(15)あなたのものになりたい

 

~チャンミン~

 

「ここを押して...よし!」

パソコンに向かった僕はいつも、独り言をこぼしてしまう。

お兄さんに教えてもらった順番通りに、注意深くボタンを押してゆく。

画面はあまりにカラフルで、花壇に咲く花々の色とりどりさとは違っていて、長く見ていると目がチカチカしてくる。

注文を終えてホッとした後、僕は写真を頼りにボタンを押してゆく。

マウスを包んだ右手はもう震えていない...よかった、慣れてきた。

「あ!」

お兄さんが好きなピンク色のお酒を見つけた。

「何でも注文していい、って言ってたよね」

僕はお兄さんを喜ばせたくて、甘くてイチゴの風味が美味しいそのお酒も注文することにした。

お兄さんに教えてもらった通りに、キーボードで個数を入力し、『買い物かごへ入れる』の緑ボタンを押して、次に右上の買い物かごのイラストボタンを押した。

 


 

~ユノ~

 

チャンミンは性にどん欲だった。

無数の客を相手にしてきて嫌気がさしてもおかしくないのに。

「飽きないのか?」と尋ねたら、

「お兄さんは別です。

あの頃は、心を消していましたから」と答えた。

チャンミンの中で『犬』時代は過去のものとなりつつある気配を、彼の言葉から感じとられるようになってきた。

「お兄さんとのえっちは、すごく気持ちがいい」

俺の太ももの間に身を伏せると、ぐりぐりと頬を埋めてくる。

「くすぐったいよ!」

チャンミンの口内で、俺のものは復活を遂げる。

頬張ったまま、「お兄さんが大好きなんです、大好きです」と繰り返した。

チャンミンの唾液が、根元まで垂れ落ちた。

「お兄さんのここもすべすべですね」

チャンミンは細い指をそこで滑らせた。

チャンミンだけじゃなく、『犬』出身の俺も処理してあった。

その頃には我慢の限界で、チャンミンの腰をつかんでひっくり返した。

懐っこい大型犬の眼をしていたチャンミンの眼に、妖しい光が灯る。

俺の下敷きになったチャンミンは身をくねらせ、長い首をのけぞらせて俺を誘っている。

チャンミンの喉元に色素沈着の帯が巻きついている。

その帯を避けて、噛みつくように鎖骨をきつく吸った。

「おい!

足を緩めろ...これじゃあ...動かせない」

俺の腰に力いっぱい巻き付いた膝を叩いた。

駄目だ...俺の言葉は、チャンミンの耳を素通りしている。

チャンミンはここではないどこか...快楽の世界に意識が飛んでしまっているだろうから。

と、チャンミンに手首を捕らえられ、首へと誘導された。

求めに応じた俺は、チャンミンの首を絞める。

絶頂の直前、チャンミンは自身の手首を噛んでいた。

俺たちの行為はこのように激しく、苦痛の手前を行ったり来たりしている。

一度スタートを切れば、何時間でも交わり合えるのだ。

 

 

「...これは」

届いたものに俺は絶句した。

「え...!?

僕...10個のつもりで頼んだのですが...」

「そっか」

届いたのは10ダースのイチゴのリキュールだったのだ。

「ごめんなさい」

申し訳ない気持ちでいっぱいで、しょんぼりしているチャンミンの頭を胸に引き寄せた。

「間違えても仕方がないよ」

俺は全く腹を立てていなかった。

チャンミンは俺を喜ばせようとしただけだ。

「ごめんなさい」

「二人で頑張って飲もうか?

