 

(つづく)

(5)キスから始まった

 

 

 

俺は今、男とキスをしている。

 

突如落とされたキスに目をつむる余裕なんてなく、チャンミンの肩ごしに天井をぽぉっと見上げるまま。

 

ホテルの部屋には天井灯はないんだな...だから、雰囲気あるんだ、とかなんとか考えていたりして。

 

押し当てられた唇は柔らかく、「ふむ、女の子のものと変わらないじゃん」、なんて感動していたりして。

 

キスの相手が女の子だろうと男だろうと、キスには変わりなく、ドキドキしている自分もいたりして...。

 

俺はなぜ、キスされているんだ?

 

しかもこれは...これはジョークじゃない...ホンキのキスだ。

 

おぞましい気持ちは0%。

 

むしろ...2日間俺を落ち着かせなくしてきた理由が見つかった。

 

などと考えた3秒。

 

チャンミンのうなじに片手を回した。

 

後ろ髪がしっとりと汗で濡れていた。

 

一瞬、互いの唇が離れ、俺たちは至近距離で目が合った。

 

俺の上に覆いかぶさったチャンミンの背が、昂った呼吸に合わせて大きく上下していた。

 

女の子だったら手の平をはね返す柔らかな弾力のない、固い背中だった。

 

俺の頭は、チャンミンの両肘で囲われているため、アルコールで上昇した肌の熱がここに閉じ込められている。

 

チャンミンは動かない。

 

俺は...応えればいいのか?

 

俺は...この男とキスがしたい、もっと。

 

チャンミンの両頬を挟み、斜めに傾かせて引き落とした。

 

唇同士が着地する前に、舌同士が絡まった。

 

俺たちは頬の角度を変えては重ねなおした。

 

次は俺がチャンミンの上に覆いかぶさった。

 

ふうふういう鼻息の音、ちゅうっと舌を吸う音。

 

こいつは男なのに...ヤバイ...キスが気持ちいい。

 

チャンミンは俺にキスを仕掛けてきた...俺もチャンミンとキスをこのまま続けたい。

 

でも...この先、どうすればいいんだろう。

 

分からなくて困惑していた。

 

チャンミンによって、俺の髪はかき乱されてしまっている。

 

俺の前に緊張が集まってきているのが分かる。

 

仰向けになったチャンミンの上に、俺はのしかかっていている。

 

当然、例の箇所を押しつけ合っている。

 

まともに重ねて体重をかけると痛いから、脇にずらしてはいるものの、膨らんだ箇所がこすれ合う度に、妙に興奮してしまっている自分がいた。

 

こういう分かりやすさが、女の子の場合...パンツの中に手を入れないと、分からないからね...とは違うのか。

 

「!」

 

思わずチャンミンから唇を離してしまった。

 

チャンミンの奴、積極的過ぎやしないか?

 

腰を左右に振ってあそこをこすりつけてきたんだ。

 

驚きのあまり腰を引いてしまうと、今度は俺の方が組み敷かれる側になってしまった。

 

「!!」

 

チャンミンは腰をくいくいと上下しだした。

 

興奮の塊同士の接触...マズイ...気持ちいいかもしれない。

 

俺の方にも火がついて、足をからませ合い、互いの興奮の塊をぐいぐいと押しつけ合った。

 

ボトムスの生地が邪魔...そのもどかしさがちょうどいい。

 

むき出しになってしまったら、2本のブツのやり場に困ってしまう。

 

それに加えて、チャンミンのブツを目にした時、萎えてしまう自分も想像できた。

 

「!!!」

 

気付けば俺は、チャンミンを押しのけてしまっていた。

 

「......」

 

チャンミンは、真ん丸にした眼で俺を見上げている。

 

お互い息が上がって 肩で息をしていた。

 

チャンミン...性別は男。

 

俺並みにデカいなりをしていて、カッコいい部類に入るルックスだけど、やっぱり男。

 

興奮の名残で、真っ赤な顔をしている。

 

何かしら惹かれてしまう理由があって、チャンミンを目で追ってしまった2日間。

 

そうであっても、いきなりキス、だとかパンツを脱ぐとかなると、俺の常識を超えたシチュエーションで、追いつけないのだ。

 

虚を突かれたかのようなチャンミンの表情に、彼を傷つけてしまったかなぁ...傷つくよなぁ、と。

 

俺たちは見つめ合ったままだ。

 

「......」

 

ここには時計はないが、秒針のたてるコチコチ音が聞こえてきそうな、張り詰めた空気。

 

彼女たちの会話を聞いてしまった時よりも、気まずい。

 