おつまみも買ってきたから、飲み会スタートだ」

この時に「もしかして...?」の疑いが湧いてきた。

どうしても外出をしなければならない日だった。

チャンミンの好物のひとつ、ソーセージの盛り合わせをテイクアウトしてきた。

玄関ドアを開けた途端、きな臭さに何かが起こったと直ぐに分かった。

匂いの出処はキッチンのようだった。

寒気が走った。

「チャンミン!」

真っ先に頭に浮かんだのは、真っ黒に焼け焦げたフライパンの像だった。

靴を脱ぐのももどかしく土足のまま駆けたのは、チャンミンが火傷したのでは、と心配したからだ。

「チャンミン!」

キッチンカウンターの隅で、膝を抱えたチャンミンがいた。

泣きはらした顔で、鼻も頬も真っ黒になっていた。

チャンミンなりに収拾をつけようと焦っていた痕跡...床は水浸しでボウルが転がり、何枚ものタオルが丸まって落ちていた。

砕けたグラスの脇に、ヤカンがあったから、熱湯を注いだのだろう。

カウンターから落ちた箱からココアがこぼれていた。

留守中に飼い犬が悪戯の限りを尽くし、帰宅した飼い主を絶句させた...まさしく今の状況はそうだった。

「怪我はないか?」

俺はチャンミンの側にひざまずき、彼の腕や手を確かめた。

無傷だったことに、「よかった...」と安堵の吐息を漏らした。

「ごめんなさい...」

「いいさ」

惨事の元は電子レンジだった。

衝撃で開いたのか、慌てたチャンミンが開けたのか...。

原形をとどめないほど真っ黒に焼け焦げ、ぺしゃんこに溶けたものがある。

煤だらけの庫内は、水浸しだった。

火花が散り、煙が上がったことに慌てたチャンミンが、水をかけたのだろう。

スプリンクラーが作動しなくて、大惨事にならずに済んだ。

チャンミンの夕飯に冷凍ラザニアを食べるようにと、声をかけて外出したのだ。

オーブンで焼くタイプのラザニアを、電子レンジにかけてしまったようだ。

「トレーはアルミ製だから、電子レンジは危険だ。

ここに書いてあるだろう?」

呼び寄せたチャンミンに、説明書きを指し示した。

「......」

「電子レンジ厳禁、って」

「......」

「...そうか。

ちゃんと説明しておかなかった俺が悪いね」

この電子レンジは廃棄処分だが、チャンミンが無事でよかった。

「壊しちゃってごめんなさい」

「また買えばいい。

チャンミンは悪くない。

説明不足の俺が悪い」

チャンミンの鼻も頬も煤だらけだった。

「真っ黒だぞ?

風呂に入るか?」

「はい!」

インターネットに気乗りしない曇った表情を見せた訳が、ここで判明した。

120本の酒を注文してしまった訳も、同様だ。

...チャンミンは文字が読めない。

2か月間、俺に知られないよう、曖昧な笑顔で誤魔化し、巧妙に隠してきたのだ。

自分を恥じていたのだろう。

可哀想だとは思わなかった。

これから覚えればいいことだからだ。

 

(つづく)

(15)なたのものになりたい

 

 

~チャンミン~

 

 

「ここを押して...よし!」

 

パソコンに向かった僕はいつも、独り言をこぼしてしまう。

 

お兄さんに教えてもらった順番通りに、注意深くボタンを押してゆく。

 

画面はあまりにカラフルで、花壇に咲く花々の色とりどりさとは違っていて、長く見ていると目がチカチカしてくる。

 

注文を終えてホッとした後、僕は写真を頼りにボタンを押してゆく。

 

マウスを包んだ右手はもう震えていない...よかった、慣れてきた。

 

「あ!」

 

お兄さんが好きなピンク色のお酒を見つけた。

 

「何でも注文していい、って言ってたよね」

 

僕はお兄さんを喜ばせたくて、甘くてイチゴの風味が美味しいそのお酒も注文することにした。

 

お兄さんに教えてもらった通りに、キーボードで個数を入力し、『買い物かごへ入れる』の緑ボタンを押して、次に右上の買い物かごのイラストボタンを押した。

 

 


 

 

~ユノ~

 

 

チャンミンは性にどん欲だった。

 

無数の客を相手にしてきて嫌気がさしてもおかしくないのに。

 

「飽きないのか?」と尋ねたら、

 

「お兄さんは別です。

あの頃は、心を消していましたから」と答えた。

 

チャンミンの中で『犬』時代は過去のものとなりつつある気配を、彼の言葉から感じとられるようになってきた。

 

「お兄さんとのえっちは、すごく気持ちがいい」

 

俺の太ももの間に身を伏せると、ぐりぐりと頬を埋めてくる。

 

「くすぐったいよ!」

 

チャンミンの口内で、俺のものは復活を遂げる。

 

頬張ったまま、「お兄さんが大好きなんです、大好きです」と繰り返した。

 

チャンミンの唾液が、根元まで垂れ落ちた。

 

「お兄さんのここもすべすべですね」

 

チャンミンは細い指をそこで滑らせた。

 

チャンミンだけじゃなく、『犬』出身の俺も処理してあった。

 

その頃には我慢の限界で、チャンミンの腰をつかんでひっくり返した。

 

懐っこい大型犬の眼をしていたチャンミンの眼に、妖しい光が灯る。

 

俺の下敷きになったチャンミンは身をくねらせ、長い首をのけぞらせて俺を誘っている。

 

チャンミンの喉元に色素沈着の帯が巻きついている。

 

その帯を避けて、噛みつくように鎖骨をきつく吸った。

 

「おい!

足を緩めろ...これじゃあ...動かせない」

 

俺の腰に力いっぱい巻き付いた膝を叩いた。

 

駄目だ...俺の言葉は、チャンミンの耳を素通りしている。

 

チャンミンはここではないどこか...快楽の世界に意識が飛んでしまっているだろうから。

 

と、チャンミンに手首を捕らえられ、首へと誘導された。

 

求めに応じた俺は、チャンミンの首を絞める。

 

絶頂の直前、チャンミンは自身の手首を噛んでいた。

 

俺たちの行為はこのように激しく、苦痛の手前を行ったり来たりしている。

 

一度スタートを切れば、何時間でも交わり合えるのだ。

 

 

 

 

「...これは」

 

届いたものに俺は絶句した。

 

「え...!?

僕...10個のつもりで頼んだのですが...」

 

「そっか」

 

届いたのは10ダースのイチゴのリキュールだったのだ。

 

「ごめんなさい」

 

申し訳ない気持ちでいっぱいで、しょんぼりしているチャンミンの頭を胸に引き寄せた。

 

「間違えても仕方がないよ」

 

俺は全く腹を立てていなかった。

 

チャンミンは俺を喜ばせようとしただけだ。

 

「ごめんなさい」

 

「二人で頑張って飲もうか?

おつまみも買ってきたから、飲み会スタートだ」

 

この時に「もしかして...?」の疑いが湧いてきた。

 

 

 

 

どうしても外出をしなければならない日だった。

 

チャンミンの好物のひとつ、ソーセージの盛り合わせをテイクアウトしてきた。

 

玄関ドアを開けた途端、きな臭さに何かが起こったと直ぐに分かった。

 

匂いの出処はキッチンのようだった。

 

寒気が走った。

 

「チャンミン!」

 

真っ先に頭に浮かんだのは、真っ黒に焼け焦げたフライパンの像だった。

 

靴を脱ぐのももどかしく土足のまま駆けたのは、チャンミンが火傷したのでは、と心配したからだ。

 

「チャンミン!」

 

キッチンカウンターの隅で、膝を抱えたチャンミンがいた。

 

泣きはらした顔で、鼻も頬も真っ黒になっていた。

 

チャンミンなりに収拾をつけようと焦っていた痕跡...床は水浸しでボウルが転がり、何枚ものタオルが丸まって落ちていた。

 

砕けたグラスの脇に、ヤカンがあったから、熱湯を注いだのだろう。

 

カウンターから落ちた箱からココアがこぼれていた。

 

留守中に飼い犬が悪戯の限りを尽くし、帰宅した飼い主を絶句させた...まさしく今の状況はそうだった。

 

「怪我はないか?」

 

俺はチャンミンの側にひざまずき、彼の腕や手を確かめた。

 

無傷だったことに、「よかった...」と安堵の吐息を漏らした。

 

「ごめんなさい...」

 

「いいさ」

 

惨事の元は電子レンジだった。

 

衝撃で開いたのか、慌てたチャンミンが開けたのか...。

 

原形をとどめないほど真っ黒に焼け焦げ、ぺしゃんこに溶けたものがある。

 

煤だらけの庫内は、水浸しだった。

 

火花が散り、煙が上がったことに慌てたチャンミンが、水をかけたのだろう。

 

スプリンクラーが作動しなくて、大惨事にならずに済んだ。

 

チャンミンの夕飯に冷凍ラザニアを食べるようにと、声をかけて外出したのだ。

 

オーブンで焼くタイプのラザニアを、電子レンジにかけてしまったようだ。

 

「トレーはアルミ製だから、電子レンジは危険だ。

ここに書いてあるだろう?」

 

呼び寄せたチャンミンに、説明書きを指し示した。

 

「......」

 

「電子レンジ厳禁、って」

 

「......」

 

「...そうか。

ちゃんと説明しておかなかった俺が悪いね」

 

この電子レンジは廃棄処分だが、チャンミンが無事でよかった。

 

「壊しちゃってごめんなさい」

 

「また買えばいい。

チャンミンは悪くない。

説明不足の俺が悪い」

 

チャンミンの鼻も頬も煤だらけだった。

 

「真っ黒だぞ?