呼吸が整った頃、俺は口を開いた。

 

「...ごめん」

 

謝った直後に、余計に傷つけてしまう言葉だったかもしれないと、後悔した。

 

「...僕こそ...ごめん」

 

チャンミンはつぶやくと、壁にもたれ座って両脚を投げ出した。

 

細身のボトムスに包まれた両脚が、細く骨ばっていて、やっぱり男の脚だった。

 

裸足の足裏も俺並みに大きい。

 

後頭部の髪があっちこっちにはねている。

 

「いきなりキスして...ごめんね」

 

「...謝るな。

びっくりしただけ」

 

「あ~も~!」と言って、チャンミンはぐしゃぐしゃと頭をかきむしった。

 

「びっくりするよね。

...僕もびっくりしている」

 

「話をしようか?

整理しよう」

 

俺は胡坐をかいたまま腰を滑らせ、チャンミンの真ん前に陣取った。

 

距離を縮めたのは「気持ち悪いなんて思っていないからな」の気持ちの表明だ。

 

肘までたくし上げた、パーカーの袖から伸びる腕は筋肉質で、やっぱり男の腕だった。

 

「チャンミンと...キスして...。

びっくりしたけど、イヤではなかった」

 

「ホント?」

 

パッと顔を輝かせるなんて、感情が分かりやす過ぎだ。

 

俺にキスしてきた時点で、チャンミンの気持ちは十分伝わっていた。

 

「チャンミンも気付いていたと思うけど...俺も気になってたんだ。

何度も目が合っただろう?」

 

チャンミンはこくり、と頷いた。

 

「俺の中でどうしても引っかかっているのは。

こだわってしまうワケは、俺もチャンミンも『彼女』がいるだろう?

だから余計に、訳がわからなくなってきて...」

 

ディープなキスを交わしていた時、俺のあそこは反応していた。

 

相手の性別を問わず、生っぽい接触があると興奮してしまうものなんだな。

 

あのままエロい雰囲気に流されていれば、今頃俺たちは服を脱いでいただろう。

 

キスを中断させてしまったのは、何かをはっきりさせないと、前に進めない俺の慎重さがあったんだ。

 

反応してしまった身体に正直になればいいんだけれどね。

 

彼女であるAとの関係性について、あれこれ考察してしまうのが俺という男。

 

小難しい奴なんだ、俺って。

 

俺が何を言い出すのか、不安げな上目遣いをするチャンミンには悪いけど、俺とのトークに付き合ってもらうぞ。

 

「...僕はDと付き合ってるし、Dとえっちしようとしてたし...。

...あ、今は好きじゃないよ。

あんなこと言われて平気でいられるか!

旅行だって行きたくなかったんだ。

Dが何を期待していたのか...プレッシャーだよ。

もう逃げられない、って観念してここに来たんだ。

さすがにもう誤魔化しきれないよね。

裸になったDを見て、そりゃあ興奮はしたけどさ。

Dのあそこを見ていたら、『あれ?僕は今から何をしようとしてるんだろう?』って冷静になってしまって...」

 

チャンミンの話の行方が読めなくて、真剣に聞き入っている俺の表情を、彼は悪い方に受け取ったみたいだった。

 

「Dについては僕の問題だったね。

Dのことは好きじゃなくなったし、Dとえっちができなかったことはひとまず、脇に置いておくね」

 

チャンミンは空気の箱を、脇に置くジェスチャーをした。

 

「僕らが男であるってことも、脇に置いておく...」

 

と、もうひとつの空気の箱を『Dのことは好きじゃない』の箱の上に積み上げた。

 

俺も手伝ったら、空気の箱は天井近くまで積み上がるんじゃないかな。

 

『俺にも彼女がいる』とか、『男相手に勃つのは初めてだ』とか、『2部屋隣に俺たちの彼女がいる』とか、『チャンミンのブツを見て俺は萎えないかどうか』とか。

 

「僕は浮気ができる人じゃないんだ。

それなのに、ユノにキスしちゃった。

僕はDを裏切った」

 

浮気...ときたか。

 

「酔った勢いで...っていうんじゃないんだ。

...したくなってしまって」

 

「...俺と?」

 

「うん。

抑えられなかったんだ。

Dとできなくて、欲求不満がたまってた、っていう意味じゃないよ」

 

「うん。

分かってる」

 

「ユノと仲良くなりたかったんだ。

昨日から話をしたいなぁと思っていた。

部屋で二人きりになれるチャンスが急にやってきて...僕のテンションがおかしくなってしまった。

ユノを見ていたら、キスがしたくてしたくて...。

ごめん!