風呂に入るか?」

 

「はい!」

 

インターネットに気乗りしない曇った表情を見せた訳が、ここで判明した。

 

120本の酒を注文してしまった訳も、同様だ。

 

...チャンミンは文字が読めない。

 

2か月間、俺に知られないよう、曖昧な笑顔で誤魔化し、巧妙に隠してきたのだ。

 

自分を恥じていたのだろう。

 

可哀想だとは思わなかった。

 

これから覚えればいいことだからだ。

 

 

(つづく)

 

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(13)あなたのものになりたい

 

 

~チャンミン~

 

 

お兄さんの濃い匂いが、僕の興奮をかきたてた。

 

喉奥で締め付けると、お兄さんは喉奥から低い呻きを漏らす。

 

「美味いか?」

 

お兄さんに問われて、上下に振っていた頭を止め、「はい...はいっ」と答えた。

 

命令されて、僕の股間の一点がきゅうっと引き締まった。

 

先端まで抜いて、よだれで滑りがよくなったお兄さんのを素早くしごいた。

 

目の前の赤黒く膨れたものが、数えきれないほど見てきたものたちのひとつにしか見えないことに。

 

ぞっとした。

 

お兄さんをお客のひとりだと思っちゃだめだ。

 

ああ、僕はケガレている。

 

鼻の奥がつんと痛くなった。

 

ぎゅっと目をつむった。

 

お兄さんのものはもっともっと、シンセイなもののはずなのに...。

 

僕の腰がぐっと引き落とされた。

 

「んあっ...!」

 

熱く柔らかいものが、僕の後ろで踊っている。

 

「ダメっ!

そこはダメです」

 

僕は振り向いて、お兄さんにお願いした。

 

僕のお尻の下にお兄さんの綺麗な顔がある。

 

「汚いからっ、ダメ!

ダメダメ!」

 

浮かしかけた腰は、もの凄い力で引き戻された。

 

お兄さんがケガレてしまう。

 

ダメだと言ってるくせに、後ろをねっとりと舐められて、僕の股は震える。

 

「お兄さんはっ...動かないでくださいっ!

今は、僕の番です」

 

「んあっ!」

 

悲鳴をあげたのは、お兄さんにお尻を叩かれたからだ。

 

「黙ってしゃぶってろ」

 

命令されて僕は咥え直した。

 

お兄さんは気づいているみたいだ。

 

僕はエムッけがあるんだって。

 

仁王立ちした客たちを見上げる僕は、怖くて震えているのに、エムっけのある者は怖いのが好きらしいのだ。

 

そう教えてくれたのはクソ店長で「お前はエムっけがあるから、人気なんだ」と言っていた。

 

また叩かれた。

 

でもね、痛いけど痛くないんだ。

 

お客たちのほとんどは、力の加減を知らない。

 

「ひっ...!」

 

パチンと音が派手だけで、叩かれたところがパッと熱くなるだけで、その痛みも長続きしない。

 

お兄さんは叩くのが上手い...当たり前だよね。

 

お兄さんも『犬』だったんだ...ポジションは僕とは逆の。

 

気持ちがいい。

 

お兄さんにぺろぺろされて、僕のケガレタところが、清められていく。

 

「口が開いているぞ。

...欲しいのか?」

 

「はい、お兄さんの...欲しい」

 

挿れて欲しい。

 

指とかベロじゃなくて、お兄さんのおちんちんを挿れて欲しい。

 

僕の下からお兄さんは抜き出ると、四つん這いになったままの僕の肩を押した。

 

振り向いて、斜め上を向いたその大きさに、僕の喉はごくりと鳴る。

 

僕のあそこはいつでも用意が出来ている。

 

今日は絶対に、抱かれるつもりだった。

 

お兄さんが首を横に振っても、泣いてせがんでしがみついて、お願いするつもりだった。

 

 

花壇に生えた雑草を抜く僕の背中は、お兄さんの視線を浴びていた。

 

ふり返らなくてもバレバレだった。

 

お兄さんも僕を欲しがっている。

 

そして、お金を払ってえっちをしたことを、僕に対して「悪いなぁ」って思ってる。

 

 

お兄さんと夜の散歩(夜の街を歩くのが好きなんだって)をするのが日課だった。

 