こんなこと聞いたら、もっと引いちゃうよね」

 

「......」

 

「忘れて...なんて言わないよ」

 

「?」

 

「だって...なかったことにしたくない。

ユノとキスしたかったから、したんだ。

今もしたい。

僕はユノのことが気になる」

 

「......」

 

「僕はユノと、もっとキスがしたい」

 

これはチャンミンなりの宣言だな、と思った。

 

受け止めるか、跳ねつけるかは俺次第、ってことか。

 

ストレートにぶつかってきたチャンミンが新鮮だった。

 

はっきりさせたい何かとは、チャンミンの気持ちうんぬん、じゃなくて、俺の気持ちのことだ。

 

チャンミンが仕掛けたキスを受け止め応えた時、分かったんだ。

 

俺たちは昨日知り合ったばかりだ。

 

未知のことが無数にある。

 

互いを知り合うには会話と時間が必要だ。

 

そんなもの後回しでいい。

 

今は手っ取り早く、目の前の奴と急接近したいんだ。

 

手順なんてすっ飛ばせ。

 

チャンミンが言いたいのは、こういうことなんだ。

 

意味深なキス、いろんなことが腑に落ちたキスだった。

 

俺は腰を上げ、チャンミンの方ににじりよった。

 

「俺もチャンミンとキスしたい...もっと」

 

「え...?」

 

まつ毛が触れそうなくらい顔を接近させた。

 

「試してみようか?」

 

「ユノ...」

 

「キスとか...それからいろいろ...」

 

体当たりの勢いで抱き合った俺たちは、ベッドに横倒しになった。

 

「いろいろって?」

 

「...わかってるくせに」

 

空気の箱は、絡み合う俺たちの下敷きになって、どこかへ霧散してしまった。

 

 

(つづく)

 

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(4)キスから始まった

 

 

 

先に通された俺の背後から、チャンミンがかけたドアチェーンのガシャンという音。

 

これで、Dが戻ってきたとしても、俺たちが外してあげない限り入室できない。

 

防犯意識が高そうなチャンミンらしい行動に見えるし、Dへの拒絶の意志表明にも見えた。

 

「へぇ。

間取りは真逆になってるんだね」

 

チャンミンといざ二人きりになって、なぜだか緊張してしまった俺は、靴を脱いでベッドに上がり、きょろきょろと室内を見回した。

 

別段、特別な部屋じゃない、普通のダブルルームだ。

 

俺の前に座ったチャンミンの顔をまともに見られなくて、買い物袋から焼酎の瓶やスナック菓子を出して場を取り繕った。

 

やっぱり...両足を崩して座っているチャンミン。

 

だからさ、その腰のひねりが妙に艶めかしいんだって。

 

「プラカップはあっちの部屋に置いてきちゃったね」と、ミニ冷蔵庫脇のキャビネットからマグカップを取り出した。

 

「...さて、と」

 

互いのカップに酒をなみなみと注ぎ合い、乾杯の意味でカチンと控えめにカップを合わせた。

 

ひと口中身をすすって、「ふう~」と二人同時のため息に、俺は吹き出してしまった。

 

うつむいたチャンミンの両肩も、くっくと揺れている。

 

これで一気に、緊張が解けた。

 

お疲れさん会、女子はマジで勘弁会...それから、俺とチャンミンの親睦を深める会。

 

だからと言って、己の彼女の『悪口をぶちまけよう会』をする気はなかった。

 

AやDが一方的に悪い、とも言いきれないと思ったからだ。

 

そう何人もの女の子と付き合った経験はないから一概には言えないけれど、女の子とはああいう生き物なんじゃないか、と。

 

それに、俺はAに、チャンミンはDに恋をして、彼女たちの彼氏になったのだから。

 

これまで「何か違うんだよなぁ」と、うすうす感じていたことが、昨日あたりから確信に近いものになっただけのことだ。

 

俺はチャンミンをジロジロ見てしまうし、彼の方も俺をジロジロ見ていた。

 

とある世界で、生まれて初めて男を目にしたかのような好奇心に満ちた眼で。

 

スナックを咀嚼し、酒を飲み、油のついた指をウェットティッシュで拭う。

 

短く切った爪や、男にしては華奢な指に、「ふむふむ。この指でDの身体を触ったわけだ...」と想像し始めた自分に、「こら!」とツッコミを入れたりして...。

 

「ユノ?」

 

チャンミンに膝を突かれた時、不意打ち過ぎて、カップの中身をがぶりと飲み込んでしまった。

 

強いアルコールの刺激に目を白黒させた俺に、チャンミンは「ごめんね」と謝った。

 

考え事に夢中になって、無言になってしまった俺に不安になってしまったんだろう。

 

まさか、チャンミンとDとのえっちシーンを想像していただなんて言えない。

 

「ねぇ...もしかしてユノは、お酒、弱いの?