あの店がある通りには近づかないのは、お兄さんの優しさだ。

 

僕はと言えば、実は平気だった。

 

僕には『今』があるから。

 

お兄さんと一緒なら、僕には怖いものはないのだ。

 

先を歩くお兄さんの背中にしがみついてふざけた日のことだ。

 

僕の腕の中でくるっと回って抱きしめてくれるんじゃなくて、代わりに僕をおんぶする。

 

お兄さんの首筋にキスをする。

 

赤い痕がつくほど、ちゅうっと吸った。

 

「いったいなぁ」

 

お兄さんは首に巻きついた僕の腕をふりほどくと、駆けて行ってしまった。

 

「待って!」

 

僕はお兄さんを追いかける。

 

時は真夜中で、人通りの全くないここはオフィス街。

 

「お兄さん!」

 

僕らの足音と、お兄さんを呼ぶ僕の声だけが響く。

 

それらの音も、高くそびえるビルに吸い込まれていく。

 

お兄さんを追いかける。

 

あの日より僕は丈夫になった

 

それでも、お兄さんの方がうんと丈夫で足が速い。

 

「やだっ...待って!」

 

あの夜のことを思い出した。

 

「待って!」

 

お兄さんを追いかけた。

 

僕の首の下で、宝石がちりちりと揺れている。

 

「お兄さ~ん!!

おにっ...おにいっ...!」

 

泣きべそをかいた僕の呼び声に、お兄さんは駆け足を止めて引き返してくる。

 

「チャンミンっ!」

 

僕は両膝に手をつき屈んで、はあはあと息を吸って吐いた。

 

その背を、お兄さんはさすってくれる。

 

「ごめん...ごめんな?」

 

「お兄さん...僕を置いていかないで」

 

「行かない。

絶対に、置いて行かないよ」

 

「置いていかないで。

どこにも行かないで」

 

「行かないよ。

今のは冗談だよ。

チャンミンと遊んでいただけだ」

 

「それならいいですけど...」

 

ふくれっ面になった僕は、こぶしで涙を拭った。

 

「本当だよ。

絶対にチャンミンを1人にしないよ」

 

繰り返しそう言って、お兄さんは僕を抱きしめてくれたのだ。

 

僕はお兄さんのものになりたい。

 

お兄さんのショユーブツになりたい。

 

それくらい、お兄さんが大好きなんだ。

 

お兄さんが大好きだって気持ちを、どう伝えたらいいのだろう。

 

僕はお兄さんに恩返ししたいんだ。

 

インターネットで注文したとしても、お兄さんがお金を払うんだから、それはプレゼントにならないのだ。

 

僕はお金を持っていない。

 

台所にある機械は難しすぎて、ご飯もうまく作れない。

 

僕があげられるのはこの穴だけなんだ。

 

 

お兄さんは突き出した僕のお尻を左右に割った。

 

むき出しになったそこに先っぽを押し当て、腰を沈めてゆく。

 

僕のそこは、お兄さんのおちんちんをごくりごくりと飲み込んでゆく。

 

その後はもう...意識が飛んでしまってよく覚えていない。

 

バチンバチンとお兄さんの腰と僕のお尻が叩きつける音に合わせて、お兄さんのハートが僕の中に打ち込まれる。

 

時折僕のお尻を平手打ちする。

 

お尻を叩かれるたび、僕は猫みたいな啼き声をあげる。

 

お尻を叩かれるたび、中が締まってお兄さんは呻いた。

 

挿れ先ない僕のおちんちんは、汁を垂らして揺れるだけ。

 

助けを求めるように伸ばした右手。

 

シーツを握りしめた。

 

ここはビニール製のベッドの上じゃない。

 

涙が出るほど幸せだと思った。

 

 

(つづく)

 

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(12)あなたのものになりたい

 

 

~ユノ~

 

あの夜、俺は『客』だったはずだ。

 

ビニール製のベッドがあるきりの、アレする目的のための部屋。

 

久方ぶりにチャンミンを抱きながら、自分が『客』なのか『商品』なのか分からなくなりそうだった。

 

出逢いの夜。

 

俺のお相手として選ばれたチャンミンを、手っ取り早くイカせ、あの場から一刻も早く立ち去りたかった。

 

俺は『客』でチャンミンは『商品』だった。

 

 

 

 

着ていたものを脱いだ。

 