さっきもジュースみたいなお酒を飲んでたし」

 

「...強いとは言えないね」

 

マグカップに注がれたアルコール度数25%の焼酎は、俺にとっては毒みたいなもので、舐めるように舌を湿らす程度にとどめていたのだ。

 

「教えてくれればいいのに...気がきかなくてごめんね。」

 

チャンミンにカップを取り上げられて、「ええ~」と口を尖らせてみせる。

 

Aにしか見せたことのない、甘えんぼな仕草だったけど、酔っぱらって開放的になった俺にはなんの抵抗もない。

 

チャンミンはちょっと目を丸くして、ちょっと驚いた風だったけどね。

 

俺の外ヅラは、男気溢れるキリっとクールな男を目指していたからね。

 

チャンミンは俺から取り上げたカップの中身を、自身のカップに全部あけてしまった。

 

「代わりにこれを飲みなさい」

 

そう言って、空になったカップに炭酸ジュースを注いで手渡してくれた。

 

そんな甲斐甲斐しいところが、Dをつけあがらせたんだな。

 

彼女たちの会話の中身に全く触れないのも、気まずいだろうなぁ。

 

だから俺は、ズバリ本題に入ることにした。

 

 

 

 

「...女子って怖いよなぁ...」

 

チャンミンの反応をそうっとうかがいながら、さっき盗み聞きしてしまった件を話題に出した。

 

「...僕がいたらないせいです...」

 

チャンミンはマグカップをボードヘッドのヘリに置くと、両膝を抱えて座った。

 

「相性のいい悪いもあるしさ...」

 

チャンミンを傷つけないよう、言葉選びに神経を使う...いや、気を遣ったりなんかしたら、余計に失礼だな、と思い直した。

 

「...Dが初めてだったんだ」

 

「えっ!?」

 

男相手にずばり暴露するチャンミンに、相応しい反応を見つけられない俺。

 

俺だったら口が裂けても言えないことを、さらっと告白できるチャンミンにたまげた。

 

「...そっか。

じゃあ、仕方がないなぁ」

 

「僕なりに予習はしてきたんだけどね。

あ、予習ってのは、その...つまり」

 

「エロ動画だろ?

あれはなぁ...リアルとは違うからなぁ。

参考にはなるけど、結局あれは、男が抜くためにあるものだからなぁ」

 

(彼女たちめ...チャンミンに一生消えない傷を負わせたな)

 

「そうなんだ。

Dが『いやっ』とか『やだっ』って言ってて、それはつまり...その...感じてるからそう言ってるんだと勘違いしてたみたいだね」

 

「その辺の見極めが難しいよなぁ。

大してよくもないのに、めっちゃ喘いで感じてるフリをすることもあるだろうし」

 

なんせAだって、俺のお触りにウンザリしながら、俺の首にしがみついていたわけだし。

 

ダブルベッドで膝突き合わせて男二人、ふざけた空気一切なしの、腹を割ったトークが始まった。

 

「ユノはやり手なんだね?」

 

「は?

俺が?

普通だと思うけど」

 

「ユノは今まで何人としてきたの?」

 

普通の男友達相手だったら、見栄もあるから実際の数に5人プラスするところだったが、チャンミン相手には見栄は不要だ。

 

天井を仰いで、ひとりふたりと数え、「...3人かなぁ」と答えた。

 

「へぇ。

ユノってカッコいいから、もっといっぱいいるんだと勝手に思ってた。

僕はね、いざその時になると、どうしたらいいか分からなくなるんだ。

カッコ悪いよね。

そのせいで前の子にはフラれたんだ」

 

「緊張するんだろ?

分かるよ。

俺も初めての時は、すげぇ緊張したよ」

 

全裸の女の子が横たわり、チャンミンからの挿入を待っている図、が思い浮かんだ。

 

(この待ち時間が長かったり、見当違いなお触りだったりすれば、しらけるよなぁ...)

 

「ううん。

緊張じゃないんだよ、あれは。

ねぇ、ユノ。

彼女が出来たら、その子とえっちしないと駄目なのかなぁ?」

 

「駄目じゃないけど...えっちを楽しむのも含めて、女の子と付き合うんじゃないのかなぁ?

えっちだけが目的じゃないけどね」

 

もしかしてチャンミンは、淡泊なたちなのかなぁ、と思った。

 

「あのね。

Dはああ言っていたけど、僕はそのう...。

結局、入れられなかったんだ」

 

「ええぇっ!?