ベッドに横たわらせた下着姿のチャンミンの上に、俺はのしかかった。

 

俺の鼻先に迫るつんと立った乳首を口に含んだ。

 

「...はぁ、あ、んっ...」

 

舌先で転がし、もう片方を摘まみひねり、押しつぶした。

 

「いいっ...いいっ、あん」

 

わざと音をたて吸いあげ、摘まんだ乳首を引っ張った。

 

のけぞるチャンミンの白い喉と、青いチョーカー。

 

俺の腰はチャンミン両膝に抱えられる。

 

「もっと...もっと強く」

 

時間をかけて、両乳首をいたぶった。

 

乳輪の円周を尖らせた舌でたどったのち、軽く歯をあてた。

 

「もっと...もっと」

 

チャンミンの乞いに応えて、噛んだ上で限界まで引っぱった。

 

俺の下でチャンミンの身体が、陸に上がった魚のように跳ねる。

 

十分焦らした末、脇腹を手の平で撫ぜ上げ撫ぜおろす。

 

「...は...あぁ...」

 

初めて抱いた時にすぐにわかったのは、チャンミンは感じやすい身体の持ち主だということ。

 

脇腹まで下りた唇をチャンミンの首筋まで戻し、耳下を強弱をつけて吸う。

 

「んふっ...ふぅ...ん」

 

チャンミンの首筋がさざ波のように粟立った。

 

俺の片手はチャンミンの尻を撫ぜ、決して谷間の奥には指を埋めないよう、割れ目に沿って行ったり来たりさせた。

 

布面積の小さい下着の薄い生地は、あれの形をくっきりとひろっている。

 

尻を焦らしながら、前の膨らみを優しいタッチでこすってやる。

 

「...あっ...はぁ...」

 

みるみるうちにそれは生地を押し上げ、小さな布面積の中で窮屈そうだ。

 

それでも未だ、脱がさない。

 

窪ませた手で、生地の上から形に沿って柔く揉んだり、擦ってやる。

 

「すごいねチャンミン...興奮してる?」

 

「はい...きも、気持ちい...」

 

「もっと触って欲しい?」

 

「はい。

もっともっと、触って」

 

俺はふっと笑い、

 

「お客とやってる時も、こんなに勃たせていたの?」

 

『犬』時代の話は御法度のはず。

 

でもなんとなく...女のように組み敷かれるチャンミンを前にして、俺にすっかり身を預ける彼と触れ合ってみて...なんとなく分かったことがある。

 

その者がどちらの傾向が強いかを、どれだけ早く見抜けるのかが『犬』の人気に関わってくる。

 

いたぶられ慣れたチャンミンの身体。

 

ただ優しく抱くだけじゃ、チャンミンは満足しないのでは、と。

 

店でも前戯なしで挿入したあの時、チャンミンの目は恐怖と欲が混ざり合ったものだった。

 

「お客はっ...僕のがどうなってるなんて、気にしないっ。

はぁ...もっともっと触って。

お兄さん、お願い触って?」

 

爪先で亀頭の縁を引っかいた。

 

チャンミンの腰がぶるっと震えた。

 

チャンミンの言う通りだ。

 

お客の大半は、自身がイクことしか考えていない。

 

中には『犬』の身体で遊びたいお客もいるが、苦痛を伴うものも多く、ウケ専のチャンミンは痛い思いをすることも多かっただろう。

 

布地の1点がじゅくりと湿ってきた。

 

「糸がひいてるよ?」

 

「...もっと、もっと...!」

 

チャンミンは俺の手首をつかみ上下させた。

 

「...んっ...ふ、ふっ...」

 

「こうして欲しいんだろ?」

 

股ぐりをずらして、中身をむき出しにする。

 

下着からそれの先端がはみ出た光景に、俺の興奮は高まる。

 

透明な雫が今にもしたたりそうだ。

 

完全に勃ちあがったそれの先端から根元へと、塗り広げるようにスライドさせた。

 

だけど、尻に回した手はそのまま、割れ目をくすぐるだけ。

 

「あ...ん、はっ...はぁ」

 

女のように甲高く、掠れた喘ぎ。

 

反応するこの声は、『犬』時代に身につけた演技の声なのか。

 

大き過ぎる喘ぎに、俺はチャンミンの顎をつかみ、耳元で囁いた。

 

「俺は『お客』じゃない。

俺相手に『フリ』は止せ」

 

「ちがっ...違うもん」

 