...ってことは?」

 

「そうだよ。

僕とDはえっちしていないの」

 

チャンミンと不発に終わった行為を、さもしたかのようにAに話していたのだ。

 

目尻の縁と頬を赤く染め、両膝に顎を乗せてとろんとした眼。

 

「だから僕は、未だに童貞なわけです」

 

「気にするな。

相性のよい子は見つかるさ」

 

Dとは別れる前提の台詞を、自然と吐いてしまっていたけれど、チャンミンは否定しなかった。

 

チャンミンの中で、結論は出たのかもしれないな。

 

「...相性のいい子なんて、見つかりっこないよ」

 

「大丈夫、見つかるさ。

だってさ、チャンミンはいい顔してるし...」

 

「...見つからないよ。

分かったんだ、僕...」

 

チャンミンの半身がかしいで、こてんとベッドに転がってしまった。

 

「酒に酔い過ぎたか!?」と俺はビックリして、チャンミンの肩を揺すり覗き込んだ。

 

「平気だよ。

僕はアルコールにはすごーく、強いの」

 

「あ、そ。

それならいいんだけど」

 

ホッとして、チャンミンから身を離したとき、二の腕をつかまれ引っ張られた。

 

「わっ!」

 

勢い余ってごろんとベッドに倒れこんでしまい、チャンミンの顔が間近に迫り、ドキンとした。

 

気付いていないふりをしていたけれど、さっきから感じていたんだ。

 

上目遣いで俺を見るその眼差しが、熱と湿度のこもったものであることを。

 

これは、眼の据わった酔っ払いのものじゃない。

 

隣室の客がシャワーを浴びる音。

 

救急車のサイレンが近づいて遠ざかった。

 

完全なる静寂じゃないのに、互いの吐息がはっきりと聞こえる。

 

片肘をついて半身を起こしたチャンミン。

 

チャンミンの顔が近づき、俺の唇がチャンミンのものに塞がれるまでの一連の流れは、あまりにも自然だった。

 

 

(つづく)

 

 

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(3)キスから始まった

 

 

昼間は汗ばむほど温かい陽気だったからか、夜になっても長袖Tシャツ1枚で十分だった。

 

夜気は生ぬるく湿っている、明日は雨になるかもしれない。

 

明日はテーマパークで馬に乗る予定になっていたから、Aは残念がるだろうな。

 

俺は雨が降ろうが晴れようが、どっちでもいい。

 

そもそも、最初から気乗りのしなかった旅行なのだ。

 

彼女と共に過ごす時間を楽しむ、というより、いかに彼女を楽しませ、満足させてあげられるか...この旅行での俺の使命はここなのだ。

 

機嫌を損ねてしまったAと...チャンミンの彼女Dの気分を盛り上げるために、俺とチャンミンは気をつかわなければならないだろうな。

 

俺自身が楽しんでいないじゃん。

 

いいのかよ、それで?

 

エレベーターの中でも俺は、チャンミンの手首から手を離さなかったし、チャンミンも握られたままでいた。

 

女子と付き合うのはウンザリすることも多い、でも恋人は欲しいんだよねぇ同士。

 

それだけじゃないってことは、俺もチャンミンも気付いていた。

 

なぜだか目で追ってしまい、目を離せなくて、見入ってしまう者同士。

 

ろくな会話を交わしたわけじゃないが、空気というか相性というか...こいつとは親友になれそうな予感がした。

 

俺が手を離したのは、俺とAの部屋のドアの前でだった。

 

俺とチャンミンは顔を見合わせ、肩をすくめ合って、笑い声をあげてしまうのを堪えた。

 

くしゃっと笑ったチャンミンに、「お、笑顔が可愛いな」としみじみ思ってみたりして。

 

俺たち男どもが気を利かせて買ってきたものに、どうせ散々文句を言うだろうなあ、って。

 

チャンミンの場合、Dから責められるだろうな。

 

その時は、「俺が早く帰りたいと、チャンミンが店に戻るのを止めたんだ」とかばってやらないとな。

 

持ち歩いていたカードキーをプレートにかざし、カチリと開錠する音の後ドアノブをひねった。

 

 

 

 

 

「...2分とか3分だったのよ。

これって...早すぎだろ~?」

 

俺とチャンミンの足が止まった。

 

部屋の構造的に、彼女たちがいるベッドからは入口はちょうど死角になっていた。

 

「早いと思う。

遅すぎてもヤだけどねぇ」

 

「あたしなんて、えっえっえっ、何これ状態よ。

でね、ほら...指でやるでしょ?