チャンミンの根元をぎゅっと握りしめた。

 

「あぅっ...!」

 

「俺としたかったんだろ?」

 

潤ませた目でチャンミンはこくこくと頷いた。

 

もっときつく根元を締め付けた。

 

「感じているフリはよせ」

 

「違うもんっ。

気持ちいいもん。

離して...っく。

痛い...お兄さん、痛いっ」

 

解放してやると、チャンミンは俺と目を合わせたまま、下着を脱いだ。

 

「わざとらしい声は出すな。

萎える」

 

「ごめっ...ごめんなさい」

 

チャンミンが店1番だった理由も分かっていた。

 

中指を立て俺を誘っていた。

 

つんと顎をそびやかせ、小馬鹿にするような挑戦的な眼で俺を見ていた。

 

ところが、世を舐め切った目付きをしているわりに、その口元がわずかに震えていて、青ざめていた。

 

怯えていた。

 

 

恐怖の混じった眼の色と、お客の征服欲を刺激する喘ぎ。

 

全裸になった俺たちは、再び身体を重ね合う。

 

互いの下腹で挟まれた俺のそこは、確かめなくても固く張り詰めている。

 

互いのそれは擦れ合い、互いの分泌液が互いの下腹を濡らした。

 

心得ているチャンミンは大きく太ももを開く。

 

自身の膝を抱え高く腰を突き上げ、そこを露わにした。

 

目前にさらされたそこは、女のものを目にした時よりもそそられた。

 

「口が開いてるぞ。

おまえはどスケベな雌だ」

 

「...だって、お兄さんが...」

 

唾液をたっぷりと含ませた親指を、ずぷりと突っ込んだ。

 

指を回転させ、その穴を十分に広げる。

 

そうしなくても、既に柔らかく緩んでいて、いつでも俺のものを受け入れる用意はできていた。

 

「そこっ...そこがいいっ...もっと...もっと」

 

チャンミンの胸先をひねり上げながら、尻に埋めた指のピストン運動で、チャンミンの尻にぶつかった手の平が、卑猥な音を立てた。

 

瞬間、チャンミンは腰を引き、俺の指という愛撫から逃れた。

 

「お兄さんのも」

 

俺の下からすり抜けると、チャンミンは俺の肩を押して仰向けにした。

 

俺に尻を向けてまたがった。

 

そして、俺のものを喉奥まで食らえ込んだ。

 

 

(つづく)

 

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(11)あなたのものになりたい

 

 

~ユノ~

 

ページの端が折られたカタログをめくって、接続したWebサイトの注文ページに入力していたところだった。

 

ごく控え目に音楽を流したリビングに、カチカチとマウスをクリックする音だけが響く。

 

チャンミンの希望通りに、どこに使うのか見当がつかない溶岩に首を傾げ、種苗ポット、革製の園芸手袋などを注文していく。

 

業者の手によって人口的にまとめられたルーフバルコニーの庭園は、チャンミンの手によって野趣あふれる空間に様変わりしていた。

 

名の知らない草花が花壇を埋め尽くしていた。

 

元からあったリンゴの木の側には、姫リンゴの苗木が植わっている。

 

さながら、俺たちの秘密の庭園をこしらえようとしているかのように。

 

チャンミンは今、庭いじりに夢中なのだ。

 

仕事部屋から、花壇の前にしゃがみこんで作業をしている、麦わら帽子のチャンミンに、知らず知らず笑みがこぼれてしまうのだ。

 

何度も読みこんだらしいカタログは、反りかえっている。

 

欲しいものがあれば何でも注文してやるぞ、と言っていたが、チャンミンが欲しがるものは植物の種子や園芸道具くらい。

 

ゲーム機も電化製品も服飾品も、チャンミンは「いらないし、わからない」と言って首を振っていた。

 

クルーザーが欲しい、と請われれば、買ってやっただろう。

 

それくらい、俺はチャンミンの言いなりだ。

 

洋服に関しては相変わらず興味がないようで、俺が代わって適当に見繕ってやっていた。

 

日に1度、近所を散歩する程度で、自宅にこもりっきりの生活じゃあ、欲しいものは見つからなくても当然か。

 

もっと、いろんなところに連れていってやらないと。

 

「お兄さんは、一日中パソコンに向かってますね。

お仕事ですか?」

 

「チャンミンご所望のあれこれを注文しているところだよ」

 

「ありがとうございます」

 

「インターネットの使い方、教えようか?