なんかねぇ...やり方が凄い変なの」

 

彼女たちが誰のことを話題にしているのか直ぐに分かった。

 

「え~、何々?

詳しく教えてよ?」

 

「絶対にAVの見過ぎだと思う。

こんな風に...変でしょ?

マジ勘弁、あたし的に無理ってなってきて。

そんなんで挿れようとするから...いってぇよ~!」

 

「あはははは!

ウケる~。

でもさ、CってDが初めてじゃないんでしょ?

前にも彼女がいたんだよね?」

 

彼氏の暴露話では、チャンミンのことを『C』と呼んでいることは、今朝のひそひそ話で知っていた。

 

俺は後ろに立つチャンミンを振り返れない。

 

「って聞いてるけど。

見た目がいいからモテたと思うけど、アレがあれじゃあねぇ」

 

「カッコいいのに、勿体ないねぇ」

 

「そうなのよ。

これで顔がブーだったら、即行別れてた」

 

「でもさ、優しそうじゃん」

 

「言い方変えると、気弱。

Aはいいなぁ

Y君、気が利くし男らしいし。

上手そうだし」

 

(Y!?

俺のことか?

...なるほど、彼女たちは彼氏のことをイニシャルで呼んでいるんだな)

 

話題が俺のことに移ったようで、緊張してきた。

 

「う~ん...そうなんだけどねぇ。

テクが凄いから。

Yの前カノ知ってるんだけどさ、その子、超胸がデカいの」

 

(!!!)

 

「Aも胸が大きいもんね」

 

「胸狙いなんじゃないかって思うのよ。

だってね...」

 

(!!!)

 

「なになに~?

教えて教えて?」

 

「Yってね、しつこいの。

C君の真逆かもね。

スタートから終わるまで1時間とかよゆーなのよ。

私、途中で疲れてきてさ、寝ちゃいそうになったこともあるもん」

 

(!!!!!!)

 

「Y君はAが寝落ちしかけてるのに気づかず、必死でヤッてたりするんだ?

しつこいのもだるいよねぇ。

胸フェチってことは、揉み揉みもしつこいんじゃないの?」

 

「そうなのよ。

しつこいよぉ。

お前は赤ちゃんか!って」

 

(!!!!!!!)

 

「きゃあぁぁぁ!

ウケる~」

 

手を叩いて爆笑する女子二人。

 

全身からどっと汗が噴き出してきた。

 

「こんな話、Dにしか言えない」

 

「あたしも、Aにしか言えないよ。

あれぇ、まだ帰ってこないのぉ?

おっせーよ!って」

 

「何やってんだろね。

...Dどうする?

コンビニでアレを買ってきたら?」

 

「ヤル気満々じゃん。

買ってこられても、ご遠慮させていただきますわ」

 

「かわいそ~!」

 

「酒がね~ぞ!

早く帰ってこいよな~」

 

「ねぇ、D。

飲み過ぎじゃない?

頭揺れてるよぉ?」

 

「昨夜があんなじゃ、飲みたくなるってば!

え~、今夜、Cと寝るのやだぁ」

 

「よしよし。

じゃあさ、この部屋で寝なよ」

 

「え~、悪いよ。

Y君はどうすんの?」

 

「C君と一緒に寝てもらえばいいじゃないの~。

男同士ダブルベッドで寝てもらおう」

 

「Y君さ、Aと寝れないって寂しくなっちゃって、Cを襲っちゃったりして」

 

「やめてよ、気持ち悪い。

私のYがそんなことするわけないって。

...でも、そうなったら漫画だね」

 

俺は踵を返し、立ち尽くしていたチャンミンの肩を押して、入り口ドアへ促す。

 

買い物袋からプリンを2個取り出して、ドアの前にスプーンも添えて置いた。

 

そして、音をたてないようドアをそっと閉めた。

 

 

 

 

猛烈に気まずかった。

 

俺のえっち事情もバレてしまったが、俺の場合は大したことない。

 

気の毒なのは、チャンミンなのだ。

 

知るべきじゃないことを知ってしまった。

 

自分の恋人がどんな人物なのか、どんなデートをしてどんな喧嘩をしたか...友人相手に話題に出すな、と言いたいのではない。

 

頼むから、俺たちの耳に入ることは絶対にないところでしてくれ。

 

俺たちは今、Wデートとやらをしてるんだぞ?

 

互いの彼氏の欠点を披露し合う場面じゃないだろう?