そうすれば、自分で好きな時に好きなだけ注文ができるぞ?

調べ物もできるし、便利だそ?」

 

そう勧めたら、ディスプレイをじっと眺めていたチャンミンは、「僕は...いいです」と首を左右に振った。

 

「簡単だよ」

 

俺は立ち上がり、チャンミンの腕を引いて椅子に座らせた。

 

ぎこちなくマウスを動かすチャンミンの手に、俺の手を重ねた。

 

俺の手よりも一回り小さな手だった。

 

「電源を入れたら自動でインターネットに繋がるように設定しておくよ。

矢印マークをここだ、と思ったところで、クリックする...カチッとする。

そうそう...上手い上手い」

 

チャンミンを褒めると、俺を振り仰いで嬉しそうに目を細めた。

 

俺はかみ砕いた言葉で辛抱強く、操作手順を教えてやった。

 

チャンミンは飲み込みの早い、優秀な生徒だった。

 

「このサイトなら、食べ物からチャンミンの欲しい道具も花もなんでも手に入るんだ。

で、ここをクリックすると...注文確定、だ」

 

チャンミンの顔を覗き込んだ。

 

「あれ?」と思った。

 

新しい世界が広がって、その眼は期待感で輝いていたけれど、どことなく戸惑ったような不安感をたたえていたからだ。

 

「お兄さん...」

 

チャンミンは椅子をくるりと回転させると、俺の首にしがみついてきた。

 

「インターネットを覚えたから、ご褒美をください」

 

力強く引き寄せられ、前かがみになった俺はバランスを崩して、デスクに手をついて支えた。

 

「ご褒美って何?」

 

チャンミンが何を欲しがっているのか分かっていた。

 

未だ躊躇の意識が根づいている俺は、誤魔化すために、PCのディスプレイを指さした。

 

「欲しい物を注文してみたら?

練習代わりに?」

 

「いい加減にしてください!」

 

チャンミンの鋭い声に、ディスプレイを指していた手で彼の肩を抱いた。

 

「お兄さんが僕を抱けずにいるワケは、馬鹿な僕の頭でも分かります」

 

「チャンミンは馬鹿じゃない。

自分のことをそんな風に言ったらいけない」

 

 

「お兄さんは『お客』で、僕はお金をもらってえっちをする『犬』でした。

 

お兄さんはひと晩どころか、お金をいっぱい払って、僕を買い取りました。

 

買い取るには、いっぱいいっぱいお金がいります。

 

お兄さんのおうちに僕を住まわせてくれて、せっかく僕を買い取ったのに、お兄さんは僕とえっちをしてくれません。

 

『チャンミンはもう、犬じゃないし、俺も客ではない』って、しょっちゅう話していましたよね?

 

分かってます。

 

お兄さんの優しさだって。

 

人間らしい生活を送って欲しい、って思ってくれているって。

 

でもね、僕は不安なんです。

 

僕の価値は、僕の身体を使ってどれだけ気持ちよくなってくれるか、なんです。

 

僕の不安はえっちをすることでしか消えません」

 

 

チャンミンがこれほど多くの言葉を話したことは初めてだった。

 

ずっと胸の中に仕舞ってきた本心なんだろう。

 

俺自身の信念みたいなものが、チャンミンを不安にさせてきたのだ。

 

チャンミンの中に、俺に対する恋心のようなものが存在しているかどうかは、現段階では分からない。

 

チャンミンには『抱いて欲しい』とねだることによって、感謝と愛情を表現できないだけだ。

 

『犬』出身のチャンミンとどう接すればいいのか?

 

チャンミンにしてやってきた行動は正解だったのだろうか?

 

性的な接触は避けるべきだ...俺もチャンミンも『犬』出身なんだから。

 

そんなことばかり頭で考えて、自問自答を繰り返してきた約2か月間だった。

 

「僕とえっちをしてください」

 

俺の耳元で囁くチャンミンの吐息が熱かった。

 

ぞくり、とした。

 

「分かった。

ここじゃなんだから...。

寝室に行こうか?」

 

チャンミンの唇を塞ぐと、俺の唇を割って彼の舌が侵入してきた。

 

口内で舌どうしを絡め合い、寝室までの距離をもどかしく、足をもつれさせる。

 

互いの背中を何度も抱き直す。

 

もっと早く、こうしていればよかったのだ。

 

 

(つづく)

 

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