 

俺が耳にしてしまうという恥を、チャンミンにかかせた彼女たちに心底腹が立った。

 

「......」

 

「チャンミンの部屋に行こう」

 

「えっ...でも」

 

「女子会は朝まで続くだろうよ。

俺たちも男子会を開こうぜ」

 

俺は片手に下げた買い物袋を掲げてみせた。

 

酒もつまみもたっぷり用意してある。

 

小腹が空いた時用の菓子パン(ゴムは買ってきていないが)もある。

 

チャンミンの固い表情がほどけて、半分泣き出しそうなものでも笑顔が浮かんだ。

 

よかった。

 

ゴムを使う流れになるなんて、この時はあり得ないと思っていた。

 

昨日知り合ったばかりのチャンミンと2人、男子会を始めようか?

 

 

(つづく)

 

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(2)キスから始まった

 

 

一度意識しだすと、チャンミンの所作のひとつひとつが気になる。

 

チャンミンの立ち居振る舞いに全神経を注いでいる自分がいた。

 

フライドポテトをつまむ手の小指が立っている、ティッシュで口元を拭く手も小指が立っている、ビールの缶を持つ手も小指が立っている。

 

胡坐をかくのでもなく、女の子みたいに足を横に崩した座り方をしているせいで、腰をひねったウエストから腰へのラインが色っぽい。

 

そっち系か?と勘違いしてしまうではないか。

 

お粗末なえっちをする彼氏に幻滅したのか、チャンミンに対するDの物言いに棘がある。

 

これは今日の昼間から気付いていたことだ。

 

買い物中、「喉が渇いた」だの「足が痛い」だと、チャンミンに不満ばかりこぼしていて、彼はDの買い物袋を全部持ってやり、飲み物を買ってやったりと、かいがいしく忙しい。

 

こんな関係性って、なんだかなぁ。

 

チャンミン、お前はこれでいいのか?

 

 

 

 

女子たちは、トッピングモリモリのクレープの写真撮影に夢中になっていた。

 

トイレに立った時、チャンミンは洗面所に両手をついて、がくりと首を折っていた。

 

具合でも悪いのかと声をかけようとした。

 

チャンミンは「はあぁぁぁぁ」と深い深いため息をついていた。

 

俺の存在に気付いたチャンミンは困り顔で微笑んで、肩をすくめてみせた。

 

「疲れるよな、分かるよ」の意味を込めて、俺の方も肩をすくめてみせた。

 

Aも我が儘な方だけど、美人に類するルックスが性格をカバーしてくれている。

 

Dは地味な顔立ちで、大人しそうな優しそうな子に見えるのに、彼氏の前だと不平不満と不機嫌ヅラ。

 

Dとチャンミンカップルが気になって仕方がない俺。

 

まさか俺がこっそり観察しているとは、彼らは思いもしないだろう。

 

俺はDのような女は嫌いだ、と思った。

 

Dの我が儘を野放しにしているチャンミンもチャンミンだ。

 

「別れたい」と思わないのだろうか?

 

...Dに惚れきっているのなら、多少の我が儘も可愛く映っているんだろうか。

 

初顔合わせが昨日だった俺たちだ。

 

第3者の俺が心配することじゃないし、余計なお世話だろう。

 

でも。

 

なんとなく気付いていた。

 

俺の背中は、ある視線を感じていた。

 

振り向くと、チャンミンと目が合うのだ。

 

互いの視線がぶつかった時、互いにすいっと目を反らし合う。

 

チャンミンがDのご機嫌とりに必死になっている間、俺は彼を観察していた。

 

反対に、「これとこれとどっちが可愛い?」と、バックルのデザイン違いの2つのバッグを掲げてみせるAに付き合っている(どうせ俺のジャッジなど無視するくせに。女の子はさっぱり分からない)間など、俺のうなじは視線を感じているのだ。

 

なんだこれ?

 

俺たちは何を意識し合ってるんだ?

 

このチープな飲み会中、チャンミンが皆の世話焼きに徹している間、俺は彼の股間が気になるし、やたら整った彼の横顔も気になるしで落ち着かなかった。

 

料理の味が分からないくらいに。

 

俺の左隣に座るDの面白くもなんともない失敗談に笑ってみせ、右隣に座るAの方へ顔を傾けた時、チャンミンの視線をかすめていた。

 

俺は確信した。

 

俺たち...意識し合ってる。

 

互いの彼女が隣にいるにもかかわらず。

 

だから先ほど、バチっと目が合った時、目を反らすことなく邪気のない笑顔を見せられて、俺はドキリとしたのだった。

 

「こいつ...俺のことが好きなのか?」と。

 

立てた小指と横座りから判断した俺は、偏見の塊だな。

 

「男が好きな質なのか?」と。

 

驚いたのは、男に好かれて気味が悪い、とは感じなかったことだ。

 

にっこり笑ったチャンミンに応えて、俺も微笑を返した。

 

「でも、彼女持ちだしなぁ...」と、複雑な心境だったけれど。

 

そして、風呂に入った後もばっちりメイクのAを、「どうなんだか」と意地悪な目で見てしまっている俺にも驚いた。

 

 

 

 

ベッドの上に並べたものがあらかた無くなったころ、「追加で何か買ってこようか?」と俺は立ち上がった。

 

アルコールでぼうっとしていたし、話題も尽きたし、気分転換を兼ねて、ひとり夜風に吹かれたくなった。

 

Aは「デザートがいいなぁ...プリンとか」と所望した。

 

「Dちゃんは?」とチャンミンの彼女にも、お義理で声をかけた。

 

Dは「いえ...私は大丈夫です」と、小さく首を振って遠慮がちだ。

 

「チャ、チャンミンは?」

 

どもってしまったのは、チャンミンの名前をはっきりと口に出したのが初めてだったから。

 

おかしいなぁ、なんでだろ。

 

「僕も一緒に行きます」

 

チャンミンはプラカップに注いだワインの残りを飲みきると、ベッドから下り、スマホを後ろポケットに突っ込んだ。

 

ちょっと嬉しかったりして...。

 

一度、2人きりで話もしたかったし...と自分に言い訳してみたりして。

 

さらに、チャンミンの方も俺と2人きりになりたかったのでは?なんて、都合よく思っていたりして。

 

 

 

 

「意外に外、暖かいね」とか「明日は晴れるかなぁ」とか「サークルは何やってるの?」とか、当たり障りのない会話ののち、俺たちの間にしばしの沈黙タイムが訪れた。

 

だからと言って、無理やり話題を探すことはしなかった。

 

AとD(Dは何もいらない、と言っていたが、気を利かせたのだ)のためにプリン、追加のアルコール類とおつまみ、お茶を買って、俺たちはコンビニエンスストアを出た。

 

この辺りはビジネスホテル街で、他所の地にいるのにそんな気がしない。

 

人通りは少なく、コンビニエンスストアとホテルの看板の灯りが歩道を明るく照らしていた。

 

俺とチャンミンは並んで歩いていた。

 

俺たちは背丈が同じで、歩幅も同じだが、互いの歩くペースにそれとなく気をつかっていた。

 

こんな感じ...経験したことがあるぞ。

 

意識し合ってることなんて分かりきっている者同士、互いに興味しんしん、好意を丸出しにしないよう小出しする。

 

全身で相手の存在を意識しているのだ...こんな感じ。

 

車道側を歩いていたチャンミンの脇を、タクシーがかすめるように通り過ぎた。

 

俺はとっさにチャンミンの腕を引き、彼を歩道側に俺は車道側にと入れ替わった。

 

俺に突然二の腕をつかまれて、驚いたチャンミンの「ありがと」はつぶやき声だった。

 

この程度の気配り、俺にしてみたら大したことない。

 

女子といる時、例えその子が恋人じゃなくても、これくらいの気配りができない男はダサいのだ。

 

ん?

 

隣のこいつは男だけど、俺と並ぶと守るべき存在に見てしまうのかなぁ?

 

俺とチャンミンは、無言で歩いている。

 

無言が辛くない。

 

チャンミンの後ろポケットで、スマホ着信音が鳴った。

 

いい感じの時間が断ち切られてしまった。

 

困惑した表情と話し方から、Dからの電話だったようだ。

 

「...うん...雑誌?

雑誌って...ああ、アレか。

ごめん、買い物は済んだよ。

え...でも、もうすぐホテルに着くんだ。

どうしてもいるの?

...戻れってこと?

...うーん...そっか、うん...うん」

 

ふぅとため息をついたチャンミンは、スマホをポケットに戻した。

 

「ごめん、ユノ。

もう一回コンビニに行ってくる」

 

そもそも、何もいらないと言っていたのはDだ。

 

むかぁっとした。

 

言いなりになっているチャンミンに対しても苛立った。

 

「わざわざ行く必要はないさ。

無視しようぜ」

 

俺の言葉にチャンミンは、困り顔だ。

 

普段もチャンミンとDは、こんな感じなんだろう。

 

「でも...怒られるし。

後々、面倒になるし...。

ユノは先に戻ってて」

 

きびすを返したチャンミンの手首をつかんだ。

 

「ユノ!?」

 

「無視だ、無視!」

 

チャンミンの手を引いて、ホテルへの帰り道を急いだ。

 

 

(つづく)

 

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